孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領の独自・強気外交で難航する北欧2ヶ国のNATO加盟問題

2022-12-12 23:39:11 | 国際情勢
(スウェーデンのマルメで2018年、シリアで戦うクルド人に連帯を示すため1000人以上がデモを行った【6月9日 WSJ】 
スウェーデンにいるクルド人は約10万人とされ、全人口の約1%に相当します。NATO加盟承認を盾に圧力をかけるトルコ・エルドアン大統領の対応に、クルド人団体は主要な避難先を失いかねないと不安を募らせています。)

【北欧2カ国のNATO加盟にハードルを課すトルコ・エルドアン大統領 アメリカも対応に苦慮か】
スウェーデン・フィンランドの北欧2カ国は、今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻した事態を受け、これまでの中立政策を転換し、NATO加盟を申請しています。

しかし、新規加盟には全加盟国の承認が必要になりますが、北欧2ヶ国の加盟にトルコが難色を示しています。
6月にはトルコが求める両国でのクルド人勢力「テロ組織」の活動阻止や、「テロ容疑者」の引き渡しを盛り込んだ覚書にトルコを含む3ヶ国が署名し、加盟に向けたとりあえずの道筋は示されたものの、その後、トルコ側は合意の履行が不十分であるとして不満を表明し、加盟交渉は難航しています。

スウェーデン・フィンランド両国とも、一定にトルコの希望に沿う形の譲歩は行っています。

****スウェーデンNATO加盟へ見せるトルコへの歩み寄り****
スウェーデンの中道右派の新政権が、北大西洋条約機構(NATO)加盟の早期実現を目指して、国内のクルド人のテロ組織の取締りの強化を要求するトルコに前政権よりも一歩歩み寄る対応をすることに決したことを11月6日付けのフィナンシャル・タイムズ紙が報じている。主要点は次の通り。

・スウェーデンのクリステション新首相は、スウェーデンのNATO加盟を支持するようトルコのエルドアン大統領を説得すべく、新しい中道右派政権はクルド人グループに距離を置くと述べた。

・ビルストロム外相は、スウェーデンはシリアのクルド人民兵組織YPG(クルド人民防衛隊)およびその政治組織PYD(クルド民主統一党)に対する見方を変えるだろうと述べた。

・多くの西側諸国はシリアの北東部でISIS(イスラム国)を打倒する上で助力を得たYPGを支持して来た。しかし、トルコはPKK(クルド労働者党)との密接な関係の故にYPGを直接的な脅威と見做している。なお、PKKは欧州連合(EU)および米国にテロ組織に指定されている。

・11月5日、「これらの組織とPKKの間にはあまりに密接な関係があり‐‐‐‐われわれとトルコとの関係にとっては好ましくない」とビルストロム外相は述べた。

・エルドアン大統領の報道官は「我々はこれを非常に積極的なステップと見ている」と述べた。

・11月3日、トルコを訪問したNATOのストルテンベルグ事務総長は「NATOの完全なメンバーとしてフィンランドとスウェーデンを迎え入れる時だ」と述べた。同事務総長との会談後、チャヴシュオール外相は新しいスウェーデン政府の「決意はより強い」と述べた。「しかし、すべての合意された措置が完全に履行されたと言うことは可能でない」と彼は付言した。
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スウェーデンとフィンランドのNATO加盟議定書は加盟30カ国のうち28カ国が批准を終えており、残すはハンガリーとトルコのみである。

ハンガリーについては、オルバンの首席補佐官が、「当てにしてもらっていい。年内に議会が承認する手筈となっている」と最近述べているので、批准に問題はないであろう。

しかし、スウェーデンはクルドのテロリストを庇護していると主張するトルコの動向には未だ確たる見通しが立っていない。

スウェーデンでは9月11日の総選挙の結果、社会民主党率いる中道左派政権が下野し、その後を受けて、10月18日、穏健党のクリステション首相率いる中道右派政権――社会民主党に次いで第二党となった極右のスウェーデン民主党が閣外協力――が発足した。

前政権の時代、スウェーデンはフィンランドとともに6月のマドリードのNATO首脳会議に際してトルコとメモランダム(Trilateral Memorandum)に合意したが、そこには「(両国は)YPG/PYDに支持を提供しない」と書かれている。【12月1日 WEDGE】
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****フィンランド、トルコへの武器輸出検討 NATO加盟支持求め****
フィンランドのカイッコネン国防相は8日、同国とスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟に対するトルコの支持を得るため、トルコへの武器輸出許可も検討すると明らかにした。カイッコネン国防相はトルコの首都アンカラを訪問し、アカル国防相と会談した。(中略)

フィンランドもスウェーデンもトルコに対して通常兵器の禁輸措置は取っていない。しかしフィンランドは、トルコが2019年にシリア北東部に侵攻し、トルコがテロ組織と見なすクルド人勢力を攻撃したことを受け、新たな武器輸出許可を凍結した経緯がある。【12月9日 ロイター】
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アメリカは、トルコが早期に新規加盟を承認することを促してはいますが、トルコ・エルドアン大統領を動かす決め手がないのも実情。

これまでも、ロシア製ミサイル「S400」の導入、エルドアン政権が2016年のクーデター未遂の黒幕だとする米在住ギュレン師の引き渡し要求、アメリカからのF16戦闘機供与、シリア北部への軍事進攻など、NATOにありながら(アメリカの意に沿わない)独自外交を続けるトルコ・エルドアン大統領とアメリカの間には制裁措置を含む軋轢があります。

加えて、ロシアのウクライナ侵攻以降は、その軋轢あるトルコの仲介に一定に配慮せざるを得ないという、更に微妙な関係になっています。

****米、トルコに早期承認促す=北欧2国のNATO加盟****
ブリンケン米国務長官は8日、北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請している北欧のスウェーデン、フィンランドの両外相とワシントンで会談した。会談後の共同記者会見では「2カ国がまもなく正式に加盟することを大いに期待している」と述べ、手続きが進んでいないトルコに早期承認を促した。(後略)【12月9日 時事】 
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PKK関係者が比較的少ないフィンランドに比べて、関係者の多いスウェーデンのハードルがより高いものとなっていますが、エルドアン政権としてはハードルを高くしてより大きな譲歩を両国からひきだせれば、国内的に「得点」を稼げる政治的メリットがあり、今のところ歩み寄る姿勢は見せていません。

****NATO加盟条件は「テロリスト」送還 北欧2国とトルコの協議難航****
北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航している。トルコがNATO加盟を認める条件として、トルコ政府と対立する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)の関係者ら数十人の送還を求めているからだ。

トルコのエルドアン政権は交渉に妥協しない姿勢を示し、国内での支持率向上を狙っている。

「トルコがいつ(NATO加盟を)国会で批准してくれるのか、見えてこない」。フィンランドのハービスト外相は今月8日、ブリンケン米国務長官、スウェーデンのビルストレム外相との会談後、記者会見で厳しい表情を見せた。(中略)

北欧2国は6月下旬、トルコと加盟批准に向けた覚書を交わした。覚書には批准の条件として、2国がトルコへの武器禁輸措置を解除することのほか、トルコが「テロリスト」とみなすPKKやPKKに近いシリアのクルド勢力の関係者らの送還を検討することが記されている。

トルコへの武器禁輸措置は既に解除されているが、問題は「テロリスト」の送還だ。フィンランドにPKK関係者は少ないが、スウェーデンは1990年代以降、多くのPKK関係者らの政治亡命を受け入れてきた。スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者だ。

反体制派を厳しく取り締まるトルコと、言論の自由などを重視するスウェーデンでは「テロリスト」の定義が異なり、両者の溝は深い。

スウェーデンの最高裁は7月、同国の永住権を持つトルコ人に対し、トルコ政府の送還要求を拒否する判決を出した。スウェーデン政府は送還について「国内法、国際法に則って対応する」との姿勢を崩していない。

一方、トルコはPKK関係者が少ないフィンランドについては加盟を批准する意向を示し、スウェーデンに圧力をかけている。

また、トルコメディアによると、トルコは6月以前は2国に「テロリスト」約30人の送還を求めていたが、その後は約70人に増えており、ハードルが上がっている。トルコのボズダー法相は今月5日、2国は「トルコが求めるテロリストを全員送還すべきだ」と強調した。

トルコ側に交渉妥結を急ぐ理由はない。トルコでは大統領選が来年6月に控えており、それまでに2国から「譲歩」を引き出せば、エルドアン氏の支持率向上につながるからだ。

また、この交渉は2国のNATO加盟を支援する米国に対し、トルコが要求しているF16戦闘機の供与やシリア北部への軍事侵攻の許可を引き出す材料としても使える。

中東政治に詳しいベルギーのシンクタンク「民主主義のための欧州財団」のマグヌス・ノレル客員研究員は、「トルコが来年6月より前に2国の加盟を批准する可能性は低い」と分析した上で、「たとえスウェーデンが譲歩したとしても、トルコは要求をつり上げるだろう」と指摘する。

一方、ブリンケン米国務長官は今月8日の記者会見で、両国が「間もなく(NATOの)正式な加盟国になるだろう」と述べ、交渉妥結への自信を示している。【12月12日 毎日】
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ブリンケン米国務長官の「自信」がどこからくるのかは知りません。
エルドアン大統領としては、決定権を握った形で非常に有利な立場にあります。ただ、何事につけ、やり過ぎると「いい加減にしろよ!」という反応が強まりますので、そのあたりをエルドアン大統領がどう考えるか・・・でしょう。

エルドアン大統領はあまりそういう批判は気にしない性格のようにも思えますが。

【ボスポラス海峡では欧米タンカーが滞留】
トルコ・ボスポラス海峡では、トルコ側の対応によって欧米タンカーが待機を強いられています

****トルコ、保険なしのタンカー通過認めず****
トルコの海上保安当局は8日、適切な保険証書を持たない石油タンカーの領海通過を引き続き認めず、その検査には時間を要すると述べた。トルコ沖のタンカー滞留問題を巡る欧米などからの圧力を一蹴した。
海運業界筋によると、イスタンブールのボスポラス海峡を通過して地中海に向かうため黒海で待機しているタンカーの数は、8日朝の16隻から、その後19隻に増加した。ダーダネルス海峡で待機している他の9隻と合わせ、合計28隻のタンカーが周辺に滞留しているという。

英財務省当局者は7日、欧米当局が滞留解消に向けてトルコと協議していることを明らかにしていた。
一方、イエレン米財務長官は8日、記者団に対し、トルコの決定にロシア政府が関与していると考える理由はないと述べた。米国は事態の解決に向けてトルコと協議しているとした。【12月9日 ロイター】
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“適切な保険証書”云々ということで、G7とEUは保険会社に対し、上限価格を上回って取引されたロシア産原油を輸送する船舶に保険を提供しないよう義務付けており、その関係かとも思いましたが、そうではないようです。

****トルコ沖のタンカー滞留、原因は原油価格上限ではない=EU*****
欧州連合(EU)欧州委員会は、トルコのボスポラス海峡を通過して地中海に向かう石油タンカーが黒海で滞留している問題について、主要7カ国(G7)によるロシア産原油への価格上限導入の影響ではないと表明した。(中略)

トルコは今月初めから船舶に対し保険証書の提示を義務付けており、タンカーが滞留する原因となっている。

G7とEUは今週、保険会社に対し、上限価格を上回って取引されたロシア産原油を輸送する船舶に保険を提供しないよう義務付けた。

欧州委の報道官はロイターに「(タンカーの滞留は)G7による価格上限導入が原因ではない」とし、5日より前に購入された海上輸送されるロシア産原油については、上限価格を上回っていても、1月19日までは保険などのサービスを提供できる移行期間が設けられていると指摘した。

報道官は、移行期間終了後も、トルコ当局は引き続きタンカーの保険証書をこれまで通り検証できると主張。「トルコ当局に説明を求めるため、連絡を取っており、(滞留の)解消に向けた作業を進めている」と述べた。

トルコの海上保安当局は8日、適切な保険証書を持たない石油タンカーの領海通過を引き続き認めず、検査には時間を要すると主張した。【12月9日 ロイター】
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どういう事情によるものなのかはわかりませんが、エルドアン政権が欧米に対し何らかの圧力をかけているようにも見えます。(少なくとも表面上は)欧米の批判など歯牙にもかけない・・・という強気姿勢です。おそらくこうした強気姿勢も国内選挙対策のひとつでしょう。

【シリア北部への地上軍侵攻へ向けて進む準備】
トルコ・エルドアン大統領はシリア北部のクルド人勢力支配地域への軍事進攻も再三言及しています。

****トルコ、シリアへ侵攻準備 クルド勢力排除狙い 米露反対の中 ウクライナ侵攻、立場強化****
トルコがシリア北部で地上侵攻の準備を進めており、緊張が高まっている。

トルコには「テロ組織」とみなすシリアのクルド勢力を排除する狙いがあるが、地域の不安定化を嫌う米国とロシアは反対する。

だが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡ってトルコは「仲介役」を担っており、米露ともトルコに強い態度を示せない事情もある。

「米国は我々(の立場)を理解すべきだ」。トルコのアカル国防相は1日、記者団に強調した。トルコは11月13日、最大都市イスタンブールで爆弾テロが起きると、非合法組織「クルド労働者党」(PKK)やシリアのクルド勢力がテロに関与したと主張。

同20日以降、シリア北東部を支配するクルド勢力の拠点やインフラに対し、空爆を繰り返している。だが、クルド勢力をトルコ国境から遠ざけるためには地上軍を派遣し、クルド側が拠点とする街を支配するのが効果的と見ているようだ。

一方、過激派組織「イスラム国」(IS)対策でクルド勢力と連携してきた米国は、強い懸念を示す。オースティン米国防長官は1日、地上侵攻に「強く反対する」と強調。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2日、地上侵攻でシリアで働く米国人や民間人が被害に遭う恐れがあるほか、ISとの戦いに「影響を与えたくない」と述べた。

地元メディアによると、米国が連携するクルド民兵組織「シリア民主軍」(SDF)はトルコによる空爆や侵攻に対応するため、ISとの戦闘を停止した。大規模な組織としてのISは2019年までに壊滅したが、今も数千人の戦闘員がシリアなどにいるとされる。

トルコの侵攻が始まって混乱が広がれば、SDFが拘束している数万人のIS戦闘員が脱走する可能性もある。

だが、米国には弱みもある。ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国はスウェーデン、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を後押ししているが、加盟には全加盟国の承認が必要で加盟国トルコの賛否が鍵を握っているからだ。

ロシアとウクライナの仲介を続けるトルコは、ウクライナ産穀物の海上輸出などを巡っても、重要な役割を果たす。トルコは自国の立場をうまく利用し、地上侵攻について米国と交渉しているとみられる。

一方、シリアのアサド政権の後ろ盾となっているロシアは、ウクライナ侵攻に注力しており、シリアで新たな火種を抱えたくないのが本音だ。

だが、ロシアは欧米の制裁下にあり、穀物や天然ガスの輸出で協力が期待できるトルコは大切なパートナーだ。ロシアはアサド大統領とトルコのエルドアン大統領を和解させ、シリア軍によってトルコ国境付近の治安を回復することを目指す。

しかし、ロイター通信によると、アサド氏は、これまでシリアの反体制派を支援してきたエルドアン氏への不信感を払拭(ふっしょく)しきれず、和解に合意していないという。

トルコは16年から数回にわたり、シリア北部に軍事侵攻を実施。国境付近の一部に支配地域を確保しているが、クルド勢力による攻撃は収まっていない。【12月6日 毎日】
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今後トルコとクルド人武装勢力との交戦が激化すれば、北欧2カ国に対するトルコの態度がさらに硬化する可能性があります。

アメリカにとっては何とも苛立たしいエルドアン大統領の独自・強気外交でしょう。
その強気が吉と出るか、凶とでるかは今後の話ですが、長期的に見る必要もあるでしょう。
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