孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  深セン“政治特区”と小学校級長選挙

2008-06-20 18:09:53 | 世相

(中国 地区組織の党役員かなにかを選出する選挙公示みたいです。候補者の所信表明の後、質疑応答があり、投票が行われるそうです。 等額選挙でしょう。
写真を見ていて思い出しましたが、マンション組合の役員選挙などは比較的日本の選挙に近いイメージで行われているのをTV番組で観たことがあります。
“flickr”より By treasuresthouhast
http://www.flickr.com/photos/74568056@N00/2084086410/)

【異質な社会】
中国社会は日本的な価値基準・習慣・文化から眺めると、随分と異質な面が目立ちます。
その異質性への抵抗感がときに両者の隔たりを大きくし、時に攻撃的になったり、“上から目線”の見下したような反応にもなります。

政治の面で見ると、やはり共産党による一党支配というあの国の根幹から派生する諸問題が、その“異質性”の第一番目にきます。
日本的な価値観から見ると、選挙で立場・意見を異にする複数の者が国民の信任を求めて自由に競うことが、“民主的”な政治の大前提ではないかと思われます。

もっとも、“民主的選挙”なるものの実態は国によって随分異なります。
日本では一般に欧米と同等な“民主的選挙”が行われていると考えられていますが、アメリカの大統領選挙に見る“個人参加の草の根ぶり”や候補者のスピーチなどを見ると、候補者名を連呼するだけの日本の選挙を同じ“民主的選挙”としてくくっていいものか、非常に疑わしいものを感じます。
別に、日本的なものを否定するものではありませんが、要は国・社会によっていろんな背景があって、表に表れる姿には多様性があるということです。

さて、実質的共産党一党支配が“民主的”かどうかという大問題はパスしますが、中国でも複数候補者による選挙を導入しようという動きもあるそうです。

【政治特区】
****中国・深セン「複数候補で選挙」へ 挑戦「政治特区」へ****
【6月20日 産経】
 6月初め、深セン市は市人民代表大会(議会)で選出された市政府人事を発表した。市長1人と副市長9人の構成だが、定員1人のはずの常務副市長に2人が任命された。常務副市長は次期市長の筆頭候補であることから、これまでの常識では考えられない布陣だ。「2人を競争させ、その実績に応じて差額選挙(定員を上回る候補がいる選挙)で次期市長を選ぶのではないか」と分析する知識人が多い。
 中国では、実際は差額選挙が行われることはほとんどなく、党委員会が指定した候補者が、圧倒的多数の信任を得て当選する。候補者選びが不透明のうえ、市民の意見が反映されていないことで不満が多い。
 党官僚の腐敗が深刻化し、国民の政治不信が頂点に達しつつある中国では、政治改革を求める声が高まっている。胡錦濤政権は“経済特区”を進めたトウ小平氏に習い、限定された地域“政治特区”で政治改革の実験を始めようとしているようだ。
 しかし、“政治特区”の実施は共産党政権にとってリスクも大きい。選挙が実施されれば、反体制勢力が当選する可能性もある。中国メディアが深セン市での政治改革の動きをあまり大きく報じず、慎重に扱っているのはこのためだろう。 政治改革に不満を持つ一部の保守系ウェブサイトでは、すでに「(“政治特区”の動きを進めていると思われている)汪洋氏は共産革命を裏切っている」との批判が寄せられている。
*************************

記事にもあるように、中国では差額選挙は殆どなく、“上が選らんだ者”の形式的信任投票が行われる・・・というのは常識でもありますが、その常識を覆す、また、中国における民主主義とは何か?ということを考えさせる非常に印象的な番組を数ヶ月前観ました。

【級長選挙】
「こども民主主義」・・・NHKが33カ国共同で製作した番組で、世界の10人の監督が10カ国それぞれの国の“民主主義”をテーマに撮ったシリーズの1本で、中国武漢のある小学校での級長選挙のドキュメントです。
どこまでがドキュメンタリーで、どこからが“やらせ”なのか判然としませんが、内容は腰を抜かすほど面白く、なんかの賞も受賞した番組です。

先生から選ばれた3名の児童(男子2名と女子1名)がクラスの級長を目指して選挙活動を繰り広げるのですが、なにやら権謀術策をめぐらす腹黒い政治家を思わせるような子、ときに腕っ節にものをいわせる強権リーダーを思わせるような子、それぞれ個性があって笑えます。
いつもは級長は先生の指名によっていたようで、このような選挙は番組のための特別企画のように思われました。

どやってクラスメートの支持を集めるか、各候補が知恵を絞るのですが、これを親が全面的にバックアップします。
“一人っ子政策”のもとでの親子関係の濃密さも窺われますが、何より勝つためには手段を選ばないアドバイス・援助は凄まじいものがあります。
相手候補の欠点をあげつらうネガティブ・キャンペーンの指示はもちろん、親の職場である電車乗車の招待、ちょっとした“プレゼント”のバラマキ・・・職権乱用から金品供与に至るまで何でもありの展開です。

日本人から見て今の中国社会に欠けているのは“モラル”のように思えます。
個人の行動を制約するモラルや社会規範(日本であれば、儒教や仏教に由来するような価値観、現世利益をはかなむ無常観、あるいは武士的な“やせ我慢”などなど)がないところでの、政治的あるいは経済的競争は、手段を選ばない過酷なレースとなり、勝者と敗者の格差は歴然とします。

【それぞれの民主主義へ向けて】
ただ、この番組を観て中国社会を嘲る気持ちはありません。
何事についても、それまでに存在しない価値観が社会に導入される際には、はたから見ると珍妙・奇妙なことが繰り広げられる・・・それは当たり前のことで、日本における“民主主義”導入もそのようなものだったでしょう。
また、今現在の日本でも、後援会会員を温泉に招待したり、政策など無関係な地縁・血縁選挙だったり、議員になれるのは二世・三世ばかりだったり、選挙で応援しないと公共事業から締め出されたり・・・等々のおよそ教科書的な“民主主義”とは別ものの現象もごく当たり前に目にします。“目くそ鼻くそ”の類です。

一番驚いたのは、中国でこのような番組が作成できて、それが海外にオープンにされるということでした。
以前の中国では想像できないことです。
“政治特区”が実現するのか、“級長選挙”が実際に行われるのか・・・そこらはよくわかりませんが、そうしたものへの取り組みの姿勢があれば、やがてはそうした方向へと進む・・・社会がそれを求めるというか、何らか対応しないと旧態依然のシステムでは社会を維持できなくなる・・・そのように思えます。

そこで実現されるものは、先ほどから言っているように、多分に“中国的”なものとなるでしょう。
それは日本の民主主義が極めて“日本的”なのと同様ですし、タイ、フィリピン、インドネシアなど多くのアジアの国々はそれぞれの社会を反映した民主主義を展開しているのと同様です。

もうひとつ、先日の四川大地震の際の寄付金集めに見える中国社会の特徴についても書くつもりでしたが、長くなってきたので、後日とします。



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リトアニア  ソ連旗禁止、ロシア反発  支配された側と支配した側の歴史認識の差

2008-06-19 14:35:23 | 世相

(リトアニア あまりに数が多いので分かりにくい写真ですが、丘を埋め尽くすのは十字架  1831年に帝政ロシアの圧政に抗して反乱が起きたとき、ニコライ一世によって弾圧された犠牲者を悼んでこの地に十字架がたてられたのが最初であると云われています。以来、帝政ロシア、旧ソ連に対する抵抗運動の犠牲者の十字架が祭られ丘を埋めつくようになったとか “flickr”より By mteson
http://www.flickr.com/photos/mteson/169237213/)

【リトアニア ソ連旗禁止】
リトアニアとかバルト三国というのは、個人的にはあまり馴染みの少ない国です。
見聞きする話題としては、第二次世界大戦中、外務省の命令に反してトランジットビザを発給することでドイツによる迫害から約6,000人のユダヤ人を救った「東洋のシンドラー」こと、杉原 千畝が駐リトアニア日本領事代理だったことぐらいでしょうか。

****リトアニアもソ連旗など禁止 ロシアの反発必至****
【6月18日 朝日】
旧ソ連バルト3国の一つ、リトアニア議会は17日、ナチスのかぎ十字と同様、ソ連のシンボルも公の場で掲げることを禁止する法案を可決した。ソ連の後継国ロシアの激しい反発を呼びそうだ。
 ソ連によるリトアニア併合を「占領行為」と見るためで、禁止の対象には、ソ連国旗のハンマーと鎌や赤い星をあしらった旗やバッジ、記章のほか、旧ソ連国歌の演奏も含まれる。先にバルト国家のエストニアがハンマーと鎌をかぎ十字とともに禁止した時は、ロシアから「ナチスとソ連の同一視は歴史への冒涜(ぼうとく)だ」との批判が出た。
 一方でロシアのメドベージェフ大統領は17日、エストニアとラトビアのバルト2国で市民権を得られずにいるロシア系住民計約47万人に対し、ビザなしでロシアに入国させることを認める大統領令を出した。
両国が現地語の習得などを条件に市民権取得を制限していることで「参政権や公務員になる権利を奪われた同胞への支援」を理由とする。 しかし、「ロシア系住民を影響力行使の道具に使っている」と見る両国との関係を緊張させることは必至だ。
**************************

リトアニアなどバルト三国は、杉原 千畝の件の背景となる歴史、つまり、ドイツとソ連という大国の侵略・支配という歴史によって翻弄されました。
そうした経緯から、独立・ソ連崩壊後もロシアとは険しい関係にあります。

“支配”と書きましたが、あくまでもバルト三国の見解であり、旧ソ連・ロシアの立場からは“ナチス・ドイツからの解放”ということになります。
その旧ソ連国旗がナチス・ドイツと同一視されるというのは、ロシアとして看過できない・・・という話ですが。
なお、“エストニアとラトビアのバルト2国で市民権を得られずにいるロシア系住民”とあるように、ラトビア、エストニアではロシア系住民が国籍を得る時、言葉習得などが条件となっていますが、リトアニアでは居住していたすべてのロシア人希望者に条件なしで国籍が与えられており、比較的“ロシア・アレルギー”は三国の中では少ないとも言われています。

【エストニア ソ連兵銅像撤去】
エストニアでは昨年、ロシア系住民の暴動騒ぎがありました。
BalticNet.jp(http://www.balticnet.jp/archives/2007/3-4/tallinnriot.html)からその顛末を抜粋します。

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1940年、エストニアはソ連により侵略を受け不法に併合されたが、以来50年、ソ連兵として前線で戦うことを余儀なくされたり、国民の大半がシベリアに抑留され多くがそのまま帰らぬ人となっていることは世界に広く知られた事実である。
そのエストニアの首都タリン市のトゥニスマギ公園(現在の国立図書館前)に1945年、12人の第二次世界大戦で戦ったソ連兵の棺が埋められた。そして、1947年には同じ場所にソ連兵の銅像 が建てられた。
2007年1月、エストニアが旧ソ連の復活を願う勢力が兵士像の前で集会などをして内政に影響を与えているとしてタリンの中心地にあるソ連軍兵士の銅像を撤去し、静かな軍人墓地に移転させる計画を発表。これに対しロシアのミロノフ上院議長は、「エストニアは、ナチス・ドイツから開放し、第二次世界大戦で犠牲となったソ連の兵士を愚弄し、歴史的な過ちを犯そうとしている」と言明。
4月には、エストニア外務省より撤去移転に関する 声明文が発表されていたが、4月26日夜、ロシア系住民約1000人が銅像の周辺に集まり、周囲の商店のウィンドウを割り、商品を略奪するなどの暴動を起こした。これによりロシア人一人が死亡、多くの負傷者、逮捕者を出した。
当初5月に撤去移動を決めていた政府は、今後の市民の安全を守るために急遽銅像を撤去することにした。
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このエストニア側の対応に対し、モスクワではプーチン政権に極めて近い青年組織「ナッシ」が連日エストニア大使館を取り囲み、国旗を引きずり降ろし一部で投石し、大使館を業務停止に追い込む騒ぎが起こりましたが、当時のプーチン政権自体の反応は比較的“抑制されたもの”だったそうです。
その背景には天然ガスパイプライン“ノース・ストリーム”の問題があるとか。

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バルト海底パイプライン(ノース・ストリーム)は、ロシアがウクライナやベラルーシ、ポーランドなどを経由せずに直接、西欧に天然ガスを供給するための計画だ。エネルギーを外交の武器とするロシアの切り札の一つであり、完成すれば、ロシアは西欧の供給先への影響を気にせずに、反ロシア傾向のあるウクライナなどに向けた天然ガス供給をいつでも停止することができる。しかし、専門家によると、バルト海のフィンランド沿いの海底の状況がパイプライン建設に不適当なことが分かり、エストニア領海の海底を通過せざるを得ない公算が高まっているのだ。
「ナッシ」の激しい抗議行動は、公式にはエストニアを非難できないプーチン政権の、鬱憤(うっぷん)晴らしの手段のようである。 (07年5月12日 世界日報)
******************
(なお、当のロシア国内でもソ連時代の「戦争の英雄の記念碑」の撤去や移設が行われているそうです。
エストニアの銅像撤去とほぼ同じ時期、モスクワ郊外のヒムキ市が道路拡幅工事のため、ソ連英雄飛行士の記念像の撤去と市営墓地への移設を決定し、退役軍人が反対運動を行いましたが、完全に無視されたそうです。 )

【支配された側と支配した側の差】
なるほど、いろんなことが関係しているものです。
話を本筋に戻すと、バルト三国と旧ソ連・ロシアの“歴史認識”の違いは、日本でも中国・韓国との間で見られるものです。
それぞれのケースごとにいろんなファクターはあるのでしょうが、大きく見ると、支配された側と支配した側の“痛み”に対する認識の差のように思えます。

支配された側はその認識を強調することで、その後の国づくりの基礎にしようとしますが、その主張は支配した側を苛立たせます。
支配した側からは、その支配には少なからぬ“理由”あるいは“正当性”があったこと、必ずしも当時現地で強い反発を受けた訳ではないといったこと、支配によってそれ以前のより悪辣な支配からの脱却が進み、その後の発展に寄与するいくつかの改善・前進も実現されたこと、世間に言われる被害は誇張されていることが多いこと・・・などが主張されます。

ただ、これは支配された側からすると、神経を逆撫でするような、デリカシーを欠いた主張にも思えます。
例えは悪いかも知れませんが、レイプを受けた被害者に対し、レイプ犯が“すんだことをいつまでグダグダ言っているんだ。あのときお前だってその気が少しはあったんじゃないか?お前だって楽しい思いをしたんじゃないか?「言うこときかないと・・・」とは言ったけど、力ずくではやっていない。・・・”と言っているのと似たようなものに思えるのでは。

支配した側には謙虚さとデリカシーが求められます。



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パレスチナ  封鎖が続くガザでイスラエルとハマスの停戦合意

2008-06-18 16:15:04 | 国際情勢

(ガザの議会 燃料供給がストップして発電ができない状態のため、議会もロウソクのあかりで開かれています。 “flickr”より By אפי פוקס Effi Fuks
http://www.flickr.com/photos/effifuks/2217436934/)

先日15日でイスラム原理主義組織ハマスによるガザ地区支配が1年を経過しましたが、そのハマスとガザ地区経済封鎖を続けるイスラエルとの間で“合意”がなされたそうです。

*****パレスチナ:ハマスとイスラエル、ガザで非公式の停戦合意*****
【6月18日 毎日】エジプト外務省は17日、同国の仲介でイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが非公式の停戦に合意したと明らかにした。ロイター通信が伝えた。合意は2段階からなり、まずは双方が暴力を停止。その順守を確認した後で、ガザに対する封鎖解除の可能性などを協議するという。
 交渉は数カ月前から水面下で続いていた。イスラエルは約2年前からハマスが拘束している自国兵士の解放を、ハマスはガザ・エジプト境界のラファ検問所の再開を、それぞれ停戦合意の絶対条件に掲げたため、交渉は行き詰まった。しかし、双方がこの要求をひとまず先送りすることで、折り合いを図った模様だ。
 ガザからの情報などによると、イスラエルとハマスは19日午前6時(日本時間同日正午)、相互に暴力を停止し、この後3日間、順守状況を監視する。「平穏」が続けば、イスラエルはガザへの物資の輸送制限を徐々に緩和。そして第2段階として、拉致イスラエル兵の解放やラファ検問所の再開について、本格的に協議するという。
 ただ、ガザでは17日もイスラエル軍の攻撃でパレスチナ武装勢力のメンバー少なくとも6人が死亡しており、停戦発効にこぎつけたとしても、長期継続には懐疑的な見方が強い。
***********************

【瀕死のガザ地区】
ガザ地区は面積的にはヨルダン川西岸地区の6%あまりにすぎませんが、西岸地区の6割強にあたる人口1500万人が生活する人口密集地域です。

ガザ地区の家具製造や繊維業、農業といった主要産業部門のほとんどはイスラエル向けで、経済封鎖によって輸出がストップしており、更に燃料も止められている現在、ガザ地区は国連からの援助だけで生き延びている状態と言われます。

「ガザの経済はイスラエル頼りなんだ。封鎖が解除されなければ、われわれは真綿で首を絞められながら死んでいくようなものだ。」
「金を持っている企業家は、ガザ地域を後にしてエジプトや湾岸地域に行ってしまった。彼らなしでどうやってパレスチナ国家を建設するっていうんだ。」(ガザ地区の家具製造業者 6月12日 AFP)

ILOの統計によると、ガザ地区の失業率は29.8%(20-24歳の若年層では37%)だそうですが、むしろ残り6~7割がどんな仕事に就労できているのか不思議なくらいです。
世界銀行は、イスラエルによる経済封鎖でガザ地区内の企業の96%が立ちゆかなくなったと指摘しています。

今年4月には、中東問題を協議していた国連安全保障理事会で、リビア代表がイスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区封鎖をナチス・ドイツの強制収容所にたとえたことから、フランスなど西欧諸国の代表が退席するといったこともありましたが、“強制収容所”かどうかは別としても、限界が近づいていることは間違いように思われます。

【限界に近づく住民の不満】
当然、実効支配するハマスに対する不満も強くなります。
昨年11月の故アラファト前自治政府議長の追悼集会では、前議長の母体・ファタハの支持者数千人が集まり、ハマスとの間で銃撃戦に発展、少なくとも6人が死亡しまた。
この時、集会参加者はハマス支配下の政府機関などを占拠する計画を持っていたと明かす関係者もいます。【6月16日 毎日】

しかし、やり場のない住民の不満は、事態を改善できないアッバス議長、ファタハにも向かいます。
ハマス等の武装勢力は、高まる不満の“ガス抜き”というか、イスラエルに対する実力誇示というか、“壁”爆破を行いましたが、この爆破後、ハマスの支持率はファタハを逆転したことも伝えられています。

限界が近づく不満を抑えるため、再度、ハマス等による壁の爆破が行われるのでは・・・という懸念も持たれていました。
そういった事態になると困るエジプトが国境警備を厳重にし、国境沿いのバリケード建設を急いでいるという記事もありました。(5月15日ブログ http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080515 )
エジプトはガザが暴発すると直接の影響を蒙ることもあってのことでしょうか、3月初めのイスラエルとハマスの戦闘激化以来、水面下で両者の交渉を仲介してきたようです。

【水面下での交渉】
“交渉”の面では、4月にカーター元大統領とハマス指導者の会談が行われ、その際に「ハマスにはイスラエルを隣人と認める用意がある」と言ったとか、言わなかったとかという話がありました。
“イスラエルの生存権を認める”云々は別にしても、ハマス側も何らかの着地点を模索していることが窺われる話でした。(4月22日ブログ http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080422

今月に入ると、パレスチナ自治政府のアッバス議長は4日夜、ハマスの支配下にあるガザ地区との分断状況を解消するため、ハマスとの対話再開が必要との考えを表明しました。
議長はこれまで、ハマスがガザを制圧以前の状態に戻さない限り、対話には応じない姿勢をとっていました。
しかし、イスラエルとの和平交渉に具体的な進展がなく、パレスチナの再結束が不可欠との判断から、事実上の方針転換を図ったものとも報じられています。【6月5日 毎日】

このアッバス議長の対応について、「ハマスとの接触をちらつかせることによって(ハマスを嫌う)イスラエルの対抗心をくすぐり、和平交渉をせかせるのが狙い」と解説する向きもありましたが、真偽のほどはよくわかりません。
真偽はわかりませんが、イスラエルにしても、ハマスにしても、アッバス議長側にしても、自分等の命運にかかわる問題ですので、表向きの“公式対応”とは別に、水面下で生き残りをかけた現実的な取り組みがなされていたようです。

ただ、イスラエルのオルメルト首相は汚職スキャンダルで政治生命は風前の灯状態。
アッバス議長も任期切れが迫っています。
仲介する立場のアメリカ・ブッシュ大統領も任期切れ間近・・・という状況では、リーダーシップを発揮した、思い切った局面打開は困難だろうというのが大方の見方でした。

【希望か絶望か】
今回のイスラエルとハマスの合意がどのように進展するかは、事態を見守るしかありません。
“真綿で首を絞められながら死んでいくようなもの”“強制収容所”といったガザ地区住民にとっては、大きな希望にも思えることでしょう。
逆に、プロセスが破綻すると“希望”は絶望に変わります。
“壁”爆破といった実力行使に走るのか、あるいは、住民のハマスかファタハへの不満が爆発することもあるかも・・・そんな心配・懸念もあります。

なお、このままイスラエル・ハマス間で事態が進展すれば、アッバス議長・ファタハの立場は微妙になります。
今後の“パレスチナ”における影響力にも関わるのでは。
どこかで、イスラエル・ハマス交渉に絡んでくるのでしょうか。
このあたりはまた水面下の話でしょうから、分かりようのないところです。

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リスボン条約、アイルランドで批准失敗 EUが目指す“統合”と現実

2008-06-17 14:17:31 | 国際情勢

(どうも右がハンガリー大統領、左がスロバキア大統領のようです。正直なところ、ハンガリーもスロバキアも、民族・歴史・文化等にどれだけの差異があるのか、東洋人の私にはわかりません。恐らく、西欧人が見た日本・中国・韓国もその程度のものなのかも。
“flickr”より By melyviz http://www.flickr.com/photos/melyviz/301736609/)

報道されているように、欧州連合(EU)の機構としてのあり方を定める新基本条約「リスボン条約」批准の可否を問うアイルランドの国民投票が13日開票され、反対53.4%、賛成46.6%の反対多数で否決されました。

【リスボン条約】
EUはこれまで、大戦後の仏独和解、市場統合、通貨統合、人・物の自由な往来・・・などの統合プロセスを段階的に進めてきました。
今回のリスボン条約は、グローバル化する世界でEUが米中ロなど大国相手に競争力を維持し発言力を強化するために、大統領と「外相」相当の外交上級代表を創設するなどの組織改革を目指したものですが、大きく頓挫しました。

従来半年持ち回りで務めていた欧州理事会(EU首脳会議)議長を常任(EU大統領)とする、従来加盟国各1人だった欧州委員を3分の2に削減する(委員が出せない加盟国がでる)・・・というEU政治機能強化に対し、「EUの強大化でアイルランドの主権が脅かされる」「欧州委員数が減るためEUでのアイルランドの発言力が低下する」「EUレベルで税制の調和が進み、アイルランドの低い法人税率が脅かされる」「これまでの中立政策が維持できなくなる」などの疑念が今回の“反対”という結果になったようです。

イタリアのナポリターノ大統領は「一国の有権者の半分以下で、しかも人口でもEUの1%に満たない数の人々の決定(反対)によって、かけがえのない改革が止められてしまうことがあってはならない」と述べ、「小国の反乱」への不快感をのぞかせたそうです。
統合を進めたいEU政治エリートの本音でしょう。

【小国の不満、市民との乖離】
しかし、“小国”にはアイルランド同様の不満があるようで、何より、市民レベルでの理解が進んでいないという問題があります。
各国は批准を国民投票に委ねると否決される可能性が高いため、議会レベルで批准を決定するかたちで進めています。
唯一アイルランドが憲法上の制約で国民投票を余儀なくされた訳ですが、その結果が今回です。

国民一人ひとりの心の中にある国家・民族を隔てる垣根が取り除かれるかたちで“統合”が進むのであれば、人類史上画期的とも言える快挙ですが、現実はそう簡単には変わらないようです。

【現実その1:スロバキアのハンガリー人】
****スロバキア:ハンガリー人の前途に立ちはだかる困難*****
【6月15日 IPS】 現在、スロバキアの人口500万のうち10%がハンガリー人。多くはハンガリーに隣接する南部地域に住んでいるが、1993年にチェコスロバキアから分離独立したスロバキアは国家主義政策を進めており、多文化主義の軽視が懸念されている。

06年の国会選挙で方向党(Smer)が第一党となり、極右のスロバキア国民党(SNS)が連立政権に加わった。
SNSのスロタ党首は「スロバキアにハンガリー人はいない」と発言し、Smerは在ハンガリーのスロバキア人に対する処遇を批判しつつ、ハンガリーとスロバキアの緊張関係はハンガリーに非があるとしている。
一方ハンガリー政府は、在スロバキアのハンガリー人の状況に問題が生じているのはSNSが原因だと主張する。

SNSのミコライ教育相はハンガリー人の学校でスロバキア語を教える法案を作成した。これに対し、ハンガリー人組織は市民的不服従を検討している。ハンガリー語の学校は減りつつあり、高等教育を受けるためにスロバキアを離れるハンガリー人の学生は多い。
さらに政府は公務員、教師、ジャーナリストにスロバキア語の試験を課する法案を決議した。

第一次世界大戦後にオーストリア・ハンガリー帝国が解体してチェコスロバキアが生まれた。スロバキア人にとってはハンガリーの抑圧からの解放であり、ハンガリー人にとっては母国との離別であった。現在300万人のハンガリー人がルーマニア、セルビア、スロバキアに住んでいる。
コソボの独立宣言はハンガリーの領土回復主義の脅威につながるのではないかとスロバキアでは懸念されている。ハンガリー人組織はハンガリーへの併合ではなく文化を守るために自治を求めているという。
****************

スロバキアもハンガリーも04年にEU加盟した国家ですが、“垣根”は依然高いようです。
文化の多様性を認めつつ、国家のアイデンティティーを維持する一定の統合を促す・・・というデリカシーを要する施策はどこの国でも難問です。
多数民族の頑なな民族主義は、少数民族の反発を高め、両者の分断と社会の混乱を深めるだけのように思えます。

【現実その2:コソボとセルビア】
****コソボ新憲法施行、国家運営始動 セルビアと二重統治も****
【6月16日 朝日】
セルビアから2月に独立宣言したコソボで15日、新憲法が施行された。99年からの国連の暫定統治が実質的に終わり、欧州連合(EU)中心の国際機構の監督下での国家運営が始まった。だが、セルビアはコソボ国内で独自の統治体制を敷くなど、対立はかえって深まっている。
セルビア人が多く住む20以上の自治体では、セルビアの総選挙と同時に行われた5月の地方選挙をもとに独自の議会が設立された。UNMIKやコソボ政府は「安保理決議に違反している」と批判したが、セルビア人側は近く地方議会代表45人で構成するコソボ全体のセルビア人議会を発足させる構え。コソボ政府とセルビア人議会の二重統治状態になるが、セルビア民族会議のベリッチ議長は「独立や新憲法こそ安保理決議違反。われわれの議員は選挙で選ばれ、正統性がある」と正当化する。
 特にセルビア人が多い北部ミトロビツァでは、セルビア本国の出先機関が新設されるなど、独自の統治機構も整備されつつある。トプリチェビッチ市長は「ここにはアルバニア人(コソボ政府)の実効支配は及ばない。EU文民支援隊にも協力しない」と話している。UNMIKの規模・活動縮小に伴い、ミトロビツァ以北の「分離」が今後進む可能性がある。
********************

コソボ北部セルビア人居住区域の“分離”の動きについては、4月13日にも取り上げたところです。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080413
コソボは文字どおりEUが後押ししてつくった国であり、対立セルビアに対してはEU加盟を梃子に懐柔を図っています。
セルビアが加盟したEUはコソボをどのように扱えるのでしょうか?

【EUが向かう統合とは?】
恐らく、ハンガリーにしろ、コソボにしろ、ときに対立しあうような国家・民族を内包するかたちに拡大するEUの政治的機能を維持するためには、リスボン条約に定めらたような組織運営ルールが必要になるのでしょう。
そのような“統合”が、人々の心の垣根を取り払う方向で作用するのか、それとは全く別次元・無関係に進行するものなのか、普段ヨーロッパのことにはあまり関心がありませんが、幾分興味を引かれるところです。


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中国はsuperpowerとしてアメリカにとって代わるのか?

2008-06-16 19:46:13 | 世相
昨日に続き「Pew Global Attitudes Project」の2008年春調査から。
今回は日本・中国を軸に拾ってみました。
調査方法等については昨日説明のとおりで、サンプル数は日本が708名(電話)、中国は3212名(面接)です。
日本での調査時期は3月19日から4月13日の期間となっていますので、1月の“ギョーザ事件”発生後、3月14日のチベット暴動直後、4月26日の長野聖火リレーや5月の胡錦濤首席訪日・四川大地震の前・・・という時期になります。

【日本に対する好感度】

先ず日本に対する各国の好感度です。
欧米は70%台とかなり高い数字になっていますが、ロシアの74%は意外に高いように思われます。
韓国の47%は“思ったより高かったかな・・・・”という感じですが、中国の21%は厳しい数字です。
中国の数字は2007年が15%、2006年が21%、2005年は17%で、ここ数年大体このレベルで推移しています。

【中国に対する好感度】

一方、中国に対する好感度を見ると欧米・日本では厳しい数字になっています。
とりわけ日本の14%は突出して低い値です。
また、昨年に比べてこれらの国々では数字が低下していますが、チベット問題の影響もあるのでしょうが、ここ数年同様の低下傾向にありますので、一過性の問題とは別の、例えば高まる中国のプレゼンスとその異質性に対する根強い警戒感みたいなものが根底にあるように思われます。
2005年から比較すると、イギリス65→47、フランス58→28、ドイツ46→26、日本は2002年の55%から14%に減少しています。

ロシアは60%と高い値になっていますが、歴史・地理的問題から日本同様、中国に対しときに親近憎悪的な関係も噴出する韓国が48%というのは、意外に高いように思われます。
韓国は日本に対しても47%ですから、この調査では意外に冷静な反応が窺われます。
ちなみに、韓国に対する好感度を見ると、日本では57:40、中国では56:29となっています。

他の国の好感度を見ると、インドに対するパキスタンでの好感度が27:57に対し、パキスタンに対するインドでの好感度が18:73。ともに低い数字ではありますが、2002年の6:80と6:90に比べれば随分お互いの印象が改善しているとも言えます。
イランに対する欧米・日本の好感度は10%台ですが、イギリスは33%と比較的高い数値になっています。

【世界経済をリードしている国は?】

“the world’s leading economic power”をアメリカ、中国、日本、EUから選ぶ質問です。
ドイツではすでに中国がアメリカを逆転しています。
ロシアでは日本が25%と、日本経済への評価が高いようです。
他に日本という答えが多かったのはインドネシアの18%でした。
韓国は、昨日も触れたようにアメリカに対する信頼が全般的に高いみたいで、この質問でも74%がアメリカを挙げています。

【中国はアメリカにとって代わるのか?】

“the world’s leading superpower”として、中国はついにはアメリカとって代わるのか、それともすでにとって代わっているのか、そんなことはありえないのか・・・。
中国自身も“いつか”は53%にすぎず、そんなに今後を過信はしていないようです。
例によって、日本は“ありえない”が67%と突出しており、嫌中感情の強さがここでも出ています。

【中国の自国への影響は?】

アメリカの影響ほどではありませんが、中国のinfluenceも相当に各国とも感じています。
特に、日本・韓国では86%が“影響あり”としています。

【中国の経済成長は好ましいか?】

比較的賛否が拮抗していますが、嫌中感情が強い日本でも55%が中国の成長を良しとしています。
経済的な関係が強いだけに、中国経済成長のもたらす実利も大きいということでしょうか。
現実的に影響は大きい、経済的実利も深く関係している・・・だけどその存在を認めたくない、なんだか理解できない異質性を感じる、あきらかに人権問題・環境破壊など不十分な面が多々ある・・・日本の中国に対するいろんな思いが各質問から浮かび上がる調査です。

【北京オリンピックの選択は?】

北京でのオリンピック開催決定は良かったのか悪かったのか?
賛否拮抗というところですが、半数近い否定的な意見があるというのはオリンピックの趣旨からして問題が残るところです。
なお、ロシア、韓国では“good”が比較的高い数字になっています。

【中国製品は安全か?】

ギョーザ事件が未解決の状態ですので、特に日本での評価は厳しくなりますが、他国でも同様に厳しい見方をしています。

【中国はパートナーか敵か?】

欧米各国はどちらとも決められないとしています。
日本・韓国でも“パートナー”と“敵”とが20%台で拮抗しています。
ロシアは好意的な見方をしています。

他に、日本の憲法9条改憲については、日本国内の賛成:反対が31:58と改憲反対が多くなっていますが、その差は2006年の27:67より若干縮小しています。
環境問題、温暖化関係では、各国とも温暖化への関心は高いものがありますが、環境破壊を行っているとして中国への厳しい見方もあります。

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世界がアメリカ大統領を選べば・・・オバマ圧勝

2008-06-15 14:39:29 | 世相
先日発表された「Pew Global Attitudes Project」の2008年春調査から、いくつか話題を拾ってみます。
同調査は世界24カ国からサンプリングされており、日本の場合、18歳以上の708名が電話調査により、3月19日から4月13日の期間に実施されています。
サンプル規模は各国大体750~1000名ですが、中国では3212名(面接調査)、インドでは2056名(面接調査)になっています。
なお、調査は中東やアフリカ、ラテンアメリカを含み、世界をカバーする形で行われていますが、ここでは主に日本のほか、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、韓国の結果を中心に見ていきます。
内容は多岐にわたるため、今日はアメリカを軸にした内容でまとめました。
調査結果はhttp://pewglobal.org/reports/pdf/260.pdfで見ることができます。

【国の現状について満足か不満か?】

評価は経済状態に関係するところが大きく、【国の経済状態は良いか悪いか?】との問いとほぼ同様な結果になっています。
当然、経済的に躍進している中国、ロシアは評価が高く、経年的にも満足度合いが上昇しています。なおインドは41:58で、経年的には横ばいです。
アメリカ、イギリスは経年的に満足度合いが減少傾向、日本はほぼ横ばいです。
韓国の評価の低さは、経済状態への厳しい評価の反映でしょう。
なお、近年政治・経済状態が悪化しているパキスタンでは25:73で、不満が増加しています。

【アメリカに対する好感度】

前回(2007年春)に比べると、世界各国でアメリカへの好感度がやや回復したことがうかがわれます。
次の【ブッシュ大統領への評価】が厳しい数字なのに比べるとかなり高い水準にあり、アメリカへの好感度は、現実政策とは別次元のもののように見えます。

その中で、日本での減少が目立ちます。
日本での“favorable”比率は2002年の72%、2006年の63%、2007年の61%、そして今回の50%と減少しています。
もともとがかなり高かったので、ヨーロッパ水準に移行したということでしょうか。

一方で顕著に増加したのが韓国で、ときに牛肉輸入問題などで反米的な世論が噴出すことがありますが、他の質問でみても、韓国のアメリカへの好感度はかなり高いものがあります。
例えば、【アメリカは個人の自由を尊重しているか?】の問いへの肯定的な回答の割合は、西欧の65~70%、日本の80%を超えて、韓国では94%と非常に高い数字になっています。(ちなみにアメリカ自身の評価は75%)

中国、ロシアといった政治的にときにアメリカと競合する国においても、アメリカの好感度はかなりの水準にあります。
ただ、トルコでは12:77、パキスタンでは19:62と、アメリカが戦略的に重視している国では、あまり好意的に思われていないという数字が出ています。

日本に対する各国の好感度も気になるところですが、そのあたりはまた後日。
まあ、予想される結果ではありますが、欧米では高く、中国では厳しい数字になっています。

【ブッシュ大統領への評価】

ブッシュ大統領にたいする評価はあまり高くありません。
特に、西欧諸国で厳しい数字になっています。

【アメリカの自国への影響】

アメリカが自国へ及ぼす影響については、各国がその大きさを認めています。
特に、日本・韓国で高い数字になっています。
これは【アメリカ経済の自国への影響】というふに、経済に限定しても、ほぼ同様の結果が出ています。

【アメリカ大統領選挙への関心】

自国及び世界への影響が大きいアメリカのリーダーを選ぶ選挙ですので、アメリカだけでなく世界各国で関心を引いていますが、なぜか日本の数字が突出しており、本国アメリカより高くなっています。

【オバマ候補、マケイン候補への信頼度】

指名を確実にした両候補への評価をみると、オバマ候補の数字が圧倒的に高くなっています。
ブッシュ大統領への評価の低さの裏返しであり、世界は“change”を求めているようです。
もし、世界各国でアメリカ大統領を選ぶとすれば、オバマ候補の地すべり的大勝でしょう。
なお、調査時点ではまだ選挙活動中だったヒラリー候補の数字は、オバマ、マケイン両候補の中間あたりを示しています。

【イラク民主化は成功するか?】

イラクに民主的な政府を確立しようとする努力はうまくいくかどうかの問いですが、上記以外の中東の国をみると、エジプト41:57、ヨルダン41:54、レバノン45:51と、思いのほか成功するという期待が高い数字になっています。

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ベネズエラ  チャベス大統領がコロンビア革命軍に武力闘争放棄を勧告

2008-06-14 17:52:04 | 国際情勢

(今年1月、FARC人質解放を仲介し、上機嫌のチャベス大統領 “flickr”より By ¡Que comunismo!
http://www.flickr.com/photos/quecomunismo/2184249914/)

何かとその言動が話題になりやすい、南米ベネズエラのチャベス大統領。
今回は、従来からその関係が疑われていた隣国コロンビアの反政府左翼勢力“コロンビア革命軍(FARC)”に武力闘争放棄を行うように勧告したとかで、みなを驚かせています。

【コロンビアの越境攻撃】
コロンビアとの関係で言うと、3月初めFARCのエクアドル領内拠点をコロンビアが越境爆撃した事件の際に、エクアドルと協調するベネズエラはコロンビアとの国交を断絶、国境に戦車部隊を結集させるなど剣呑な状態になりました。
その後、ドミニカ共和国の首都サントドミンゴで開かれたリオグループ(中南米諸国で構成)の首脳会議で、コロンビアが越境攻撃を二度と繰り返さないと約束し、コロンビア、エクアドル、ベネズエラの3カ国は事件の収拾をはかりました。

首脳会議でエクアドルのコレア大統領とコロンビアのウリベ大統領が非難の応酬をした後、チャベス大統領が「戦争の嵐を吹き荒れさせ続けることはできない」と表明し、事態収拾に乗り出したそうで、3人の大統領は首脳会議終了後、「危機は終わった」と発表し、握手を交わしたとか。 【3月10日 時事】
チャベス大統領は笑みをたたえ、「この首脳会談は神からの贈り物だ」とも語ったそうです。
いつものことではありますが、一気にたかまり、急転直下の展開、茶番劇のような演出です。

外交関係はこれで回復しましたが、正式な国交回復はまだだったようで、今月6日、コロンビアとエクアドル両国は、カーター元米大統領の仲介を受け、無条件で国交を即時回復することで合意しました。
大統領を辞めてからの活動が注目され、「最初から“元”大統領だったらよかったのに」とも言われるカーター元大領です。

【チャベス大統領とFARC】
南米最大のゲリラ組織として政府に対抗してきたFARCは、麻薬や誘拐を資金源にしてきましたが、近年はウリベ・コロンビア大統領の強硬路線で次第に追い詰められていると言われています。
追い詰められたFARCは強硬な反米路線をとるチャベス・ベネズエラに接近。
チャベス大統領は「テロ組織指定などというものが存在するのは、米政府の圧力のためにほかならない」、「FARCやELN(もうひとつのコロンビア国内左翼ゲリラ組織)はテロ組織ではなく、コロンビアに領地を持つ正規軍として承認されるべきで、我が国で尊重される『21世紀の社会主義』的な政治思想を持った反乱軍だ」と、FARCへの親近感を公言していました。(コロンビア政府の主権を殆ど無視していますが)

しかし、FARCを資金や武器の面で支援していたことが公になると話は別です。
3月のコロンビア軍によるFARC急襲の際に、ベネズエラがFARCへ3億ドルもの資金供与を行っていたことや軍事的支援を行っていたことを示す文書、更に、FARCが放射性物質を詰めた爆弾(いわゆる「汚い爆弾」)製造のため、ウラン入手を図っていたことがうかがえる別の文書も押収パソコンから発見されたと言われています。

麻薬、誘拐、更にウランにまで繋がるFARCとの密接な関係が公になると、カストロ引退後の南米左派各国のリーダーとして地位を望むチャベス大統領とてしは、非常に困った事態です。
しかも、5月26日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080526)にも取り上げたように、FARCは3月の攻撃によるナンバー2に続き、最高司令官も死亡し、組織的に相当揺らいできています。

ウリベ・コロンビア大統領に複数の幹部から電話があり、身柄の自由が保障されるならFARCを脱退し、ベタンクール元大統領候補ら人質を解放するとの提案がなされたとも報じられています。
そんなことになると、いよいよFARCとチャベス大統領の関係がいろいろと表に出てきかねません。
ベネズエラ政府は“ファイルは偽物だ”と主張していますが・・・。

【武力闘争放棄を勧告】
そんな流れを受けて、チャベス大統領は8日、自らホスト役を務める定例のテレビ・ラジオ番組で、FARCの新指導者に対し異例に厳しい口調で、すべての人質を無条件に解放するよう促したそうです。【6月9日 時事】
更に9日テレビ番組(上記番組と異なるものかどうかは不明)で、FARCに対し、「ゲリラ闘争の時代は終わった。FARCが帝国(米国)の介入の口実になっていることを、あなたたちは理解しなければならない」と武力闘争放棄を勧告したそうです。【6月9日 毎日】

まあ、ときに“豹変”するのは“君子”の条件でもありますから・・・。
しかし、FARC幹部の投降などが実現すると、チャベス大統領にとって困った情報がいろいろ出てくることも予想されます。

【ボリビアの自治権拡大要求】
南米関連で、同じく厳しい正念場を向かえているのがボリビアのモラレス大統領。
ボリビアでは、貧しい西部・先住民の支持を受ける左派モラレス大統領の進める富の再分配政策に対し、先住民と白人の混血が多い豊かな東部諸州が反発しています。
5月4日には最大州のサンタクルス州が“自治権拡大”(実質的に中央政府コントロールからの離脱)を求める住民投票を実施、85%の賛成を集めました。(5月14日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080514

その後も、6月1日に北部のベニ州・パンド州で行われた住民投票において、中央政府に対する自治を認める条例案に対する賛成がやはり多数を占めました。
条例案は、州に対して財政や公共事業に関する権限を与えるだけでなく、通常は中央政府に対して与えられる海外からの援助を受け取る可能性も認め、また、天然資源や土地を管理することもできるようにするものです。
モラレス大統領は住民投票自体が違法であると主張し、ボイコットを訴えています。

今後は6月22日に南東部のタリハ州で同じような住民投票が実施される予定です。【6月10日 IPS】
さらに8月10日には、モラレス大統領とガルシア副大統領、9人の州知事に対するリコール投票が予定されており、モラレス大統領にとって厳しいハードルが続きます。


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エジプト、キューバ  見直される“勤労”、“労働の報酬”

2008-06-13 15:25:29 | 世相

(昨年秋に旅行したエジプト・カイロのガーマ・ホセイン。ラマダンの断食期間だったこともあるのか、平日昼間のモスクの中にではゴロゴロと昼寝をする人々が。ただ、お祈りを促すアザーンが響き始めるとムックリと起き上がってきます。)

【勤労と労働報酬】
日本や欧米社会では、労働に励むことは“善”であり、その労働はその成果に見合った報酬をうけとることができ、そのことが“勤労”のインセンティブになる・・・というシステムが経済社会の根本的な理念です。
そのような考え方が世界中すべてで一般的かというと、必ずしもそうではありません。
“生活に最低限必要とされるだけ働けばよい”と言うふうに勤労のインセティブがあまり強くない伝統社会、労働より宗教活動が優先するような社会、労働の報酬について“平等”を理念とする共産主義社会などでは、また別のシステムが機能しています。

しかし、経済のグローバル化が進むなかで、多くの社会が欧米ルールにより強く影響を受けるようになっているように見えます。
それは、欧米ルールの勤労が経済全体の成長をうながし、個人的な物欲の実現可能性を引き上げるからでしょう。
従来のルールを見直す動きについて、昨日ふたつの記事を目にしました。
ひとつはエジプトのイスラム社会、もうひとつはキューバの共産主義です。
なかなか面白いので、少し長めに引用します。

****「礼拝を減らし労働時間を増やすべし」、エジプト有名聖職者が異例の宗教見解****
【6月12日 AFP】エジプト人のイスラム教聖職者でカタールの衛星テレビ局アルジャジーラのパーソナリティーをつとめるカラダウィ師は、自身のウェブサイト上に「礼拝は10分もあれば充分」とのファトワ(宗教見解)を発表した。同師にとって、エジプト国民の仕事の生産性を上げるための方法はただ1つ、「礼拝時間を減らしてその分仕事に励む」ことなのだ。

■礼拝による中断で仕事の生産性が低下
 1日5回の礼拝は、メッカ巡礼や喜捨に並びイスラム教徒にとって「5つの柱」の1つ。だが正午の祈りと午後の祈りは勤務時間内であるため、多くの会社では日に最低2回、仕事が中断されることになる。
1回あたりの礼拝時間は平均10分だが、コーランの長い章句を読誦する場合はさらに時間が延長される。礼拝前には顔、手、腕、足、頭を清めなければならないため、大きな会社ではトイレを往復する時間もとられることになる。

 カラダウィ師は、礼拝時間を短縮する方法として「お清めは家で済ませてくること」「会社で清める場合はソックスを脱がずに履いたまま水をかけること」などを提唱している。
過去30年間でイスラム教化を推進してきた同国では、礼拝時間が長いことへの批判はことごとく封じ込められてきた。カラダウィ師のファトワは「仕事をしないことへの口実となる礼拝を極力省く」ことを目指したものだが、「礼拝休憩」という深く根を下ろした習慣を覆そうとしているとも受け止められ、非難は必至だ。
その一方で、エジプトの一部の聖職者は同師の主張をおおむね肯定している。アズハル大学のFawzi al-Zifzaf師は、「彼は正しい。仕事の時間を無駄にしてはならないし、礼拝を口実に使うのも許されない」と話している。
**********************

上記記事では、特にお役所での宗教を口実にした非効率性を避難する国民の声も紹介されています。
昨年、エジプトを観光旅行しましたが、お祈りに対する熱心さ・情熱は、当然ながら個人間で相当に差があるようです。
ガイドを頼んだ男性は、時間になると私を待たせてお祈りを始めます。
文化の違いとわかってはいても、機嫌のよくないときは“いいかげんにしろよ・・・”と思わなくもありませんでした。
国民一般がどのように思うのでしょうか?
次はキューバですが、あまりに面白いので、全文引用します。

****キューバ新政権、一連の改革で賃金上限を撤廃*******
【6月12日 AFP】フィデル・カストロ前国家評議会議長(81)の後継として2月に就任したキューバのラウル・カストロ議長(77)は11日、次々と打ち出す改革の一環として、賃金の上限額の撤廃を発表した。統制経済を採用する共産主義国キューバにおいて、賃金の上限は平等主義の支柱のひとつだったが、新政権は生産性を損なっている要因としてこれを撤廃する。
 キューバ国民の平均月給は約17ドル(約1830円)。大半はこれをキューバペソで稼いでいるが、食品や衣料、日常生活に必要な品は国営の外貨専門店でしか販売されておらず、国民はやりくりに苦労している。キューバでは長年、街頭の清掃業から脳外科医まで、大半の職業の賃金差は月額わずか2、3ドル以内だった。新政権は2月に賃金の改革方針を打ち出していた。
「この新賃金体系は、生産性とサービスを向上させる道具としてみなすべきだ」と、労働・社会保障省のカルロス・マテウ副大臣は、日刊の共産党機関紙グランマに語った。マテウ氏によると雇用主は8月までに新体系に移行しなければならない。

 同氏はさらにマテウ氏を引用し「その人の貢献に応じて収入を得るという社会主義分配原則、言い換えれば、(労働の)質と量によって支払われるという原則が達成されるだろう。これまで概して、収入を一定とする傾向があったが、そうした平等主義は有効でなく、修正されるべきものだ。労働者の労働に見合わない賃金を払うことも、払いすぎることも有害だ」というキューバ高官としては異例の談話を披露した。

 前議長が健康上の理由から第一線を退いた2006年7月以降、実質的に政府を主導してきた実弟カストロ新議長は、2008年2月24日に就任。それ以来新政権は短期間で、土地の再分配や農業の非中央管理化、コンピューターや携帯電話の購買自由化、外国人にしか許可されていなかったホテル宿泊の許可といった改革を次々と決定している。新賃金政策は一連の中で発表された最新のものだ。また改革の中には、世界的な食糧危機による影響を緩和する策として、農業従事者の賃金引上げと耕作機械購入の柔軟化なども含まれる。
 経済面以外ではラウル議長は就任後、30人の死刑囚を減刑し、政治犯の一部を釈放、人権条約への調印なども行った。TVに対する放送禁止項目も緩和され、党機関紙のグランマでさえも住民の苦情を掲載するに至っている。

 しかし、ラウル議長がキューバの一党独裁体制を緩める気配はなく、対外的な民間企業への開放、渡航制限の撤廃、二重通貨制の撤廃など、望まれる変革項目のリストは依然続く。中南米の多くの人々はラウル議長の改革を歓迎しているが、「最大の敵国」である米国はこれらの改革について「うわべにしか過ぎない」とはねつけている。
***************

共産党が1党支配する国でも、その多くは現在では経済活動や労働報酬のありかたは殆ど欧米ルールと同じようになっているのが実際です。
中国しかり、ベトナムまたしかり。
そんななかで、“キューバでは長年、街頭の清掃業から脳外科医まで、大半の職業の賃金差は月額わずか2、3ドル以内だった”というのは、“すごい!”という印象です。
もちろん、公式ルールとはまた別の慣習等が実際の社会には存在してはいるのでしょうが、それにしても・・・。

フィデル・カストロはこうした一連の改革をどのように評価しているのでしょうか?
特に今回の“(労働の)質と量によって支払われるという原則”は、社会の根幹を変容させることになるでしょう。
労働に見合った報酬で物欲が実現され、それが新たな欲望を生み、鼻先にぶら下げられたニンジンを追うように労働に励む・・・という日本でもおなじみの社会がキューバにもおしよせることでしょう。

【日本独特のルール】
日本社会のルール、その効率性にどっぷり浸かっている私としては、上記のような労働に関するルール変更を評価するような見識は持ち合わせていません。
たまに旅行で日本・欧米ルールではない社会を経験すると、イライラすることもありますし、ほっとすることもあります。
日本・欧米ルールの過酷さを指摘するのは容易ですが、それによって得た富は圧倒的なものがあります。
そのような富をシッカリと享受しながら、同時にそのルールを批判するのはフェアではないでしょう。
さりとて、今手にしているものを手放すことはなかなか・・・。

そういった個人の思惑を超えて、おそらく世界は日本・欧米的なルールが広がっていくと思われます。
それと、今まで“日本・欧米ルール”という言葉を使ってきましたが、旅行のための1週間の休暇をとることすら困難な日本と欧米ではまたその中身が大きくことなるところがある・・・という別の問題も別途存在します。
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パキスタン  連立崩壊、対テロ同盟にきしみ、アフガン軍と交戦

2008-06-12 14:56:25 | 国際情勢

(パキスタン北西部のスワート渓谷からフンザ方面は是非一度行ってみたい場所のひとつです。険しい山々と鮮烈な川、緑なす大地、咲き乱れる花々、ガンダーラの遺跡・・・このエリアが政治的に安定するにはもうしばらく時間がかかりそうです。
“flickr”より By bongo vongo http://www.flickr.com/photos/jabbarman/25001487/in/set-515373/)

5月12日に「パキスタンの政情がはっきりしません。・・・」という書き出しで、最高裁長官の復職問題で揺れるパキスタンの連立政権、およびイスラム過激派との対話路線について触れたのですが、なんだかますます不透明になっています。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080512

【シャリフ派連立離脱】
与党第一党、パキスタン人民党(PPP)と第二党、パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)の連立政権は、やはりチョードリー前最高裁長官の復職問題で合意できず、上記ブログを書いたその当日に、PML-Nのシャリフ元首相はシャリフ派閣僚の引き揚げを発表し、連立は崩壊しました。
PML-Nは人民党ギラニ政権との閣外協力関係は一応維持するとされていますが、ムシャラフ大統領支持の旧与党イスラム教徒連盟クアイディアザム派がザルダリ氏の人民党に急接近するのではとも報じられています。

【ムシャラフ辞任を否定】
そのムシャラフ大統領は5月末に“辞任するのでは・・・”との噂がながれましたが、6月7日、地元メディア幹部らと会見し「ギラニ首相と協調関係にあり、対立はない。私は辞任しない」と、本人自らが辞任を否定しました。
大統領府は辞任の噂について、シャリフ派が「故意にうそをリークした」と非難していました。
大統領は「国会が私を弾劾するならば従う」とも述べ、「政治的に自信を回復した裏返しの表現」(地元テレビ幹部)と受け止められているそうです。【6月7日 毎日】

【武装勢力との対話路線】
国内のイスラム武装勢力との「対話路線」については、隣国アフガニスタンと同盟国アメリカが神経をとがらせています。
パキスタン政府は5月21日、北西部スワート地域のイスラム武装勢力と和平協定を締結しました。

この和平協定により、政府はスワート地域からの軍部隊の段階的な撤退や同地でのイスラム法(シャリーア)の導入を受け入れました。
一方、武装勢力側は、訓練キャンプの閉鎖、外国人兵士の引き渡し、政府関連施設や治安部隊への自爆攻撃の中止などを受け入れています。
武装勢力側は「米国との断絶」を条件にしていましたが、そのあたりがどのように処理されたのかはよくわかりません。

パキスタンのイスラム武装勢力は、アフガニスタンで武力闘争を行うイスラム原理主義組織タリバンに活動拠点や軍事訓練基地を提供するなど「後方支援」を行ってきました。
アメリカの要請に沿う形で武装勢力と決別しその掃討作戦を続けたムシャラフ政権との対立が激化し、パキスタン国内で自爆テロが頻発し治安は極度に悪化。
これが2月の総選挙でムシャラフ大統領の最大与党が大敗の背景となりました。
このためギラニ連立政権は「治安回復に対話が必要」と方針を打ち出していました。

ただ、これについてもイスラム過激派勢力との協調に積極的なPML-Nのシャリフ元首相と、アメリカとの関係が深く反テロを訴えた故ブット元首相のPPPでは温度差がありました。
PML-Nの政権離脱の今後への影響も考えられます。

【対テロ同盟にきしみ】
アフガニスタンのスパンタ外相は先月20日、パキスタンの対話路線を「危険な譲歩で、深く憂慮している」と批判。
アメリカも「なぜテロリスト(武装勢力)などと交渉できるのか」(ネグロポンテ米国務副長官)とけん制。
アフガニスタンでISAFの活動を支えるNATOも、対話路線がタリバンに「隠れ家を提供している」と強く批判。
パキスタンの対話路線は、“対テロ同盟国”間に亀裂を生み始めています。
先月18日のブッシュ米大統領とギラニ首相との初の首脳会談は、テロとの戦いでの共同方針を確認できませんでした。

【アフガン軍と交戦】
そんななかで、アフガニスタン国境地帯では10日、パキスタン治安部隊とアフガン軍などとの間で激しい戦闘があり、双方に死傷者が出た模様です。
パキスタン軍は11日、同国側少なくとも11人の死亡が確認されたとし、「(アフガンに駐留する)米軍など連合軍が理由もなく卑劣な攻撃を仕掛けてきた。対テロ戦争の同盟関係を損なう行為だ」と激しく非難しました。
国境付近では過去にも両国部隊間で小競り合いが起きたことはありますが、パキスタン側が米軍主導の連合軍を非難するのは異例とのことです。【6月11日 毎日】

【6月11日 毎日】“パキスタン軍によると、パキスタン側にある治安部隊の国境検問所が10日夕、アフガン連合軍数百人によって攻撃を受けた。治安部隊約40人が銃などで応戦、戦闘は深夜まで続き、数十人が行方不明になったとしている。攻撃を受けたとされる検問所について、アフガン政府は「アフガン領土内にある」と撤去を求めてきた経緯がある。”
【6月12日 AFP】“多国籍軍はアフガニスタンの首都カブールで、パキスタン領内で空爆を行ったことを認めたものの、パキスタンの民兵組織の前哨拠点付近から攻撃してきた武装集団を狙ったものだとしている。多国籍軍の声明によると、同軍はアフガニスタン東部クナル州で作戦実行中に、パキスタン領内のGora Prai検問所付近の森林地帯から武装集団の攻撃を受けたため、パキスタン軍に対しその旨を連絡する一方、無人偵察機により武装集団を確認し、「自衛」のため「危険が排除されるまで」迫撃弾や空からの支援を受け攻撃を行ったとしている。”

上記AFP記事の見出しは“多国籍軍誤爆か”となっています。
真相は“藪の中”ですが、パキスタン政府軍とアフガニスタン多国籍軍が交戦し多数の死者を出すという今回の事態は、“対テロ同盟”の先行きを危うくし、ひいては今後のアフガニスタンでのタリバンの活動を活発化させる懸念もあります。

PPPによる政権運営、ムシャラフ大統領の去就、イスラム過激派との対話路線、“対テロ同盟国”の今後・・・いずれも不透明さを濃くし、核保有国パキスタンは混迷の様相です。

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ノルウェーの仲介外交と武器輸出、日本の軍事支出は世界5位

2008-06-11 15:23:29 | 世相

(5月10,11日 スーダンの首都ハルツームのオムドゥルマンにダルフール反政府勢力が攻勢をかけました。そのとき押収された武器類がオムドゥルマンのモスクに展示されています。スーダン政府は反政府勢力を隣国チャドが援助していると非難して断交を発表しました。
そもそも、この武器弾薬はどこから来るのか?湧いて出てくる訳ではないでしょう。 “flickr”より By aheavens

最近「ああ、そうなんだ・・・」と印象に残った記事が
「ノルウェー:平和協議の一方で武器を輸出」【6月10日 IPS】
http://www.news.janjan.jp/world/0806/0806099072/1.php

【仲介外交】
ノルウェーというと、北欧の小国ながら、大国が手をこまねく紛争・問題を仲介して合意を取り付ける“仲介外交”で国際的に高く評価されている国です。
つい先月30日には、クラスター爆弾禁止に関し、それまで反対していた英・独・仏、そして日などをたくみにリードして、ほぼ全面禁止に近い内容の“ダブリン合意”をまとめあげたのもノルウェーです。

さかのぼれば、1993年にイスラエル政府とパレスチナ解放機構の間で協定された一連の協定“オスロ合意”もノルウェーの仲介によるものです。
また、2002年には同じくノルウェー政府の仲介で、スリランカ政府と反政府組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との停戦協定が締結されました。

残念なことには、パレスチナの“オスロ合意”は事実上破綻しており、スリランカでも今年1月、政府は停戦協定破棄を決定しています。
小国の限界とも言えますが、合意に実効性を持たせるの仲介者ノルウェーの責務というより、大国を含めた国際社会の責任でしょう。

先日、クラスター爆弾禁止に向けたノルウェーの取り組みを扱った番組をTVで観ました。
“国際的紛争は、たとえ遠くの直接の関連の薄いものであっても、結局は自国の安全を脅かすものである”という信念で行動しているそうで、過去2回の世界大戦に心ならずも巻き込まれた経験によるものだそうです。
また、手法的には、NGOとの広いつながりを駆使して各国間の一致点を見つけていく方法が印象的でした。

【武器輸出】
そんな平和調停国ノルウェーは世界第7位の武器/弾薬輸出国だそうです・・・意外でした。
ノルウェー中央統計局によれば、2007年の武器輸出収入は前年比18パーセント増の4億2,500万ドルで、世界全体の3.5%です。

90年代にクルド反政府勢力と武装闘争を行っていたトルコなどへの武器輸出が行われていたことが問題になり、外務省への武器輸出年次報告を義務化し議会の監視、透明性の強化が図られたそうです。
そうした経緯で、露骨に紛争国に武器輸出するようなことはやっていませんが、輸出国からの再販の問題があります。
たとえば、ノルウェーから大量の武器を輸入しているチェコは、スーダン、アンゴラ、エジプト、サウジアラビアなどへの武器輸出を行っているとか。

【日本の軍事費】
“ものごとにはいろんな面があるんだね・・・”と思った次第ですが、日本も同じようなところがあります。
言うまでもなく、“平和憲法”を持つ日本について、少なくとも多くの日本国民は、“軍備にはあまり力を入れていない国”というイメージを持っています。(その良し悪しは今回問題にしていません。)
また、“日本は軍備にお金をかけないことで、これまでの経済成長を実現してきた。”ということもよく言われます。
批判する人からは“安保ただ乗り”という非難もあります。
しかし、軍事・防衛関係に興味のある方には“常識”ですが、軍事費に関して言えば、世界的には日本は相当な“大国”です。

*****07年の世界軍事支出、冷戦後の最高額…中国が初の3位*****
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が9日発表した「2008年版年鑑」によると、07年の世界の軍事支出は前年比6%増の1兆3390億ドル(1ドル=約105円)に達し、冷戦終結後の過去最高額を更新した。
 米国の支出が伸びたことに加え、世界的な原油価格の高騰が影響したと見られる。今年は中国が初めて3位に躍進、日本は前年と同じ5位だった。
 同研究所によると、全体の約4割にあたる米国は、イラクやアフガニスタンでの軍事費に加え、基地の維持費が伸び、前年比7%増の約5470億ドル。第二次世界大戦後では最高規模となった。中国は、新たな装備の購入や兵士給与の伸びなどから約583億ドルに達して、前年の4位から上昇、2位の英国に迫った。
 調査対象151か国のうち、軍事支出が前年を上回ったのは117か国に達した。支出総額は、世界の国内総生産(GDP)の2・5%に上る規模だ。【6月9日 読売】
***************

軍事費の不透明性が云々され、実際の軍事費は公表されているものの数倍ではないかとも言われる中国が順位を上げているのは、当然のことにも思えますが、日本が世界5位というのはどうでしょうか?
多くの日本人には意外な事実ではないでしょうか?

防衛費をGNPの1%におさえるという“1%枠”が予算編成のたびに取りざたされますが、GNP自体が大きいので、防衛予算も絶対額では相当のレベルになります。
もちろん、1%が低すぎるという立場の側からは、予算の半分近くが人件費等に食われているとか、研究開発費が非常に少ない・・・という問題点が指摘されています。
また、武器輸出を行っていないため、武器生産が限定され割高になっているという批判もあります。

2位がイギリス(597億ドル、以下単位省略)、3位が中国(583)、4位がフランス(536)で5位が日本(436)。
6位はドイツ(369)で7位はあのロシア(354)です。
1位は・・・というと、当然アメリカで5470億ドル。
2位以下が“どんぐりの背比べ”なのに対し、ひとり桁違いです。
“もっと生産的な分野に使えばいいのに・・・”とつい思ってしまいますが、そのアメリカに言わせれば、“アメリカのそんな軍事力で世界の秩序、日本の平和も保たれているんじゃないか”ということなのでしょう。

2006年の世界の武器売り上げで見ると、1位はアメリカ(2002億ドル)。
ついでEU諸国が合計で921億ドル、3位がロシアの61億ドル、その次4位が日本52億ドルだそうです。【6月10日 AFP】

こういった数字も“ものごとにはいろんな面があるんだね・・・”ということのひとつに思えます。
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