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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  「風紀警察廃止済み」発言はあるものの、抗議行動への強硬対応を続ける公算大か

2022-12-11 23:21:23 | イラン
(【12月5日 ロイター】 火炎びんによるものと思われる炎と煙で騒然とするテヘラン市街)

【「風紀警察廃止済み」発言 一定の譲歩? 様子見の観測気球?】
イランでは、顔を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして警察に拘束された22歳のクルド人女性が9月に死亡したことに端を発し、1979年のイラン革命以来最大規模の反政府デモが全土を揺るがしています。
国際的人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は11月29日、この反政府デモに関連して少なくとも計448人(うち子供60人)が殺害されたと発表しています。

ただ、情報が統制されているイラン国内での動きは伝えられる情報が少なくよくわかりません。犠牲者の実態ももっと大きい可能性もあります。なお、イラン内務省は200人が死亡したとしています。

よくわかりませんが、抗議運動は収まっていないようです。

****イランで抗議運動収まらず、新たにスト呼びかけも****
イランで女性の髪を隠すスカーフのかぶり方を巡って拘束された女性が死亡したことをきっかけに始まった抗議運動は、収束の気配が見えない。4日には新たにストライキの呼びかけが広がった。

女性の死亡後、抗議行動が2カ月余り続いた後、イランのモンタゼリ検察長官は女性を拘束した風紀警察を廃止したと発言。ただ風紀警察を傘下に置く内務省は、廃止を正式に認めておらず、国営メディアは風紀警察を監督する権限はモンタゼリ氏にないと伝えた。また複数のイラン政府高官は引き続き、女性にスカーフを適切に着用させる政策に変更はないと強調している。

こうした中で、抗議運動を展開している人々は3日間の経済活動をやめるストライキを行うとともに、7日に首都テヘランのアザディ(自由)広場に向けてデモ行進をしようと訴えている。ツイッターにシェアされたさまざまな個人の投稿内容をロイターが確認した。

この7日にはライシ大統領がテヘランで学生向けに演説をする予定だ。【12月5日 ロイター】 
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この呼びかけの結果、7日に何らかのデモがあったのかどうか・・・わかりません。

わからない話ばかりで恐縮ですが、当局側対応もはっきりしません。
上記記事にもある「風紀警察廃止」の話も、その情報が流れた直後には国営メディアが否定するということで、実際の動きがどうなっているのか・・・・

****「風紀警察は活動停止」 イラン、取り締まり緩和示唆 デモ収束は見通せず****
イランの検察当局者は4日までに、街頭で女性の服装を監視する「風紀警察」が活動を停止したと述べた。ロイター通信が伝えた。風紀警察は9月中旬、頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」を適切にかぶっていないとして女性(22)を拘束し、女性が不審死を遂げたことで大規模な反政府デモが起きる原因となった。

街頭では最近、風紀警察の姿が減ったとの観測があり、政府が取り締まりの緩和を示唆するシグナルを発した可能性もある。ただ、風紀警察を管轄する内務省は活動停止を確認していない。テヘランでは7日に反政府デモが行われる予定で、事態の収束にはつながらないとの見方が多い。

イランの通信社は3日、同国のモンタゼリ検察官が風紀警察は活動を停止したと述べたと伝えた。同検察官は「(国民の)振る舞いは引き続き監視される」としている。国営テレビ局アルアラムは、海外メディアが発表を政府の「後退」と評していると報じる一方、風紀警察は司法当局とは直接関係がないと伝えた。(中略)

イランはイスラム教を国教とし、聖典コーランに基づいて女性に全身が隠れる服装を義務付けている。ヘジャブもその一環で、風紀警察は街頭で女性の服装を監視し、連行して指導するケースもあった。(後略)【12月5日 産経】
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もし、実際に風紀警察が廃止されるなら、反政府抗議行動への一定の「譲歩」ともなります。しかし、風紀警察は内務省管轄で、内務省からの発表はありません。

****イラン検察幹部「風紀警察廃止済み」 取り締まり継続も****
イスラム法に照らして市民の服装などを監視するイランの風紀警察について、同国検察幹部が「すでに廃止された」と指摘した。イランの各メディアが4日報じた。風紀についてはイラン革命防衛隊の下部機関の民兵組織バシジも日常的に取り締まっており、市民への締め付けが実質で緩むかどうかは不透明だ。

イランでは9月、髪を隠すスカーフの着用が不適切だとの理由で風紀警察に拘束された女性が死亡したことをきっかけに反政府デモが各地に広がった。保守強硬派のライシ政権はなお収拾し切れておらず、デモ参加者に一定の譲歩を示した可能性がある。(中略)

風紀警察は内務省が管理し、組織改編にからむ権限を検察は持たない。保守強硬派のアハマディネジャド政権(当時)だった2006年に発足。穏健派のロウハニ前政権で活動が縮小したが、21年にライシ大統領が就任すると、存在感を高めていた。

反政府デモの参加者は、大統領を指導する最高指導者ハメネイ師も批判。各地で治安部隊と衝突している。(後略)【12月5日 日経】
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この「風紀警察」に関する情報は、その後目にしていません。
抗議が収まらない状況で、当局側にも対応に迷いはあるようです。

“死傷者が膨らむ中、イラン政府関係者によると、政府内にはデモへの武力弾圧に疑問の声も出ていた。ライシ大統領も過度な抑圧には慎重な見方を示しているとされ、政府内ではヒジャブをめぐる法改正や風紀警察による取り締まりの緩和を模索する動きもあった。”【日系メディア】

「ひとまず『廃止』と言ってみて社会の反応を見るつもりだろう」との見方もあるようです。

【最高指導者ハメネイ師の身内からも批判】
収まらない抗議行動ということでは、最高指導者ハメネイ師の身内からも批判が出ています。

****イラン最高指導者の妹、「専制」を非難 抗議デモ支持****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の妹バドリ・ホセイニ・ハメネイさんが、同師の「専制的」な統治を非難し、国内で続く抗議デモへの支持を表明する書簡が7日、公開された。(中略)

ハメネイ師は、イランと敵対する米国とその同盟国がデモを扇動していると非難。イラン当局はデモを「暴動」と呼んでいる。

イラン在住とみられるホセイニ・ハメネイさんは、フランス在住の息子マフムード・モラドハニさんがインターネット上で公開した書簡で、「私は兄の行動に反対している」と言明。ハメネイ師による統治を「専制的カリフ制」と呼び、1979年のイラン革命を主導したルホラ・ホメイニ師の統治時代から現在まで続くイラン政府の「罪」を憂いているすべての母親に同情すると表明した。

また、「私の関心はこれまでも、これからも、イランの人々、特に女性たちにある」とし、「人々の勝利と、イランを支配するこの暴政の転覆を早期に目にしたいと望んでいる」とした。 【12月8日 AFP】
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すでにハメネイ師のめいにあたる、上記バドリ・ホセイニ・ハメネイさんの娘も政権を批判し逮捕されています。

****イラン当局、ハメネイ師のめい逮捕 政権批判受け****
イラン当局は、最高指導者アリ・ハメネイ師が率いる政府について「残忍で子どもを殺す政権」だと動画で批判したとして、同師のめいを逮捕した。

ハメネイ師のめいのファリデ・モラドハニさんの親は反体制派で、自身、収監経験がある。

ファリデさんの兄弟であるマフムードさんはツイッターで、出頭を命じられたファリデさんが検察の事務所に出向いたところ、23日に逮捕されたと明らかにした。

マフムードさんは26日、ファリデさんの動画をユーチューブに投稿。ファリデさんはその中で「自由な人々よ、われわれと共に。 残忍で子どもを殺す政権への支持をやめるよう、あなた方の政府に伝えて」と語っていた。動画がいつ撮影されたかは不明。

ファリデさんは、ハメネイ師の姉妹であるバドリさんの娘。バドリさんは1980年代に家族と縁を切り、イラン・イラク戦争のただ中に敵国イラクに亡命していた。

イランの人権活動家通信によると、ファリデさんは今年4月から保釈中だった。今回再び逮捕されたため、禁錮15年を言い渡されている現行の刑の執行が再開されることになるという。現時点で容疑は明らかにされていない。【11月28日 AFP】
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ハメネイ師の妹バドリ・ホセイニ・ハメネイさんにしても、その娘のファリデ・モラドハニさんにしても、以前からの反体制派で、特に今回抗議行動で政権批判に転じたという訳ではないようです。
ただ、両名が改めてこの時期に政権批判を明らかにしているのは、「今が正念場」と認識しているからなのかも。

【政権側は今後も強硬対応を続ける公算が大 見せしめのデモ参加者死刑執行も】
一方のハメネイ師は(これだけでは何のことかわかりませんが)「国家の文化システムの革命的再構築」を呼びかけています。

****イラン最高指導者、文化システムの「革命的再構」求める****
イランの最高指導者ハメネイ師は6日、「国家の文化システムの革命的再構築」を呼びかけた。国営メディアが伝えた。

国家文化評議会の会合で、「国家の文化構造に革命を起こす必要がある。最高評議会は様々な分野での文化の弱体化に注意を払うべき」と述べたという。(後略)【12月7日 ロイター】
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「国家の文化システムの革命的再構築」・・・・何のことか意味不明ですが、「文化の弱体化に注意を払うべき」ということは“イスラム的価値観を守れ”ということなんでしょう・・・。

言葉より行動の方がわかりやすい。

****デモ参加者に初の死刑執行=「治安要員を襲撃」―イラン****
イランのタスニム通信によると、イラン当局は8日、抗議デモで「治安要員を刃物で襲撃した」などとして先に死刑判決を受けた男1人に対し、刑を執行した。執行は初めてとみられ、今後も強硬対応を続ける公算が大きい。

イラン当局はデモ参加者の多くを「暴徒」と見なして逮捕、訴追している。これまでに少なくとも5人が襲撃や放火などの罪で死刑判決を受けている。【12月8日 時事】 
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“今後も強硬対応を続ける公算が大きい”とのことのようです。

【最高指導部の権力が揺らぐ可能性は低い】
中国のコロナ対策批判で起きた白紙運動は、習近平体制にとってショッキングではあるにしても、それで体制が大きく揺らぐものでもないとの見方が一般的ですが、イランについても同様の見方です。

****イラン政治体制、抗議行動でも当面揺るがず=イスラエル軍分析官****
イスラエル軍の情報部門で首席分析官を務めるアミット・サール准将は5日の軍事系シンクタンクの会合で講演し、イラン国内で続いている抗議行動によってもイスラム聖職者が率いる最高指導部の権力が揺らぐ可能性は低いとの見方を示した。

イランでは髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切として拘束された女性が急死したことを巡り、全土で抗議デモが発生している。イスラエルはイランと長年の冷戦状態にある仇敵の仲。イスラエル情報部門はイラン当局による核開発を警戒・監視し続けている。

サール氏は「抑圧的なイランの政治体制はこれらの抗議を何とか乗り切っていくように思われる。イラン体制側は事態に対処するための非常に強力な手段を構築している」と指摘。ただ、抗議行動が弱まったとしてもそれらをもたらした要因は残り続けるとし、「イランの政治体制は何年も問題を抱えていく可能性がある」と予測した。

一方、同氏の上官に当たるアーロン・ハリバ少将は同じ会合で「長期的にはイランの政治体制が生き残ることはないだろう」と発言。その上で「自分はその日がいつかを示す立場にはない。われわれは予言者ではない」とも述べた。【12月6日 ロイター】
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最後の「長期的には・・・」云々は、イラン側もイスラエルについて同様の見解でしょう。

【双方とも窮地にあるロシア・イランの接近】
外交的には、イランはロシアへの接近を強めています。

****米高官「ロシアとイラン、本格的な防衛協力へと変化」…ドローン供与に欧米から批判****
米国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は9日、イランが8月以降、ウクライナを侵略するロシアに数百機の無人機(ドローン)を提供し、弾道ミサイル数百発の供与やドローンの共同生産を検討していると記者団に語った。両国関係が「本格的な防衛協力へと変化している」として警鐘を鳴らした。

ロシアもイランに対し、ヘリコプターや防空システムを提供している可能性があり、「前例のないレベルの軍事的、技術的支援を提供している」という。イランが今春、ロシアの主力戦闘機「Su(スホイ)35」の操縦訓練を受けたとの情報があり、来年にも機体を受け取る可能性があると分析した。

米政府は9日、イランからのドローンの輸送に関わったとして、露航空宇宙軍など3機関に制裁を科した。

ウクライナ情勢を協議するために9日開かれた国連安全保障理事会の会合でも、欧米はイラン製ドローンの対露供与を相次いで批判した。米国のリチャード・ミルズ国連次席大使は「イラン製無人機をウクライナでの戦争に用い、民間人の死者を生んでいるのはロシアだ」と指弾し、フランスは、国連が調査するよう求めた。【12月10日 読売】
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双方ともに追い詰められているロシアとイランが協力しあって・・・という話は、よくわからないことが多いイラン国内事情に比べるとわかりやすいです。

コメント
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