孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カナダ  悪化する中国との関係 中国の「海外警察拠点」問題やトルドー首相の「奴隷労働」発言

2023-05-06 23:49:51 | 国際情勢

(カナダ首相、中国のリチウム生産で「奴隷労働」に言及 【5月1日 ロイター】)

【関係が悪化する中国とカナダ】
日本から見ると、国際関係の中ではやや影が薄い感じもあるカナダですが、人権・民主を重視するリベラルな傾向が強いトルドー首相(自由党)の意向もあってか、ここのところ中国への厳しい姿勢が目立ちます。

両国関係は中国通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)の幹部をカナダが拘束したことなどから悪化しましたが、2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑をカナダ側が問題視し、中国との関係が更に悪化していることは、3月8日ブログ“カナダ  中国の選挙介入疑惑で、冷え込んでいた中国との関係が更に悪化”でも取り上げました。

****中国が選挙介入? 揺れるカナダ政界 デマや現金で工作か****
カナダで過去2回の総選挙に中国が介入し、中国に敵対的な政治家を落選させようとしたとの疑惑が浮上し、カナダ政界が揺れている。

与党・自由党政権のトルドー首相は6日、独立して疑惑を調べる特別調査官を近く任命すると表明した。ただ、対中強硬姿勢の野党はより広範な調査を求め、政権への批判を強めている。

トルドー氏は6日、「我々の民主主義を弱体化させようとする外国の試みを真剣に受け止めている」と表明。一方で、「これらは新たな問題ではない」と述べ、以前から中国だけでなくロシアやイランによる選挙への干渉の試みを認識し、政府として対策をとってきたことを強調した。

カナダ紙グローブ・アンド・メールなどは、カナダの情報機関の機密文書などをもとに、2019年と21年の総選挙で、中国が自国に敵対的な候補が落選するように働きかけをしたと報道。同紙は、中国本土からの移民が多い選挙区をターゲットにした偽情報キャンペーンや特定の候補への現金寄付があったなどと伝えた。

カナダ政府は、中国による選挙への介入の試みがあったことは認めているが、選挙結果を覆すような影響はなかったと強調している。

ただ、21年の総選挙で政権奪取に失敗した野党・保守党のポワリエーブル党首は特別調査官の任命について「真相解明のために真に独立した調査が必要だ」と述べ、より広範な調査を求めた。

グローブ・アンド・メールによると、中国は保守党など中国に敵対的な党の政治家が当選するのを阻止しようとしたが、同時に与党・自由党が大勝するのは望まず、中国外交関係者は「議会の政党が互いに争っているのが良い」と語ったという。21年の選挙では自由党は第1党は維持したものの単独過半数は確保できなかった。【3月8日 毎日】
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その後も、中国との溝が深まるような出来事が続いています。
先ずは、例の中国の「海外警察拠点」問題

***中国「警察拠点」、モントリオールに設置か カナダ警察が調査****
カナダの警察当局は9日、モントリオール地域の2カ所に中国政府を後ろ盾とする「警察拠点」が設けられ、中国系カナダ人への威嚇や嫌がらせに使われているとの疑惑を調査していると発表した。

ケベック州の王立カナダ騎馬警察(RCMP)は声明で、外国政府が支援するこのような「犯罪活動」が国内居住者の「安全を脅かす可能性がある」ため対策を取るとした。

欧州の人権団体、セーフガード・ディフェンダーズは昨年9月に出した報告書で、世界の主要都市に数十の中国警察拠点があると報告。これを受けて米国やオランダなどが調査に乗り出している。

RCMPは昨年11月にトロント地域で中国の警察拠点が設置されているとの報告を受け、調査を開始していた。

トルドー首相は9日の議会で、政府はカナダ人を「敵対的な権威主義体制による受け入れ難い行為」から守るためにあらゆる手段を講じると強調した。【3月10日 ロイター】
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移民国家カナダは中国系住民が全人口の5%ほどを占めていますが、チャイナタウンもいくつか存在し、地域によっては非常に高い割合になります。例えばバンクーバーでは20%ほどになり、香港をもじって「ホンクーバー」と揶揄されることもあり、アジア以外で「最もアジアらしい街」との異名を取るとか。

リッチモンド市では、人口20万人のうち中国系が7割に達するとも言われています。(ウィキペディアによれば、2016年統計では華僑、華人の割合は市内人口のおよそ53%)

その意味では、中国からすれば、そういう中国系コミュニティーになんらかの働きかけをしたいというインセンティブもあるでしょう。

****カナダが中国政府関係者へのビザを拒否 「政治工作員」を理由に****
カナダのジョリー外相は、中国の政府関係者に対し「政治工作員」であるとして去年、ビザの発給を拒否したことを明らかにしました。

カナダメディアによりますと、ジョリー外相は9日、議会の委員会で去年の秋、在カナダ中国大使館への赴任を求めた中国の政府関係者に対し、「政治工作員」であるとして、外交ビザの発給を拒否したことを明らかにしました。

ジョリー外相は「明らかに正しい決定だ」と強調。「政治工作員であり中国共産党と関わりがあると疑われる場合は、ビザの発給拒否をためらわないよう部署に指示している」と説明したということです。

カナダでは中国による選挙介入疑惑が報道されていて、トルドー首相は6日、特別調査官を任命する意向を示しています。【3月10日 TBS NEWS DIG】
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【トルドー首相 中国リチウム生産は「奴隷労働」によると発言 カナダの鉄道建設は?】
トルドー首相は中国のEVバッテリーに使われるリチウム生産に関し「奴隷労働」に言及。

****カナダ首相、中国のリチウム生産で「奴隷労働」に言及*****
カナダのトルドー首相は28日、ニューヨークで開かれた外交問題評議会の会合で、中国のリチウム生産に関連して「奴隷労働」に言及した。

トルドー氏は、電気自動車(EV)などのバッテリーに使われるリチウムの生産を強化するカナダの取り組みについて説明。カナダにはリチウム資源が豊富に存在するが、中国は過去数十年にわたり戦略的な決定を下して世界最大のリチウム生産国になったと指摘した。

同氏は「カナダで生産されたリチウムは、より割高になるだろう。われわれは奴隷労働を使わないからだ」と述べた。

さらに同氏は、カナダは環境基準を順守しつつ、原住民と協力しながら生産を進めていると説明した。
オタワの中国大使館はコメント要請に返答しなかった。【5月1日 ロイター】
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トルドー首相がどういう意図で使用したかは知りませんが、カナダと中国の関係において「奴隷労働」という言葉は微妙。

中国のリチウム生産の現状は知りませんが、カナダに中国人が多いのは、もともとカナダの鉄道建設に中国人が「奴隷労働」的に酷使されたという歴史によるもの。

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中国系カナダ人は1850年代、ゴールドラッシュや鉄道建設の労働者としてカナダに流入したのが始まりである。

カナダは中国系の排斥を意図して人頭税を課したり、中国系排斥を狙った中国人移民法を1920年代に成立させたりしている。これについて、カナダ政府は2006年に謝罪した。【ウィキペディア】
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****カナダ太平洋鉄道****
何千人ものナヴィ(土木工事に携わる作業員)たちが鉄道建設で働いた。ブリティッシュコロンビア州では、政府の契約業者が苦力(クーリー)と呼ばれる中国からの労働者を雇った。

ナヴィは1日当たり1ドルから2ドル50セント程度の給与を受け取っていたが、食事・衣服・勤務地までの移動費用・通信・医療などの費用は自己負担であった。

2か月に及ぶ厳しい労働を経ても、実際には16ドル程度にしかならなかった。ブリティッシュコロンビア州の中国人労働者は1日当たり75セントから1ドル25セント程度しか受け取らず、支出は別途負担しなければならなかったが、残りのものはほとんど郷里に送金するために残していた。

彼らは岩盤を通してトンネルを建設するために爆発物を扱うなど、もっとも危険な種類の建設作業に従事していた。建設作業で亡くなった人の遺族には一切の補償がないばかりか、死亡通知すら送られないこともあった。

中国人と契約を結んだ業者は自身の責任として中国への帰還を約束していたにもかかわらず、建設作業を生き延びた中には中国に帰るのに必要な金を持っていない者も多かった。多くの者たちは人里をかけ離れた土地で、しばしば貧困のうちに年月を過ごさなければならなかった。

中国人たちはとてもよく働き、鉄道の西側の区間を建設するのに重要な役割を果たし、わずか12歳の少年すら給仕として働いていた。

2006年にカナダ政府は、中国系カナダ人たちに対して、カナダ太平洋鉄道の建設中および建設後の中国人に対する扱いを公式に謝罪した。【ウィキペディア】
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上記トルドー発言に“中国大使館はコメント要請に返答しなかった”とのことですが、「奴隷労働させたのはそっちだろう!」と言わなかったのが不思議なぐらい。中国もまだ本気でカナダと喧嘩する気はないようです。

【ウイグル族人権問題でも】
トルドー政権はウイグル族の問題をめぐって、在トロント中国総領事館の外交官追放を検討しているとも。

****中国情報機関、ウイグル巡りカナダ議員に圧力か…見せしめ「制裁」で親族の情報収集****
カナダ外務省は4日、中国・新疆ウイグル自治区の人権状況に批判的なカナダの下院議員や親族に中国の情報機関が圧力をかけようとしたとして、駐カナダ中国大使を呼び出して抗議した。関与した在トロント中国総領事館の外交官追放を検討している。

中国の情報機関の動きは、カナダ紙「グローブ・アンド・メール」が1日、カナダの情報機関が2021年7月に作成した機密報告書を報じたことで表面化した。

ウイグル族などに対する中国当局の人権侵害を「ジェノサイド(集団殺害)」と非難したカナダ下院の動議が同2月に採択されたが、報告書では、動議を支持した国会議員らを対象に「特別な活動」が行われていると指摘した。

同紙によると、狙われたのは、中国からの移民を父親に持つ野党・保守党のマイケル・チョン氏。中国は他の議員への見せしめとして「制裁」を加えるため、中国にいるチョン氏の親族の情報を集めたという。

カナダのトルドー首相は3日、この問題を報道で初めて知ったとして、国会議員への脅威に関する情報共有を徹底するよう指示したと記者団に強調した。メラニー・ジョリー外相は4日、下院の委員会で「外国の介入は許容できない」と中国側に抗議するよう外務省幹部に伝えたと述べた。

一方、中国外務省の毛寧マオニン副報道局長は5日の記者会見で、カナダ側の対応に「強烈な不満と断固たる反対」を表明し、「イデオロギー的な偏見による政治的茶番」と強く反発した。中国とカナダの関係は18年12月、中国通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)の幹部をカナダが拘束したことなどを契機に悪化した。【5月6日 読売】
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【好転するオーストラリアと中国の経済関係】
一方、以前中国と貿易戦争を繰り広げていたオーストラリアは、3月16日ブログでも取り上げたように関係修復が進んでいます。

****オーストラリア貿易相が訪中へ、中豪の経済関係改善の動きに両国メディアが注目****
オーストラリアのドン・ファレル貿易相と同国経済代表団が近いうちに中国を訪問する見通しだ。中国政府・商務部の20日の記者会見では同部報道官が「双方が具体的な日程について緊密な意思疎通をしている」と述べた。両国のメディアとも、中豪の歩み寄りに注目している。

中国とオーストラリアは1972年の国交樹立以来、オーストラリア側が中国政府の人権施策を問題視して緊張が高まることもあったが、経済面では順調に推移した。

経済関連外交でも、2013年の戦略的パートナーシップ締結、14年の包括的・戦略的パートナーシップへの格上げ、15年の豪中FTA成立などにより関係を強化してきた。

しかし17年ごろから、オーストラリアが中国による自国への投資や内政干渉を問題視し、両国関係は緊張した。さらにオーストラリアが20年に新型コロナウイルスの発生源について独立した調査を求め、これに反発した中国がオーストラリアの農産物や水産物の輸入の関税引き上げなどで貿易を制限したことで、両国の関係は決定的に悪化した。

ただし最近は、中国が4月になりオーストラリア産大麦に対する関税を再検討することに合意したことで、オーストラリアでは中国が自国産ワインや牛肉、ロブスターなどへの輸入制限も撤廃するとの期待が高まっていた。

オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙(AFR)は21日付で、両国が経済関係の改善を目指す動きが進んでいると紹介する記事を発表した。同記事によると、オーストラリアの企業幹部や地方政府関係者15人からなる代表団が23日に訪中する。訪問地は香港、天津、深センで、オーストラリアの経済代表団が訪中するのは3年ぶりという。

中国メディアも環球時報などが、AFRや米国メディアの報道をまとめる形で、中国とオーストラリアの貿易関係が改善に向かいつつあることを紹介する記事を発表した。

オーストラリアの地方政府の動きとしては、3月にビクトリア州のダニエル・アンドリュース知事が訪中した。また、西オーストラリア州のマーク・マゴワン知事も、間もなく中国を訪問して、貿易制限の撤廃や関係の再構築について中国側と協議する予定だ。

中国政府・商務部(中国商務省)の束●婷報道官(●は王へんに「玉」)は20日の記者会見で、「中国とオーストラリアの経済構造は高度に相互補完しており、互いに重要な経済貿易協力パートナーだ。22年の中豪貿易総額は2209億ドル(23年4月23日時点の為替レートで約30兆円、以下、同じ為替レートで計算)に達し、今年第1四半期(1−3月期)の二国間貿易額は前年同期比10.9%増の約588億ドル(約7兆9000億円)に達した」などと、中国とオーストラリアは互いに極めて重要な貿易パートナーだと強調した。

オーストラリア側の経済代表団の訪中については、「中国側は両国企業が互恵的な経済貿易協力と交流を展開することを歓迎する」と表明。【4月24日 レコードチャイナ】
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****豪州の石炭の対中輸出が大幅増、次はロブスターか―中国メディア****
2023年4月23日、環球時報は、中国との関係改善に向かいつつあるオーストラリアの対中石炭輸出が急増する中で、次はロブスターの対中輸出に注目が集まっていることを報じた。

記事は、関係悪化により中国政府が20年より非公式に禁止していたオーストラリアからの石炭輸出を今年に入って解禁したと見られ、オーストラリアから中国に輸出される石炭の量が急速に増えていると紹介。(中略)

そして、石炭に続いて注目されているのがオーストラリア産ロブスターの対中輸出であり「再開されるのか、再開するならいつなのかが中豪両国の経済関係修復度合いを測る重要な指標とみなされている」と指摘。

2月にはオーストラリアのドン・ファレル連邦貿易・観光担当相が「中国はオーストラリア企業の生鮮ロブスター輸出申請を拒否しなかった。これは両国関係におけるポジティブなシグナルだと認識している」と語り、消息筋からはロブスター輸出が3月には再開するとの情報も出ている一方で、4月23日現在で中国の税関当局データベースにはオーストラリア産ロブスターの輸入に関する情報は見あたらないと紹介した。

記事は、過去数年間両国関係は紆余(うよ)曲折を経てきたものの、オーストラリアにとって中国はなおも最大の輸出市場となっていると紹介。関係が改善に向かいつつある中で、オーストラリアの商業代表団が今週中にも3年ぶりに中国を訪問する見込みだと伝えた。【4月27日 レコードチャイナ】
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