(「結婚尊重法案」に署名したバイデン大統領(2022年12月13日)【12月14日 HUFFPOST】)
【米バイデン政権 同性婚権利を擁護する結婚尊重法案を成立させる】
国家間でも、あるいはアメリカ国内でも、価値観の分断・対立が顕著になっていますが、そうした対立軸のひとつとして前面に出る機会が多くなったのが、性的マイノリティーに対する寛容・不寛容の問題です。
欧米では性的マイノリティー、LGBTに対する寛容は大きな流れとして定着しつつありますが、そうした考えを受け入れない人々も多く存在します。
国家間でも、欧米に対し、欧米以外の国々では性的マイノリティーに対して不寛容な国々が多く存在します。
イスラム文化圏では今もLGBTに対しては厳しい対応が取られており、イランなどでは同性愛は死刑の対象ともなります。中東カタールでのW杯開催についても、同国のLGBT不寛容から、開催の正当性を疑う声も多くあります。
アジアではインドネシアがイスラム的価値観を重視する流れから、より厳しい対応に舵を切っていることは以前のブログでも取り上げました。一方で台湾のように同性婚を認める国もあります。
イスラム圏だけでなく、欧州でもハンガリーやポーランドは反LGBTの立場にあって、EU主流の西欧諸国との軋轢の種になっています。
ときに性的マイノリティーに対する考え方はリベラルな価値観、欧米的価値観の象徴ともみなされ、国内でも国家間でも単にLBGTの問題というレベルを越えて、対立の象徴として前面に押し出されることも多々あります。
そうした状況にあって、アメリカのバイデン大統領は12月13日、同性同士および異なる人種同士の結婚を連邦政府が保護する「結婚尊重法案」に署名しました。
****アメリカ 同性婚の権利を連邦レベルで保護する法律が成立 バイデン大統領「結婚尊重法案」に署名***
(中略)アメリカのバイデン大統領は13日、同性婚の権利を連邦レベルで保護する「結婚尊重法案」に署名し、法律が成立しました。
今回の法律では、仮に連邦最高裁が同性婚を憲法上の権利と認めた2015年の判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止された場合でも、同性婚を認める州から来たカップルの権利は維持されます。
この法律をめぐっては、現在の連邦最高裁は保守派の判事が多数派を占めていて、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されていました。【12月14日 TBS NEWS DIG】
今回の法律では、仮に連邦最高裁が同性婚を憲法上の権利と認めた2015年の判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止された場合でも、同性婚を認める州から来たカップルの権利は維持されます。
この法律をめぐっては、現在の連邦最高裁は保守派の判事が多数派を占めていて、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されていました。【12月14日 TBS NEWS DIG】
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単に「同性婚を認めます」という話ではなく、アメリカ特有の連邦と州の関係、そして昨今の最高裁の保守化が絡んだ問題のようです。下記記事は、そのたりをもう少し詳しく論じています。
****同性同士の結婚を保護する法案にバイデン大統領署名「必要不可欠な一歩を踏み出した」****
(中略)バイデン大統領はホワイトハウスに集まった人々に「今日は良い日です」と語りかけ、法律は国にとって大きな前進だと強調した。
「アメリカは、一部ではなくすべての人の平等、自由、正義にとって必要不可欠な一歩を踏み出しました。良識や尊厳や愛が認められ、尊重され、保護される国に向かう一歩です」
さらに、「結婚するかどうか、そして誰とするかは、1人の人間にとって最も重大な決断の一つです」とした上で、次のように述べた。
「結婚はシンプルな判断です。あなたは誰を愛しているのか?その愛した人に忠実か?それ以上に複雑なものではありません」「そして結婚尊重法は、すべての人に政府の介入なしにその質問に答える権利があるべきだ、と認めています。そして、結婚に伴う保護を連邦政府が保証します」
結婚尊重法案、どんな内容か
結婚尊重法案には民主党だけではなく、一部の共和党議員も賛同し、上院で61-36、下院で258-169で可決された。
この法律は、1996年に制定された「結婚防衛法」を廃止するもので、一つの州で認められた同性同士の結婚が、連邦政府や他の州でも認められるようになる。異人種間のカップルにも同様の保護が与えられる。
結婚防衛法は、連邦法での結婚を「男女」だけに限定していた。そして一つ州で認められた同性カップルの結婚の法的有効性を他州では認めなかった。
そのため、結婚した同性カップルが、他州に移動すると税金や社会保障上の優遇措置を受けられなくなるなどの問題が生じていた。
結婚防衛法は2013年に最高裁によって違憲と判断され、効力を失っていたものの、今回の結婚尊重法案成立で正式に無効となった。
なぜ今結婚尊重法案が必要なのか
アメリカでは、2015年の最高裁の「オーバージフェル対ホッジス判決」により、同性カップルの結婚が憲法で保障された権利と認められている。しかし、これに疑問を呈したのが「ロー対ウェイド判決」を覆した最高裁の判断だ。
保守派の判事が多数を占める最高裁は2022年6月、連邦レベルで中絶の権利を保護していたロー対ウェイド判決を覆す決定をし、これによって複数の州で中絶禁止法が施行された。
この判決の多数意見で、クラレンス・トーマス判事は「ロー対ウェイドの法的な論拠が間違っているのであれば、オーバージフェル対ホッジス判決も含む、他の判断も見直す必要がある」という見解を示していた。
万が一最高裁でオーバージフェル対ホッジス判決を覆された場合、アメリカの複数の州で、同性間の結婚が認められなくなる可能性が高い。このことに危機感を抱いた下院の超党派議員会が結婚尊重法の可決に向けて動き出し、今回の成立に至った。
ただし、結婚尊重法はオーバージフェル対ホッジス判決のように、アメリカ全体で同性同士の結婚を保障するものではない。
そのため、もし最高裁判所がオーバージフェル対ホッジス判決を覆した場合は、州は独自に同性同士の結婚を禁止する法律を導入できる。
しかし、結婚尊重法により、一つの州で成立した同性カップルの結婚は、連邦政府と他州でも認められることになる。
バイデン大統領は1996年、上院議員時代に結婚防衛法に賛成票を投じており、今回の署名は、LGBTQ+の権利を巡るバイデン氏自身の大きな変化を表すものにもなった。
バイデン氏は13日のスピーチで、法案成立に尽力した議員やLGBTQ+コミュニティに感謝し、その勇気を讃えている。
「私たちは彼らの勇気を祝うため、そしてこの日を可能にしたすべての人たちのためにここにいます。その勇気が、私たちがこの何十年で目にしてきた前進を率いてきました。その前進は、すべての世代がより完璧な合衆国に向かって進むという希望を私たちに与えてくれます」【12月14日 HUFFPOST】
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【ロシア・プーチン政権 反LGBT法を成立させる】
一方、ウクライナ侵攻で欧米との対立が深まっているロシアでは、ロシアの伝統的価値観を重視するとの立場から、同性愛を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、反LGBT法が成立しました。
****ロシアでLGBT「宣伝」禁止法が成立、プーチン大統領が署名****
ロシアのプーチン大統領は5日、LGBTら性的少数者などに関する情報の拡散や「宣伝」、「示威行為」などを禁止・制限する法律に署名した。これにより、LGBTに関連するいかなる情報も、公共の場やオンライン、映画、書籍、広告などで拡散することが禁止される。
違反した場合は重い罰金刑が科される可能性がある。
ロシア政府は少数派やプーチン大統領に反対する人々への圧力を強めているほか、長年にわたって「伝統的」価値観を擁護する取り組みを続けている。【12月6日 ロイター】
違反した場合は重い罰金刑が科される可能性がある。
ロシア政府は少数派やプーチン大統領に反対する人々への圧力を強めているほか、長年にわたって「伝統的」価値観を擁護する取り組みを続けている。【12月6日 ロイター】
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ロシアでは2013年、未成年に同性愛などの宣伝を禁止する「反同性愛法」が成立。「差別を助長しかねない」として、欧米の多くの首脳が翌年のソチ冬季五輪の開会式を事実上、ボイコットしました。
今回の法案は更に対象を成人に拡大するもので、性的マイノリティーを象徴として、欧米的な価値観への「対抗」を訴える狙いがあるとされています。
【物議を醸す米ロ囚人交換 ロシアが釈放したのは“愛国的”白人海兵隊スパイではなく薬物で捕まった黒人女性LGBT 米国内に批判も】
欧米への「対抗」の象徴としてLGBTへのしめつけを強めるロシア・プーチン政権
一方で、同性婚の権利保護に動くアメリカ・バイデン政権、ただし、LGBTの問題は最高裁保守化にみられるアメリカ国内の厳しい「分断」の象徴ともなっており、保守的価値観を重視する共和党支持者を中心に同性婚に強く反対する人々も多数存在します。
(民主党・バイデン政権としては、LGBTの問題が対立の象徴として政治問題化することは、中絶問題が民主党の中間選挙敗北阻止で大きな力を発揮したように、次期大統領選挙に向けて野党共和党を攻撃するうえで“都合がいい”政治環境となる・・・とも推察されます)
そうした性的マイノリティーをめぐる立場の違いが目立つ米ロの状況のなかで、米ロ間で行われた囚人交換がアメリカ国内で物議を醸しています。
****米ロ囚人交換、米国が英雄より黒人レズビアン選手を選んだ真意****
ウクライナ侵攻後、2回目の囚人交換
ウクライナ戦争をめぐって対立する米国とロシアが受刑者の身柄を交換した。ロシアによるウクライナ侵攻以降、米ロが囚人交換を行ったのは、2回目だ。(中略)
米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2021年6月16日、ジュネーブでの対面首脳会談で、受刑者交換で原則合意していたとされる。(中略)
米ロともに、この合意が副次的な効果を狙ったものではないと強調している。だが「ウクライナ問題で全面対決しているさなか、囚人交換を実現させたことが他の分野に一定の好影響を与える可能性は十分あるかもしれない」(ワシントン外交筋)。
今回、プーチン氏が釈放したのは、麻薬密輸などの罪で禁固9年の実刑判決を受け、収監されていた米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のブリトニー・グリナー選手(32)。
WNBAでは最も背の高い選手の一人(2メートル5センチ)で、両腕は入れ墨だらけ。WNBAでも人気のスター選手で高額の収入を得ている億万長者だ。
五輪では2回金メダルに輝いた米女子バスケットボール代表チームのメンバーで、逮捕時にはフェニックス・マーキュリーのセンターだった。妻のシュラルさんは弁護士だ。
かつて人種差別反対を唱えて、試合前の国旗掲揚の際に宣誓を拒否したこともある。女子バスケットボール界では“問題児”だった。
WNBAのオフシーズンにロシア・リーグでプレーするためロシアに出かけ、空港に着いた途端に大麻保持が発覚、拘束されてしまった。(中略)
一方、バイデン氏がその見返りに差し出したのは、ビクトル・ボウト服役囚(55)だ。禁固刑15年の判決を受けて収監中だった。
ウズベキスタン出身で、当初は軍の通訳をしていたが、ソ連邦崩壊事のどさくさに紛れて始めた武器密輸が高じて、所有するプライベート機で中近東や中南米のテロリスト集団に地対空ミサイルやロケット砲を売る世界的な「死の商人」となった。(中略)
2005年公開の米映画「ロード・オブ・ウォー」(Lord of War)に登場する武器商人のモデルの一人とされる。ニコラス・ケイジ主演だ。
英雄よりも麻薬常習の黒人レズビアン選手
いくつかの疑問が浮かんでくる。
一つは、なぜプーチン氏が応じたのか。メディアの中には、「ウクライナの戦況が芳しくないから国民の目をほかに向ける必要があった」とコメントする者が少なくない。
ではバイデン氏はなぜ囚人交換に応じたのか。ほかに引き渡してほしい服役囚がいたはずなのに、なぜグリナー選手を選んだのか。
勝ったのはどっちか。米国か、ロシアか。ロシア側は、官民あげて「プーチンの勝利」を謳い上げている。
国営テレビのコメンテーター、マルガリータ・シモニャン氏はこう言い切っている。
「バイデン氏は、初めはポール・ウィラン元海兵隊員が欲しかったはずだ。ところがグリナー選手を選んだ」
「ウィランは、祖国のために貢献してきた英雄的なスパイ、グリナーは麻薬常習の黒人レズビアン。それでもグリナーは最も評価の高いバスケットボールの選手だ」(中略)
別のテレビ・キャスターのウラジーミル・ソロビエフ氏はこうコメントした。「この囚人交換でわれわれは素晴らしい勝利を収めた。ロシアの情報機関は外務省とともに驚くべきオペレーションを敢行し、ボウト氏を釈放させた」(中略)
歓喜の黒人、LGBTQ、愕然とする保守派
米側は二分している。
黒人は大歓迎だ。(中略)WNBAファンもLGBTQコミュニティも大喜びだ。
一方で保守派は激しく批判している。
共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務(次期下院議長が有力だが、反対する者もおり投票が予定されている)はツイッターに書き込んだ。
「これはプーチンへのプレゼントだ。こんなことをすると、米国民の生命が脅かされる」
自分がやろうとしてできなかったドナルド・トランプ前大統領は自前のSNSにこう書きなぐった。
「馬鹿もんが。これほど非愛国的な辱めはない。グリナーは米国を嫌っている女だろ。なぜ(海兵隊だった)ポール・ウィランを交換リストに入れなかったのか」
トランプ氏はかつて「グリナー釈放」説が流れた時、ラジオ番組でこう述べている。
(中略)「彼女は金をたんまり稼いでいる。その彼女を釈放してもらうためにあの疑う余地のない殺人鬼、死の商人(ボウト服役囚を指している)を逃がすらしい」(中略)
「この男は多くの米国人を殺害した張本人だ。この囚人交換はグッドディール(お得な買い物)とは到底思えない」
トランプ政権で大統領安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏はこうコメントした。
「米国はこんな囚人交換をやってロシアに降伏した」
保守派サイトの「ワシントン・フリー・ビーコン」は、「恥ずかしき囚人交換」と題するオピニオンを流した。
「アンチレイシズム(Antiracism)という概念がある。歴史上の人種差別に遡って現代の人種差別を糾弾し、白人を逆差別する概念だ」
「バイデン氏が、白人で生まれながらの性別が一致している海兵隊を犠牲にして、レズビアンで億万長者の女を選んだ」(中略)
2人のうち1人か、ゼロか、苦渋の選択
バイデン政権の面々も諸手を挙げて歓迎しているわけではない。おそらく交渉に加わったと思われるアントニー・ブリンケン国務長官は、こうコメントした。言い訳がましかった。
「2人のうち1人を返してもらうか、1人も返してもらえないか、苦渋の選択だった」
「バイデン大統領は少なくともグリナー氏だけは返してもらい、ウィラン氏の引き渡し交渉は続けるという決断を下したのだ」(中略)
ロシア側が指摘するように、今回の身柄引き渡しは「人種と性別」を念頭に入れたものだった。しかもLGBTQ(性的マイノリティ)に気を遣っている。
主要メディアの外交記者R氏(白人)はこう見る。
「グリナーは素晴らしいアスリートだが、彼女を嫌う白人は少なくない」(中略)
「多くの米国民は米最古の軍隊を起源とする海兵隊を一番尊敬している。それにウィラン氏は国家のために身を挺してきたスパイ工作員だ」
「スパイは国外では敵だが、母国では愛国者であり、隠れた英雄だ。バイデン氏が国家のために身を捧げてきた英雄ではなく、大麻保持で捕まった黒人レズビアンをなぜ優先したのかという論理は、白人の間では通りがいいわけだ」
「となると、バイデン氏は大統領選をにらんでの黒人票やLGBTQ票を狙って、プーチン提案を受け入れたという解釈もできる」「プーチンがウィランではなく、グリナーに固執したのもこのへんを読んだ高等戦術だったのかもしれない」
プーチン大統領は12月9日、囚人交換についてこう述べた。「さらに交換ができるかと言えば、可能だ。合意による副次的な効果は狙っていないが、一定の雰囲気を醸成するのは事実だ。この交渉で(ウクライナ問題など)他の問題は何も協議していない」 新たな囚人交換には含みのある発言だ。【12月13日 Repress】
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“露政府は、自国民(武器商人のボウト服役囚)を外国で捕らえて米国で裁判を受けさせた米政府の行動に反発し、対抗手段としてグライナー選手を拘束して取引材料に使ったとみられている。”【12月9日 産経】という経緯があります。
そもそも、“二人のうち一人だけ”となった場合、どっちを選んでも「どうして・・・」という問題は起きます。
今回はそれに人種やLGBTが絡んでいるだけに炎上必至の選択でした。
仮に、白人の海兵隊スパイを選んで黒人LGBTをロシアに残した場合でも大炎上でしょう。
支持基盤から批判が出るだけに政治的にはもっと深刻かも。(共和党サイドの批判は、いつでも、何をやってもありますので)
アメリカ側にどちらを選ぶかの選択の余地があったのか・・・・そのあたりの事情はよくわかりません。どっちに転んでも大炎上なら、「選択」の話には深入りしないのが賢明でしょう。
なお、ロシアのリャプコフ外務次官は13日、新たな囚人交換について米国と協議が行われる予定は承知していないと述べています。