孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ難民  難民船の遭難は最悪の状況 多くの国は支援要請に応じていない

2022-12-28 23:20:40 | 難民・移民
(インドネシア・アチェ州の保護施設で点滴を受けるロヒンギャ難民(2022年12月26日撮影)。【翻訳編集】 AFPBB News(AFP=時事)【12月27日 AFP】)

【スー・チーの民主政権、現在の軍事政権と政府は変わっても少数民族への差別、弾圧、攻撃は変わらず続いている】
ミャンマー西部のラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャは、ミャンマー国軍の殺戮、レイプ、放火などの民族浄化的な暴力によって住む土地を追われ、隣国バングラデシュに難民として避難、その数は100万人とも。
今もラカイン州では国軍の圧力にさらされており、難民となる者は止まっていません。

一方、バングラデシュにおいても歓迎されざる客であり、難民キャンプは不衛生で、教育の機会もなく、ギャングなどが跋扈する状況にあります。

“八方ふさがり”の状況にもあるロヒンギャ難民は、キャンプから更に小舟で命がけの脱出をはかる事例が続いています。

そうしたロヒンギャ難民の状況は、9月21日ブログ“ミャンマーで弾圧を受けるロヒンギャの現状 ミャンマー国内では民主派・国軍戦闘で市民に犠牲も”でも取り上げたところです。

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****
<ミャンマーのクーデター、ウクライナ戦争の影で、ロヒンギャは今も流浪を続けて──>

(中略)
歴史的に差別を受けるロヒンギャ族
ロヒンギャ族はミャンマー西部のラカイン州に多く居住するが、仏教徒が多数派のミャンマーでイスラム教徒が多いロヒンギャ族は常に差別、迫害、人権侵害の対象だった。

それはアウン・サン・スー・チーの民主政権の時代も変わらず、政府はロヒンギャ族をそもそもバングラデシュからの違法移民だとしてロヒンギャという名称を避け「ベンガル人」を意味する「ベンガリ」と呼び、ミャンマー国籍も与えず、移動の自由も制限してきた。

2016年10月にラカイン州で武装勢力が警察署を襲撃、警察官9人が殺害される事件が起きた。ミャンマー軍は反撃して実行犯とされるロヒンギャ族8人を殺害するとともにロヒンギャ族の過激派組織が関与していたとして過激派掃討の名目でロヒンギャ族への攻撃を激化させた。

戦火を逃れるためロヒンギャ族の住民は国境を越えて隣国バングラデシュに避難を本格化させ、約70万人がバングラデシュ国内のコックスバザール周辺に点在する難民キャンプに収容された。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「ミャンマー国内でロヒンギャ族に対するジェノサイド(民族浄化)が行われている可能性がある」として国際的調査団の派遣を求めたが、スー・チー最高顧問兼外相は「民族浄化が行われているとは思わない」「ロヒンギャ族難民がミャンマーに戻ってくるなら危害を加えられることはない」として調査団の入国を拒否した。

しかしミャンマー軍の弾圧に苦しんだ経験や国籍が保障されないことなどからミャンマーへ帰還するロヒンギャ族難民はほとんどいなかった。

2017年8月にはバングラデシュとの国境に近いミャンマー治安組織の駐在所20カ所以上が襲撃され12人が死亡する事件が発生。ロヒンギャ族武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」が犯行声明をだした。

以後政府軍とARSAによる戦闘が激化する一方で、ロヒンギャ族難民は増加。バングラデシュに逃れた難民は約100万人に達する事態になった。

そして2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍によるクーデターでスー・チー率いる民主政府は転覆され、スー・チーら政府関係者は軍政によって逮捕、裁判の被告人として現在まで囚われの身となっている。

しかし、民主政権から軍政に変わってもロヒンギャ族そしてARSAへの弾圧や攻撃は継続され、ロヒンギャ族の厳しい立場は続いている。

さらに同じラカイン州で仏教徒が主体の少数民族ラカイン族の武装組織である「アラカン軍(AA)」も民主政府時代からの武装闘争を現在の軍政との間でも繰り広げている。

このようにスー・チーの民主政権、現在の軍事政権と政府は変わってもARSAやAAなど少数民族への差別、弾圧、攻撃は変わらず続いていることもミャンマーの治安悪化を招く要因となっている。(後略)【12月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【ロヒンギャ難民船の遭難、2013/14年以降で最悪 漂着できても海に追い返されることも多い】
当然のごとく、粗末な船での脱出は遭難の危険が伴います。
しかも、そうした遭難で死亡する者が今年はこれまでで最悪となっています。

****ロヒンギャ難民船の遭難、2013/14年以降で最悪=UNHCR***
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のババー・バロチ報道官は、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの難民を乗せたボートの遭難やボート上での難民の死亡が今年、2013/14年以降で最悪になっていると述べた。180人を乗せた難民船が行方不明となっている問題を受けた発言。

UNHCRは、この難民船に乗っていた180人全員が死亡したとみられると発表した。

UNHCRによると、11月末にバングラデシュとみられる沿岸を出航したこの難民船は、12月上旬に船体に亀裂が生じ、その後に行方不明となった。

バロチ氏は、今年に入り既に200人近いロヒンギャが海上で死亡もしくは行方不明となっていると話した。

アンダマン海とベンガル湾では2013年に900人、14年には700人のロヒンギャが死亡もしくは行方不明となっていた。【12月27日 ロイター】
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「命がけの脱出」の結果、難民船が運よくたどり着けたとしても、ロヒンギャ難民の粗末な船はマレーシアやインドネシアに漂着するケースが多く、両国では一応人道的見地や国連の要請に基づき難民を保護していますが、上陸後も収容施設で「軟禁」や「隔離」が続くなど厳しい状況が続いています。

「上陸」が許されず、海に追い返される事例も多々。

****さらなるロヒンギャ族難民船が漂着****
(中略)12月25日、インドネシア・スマトラ島最北部にあるアチェ州ラドング村の海岸沖を1隻の木造船が漂流しているのを同村の漁民が発見し、海岸に手繰り寄せて乗っていた男性ばかり57人を救出した。

(中略)今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。(後略)12月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【UNHCRは各国に支援を求めるものの、多くの国は支援要請に応じていない】
インドネシアのアチェには26日にも185人を乗せた難民船が漂着しています。

****ロヒンギャ難民、さらに185人がインドネシア漂着 衰弱した子も****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの難民185人を乗せた木造船が26日、インドネシアに流れ着いた。ロヒンギャ難民が同国沿岸に漂着するのはここ数か月で4回目。

警察によると、船は午後5時半ごろ、インドネシア最西端のアチェ州の海岸に着いた。185人のうち32人は子どもだった。

難民は地元の施設に一時的に保護され、病人は治療を受けている。

AFPの記者によると、痩せ細り衰弱した様子の何人かは点滴を受けていた。保健当局の職員は「数人が重い脱水症状となっており、嘔吐(おうと)している子どももいる」と話した。 【12月27日 AFP】
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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、こうしたロヒンギャ難民に対する支援を各国に要請していますが、これまでも各国からの反応は芳しくありません。

****UNHCR、海上漂流のロヒンギャ難民支援を各国に要請****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、海上を漂流中のイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する支援を各国に要請した。海上では少なくとも20人のロヒンギャが死亡したとされている。またインド洋を数週間にわたり漂流した後、インドネシアに上陸した数百人のロヒンギャへの支援も求めた。

UNHCRは声明で、過去6週間で500人近いロヒンギャがインドネシアに到着したが、多くの国は支援要請に応じていないと指摘した。

インドネシアのスマトラ島アチェ州の当局によると、174人のロヒンギャを乗せた船が26日に漂着。大半は数週間の漂流で脱水状態となって疲弊し、緊急の医療処置が必要だった。

生存者の話では、バングラデシュからインドネシアへの40日間にわたる漂流で20人以上が死亡、船内では食糧が少なくなり、水漏れが生じていた。

生存者の1人は「インドネシアの人々はわれわれに教育の機会を与えてくれるという希望を持って、バングラデシュ最大の難民キャンプからここに来た」と話した。【12月28日 ロイター】
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【アメリカでは、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に不法移民の子どもたちを置き去りに】
難民に対する対応が厳しいのはロヒンギャの事例だけでなく、欧州に向かうシリア・北アフリカらの難民、アメリカを目指してメキシコ国境に押し寄せる中南米からの難民などでも同じです。

アメリカ最高裁は27日、近く失効予定だった新型コロナウイルス対策を名目とした陸路の移民流入制限措置について、法廷闘争が決着するまで継続を認める判断を示しています。

****米最高裁、コロナ禍の国境管理を維持****
米連邦最高裁判所は27日、新型コロナウイルス禍で導入された国境管理を維持する判断を下した。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は19日、「タイトル42」と呼ばれる公衆衛生法の条項の期限を一時的に延長していた。

21日に予想されていた国境管理終了を前に、すでに国境通過者が増加し始めており、さらに少なくとも1万人が国境管理の撤廃を期待してメキシコ国境の都市に待機していた。

下級審では相反する判決が出ていた。ワシントンの連邦判事は11月、2020年春のコロナ流行に合わせて実施された国境管理は当初から違法だったとの判決を下した。これに対し、ルイジアナ州の連邦判事は、移民の入国や難民申請を阻止するために無期限に適用できると判断していた。

トランプ前政権は、伝染病から国を守るために設計された19世紀から続く公衆衛生法に基づき、連邦法の条項から名付けられたタイトル42を導入した。これにより、国境にいる移民は速やかにメキシコに送還され、3年近くは合法的に入国し難民申請することが事実上できなくなった【12月28日 WSJ】
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共和党優位の各州はより厳格な不法移民対応を求めており、テキサス州などは移民に対して寛容なニューヨーク・ワシントンなどに移民をバスで送り付けるといった“嫌がらせ”的なパフォーマンスも行っていますが、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に子どもたちを置き去りにするといった事例も。

****氷点下の移民移送、政権がテキサス州知事批判****
米ホワイトハウスの報道官は26日、テキサス州の国境地域から送られた移民を乗せたバスが首都ワシントンのハリス副大統領宅近くに極寒のクリスマスイブに到着した問題で、同州のアボット知事が人命を危険にさらしたと非難した。

共和党のアボット知事はバイデン民主党政権の移民政策を批判してきた。ただ、クリスマスイブの移民移送については関与を認めていない。

移民支援団体は25日、米国への難民申請を目指す推定110─130人の不法移民がテキサス州の当局者らによってバスに乗せられたと明らかにしていた。子どもも多くいた。

ホワイトハウスのハサン報道官は声明で「アボット知事は連邦政府や地元当局と一切調整することなく、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に子どもたちを置き去りにした」と批判。「政治的な駆け引きをしても何も達成できず、人命を危険にさらすだけだ」とした。

テキサス州はこれまで、何千人もの移民をワシントン、ニューヨーク、シカゴにバスで移送してきた。アボット氏は以前、州は意図的に移民を、不法移民に寛容な聖域都市に移送していると述べている。【12月27日 ロイター】
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