孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

物価上昇で相次ぐストライキ 英国では看護師が 米は政権が介入 韓国では労組対政権の全面対決

2022-12-08 22:40:42 | 民主主義・社会問題
(【12月2日 BBC】 イギリスにおける国民の職種別ストライキ支持率 労働争議を全般的に支持する人は60%、反対する人は33%でした。 看護師・教師が上位にランクされているあたり、日本とは全く異なります。)

【イギリス 70年以上の歴史を持つ国営医療制度史上で最大規模の看護師スト 国民の多くはストを支持】
物価上昇に賃金が追いつかず生活は苦しくなるばかり・・・というのは日本だけでなく程度の差はあれ世界共通の現象です。そうした状況で多発するのは労働者のストライキ。

****看護師、最大規模のストへ―高インフレで賃上げ要求****
記録的な物価高に見舞われている英国で、来月のクリスマス直前に看護師らが全国的なストライキを実施することが決まった。労組が25日発表した。高インフレを受けた賃上げを求めており、設立から70年以上の歴史を持つ国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」史上で最大規模の看護師ストになるとされる。

ストは12月15日と20日に予定され、救急医療や生命に関わる治療以外はほぼ停止される見込み。新型コロナウイルス感染拡大による治療の遅れやインフルエンザの流行ですでに圧迫されている医療体制に、大きな影響が出る可能性がある。 

英国民は物価高や光熱費高騰への不満を募らせており、最近は鉄道やバスのほか、郵便局員や教員らによるストが頻発。ただ、国や企業側もインフレ対応の賃上げには応じづらく、解決が困難な中、英国は「ストの冬」(英メディア)に突入しようとしている。【11月27日 英国ニュースダイジェスト】
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日本では1975年(昭和50年)、ストライキ権を禁止されている公共企業体の労働者の労働組合「公労協」がスト権を求めて行ったいわゆる「スト権スト」が実施され、国鉄労働者「国労」が1週間ほど首都圏電車を止めるなどの大規模闘争を行ったものの、結果的には要求は認められず敗北。

その後国鉄は解体、労組の春闘も毎年「敗北」を続けるなど労働運動は下火となっていきます。組合の組織率も右肩下がり。(こうした労働組合の弱体化が現在の賃金が上がらない日本経済のひとつの要因ともなっています)

それまでの度重なる順法闘争に加え、スト権ストで利用客や物流・経済に大きな打撃を与えるストライキ行為そのものに対する国民の否定的なイメージが強まったこともあって、このスト権スト以降、労働組合の活動、特にストライキは社会的に実施が難しいような社会的雰囲気が生まれています。日本社会には良くも悪くも「他人に迷惑をかけない」ということを是とする文化が根強くありますので。

そうした現在の日本の雰囲気からすると、患者の生命にかかわる看護師の大規模ストライキはおそらく馴染めない国民が多いのではないでしょうか。

しかし、イギリスでは権利要求のためのストライキ、とりわけ看護師のストライキは広く国民から支持されているようです。

****イギリスでなぜストが増えているのか 交通や医療、学校・大学でも****
イギリスでは今年、さまざまな分野でストが相次ぎ、市民生活に影響が出ている。
物価高騰に伴う生活費上昇を乗り切るため、何万人もの労働者が給与での支援を求めている。公共交通機関や郵便局のストなどが相次ぎ、学校も教職員のストによる閉鎖が多発している。作業員のストのため、ごみの回収は遅れ、法廷弁護士のストのために裁判所の業務も滞っている。
来年になってもストは起きる見通しで、医療従事者や公務員による労使協議が続いている。

なぜストが続いているのか
さまざまな分野で労働条件、年金や賃金をめぐる労使紛争が起きている。
加えて物価は、年率11%増で上昇している。これは、過去40年で最速のペースだ。つまり、労働者にとっては賃金上昇分よりも物価が上昇しているため、家計が圧迫されていることになる。(中略)

働く者が労働条件の改善などを求めて仕事をしないのがストライキだが、そこまで極端な対応ではなくても、たとえば残業を拒否するなど、ほかの形で雇用主に圧力をかける方法もある。

最低限の基本業務は維持する職種もある。医師や看護師が完全に働くのをやめることはない。人命にかかわるからだ。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、労働争議は増え続けている。国家統計局(ONS)によると、イギリスで労働争議で失われる時間を日数換算した合計は、2019年の月間平均で1万9500日分だったのに対して、2022年7月は8万7600日分に増えていた。

ストをしているのは
特に注目を集めているストライキは次の通り――。
イングランド、ウェールズ、北アイルランドで12月15日と同20日に、看護師の大規模なストライキが予定されている。国民保健サービス(NHS)が誕生して以来、最大規模のストになる見通し。イギリス看護協会(RCN)は、政府との賃金交渉の難航をスト実施の理由に挙げている。救急救命担当の看護師は勤務を続けるという

イングランドの救急サービスの半数で、救急隊員や緊急電話の応答係などが、昇給を求めてストライキを決行することで合意した。多くの当事者を代表する労組の一つは、ストはクリスマス前に予定されていると話すが、組合員の多くがストに賛成しなかったことや、救急医療を保証する規則から、実際の影響は限定的なものになる可能性もある

イギリスでは今年6月以来、鉄道ストが相次いでいる。3つの主要鉄道労組は1日限定のストを繰り返しており、鉄道網の一部はほとんど休止状態になっている。クリスマスに向けてさらにスト予定日が発表されており、今後半年は、交通の混乱は続く見通し

郵便業務を担当するロイヤル・メールの労働者は8月から計8回にわたりストを刊行しており、クリスマス前には12月24日を含めて、数日にわたり抗議行動を予定している。

11月24日、25日、30日には、150の大学など高等教育機関の教職員7万人以上が賃上げを要求してストを決行した(中略)

国民はストを支持しているのか
相次ぐストライキを国民が支持しているのか、複数の世論調査が実施されている。
調査会社サヴァンタ・コムレズが10月末に行った調査では、労働争議を全般的に支持する人は60%、反対する人は33%だった。

賃金や労働条件をめぐるストライキについては、分野によって反応は異なった。最も支持されたのは、看護師や教師によるストだった。(冒頭グラフ参照)

夏に調査会社イプソスとオピニウムが鉄道ストライキについてそれぞれ行った世論調査では、賛成と反対がほぼ同数だった。(後略)【12月2日 BBC】)
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【アメリカ バイデン政権は鉄道労働者ストライキの阻止を議会に求める】
当然に労働者側の立場、雇用者・企業側の立場がそれぞれありますが、国民生活・経済に多大なダメージをもたらすストライキに関しては国家・政府としても介入せざるを得ないという立場もあります。

アメリカ・バイデン政権は、経済に壊滅的な打撃を与えかねない鉄道労働者のストライキを阻止する方向で動いています。

****米大統領、鉄道スト回避へ議会に介入要請、経済への打撃を警告****
バイデン米大統領は28日、鉄道輸送サービスが停止すれば経済に壊滅的な影響が及ぶとして、ストライキを回避するために議会に介入するよう要請した。

米鉄道労働者は12月9日にもスト入りする可能性がある。

バイデン氏は全国的な鉄道サービスの停止を避けるために、9月に発表された暫定労使協定案を修正・遅延なく採択するよう議会に求めた。ストに突入すれば最初の2週間だけで最大76万5000人が職を失う恐れがあると警告した。

ペロシ下院議長は「経済を停止させる壊滅的な全国的鉄道ストを防ぐために」今週中に法案を提出すると表明した。

鉄道輸送が止まれば重量ベースで国内の貨物輸送の約30%がストップし、1日当たり最大で20億ドルの損失が発生する可能性がある。

バイデン氏は「鉄道の停止は経済に壊滅的な打撃を与える。貨物鉄道がなければ米産業の多くが閉鎖される」と指摘。「(議会は)政治と党派の対立を脇に置いて国民のために責務を果たすべきだ。この法案を12月9日よりかなり前に可決し、混乱を避けられるようにすべきだ」と訴えた。【11月29日 ロイター】
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****米上院が鉄道スト阻止法案可決、バイデン大統領の署名で成立へ****
米議会上院は1日、経済に壊滅的な打撃を与えかねない鉄道労働者のストライキを阻止する法案を賛成80、反対15で可決した。下院では前日に同じくスト回避のための法案が承認されており、バイデン大統領が署名すれば成立する。

上院が可決したのは、11万5000人の労働者を代表する労組と経営側が9月に合意した暫定的な労働協約を強制的に適用させる法案。下院案に盛り込まれた7日の有給休暇を認める内容は含まれなかった。

議会は今回、輸送部門のストに関してのみ有している包括的な阻止権限を行使した。年末商戦期に鉄道が止まれば、経済に深刻な影響を及ぼすとみられたからだ。

12月9日から始まる予定だったストが実行されれば、重量ベースで米国全体のほぼ3割の貨物の輸送が滞る恐れがあった。【12月2日 ロイター】
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従来は民主党は労組が支持勢力のひとつでしたが、そのあたりの事情は変化しているのでしょうか。

【韓国 伊政権は韓国史上初めてスト労働者への職場復帰命令 全面対決の様相】
一方、バイデン政権同様にストライキ阻止を求めて労組と政権の全面対決状態にあるのがお隣韓国。尹錫悦政権はスト中の運輸労働者に職場復帰命令を出した韓国史上初めての政権となりました。

****韓国物流スト、政府がセメント業界トラック運転手に職場復帰命令****
トラック運転手による全国的なストライキが行われている韓国で29日、政府がセメント業界のトラック運転手に職場復帰を命じた。全国の建設現場で建築資材が不足する中、スト対抗法を発動する異例の措置に出た。

最低賃金を巡るトラック運転手のストは半年足らずで2回目となっており、1日当たり推計3000億ウォン(2億2400万ドル)の損失が生じている。

業界団体によると、セメント産業は28日時点で推計約640億ウォン(4781万ドル)の累積損失が出ている。また、同日の出荷量は約2万2000トンだったが、これは9月から12月初旬のピークシーズンに必要な通常の1日当たり出荷量の約10%という。

尹錫悦政権は、スト中の運輸労働者に職場復帰命令を出した韓国史上初めての政権となる。

労働者がこの命令に従わない場合、免許の取り消しや3年の刑期、3000万ウォン(2万2550ドル)以下の罰金といった処罰を受ける。

ストを主催する労組CTSUは業務開始命令について、「非民主的かつ反憲法的」と指摘し、政府が対話に応じようとしない証拠と訴えた。28日夜に出した声明文で、政府の弾圧に屈せず、29日に全国で16の集会を開催するとした。【11月29日 ロイター】
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****韓国大統領室 労組の相次ぐストに「妥協しない」****
韓国大統領秘書室の金恩慧(キム・ウンヘ)広報首席秘書官は30日の会見で、労働組合の全国組織、全国民主労働組合総連盟(民主労総)の公共運輸労組貨物連帯本部やソウルの地下鉄を運営するソウル交通公社の労組がストライキを行っていることについて、「労働者の正当な権利は保障するが、違法(行為)はあってはならない」として、「低賃金労働者の仕事を奪うストには断固として対応する」と強調した。

貨物連帯は期限付きで導入された「安全運賃制」の恒久化などを求め、24日からストを実施している。ストにより物流が停滞していることから、政府は29日、セメント業界の運送拒否者に対する業務開始命令を出した。金氏は「命令を拒否した運送従事者に命令書が発送されている」とし、「政府は(安全運賃制の廃止など)さまざまなオプションを検討している」と強硬な姿勢を示した。

ソウル交通公社労組のストに関しては、「12月2日には全国鉄道労組がストを行う予定」とし、「地下鉄と鉄道を利用する国民に大きな不便が生じることが予想され、心が重い」と言及。「政府は労使の法治主義を確立する過程にある」とし、法と原則に反する妥協はしないとの考えを改めて強調した。【11月30日 聯合ニュース】
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市民生活には大きな影響が出ています。

****トラック運転手らストで市民生活に影響 ガソリン「品切れ」給油所も 韓国****
(中略)韓国では先週からトラック運転手らの全国規模のストライキが始まり、7日目の30日になっても収拾の見通しは立っていません。中にはガソリンがなくなる給油所も出ています。(中略)

特に深刻なのはセメントの供給不足で、建設現場のおよそ50%で工事が中断しているということです。こうした事態を受けて、韓国政府は29日、セメントの輸送に関わる人員に対し、罰則付きの業務開始命令を出しました。この命令が運送業者に対して下されるのは初めての事態です。

一方、ソウルの地下鉄を運営する交通公社も労使交渉が決裂し、30日からストライキに入っています。運行は最大で7割程度まで落ち込む見通しで、運輸業界の労使対立で市民生活に影響が出ています。【11月30日 日テレNEWS】
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政権は軍の人員・装備も投入して影響を小さくしようとしています。

****韓国軍 スト現場に人員・装備投入=物流への影響最小限に****
韓国国防部のムン・ホンシク副報道官は1日の定例会見で、貨物・鉄道ストライキによる物流への影響を最小限に抑えるため、軍が災難(災害)対策本部を設けて人員と装備を投入していると発表した。(後略)【12月1日 聯合ニュース】
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尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は一歩も引かない姿勢。保守系伊大統領の面目躍如という感も。

****尹大統領「物流ストは北の核脅威と同じ」****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がトラック運転手らによる全国規模のストライキについて、「北の核脅威と同じ」と発言したことが5日までに分かった。

複数の大統領室関係者によると、尹大統領は大統領室関係者らとの非公開会議で「核は許さないとの原則に基づき対北政策を推進したなら、今のように北の核脅威にさらされることはなかったはず」と指摘。スト参加者らによる違法行為と暴力に屈すれば悪循環が続くため、労働組合が組合員の業務復帰を妨害したり、威嚇したりする行為を厳しく処分すべきと重ねて強調したという。

北朝鮮の核脅威から国民の安全と財産を守るように、「違法スト」から国家経済と国民の生活を守るとの認識を示したものと受け止められる。

労働組合の全国組織、全国民主労働組合総連盟(民主労総)の公共運輸労組貨物連帯本部は期限付きで導入された「安全運賃制」の恒久化などを求め、先月24日午前0時から無期限のゼネストに突入した。政府は運送従事者に対し業務開始命令を出すなどして、現場への復帰を促しているが、貨物連帯はこれに応じておらず、産業界への影響が拡大している。【12月5日 聯合ニュース】
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こうした強気姿勢が保守・中道層国民に評価されたのか、低迷していた支持率はやや改善。

****尹大統領の支持率38.9%に上昇 保守・中道層が後押し****
韓国世論調査会社のリアルメーターが5日に発表した調査結果によると、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の支持率は38.9%で、前週から2.5ポイント上昇した。不支持率は1.9ポイント下落の58.9%だった。

尹大統領の支持率は2週連続で上がった。支持率は7月第1週に初めて40%を割り込んで以降、30%台前半に低迷していたが、今回の調査で約5カ月ぶりに30%台後半となった。不支持率は7月第1週以来、約5カ月ぶりに60%を下回った。(中略)

リアルメーターはトラック運転手らによる全国規模のストライキへの原則的な対応、尹大統領の出勤時のぶら下がり取材中断により不要な論争がなくなったことなどが支持率上昇につながったと分析。特に、尹大統領がストを実施しているトラック運転手らに「業務開始命令」を出すなど、原則に基づいて対応したことが支持率上昇の要因となったと分析した。(後略)【12月5日 聯合ニュース】
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政府は、2週間続いているトラック運転手らの全国規模のストライキによる主要産業分野の損失額を計3兆5000億ウォン(約3630億円)と試算しています。【12月7日 聯合ニュースより】

伊政権側は職場復帰命令を鉄鋼・石油化学業界にも拡大させています。

****韓国、トラック運転手の職場復帰命令拡大 鉄鋼・石油化学業界に****
韓国政府は8日、トラック運転手のストライキが長期化する中、職場復帰命令を鉄鋼・石油化学業界に拡大させた。韓悳洙首相が閣僚会議の冒頭で指示した。

政府は先週、セメント業界のドライバー2500人に対し、韓国史上初の「業務開始」命令を発動した。(後略)【12月8日 ロイター】
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韓国では革新系・文前政権と保守系・伊政権の激しい対立がありますので、今回の労組対政府の対決もそうした対立構造が背景にあります。

また、韓国労組に対しては、保守系からは「労働貴族」「過激労組」といった批判がかねてよりあります。政権側の強気姿勢もそうした組合批判を意識・反映したものでしょう。

“韓国経済を凋落させた「過激労組」驚きの傲慢ぶり、元駐韓大使が解説”【6月16日 武藤正敏:元・在韓国特命全権大使 DIAMONDonline】
上記は、革新勢力を支持基盤とする文前政権に批判的な武藤氏の個人的見解です。

今回の労組対伊政権のガチンコ勝負の行方は、今後の伊政権の求心力に大きく影響しそうです。勝敗を決めるのはストライキに対する国民の評価でしょう。 日本の「スト権スト」の経験からすると、長引くほどに政権側に有利になるようにも。よほどの国民支持がなければ勝負に出た国家権力には勝てません。
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