孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  王室改革を掲げるピタ氏率いるリベラル政党「前進党」の支持が急拡大、総選挙情勢も変化

2023-05-05 23:50:49 | 東南アジア

【イギリス 戴冠式に冷ややかな視線も】
イギリスでは、昨年9月に即位した英国のチャールズ国王(74)の戴冠式が6日、ロンドンで行われますが、若年を中心に冷めた声もきかれます。

****英、君主制支持「記録的低さ」 国王戴冠日に王室廃止デモも****
英国の社会調査団体は28日、世論調査で英君主制の存続を「大変重要だ」と答えた人が29%にとどまり「記録的な低さとなった」と発表した。英王室に対しては若年層の関心が低く、チャールズ国王の戴冠式が行われる5月6日には王室廃止を訴えるデモも予定されている。

世論調査は今年1〜2月に実施され、2400人余りが対象。君主制存続は「まあまあ重要だ」が26%、「あまり重要ではない」は20%、「全く重要ではない」は25%だった。

調査団体は、王室メンバーの在位記念や結婚、誕生は君主制維持の上で重要な役割を果たしてきたとし「王室が若年層にいかにアピールするかが課題だ」と指摘する。【4月29日 共同】
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特に若い世代からは、「戴冠式に関心があるのは、私たちではなく高齢の世代でしょう」 「私たちの世代は高齢世代に比べて、君主制に浸ってこなかったので関心がありません」といった声も。【5月5日 TBS NEWS DIG】

経済情勢も10%超の物価上昇が続き、市民生活が苦しくなる厳しい情勢。

こうした視線・状況を意識して、式は簡素化して行われます。

****英国王、6日に戴冠式 国民感情を配慮し簡素化****
(中略)新たな英君主の戴冠式は1953年6月のエリザベス女王以来約70年ぶり。記録的な物価高による国民の生活苦に配慮し、女王の式典より時間を短縮するなど簡素化され、形式も一部変更されると見通しだ。(後略)【5月5日 産経】
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国内的には、王室・君主制がすぐにどうこうなるという訳でもありませんが、長い歴史を誇るイギリス王室も曲がり角にさしかかっているようにも見えます。

【タイ 14日総選挙を前に、王室改革を掲げるピタ氏「前進党」の支持が急拡大】
一方、イギリス以上に国民からの視線が厳しくなっているのがタイ。

タイでは、5月14日に総選挙が行われますが、タクシン元首相支持の野党タイ貢献党が圧勝するだろうという見方で取り上げてきました。

3月20日ブログ“タイ  5月に総選挙 親軍勢力の分裂選挙に加えてペートンタン人気 野党はあまり勝ち過ぎると危険?”

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あと半月あまりと迫った5月14日は、国際的に注目される二つの選挙が行われます。

ひとつはタイの総選挙。
こちらは海外逃亡中のタクシン元首相の次女ペートンタン氏が前面に立って牽引する最大野党「タイ貢献党」が政権奪還できるかが焦点。

タクシン元首相支持勢力の厚い基盤、ペートンタン氏の人気、親軍政党が分裂選挙になっていることから、「タイ貢献党」が第1党になるのは間違いないですが、上院を親軍派が占めるという政治体制にあって、上下院合わせて行われる首相指名選挙で勝利できるほどの“地滑り的圧勝”となるかどうかが注目されます。

選挙結果次第では、いろんな組み合わせの政党間の連携も模索される状況です。【4月27日ブログ“トルコ  5月14日の大統領選挙 エルドアン大統領、野党統一候補にリードを許す苦戦】
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タイ貢献党が第1党になる予測はかわりませんが、ただ、ここにきて若い世代を中心に国民支持を急速に伸ばしているのが「前進党」

「前進党」は前回総選挙で台風の目になったタナトーン氏率いる「新未来党」の後継政党です。
2020年2月、憲法裁判所がタナトーン氏から新未来党へのの融資が政党法違反に当たるとして解党命令を出し、タナトーンは議員資格を剥奪され、政治活動を禁じられました。

そのため、新未来党に所属していた下院議員55人が後継の政党として前進党を立ち上げ、ピタ氏が党首に就きました。

そのピタ氏の人気が急上昇し、首相適任者としてトップに躍り出たとのこと。
政党支持率でも前進党がタクシン元首相の次女ペートンタン氏率いるタイ貢献党を急追しているようです。

****前進党のピタ党首、首相適任者調査で1位に****
タイの国家開発管理研究所(NIDA)が3日に発表した下院総選挙に関する第3回の世論調査で、次期首相の適任者として野党第2党・前進党のピタ党首が首位となったことが分かった。3月の調査開始から初めて。選挙活動の終盤に入り、急速に支持を伸ばしている。  

「次期首相の適任者」を尋ねた質問で、ピタ党首の支持率は35.4%。4月の第2回調査から15.2ポイント上昇した。3月、4月の調査で他者を10ポイント以上引き離して首位だったタクシン元首相の末娘(次女)で野党第1党・タイ貢献党所属のぺートンタン氏は、前回から6.5ポイント下げて29.2%だった。  

3位は新党・国家建設タイ合同党(UTN)に所属するプラユット首相で、前回から1.2ポイント上げて14.8%だった。(中略)

前進党は、政党支持率でも躍進した。「小選挙区で投票する候補者の所属政党」の支持率1位はタイ貢献党だったが、支持率は前回の47.2%から38.3%に下がった。前進党は12.8ポイント上げ、34%だった。UTNは1.3ポイント上げ、12.1%で続いた。以下は、与党第3党の民主党が4.3%、与党第2党のプームチャイタイ党(タイ名誉党)が2.9%だった。  

「比例代表区で投票する政党」でも、タイ貢献党は支持率を前回の47.0%から37.9%に下げた。前進党は21.9%から35.4%に上げた。以下は、UTNが12.8%、民主党が3.3%、タイ名誉党が2.4%で続いた。  

調査は4月24~28日、全国の18歳以上の2,500人を対象に実施した。【5月5日 NNA】
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“ブルームバーグ通信によると、国立スワンドゥシット大学の最新の世論調査で、タイ貢献党の支持率は41.37%でトップだった。続いて野党第2党の前進党が19.32%、プラユット首相率いるタイ団結国家建設党が8.48%・・・・”【5月1日 ASEAN経済通信】といった数字もありますので、この種の世論調査の正確性にはやや疑問もありますが、前進党が追い上げているのは間違いないようです。

ピタ氏については、“華麗なるエリート”のようです。
“一九八〇年生まれのピターの経歴は華麗だ。タイで最も権威がある私立校、バンコク・クリスチャン・カレッジで初等教育を受けた後、高校時代にニュージーランドヘ留学。タイヘ戻ってタマサート大学を首席で卒業し、ハーバード大学ケネデイ行政大学院で公共政策、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院で経営学の修士号を取得した。”【「選択」5月号“タイ王室「凋落」で進む国家分断”】

【前国王時代とは異なる、王室に対する国民感情】
若いZ世代に支持される前進党はリベラルなイメージの政党ですが、タイ最大のタブーである王室改革を訴えている点が特に際立っています。

****「不敬罪」の改正も掲げる前進党*****
前進党を支持するのは、Z世代の若者たちだ。長年、タイ政界をウォッチする評論家は「四十二歳の清廉なイメージ、リベラルなイデオロギー、ソーシャルメディアを駆使した存在感が、若者たちを引きつけている」と話す。

最低賃金の四百五十バーツヘの引き上げや、子供を持つ家庭への一千二百バーツの手当支給などリベラルな政策に加え、タイで最大のタブーとされる「不敬罪」の改正も掲げる。

不敬罪は一九五六年に施行された刑法第一一二条に規定され、「国王、王妃、王位継承者、摂政の名誉を傷つけ、侮辱し、悪意を示すこと」を禁じた法律だ。一件につき三年から十五年の懲役刑が科されるため、「世界で最も厳しい」とも言われ、政敵の追い落としや言論弾圧に濫用されている。【前出「選択」5月号】
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よく言われる、タイでは国民から国王が深く敬愛されている・・・というのはプミポン前国王時代の話。

それも、プミポン国王即位時(1946年)頃には王室の権威は地に落ちた状態だったとか。その王室を利用したがクーデターで政権を握った軍部で、以来、国王と軍は二人三脚で支持を伸ばし、やがては、プミポン国王の人柄もあって、国王への国民の敬愛は軍もコントロールできないほどに高くなった・・・という経緯があります。

しかし、現在のワチラロンコン(ラーマ十世)国王の評判がすこぶる悪いことは、新国王即位時に何回も取り上げたところです。

ワチラロンコン国王はドイツで大半を過ごし、女性スキャンダルや奇行に事欠かないため。特にプミポン前国王の全盛期をリアルタイムで知らないZ世代からは、王室への敬意はほとんど感じられない・・・・ということのようです。

【総選挙後の連立は・・・】
前進党は100議席獲得の自信をみせていますが、前進党が大きく伸びると、その分タイ貢献党が喰われるということにも。

そうした状況では、とにもかくにもタイ貢献党が第1党となったとしても、単独過半数は取れないので、連立が問題となります。

タイでは「不敬罪」の廃止などを求めて民主活動家のタンタワンさん(21)とオラワンさん(23)が1月から3月にかけての50日余りハンガーストライキを続けて大きな話題になりました。

「不敬罪」の改正を掲げる前進党に対し、最大野党「タイ貢献党」は二人から距離を置く姿勢をとって、若者世代の失望を買いました。

反軍部という点では一致するタイ貢献党と前進党ですが、あくまでも既成政治の枠内にあるタイ貢献党に対し、枠組みの変更を求める前進党という“肌合い”の違いがあります。

そうした点では、タイ貢献党にとっては、むしろ旧敵の親軍勢力の与党の方が連立を組みやすいのかも。
特に、タクシン元首相の帰国に向けて環境を整えたいという思惑からすれば、軍と関係を改善したい・・・という話にもなります。

そのあたりは、前進党を含めた各政党の獲得議席数がどの程度になるのか、選挙結果次第といったところ。

【首相候補の次女ぺートンタン氏出産で、「孫の世話をするため」帰国したと言うタクシン元首相】
妊娠中だったタイ貢献党のぺートンタン氏は無事男の子を出産したようです。

****タイ次期首相最有力のぺートンタン氏、新生児をお披露目 出産後会見で「首相になる準備できている」と決意表明も****
タイの総選挙で次の首相の最有力候補とされるぺートンタン氏が、おととい出産したばかりの長男を連れて会見を開き、「首相になる準備はできている」として、政権交代を果たす決意を表明しました。(中略)

2006年に失脚したタクシン元首相の次女であるぺートンタン氏は、タクシン派の最大野党「タイ貢献党」の有力な首相候補で、最新の世論調査では、現職の首相を抑え、最も高い支持を得ています。

会見では、事実上の軍政が続くタイに変革をもたらす意思を示し、「100%勝利できる」として、政権交代を果たす決意を述べました。

ぺートンタン氏 「タイには変革が必要です。私はもちろん首相になる準備はできています」

一方、ぺートンタン氏の出産を受け、国外逃亡中のタクシン元首相がSNSでタイへの帰国を示唆したことについては、「孫の世話をするためであって、選挙には影響しない」としています。【5月3日 TBS NEWS DIG】
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そのタクシン元首相は・・・

****タクシン元首相「帰国許可して」=国外逃亡中、次女の出産受け―タイ****
(中略)(次女のペートンタン氏の)出産を受け、国外逃亡中のタクシン元首相が「孫の世話をするために帰国を許可してほしい」とツイッターに投稿し、波紋を広げている。

タクシン氏は2001年に首相に就任したが、06年のクーデターで失脚。汚職の罪などに問われ国外へ逃れ、本人不在のまま実刑が確定している。

ペートンタン氏は1日、新生児と共に写った写真を公開。タクシン氏も「7人の孫は全員、私が国外にいる間に生まれた。7月で私も74歳。帰国の許可を願う」と投稿した。【5月2日 時事】 
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ペートンタン氏が首相に就いた状況で帰国し、いったんは服役するものの「恩赦」で釈放される・・・というのがタクシン元首相の計画でしょう。

【既得権益層への反発を強める若者層】
ただ、そういう“筋書”には若者層は拒否反応を示すのではないでしょうか。彼らからすれば、タクシン氏やその周辺も既得権益層になります。

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クレディ・スイスが二〇十八年十月に公表した「Global Wealth Databook」によれば、タイは上位一%の富裕層が、国の富の六六・九%を占め、世界で最も貧富の格差が激しい国だ。王室に連なる財閥や軍高官、高級官僚らが既得権を持つ。

民主化を訴える若者たちにとって不敬罪の廃止要求は通過点にすぎない。彼らは保守層が牛耳る権力構造の変化を望んでおり、その流れは止まらないだろう。

もはやプミポンのように、国民から広く尊敬される国王が現れることはない。保守層が既得権を守るためには、軍事クーデターで強権的に市民の不満を抑之込むしか道が残されていない。

タイ社会は、貧富と世代間の分断が一段と深まっていく。【前出「選択」5月号】
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コメント (1)
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