孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  若者層の支持を受けて王政改革にも切り込む前進党が第1党に ピタ党首を軸に政権協議

2023-05-21 23:28:02 | 東南アジア

(前進党・ピタ党首【5月16日 日経】 選挙戦で見せた上着なし・ノーネクタイのシャツ姿の方が颯爽としていますが、今後の政権協議にはこういうエリート然とした固いイメージの方がいいのか・・・)

【支持率急上昇前進党・ピタ党首が、その勢いで第1党に躍進】
Ⅰ週間あまりスリランカを旅行している間の14日に行われたタイ総選挙では若者層の支持を得た王政改革や徴兵制廃止も掲げる革新系野党「前進党」が第1党となりました。

投票日のひと月ぐらい前までは、タクシン元首相の次女ペートンタン氏が前面に立って牽引する最大野党「タイ貢献党」が地滑り的圧勝を収めるのではないかと予想していました。

しかし、投票日が近づくにつれて、前進党・ピタ党首の人気がうなぎ上りに上昇。選挙情勢も急変。

前進党のピタ党首(42)は名門タマサート大で学び、米ハーバード大ケネディ行政大学院などで修士号を取得したエリートで、若さとクリーンなイメージ、巧みな演説で都市部の若い世代を中心に支持を広げました。
ピタ氏だけではなく、前進党の議員らは国会でも存在感を見せていたようです。

****前進党、9分野で300の公約****
(中略)例えば、ランシマン・ローム下院議員は、ミャンマー人実業家らが麻薬密売やマネーロンダリング(資金洗浄)で摘発された事件を巡り、プラユット首相に近いウパキット上院議員の関与を追及した。

タオピポップ下院議員は大手2社の寡占となっているビール市場に風穴をあけようと、酒類製造の規制緩和を求め、税法改正案を国会へ提出した。

最低賃金の即時引き上げや全ての都県での知事選の実施など、前進党が発表した総選挙での公約は、完全な民主主義や包括的な福祉、教育改革など9分野の計300に上る。【5月16日 東京】
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それでも東北部・北部中心に固い支持基盤を持つタイ貢献党が第1党になるのでは・・・と考えていましたが、結局地滑り的に勝利したのは前進党でした。特に首都バンコクでは圧勝でした。

分裂選挙となった与党の親軍政党が大きく議席を減らしたのは、大方の予想通り。

****反軍革新系が第1党=野党で過半数、与党議席減―タイ総選挙、連立調整へ****
タイで14日、4年ぶりとなる下院(任期4年、定数500)総選挙が実施された。

選挙管理委員会の暫定開票によると、2014年のクーデター後の軍政を引き継ぐ親軍中心の与党は議席を減らし、軍や王制の変革を訴える革新系野党「前進党」が第1党となった。最大野党だったタクシン元首相派の「タイ貢献党」との合計は半数を大きく超え、焦点は連立調整に移る。

選管の15日未明(日本時間同日早朝)の発表によると開票率98%で、3月下旬の解散時に44議席だった前進党は151議席に躍進。ピタ党首(42)は「政権をつくる。首相になる準備はできている」と勝利を宣言した。また、貢献党は140議席になる見通しとなった。

一方、連立与党側は経済特区新設などの実績をアピールしたが苦戦。「民主党」などが議席を減らし、合計190議席に満たない。最大が「タイ誇り党」の71議席で、陸軍司令官としてクーデターを実行したプラユット首相(69)の「タイ団結国家建設党」は36議席にとどまる。

前進党は軍改革などを掲げて都市部の若者らを中心に支持を集め、バンコクの小選挙区33議席中32議席を獲得した他、貢献党が強かった北部でも勝利。貢献党は地盤の東北部を中心に議席を獲得した。【5月15日 時事】
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コロナ禍で基幹産業の観光業が大ダメージを受け、ロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格も高騰という経済低迷に対し有効な対策をとれなかった政権への不満、軍に近い政権のもとで自由にものが言えず、王政改革などがタブー視され、むしろ締め付けが強化される現状への不満が状況を大きく動かしたように見えます。

有力視されていたタイ貢献党も王政改革など基本的なところでは軍・現政権に宥和的で、結局、既存の枠組みから抜け出せないと見なされたようです。また、タクシンvs.反タクシンの政治・社会混乱を再現することへの嫌気もあったのでしょう。

【前進党・ピタ党首を軸に進められる政権協議】
選挙結果を受けて前進党・ピタ党首を軸に政権協議が進められています。
下院では前進党やタイ貢献党などの野党勢力が圧勝していますが、最初のハードルは、軍事政権下で任命された上院議員250人を含めた議員750名の過半数376議席をいかにしてクリアするかです。

****前進党ピタ党首、8党による連立構想を発表****
前進党のピタ党首は18日、首都バンコクで記者会見を開き、8党による連立政権の樹立を目指す構想を明らかにした。当初案である6党・310議席の連立構想を拡大させた。

ピタ氏は14日の総選挙後、前進党の152議席とタイ貢献党の141議席、国民党の9議席、タイ建設タイ党の6議席、セーリールアムタイ党(タイ自由党)とペンタム党(公正党)の1議席で合わせて310議席の連立構想を発表した。今回、1議席を持つパランソンカムマイ党(新しい力党)、2議席を獲得したプータイルアムパラン党が新たに構想に加わった。

■「クーデターの日」に覚書締結へ
8党の議席数は合計で313となり、新政権は上院議員との交渉などを通じて首相選出に必要な376議席の獲得を目指す。

8党はピタ氏を首相に選出することで合意している。新政権樹立に向けた覚書は、週明けの22日に結ばれる見通し。同日は2014年に国軍がクーデターを起こし、政権を奪取した日にあたる。

前進党は不敬罪にあたる刑法112条の改正を公約に掲げているが、ピタ氏は「22日の覚書締結後に協議を開始する」とし、改正実現に向けて障壁を取り除いていく考えを示した。

上院議員との交渉については、対策チームを設ける方針。すでに新政権を支持している上院議員については「国民の投票を尊重する態度に感謝する」とコメントしている。

■民主党は「ピタ首相」支持
与党第3党で、総選挙で25議席を獲得した民主党のアロンコン副党首代理は18日、首相候補としてピタ氏を支持するとの声明を発表した。アロンコン氏は「国民の声を尊重し、すみやかな政権移行を重視する」との党の方針を示した。一方で、民主党としては「野党として活動する」としている。【5月19日 NNA ASIA】
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前進党・ピタ党首としては、しばらくは野党間でも意見の相違がある王政改革・不敬罪廃止などは「協議の開始」という形で、あまり前面にださずに連立を重視するのでしょう。

“王室への侮辱を罰する不敬罪の改正に意欲を示す前進党とは溝がある貢献党のチョンナン氏は、「デリケートな問題の解決策を見いだすために議論する必要がある」と述べた。”【5月18日 東京】

上院議員の状況については以下のようにも。
****前進党やタイ貢献党など8党が連立政権樹立で大筋合意 不敬罪改正は「議論が必要」****
(中略)
上院議員は多くが軍の意向に従うとみられるが、これまでに16人がピタ氏支持を示唆。ただ上下両院の過半数には届いていない。

地元メディアによると、上院議員250人のうち6割弱は現首相派と副首相派。このほかに地元名士や法律専門家、公務員、独立系などのグループがあり、ピタ氏はこれらの議員に支持を呼びかけていく考えだ。【5月18日 東京】
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今回の選挙結果では、親軍勢力によって政権を樹立することは困難であり、すでに上院議員の中からもピタ氏支持が出ていることも考えると、前進党やタイ貢献党を中心とする勢力が“376議席”を超えてピタ首相選出という流れになるのではないでしょうか。

ただ、タイ貢献党と前進党の間で政策や大臣ポストをめぐって激しい争いが起きることが予想されますが、そこがこじれると、タイ貢献党と親軍勢力の連立という可能性も残されています。

【陸軍司令官はクーデターを否定・・・とは言うものの拭いきれない不安も】
更には、タイ政治につきまとうのが「軍によるクーデター」の影。

今回、選挙前にナロンパン陸軍司令官は「私が陸軍司令官である限りクーデターは起きない」と力説しています。

****タイ陸軍トップが明言 「軍事クーデターは起きない」****
タイでは「政治の混乱を解消する」などの理由で過去に複数回にわたって軍事クーデターが起きており、「今回の総選挙の結果次第ではクーデターが起こりかねない」との指摘もあるというが、ナロンパン陸軍司令官は5月11日、「私が陸軍司令官である限りクーデターは起きない」と力説した。

タイ軍では陸地における作戦、戦闘を担う陸軍が軍部の中で最強とされており、そのトップである陸軍司令官の主導によるクーデターが何度も起きている。

最近ではタクシン派と反タクシン派の対立で政治が混迷を極めていた2014年に当時陸軍司令官だったプラユット現首相の主導で5月20日に軍事クーデターが起きている。タイの軍事クーデターは第二次世界大戦後だけで十数回に及ぶ。

ナロンパン司令官は、「将来において国内が混乱し、これに軍部が反応する可能性を懸念しているか」との質問に対し、「何も心配していない。我々は過去の教訓でたくさんのことを学んだ」と返答した。同司令官は今年9月30日に定年退官する。【5月12日 バンコク週報】
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タイでクーデターが頻発するのは、軍の力が強いだけでなく、民主主義を求める民意も強く、両者が拮抗しており、軍がクーデターで実権を掌握しても、数年後には民政移管されるためとか。 民主主義の基盤がなければいつまでも軍政が続きます。

ナロンパン陸軍司令官は上記のように発言はしていますが、それでも不安が拭えないのがクーデター。

なお、前進党が掲げる徴兵制廃止について、ナロンパン陸軍司令官は「彼らは政権についた場合、政策を実行する権利がある。しかし、軍にもなぜ徴兵制が必要かを説明する権利がある」と語っています。

【前身「新未来党」と同じ運命の不安も】
一方、ピタ氏は“15日の記者会見でクーデターについて問われ、「今回の選挙はより良い政治や暮らし、未来を求める人々の勝利だ。もはやクーデターが起きる余地はない」と軍をけん制した。”【5月16日 東京】

もう一つの不安は、前進党の前身である新未来党をも襲った司法攻撃 新未来党同様に「再解党」の不安も。

****改革望む声で躍進 「再解党」懸念も 第1党の前進党・タイ総選挙****
タイ下院総選挙で第1党となった革新系の野党「前進党」が躍進した背景には、若者らを中心に軍や王室といった現在のタイ政治を特徴付ける存在の改革を望む声があった。  

ただ、同党の前身となる党は4年前の選挙後に解党処分を受けており、同様の事態が再び起きる懸念もある。  

前進党は公約で、徴兵制の廃止を掲げた。さらに、タイではタブー視されてきた王室批判を巡り、不敬罪の改正も盛り込み、バラマキ色の強い経済対策を掲げる他の政党とは一線を画した。  

これら国の制度の抜本的な改革を打ち出した政策は、若者を中心に受け入れられた。(中略)

前進党躍進の布石は、2014年のクーデター後の民政復帰を目的とした19年の下院総選挙にあった。反軍を掲げた同党の前身の「新未来党」は、選挙直前の結党だったがSNSを駆使するなどして若者の支持を集め、80議席を獲得して野党第2党となった。  

しかし、憲法裁判所は20年2月、当時のタナトーン党首による党への1億9000万バーツ(約7億6000万円)の資金提供は政党法に違反すると判断。新未来党の解党を命じ、同党首ら幹部の政治活動を10年間禁止した。  

これを受け、親軍政権に反発する学生らのデモが活発化。批判の矛先は王室にも向けられ、参加者らが不敬罪で逮捕される事態が相次いだ。  

新未来党の解党後、残った下院議員らは前進党を設立し、ピタ氏が党首に就任した。ピタ党首の人気は徐々に高まり、タイ国立開発行政大学院の世論調査によると、次の首相候補としての支持率が3月の時点では15%だったが、5月には35%まで上昇した。  

勢いに乗る中で総選挙を迎え、前進党は都市部だけでなく中部や北部の地方でも多くの議席を獲得。ピタ氏は「首相になる準備はできている」と意気込んだ。  

ただ、ピタ氏は選挙期間中、メディア関連株の保有を巡り選挙管理委員会に告発された。ピタ氏は「株は私のものではなく、心配していない」と説明しているが、政治アナリストは「選管や憲法裁が前進党に不利な判断をする恐れがある」と指摘した。【5月16日 時事】
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