(上海地下鉄車内で乗客のスマホ中身をチェックする警官 【11月30日 日テレNEWS】)
【“思いがけないカウンターパンチ”だったが、それだけで人は倒れない】
11月28日にも取り上げた、中国の「ゼロコロナ」への不満から政府への批判が噴出している件。
28日ブログでも書いたように、これで中国の現体制が大きく揺らぐというものではないでしょうが、そうは言いつつも「あの中国」で、しかも盤石の一強体制を築いたと思われていた習近平体制にあって、「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」、白い紙を持って「私たちには今、自由がない」「PCR検査はいらない、自由が欲しい」といった声が表だって出てきたというのはやはり大きな衝撃でした。
習近平政権としても「ゼロコロナ」への住民不満は認識しており、対応を検討していたとは思いますが、具体策を講じる前に“思いがけないカウンターパンチ”を顔面に受けてしまった・・・といったところでしょう。
ただ、「今回の件が大きなパンチであるのはたしかだ。すごいパンチが、いきなり不意打ちでパンと出てきて当たったが、それだけで人は倒れない。その後、連続してコンボが出てくるのか、それとも一発殴って終わるのか。長期的な何かのきっかけになるかで言うと、もしかしたら政権が動揺するかもしれない」【12月1日 ABEMA TIMES】
【当局はSNS規制を強化、デモ参加者に関する調査も開始】
その後も抗議活動は散発しているようですが、大きな抗議行動とか当局との衝突に関する報道は目にしていません。
“11月29日夜、中国南部の広州市とみられる街では、SF映画のワンシーンのような光景が繰り広げられた。
「はやくはやく進め」とかけ声をあげ、白い防護服に身を包んでいるのは、盾を持った警察の一団。隊列を組み、デモ参加者の排除に乗り出した。これに対し、市民らはガラスのコップの他、大根まで投げつけて抵抗していた。”【11月30日 FNNプライムオンライン】
当局側は、抗議行動が出来ないように事前に多数の警官を配置すると同時に、抗議行動への参加を困難にする対応を強めています。
****通行人のスマホ調べる警官、中国がネット規制を強化…「ゼロコロナ」抗議の拡大阻止****
中国で新型コロナウイルス対策「ゼロコロナ」への抗議行動が相次いだのを受け、中国当局が、抗議行動の参加者が情報交換の手段に使っていたテレグラムやツイッターなどのSNSと、ネット規制を突破する仮想プライベートネットワーク(VPN)の取り締まりに乗り出した。抗議行動の呼びかけや情報がSNSを通して拡散するのを防ぐ狙いだ。
ツイッターなどで11月29日夜に抗議行動が予告された広東省深セン市の街頭では同夜、100台以上の警察車両が警戒にあたり、警官が通行人のスマートフォンを調べては、ツイッターやVPNなどを使っていないかどうか確認していた。上海などでも警察が同様の検査を行っており、VPNなどの使用が確認された場合はその場で削除させている模様だ。
ロイター通信によると、警察当局は、特に秘匿性の高いテレグラムを始めとする海外のSNSへの接続を遮断するため、VPN使用の有無を重点的に調べているという。
香港紙・東方日報は30日、中国でインターネット管理を担当する国家インターネット情報弁公室が近く、ネット規制を強化するとの情報があると報じた。通信手段を封じることで、抗議活動の拡大を抑え込む狙いがあり、VPN規制に関する対策を一層強化する可能性が高い。【12月1日 読売】
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また、抗議行動参加者を調べ上げて(「監視国家」中国ですから、容易でしょう)拘束などすることで、抗議行動への参加を思いとどまらせるよう「圧力」をかけていくことも予想されます。
****中国、「敵対勢力取り締まり」指示=ゼロコロナ抗議デモ、参加者調査か****
中国各地で厳格な行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策への抗議活動が広がる中、中国国営新華社通信は29日、警察・司法を統括する共産党中央政法委員会トップの陳文清氏が28日に会議を開き、「敵対勢力の取り締まり」を指示したと報じた。陳氏は会議で「断固として法に基づき社会秩序を乱す違法犯罪行為を取り締まり、社会の大局的安定を確実に守らなければならない」と強調した。
中国ではこの週末、ゼロコロナへの抗議デモが各地で発生。北京市中心部でも27日夜から翌日未明にかけて若者らが集まり、「自由をよこせ」などと訴えた。ゼロコロナは習近平指導部の看板政策で、当局は抗議の動きに神経をとがらせている。当局はデモ現場に警官を配置するなど、再発防止に向け警備態勢を強化している。
ロイター通信によれば、警察当局はデモ参加者に関する調査を始めている。北京デモへの複数の参加者はロイターに対し、警察から27日夜の行動記録の報告を要求されたと証言。デモの情報をどこで仕入れたかや、集まった動機についても聞かれているという。【11月30日 時事】
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【強硬策と同時に、コロナ規制は“実質的”に緩和の方向へ 副首相、ゼロコロナ転換の可能性示唆】
こうした強硬策の一方で、習近平政権の“失敗”とも批判されかねない「ゼロコロナ」の廃止は明言しないものの、実質的な規制緩和を行うことで、住民不満を和らげる方向に大きく舵を切りつつあるように見えます。「硬軟両様の構え」といったところ。
****中国・新疆、抗議デモ後にコロナ制限緩和****
中国・新疆ウイグル自治区は28日、区都ウルムチで新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための制限を一部緩和した。市内で多数の死者を出した火災を発端に、全国規模で「ゼロコロナ」政策への抗議デモが広がっている。
人口400万人のウルムチでは、一部の市民に何週間にも及ぶ外出制限が課されていた。当局は28日の記者会見で、29日からは居住地区内でバスに乗り、買い物などに出ることが認められると発表した。
当局は27日には、「低リスク」地区にある必要不可欠なサービスや商品を提供する店舗は、営業再開申請が可能になると発表した。ただし、客数は通常の半分までに制限するとしている。また、公共交通機関や空の便も「秩序ある形で運行を再開する」とした。
ウルムチでは24日夜、集合住宅で火災が発生し、10人が死亡。これを受け、週末には複数の都市で「ゼロコロナ」政策に対する抗議デモが実施された。
多くのネットユーザーは、コロナ規制が消火・救助活動の妨げになったと非難している。一方、当局は民間の車が消火活動を阻害したとの見方を示している。 【11月28日 AFP】
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****中国のゼロコロナ政策「やりすぎだ」 浙江省政府が異例の文書 「人民が第一」****
中国・浙江省政府が、一部地域のコロナ政策は「やりすぎだ」と批判する異例の文書を発表した。
浙江省政府は29日、「人民が第一であり、コロナ対策が第一ではない」と題した文書を発表した。中国ではゼロコロナ政策に反発する一連の抗議活動は報道されていないが、市民らの不満の声に反応をしたとみられる。
文書では「一部地域で、コロナ対策の名目で権力を乱用し大衆を苦しめている」とし、さらに「新型コロナだけが病気で他の病気はどうでもいいという暗黙の了解さえある」と踏み込んだ表現で批判している。
一方で、「中国は他国に比べて高齢者の死亡者が少ない」などとゼロコロナ政策の正当性も主張しています。文書は「心を一つにすれば近い将来、平安が訪れる」と結ばれている。【11月30日 ABEMA TIMES】
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****北京でひそかにコロナ規制緩和、無症状者の多くは既に自宅隔離か****
中国の首都・北京でひそかに新型コロナウイルス規制が緩和されており、東部の数千人規模の住民組織「社区(コミュニティー)」では、ロイターが確認した居民委員会発行の新規則によると、軽い症状の感染者の自宅隔離を認めている。
委員会のメンバーによれば、陽性者の自宅と同じ階および上下3階の近隣住人も自宅隔離の必要があるという。これはたった1人の陽性者が確認されただけで、社区全体が時には数週間も封鎖された従来の規制とは大違いだ。
近くの別の社区では、住民によると、陽性者の自宅隔離を巡り週内にオンライン投票が行われる。
著名な愛国主義的論客として知られる胡錫進氏は30日、北京では多くの無症状コロナ感染者がすでに自宅で隔離しているとソーシャルメディアに投稿した。【12月1日 ロイター】
委員会のメンバーによれば、陽性者の自宅と同じ階および上下3階の近隣住人も自宅隔離の必要があるという。これはたった1人の陽性者が確認されただけで、社区全体が時には数週間も封鎖された従来の規制とは大違いだ。
近くの別の社区では、住民によると、陽性者の自宅隔離を巡り週内にオンライン投票が行われる。
著名な愛国主義的論客として知られる胡錫進氏は30日、北京では多くの無症状コロナ感染者がすでに自宅で隔離しているとソーシャルメディアに投稿した。【12月1日 ロイター】
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こうしたなかで、コロナ対策を率いる副首相が「新たな局面と任務に直面している」とのべ、「ゼロコロナ」を転換する可能性を示唆して注目されています。
****中国副首相「ゼロコロナ政策」転換の可能性を“示唆” 抗議デモ相次ぐ中“封鎖解除”も****
中国の新型コロナウイルス対策を率いる副首相が「新たな局面と任務に直面している」とのべ、「ゼロコロナ政策」を転換する可能性を示唆しました。
国営新華社通信によりますと、中国の孫春蘭副首相は先月30日、専門家を集めた会合で「オミクロン株の毒性が弱まり、ワクチン接種も普及した」と指摘したうえで、「防疫対策は新たな局面と任務に直面している」とのべました。
ゼロコロナ政策への抗議デモが各地で相次ぐ中、対策の緩和をすすめ、これまでの政策を転換する可能性を示唆しました。
こうした中、抗議活動が相次いだ広東省広州市などでは多くの地区で封鎖が解除されました。
また北京市でも、これまで専用施設での隔離を義務づけていたコロナ陽性者について、条件付きで自宅療養を認める動きが出ています。対策を緩和することで、国民の不満をやわらげる狙いがあるとみられます。【12月1日 日テレNEWS】
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孫春蘭副首相は、中国の医療・疾病予防システムは、ほぼ3年にわたる新型コロナウイルスの試練に耐えたと、これまでの実績を評価する姿勢は崩していません。【12月1日 ロイターより】
上記の孫春蘭副首相の新方針をサポートするかのように専門家意見も。
SNSには「はははは。前方に急カーブ(大きな政策の転換)あり。シートベルトをしっかり締めよう」といった声も。
****「新型コロナに後遺症あるという証拠なし」と中国専門家、中国ネット「風向き変わってきた」****
中国紙・人民日報によると、中山大学付属第三病院感染科の崇雨田(チョン・ユーティエン)教授が「新型コロナウイルスに後遺症があるという証拠はない」と発言した。厳しいゼロコロナ政策に不満が高まっているとされる中国のネット上で大きな注目を集めている。
記事によると、崇氏は「新型コロナ感染者は回復後には感染力をほとんど有していない。『復陽』(隔離治療後の再検査でウイルスの残存などにより再度の陽性反応が出ること)であっても感染を広める可能性は低く、コミュニティーにとって安全である」との考えを示した。
また、後遺症については医学的な定義があるとし、「感染症患者の中には回復後も一部の臓器機能が長期間正常に戻らなかった場合、後遺症とみなされる人もいる」と述べる一方、新型コロナの場合、味覚や嗅覚の喪失、関節痛、記憶力の低下、胸の痛み、せきなどの症状が比較的長く続くことが見られるものの、崇氏は「これらは新型コロナによる後遺症と分類することはできない」との見解を示し、「現在学会では新型コロナによる後遺症は確認されていない。少なくとも、(それらの症状が)後遺症であると示す証拠はない」と述べた。(中略)
中国版ツイッター・微博(ウェイボー)では「専門家が現在のところ新型コロナの後遺症の証拠はないと発言」がトレンド入り。しかし、厳しいゼロコロナ政策に不満が高まっているとされるためか、寄せられた多くのコメントが閲覧不可の状態になっている。
記事によると、崇氏は「新型コロナ感染者は回復後には感染力をほとんど有していない。『復陽』(隔離治療後の再検査でウイルスの残存などにより再度の陽性反応が出ること)であっても感染を広める可能性は低く、コミュニティーにとって安全である」との考えを示した。
また、後遺症については医学的な定義があるとし、「感染症患者の中には回復後も一部の臓器機能が長期間正常に戻らなかった場合、後遺症とみなされる人もいる」と述べる一方、新型コロナの場合、味覚や嗅覚の喪失、関節痛、記憶力の低下、胸の痛み、せきなどの症状が比較的長く続くことが見られるものの、崇氏は「これらは新型コロナによる後遺症と分類することはできない」との見解を示し、「現在学会では新型コロナによる後遺症は確認されていない。少なくとも、(それらの症状が)後遺症であると示す証拠はない」と述べた。(中略)
中国版ツイッター・微博(ウェイボー)では「専門家が現在のところ新型コロナの後遺症の証拠はないと発言」がトレンド入り。しかし、厳しいゼロコロナ政策に不満が高まっているとされるためか、寄せられた多くのコメントが閲覧不可の状態になっている。
閲覧可能なコメントでは、「感染しても問題ないという話が続々出てきている」「どうやら最近、風向きが大きく変わってきたな」「風向き(政策)によって後遺症のありなしが決まる」「はははは。前方に急カーブ(大きな政策の転換)あり。シートベルトをしっかり締めよう」といった声が上がっている。【12月1日 レコードチャイナ】
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【江沢民元国家主席死去 政権は同氏追悼が現体制批判につながらないように神経を使う】
一方、こうした混乱のなかで、かねてより健康状態悪化が伝えられていた江沢民元国家主席が11月30日に死去しました。(中国の進路に大きな影響を与え、日中関係にも問題を惹起した江沢民元国家主席の政治の功罪については、今回パスします)
江沢民元国家主席自身は1989年の天安門事件の際には、上海での民主化運動を抑え込んだことを評価され、大抜擢された人物ですが、天安門事件は共産党総書記を務めた胡耀邦氏の死去がきっかけとなり、胡耀邦氏に対する追悼活動が民主化や言論の自由を求める大規模運動に発展した・・・という経緯がありますので、習近平政権は江沢民氏追悼の扱いには相当に神経を使っているようです。
***江氏追悼、デモ発展に警戒 中国、集会呼びかけも****
中国で新型コロナウイルス対策に反対する抗議活動が広がる中、習近平指導部は11月30日に死去した江沢民元国家主席への追悼行動が政府批判デモに発展することを警戒している。既に江氏の追悼集会を呼びかける動きも出ており、当局は民間の活動を制限し、デモの動きを抑え込む構えだ。
1日、江氏が入院していた上海市中心部の病院付近では、大勢の警察官が出動して通りを通行止めにするなど大規模に交通を規制し、厳戒態勢が敷かれた。(後略)【12月1日 共同】
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習近平主席と江沢民元国家主席の間には激しい権力闘争がありましたので、そのあたりも習近平政権としては気を使うところでしょう。
****中国・江沢民元国家主席が死去 「習近平政権に相当な恨みを募らせたうえの“憤死”ではなかったか」辛坊治郎が持論を展開****
(中略)
“江氏は、胡錦濤氏に体制が世代交代してからも、背後で権力を持ち続けました。そして、現在の習近平体制が生まれるときにも裏で糸を引きました。ですから、習体制をつくったのは江氏なのです。
ところが、習体制になると、江氏の関係者は次々に汚職で排除されました。ですから、江氏は晩年、習氏に対し、はらわたが煮えくり返っていたと思いますよ。
気持ちとしては“憤死”だったかもしれませんね。最期は相当な恨みを現政権に募らせて亡くなったのではなかろうかと思われます。【12月1日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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実際、SNSには江氏を追悼する形で習近平体制への不満を示すようなメッセージも出回っています。
****江沢民氏死去、「カエルの王」たたえる投稿相次ぐ 中国****
中国で江沢民元国家主席の死去を受け、今よりも自由だった江政権時代を懐かしみ、同氏を「カエルの王」にたたえる投稿がSNSに相次いだ。
国営中国中央テレビが微博(ウェイボー)で江氏の死去を報じた投稿には1時間足らずで50万以上のコメントが寄せられ、多くのユーザーが親しみを込めて「江おじいちゃん」と呼んだ。
江氏への評価は割れている。公の場で見せるユーモアのある一面は、それまでの堅苦しい共産党指導者のイメージに新風を吹き込んだと歓迎される一方、汚職の横行や格差拡大、政治活動家の弾圧を許したと批判する声もある。
引退後は、カエルに似た江氏を尊敬する「膜蛤文化(カエル崇拝)」という言葉も生まれ、 中国のミレニアル世代やZ世代の間でたびたびネタにされるようになった。
江氏の死に乗じて、新型コロナウイルス感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を取る習近平国家主席を間接的に批判する人もいる。
ある微博ユーザーは「江沢民時代は最も繁栄していたわけではないが、今よりも寛容だった」と投稿。「多くの批判を耳にしたが、批判的な声を許していたという事実が、江氏が称賛に値する人物だということを示している」と述べている。
カエル崇拝者の一人は微博に「カエルの王よ、安らかに眠れ」と投稿した。
また、「カエルよ、くまのプーさんもあの世に連れて行ってくれないか」と投稿するユーザーもいた。習氏は以前からくまのプーさんに似ているとやゆされており、プーさんに関するネット上の書き込みは検閲対象になっている。
こうした投稿の多くは数分以内に削除され、微博で「江沢民」と検索しても、国営メディアのアカウントしか表示されなくなっている。 【12月1日 AFP】
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上記のような硬軟両様の対応でも抗議行動・不満をおさえきれないときには、政権は警察・軍によるむき出しの暴力など、更に強硬な手段に出ることにもなり、その場合には天安門事件の悲劇の再現のような懸念も出てきます。