goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  癒えない大洪水被害 カーン前首相は大衆行動で軍支配に対抗 パを財政支援する中国

2022-12-05 22:52:20 | 南アジア(インド)
(パキスタン北西部ペシャワルで、イムラン・カーン前首相の暗殺未遂に抗議するカーン氏の支持者(2022年11月4日撮影)【11月5日 AFP】)

【未だ水が引かない水没地帯 感染症拡大】
COP27で気候変動被害の象徴ともなったパキスタンの大洪水、未だに多くの地域で水はひかず水没したまあの状態、更には不衛生な環境で感染症が広がっています。

****汚れた水で洗濯…国土3分の1水没のパキスタンはいま 時間差で感染症の波【須賀川記者リポート】****
エジプトで開かれている国連気候変動対策会議=COP27のテーマの一つ「損失と損害」。それを象徴するのが、洪水で国の3分の1が水没したパキスタンです。未だに広大な面積が水没したままの被災現場を取材しました。

今年の夏、パキスタンを襲った未曽有の大洪水。温暖化の影響で例年より多く流れた雪解け水と、気候変動による大雨が重なり、国土の3分の1が水没しました。

それから3か月…

記者 「道路のわきには、このようにテントが立ち並んでいます。その理由は村があった場所が完全に水没してしまって、地平線が見える場所が、まるで水平線のようになっています」

パキスタン南部シンド州。集落や農地があった場所は、今も巨大な湖のようになったままです。
こちらの村では、家畜の排せつ物と混ざった水が悪臭を放ち、最も弱い立場にいる子どもや妊婦は感染症のリスクにさらされています。

国連によると、シンド州ではこれまでに少なくとも30万人がマラリアに感染。洪水の発生から時間差で、感染症の波が押し寄せているのです。
遠くから運んでくる飲み水は極めて貴重なため、洗濯には汚染された水を使うしかありません。(後略)【11月17日 TBS NEWS DIG】
*********************

【政治は混迷 ポピュリズム的大衆行動で軍支配に挑むカーン前首相】
こうした厳しい状況にあるパキスタンですが、政治の方は混乱しています。
11月3日、国政を左右する影響力を持つ軍部との対立から失職したカーン前首相が、総選挙の実施を求めて首都イスラマバードへのデモ行進をおこなう大衆行動の途上で銃撃される事件が起きました。

しかも、カーン前首相は、事件は宗教狂信者の単独犯ではなく、背後にシャリフ首相と現職閣僚、軍情報機関の3軍統合情報局(ISI)の将軍がいると訴え、この3人の解任を求めているとも報じられていました。

****黒幕は政府と軍部? パキスタン前首相「暗殺未遂」の衝撃****
パキスタンのイムラン・カーン前首相が11月3日、同国東部で反政府集会の最中に銃撃され、足を負傷した。
側近数人が負傷し、少なくとも1人が死亡。治安当局は男1人を逮捕したと発表したが、動機など詳細は分かっていない。

数カ月にわたり政府と軍部がカーンへの弾圧を強めているなかで起きた。カーンの支持者の間には政府と軍部の関与を疑う見方が広がっている。

クリケットの元スター選手であるカーンは2018年から首相を務め、今年4月に不信任決議で失職した。
1996年に政界入りした当初は汚職一掃に精力を注ぎ、特に政治不信の若い世代から熱狂的な支持を集めた。だが軍部の支持を失ったところで命運が尽き、失職後は新政府と軍指導部への批判を強めていた。

一方、政府の弾圧は逆にカーンの人気を高め、集会には支持者が大挙。
両陣営が一触即発の状態で緊迫するなか、同国政治はいつ臨界点に達してもおかしくない状況だ。【11月7日 Newsweek】
*****************

首相就任時のカーン氏は、軍の支持で政権に到達できた、もっと直截な批判としては「彼は軍の操り人形だ」との批判を受けるほど軍との関係は密接でしたが、今では軍に反旗を翻し、首都へのデモ行進という大衆行動で軍の支配権に挑戦しているようにも見えます。

****政治不安への崖っぷちにあるパキスタン****
11月10日付けウォールストリート・ジャーナルは、イムラン・カーン前首相の政権復帰を狙う言動によってパキスタンは更なる不安定な状況に陥る崖っぷちに立たされていると警告する、サダナン・デューム(インド系米国人ジャーナリスト)による論説‘Imran Khan Pushes Pakistan to the Edge’を掲載している。要旨は次の通り。

4月に議会により解任されたイムラン・カーンの熱烈な支持者たちは、彼が軍と引き続き対決することによって政権に復帰出来ること、彼が腐敗と失政をなくしてパキスタンを浄化することを希望している。

しかし、カーンの慢心と瀬戸際政策好みはむしろ既に騒然としているパキスタンを混乱に陥れることになりかねない。どちらにせよ、米国とその同盟国は核兵器国であるパキスタンの不安定性に備えるべきである。

最新の発火点となったのはカーン暗殺未遂事件だ。当局は宗教の狂信者を容疑者として直ちに逮捕したと言っているが、カーンは事件の背後にシャリフ首相、サヌラー内相、ISI(軍統合情報局)のナシール(少将)がいると非難している。

カーンの軍高官に対する攻撃は「復讐を示唆するものであり文民・軍関係の主要な違反を意味する」とカーネギー国際平和財団のパキスタンの専門家Aqil Shahは言う。カーンの軍との長年の友好関係および軍がパキスタンの政府で演ずる中心的な役割に照らせば、これは驚くべきことである。

「パキスタンは軍を有する国ではなく国を有する軍である」との旧い格言があるが、今やパキスタンは、かつては軍の傀儡と見られていた一人の政治家によって脅かされている。

カーン銃撃に怒った支持者達はラホールとラワルピンディで交通を遮断し警察と衝突した。ペシャワールでは地域の担当の将軍の防備を施した住居の外に怒った暴徒が集結した。11月10日には、カーンの政党であるパキスタン正義運動は負傷したカーン抜きでイスラマバードに向けて行進を再開した。

パキスタンの軍の行動には国際的に有害な過去の実績が種々ある一方、機能不全の同国における最も機能する組織としての評価を得ている。軍をパキスタンの国としての一体性を保つ接着剤と見做す研究者もある。軍が崩壊すれば、パキスタンも同時に崩壊するかも知れない。

カーンによるあからさまな攻撃の前に、軍に良好なオプションはほとんど残されていない。ISIで国内政治を担当する少将ナシ―ルを解雇あるいは更迭すれば、弱みを見せることになる。

しかし、行動しなければ、パキスタンで最も人気があるとも言い得る政治家との衝突に向かう。どちらにしても、普通のパキスタン人は更なる不安定に直面することとなろう。

*   *   *   *   *   *
今年4月、議会における不信任投票の結果、イムラン・カーンは首相の座を追われたが、彼は米国主導の陰謀の犠牲になったと主張し、静かに消え去るつもりのないことを示唆していた。

以来、彼はシャリフに早期に選挙を行わせ(現行の議会の任期切れは来年8月である)、政権に復帰することを狙い、彼のパキスタン正義運動が議会をボイコットする一方で、街頭に出て現状に怒りを募らせる大衆を糾合してシャリフ政権に圧力をかける示威行動を行って来た。

彼を支持する大衆の抗議の行進はパンジャブ州を通って近くイスラマバードに入り座り込みを行うらしいが、治安当局との衝突が政治的な騒擾を引き起こす可能性もあるであろう。

パキスタンは激しいインフレと対外債務の重圧による経済危機にあるが、それがシャリフと彼の「一味の悪党」の責任とは言い得まい。カーンには国際通貨基金(IMF)による支援パッケージを不用意な補助金の導入で一時中断させた前科がある。

この夏の未曽有の洪水被害にカーンなら巧みに対処し得たとも到底言い得まい。苦難の時に新たな政治危機は不要というべきであろう。

今後の鍵を握る軍とカーンの関係
(中略)カーンは陸軍参謀長カマル・ジャビド・バジュワが11月29日に退任する前に彼から早期の選挙について何等かの言質を取り付けることを狙っているとの説もある。(中略)

軍は政治におけるその役割について、誰であれこれをあけすけに語ることを忌避し禁じて来たが、カーンの言動はこのタブーを破るものである。

カーンは軍を含めエスタブリッシュメント(シャリフ家とブットー家)に対する大衆の反感を煽り、もって抗議運動を終わらせるために軍が彼の政権復帰を助けるよう動くことを狙っているのであろうが、これが大きなリスクを孕んだギャンブルであることは論を俟たないであろう。【12月2日 WEDGE】
********************

上記記事の“(パキスタン国軍は)機能不全の同国における最も機能する組織としての評価を得ている。軍をパキスタンの国としての一体性を保つ接着剤と見做す研究者もある”云々は、いささか言いすぎのようにも。
パキスタン政治がこれまで腐敗と非効率、不毛の抗争に終始してきたのは事実ですが、そうした構図が続いているのも、軍の政治支配があるからです。軍の意向に従う政治家しか認めないという枠組みがあるからです。そこを断ち切らないと、新生パキスタンはないように思えます。

ただ、カーン前首相の陰謀論的・ポピュリスト的大衆行動がそうした軍支配を打破するものなのかは・・・これも疑問です。カーン前首相はデモ隊のイスラマバード入りは見送ったもようですが、緊張関係が続いています。
なお、上記記事で名前が出ている実力者カマル・ジャビド・バジュワ陸軍参謀長は退任しています。

****パキスタン軍トップにムニール氏****
前首相、かく乱試み

パキスタンの陸軍参謀長に3軍統合情報部(ISI)のトップなどを務めたアシム・ムニール氏が就いた。現地メディアが29日、報じた。シャリフ政権への抗議を呼びかけるカーン前首相は今回の人事で、かく乱を試みてきた。

シャリフ首相が24日にムニール氏を陸軍参謀長に指名していた。同国軍は国政に影響力を持ち、イスラム圏で唯一核兵器を保有する。

ムニール氏は軍の情報部門でキャリアを積んだ。サウジアラビアで従軍経験があり、イスラム教の聖典コーランを全文暗唱できることでも知られる。

これまで陸軍参謀長を務めてきたカマル・ジャビド・バジュワ氏は退任演説で、4月に下院で不信任案が可決され失職したカーン氏への批判を展開した。

米国の陰謀で追放されたとするカーン氏の主張を「偽りで誤り」と否定した。「外部の陰謀を軍が黙認するとでも思うのか」とも述べた。

カーン氏は陸軍参謀長の人事に介入する構えも見せてきた。ムニール氏の指名に先立ち「アルビ大統領は私に相談し、法に従って決定を下すだろう」と記者団に語った。

カーン氏は11月初めに銃撃で負傷した後も、政権に下院の解散と総選挙の実施を訴えて首都イスラマバードへ行進を続けた。首都入りは見送ったものの、今後も政治的な緊張が続きそうだ。

現地の政治アナリストは取材に対し、バジュワ氏による批判でカーン氏の求心力が大きく損なわれることはないとの見解を示した。「カーン氏は外国による陰謀という問題について、支持者が自分の言葉だけを信じるように仕向けてきた」と指摘した。【11月30日 日経】
*****************

【財政支援でパキスタンを支える“友好国”中国 反政府勢力の標的にも】
一方、パキスタンは財政的にも“崖っぷち”にありますが、IMFとの協議は難航しているようです。
そのパキスタンを支えるのが“友好国”・・・・下記記事では明示はされていませんが、中国でしょう。

****パキスタン、友好国から30億ドル確保へ IMFの支援に遅れ****
パキスタンは2日、国際通貨基金(IMF)による金融支援の遅れを背景に、友好国から2週間内に30億ドルの融資を確保する見通しであることを明らかにした。

次回の支援に関するIMFの検討は9月から保留されており、パキスタンは海外からの支援を緊急に必要としている。

ダール財務相がジオ・ニュース・テレビに語ったところによると、確保する見込みの30億ドルは、75億ドルに落ち込んだ外貨準備高の引き上げに充てる。

ダール氏は「(IMFの)検討で求められた要件は全て満たしている」と述べ、検討を完了していないIMFが「尋常ではない態度」を取っていると付け加えた。 また、IMFの支援が遅れた場合、別の方法で資金を調達すると明言した。【12月5日 ロイター】
********************

パキスタンは中国の最も親密な友好国のひとつで、中国によるインフラ整備事業「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」は一帯一路の中核をなしています。

****中国、パキスタンと共に両国の経済回廊の建設を強化****
外交部の趙立堅報道官は1日の定例記者会見で、中国とパキスタンが展開しているエネルギー協力について、「エネルギー協力は中国・パキスタン経済回廊協力において最も資金を投入し、最も進展が速く、最も顕著な成果を上げている分野の一つだ」と述べました。

趙報道官は、「今年に入って、中国・パキスタン経済回廊における最初の大型水力発電所投資プロジェクトなどが相次いで商業運転を開始し、パキスタンの貴重な外貨資源の節約につながっている」と述べた上で、「既に建設済みのエネルギープロジェクトは技術の先進性と低コストにより、パキスタンの電力不足問題の抜本的解決を後押しするだけでなく、現地の経済発展と民生改善にも重要な貢献をしている」と述べました。(後略)【12月5日 レコードチャイナ】
******************

そうした密接な関係にあるだけに、パキスタン国内の反政府勢力にとっては中国人労働者は攻撃目標ともなっています。4月には中国人の孔子学院職員が乗るマイクロバスが爆破される事件があり、パキスタン西部バルチスタン州の分離独立を目指す過激派組織、バルチスタン解放軍(BLA)が犯行を認めています。

****襲われる中国人労働者 「一帯一路」のリスク****
中国政府が進める投資戦略が途上国で抵抗に遭っている

今年4月、カラチ大学の中国語教育機関の門の外でマイクロバスを狙った自爆テロが起き、中国人の教員3人とパキスタン人の運転手が死亡した。実行犯は2人の子を持つパキスタン人の女だった。

アジアやアフリカで中国人労働者を狙った攻撃が増えている。4月の事件は投資を通じて影響力の拡大を狙う中国にとって問題が深刻化していることをうかがわせた。

中国は発展途上国への最大の資金供与国で、資金は主に習近平国家主席が主導するインフラ構想「一帯一路」のプログラムを通じて提供されている。西側の大国と一線を画すため、中国は投資先で「善意のパートナー」として自らを印象づけようとしている。

しかし世界進出が進むにつれ、中国は汚職や現地の反発、政情不安、暴力など、力の誇示がもたらした結果への対応を迫られるようになった。

発展途上国にとって中国による投資は主要インフラを迅速に整備するおそらく絶好のチャンスだ。だが西側諸国は中国の融資について、その条件が一方的で、途上国は多額の債務を抱えることになり、期待していた経済的利益も得られるとは限らないと批判している。

一方、中国としても、債務不履行(デフォルト)や現地の政情不安など重大なリスクも抱えている。

(中略)中国人の専門家によると、中国は一帯一路構想を進める上で治安上のリスクをある程度受け入れており、中国の人員と資産に対する脅威を緩和するため、パキスタンで行っているようにパートナー国の政府との協力に力を注いでいる。

(中略)中国が投資する複数の途上国で、中国の企業と労働者が攻撃対象になっている。中国人は大半の現地住民より裕福だとみなされており、中国の投資による経済的利益や雇用機会を取り過ぎていると受け止められているケースもある。

(中略)業界団体の中国対外承包工程商会(CHINCA)によると、中国の請負企業の労働者として働く中国人は昨年末の時点で、中国を除くアジアで約44万人、アフリカでは9万3500人に上った。

米シンクタンクのオクサス協会の集計では、中央アジアでは2018年から2021年半ばまでの間に中国を巡る市民の暴動が約160件発生した。

中国政府は途上国で働く中国人労働者への脅威が高まっていることは認識しているが、内政不干渉を公言しているため自国の軍隊を派遣したがらない、と「China’s Private Army: Protecting the New Silk Road(中国の私兵団:新シルクロードを守る)」の著者、アレッサンドロ・アルドゥイーノ氏は指摘する。その代わりに顔認識などの技術を提供したり、さらに多くの中国の警備会社と契約したりしているという。

中国が発展途上国投資のモデルケースに選んだのがパキスタン――最も親密な友好国の一つで、軍事的に深いつながりがあり、インドを共通のライバルとしている――だ。中国はこれまでにパキスタンの道路や発電所、港に約250億ドル(約3兆4900億円)を投じている。

パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相は今月、4月の就任後初めて中国を訪問し、習主席との会談で両国の連携を約束した。

中国外務省によると、習氏は「戦略的、長期的観点からパキスタンとの関係をとらえており、中国の近隣外交においてパキスタンは常に優先度が高い」と述べる一方で、パキスタン国内の中国人の安全について懸念を表明した。

パキスタン政府関係者によると、パキスタン側は中国人保護のために装甲車両を輸入する用意があり、中国のプロジェクトの警備を強化すると伝えた。

パキスタン政府関係者の話では、4月のテロ事件のあと、中国政府はパキスタン国内に中国の警備会社を派遣しようとしたが、パキスタン側が断ったという。パキスタンは現在、兵士3万人を中国人保護に投入している。(後略)
【11月28日 WSJ】
**********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする