孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「半導体戦争」など厳しさを増す米中対立 そのはざまで翻弄される韓国経済

2022-12-13 23:45:04 | 東アジア
(【12月13日 中央日報】)

【米政権が中国に仕掛ける「半導体戦争」】
アメリカ・バイデン政権は中国を「インド太平洋地域に強力な影響圏を構築して世界屈指の大国となる野望を持っている」と指摘し、「国際秩序をつくり変える意図を持ち、その目標を推進する経済力、外交力、軍事力、技術力を強めている唯一の競争相手」と位置付けています。

そして中国への具体的対応策として、現在、そして今後の産業・軍事の中核要素・戦略的物資である半導体製造技術について、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を10月7日に発表し、「半導体戦争」を仕掛けています。

同盟国・日本もこの流れの渦中にあります。

****半導体装置シェア握る日本の東京エレクトロンとオランダのASML****
特に日本とオランダの協力が不可欠と見られている。半導体チップを別にすれば、半導体装置の世界市場を圧倒するのは米国のアプライド・マテリアルズ、ラム・リサーチ、KLA、日本の東京エレクトロン、オランダのASMLであると言われる。

報道によれば、オランダが日米などとのまとめ役をやっている。今秋には米商務省関係者が訪蘭するという。(中略)米企業も自分達だけが規制されることには不満のようだ。重大業界であり、企業間競争にも直接関係するので、調整の困難は想像に難くない。話合いの状況につき関係者の発言も非常に限られている。

既に関係企業も対応に動いている。台湾のTMSC・ソニーなどによる大規模工場建設が熊本で急ピッチに進んでいる。

11月15日、オランダのASMLは韓国華城に技術拠点を設けると発表した。先月中国での半導体製造工場による米技術の使用規制につき1年の例外認可を得たサムスンやハイニックスも、1年の猶予後の中国工場売却という不測事態をも検討せざるを得なくなっているとも報道されている。【12月6日 WEDGE】
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バイデン政権は半導体の自国調達を加速させ、アメリカ国内での再三拡大と投資を促しています。

****米バイデン政権 半導体の自国調達加速へ…安全保障上の懸念解消へ一歩****
米バイデン大統領は6日、西部アリゾナ州を訪問し、台湾の半導体生産大手TSMCの新工場の建設地を視察した。
バイデン氏は演説で「米の製造業が復活した」と述べ、新工場の稼働に期待を寄せた。

同社の2つの工場をあわせた投資計画は400億ドル=日本円で約5兆5000億円と米国史上最大規模となる。

半導体を巡っては新型コロナの感染拡大に伴い米国内でもサプライチェーンが麻痺し、供給不足が深刻化した。
さらに中国が軍事的圧力を強める中、台湾有事も想定し、安全保障上の懸念も高まっている。

このため、バイデン政権は半導体の国産化を促す法律を作るなど米国内での生産拡大と投資を促してきた。

アリゾナ州に進出する新たなの工場では、2026年までに3ナノ(1ナノ=100万分の1ミリ)呼ばれる、世界最先端となる半導体が生産される計画だ。【12月7日 FNNプライムオンライン】
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ただ、半導体に関する急速な米中デカプリングは、「半導体戦争」を仕掛けるアメリカの産業界にとっても大きな痛みを伴います。

****中国製半導体使用巡る米上院の新規制法案、企業団体反発で内容後退****
米議会上院は、米政府とその取引企業による中国製半導体の使用を巡って打ち出した新たな規制法案の内容を後退させている。ロイターが直近の修正案を確認して分かった。背景には、米商工会議所をはじめとする国内企業団体からの反発があるようだ。

上院民主党トップのシューマー院内総務と、共和党の対中強硬派として知られるコーニン上院議員は9月、政府機関と取引企業が中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江メモリ(YMTC)などの製品を使うことを禁じる法案を提出。

しかし米国の複数の業界団体は先月の書簡で、対応にはコストがかかる上に米企業側はさまざまな電子製品の中にSMIC製品が含まれているかどうか判別するのは難しいと不満を訴えていた。【12月7日 ロイター】
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一方、中国も半導体の国産化を進めることで応戦の構えです。

****習近平が推し進める半導体の国産化、自給率を1桁から7割超へ****
<アメリカの制裁で打撃を受けた中国メーカーが政府の強力な後押しを受けて巻き返しを図る>

中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が、技術的に大きな躍進を遂げた。カナダの技術情報メディア「テックインサイツ」によると、SMICは回路線幅が7ナノ以下の半導体の製造工程を確立したらしい。しかもこの技術が使われた半導体製品は、1年ほど前から出荷されていたという。

これはアメリカの制裁が甘すぎかつ遅すぎ、そして時代遅れである証拠だと、一部メディアは断じている。(後略)【12月2日 Newsweek】
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更に、中国はアメリカを「国際貿易を妨害している」とWTOに提訴。

****中国、米国をWTO提訴=半導体規制「国際貿易を妨害」****
中国商務省は12日、バイデン米政権が発動した半導体の対中輸出規制は不当だとして、米国を世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表した。米中ハイテク競争の主戦場である半導体分野の対立は長期化する様相だ。

商務省は提訴の理由について「米国は輸出管理措置を乱用することで、半導体などの正常な国際貿易を妨害し、世界的な産業サプライチェーン(供給網)の安定を脅かしている」と説明した。

11月の米中首脳会談を受け、両国は衝突回避に向けて緊張緩和を探る一方、バイデン米政権は10月から、軍事開発に欠かせないスーパーコンピューターに使われる先端半導体と半導体製造装置の対中輸出規制を大幅に強化している。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報英語版はWTO提訴に関して「中国の正当な利益を守るために必要な方法だ」と強調した。【12月13日 時事】 
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確かに半導体だけについて見れば、中国の言うとおりでしょう。ただ、そうした事態になった大枠を総合的に見ると・・・・といったところでしょう。

【米中対立のはざまで苦慮する米同盟国 特に深刻な韓国の事情】
また、アメリカが日本など同盟国を“脅している”とも。

****中国半導体の封じ込め戦争、米国は「最も言うことを聞く」日本をロックオンして脅し―中国メディア****
2022年12月11日、中国のポータルサイト・百度(バイドゥ)に、同盟諸国が自国の利益を鑑み対中半導体規制を渋る中、米国が「最も言うことを聞く日本」にロックオンして脅しをかけているとする文章が掲載された。

文章は、レモンド米商務長官が先日、日本の西村康稔経産相と電話会談を行い「対中戦略を共有する同盟国として、積極的な呼応を望む」と発言したことについて、多くの関係者が「日本の半導体製造設備輸出を制限して、中国の先端半導体開発を遅らせろという趣旨だ」との見解を示していると紹介した。

そして、日本は政治上、防衛上米国との協力関係を深め続けている一方で、経済、貿易分野では中国との緊密な関係を維持しており、特に半導体輸出分野では米国主導の「半導体同盟」加入に慎重な態度を示していると指摘。レモンド長官が日本政府に今回直接的な要望を出したことは「日本に対するあからさまな脅迫である」と主張している。

一方、自らの力だけでは中国押さえつけられないと認識している米国は世界の盟友やパートナーを巻き込んで中国の科学技術発展を阻害しようとしており、中国とのデカップリングの「言い出しっぺ」であるにもかかわらず、今年1〜10月における米中両国間の貿易額が過去最高を記録するなど、「米国自身、中国経済から逸脱することができない」という大きな矛盾を抱えていると論じた。

また、大きな矛盾を抱えている米国が同盟国をそそのかして中国との「科学技術戦争」をあおり立てているのは、米国企業に世界の半導体市場を独占するチャンスを与えるためであり、それゆえ韓国やオランダをはじめとする多くの盟友が慎重な姿勢を見せているのだと指摘。その中で米国は「最も言うことを聞く日本」に照準を定め、反中の最先鋒となることに期待をかけているのだとした。

文章は、中国が日本の半導体製品にとって主要な市場であるとともに、日本の工業原材料の主な供給先であるとした上で、「わが国は関係各国が自らの長期的な利益の観点から、独立した自主的な判断を下すことを望む」という中国政府による忠告の意味を岸田文雄首相が理解せず、ひたすら米国に追従するようであれば、それは日本の半導体業界の没落を意味するのだと結んでいる。【12月13日 レコードチャイナ】
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“「米国自身、中国経済から逸脱することができない」という大きな矛盾を抱えている”・・・・これも中国の指摘のとおりでしょう。「半導体戦争」といったアメリカの対中国戦略がどこまで奏功するかの基本的なところに関わってきます。

「最も言うことを聞く」日本・・・・これまた、中国の言うとおり。ただ、日本は戦後一貫してアメリカとの付き合いでは苦労していますので「最も言うことを聞く」と揶揄されても「そうだよね・・・」ぐらいにしか感じませんが。

米中の対立のはざまで日本以上に翻弄されているのが韓国。

****韓国経済に赤信号、盟友はそれに乗じて利益―中国専門家****
中国メディアの環球時報は12日、「韓国経済に赤信号がともったが盟友はそれに乗じて利益を得ている」とする文章を掲載した。執筆者は吉林大学行政学院国際政治学科主任の郭鋭(グオ・ルイ)氏ら2人。

文章は、輸出への依存度が高い韓国の貿易収支が8カ月連続の赤字になったと述べ、これだけの長さは25年ぶりだと説明。

ロシア・ウクライナ紛争による国際コモディティ価格の不安定化、主要国の金融引き締め政策、新型コロナウイルスによる産業チェーン・サプライチェーンの中断や再編など多重の影響を受けたとし、「韓国経済に赤信号がともったが韓国経済が苦戦している時に盟友の米国は『火事場泥棒』を行っている。

『インフレ抑制法』『CHIPS法』など自国の戦略産業を支援し、韓国の製造業に打撃を与える米国のやり方に韓国は何度も意見を表明している」と指摘した。

文章によると、韓国関税庁は11月21日、同月1〜20日までの輸出額は前年同期比16.7%減、輸入は5.5%減で、貿易収支は44億2000万ドル(約6050億円)の赤字とのデータを公表した。

米国への輸出は11%増えたものの対中輸出は28.3%減り、うち半導体は29.4%の減少となった。2021年の韓国の半導体輸出は輸出全体の約39.7%に当たる1287億ドル(約17兆6000億円)で、中国向けは59.7%を占めたという。

文章は「現在、韓国の半導体産業が直面している最大の問題は市場の需給問題ではなく、サプライチェーンに対する外部の不当な政治的妨害、破壊だ」と言及。

米国は自国の半導体産業振興、世界シェア奪還のため中国に向けて「高い壁」を築き、「デカップリング」を強力に推し進め、韓国は米国から「反中テクノロジー連盟」を構築する側だとみなされていると指摘し、米国が10月に発表した対中半導体輸出規制が韓国企業に巨大な損失を生むとの見方を示した。

また、半導体の国内生産を支援する「CHIPS法」により、韓国を含む一部の国・地域の企業は相次いで米国に工場を設け、韓国では国内の製造業の空洞化を懸念する声が上がったとも伝えた。【12月13日 レコードチャイナ】
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****韓国の貿易赤字が過去最大の500億ドルに?14年ぶり赤字は確実=ネット「滅びるのは一瞬」****
(中略)今年(今月10日まで)の累積貿易赤字は474億6400万ドルで、年間基準で過去最大となっている。昨年同期は272億3800万ドルの黒字だった。今年の貿易収支は、金融危機だった2008年(132億6700万ドル)以来14年ぶりに赤字を記録するとみられている。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「半導体と自動車の輸出で生計を立てている国が、ペロシ議長を無下に扱ったために米国からインフレ抑制法(IRA)で裏切られ、最大貿易国の中国にもそっぽを向かれた。その結果が最悪の輸出不振。国が滅びるのは一瞬だ」(中略)など、不安の声や現政権への批判の声が殺到している。【12月13日 レコードチャイナ】
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韓国の半導体輸出は輸出全体の約39.7%、中国向けは59.7%・・・ということは、中国向け半導体輸出が輸出全体のほぼ4分の1ということでしょうか。そこがストップしたら大変な話です。

“米国からインフレ抑制法(IRA)で裏切られ”・・・“米国で2022年8月16日に成立したインフレ抑制法(The Inflation Reduction Act)と称する歳出・歳入法が、韓国の電気自動車(EV)とバッテリー業界に衝撃を与えている。同法は北米で組み立てられた車両のみに対して補助金を出す方針だ。韓国で車両を生産する韓国Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)や韓国Kia Motors(起亜自動車)などは対象外となり、米国での販売が不利になるからだ。米国での生産を拡大するなど、各社は対応を迫られる。”【10月19日 日経XTECH】

アメリカで成立したインフレ抑制法は予算3690億ドル(約54兆円)にのぼる過去最大規模の気候変動対策に関する法律ですが、気候変動対策の一環としてのEVを購入するための実質的な補助金に関して「メイドインアメリカ条項」が組み込まれました。

車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ)で行われていることや、電池用部品の50%(2029年に100%まで段階的に引き上げられる予定)が北米で製造されていることなどが規定されています。

当然、日本製EVにもかかってきますが、そもそも日本のEV輸出はあまり大きくなにので、影響も・・・といったところでしょうか。

アメリカは韓国からの反対を振り切る形で見切り発車しています。

****米政府「インフレ抑制法、現行どおり施行」 韓国政府は協議続行****
北米以外で組み立てられたEV=電気自動車を税額控除の対象から除外することを盛り込んだアメリカの「インフレ抑制法」をめぐって、アメリカ財務省のイエレン長官は、現行の内容どおりに施行することを明らかにしました。

アメリカの通信社「ブルームバーグ」によりますと、イエレン長官は24日(現地時間)、韓国やヨーロッパ側の懸念は十分理解し、考慮するとしながらも、現行の内容どおりに法律を施行するしかないと語りました。

このアメリカ側の発言を受けて、外交部の報道官は、「関連業界とコミュニケーションをとりながら、韓国側の意見を提出できるように準備している」と明らかにしました。

報道官はまた、「政府は今後も、アメリカがインフレ抑制法の施行のための細かい規定を設けていく過程で、韓国側の利益が最大限反映されるよう、アメリカの関係省庁や議会などと引き続き協議を行っていく」と付け加えました。【10月26日 KBS】
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韓国に情け容赦ないことでは、中国はアメリカ以上に熾烈です。

****限韓令の本格的な解除か、中国で「韓ドラ」が相次いで放送****
中国のオンライン動画サービス(OTT)プラットフォームで、韓国ドラマの放送が相次いでいる。中国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を理由に韓国に加えた経済報復措置である「限韓令(韓流禁止令)」が、徐々に解除され始めたのではないかという観測も出ている。

中国アリババグループのOTT「ヨウク」は、12日から韓国ドラマ「二十五、二十一」を放送すると明らかにした。キム・テリ、ナム・ジュヒョクが主演したこの作品は、韓国で今年2~4月に放送された。8日、中国のまた別のOTT「ビリビリ」でも、2020年に韓国で放送された「賢い医師生活」のシーズン1が放送を始めた。

中国OTTで韓国ドラマが放送されたのは、5月の「バッド・アンド・クレイジー」以降、約7ヶ月ぶりのことだ(中略)【12月12日 東亜日報】
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中国では今年1月、「サイムダン、光の日記」を皮切りに、ドラマ13本がOTTを通じて放送され、「限韓令」解除が始まったとも言われていました。

2016年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を理由に韓国に加えた経済報復措置である「限韓令(韓流禁止令)」(韓流文化の規制措置)が未だに尾を引いていたこと自体が驚きです。

中国のこうした対応は法令なり命令が公にされているわけではないので、抗議しても「そんなことしていない」で一蹴されます。

中国は、影響力の大きい日本への対応はでは一定に抑制されていますが、「属国」とでも考えているのか韓国への対応は熾烈です。日本では「韓国は絶えず中国の顔色ばかりうかがっている」との批判がありますが、韓国が中国を意識するのも故あっての話です。

厳しさを増す米中対立で日本のかじ取りも難しいものがありますが、韓国は日本以上かも。
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