孤帆の遠影碧空に尽き

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アメリカ  「移民がペットを捕まえて食べている」 偽情報拡散の構図

2024-09-23 23:08:50 | アメリカ

(Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。【9月21日 NHK】)

【トランプ氏 司会者の警告をさえぎって「移民がペットを捕まえて食べている」と主張】
アメリカ大統領選のテレビ討論会で、トランプ前大統領が「移民がペットを捕まえて食べている」という“デマ情報”と一般的には見られている内容を、司会者の警告にもかかわらず主張し、注目されました。

****「移民はペットを食べている」? 米大統領選討論会、両候補の発言ファクトチェック****
米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ前大統領は10日夜、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領との初のテレビ討論会で、移民による犯罪、インフレ、後期妊娠中絶について複数の虚偽発言を繰りかえした。

一方、ハリス副大統領も、トランプ政権下での雇用喪失について誇張された主張を行ったとしてファクトチェック警告を受けた。 

CNNのファクトチェック担当記者ダニエル・デールによると、討論会の中でトランプは少なくとも33回にわたり虚偽の主張を行い、そのうちいくつかは壇上でABCテレビの司会者によって誤りを正された。 

ハイチ移民がペットを食べている? 
トランプ氏は、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が「犬を食べている。猫を食べている。連中が食べているのは、そこに住んでいる人々のペットだ」と発言した。

これは、共和党の副大統領候補J.D.ヴァンスと複数の右派議員や右派コメンテーターが広めた虚偽の主張だ。 スプリングフィールドの警察当局はこの主張をはっきりと否定しており、フォーブスの取材にも「移民によってペットが傷つけられたり、けがをしたり、虐待されたりしたという信憑性のある報告や具体的な訴えはない」と答えている。 

トランプの発言を受け、司会者のデービッド・ミュアーがスプリングフィールド当局者の話を引き合いに出してただちに事実確認を行ったが、トランプは「テレビで」「私の犬が連れ去られ、食用にされた」と言っている人々の声を聞いたと改めて主張した。 

トランプはまた、民主党が大統領選で不法移民に投票させようとしているという根拠のない主張を繰りかえした。この点について専門家は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団を含むさまざまな情報源のデータを引用し、米国の選挙で外国人(外国籍者)が投票する事例は「非常にまれ」であり、不法移民が投票することは「さらにまれ」だと指摘している。 

米国のインフレ率についても、トランプは「おそらく米国史上最悪だ。(中略)21%だった」と述べたが、これは事実と異なる。インフレ率は2022年半ばに9.1%と40年ぶりの高水準まで上昇したが、1980年代には14%、1974年には11.1%を記録している。 

妊娠中絶問題 
妊娠中絶の問題では、トランプは民主党を「急進派」として印象づけようと試み、ハリスの副大統領候補ティム・ウォルツが「妊娠9カ月での中絶はまったく問題ないと言っている」「出生後に殺してもOKだと言っている」などと虚偽の主張をした。即座に司会者のリンジー・デービスが「生まれた赤ちゃんを殺すことが合法な州は米国にはない」と訂正した。(中略)

ハリスの主張にも虚偽の指摘 
一方のハリスは、トランプが「大恐慌以来最悪の失業率を残した」と誤った主張をした。米国の失業率はトランプ政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後、1930年代の世界恐慌以降で最悪の14.8%に上昇した。しかし、トランプの任期中に失業率は低下し、ジョー・バイデン大統領が就任した際には6.4%だった。 

ハリスはまた、水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発(フラッキング)について、自身の考えを「2020年に明言した」と述べたが、これは完全には正しくない。(後略)【9月12日 Forbes】
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【情報拡散の発端となった女性「こんなことになるとは思ってもみなかった」】
この種の根拠のないデマはどのようにして広がったのか?

****“移民がペットを食べている””根拠ない情報はどう広がったか****
(中略)
情報の発端は
否定されたにも関わらず、「移民がペットを食べている」とする主張はいまも広がり続けています。この根拠のない情報はどこから来たのか。

最初に広がったのはアメリカの右翼団体などが多く使うとされるSNS「Gab」だったとみられています。

7月下旬に画像掲示板サイトに投稿された、黒人の男性がガチョウの死体を運んでいる画像に、「ハイチ人は公園のガチョウやアヒルを無料の食事だと思っている」とする情報が書き込まれて投稿されました。
この画像はスプリングフィールドで撮影されたものではなく、さらに男性がハイチからの移民だという情報はありません。

また、スプリングフィールドの警察も、この時点でアメリカの公共ラジオNPRの取材に対して、「『ハイチからの移民が公園でアヒルを殺している』といった報告を受けているが、そのようなものは現認していない」と否定しています。

舞台となった”スプリングフィールド”とは
 オハイオ州のスプリングフィールドは人口6万人近く。生活費が安く、工場などでの労働者が足りず仕事が得やすいという情報がハイチ人コミュニティーに広がったことで、ここ数年ハイチなどからの移民が急増し、その数は周辺を含めて1万5000人ほどとされています。

ハイチの人たちは、ハイチで不安定な情勢が続き、安全が確保されていないとして、アメリカ政府が滞在を認める措置をとっていて、スプリングフィールド市はハイチからの移民は不法滞在ではないと説明しています。

近所の人の友人が…
スプリングフィールドでは、8月27日にもインフルエンサーを名乗る住民が市の委員会で「ハイチ人が公園でアヒルを切りつけて食べている」と根拠不明の主張を行いました。

さらに9月上旬には地元住民のフェイスブックのグループに、「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」といううわさ話が書き込まれました。
この投稿はXで拡散し、さらに最初に広がった「ガチョウの死体を持つ黒人男性」の画像をつけたものも広がりました。

しかし、投稿を書き込んだ女性はロイター通信の取材に対し、「近所の人から聞いた」と答え、その「近所の人」も「友人が友人から聞いた」と明かしています。 もとの投稿自体、「誰かに聞いた」という伝聞で根拠が不明な情報でした。(中略)

副大統領候補も イーロン・マスク氏も
この情報は根拠不明にもかかわらず、多くのフォロワーを持つ政治家なども加わって、さらに拡散されました。

9月9日には共和党の副大統領候補、バンス上院議員がXに「報告によると、この国にいるべきではない人々にペットが誘拐され食べられた」などと投稿、9月20日正午までで1100万回以上閲覧されました。

さらにトランプ氏に近い極右のインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏や実業家のイーロン・マスク氏らも同様の情報を投稿し、なかには5000万回以上閲覧されたものもありました。

地元の当局が重ねて否定しても拡散は収まらず、バンス氏は「これらのうわさがすべて嘘であることが判明する可能性もあります」としながら、猫についての話を広げるよう呼び掛けました。

イーロン・マスク氏の投稿それを受けて、Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。

地元当局 “必要ない恐怖や分断が”
そして、9月10日に開かれた大統領候補の討論会での発言を受けて、この情報はさらに拡散することになりました。

地元スプリングフィールド市の当局者は、NHKの取材に対して「移民の人たちがペットに危害を加えたといった確たる情報はない」としています。

スプリングフィールド市内の小学校市内では、ハイチ出身の人たちの子どもも通う学校などに爆破予告の脅迫もありました。それにも触れて、次のようにコメントしています。

「誤った情報が拡散し、私たちのコミュニティーに大きな影響を与え、必要のない恐怖や分断をもたらしていることを深く懸念している。私たちは言論の自由を支持するが、事実にもとづかない言葉は深刻な影響を伴う可能性がある。すべての人に対し、情報を共有するにあたっては十分に注意し、責任を持って対応することを求める」

否定されても拡散
地元の警察やオハイオ州知事も発言を否定しましたが、拡散は収まる気配がなく、討論会後の9月14日には「移民が実際にオハイオ州で猫を食べている」とする動画が拡散し、2600万回以上再生されました。

投稿した人物は、スプリングフィールドから40キロほど離れたオハイオ州デイトンでコンゴからの移民を撮影したと主張しています。

デイトンの警察は「移民コミュニティーを含むいかなるグループもペットを食べる行為に関与していることを示す証拠はまったくありません」とする声明を発表しました。

なぜここまでの拡散が?
アメリカ政治や政治のコミュニケーションに詳しい慶応大学の烏谷昌幸教授に聞きました。

烏谷教授 「反トランプやリベラル系の人たちからは、『また非常識なことを言っている』と見えるが、支持者の側から見ると不法移民がアメリカの小さな町を乗っ取ってしまうという、彼らが一番恐れていることを非常に生々しく伝えるエピソードになっている」

「トランプ氏が話題を設定していて、うそか本当かということが必然的に二の次になるようなものなのだと思う。ただ、今回も市の施設に爆破予告がされるなど暴力的な行動を結びつきやすくなっていて本当に深刻な問題だ」(後略)【9月21日 NHK】
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上記記事にもある「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」と9月上旬に地元住民のフェイスブックのグループに書き込んだ女性は・・・

*****「まさかこんなことになるとは…」トランプ氏の虚偽発言、発端はある女性の投稿か。後悔を口に****
(中略)Facebookに投稿した女性本人は、 NBCニュース の取材に対し「こんなことになるとは思ってもみなかった」と語った。

「ハイチ系住民のコミュニティに同情します。もし私がハイチ出身だったら、たしかに怖いです」
「彼らが愛しているものを傷つけていると思われても仕方がない。でも私が意図していたこととはまったく違うんです」

女性の発言は、NBCの番組内でも紹介された。女性は「私が間違っていた」と後悔と謝罪の言葉を口にしている。
SNSでは女性に対し、「自分の発言に責任を持ってほしい」と厳しい意見が上がっている。【9月22日 BuzzFeed】
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【支持者の不安を具現する「情報」 候補者は意図的に拡散】
ただ、烏谷教授が指摘しているように、トランプ支持者にとっては心中の不安を的確に示した情報であり、非常に安易に飛びついてしまうことになります。

****「移民がペット捕食」 トランプ氏支持者の過半数が陰謀論信じる****
米中西部オハイオ州スプリングフィールドでハイチからの移民が「ペットの犬や猫をさらって食べている」との陰謀論について、共和党のトランプ前大統領の支持者の計52%が「間違いなく本当」「おそらく本当」とユーガブ社の世論調査に回答した。

この陰謀論は今月に入ってソーシャルメディアで徐々に広がり、共和党副大統領候補のバンス連邦上院議員が9日にX(ツイッター)で言及したことで拡散。トランプ氏が10日の討論会で言及したことで波紋がさらに広がった。

11〜12日のユーガブ社の調査では、9%が「間違いなく本当」、17%が「おそらく本当」と回答。11月の大統領選で「トランプ氏に投票する」と答えた人に限定すると、22%が「間違いなく本当」、30%が「おそらく本当」と回答した。

スプリングフィールドでは過去数年間にハイチからの移民が集住するようになり、学校や病院などの対応が困難になっていた。しかし、「ペットをさらっている」との情報は確認されておらず、移民に対する差別感情をあおっている。

米メディアによると、討論会後には爆破予告が相次ぎ、市庁舎や学校が閉鎖を余儀なくされた。学校は再開に当たって警備を強化した。マヨルカス国土安全保障長官は17日、「爆破や暴力の脅迫があり、コミュニティーは非常に脅威を感じている」と懸念を示した。【9月18日 毎日】
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一方、候補者側からすれば、事実であろうがなかろうが、これほど支持者にアピールする話もないので、意図的に流布することにもなりがちです。

****ヴァンス氏、ハイチ移民が「HIVなどの感染症を増やしている」新たな差別的主張****
(中略)トランプ氏やヴァンス氏は発言を撤回、謝罪することはなく、むしろ新たな差別的虚偽情報を拡散させている。

ヴァンス氏は9月、ハイチ移民のせいで、スプリングフィールドではHIVや結核などの伝染病が増加している主張を繰り返しXに投稿した。

この主張に対し、州保健局のブルース・バンダーホフ局長は、州内で「重大あるいは認識できるような病気の増加は見られない」と否定している。 また、保健局は州内の感染症などのデータをウェブサイトに掲載しているが、目立った増加は見られない。

開発途上国では感染症が発生・流行する割合が高い。それは十分な医療環境が整っていないためであり、一定の国の人が病気を感染させやすいわけではない。

ヴァンス氏の「ハイチ移民が感染症を増やしている」という主張は、社会的に最も弱い立場の人たちを利用して支持を集めようとするだけではなく、世界の暗い歴史を繰り返す行為だ。

ドイツ・ナチス政権は「ユダヤ人がチフスを流行させている」という主張をプロパガンダとして使用し、医師らも加担した。(後略)【9月19日 HUFFPOST】
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【選挙戦術的に見て、デマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか  極めて微妙な選挙戦状況】
選挙戦術的に見て、このようなデマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか・・・よくわかりません。
コアな支持者に強烈にアピールするのは間違いないですが、中間的な立場の人々にあっては、眉をひそめる者も少なくないでしょう。

今回大統領選挙はどちらが勝利するのかわからない極めて微妙な戦いとなっています。

トランプ前大統領はネブラスカ州の選挙人5人の配分を巡り、一部を下院選挙区ごとに割り当てる現行方式から州全体の勝者総取りに変えるよう求めています。

ほとんどの州は“勝者総取り”ですが、ネブラスカ州は例外。現行方式ならハリス氏が選挙人を1名獲得する可能性がありますが、勝者総取りになればすべてトランプ氏が獲得すると見られています。

僅か選挙人1名ではありますが、“ハリス氏が優勢な州・首都の選挙人は225人。激戦7州のうちペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン各州の計44人を抑え、ネブラスカ州の1人を獲得すれば、ちょうど勝利に必要となる270人に達する。”【9月23日 読売】ということで、もし勝者総取りになればハリス氏は更にもう1州で勝利することが必要になり、選挙戦略が変わってきます。

変更を決定する州議会では共和党が決定に必要な3分の2を占めているということで、その対応が注目されています。

また、民主党でも共和党でもない“第3の候補”として、ハーバード大を首席で卒業した元医師の環境活動家、スタイン氏の存在が注目されています。イスラエルを批判し、気候危機対策で急進的な政策を標ぼうしています。

同氏の得票自体は極めて僅かで勝利は望めませんが、その支持層は民主党左派に重なります。もし1ポイントでもハリス氏からスタイン氏に票が流れると、選挙戦の結果を左右しかねません。

このように選挙人1名、得票率1ポイントはが勝敗を分けるかも・・・という微妙な選挙戦にあって、デマ情報拡散がどのような影響を与えるのか?

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