孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  クーデター計画発覚の衝撃 トランプ支持勢力との相似性

2022-12-16 23:05:56 | 欧州情勢

(国家転覆のテロ容疑で逮捕連行される自称ハインリヒ13世【12月11日 JBpress】

【国会襲撃で国家転覆 「計画はかなり進んでいた」】
世界各地でクデーターは起きていますが、民主主義国のリーダー的な国家のひとつとされるドイツで・・・となると、驚きもしましたが、やや唐突な感じも。

ドイツの連邦検察庁は7日、クーデター計画を練っていたとして、極右勢力のメンバーら25人を逮捕したと発表しました。この極右グループは極右勢力「帝国の市民」や、2021年1月に起きた米連邦議会襲撃事件の逮捕者の中にも支持者がいた「Qアノン」の陰謀論に影響を受け、「ハインリヒ13世」と名乗る男らを擁立して新国家樹立を画策していたとされています。

アメリカ連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったとのことです。

****ドイツ、国家転覆画策の疑いで極右団体メンバー25人拘束 11州で警官ら3000人投入****
ドイツ連邦検察庁は、国家転覆を図っているとされる極右団体のメンバーおよび支持者と見られる25人を、7日早朝の一斉捜査で身柄を拘束したと発表した。

連邦軍事防諜庁(BAMAD)の報道官はロイターに対して、捜査対象には現役兵士1人と複数の予備兵が含まれていると説明。現役兵は特殊作戦部隊のメンバーという。

検察庁によると、容疑者らは遅くとも2021年11月末以降、自分たちのイデオロギーに基づく行動を実行するため準備。資材の調達や新規メンバーの勧誘、射撃訓練などを行っていた。
軍や警察の関係者を中心にメンバーを集めようとしていたという。

検察庁によると、国内11の連邦州での捜査には3000人以上の警察官や治安部隊が投入された。【12月7日 Newsweek】
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****ドイツのテロ組織、軍事部門も 政府転覆計画「相当進展」****
ドイツで政府転覆を企てるテロ組織に参加した疑いなどで極右勢力のメンバーら25人が拘束された事件で、同国情報機関、連邦憲法擁護庁のハルデンワンク長官は7日「計画はかなり進んでいた」との見方を示した。

組織内には司法や保健など政府機関を模した部門がつくられており、フェーザー内相は元軍人らが所属する軍事部門もあったとして「このテロ組織を過小評価してはいけない」と警告した。

メンバーらは、第2次大戦後のドイツ連邦共和国を否定し、民主主義を拒絶する極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国市民)」と、米国の陰謀論勢力「Qアノン」の影響を受けていたという。【12月8日 共同】
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ちなみに、主犯格の一人が名乗っている「ハインリヒ13世」は、かつて現在のテューリンゲン州を支配していた貴族のロイス家の子孫とのこと。

「計画はかなり進んでいた」ということに関しては、全土で286の民兵グループの組織化を計画していたことが明らかになっています。

****「ハインリッヒ13世」クーデター未遂、ドイツ全土で民兵組織化を計画…50か所に武器*****
ドイツで政権転覆を企てたとして一斉摘発された極右勢力が、全土で286の民兵グループの組織化を計画していたことがわかった。12日に非公開で行われた連邦議会内務委員会の特別会合で報告された内容を有力紙ウェルトなどが報じた。

民兵は政権転覆の際に敵を逮捕・処刑する役などを担うという。報道によると、国外追放や処刑の対象者のリストにショルツ首相らの名があり、捜索先50か所で武器が見つかった。

事件では、昨年まで右派政党の連邦議会議員だった現職判事、軍や警察の出身者ら25人が拘束された。権力奪取後は貴族出身で「ハインリッヒ13世」を名乗る主犯格の男(71)を新たな国家の元首に担ぐ計画だった。

捜査当局によると、拘束者らは国が「ディープステート(闇の政府)」に支配されていると信じ込み、政権転覆に向けて昨年11月頃にテロ組織を結成した。

ドイツの極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」や過激な陰謀論を唱える「Qアノン」の影響が強いとみられ、情報当局は独公共放送に「極右や陰謀論者などの混合体」との認識を示す。

専門家の間では、政府のコロナ対策に反発する極右やQアノン信奉者らがネットで交流を深め、行動を激化させたとの見方がある。【12月13日 読売】
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【トランプ前大統領支持勢力との強い相似性 2021年1月に起きた米連邦議会襲撃事件に触発される】
「ディープステート(闇の政府)」といった考えや「Qアノン」の影響ということで、トランプ前大統領支持勢力との強い相似性がうかがえます。

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ドイツ極右の国家転覆計画、実はトランプの蒔いた種だった****
米独に棲みつく「ナチスの亡霊」
(中略)かつて世界を震撼させたナチスを生んだドイツに、反ユダヤ・反非白人の白人至上主義集団が生き残っていた。「ナチスの亡霊」が彷徨っていたのだ。

ナチスを撲滅し、新しく生まれ変わったドイツは、今や日本とともに先進民主主義国家陣営G7の最強メンバーだ。
その国ではネオナチの極右がどっこい生きていた。オルフ・ショルツ首相はこう述べた。
「今回の逮捕でわれわれの国が強固なものだと分かったと思う。事件は未然に防いでおり、ドイツの民主主義が揺らぐことはない」

確かに米国は、ドナルド・トランプ氏に唆されて(?)武装して首都ワシントンに結集した極右グループの議会襲撃を未然に防ぐことができなかった。それに比べれば、ドイツはまだしっかりしていた。
 
だが、逮捕された25人の中に元貴族や合法的な極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)党」所属の前下院議員でベルリン地裁の女性判事、ビルギット・マルザックウィンケマン容疑者(58)や元ドイツ軍特殊部隊(KSK)将校やパラシュート部隊軍曹などがいたとなると、ドイツ連邦共和国に潜むダークサイドがちらついてくる。

ドイツ検察庁の発表や報道によると、2021年11月までに結成された「帝国市民」(ライヒスビュルガー=Reichsbürger)は民主主義体制の打倒を目指す集団。
国家を陰で操る「ディープステート(闇の政府)*1」にドイツ政府が支配されているという「陰謀論」を信じている。

この「ディープステート陰謀論」は、まさに米国の「Qアノン」と共有するイデオロギーだった。
*1=ディープステートとは、政府、金融機関、産業界に秘密のネットワークを組織して権力を行使する隠れた政府のこと。それを頑なに信じるのが陰謀論だ。トランプ氏の場合、この勢力が自分を敵対視し、魔女狩りをしていると主張している。

ドイツの「帝国市民」は、この「ディープステート」の支配からの解放を目指して一斉蜂起することを想定し、米国やロシアの情報機関や軍隊に秘かに結成されている「秘密同盟」と共に「新秩序」構築しようとしている。

この青写真に沿って、「ドイツ帝国」(1871年から1918年)の貴族の末裔でハインリヒ13世と称している男(71)をグループの首謀者にし、集団内には内閣に似た「委員会」が組織され、「外交」「司法」などの担当者が置かれていた。

ロイス容疑者は「ドイツ帝国」建国のウイルヘルム1世の流れをくむ子孫だと公言しているが、実際には遠い傍系で、30年間起業家として活躍。フランクフルトの豪邸はグループの会合場所として使われていた。
母方はロシア人で、そうしたこともあってロシアに接近していたといわれている。

トランプ支持の極右とはオンラインで連帯
逮捕から一夜明けて、欧米メディアの報道によって「帝国市民」が米国の極右グループ「Qアノン」と密接な関係にあったことが明らかになってきた。

反ユダヤ主義、反難民・移民を掲げる白人至上主義国家の復活を狙う白人極右分子(同グループ登録メンバーは現在2万1000人)がドイツに存在し、オンラインを通じて米国の極右分子と連帯していたのである。

さらに言えば、Qアノンは、米国内ではドナルド・トランプ前大統領の熱狂的な支持グループだ。
2021年1月6日の米議会乱入事件の中心的役割を演じ、リーダー格のジェイコブ・チャウスリーらは目下服役中だ。

ドイツで逮捕された容疑者25人のうち22人は、そのQアノンと一心同体的集団「帝国市民」だった。

当初、ドイツ政府当局は「マイナーな極右分子」と見て、高を括っていた。
ところが2016年12月、バイエルン市警の警官が同グループと親密な関係にあったことが発覚。当局は同グループに対する監視体制を強化した。

同年には職務質問していた警官と撃ち合いになり、警官1人が死亡する事件も起こった。その後、ユダヤ教宗教施設を襲撃したり、要人誘拐や脅迫を繰り返し、2021年には1000件以上の刑事事件を起こしていた。

「帝国市民」にとってトランプは救世主
保守派研究では屈指のドイツの研究シンクタンク「アマデュー・アントニオ財団」のミロ・デートリッヒ研究員は、「帝国市民」についてこう分析している。

「トランプ氏は極右、特に『帝国市民』にとって救世主的存在になっている」
「米主流メディアの厳しい批判を受けながらも白人至上主義を貫き通し、極右を庇い続けるトランプ氏のような政治家は欧州にはいないとして、尊敬の念を抱いている」

米保守派が新型コロナウイルスを「一種の迷信だ」と考え、マスク着用やソーシャルディスタンスを公衆衛生当局が呼びかけても耳を傾けようとしなかったのは、言い出しっぺがトランプ氏だったからだ。自らも感染したものの、当時はまだ危険性のあったモノクロ―ナル抗体薬を投与して回復したと胸を張り、マスク着用を避けてきた。

ドイツの「帝国市民」はこれに感銘を受け、2020年以降、ドイツ各地で開かれたロックダウンや規制強化に反対する集会には、トランプ氏のMAGA(Make America Great Again=偉大なアメリカを再び)帽子を被り、旗、横断幕を掲げる者が目立った。

横断幕には「トランプに続け」「白いうさぎ=トランプ支持者のこと=について行こう」といったメッセージが書かれていた。「トランプ!トランプ!」とシュピレヒコールを叫んだ。

そうした中で2021年1月6日、ワシントンでトランプ支持者による米議会乱入事件が起こった。
この光景をテレビやオンラインで観た「帝国市民」の指導者は、「これこそわれわれがやろうとしている国家転覆工作の見本だ」と膝を叩いた。

新型コロナウイルス感染症の大流行が起こった2020年3月から6月の間にQアノンの活動はフェイスブック、インスタグラム、ツイッターで2倍から3倍に増加した。
ドイツでは、推定20万人の「Qアノン信者」が誕生したともいわれている(むろん、この信者がみな「帝国市民」のメンバーになったわけではない)。lobal-in-pandemic-perfect-storm)

今回、逮捕された「帝国市民」は氷山の一角に過ぎない。
在米ドイツ特派員のP氏は、今後の動きについてこう予想している。
「この集団は、二重構造になっている。上位は、極右政治家や官僚、軍人など。下位は現状に不満を持っている低学歴の草の根大衆だ」

「検察の調べだと、警察や軍関係者の勧誘に力を入れているらしい。議会を襲撃するにはその道のプロが必要だからだ」「問題は誰がカネを出しているのか、だ。外国からのカネが入っているのかどうか。トランプ周辺とのつながりはあるのか」

ドイツ検察当局の捜査が注目される。【12月11日 高濱 賛氏 JBpress】
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【欧州極右勢力と深いつながりがいつも指摘されるロシアの影も】
外国とのつながりということでは、欧州極右勢力と深いつながりがいつも指摘されるロシアの影が今回も。

****ドイツでクーデター未遂を起こした極右テロ組織に、「ロシア関与」の疑いが****
<クーデターを計画した極右組織のリーダーは今も一族が城を保有する貴族の家系。組織とロシアとの関係が疑われている>

ドイツで政権転覆を企てたとして極右テロ組織のメンバーら25人が逮捕された問題で、同組織の活動にロシアが関与していた疑いが浮上している。ロシア政府は関係を否定しているが、貴族の家系で一族が現在も城や狩猟用の別邸などを保有している「ハインリッヒ13世」と名乗る男性がリーダーを務めるこの組織は、ロシア側と接触していたとみられている。

(中略)(「ハインリッヒ13世」を名乗る)男はクーデター計画への支持を得るために、ドイツ国内とロシアにおいて、ロシアの代表者と連絡を取ったとされる。(中略)

「交渉の主な窓口は現在、ロシアである」
新国家秩序について交渉するために暫定的な軍事政権を形成することも計画し、「交渉の主な窓口は現在、ロシアである」と検察庁は明らかにした。

検察庁はまた、逮捕者の中にロシア人の女1人が含まれていると発表した。ドイツの個人情報保護規則に従い「ビタリア・B」と公表されたこの女は、テロ組織とロシア政府高官との接触を仲介した疑いで拘束されたが、接触が成功した「兆候」はなかったという。

過激派について研究するロンドンのシンクタンク「戦略対話研究所」(ISD)の政策・研究担当シニアマネージャー、ヤコブ・グールは、ネオナチやアイデンティタリアン運動など、ドイツに従来から存在する極右勢力は、ロシアへの支持で二分されているとニューズウィークに語った。

ロシアに共感する陰謀論信奉者
「しかし、ライヒスビュルガーやQアノンの(ような)陰謀論信奉者は親ロシア的であるため、特にこの組織のメンバーが(ロシア政府に)共感することはそれほど不思議ではない」とグールは言う。

同組織のメンバーには、2021年まで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の連邦議会議員を務めていたビルギット・マルザックウィンケマンも含まれている。

グールは、プーチンのウクライナ侵攻に対するAfD内の意見は分かれているものの、「自由主義に立ち向かうキリスト教の伝統的な強い支配者として」プーチンを支持する派閥が党内に存在すると指摘する。AfDの共同党首のティノ・クルパラとアリス・ワイデルは、今回のクーデター計画を非難している。

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、今回の逮捕は「ドイツ国内の問題」であるとし、「ロシアの介入についてはいかなる議論もあり得ない」と述べた。【12月9日 Newsweek】
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【100万人を超えるウクライナ難民という社会状況が極右的発想を助長・拡大させる】
今回のような極右グループの伸長、陰謀論の台頭、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭・・・などの背景には、100万人を超えるウクライナ難民の存在、そうした難民への排外的攻撃が社会不満のはけ口となっている現状があります。

****クーデター騒動の背後に100万人のウクライナ難民 集合住宅“放火事件”も****
(中略)筆者が注目したのは逮捕者の中に元連邦議会議員のビルギット・マルザック=ヴィンケマンがいたことだ。ヴィンケマンは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属し、2017年から21年までの連邦議会議員在任中、難民政策について問題発言を繰り返していた。

AfDは2017年の連邦議会選挙で第3党に躍り出たが、追い風となったのは国内に流入したシリア難民への国民の反発だった。メルケル首相(当時)は2015年に人道的な理由でシリア難民の大量受け入れを決断したが、これが災いして同氏の支持率は大幅に低下し、政策の変更を余儀なくされた。

人種差別的な陰謀論の隆盛は難民や移民の増加が大きく影響するようだ。

「かぎ十字」の落書き
今や陰謀論のメッカとなった米国では移民の流入に歯止めがかからない。米移民研究センターによれば、米国の全人口に占める合法・不法移民(外国生まれ)の割合は今年9月時点で14.6%に上っており、過去最高の1890年の14.8%を来年にも突破することが確実な情勢だ。

ドイツでも新たな問題が発生している。ロシアの侵攻以来、ウクライナからの避難民が急増している。
ウクライナ人は元々ビザなしでEUに3ヶ月間滞在することができたが、現在は無条件で1年間の滞在許可が認められている。

ドイツ内務省によれば、ウクライナからドイツへの避難民は10月中旬時点で100万人を超えており、2015〜16年のシリア難民の数を既に上回っている。

当初はウクライナ人への受け入れに前向きな風潮だったが、「ない袖は振れない」
避難民を収容している自治体の財政は既にパンク状態になっているが、政府は寛容な避難民受け入れの方針を変更していない。

深刻なインフレや景気の悪化で国民の不満が高まっている最中の10月中旬、ドイツ北部にあるウクライナ避難民が入居予定だった集合住宅が放火で全焼するという事件が起きた。幸いにもけが人は出なかったが、放火前、建物にナチスのシンボルである「かぎ十字」の落書きが見つかっていた。

今回のクーデターは未然に防止することができたが、ウクライナ避難民に対する国民の反発が収まらない限り、国内の過激派組織に対する支持が高まる可能性は排除できない。(後略)【12月16日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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冒頭にも書いたように、ドイツのような民主主義国家で国会襲撃で国家転覆の計画というのは驚きでもあり、唐突な感じもありますが、かつて日本でも、もっと大掛かりな組織・装備を擁するオウム真理教も存在していましたので、どこの社会にもそうした集団が広がる素地はあるのかも。
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