(黒いかばんを持ち運ぶバイデン大統領の随行者。「核のフットボール」とみられる【5月19日 中国新聞社デジタル】)
【平和記念公園に持ち込まれた「核のボタン」】
今回のG7は被爆地広島での開催ということで、ロシアの核兵器使用に対する懸念や北朝鮮の核開発などがあるなかで「核兵器」の問題にも焦点があたりましたが、そのことは同時に、被爆地広島がアピールする核廃絶への思いと核によって維持されている現在の安全保障体制とのギャップを浮き彫りにするものともなりました。
そのギャップを象徴したのが、「核のボタン」を携えたバイデン大統領の広島の平和記念公園訪問でした。
****核攻撃命じる「核のフットボール」平和記念公園内に バイデン米大統領の随行者、黒いかばん持ち運ぶ****
19日に広島市で開幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)で米国のバイデン大統領の随行者が、黒い大きなかばんを持って平和記念公園(中区)に入った。
核攻撃を指令する通信機器などが入った、「核のフットボール」と呼ばれるかばんとみられる。原爆犠牲者の慰霊碑がある公園内に「核のボタン」が持ち込まれた形で、被爆者から批判の声が強まることは必至だ。
バイデン大統領が原爆資料館に入館した後、随行者が黒いかばんを持ち運ぶ様子が確認された。
核のフットボールの中には、緊急時に核攻撃を命じる通信機器や認証システムなどが入っているとされる。
米国とロシアは、敵国からの核ミサイル発射の情報が入れば、すぐ核兵器で反撃する警戒態勢をとる。大統領の随行者が核のフットボールを帯同することで、緊急時にも即時に反撃できることを示す狙いがあるもようだ。
一方、被爆者からは「核ボタンを広島に持ち込むのは許せない」「犠牲者や遺族がどんな思いになるのか想像できないのか」などの声が上がっている。【5月19日 共同】
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【核軍縮を持論とするバイデン大統領の“葛藤”】
そのバイデン大統領の平和記念公園訪問は、オバマ元大統領のときとは異なり、“淡々と静かに”行われました。
バイデン大統領自身は核軍縮が持論ではありますが、現実主義者としての対応を優先させたようにも。
****「核のフットボール」とともに被爆地を訪問したバイデン米大統領、沈黙ににじむ葛藤とは****
米国のバイデン大統領は被爆地・広島を訪問した2人目の米国大統領となった。静かな訪問には、核問題を巡る「葛藤」がにじみ出ていた。(ワシントン支局 田島大志)」(中略)
バイデン氏、沈黙の意味は
バイデン氏の平和記念公園訪問は、実に淡々と進んだ。17分間の声明を読み上げ、被爆者と抱擁をしたオバマ大統領とは対照的に、広島市民に向けた発言も、カメラの前で被爆者と並ぶこともなかった。
ロシアのウクライナ侵略は続き、核戦争の脅威は去らない。米政府内には、ロシアに対しての核抑止の観点から、米国による過去の原爆投下が注目を集めることを避けるべきだとの意見があった。バイデン氏はこうした意見を受け入れ、静かな訪問を選んだのだ。
だが、これはバイデン氏にとっては、実は不本意な沈黙だったのではないだろうか。
理想家VS現実主義者
オバマ大統領は、「核なき世界」を世界に呼びかけた功績でノーベル平和賞を受賞した。その実現に向けた取り組みを副大統領として8年間にわたり支えたのが、バイデン氏だ。
2020年の大統領選中、広島への原爆投下75年に合わせて、「広島と長崎の恐怖を決して繰り返さないために、核兵器のない世界に近づくよう取り組む」とも表明しており、核軍縮は持論だ。大統領選の公約にも掲げた。
バイデン氏の思いがにじむのが、原爆資料館を訪れた際の記帳だ。
〈May the stories of this Museum remind us all of our obligations to build a future of peace. Together-let us continue to make progress toward the day when we can finally and forever rid the world of nuclear weapons. Keep the faith!〉
(世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!)
オバマ氏は、理想家肌として知られた。対照的に、バイデン氏をよく知る専門家らは「リアリスト(現実主義者)だ」と口をそろえる。リアリストのバイデン氏は、個人的な思いを押さえ込み、大統領としての職責を正面から受け止める道を選んだのだろう。
だが、静かすぎた平和記念公園の訪問が、人間ジョー・バイデンの心の葛藤を表していたように思えてならない。【5月21日 読売】
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アメリカには原爆投下に対する「謝罪」を求められることを危惧する向きがありますが、アメリカ政府高官は「バイデン大統領が考えていることは過去ではなく未来だ」とも説明しています。
****バイデン大統領が原爆資料館訪問 約40分滞在…岸田首相と“温度差”も 米政府高官「大統領が考えていることは過去ではなく未来だ」****
アメリカのバイデン大統領が原爆資料館を訪問しました。原爆を投下したアメリカの現職大統領が原爆資料館を訪問するのはオバマ元大統領に続き2人目です。アメリカ政府高官は、さきほど「バイデン大統領が考えていることは未来に向けて、どう行動するかだ」と語りました。
バイデン大統領は岸田総理大臣に迎えられ原爆資料館に入りました。視察は非公開でしたが、G7の首脳らと共に岸田総理から展示内容について説明を受けるとともに被爆者・小倉桂子さんと対話を行いました。
視察を終え資料館から出てくるとバイデン大統領は岸田総理の肩に手をまわし2人で歩きながら会話をかわしていました。その後、真剣な面持ちで原爆慰霊碑の献花に向かいました。
2016年のオバマ大統領は資料館の滞在時間がおよそ10分程度でしたが今回は、およそ40分滞在しました。資料館の視察後、バイデン大統領が発言する機会はなくこれまでのところ反応は入ってきていません。
アメリカ政府高官はさきほど「バイデン大統領が考えていることは過去ではなく未来だ。謝罪は焦点ではないし、未来をどうするかだ。いかにG7首脳が、皆の将来のために、結束して行動できるかということだ」語りました。
資料館の視察ではバイデン大統領と岸田総理は常に隣どうしで歩き親密さが感じられましたが、温度差もあります。
バイデン大統領は昨日の日米首脳会談ではアメリカが核兵器も含めた戦力で日本を防衛していく方針を伝え核の抑止力を強調しました。アメリカとしては核軍縮と核抑止の両立をはかるためあえて、強調した形です。
広島サミットではこの後、「核軍縮・不拡散」について協議し合意事項を「広島宣言」として採択することを目指しています。被爆地・広島から「核なき世界」に向けどれだけ実効性のあるメッセージを発信できるか注目されます。【5月19日 日テレNEWS】
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岸田首相とは“温度差がある”とのことですが、個人的には、バイデン大統領の「心の内の葛藤」もさることながら、広島から選出されている岸田首相が核の問題に対してどのような思いを抱いているのか、不勉強ながらよく知りません。そっちの方が問題かも。総理もあまりそのあたりを積極的に国民に語ることがないようにも思えますが・・・。
敢えて広島で開催したぐらいですから、核の問題については相当に熱い思いがあるのだろうとは推測しますが。
【非常に“敏感”な問題として調整も難航した原爆資料館訪問 非公開で実施】
バイデン大統領にとっては、原爆資料館訪問は核による抑止力を中核とした安全保障体制の頂点に立つ立場からしても、また、過去の原爆投下に関する問題についても、非常に“敏感”な問題です。
****「核なき世界」の理想と現実 バイデン大統領は広島で何を語ったのか****
(中略)
■難航した原爆資料館への訪問
原爆資料館での滞在時間はおよそ40分。岸田総理自らが案内役となって、G7首脳は原爆の実相を伝えるいくつかの展示品を視察し、被爆者の小倉桂子さんとの対話も実現した。しかし、日本政府は館内での取材を認めず、首脳がどこで何を見たのか、詳細については公表を避けている。外交上の“配慮”がその理由だ。
原爆資料館の訪問自体、調整は難航した。交渉担当者の一人はホワイトハウスから懸念が伝えられたことを認める。
■難航した原爆資料館への訪問
原爆資料館での滞在時間はおよそ40分。岸田総理自らが案内役となって、G7首脳は原爆の実相を伝えるいくつかの展示品を視察し、被爆者の小倉桂子さんとの対話も実現した。しかし、日本政府は館内での取材を認めず、首脳がどこで何を見たのか、詳細については公表を避けている。外交上の“配慮”がその理由だ。
原爆資料館の訪問自体、調整は難航した。交渉担当者の一人はホワイトハウスから懸念が伝えられたことを認める。
アメリカでは戦争の早期終結につながったとして、原爆投下を正当化する声が依然として根強く、原爆資料館の訪問に注目が集まることで、来年に控えた大統領選挙に影響が出かねない。
さらには、核保有国の首脳が凄惨な展示品を見ること自体、核抑止力を損ないかねない、ロシアのプロパガンダに利用されるなど、様々な指摘が伝えられた。
サリバン大統領補佐官は今回の訪問は「日米2国間の行事ではなく、G7首脳の一人として歴史と広島出身の岸田総理に敬意を表するものだ」と強調。“謝罪”と受け取られかねない言動を避けるため、バイデン氏が訪問当日にメッセージを発信することはないと予防線を張った。
サリバン大統領補佐官は今回の訪問は「日米2国間の行事ではなく、G7首脳の一人として歴史と広島出身の岸田総理に敬意を表するものだ」と強調。“謝罪”と受け取られかねない言動を避けるため、バイデン氏が訪問当日にメッセージを発信することはないと予防線を張った。
日本側もホワイトハウスの意向を踏まえ、「謝罪を求めるつもりは毛頭ないし、アメリカが嫌がるようなことはしない」(日米外交筋)と、展示内容や滞在時間などで配慮を見せた。
■バイデン大統領の持論は「核なき世界」だが…
バイデン氏は上院議員時代に外交委員会の委員長を務めるなど、アメリカの外交政策に長く関与し、核軍縮に強いこだわりを持つ政治家として知られている。核兵器が果たす役割を減らしていくことで核兵器への依存をなくし、「核なき世界」の理想に近づけるというのが持論だ。
■バイデン大統領の持論は「核なき世界」だが…
バイデン氏は上院議員時代に外交委員会の委員長を務めるなど、アメリカの外交政策に長く関与し、核軍縮に強いこだわりを持つ政治家として知られている。核兵器が果たす役割を減らしていくことで核兵器への依存をなくし、「核なき世界」の理想に近づけるというのが持論だ。
2020年の大統領選では核軍縮を進めることを公約に盛り込み、“核兵器の目的は核攻撃の抑止と報復だけに限定する”と唱えた。これは「唯一の目的」と呼ばれる政策で、核兵器の使用基準を厳格化することを意味する。アメリカが率先して核兵器の役割低減を進めていけば、他国もそれに追随するはずだという信念があった。
しかし、バイデン政権として去年10月に公表した「核戦略の見直し」(NPR)には、「核抑止力の維持は国家の最優先任務である」と位置付け、核兵器の近代化を引き続き進めることを確認した。
しかし、バイデン政権として去年10月に公表した「核戦略の見直し」(NPR)には、「核抑止力の維持は国家の最優先任務である」と位置付け、核兵器の近代化を引き続き進めることを確認した。
核兵器の使い勝手を悪くしかねない「唯一の目的」は盛り込まれることはなく、トランプ前政権の方針をほぼ踏襲する形となった。背景にあるのは、核をめぐる国際情勢の急激な変化だ。
■2つの核大国、ロシアと中国に対峙する局面
ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用も辞さないと脅しをかけるだけでなく、米ロの間で唯一残る核軍縮の枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行を一方的に停止した。
■2つの核大国、ロシアと中国に対峙する局面
ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用も辞さないと脅しをかけるだけでなく、米ロの間で唯一残る核軍縮の枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行を一方的に停止した。
情報公開を拒み不透明なかたちで核戦力を増強させる中国は、2035年には現在の4倍近い1500発の核弾頭を保有すると見られている。北朝鮮は戦術核の大量生産を新たな目標に掲げ、先制使用の可能性さえ示唆している。
アメリカが核兵器の使用条件を厳しくすることは、日本や韓国、欧州の同盟国にとって核抑止の効果を下げ、安全保障を損ないかねないという懸念があった。
アメリカが核兵器の使用条件を厳しくすることは、日本や韓国、欧州の同盟国にとって核抑止の効果を下げ、安全保障を損ないかねないという懸念があった。
また、中国の台頭によって、アメリカは史上初めてロシアと中国という2つの核大国を同時に抑止しなければならないという未来が待っている。バイデン氏としては持論を封印し、現実的な対応をせざるを得なかった。
■核兵器への言及はわずか…会見の7割は債務上限問題に
米シンクタンク・軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、こうしたバイデン氏の“変節”を「非常に失望した」とした上で、広島でのG7サミットでは「核軍拡競争から脱却するための具体的なステップを説明する機会にもなる。バイデン氏は広島で核なき世界に向けたビジョンを説明する特別な機会と責任を担っている」と私の取材に答えた。
広島で何を感じ、何を考えたのか。滞在最終日の21日夜、バイデン氏が記者会見に臨んだ。冒頭、債務上限問題に触れた後、今回のG7サミットの成果について語り始め、原爆資料館の訪問について、こう述べた。
「原爆資料館を訪れたことは、核戦争の破滅的な現実と、平和を構築する努力を決して止めないという共通の責任を強く思い起こさせるものであった。G7の首脳と共に核兵器のない世界を目指して努力し続ける決意を表明した。」
しかし、広島や核兵器についての言及はわずかこれだけ。質問の7割はアメリカメディアによる「債務上限問題」に集中したまま、記者会見は打ち切られてしまった。
■バイデン大統領が原爆資料館で記した言葉
今回のG7サミットでは、岸田総理が主導する形で、核軍縮に特化した首脳文書「広島ビジョン」が発表された。ロシアによる核の威嚇も使用も許されないと断じつつ、核兵器が持つ抑止力の重要性にも力点を置いた。また、「核兵器のない世界という究極の目標」を再確認する一方で、核軍縮はあくまで「全ての者にとっての安全が損なわれない」ことが条件だとした。
被爆地・広島でのサミット開催ではあったが、国際情勢の急速な悪化を受けて、核軍縮が後退した印象は否めない。だが、G7の首脳が一堂に会して原爆資料館を訪問した意義は、軽んじられるものではないだろう。(中略)
バイデン氏は先月、再選を目指し来年の大統領選挙への出馬を正式に表明した。「信念を貫く」という言葉が言葉だけで終わらないよう、現実と理想のはざまで核軍縮をいかに進めていくるのか。これは唯一の被爆国・日本で生きる、私たち一人一人に突きつけられた重い課題でもある。ANN ワシントン支局長 (テレビ朝日)梶川幸司【5月22日 テレ朝news】
■核兵器への言及はわずか…会見の7割は債務上限問題に
米シンクタンク・軍備管理協会のダリル・キンボール会長は、こうしたバイデン氏の“変節”を「非常に失望した」とした上で、広島でのG7サミットでは「核軍拡競争から脱却するための具体的なステップを説明する機会にもなる。バイデン氏は広島で核なき世界に向けたビジョンを説明する特別な機会と責任を担っている」と私の取材に答えた。
広島で何を感じ、何を考えたのか。滞在最終日の21日夜、バイデン氏が記者会見に臨んだ。冒頭、債務上限問題に触れた後、今回のG7サミットの成果について語り始め、原爆資料館の訪問について、こう述べた。
「原爆資料館を訪れたことは、核戦争の破滅的な現実と、平和を構築する努力を決して止めないという共通の責任を強く思い起こさせるものであった。G7の首脳と共に核兵器のない世界を目指して努力し続ける決意を表明した。」
しかし、広島や核兵器についての言及はわずかこれだけ。質問の7割はアメリカメディアによる「債務上限問題」に集中したまま、記者会見は打ち切られてしまった。
■バイデン大統領が原爆資料館で記した言葉
今回のG7サミットでは、岸田総理が主導する形で、核軍縮に特化した首脳文書「広島ビジョン」が発表された。ロシアによる核の威嚇も使用も許されないと断じつつ、核兵器が持つ抑止力の重要性にも力点を置いた。また、「核兵器のない世界という究極の目標」を再確認する一方で、核軍縮はあくまで「全ての者にとっての安全が損なわれない」ことが条件だとした。
被爆地・広島でのサミット開催ではあったが、国際情勢の急速な悪化を受けて、核軍縮が後退した印象は否めない。だが、G7の首脳が一堂に会して原爆資料館を訪問した意義は、軽んじられるものではないだろう。(中略)
バイデン氏は先月、再選を目指し来年の大統領選挙への出馬を正式に表明した。「信念を貫く」という言葉が言葉だけで終わらないよう、現実と理想のはざまで核軍縮をいかに進めていくるのか。これは唯一の被爆国・日本で生きる、私たち一人一人に突きつけられた重い課題でもある。ANN ワシントン支局長 (テレビ朝日)梶川幸司【5月22日 テレ朝news】
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バイデン大統領などの原爆資料館訪問は非常に“敏感”な問題であるだけに、調整も難航したようです。結局、完全非公開で行われました。そのことへの批判もあります。
****G7史上初なのに完全非公開 原爆資料館での首脳たちを見せない「中途半端さ」の裏側***
先進7カ国(G7)首脳が19日、史上初めてそろって被爆地・広島を訪問し、原爆資料館を視察した。ただ、視察の様子は完全非公開で、日本政府はメディアの館内取材を認めず、首脳らが見た展示品の詳細を明らかにしない姿勢に徹した。核兵器保有国の米英仏に対する配慮が際立った。 (川田篤志、曽田晋太郎)
◆オバマ氏は10分間だった
「G7首脳に被爆の実相を見てもらう」。岸田文雄首相は昨年に広島でのサミット開催を決定して以降、何度も繰り返してきた。
脳裏には7年前の経験がある。当時のオバマ米大統領が現職大統領として広島を初訪問した際、外相として案内役を務めたのが首相。原爆を投下した側の大統領が被爆地で演説し「核兵器なき世界」の追求を訴え、被爆者と抱擁した歴史的な出来事だった。
だが、原爆資料館の滞在は入り口のある東館の玄関ロビーでの10分間にとどまり、館側が用意した折り鶴など数点の収蔵品を見ただけだった。
広島サミットでは、視察のテーマにずばり「被爆の実相」を掲げ、犠牲者の写真や遺品などが並び、それを最も感じられる本館での展示品を見てもらうことが必要だと考えていた。
◆「センシティブな問題」慎重だった米仏
だが、各国との調整は難航。外務省関係者によると、米国とフランスが特に慎重だったという。
フランスは1月、核兵器を「防衛の要」と位置付けた中期国防計画の骨格を発表。マクロン大統領は「抑止力がこれほど必要と思われたことは、かつてない」と核抑止への傾倒を強めている。
広島で核兵器がもたらす「負」の側面に焦点が当たりすぎると、抑止力を強める立場と矛盾するとの論理が働いていると日本政府関係者はみる。
米国の場合、「戦争終結のために原爆投下は必要だった」との国内世論が根強いことが影響しているという。バイデン大統領が資料館をじっくり視察すれば、国内で反省していると受け取られて批判を浴びる可能性があり、日本の外務省幹部は「米側は見学の様子は見せたくない。センシティブな問題だ」と漏らす。
ぎりぎりの調整で、日本政府としてG7首脳が館内をどう回り、本館に足を運んだのかも明らかにしない対応に行き着いた。
滞在はオバマ氏より長い40分間だったが、首相は19日夜も記者団に詳しい内容を説明せず「準備の過程で非公開にすることになった」と話した。館内でのG7首脳と被爆者の面会も非公開で、被爆の実相に触れてもらったとしても発信は抑制的になった。
上智大学の前嶋和弘教授(米国政治外交)は取材に「G7首脳が訪問したのはすごいことだと思うが、本館に行ったかどうかを含めて公開していいはず。核なき世界を訴える機会としては残念だった」と指摘。「核廃絶がG7の優先順位のトップに行かない難しさが、今回の中途半端さにつながった」と分析している。
◆世界中で高まる核の脅威
岸田文雄首相はG7広島サミットをきっかけに、「核兵器のない世界」への機運醸成を狙うが、核軍縮や核廃絶の動きは減速どころか逆行しているのが現実だ。
ストックホルム国際平和研究所によると、世界の核保有9カ国が持つ核弾頭数は2022年1月時点で、計1万2705発に上る。トップのロシアが5977発、米国が5428発と続き、両国で世界の9割弱を占める。
冷戦後の米ロ核軍縮交渉で12年に2万発を切ったが、近年は減り幅が鈍化している。米ロは核戦力を強化する近代化を進め、爆発力を抑えた「使える核」の開発を続ける。
ロシアは14年のクリミア半島併合を機に「G8」から排除され、ウクライナに侵攻した今、核使用の脅しを繰り返す。
東アジアでは中国が核戦力を増強させ、35年までに1500発まで増やすと指摘され、核軍縮のテーブルに着く気配すらない。北朝鮮も核・ミサイル開発を推進。中東ではイランが核開発を進めている。核の脅威は高まっている。
◆被爆者「核軍縮と全く真逆の方向に」
首相は核保有国が核軍縮を約束した核拡散防止条約(NPT)の信頼性を再構築すると訴える。しかし、一方的に脱退を表明した北朝鮮を含め、核を保有する9カ国のうち4カ国はNPTに入っておらず、同条約の枠組みだけでは問題は解決しない。
さらに、核軍縮の停滞に非保有国から批判が高まり、核兵器の全面違法化と廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効したが、保有国は反発。米国の「核の傘」に頼る日本も参加していない。(後略)【5月20日 東京】
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現実問題としては“米国の「核の傘」に頼る日本”の国民としては、“葛藤”を抱えたバイデン大統領以上に、様々な思いがあるところであり、また、改めて考える必要があるところです。
バイデン大統領はG7広島サミットを終えて、原爆資料館訪問について「この街に来て原爆資料館を訪れ、核戦争の悲惨な現実を強く思い知らされました」と語っています。