孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺の賠償責任を初めて認定する判決 政権は「調査せず」

2023-05-26 22:48:58 | 東アジア

(ベトナム戦争中、韓国軍による作戦で母を殺されたグエン・ティ・タンさん(2015年、写真/村山康文)【2022年8月27日 NEWSポストセブン】)

【タブー視されてきたベトナム戦争参戦時の戦争犯罪】
韓国でいわゆる「反日」、日本政府の謝罪要求が問題になるとき、韓国内・日本で「じゃ、こっちはどうよ?」と問題になるのが、ベトナム戦争に参戦した韓国兵士によるベトナム人虐殺等の戦争犯罪の問題です。

韓国は1964年の第一次派兵から1966年の第四次派兵に渡る朴正煕軍事政権下でベトナムへの派兵を行い、韓国軍からは4968人の戦死者、負傷者8004人を出しています。

経済的には、「ベトナム特需」と言うべきものも生まれ、韓国の高度成長の基礎ともなりました。

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韓国大統領の朴正熙は、1961年11月の訪米時にアメリカの歓心と自身の政権の正当性を確保するため、当時の大統領ジョン・F・ケネディに対し、韓国軍のベトナム戦争への派兵を申し出た。

南ベトナムに派兵された韓国軍は、2個師団プラス1個旅団の延べ3.1万名。最盛期には5万名を数えた。また、「ベトナム特需」を当てこんだ産業資本や出稼ぎの民間人も進出し、これも最盛期には2万人近くがベトナムに赴いた。

韓国軍兵士や出稼ぎの民間人による本国への送金は、年に1億2千万ドルを数え、1969年の韓国の外貨収入の2割に達した。1965年から1972年までのベトナム特需の総額は10億2200万ドルにのぼる。

これはアメリカによる軍事・経済援助、日韓基本条約による莫大な援助と合わせて、漢江の奇跡の基礎となった。【ウィキペディア】
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その一方で、戦闘地域では大規模な戦争犯罪も起きたとされています。

*****大韓民国国軍のベトナム参戦*****
ベトナムメディアの『Vnエクスプレス(英語版)』によると、30万人以上の韓国軍兵士がベトナム戦争に派遣され、9000人のベトナム民間人が殺害された。

生存者の韓国軍の行為に関する証言で共通な点は、無差別機銃掃射や大量殺戮、ベトナム人女性に対する強姦、殺害、家屋への放火などである。

1966年2月、ビンディン省タイヴィン村では韓国軍猛虎部隊が住民68名を集めて婦女子を含む65名を虐殺した。現場であったタイヴィン村で2015年2月26日に開かれた犠牲者49周年慰霊祭には村の全ての人々が集まった。

『ハンギョレ』によると、虐殺事件のあったビンホア村では、今も村の入り口までしか韓国人の出入りを許さず、アメリカ軍の被害にあった隣のミライ村では、アメリカによる被害者に対する支援が行われているが、ビンホア村では韓国の支援がないことからか、「韓国軍にやられるのなら、アメリカ軍にやられた方がましだった」との声がある。

ベトナムの人びとは韓国軍兵士に抹殺された村ごとに碑を建て、「『ダイハン』の残虐行為を忘れまい」と誓いあっている。【ウィキペディア】
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韓国軍兵士による戦争犯罪については国内左派からの批判がある一方で、歴代韓国政権にとっては、保守派の反発に配慮し、一種のタブー的なものともなっています。 保守派政権にとっては「当然」とも言えますが、左派・文在寅大統領にあっても、この姿勢に大きな変化はありませんでした。

なお、2001年に韓国の金大中大統領はベトナム国家主席に対し、韓国軍のベトナム戦争参戦に遺憾の意を表していますが、後に大統領となる朴槿恵氏は「参戦勇士の名誉を傷つけるものだ」と激しく批判しています。 まあ、父親の「偉業」ですから、そういうことにもなるのでしょう。

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朴槿恵は大統領就任以来、日本に対し「過去を直視せよ」と迫り、2013年8月15日の光復節では「過去を直視する勇気と相手の痛みに対する配慮がなければ未来を開く信頼を重ねていくことは厳しい」と演説したが、2013年9月のベトナム訪問では、ベトナム戦争時の韓国軍兵士に性的暴行されたベトナム人女性や虐殺されたベトナム人遺族に対する謝罪は一切なく、「過去を直視する勇気と相手の痛みに対する配慮」を示すことはなかった。

2013年9月の朴槿恵大統領のベトナム訪問では、ホー・チ・ミン廟の参拝や献花の時を含めてベトナム戦争についてまったく触れず、ベトナム戦争時に韓国軍兵士に性的暴行されたベトナム人女性や虐殺されたベトナム人遺族に対して謝罪をしなかったが、『ハンギョレ』は、韓国が日本に対してしきりに「歴史直視」を要求していることと矛盾していると批判している。(中略)

2017年6月6日に韓国の文在寅大統領は、顕忠日の追悼式で「ベトナム戦争参戦勇士の献身と犠牲を土台に祖国の経済が復活した」「今日の韓国経済があるのはベトナムで戦った元軍人たちの献身と犠牲があってのことです」と述べた。

この韓国軍兵士によるベトナム民間人虐殺への賛辞とも受け取れる発言に対して、ベトナム外務省(英語版)は在ベトナム韓国大使館(朝鮮語版)を通じて韓国政府に抗議した。

また、ベトナム外務省はホームページで「韓国政府がベトナム国民の感情を傷つけ、両国の友好と協力関係に否定的な影響を与えかねない言動をしないよう要請する」と表明した。

さらに『朝鮮日報』によると、ベトナムメディアは韓国軍が9000人余りのベトナム民間人を虐殺したにも関わらず、韓国政府はこれを認めていないと批判している。【ウィキペディア】
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あの文在寅大統領にしても“触れられない”事案のようです。

【今も続く「ライダイハン」の苦しみ】
韓国軍の戦争犯罪は、当時の犯罪行為にとどまらず、「ライダイハン」と呼ばれる子供達の形で今も続いています。

****ライダイハン ベトナム戦争時の韓国軍の所業を英BBCが報道****
英国の公共放送である英国放送協会(BBC)が3月にベトナム戦争当時の韓国兵による女性への性的暴行を特集で伝えたことが、日韓外交の関係者らの間で反響を呼んでいる。

韓国政府は国連の場でも、旧日本軍のいわゆる慰安婦問題を再三取り上げてきたが、ベトナムでの自国兵の行為について謝罪はしていない。BBCは、韓国の二重規範についても指摘している。 

BBCは3月27日、ウェブサイトに、「1968-何百人もの女性を苦しめた年」と題した記事を掲載し、韓国軍兵士から被害を受けた2人のベトナム人の境遇を詳しく伝えた。そのうち1人は性的暴行を受け、3人の子供を身ごもった女性だった。

ベトナム戦争時に韓国軍兵が現地の女性を性的に暴行するなどして生まれた混血児は、「ライダイハン」の蔑称で呼ばれ、ベトナムで差別を受けてきた。その数は定かでないが、5000~3万人に上るとの説がある。

記事は、ライダイハンとその母親や家族らが差別などで苦しんできたことに触れ、「韓国人に何が起きたのかを認めてもらう必要がある」との被害女性の訴えを紹介。ストロー元英外相が「国際大使」として関わる民間団体「ライダイハンのための正義」が、国連人権理事会による調査や韓国側の謝罪を求めていることも伝えた。

さらに「韓国は、第二次世界大戦中に、何十万人もの韓国人女性が性奴隷として働かされたことをめぐり、謝罪をするよう何十年も日本に働きかけてきた」と指摘。「何十万」という数字や「性奴隷」といった表現には問題があるものの、日本に謝罪を求めながら、自らの問題には頬かむりする韓国の姿勢を浮かび上がらせた。【2020年4月4日 産経】
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【韓国軍による民間人虐殺の賠償責任を初めて認定する判決】
上記のような韓国社会・政治に刺さった骨のようなベトナム参戦問題ですが、今年2月にはソウル中央地裁で、韓国軍による民間人虐殺の賠償責任を初めて認定する判決がありました。

****「民間人殺傷は正当行為」との韓国政府の主張退ける ベトナム戦争時の軍による虐殺、地裁が賠償命令****
ベトナム戦争に派遣された韓国軍による民間人虐殺を巡り、韓国の裁判所が初めて韓国政府の責任を認めた。

虐殺で家族を奪われたベトナム人女性が韓国政府を相手取り2020年に起こした訴訟で、ソウル中央地裁は今月7日、政府に慰謝料約3000万ウォン(約310万円)の支払いを命じた。

韓国の弁護士らが国をまたいだ国家賠償訴訟を支援しており、日韓の懸案である元徴用工訴訟ともやや似た構図。一審判決は、国家の論理より被害者個人の救済を重視する結論を出した。(ソウル・木下大資)

◆参戦した韓国軍人が証言
原告は、1968年に韓国軍海兵隊の軍人らがベトナム中部の村で70人以上を虐殺したとされる事件の生存者グエン・ティ・タンさん(62)。きょうだいらを射殺され、自身も腹部に銃撃を受け重傷を負った。
地裁は、参戦した韓国の軍人の証言などから、タンさんの訴えの大部分を認めた。敵兵と住民を区別しにくいベトナム戦争の特性上、「民間人を殺傷したとしても正当行為だった」とする政府側の主張は退けられた。

韓国政府は65年にベトナム、米国との間でそれぞれ締結した約定書により、ベトナム人が韓国で裁判を提起することはできないとも主張。地裁は「軍当局間で締結した合意にすぎず、条約としての効力を持たない」として、被害者が韓国の裁判所に訴える権利は妨げないとした。

賠償請求権の消滅時効が過ぎたかどうかも争点だった。地裁は、近年になって韓国で虐殺の真相究明に取り組む民間団体が証拠資料を確保するまで、被害者が実質的に訴訟を起こせる状態ではなかったと指摘。「原告は訴訟を提起するまで、債権者の権利を行使できない障害事由があった」と判断した。

◆「被害者個人に焦点を合わせなければならない」
韓国軍のベトナム人民間人虐殺は、20年余り前に韓国の週刊誌報道をきっかけに浮上。進歩派の弁護士や市民らが被害者との連帯や真相究明を目指す活動を展開した。

一方で、虐殺の暴露は参戦した軍人への名誉毀損きそんだとの保守的な考えも残る。ベトナム政府も内戦の記憶に触れることに消極的だったこともあり、韓国政府は虐殺を明確には認めてこなかった。

韓国軍による虐殺の被害者は9000人以上との見方があり、韓国メディアでは「今後、類似の訴訟が相次ぐ可能性がある」と懸念する論調もある。李鐘燮イジョンソプ国防相は「国防省が確認したところでは虐殺は全くない。判決には同意できない」との立場を示した。

原告代理人で、元徴用工訴訟も担当する林宰成イムジェソン弁護士は「こうした問題を、国家を中心とする外交問題として語ることは20世紀的な発想だ。被害者個人に焦点を合わせなければならない」と語る。【2月22日 産経】
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韓国メディアによると、判決は当時の村民や参戦した元兵士の証言を基に、韓国軍による虐殺などの事実を認定。韓国軍兵士らが「村民らを一カ所に集め銃殺した」などと指摘しています。

【政権はこの問題への関与に消極的】
ただ、保守派・尹錫悦政権は、この問題を深掘りすることは避ける姿勢です。

****ベトナム民間人虐殺「調査せず」 韓国政府機関が決定****
韓国政府の人権侵害調査機関「真実・和解のための過去事整理委員会」は24日の会合で、ベトナム戦争に派遣された韓国軍兵士による民間人虐殺に関する調査を行わないと決定した。真相究明に消極的な韓国政府の姿勢が改めて示された。

韓国は米国が支援した南ベトナムに派兵した。韓国の研究者などは、韓国軍兵士に虐殺されたベトナムの民間人は約9千人に上る疑いがあると指摘しているが、政府機関が調査に着手しないと決めたことで全容解明は遠のいた。
 
4日の会合で野党推薦の委員3人は調査開始を求めたが、尹錫悦政権側が推薦した委員ら4人が反対し、却下された。【5月24日 共同】
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【台頭する極右勢力 済州島「4・3事件」正当化】
政権自体の性格もありますし、韓国では今、極右勢力が台頭するような社会風潮もありますので、この問題に立ち入ることは強い軋轢を生むことが予想されます。

****数万人が虐殺された韓国・済州島「4・3事件」、なぜ事件を正当化する勢力が台頭しているのか 人気ドラマ「私たちのブルース」の舞台は今****
日本でも人気となった昨年の韓国ドラマ「私たちのブルース」の舞台、韓国・済州島では、今から75年前に、軍などが数万人の民間人を虐殺する事件があった。島民の約1割が犠牲になったといわれ、海を渡り、日本に逃れた人も多い。

最近、韓国国内では虐殺を正当化するような極右団体の動きが目立ち、遺族を不安にさせている。その一方、地元自治体や遺族は「悲劇が繰り返されないように」と、虐殺に関する記録などを国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国の遺産として登録させる努力を進めている。(共同通信=富樫顕大)

▽隠された3万人犠牲
済州島は、韓国本土から南に約100キロ、青い海に囲まれた火山島だ。自然が豊かな観光地で、近年は、韓国本土の人が数週間〜数年移住する「チェジュサリ(済州暮らし)」もブームになっている。(中略)

米国が軍政を敷いていた1948年4月3日、済州島で、共産主義に共鳴する左派の武装勢力は、朝鮮半島の南北分断に反対し、蜂起した。

韓国軍、警察、極右団体が、多くの住民を同調者と見なして殺し、武装勢力の側も一部の住民を殺害した。2003年にまとめられた政府機関の調査報告書では、鎮圧作戦が完了するまでの7年ほどの間に、推計2万5千〜3万人が犠牲になったとされる。
討伐側による犠牲が8割程度を占めるが、1980年代の軍事政権時代まで真相は隠されていた。軍などに殺された人の遺族は監視され、就職で差別も受けた。一連の虐殺は、蜂起の日付から「4・3事件」と言われる。

▽歴史歪曲による苦しみ
「歴史的真実の歪曲、中傷のせいで、遺族の傷はまだ癒えていないのに、再び皮膚を引き裂かれる深い痛みに苦しんでいる」。4月3日、強い風が吹き付ける済州島の公園で開かれた追悼式典で、遺族代表は訴えた。
保守系与党の指導部メンバーで、脱北者の太永浩・国会議員が2月以降、具体的根拠なく「事件は(北朝鮮を建国した)金日成(主席)が起こした」との持論を繰り返し、3月には複数の極右系の少数政党が「事件は共産主義の暴動だ」と、住民虐殺を正当化するような横断幕を島内の各地に設置していたのだ。

横断幕は3月末に、自治体が強制撤去した。しかし、事件当時に住民を殺害した極右団体「西北青年団」を名乗る団体が追悼式典の会場近くに押しかける騒動もあった。この団体は虐殺について「自由民主主義を守るために不可避だった」などと主張している。

▽済州島出身者へのいじめ
今年2月、尹錫悦大統領が韓国の警察組織ナンバー2である国家捜査本部長に任命した元検察幹部の息子による校内いじめが発覚した。この息子が数年前に、韓国の北東部にある全寮制の有名進学高校の寮で、済州島出身の同級生を「アカ(共産主義者)」などといじめ、自殺未遂に追い込んでいたというものだ。(中略)

尹政権は事態収拾を急ぎ、この元検察幹部の任命を取り消したが、済州島では、いじめで済州島出身者が「アカ」と呼ばれたことに多くの人が憤った。(後略)【5月26日 47NEWS】
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【保守派主導で改善する日韓関係 もう一段の働きかけも】
一方で、保守派・尹錫悦政権の誕生で両国首脳のシャトル外交復活など日韓関係が大きく好転していることは周知のところです。

****韓国国防省が容認「国際慣例に従う」 海自艦「旭日旗」掲げ入港へ****
韓国国防省は25日、今月末に南部済州(チェジュ)島沖の公海上で実施される多国間訓練に際し、海上自衛隊の護衛艦が自衛艦旗である旭日旗を掲げ韓国国内に入港することについて「国際慣例に従う」として容認する姿勢を示した。

訓練は日米韓豪の艦船などが参加し、31日に実施。北朝鮮への大量破壊兵器の密輸入を想定し、違法運送が疑われる船舶の探索や乗船検査のシミュレーションを行う。海自の護衛艦は、訓練に際し南部釜山(プサン)港に入港するとみられる。

韓国国防省の報道官は25日の会見で、外国に入港する艦艇が国旗や軍旗を掲揚するのは「世界中で共通」だと指摘。すべての訓練参加国に「国際慣例と相互主義」が適用されると述べ、旭日旗の掲揚に問題はないとの認識を示した。

韓国国内では、旭日旗の掲揚に対し「軍国主義の象徴」だとの反発が上がる。文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の2018年、韓国で開催された国際観艦式では、日本側に旭日旗の掲揚自粛を求め、日本は参加を取りやめた。同年12月には韓国海軍駆逐艦による海自哨戒機への火器管制レーダー照射問題も発生し、防衛当局間の関係は悪化の一途をたどった。

一方、昨年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗し、日本との安全保障協力の強化を重視。昨年11月には、日本で開催された国際観艦式に、韓国軍が15年以来約7年ぶりに出席していた。【5月25日 産経】
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日本にとっては、こうした日韓関係改善の流れは歓迎すべきものですが、韓国内の保守vs.左派の対立の構図の中で、保守派の主張にのっかるだけでは、将来韓国内の政治バランスが再び左派に揺り戻した際に、「ゴールポストがまた動いた」というような事態にもなりますので、左派層を含めた韓国全国民を念頭に置いた、韓国国民の琴線に触れるような対応・働きかけが今後も必要と思われます。
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