孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中間選挙に向けて激しさを増す銃規制・中絶問題・同性婚などをめぐる「カルチャーウォー」

2022-08-21 22:19:53 | アメリカ
(【8月19日 WEDGE】 中絶規制に対する抗議運動)

【今も、今後も存在し続ける人種問題】
アメリカ社会の分断のひとつ、人種問題はBLM(ブラック・ライヴズ・マター)が大きな社会現象となった一時期に比べると表面化することは少なくなっていますが、アメリカ社会が抱える根本的な問題として今も、今後も存在し続けます。

****綿花摘みの授業で精神的苦痛、アフリカ系女子生徒が損害賠償求め提訴****
米カリフォルニア州ハリウッドの学校で奴隷制の悲惨さを教えるために設置された綿花畑によってアフリカ系米国人の女子生徒が精神的苦痛を被ったとして、25万ドル(約3300万円)の損害賠償を求めてロサンゼルス統一学区などを相手取り提訴した。

訴状によると、女子生徒が授業で心に傷を負い、「制御不能の不安発作」を起こすようになり、「綿摘みの授業のことを考えると抑うつ発作を起こす」と母親のラシャンダ・ピッツ氏は主張している。

女子生徒は2017年、ハリウッドのローレル・スパン・スクールに通い始めた。当初は熱心に通っていたが、次第に落ち込んだ様子を見せるようになった。しばらくして母親が女子生徒を学校に送り届けた際、校内に綿花が植えられていることに気付いた。

「ハリウッドで、しかも公立学校の敷地に綿花畑があることに困惑」した母親が学校に問い合わせたところ、「授業で(奴隷制度の廃止を訴えた)フレデリック・ダグラスの自伝を読んだ。綿摘みは、自伝に描かれている経験の一つだ」と回答された。

対応した副校長は綿花畑について、奴隷の強制労働の実態を知ってもらうためのものだと説明したという。

これに対して母親は「アフリカ系米国人奴隷の経験を身をもって学ぶという目的で娘や他の生徒たちに綿摘みをさせるという案に激怒」。「文化に無神経で、授業としても不適切だとして、失望と精神的な苦痛を表明」した。

女子生徒は「社会正義の授業で、アフリカ系米国人奴隷が受けた苦難を実体験するために生徒たちは『綿摘み』を要求された」と説明し、「学校でこの授業について話すことにおびえ、この案自体にショックを受けた」としている。

訴状によると、保護者はこの授業について事前に聞かされておらず、子どもを参加させるかの確認もされなかった。

訴状によると、同校を管轄するロサンゼルス統一学区は「教育活動」が文化的に無神経と見なされたことを遺憾に思うと述べ、「学校側は保護者からの懸念を受け、直ちに綿花を撤去した」としている。 【8月13日 AFP】
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差別に対する反応は敏感なものを含んでおり、当事者と部外者では全く異なることも多々ありますが、「アフリカ系米国人奴隷の経験を身をもって学ぶという目的で生徒たちにをさせる」というのは、いささか“文化的に無神経”のようにも。ただ、学校側、生徒側の人種構成、綿摘み作業時の指導の実態など、上記記事以上の事実関係がわかりませんので何とも言い難いところも。

【新たにクローズアップされてきた「文化」の対立 中間選挙に向けて激しさを増す「カルチャーウォー」】
現在表面化している分断の軸は、銃規制・中絶問題・同性婚などの「文化」です。
その対立を争点とすることは、中間選挙で敗北が予想されている与党・民主党側にとっては、巻き返しのチャンスともなっています。

****アメリカ社会の亀裂深める「カルチャーウォー」とは****
投票まで3カ月を切った注目の米中間選挙は、物価高騰など経済問題のほかに、銃砲規制、女性の人工妊娠中絶権、信教の自由などをめぐる、与野党間の激しい「カルチャーウォー」(文化戦争)に発展してきた。

トランプが焚き付けたが、今や風向きは逆
「今こそ、反撃のチャンスだ」――。社会制度や歴史認識などの問題でどちらかと言えば防戦気味だった米民主党側が、共和党相手に反転攻勢の気勢を上げ始めている。そのきっかけになったのが、銃規制、中絶権問題に関連する最近の相次ぐ最高裁判断にほかならない。

もともと、米社会の亀裂を深める「カルチャーウォー」に火をつけたのは、ドナルド・トランプ前大統領だった。
トランプ氏は、ここ数年来、各州で人種差別の象徴である南北戦争当時の南軍の将軍像を撤去したり、中西部サウスダコタ州にある有名な歴代大統領の銅像・碑のうち奴隷制と結びつく人物の取り壊しを求めるなどの進歩派の動きに猛反発。「歴史の否定だ」として、自らのツイッターなどを通じ、有権者に「文化戦争」を大々的に訴えてきた。

その結果、再選目指した前回大統領選では、敗れたとはいえ、保守層を中心に全米で7000万を超す得票につながった。

しかし、最近、銃規制、中絶問題がにわかにクローズアップされるにつれ、今度は共和党保守派が逆に防戦を強いられつつある。

世論調査で定評のあるマンモス大学が、「有権者にとっての最重要問題」について実施した最新調査結果によると、1位が「経済政策」(24%)だったが、2位には「中絶問題」と「銃砲規制」(いずれも17%)が同数でつけ、国民の関心が次第に高まりつつあることを示した。

このうち、全米メディアで大きな話題となったのが、去る8月2日、カンザス州で行われた中絶の是非を直接問う住民投票だった。

同州ではこれまで、「レイプ、近親相姦、あるいは母体の生命確保上やむを得ざる状況」を理由とした妊娠中絶が例外的に州憲法規定で認められてきた。これに対し、共和党保守派、右翼宗教団体などが、例外規定を削除する修正案を提出したため、その是非をめぐる住民投票となった。

もともと、中西部カンザスは伝統的に保守的な共和党地盤として知られてきただけに、下馬評では、地元紙報道含め、「修正案可決は濃厚」との見方が広がっていた。

ところが、ふたを開けてみると、中絶の「女性の権利」を否定した先の連邦最高裁判断以来、勢いづいてきた中絶支時グループによる街頭集会、戸別訪問、TV意見広告、SNSアピールなど大がかりな草の根運動が功を奏し、最終投票では修正案が否決された。しかも、「賛成」41%に対し、「反対」59%と予想外の大差となった。

この結果、同州ではこれまで通り、特定の条件下の中絶が認められることになり、それ以来、他州においても、中絶支持運動が大きなうねりとなって広がりつつある。

中間選挙に向けた動きと新たな争点 
大胆な切り口の報道で知られるニュース・ウェブサイト「Daily Beast」は早速、去る8月5日、「全面的カルチャーウォーを仕掛ければ民主党に勝算あり」とのタイトルのゲスト・コラムを掲載、以下のように論じた:

「カンザス州住民投票の予想外の結果は、今世紀に入り米国民のマジョリティーが、女性自身が自らの体に関する自治権を持つという人間としての基本的権利を認めたことを意味している。女性の人権擁護に対する支持は、州内の保守的市町村含め隅々にまで広がっており、胎児の生命はあくまで神聖なものだとする共和党キリスト教伝道派の主張を退けたものに他ならない」

「母体より胎児の生命を重視する一方で、銃砲所持規制に反対する保守層は同時に、小学校の教室に突然乱入した男の銃乱射で児童が逃げ惑い、多数の死傷者を出すという最近の痛ましい事件をTVニュースで目の当たりにした際にも、衝撃を受け、これまで信じてきたこととの自己矛盾に陥ったのである。

それにもかかわらず、共和党は依然として、銃規制に反対の態度をとり続けているが、今や大多数の国民の関心は、ガソリンなど物価高騰、コロナ対策のみならず、女性の人権保護、市民の身の安全に向かっており、その点で、11月中間選挙でも、民主党が議会多数を制することを期待しているともいえよう」

「われわれは、トランプ主義にそそのかされ前回大統領選挙結果の「略奪説」をうのみにし、学校児童の安全より銃砲所持を優先し、コロナ感染の科学的根拠を一蹴し、妊娠中絶や避妊を否定し続けるという、伝統路線から逸脱した『敵対的共和党』と向き合っている。

民主党はこうした事態を座視するのではなく、今こそ、好機ととらえ、全米各地で果敢に〝熱い文化戦争〟を仕掛けるべきである」

実際、民主党が文化戦争で攻勢をかける上で、共和党攻撃の材料となり得るテーマは、中絶、銃規制問題だけではない。

新たな争点として注目されつつあるのが、同性結婚問題だ。
連邦最高裁判事9人中、最右翼で知られるトーマス・クラレンス判事は最近、女性の中絶権否認判断に続いて「この際、(同性婚を含む)同性愛関連の過去のいくつかの判例も見直す必要がある」と強気の発言を行い、保守派判事が6人を占める最高裁が勢いに乗って新たな判断を下す可能性を示唆した。

しかし、同性婚問題については、2015年当時、これを禁止するフロリダ州の規定に対し最高裁が「違憲」判断を下して以来、全米50州のほとんどの州で同性婚が容認されてきたほか、各種世論調査でも、多くの共和党員を含む圧倒的多数の国民が支持表明し今日に至っている。

それだけに、もし、クラレンス判事の予言通り、最高裁が新たに同性婚禁止の判断を示すことになれば、これに反発する世論が沸騰することも十分予想される。【8月19日 WEDGE】
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この文化の分断は、地域的にはカリフォルニア州とフロリダ州・テキサス州に代表される「州間格差」ともなっています。

****分断で住民の奪い合いも?激化するアメリカの「州間格差」*****
米国ではさまざまな分断が問題となってきた。99%運動に代表される所得格差、続いてBLM(ブラック・ライヴズ・マター)に代表される人種間格差、そして今浮上しているのが「保守・革新」間の格差だ。

保守・革新の格差が浮き彫りとなったのが、今年6月米最高裁で出された実質的な妊娠中絶禁止容認だ。これにより州が堕胎を禁止する法律を持つことは違憲ではない、という認識が広がり、現在までに26の州で部分的なものも含めた堕胎禁止の法律が存在する。

堕胎の問題は、しばしば大統領選挙の争点にもなっており、カトリックや保守系キリスト教では基本的に禁止を支持、一方でリベラル派は女性の権利として禁止に強く反発している。最高裁判決が出る以前から堕胎を禁止する法律を持つ州は中西部や南部に存在し、軋轢を呼んでいた。

カリフォルニア州とフロリダ州の対立
例えば代表的なものとして、フロリダ州が挙げられる。同州内に一大テーマパークを展開するディズニー社は社員が堕胎のために他州に移動する場合の旅費を支給する、など州の方針に反発してきたが、これに対し州側がディズニーにリースしている土地の返還をほのめかす、など火種がくすぶっていた。

こうしたことも含め、カリフォルニア州とフロリダ州が対決色を強めている。2つの州の知事はそれぞれギャビン・ニューサム氏(カリフォルニア)とロン・デサンティス氏(フロリダ)で、共に次期大統領候補に目されている。

ニューサム知事は今年7月、フロリダ州内でテレビコマーシャルを放映、その中で「あなた方の共和党のリーダーは本の出版の差し止め、選挙投票をより困難にする、言論の自由の統制を学校の教室で行い、さらに女性や医師を犯罪者として扱っている」と非難した上で、「デサンティス知事と戦おう、カリフォルニアに移住しよう」と住民に呼びかけた。

この女性や医師を犯罪者、という部分は、フロリダだけではなくミズーリなど中絶を禁止する州で、「州民が州外で堕胎手術を受けた女性や、堕胎手術を行った医師、医療機関などを提訴できる」という法案が可決されたことを意味する。

ニューサム知事は「国内のすべての女性の健康と生活を守るために出来得る限りのことを行う」というスピーチを行い、こうした他州からの攻撃に「徹底的に抗戦する」とも訴えている。

堕胎禁止州で映画撮影を止めよう
知事の攻撃はまだまだ続く。8月に入ると今度は映画の都、ハリウッドに対し「堕胎禁止法を持つ州でのロケなどのビジネスを廃止せよ」と訴えた。その見返りとして、税制優遇などで2030年まで総額16億5000万ドルのインセンティブを提供する、という。対象となるのは映画、映像配信、テレビ番組などの制作を行う企業だ。

確かにディズニーを始め、ネットフリックスなどの映像大手は社員に対し堕胎のために州外に移動する旅費を負担する、と表明している。

しかしそうした州でのビジネス禁止となると話は別だ。例えば2019年に堕胎禁止法が提案されたジョージア州では、当初多くの映像会社が「法案が成立すれば同州から撤退する」などと表明していたが、その後は尻窄みとなり現在でもジョージア州内だけで映像関連の雇用者は10万人以上存在する、という。

ニューサム知事の狙いは没落しつつあるハリウッドを守り、カリフォルニアと映像産業の関係を維持させることにあるが、今回は「あなた方はこれまでになく女性の権利のための責任を有している」と強い言葉で訴えている。

企業誘致に成功しているのは保守系の州
ただし州による税制優遇や土地リースにより企業誘致に成功しているのはむしろ保守系の州の方だ。日本企業でも日産自動車がテネシーに、トヨタ自動車がテキサスにそれぞれ本社機能を移動させ、それに伴い多くの住民が同州から流出した。

元々土地が高く住宅価格が高騰していることもあり、コロナで在宅勤務が広がるとカリフォルニアからの人口流出には拍車がかかり、21年だけで28万人の人口減となった。一時は4000万人を超えていた人口は39万5000人となり、下院議員の議席数を1つ失うことにもつながった。

過激なニューサム発言に対し、「干ばつで取水制限のあるカリフォルニアから、水の豊かな我が州へ」と住民誘致に動く州も出てきた。住民誘致合戦は今後も続きそうだ。

トランプ人気が復活していることもあり、全体としてはニューサム知事の旗色は悪い。「レッドステート(保守系が強い州)に噛みつく男」として有名になったが、次期大統領選のオッズではデサンティス氏が現状では有利だ。

もしデサンティス氏あるいはトランプ氏が次期大統領に就任することになれば、以前からくすぶっていたカリフォルニア独立運動に再び火がつくかもしれない。【8月13日 WEDGE】
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記事にもあるように、税制の問題、住宅価格の問題から、現実にはカリフォルニアからテキサスなど「レッドステート」に企業・住民が移動しています。

そのことは、「レッドステート」にとって新たな問題も。
移動してくる住民はリベラル色が強い傾向にありますので、結果、従来の保守的な「レッド」がブルーによって薄められることにもなってきます。

フロリダは今でも激戦州ですが、カリフォルニアからの企業・住民の移動が続くと保守の牙城テキサスがやがては激戦州に変化することも・・・あるのかも。

【バイデン政権 気候変動対策で攻勢】
銃規制・中絶問題・同性婚などの「文化」的な対立は、気候変動に対する考え方とも大きくダブります。
バイデン政権は気候変動対策を盛り込んだ大型歳出成立で、この面からも攻勢をかけようと目論んでいます。

****中間選挙前にバイデン氏の目玉政策成立へ 57兆円規模のインフレ抑制法案****
米下院は12日、気候変動対策や家庭負担を軽減する薬価引き下げ、財政赤字削減などを盛り込んだ歳出規模4300億ドル(約57兆4000億円)超の「インフレ抑制法案」を賛成多数で可決した。上院は7日に可決しており、近くバイデン大統領が署名して成立する。

予算規模は当初案から縮小したがバイデン政権の目玉政策で、11月の中間選挙に向け与党の民主党やバイデン氏にとって追い風になる。

夏季休暇中のバイデン氏は12日、法案の議会通過を受けて自身のツイッターに「今日、米国の人々は勝利した」などと書き込み、政策推進をアピールした。
「来週、法案に署名することを楽しみにしている」とも記し、処方薬や医療費が安くなることを実感できると有権者に訴えた。

法案は再生可能エネルギーへの投資や薬価引き下げ、財政改善に向けた巨大企業への最低税率導入などが柱だ。

ただ、バイデン政権が2021年の発足後に成長戦略の目玉政策として打ち出した3兆5000億ドルの大型歳出法案の縮小版でもある。当初の法案は民主党内から財政悪化への懸念が出て規模を半分に圧縮したが、共和党と議席が拮抗(きっこう)する上院で民主党のマンチン議員らが反対し同年末に頓挫していた。

今回、中間選挙を前に歳出規模をさらに縮小。歳出の大半を気候変動対策が占めるものの、名称を「インフレ抑制法案」とし、歴史的な物価高に見舞われる有権者への対応を重視する姿勢を強調した。

民主党のペロシ下院議長は12日、法案に関しバイデン氏と民主党にとって「大きな一歩だ」と述べ、民主党議員に選挙区で法案の効果などを説明するよう呼びかけた。

一方、共和党は法案に物価抑制の大きな効果はなく、新税が経済に悪影響を与えると批判している。11月8日に中間選挙が迫る中、政策をめぐる両党の舌戦は激しくなりそうだ。【8月13日 産経】
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【国民の最大関心事インフレは緩和に向かう可能性も】
看板を「インフレ抑制」にかけ替えたように、何と言っても中間選挙を左右するのはインフレ・経済問題。
ガソリン価格高騰など記録的なインフレの進行はバイデン政権の首を締めていますが、一方でアメリカの物価上昇もピークに達した感も。今後、物価上昇幅が縮小傾向を明らかにすれば、バイデン政権にとっては朗報ともなります。

****米インフレ、7月は予想外の減速 前年比8.5%***
米労働省が10日発表した7月の消費者物価指数は、前年同月比で8.5%の上昇となった。6月は9.1%と40年ぶりの高水準を記録していたが、過去数週間のエネルギー価格の低下により、インフレがわずかに和らいだ

CPI上昇率は市場の予測を下回る結果で、米連邦準備制度理事会への利上げ圧力が弱まり、今年11月の中間選挙を控えたジョー・バイデン政権にとって待望の追い風となる可能性がある。

CPIは前月比で小幅の上昇が予想されていたが、実際には横ばいとなり、5月比で大幅に上昇していた前月から大きく改善した。バイデン大統領は「7月のインフレ率が0%という経済ニュースを受け取った」とし、インフレが緩和し始めている可能性を示すものだとして歓迎。

一方で、世界的な課題は残っており、経済が「さらなる逆風」に直面する可能性があることを認めた。 【8月11日 AFP】
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