孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  「3正面作戦」でテロ頻発 欧州で強まるエルドアン政権批判 難民問題への影響も

2016-08-21 23:15:23 | 中東情勢

(クーデター未遂事件後、自宅にトルコ国旗を掲げるトルコ国内のシリア難民【8月21日 朝日】)

ISによるとされる大規模テロ 政権・世論の姿勢に変化は?】
クーデター未遂事件以後、ギュレン派の大規模粛清とエルドアン大統領の強権支配強化で注目されているトルコで、結婚式を狙った「イスラム国(IS)」の犯行とも見られる大規模テロが起きています。

****結婚式狙いテロか、50人死亡=IS犯行の可能性―トルコ南部****
トルコ南部ガジアンテプで20日夜、屋外で行われていた結婚式で爆発が起き、AFP通信によると、少なくとも50人が死亡した。負傷者も94人に達した。シムシェキ副首相は「自爆テロ」とみていると述べた。

犯行声明は出ていないが、エルドアン大統領は21日、過激派組織「イスラム国」(IS)による犯行の可能性を指摘した。
 
トルコでは昨年以来、ISやクルド人武装勢力の犯行とみられるテロ事件が相次いでいる。7月中旬に軍の一部勢力によるクーデター未遂事件が起きたが、ISのテロと確認されれば、同事件後では初めてとなる。
 
ガジアンテプはシリア国境から約60キロ北に位置し、IS戦闘員が多く潜伏している可能性が高い都市として知られる。
 
トルコのメディアによると、爆発はガジアンテプ市内のクルド人が多く住む地区で発生。新郎新婦はクルド人が多数派を占める南東部シールト県の出身で、参列者もクルド人が多かった。自爆テロ犯は参列者に交じっていたとみられるという。
 
エルドアン大統領は声明で、「私たちを攻撃した者に再度、一つだけメッセージを伝える。おまえたちは成功しない」と事件を強く非難した。【8月21日 時事】 
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“トルコ政府がロシア、イスラエルとの関係改善に乗り出し、IS対策に力を入れ始めたことに対してISは反発を強めており、クルド人のコミュニティーを攻撃することでトルコ国内を混乱させる狙いがあるとみられる。”【8月21日 朝日】

“IS対策に力を入れ始めたことに対してISは反発を強めており”ということは、裏を返せば、従来はIS対策には力を入れていなかった、もっと言えば、ISを始めシリアのイスラム過激派に対し融和的で、実質的な支援を行ってきたということでもあります。

イスラム色を強めるエルドアン政権、それを支える保守的支持層はISなどイスラム過激派に対し一定のシンパシーを有していることが推測されますが、今回の結婚式を標的にしたテロという悪辣さで、そうした意識に変化が生じるのか注目されます。

もっとも、対象がクルド人ということで、あまり響かないのかも。(エルドアン大統領自身はクルド人に配慮した施策を進め、与党AKPはクルド人を票田にしてはいますが)

ギュレン派粛清にのめり込むエルドアン政権
エルドアン政権は、ISや少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の掃討に加え、7月中旬のクーデター未遂における黒幕だとトルコ政府が名指ししている在米イスラム指導者ギュレン師の一派を粛清する「3正面作戦」を進めており、どこからでも火を噴く状況ではあります。

17日から18日にかけても、24時間足らずで3件の爆弾攻撃が発生しています。

****トルコ東部で連続爆弾攻撃、14人死亡・300人負傷 PKKの犯行か****
トルコ東部で17日から18日にかけて24時間足らずで3件の爆弾攻撃が発生し、当局者らによると少なくとも14人が死亡、約300人が負傷した。

政府はクルド人の非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」の犯行だとしている。7月中旬のクーデター未遂を受けて混乱が広がる中、国の治安部隊に対する攻撃が激しくなっているもようだ。(中略)
 
PKKの最高司令官は先週、トルコ各市でさらなる攻撃を行うと宣言していた。(後略)【8月19日 AFP】
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エルドアン大統領は18日、一連の爆弾攻撃について、7月のクーデター未遂を企てたと政府がみなしているイスラム組織「ギュレン教団」が情報提供などを行い、加担していると指摘しています。

クルド人反政府勢力PKKとギュレン派が共同でテロ行為を行うなんてあり得るのだろうか?とも思いますが、今のエルドアン政権はギュレン派粛清に夢中ですから、不祥事はすべてギュレン派のせいにしたいのでしょう。

拘束・逮捕者はクデーター未遂事件を起こした軍関係者にとどまらず、警察・司法・学校・マスメディア・企業経営者など、これまでギュレン支持者が多い(ということは、エルドアン大統領に批判的が多い)とされていた分野に及んでいます。

ユルドゥルム首相は、クーデター未遂事件の関連で拘束者が4万人を超え、このうち、正式に逮捕したのは約2万人に上ることを明らかにしています。また、トルコ政府は国家公務員約7万6千人を解任・停職処分にしています。

教育分野ではギュレン派関連とされる1500以上の教育施設を閉鎖。14万人近くの生徒が転校を強いられており、教職免許を奪われた教諭は2万人余りとされています。

そんなに拘束・逮捕して司法・警察・行政とか教育などの運営に影響はないのだろうか?受け入れを拒否されるケースが相次いでいるとされる転校を強いられる生徒はどうするのか?とも思いますが、エルドアン大統領は千載一遇の好機にギュレン派を一掃する構えです。

****トルコ、大量の囚人仮釈放へ さらなる逮捕へ場所確保か****
トルコ政府は17日、収監中の囚人のうち、約3万8千人の仮釈放に道を開く政令を出した。

治安当局は7月中旬のクーデター未遂事件後、「首謀者」と主張する米国亡命中のイスラム教指導者ギュレン師を信奉しているなどとして、軍人や警官ら約1万8千人を逮捕した。逮捕者はさらに増える可能性が高く、収容場所を確保する狙いがあるとみられる。(中略)

トルコ政府は米政府に対し、ギュレン師の身柄の引き渡しを繰り返し要請しているが、米国側は応じておらず、両国の火種になっている。【8月17日 朝日】
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悪化する欧米との関係 懸念される難民問題への影響
ギュレン師については、「終身刑2回と禁錮1900年」が求刑されています。憎悪の深さが窺われる求刑です。

****ギュレン師に終身刑2回求刑=金融活動などめぐり―トルコ検察****
トルコ検察は、エルドアン大統領の政敵の在米イスラム教指導者ギュレン師に対し、終身刑2回と禁錮1900年を求刑した。トルコのメディアなどが16日伝えた。同師は7月中旬のクーデター未遂の首謀者とされているが、今回は検察が昨秋から捜査を行ってきたギュレン師率いる「ギュレン運動」の金融活動などをめぐる事件についての求刑。
 
トルコ政府はギュレン運動を「テロ組織」に指定している。この事件では、ギュレン師は「憲法秩序を破壊しようとした罪」や「テロ組織を形成、運営した罪」に問われている。【8月16日 時事】 
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エルドアン大統領は2004年に禁じた死刑の復活を認める方針を示していますが、EUは死刑廃止を加盟条件にしていますので、死刑復活となればトルコが目指してきたEU加盟は不可能になります。

ただ、EU側はこれまでも非民主的な制度も残る異質なイスラム国トルコの加盟には消極的で、後から申請した国が先に加盟を果たすという状況にあり、エルドアン大統領としても“どうせ入れる気のない”EU加盟はご破算になってもいい・・・というところでしょうか。

“オーストリアのケルン首相は3日、地元メディアに対し、トルコのエルドアン大統領がクーデター未遂後に強権姿勢を取っていることを踏まえ、トルコの欧州連合(EU)加盟交渉について「今やフィクションでしかない」と述べた。9月の非公式EU首脳会議で交渉打ち切りを議論したい考えを示した。”【8月4日 時事】

エルドアン大統領のギュレン派粛清にのめり込む姿勢に対し、欧米諸国は人権無視との批判を強めており、その関係は悪化しています。

これまでも先延ばしにされてきたEU加盟問題はともかく(EU側もイギリス離脱の問題で、それどころではありませんので)、トルコとの関係悪化で難民問題への対応が破綻することが懸念されています。

****EU域内へのトルコ国民のビザなし渡航、早期実現は困難=独閣僚****
ドイツのミヒャエル・ロート欧州担当相は16日、ロイターのインタビューで、トルコが欧州連合(EU)域内への国民のビザなし渡航を実現するには長く険しい道のりが控えており、早期の実現は難しいとの認識を示した。

EUとトルコの間で合意した難民問題では、トルコが72項目の基準を満たすことがビザなし渡航実現の条件となっている。

ロート欧州担当相は「少数の項目がまだ残っている。72の基準が満たされない限り、ビザなし渡航の実現はあり得ない」と述べた。

一方で、難民危機でトルコは重要なパートナーであり、同国との交渉チャンネルをオープンにしておくことは重要だと述べた。【8月17日 ロイター】
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EUとトルコは3月、トルコからギリシャへの密航者をトルコに強制送還する見返りとして、EU域内を旅行するトルコ国民のビザを免除することで合意しています。

トルコのチャブシオール外相は独ビルト紙とのインタビューで、EUへ渡航するトルコ国民のビザ免除が10月に実現しなければ、EUと合意した難民対策を破棄する可能性があると語っています。

“再び大勢の難民・移民がトルコ経由で欧州に押し寄せるという事態になっていいのか?”とEU側へ圧力をかけている状況です。

深まるドイツとの間の溝
難民対策でEUを牽引するドイツとの不協和音が拡大しているのも懸念されるところです。

7月31日、クーデター未遂事件を受けて、エルドアン大統領への支持を表明するため、ドイツ西部ケルンにトルコ系住民3万~4万人が集結しました。当初、主催者側は会場でエルドアン大統領の演説を中継する予定でいましが、ドイツの裁判所が治安などを理由に禁止。この措置にトルコ側が反発しています。

****トルコと独、新たな火種 大統領演説、独が集会で中継禁止****
・・・・ドイツ側が懸念したのは、トルコ国内の政治的緊張がドイツに持ち込まれることだった。
ドイツには全人口の約4%にあたる約300万人のトルコ系住民が住む。1960年代から労働者として移住し、ドイツ生まれの2世、3世が増えている。多くはトルコの選挙権も持ち、トルコ政治への関心は高い。約6割が大統領支持派とされる。
 
クーデーター未遂後、エルドアン氏が事件を首謀したと批判する米国亡命中のイスラム教指導者ギュレン師を支持するグループの施設が、大統領支持派に襲撃されるなどトルコ系同士の対立が深刻化。会場近くでは、エルドアン氏の強権政治を批判するドイツ人らのデモも予定されていた。

 ■「表現の自由を侵害」
トルコ大統領府のカルン報道官は集会後、緊急声明を出してドイツ側に抗議した。声明では「民主主義、自由、法の支配を訴え、クーデター未遂に反対するイベントを妨害するのは、表現の自由、集会の自由を侵害するのと同じだ」と非難。「なぜ大統領のメッセージ放映を禁止したのか、本当の理由を知りたい。ドイツ政府に納得できる説明をするよう望む」と迫った。(中略)

エルドアン氏は2日、首都アンカラで演説し、ドイツでは今回、自身の演説の放映が禁止されたが、トルコや欧米がテロ組織に指定する少数民族クルド人の非合法武装組織、クルディスタン労働者党(PKK)の指導者のビデオ演説が過去に許可されたと指摘。「西側諸国は民主主義を支持するのか? それともテロとクーデターを支持するのか?」と非難した。
 
厳しいドイツ非難の背景には、欧米諸国がトルコの人権状況悪化に懸念を表明していることへの反発がある。クーデター未遂後、トルコ当局は公務員ら6万人以上を矢継ぎ早に拘束・解任したほか、報道機関を次々閉鎖している。

 ■難民問題への影響も
最近のドイツとトルコの摩擦の根底にあるのは、エルドアン氏の強権的な政治手法と、欧州の民主的な価値観との対立だ。

英国が離脱を決めた欧州連合(EU)でさらに存在感を増すドイツと、中東の大国トルコの関係は難民問題でかぎを握る。双方の内政の不安定化も周辺国に波及する。
 
ドイツは難民問題でトルコの協力を必要としている。今年3月、EUとトルコは欧州への難民流入の抑制策で合意し、多くがトルコ国内にとどまっている。中心となって動いたのは、昨年100万人を超える難民が流入したドイツだ。
 
トルコのチャブシュオール外相は7月31日、この合意を反故(ほご)にする可能性に言及した。ドイツ国内で最近、難民による襲撃事件が相次いだこともあり、メルケル首相は苦しい立場に置かれている。再び難民の数が増加に転じれば、国内ばかりではなく、極右勢力が台頭する欧州全体に影響を及ぼすのは必至だ。
 
トルコにとっても、最大の輸出相手国であるドイツとの関係悪化は本来、望ましくない。トルコは観光関連産業が国内総生産(GDP)の1割強を占める観光大国だが、相次ぐテロの影響に苦しむ。ドイツ人はトルコへの訪問者数でトップを占めるが、今年6月は約34万6千人で、前年同月比37・89%減と落ち込んでいる。【8月3日 朝日】
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更に、ドイツ内務省がトルコについて「トルコは中近東のイスラム過激派に活動拠点を提供している」と記した非公開文書が明らかになり、トルコ政府が声明で抗議するという事態にもなっています。

****トルコはイスラム過激派に拠点提供」 独の非公開文書****
・・・・文書は、ドイツの左派党の質問に対して回答したもの。機密情報に基づいているため、非公開を条件に回答したが、独公共放送ARDが16日、独自に報じた。
 
文書は「2011年以降、トルコは中近東のイスラム過激派グループの中心的な活動拠点になりつつある」とし、パレスチナ自治区ガザを実効支配する「ハマス」や、エジプトのイスラム組織「ムスリム同胞団」、シリアの反政府勢力を支援先として挙げた。
 
これに対し、トルコ外務省は「トルコを攻撃するゆがんだ精神を反映している」「背後には(トルコからの独立を求めるクルド人の武装勢力・クルディスタン労働者党)PKKをサポートする一部の政治勢力がいる」などと批判した。
 
ドイツ国内には、エルドアン大統領の強権姿勢が目立つトルコと協力することに慎重論が根強く、内務省の見解が明らかになったことで、今後さらに反発が強まる可能性がある。ドイツ政府は17日の会見で、文書の存在を認めたものの、内容については「コメントできない」とした。【8月18日 朝日】
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冒頭のIS犯行とも見られているテロでも触れたように、トルコがイスラム過激派に融和的な姿勢をとってきたことは周知のところではありますが・・・・。

こうした欧米の批判的な姿勢を牽制するように、ロシアとの関係を急速に改善させていることは、これまでも触れてきたところです。

状況を注視するシリア難民
EU・ドイツとトルコとの関係次第で大きく左右されるのが、トルコに暮らす300万人とも言われるシリア難民です。トルコ国内には難民への批判的な動きも出ているようです。

****排除の空気、シリア難民注視 クーデター未遂のトルコ****
7月中旬にクーデター未遂事件が起きたトルコには、内戦を逃れた約300万人のシリア難民が暮らす。エルドアン大統領が強権姿勢を強め、国を挙げた団結ムードが高まるなか、難民たちはトルコが難民排除の動きを強めないか、事態を注視している。

 ■「市民の資格ない」「帰れ
「お前らに市民の資格はない」。最大都市イスタンブールに住むシリア難民の男性(31)は、乗車したタクシー運転手につばをはかれた。7月上旬、エルドアン氏がトルコ国籍を望むシリア難民に「国籍付与のチャンスを与える」と発言した直後のことだ。以来、国籍を明かすのはやめた。(中略)

 ■失業や治安悪化、不満
女性がこの1年で相談を受けたシリア人は約200人にのぼる。就業難など生活に不満もあるが、「多くのシリア人はエルドアン氏支持だ」と言う。エルドアン氏が、シリア難民に比較的、寛大な政策をとってきたことが背景にある。
 
トルコが受け入れているシリア難民は世界最多。国連によると40万人超の子どもが学校に通えず、難民の多くは低賃金の非正規労働に就いているが、それでもトルコ政府は多くの難民キャンプを整備し、NGOと連携して教育や職業訓練の機会を与えてきた。
 
ただ、トルコ人の失業率も10%に近く、15~24歳では約17%に上る。政府の姿勢とは裏腹に、トルコ人男性(29)は「シリア人のせいで治安が悪くなり、仕事も見つけられないと怒る人もいる」と話す。地元メディアによると、首都アンカラで政権を支持するグループの一部が、シリア人が営む店舗を襲撃して窓ガラスが割れるなどの被害が出た。
 
こうした動きは一部にとどまるが、難民にとっては気がかりだ。欧州連合(EU)が3月、ギリシャに渡った難民らのトルコ送還で合意し、渡欧も難しくなった。シリア難民の男性(32)は「トルコがどう変わるのか、注意深く見守っている」と話した。
 
岩坂将充・同志社大准教授(現代トルコ政治)はエルドアン氏の姿勢について「アサド政権退陣後のシリアの国造りに関与することが、自国の安全保障に役立つと考えている。多くのシリア難民を受け入れ、欧州などから援助を引き出す狙いもある」とみる。ただ「国内的には、イスラム的な連帯をアピールできる一方、ナショナリズムの考えが強い人からは反発も見られる。両刃の剣だ」と指摘する。【8月21日 朝日】
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シリア・イラク  「IS後」の焦点となるクルド人勢力の動き

2016-08-20 22:11:39 | 中東情勢

(空爆後に救出され、救急車の中でぼうぜんと座っている少年。アレッポで17日撮影されたとされるソーシャルメディアに投稿された動画から【8月19日 ロイター】)

シリア空爆で負傷した男の子の映像がSNSで拡散
激しい戦闘が続くシリアの惨状を象徴するものとして、主戦場となっているアレッポの建物のがれきから救出された子供の動画が話題となっています。

****シリア空爆で流血の5歳男児映像、SNSで動揺と非難広がる****
顔中が血とぼこりにまみれた小さな少年が、静かに腰かけ、ただぼう然とまっすぐに前を見つめている。シリアの都市アレッポで、空爆とみられる攻撃が起きた後のことだ。

救急車の中にたった1人で座っているこの少年は、医師らが確認したところによると、オムラン・ダクニシュちゃん(5)で、頭から流れる血をぬぐおうとしている。受けたけがには気づいていない。

空爆に直撃された建物のがれきから救出された子どもたちの動画がソーシャルメディアで拡散し、5年にわたるシリア内戦の悲惨な現実に動揺と非難が沸き起こっている。

アレッポは反体制派と政府が支配する地域に分かれており、激戦地となっている。

2週間前に奪われたアレッポ南西の地域を奪還すべく、政府軍は連日のように反体制派が支配する地域を激しく空爆している。

動画は17日、市内の反体制派が支配する地域で撮影された。

動画には、救急隊員が建物から少年を救出し、救急車の座席に座らせる様子が映し出されている。2人の子どもがさらに救急車に乗ってくるまで、少年は放心した様子で1人座っている。その後、救急車には顔中血だらけの男性も乗ってくる。

昨年は、溺死したシリア難民のアイラン・クルディちゃん(当時3歳)の写真がソーシャルメディアを駆け巡り、シリア内戦の犠牲者に対する同情が世界的に高まった。【8月19日 ロイター】
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溺死したシリア難民のアイラン・クルディちゃんの写真は世界に衝撃を与え、難民保護への同情的な世論を喚起しましたが、その後の熱の冷めた欧州受入国の状況は周知のところです。

こうした写真や動画に人々が大きく反応するというのは人間性の一面ではありますが、一方で、現地ではもっと悲惨な悲劇が普段から数えきれないほど起こっているにのもかかわらず、私を含め多くの人々はそうしたものに目をむけることなく暮らしており、たまたま印象的なものを目にした時だけ・・・・というのも現実です。

シリア政府軍がクルド人勢力初空爆 内戦の構図複雑化
そのシリアやイラクでは、イスラム国(IS)の劣勢はすでに明らかとなっており、各勢力のIS崩壊後を見据えた動きも表面化しています。

そうしたなかで、大きな問題となるのが、再三取り上げているように現在は国家を持たないクルド人の動向です。

シリアの要衝マンビジュ制圧でも、また、今後のイラクのモスル攻略においても、アメリカの支援を受けたクルド人勢力が対IS戦略において大きな役割を担っていますが、シリア・イラクの中央政府にとっては、将来的にクルド人勢力が独立国家を目指すようになるのではとの懸念もあります。

そうした懸念の表面化でしょうか、シリア政府軍がクルド人民兵部隊「クルド人民防衛部隊(YPG)」に対する空爆を実施し、これに米軍主導の有志連合に属する複数の戦闘機が緊急発進するという複雑な状況ともなっています。

****シリア軍がクルド人部隊を空爆、有志連合戦闘機が緊急発進****
米国防総省のジェフ・デービス報道官は19日、シリア北東部の都市ハサカでシリア軍機がクルド人民兵部隊「クルド人民防衛部隊(YPG)」に対する空爆を実施したため、YPGと行動を共にする米国人の軍事顧問を保護する目的で、米軍主導有志連合の戦闘機が緊急発進したと述べた。

シリア軍に対するYPGへの攻撃で、シリアで続く内戦は新たな展開を見せたことになる。
 
デービス報道官によると、シリア政府は18日にSU24攻撃機2機を出動させ、米軍特殊部隊の軍事顧問と共に戦闘訓練を行うYPGが駐屯する同国北東部のハサカ付近の地域の空爆を行った。
 
シリア軍機を阻止するため米軍主導の有志連合に属する複数の戦闘機が緊急発進したが、到着した際には既にシリア軍機は現場を離れた後だったという。
 
デービス報道官は、「(戦闘機の緊急発進は)有志連合軍を保護するために行われた」と述べ、「われわれは有志連合軍の安全を確保する。シリア政府には、彼らに危険を及ぼす行為をしないよう忠告する。われわれは有志連合軍を危険にさらすいかなる行動も極めて深刻に受け止め、自己防衛のための行動を起こす」と付け加えた。
 
しかし、シリアは米国防総省による警告を無視し、19日にはハサカで2日連続となる空爆を行ったという。
 
18日の空爆が開始された直後、地上にいたYPGは無線を使用して空爆を停止するよう連絡を試みたものの、シリア軍機に無視されたという。

米軍はその後、シリアのバッシャール・アサド統領を支援するため同国内の一部地域で空爆を続行しているロシアに連絡したものの、ロシア軍当局者は、ハサカの空爆を行ったのはシリア軍機であると述べたという。
 
デービス報道官は、「シリア政府がYPGに対する今回のような行動を起こしたことは前例がなく、非常に異例だ」と述べた。

18日の空爆で有志連合軍の負傷者は報告されていないが、デービス報道官は詳細には言及せず、米軍は安全な場所に移動したと述べた。
 
同報道官はまた、米軍主導の有志連合軍は、現在周辺地域でさらに戦闘空中哨戒(CAP)を実施していると述べた。
 
米政府はYPGを米軍の対イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」作戦における重要な同盟部隊とみなしており、YPGに武器や、軍事顧問として米軍特殊部隊を送っている。【8月20日 AFP】
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有志連合軍兵士の負傷者は出ていませんが、空爆で民間人数十人が死亡し、数千人規模の避難者が出たとも報じられています。クルド人民兵組織YPGのスポークスマンは「武器を手に取れる者は全員、アサド政権と戦う」と述べ、徹底抗戦の姿勢を示しています。【8月20日 時事より】

トルコ・ロシアの思惑も?】
これまでアサド政権は反体制派との、クルド人勢力はISとの戦闘に重点を置いており、双方の間で大規模な戦闘は起きていませんでした。

アサド政権側には、内戦の混乱に乗じる形で勢力を拡大してきたクルド人勢力に打撃を与えたい狙いがあるとみられています。

ただ、アレッポでの反体制派との戦闘で手いっぱいのはずのアサド政権が、この時期に敢えてクルド人勢力攻撃に乗り出したのはどうして?という疑問はあります。

クルド人勢力の拡大をアサド政権以上に警戒しているのが、クルド人勢力支配地域と隣接するトルコです。

トルコは国内にクルド系反政府勢力PKKを抱え、その対策に躍起になっていますが、シリアで勢力を拡大するクルド人勢力YPGは国内反政府勢力PKKとつながる組織でもあり、国境に隣接する地域にYPGが勢力を拡大し、国内PKKの活動が刺激されることを非常に警戒しています。

トルコの関心はISではなくYPGにあるとされ、場合によってはトルコ自身が対YPG攻撃に乗り出すのでは・・・とも見られています。ただ、実際にそうした行動に出ることは、YPGを支援するアメリカとの決定的な対立を生じます。

そのトルコとアサド政権を支援するロシアは、これまでの対立を水に流して急接近していますが、シリア問題での立ち位置は大きく異なることも指摘されているところです。トルコはアサド政権に抵抗する反体制派を支援しています。

****<露トルコ協議>シリア問題で政府間委員会を設立****
関係正常化を進めるロシアとトルコは、両国間で懸案のシリア問題に関する政府間委員会を設立した。トルコのカリン大統領報道官が10日、明らかにした。軍、情報機関、外務省の代表者がメンバーとなる。
 
ロシア通信によると、プーチン露大統領、エルドアン・トルコ大統領が9日の首脳会談で同委設立に合意。両軍間のホットラインも再開したという。

トルコのチャブシオール外相は11日、「過激派組織『イスラム国』(IS)に対する共同作戦についてロシアと議論する用意がある」と地元テレビで語った。【8月11日 毎日】
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ここから先は何の根拠もない全くの憶測ですが、今回シリア政府軍がクルド人勢力YPG空爆を行ったのは、YPGを叩きたいトルコの意を受けたロシアがアサド政権に何らかの提案・指示を行った・・・ということはないのでしょうか。

直接には手を出しにくいトルコは、ロシアを通して代わりにシリア政府にYPGを空爆させ、そうしたトルコの要望を受け入れることで、これまでアサド政権と対立していたトルコをロシア・アサド政権が懐柔する・・・という図式は?まったくの憶測ですが。

なお、ロシアはこれまでクルド人勢力にも接近していますが、その相手はYPGではなく別のクルド人勢力と言われています。

ロシアはイラン領内の基地からIS空爆を開始したように、イランとの関係を強化しています。
更にトルコとの関係も改善できれば、中東における発言力は更に高まることになります。

ロシア・プーチン大統領は、直接関与を最小限に抑えたいアメリカ・オバマ大統領とは異なり、良くも悪くも大胆にシリアに関与を強めています。

****露、巡航ミサイル発射・・・シリアの過激派組織拠点****
ロシア国防省は19日、地中海東部に展開中の黒海艦隊所属のミサイル艦2隻からシリアに向け、巡航ミサイル3発を発射したと発表した。
 
この攻撃で、シリア北部アレッポ県のイスラム過激派組織「レバント征服戦線」の拠点や武器庫などを破壊したという。ロシアが艦艇から巡航ミサイルを使って攻撃するのは今年に入って初めてとみられる。
 
アサド政権を支援するロシアは16日から3日連続でイラン西部ハマダンの空軍基地を使用して、爆撃機による空爆を強化している。
 
露国防省は、アサド政権と反政府勢力との戦闘が激化するアレッポで、国連の呼びかけに応じ、人道支援を行うため来週にも48時間の停戦に応じる意向を示している。巡航ミサイル攻撃を加えることで、停戦を前に戦況を有利にし、シリア和平で対立する米国主導の有志連合をけん制する狙いがありそうだ。【8月20日 読売】
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ロシアはシリアにおける影響力を高めながら、ロシア主導でシリア情勢を自国に都合のいい形に持って行きたいところでしょう。

****アレッポの戦闘 ロシア「毎週48時間の停戦応じる****
アサド政権軍と反政府勢力の戦闘が続いているシリア北部の都市アレッポについて、政権軍を支援するロシアは、危機的な状況に陥っている市民に飲料水などの物資を供給するため、毎週48時間の停戦に応じる用意があると明らかにしました。

シリア北部の都市アレッポでは、アサド政権軍やそれを支援するロシア軍、それに反政府勢力による戦闘が続き、包囲された地域に取り残された200万人余りの住民が飲料水などの供給が十分に受けられず危機的な状況に陥っています。

このため、国連は物資の輸送のため、戦闘を停止するよう呼びかけてきましたが、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は18日、地元メディアに対し、「住民に食料や医薬品を届けるため、毎週48時間、戦闘を停止する用意がある」と述べ、来週から停戦に応じる考えがあることを明らかにしました。

アレッポをめぐっては、ロシアは今月10日、毎日3時間、戦闘を停止すると発表しましたが、国連は「十分ではない」と戦闘停止の拡大を求めていました。

一方で、ロシア軍がイランの基地からシリアの空爆を行っていることについてはアメリカが懸念を示していますが、ロシアは18日もこれを行ったと発表し、シリア問題をめぐり、硬軟織り交ぜた姿勢を示しています。【8月19日 NHK】
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イラン、トルコに接近したり、巡航ミサイルを打ち込んだり、停戦を提案したり・・・・実に目まぐるしいロシアの対応です。

ただ、今回のシリア政府軍のクルド人勢力空爆でシリア政府軍機と米軍機が交戦するような事態ともなれば、ただでさえ複雑なシリア情勢は更に混迷し、アサド政権を支えてきたロシアにとっても得策ではありませんから、今回の空爆は本格的なYPGとの戦闘拡大というよりは、一種のデモンストレーションではないでしょうか?

もっとも、ロシア・アサド政権がそのつもりでも、クルド人勢力側がどう反応するかは別問題です。どういう形で今後に影響するかは不透明です。

イラク:モスル攻略と「IS後」に向けて、クルド自治政府の動向は?】
モスル攻略を進めるイラクでも、イラク政府とクルド自治政府の関係が微妙です。

****イラク情勢****
・・・・モースル作戦の開始が近づくにつれ、政府側の摩擦が表面化してきて、モースルからISが駆逐された後のイラク-イラク問題が明らかになってきた

先ず、シーア派の民兵のモースル作戦参加については、彼らが人道法違反の犯罪を働くとの理由で、地元部族等が反対した

より大きな問題は、クルドとの関係で、クルド自治政府がモースルを自己の領域に居れようとしているとして、イバーディ首相はペッシュメルガがその場にとどまり、作戦に参加しないように求めた。
オベイディ国防省は、ペッシュメルガは、イラク軍の指揮命令下に入るべきだと主張した。

これに対して米国は、この主張を支持し、ペッシュメルガが対IS作戦では、最も頼りになる存在であること、これまでの貢献は認めつつも、イラク軍の指揮下に入り、一体となって戦うべきであると呼びかけた。

現在の作戦ではイラク軍がal qiyara東南部から、ペシュメルガがモースルの北東から攻撃する予定の由

しかし、ペッシュメルガは19日の声明で、同軍はクルド自治政府の指揮、命令下にあり、イラク軍の指揮命令下には入らないとした。【8月20日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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アバディ首相の言うようなクルド自治政府のペッシュメルガ抜きで、イラク政府軍だけでモスルを攻略するのは難しいのではないでしょうか。

アメリカもそうした懸念から“イラク軍の指揮下に入り、一体となって”と言っているところですが、クルド自治政府の対応は?

クルド自治政府としても、なんらかの“見返り”がなければ、大きな犠牲を払って対IS作戦に参加する意味がありません。

“独立”への動きも隠そうとしていないクルド自治政府ですが、最近の情勢は自治政府にとってはあまりよくないようです。

野口雅昭氏は7月9日「中東の窓」“つぶれたクルド共和国の夢”で、石油価格の暴落、クルド人間の対立、ISの台頭、イラク難民の流入、アメリカの反対などで、独立の夢はしぼんでしまった・・・・というトルコメディアの報道を紹介されています。

クルド自治政府とは関係が良いトルコ・エルドアン政権ですが、“独立”ということになれば話は別です。
トルコ国内クルド人反政府勢力を強く刺激することになります。

上記のトルコメディアの見方は、クルド独立に反対するトルコの思いを反映したものでもあるでしょう。

“独立”が容易でないことは間違いありません。アメリカだけでなく、周辺国も、当然イラク政府も潰しにかかるでしょう。ただ、“独立”問題は理性的判断の外にある問題でもあるので・・・。

クルド自治政府が対IS作戦にどんな“見返り”を求めているのか・・・モスル攻略が実現した後に大きな問題となるかも。

上記のように、シリアでもイラクでも、今後クルド人の動向が「IS後」の焦点ともなりますが、ついでに言うと、シリアのクルド人勢力とイラクのクルド自治政府は関係がよくないというように、クルド人内部にもいろんな問題があり、話は更に複雑になります。
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南スーダン 存在意義が問われる国連PKO部隊 救助要請でも出動せず

2016-08-19 21:57:40 | アフリカ

(現在南スーダンには1万2000人の国連部隊が派遣されています。【8月18日 CNN】)

混乱長期化の可能性 すでに国外避難民100万人、国内避難民160万人
キール大統領派とマシャール副大統領派の内戦が続いている南スーダンでは、これまでも“合意”が成立と言いながらも戦闘が継続・再発するという形で、基本的な和解は全く進んでいません。

4月になんとか実現した両派の暫定統一政府ですが、7月にも300人近い死者を出す衝突があり、それをようやく収束したかと思うと、副大統領派が内部対立で分裂、キール大統領がこれに乗じる形でマシャール副大統領を解任するということで、戦闘再燃が懸念される状況となっています。
(7月30日ブログ“「世界は戦争状態にある」 難民問題、イエメン、南スーダン、ブルンジ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160730

キール大統領に解任されたマシャール前副大統領はコンゴに出国しており、混乱は長期化するとの観測がなされています。

****南スーダン、前副大統領が出国か 混乱長期化の可能性****
キール大統領派とマシャル前副大統領派による大規模な戦闘が再発した南スーダンで17日、マシャル氏が同国を脱出し、南隣のコンゴ民主共和国に逃れた模様だ。ロイター通信などが18日、伝えた。
 
マシャル氏の出国により両派の対話がこれまで以上に難しくなり、混乱が長期化する可能性が強まっている。南スーダンでは現在、日本の自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加している。
 
ロイターなどによると、国連報道官が18日、「人道的な理由から、PKO部隊が、マシャル氏や家族のコンゴ民主への移動を手助けした」と明かした。マシャル氏側の報道官によると、マシャル氏は早期のエチオピア入りを希望しており、近く記者会見を開きたいとしている。
 
混乱が続く南スーダンでは昨年8月、和平合意が結ばれ、今年4月に両派統一の暫定政権が樹立された。マシャル氏は副大統領に就任したが、7月に戦闘が再発して以降、首都ジュバを離脱。行方がわからなくなっていた。

その後、キール氏はマシャル氏の副大統領職を解任。マシャル氏派は反発を強め、両派間の緊張が高まっていた。【8月19日 朝日】
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すでに十分に長引いている南スーダンの混乱・戦闘を避けて、100万人に近い人々が国外に逃れており、国内避難民約160万人と併せ、避難民対策が急務となっています。

****南スーダンの避難民約100万人、悲惨な環境で生活 国連が警鐘****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は15日、紛争の続く南スーダンから逃れた100万人近い避難民が、近隣諸国に設置された悲惨な状況下のキャンプで暮らすことを余儀なくされているとして、警鐘を鳴らした。避難民の大半が女性や子どもだという。
 
UNHCRが発表した声明によると、南スーダンの首都ジュバで新たな戦闘が発生したことを受けて、隣国の一つウガンダだけで、先月に避難した人の数は「1日当たり8000人以上」に上った。

新たにウガンダへ逃れた人々のうち、9割が女性と子どもだったという。
 
UNHCRは「数千人単位の避難民が南スーダンから逃れてきている。近隣諸国は、押し寄せる避難民の数の重圧がのしかかり、危機的なまでに資金が不足する中、対応に苦慮している」とし、「同地域にはすでに約93万人の避難民がいる上、さらに多くの人が連日到着している」と指摘した。
 
UNHCRは近隣の6か国に避難している計100万人近い人々と、南スーダンに約160万人いるとされる国内避難民に物資を供給するのに必要な6億900万ドル(約615億円)のうち、受け取った額は5分の1しかないと訴えている。【8月15日 AFP】
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国連 PKO追加派遣 任務遂行のためななら武力行使も
こうした事態に国連安保理は、PKOの国連南スーダン派遣団(UNMISS)の任期を延長し、4000人規模の部隊を南スーダンに追加派遣する決議を採択しています。
UNMISSは現在、軍事要員約1万2000人で、日本も陸上自衛隊から約350人を派遣しています。

追加部隊は近隣諸国から出される予定で、首都ジュバで国連要員や民間人、空港などの施設防護を担うことになっており、任務遂行のため武力行使の権限が与えられています。国連要員などへの攻撃が準備されているとの信頼できる情報がある場合は、先制攻撃も可能とされています。

****南スーダンに4000人規模の追加派兵、国連安保理が決議採択****
国連安全保障理事会は12日、4000人規模の部隊を南スーダンに派遣する決議を採択した。南スーダンでは特に先月初め以降に武力衝突が激化し、内戦状態に終止符を打つための努力が後退する事態が続いている。
 
米国が草案を作成した決議には、南スーダン政府が新たな部隊の配備を妨害した場合、同国に武器禁輸の制裁措置を発動する選択肢も含まれている。
 
決議には安保理理事国15か国のうち11か国が賛成票を投じ、中国、ロシア、エジプト、ベネズエラの4か国は、国連の追加派兵について南スーダン政府の同意を得ていないことを理由に棄権した。
 
南スーダンの首都ジュバでは戦闘激化によって7月初めに多数の死者が出ており、アフリカ各国の首脳からは、ジュバの治安を確保し、国連の基地を保護するためにアフリカ諸国による部隊の派遣を求める声が上がっていた。
 
主にエチオピアとケニア、ルワンダが兵力を出すとみられる追加派遣部隊には、任務を遂行するために「必要に応じて断固たる行動を取るなど、必要なあらゆる手段を行使」する権限が与えられる。
 
同部隊はジュバと空港などを防護し、「攻撃準備中または攻撃実施中であると信じるに足る者を迅速かつ効果的に阻止する」任務を負う。【8月13日 AFP】
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南スーダン政府は、こうした武力行使も辞さない部隊の受入に難色を示しているとも言われ、速やかな追加派遣が実現するかどうかは不透明です。

“国連は武器禁輸の発動も示唆し受け入れを迫っている”【8月13日 毎日】とのことですが、そもそも、内戦が続いている南スーダンへの武器輸出が認められていること自体が不思議です。

どの内戦・紛争もそうですが、戦闘を鎮静化させる有効な手段は武器・弾薬の補給を断つことだと思うのですが。

救助を求められても出動しないPKO
先述のように、現在でも南スーダンには軍事要員約1万2000人のPKO部隊が展開しているのですが、その存在意義が疑問視されるような事件も報じられています。

****南スーダン兵士が外国人襲撃、「国連部隊は救助要請に応じず」の証言****
南スーダンで援助団体の外国人職員などが滞在していた施設が兵士の集団に襲撃され、1人が死亡、女性職員が強姦されたり暴行されたりする事件が起きていたことがこのほど明らかになった。

襲撃時、国連部隊が救助を求められたにもかかわらず出動しなかったという証言もあり、国連の潘基文(パンギムン)事務総長は事実関係などについて調査を指示した。

AP通信や人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチが15日に伝えたところでは、事件は南スーダンで大統領派と副大統領派の衝突が起きていた7月11日に首都ジュバで発生。外国人職員などが滞在していた施設が、制服姿の南スーダン兵80~100人に襲撃された。

同施設の周辺では数日前から衝突が続いていたが、11日午後3時ごろ、兵士らが鉄鋼製の扉を1時間以上にわたって銃撃して2階建ての建物に侵入。現金や貴重品の略奪を始めた。

米国人女性によれば、浴室に隠れた約16人は、国連や大使館に電話やメールで助けを求め続けたという。
しかし兵士らはドアを破って室内に乱入し、女性を1人ずつ連れ出して暴行。米国人女性は自動小銃で殴られ、銃口を突き付けられて脅されたと話している。
国際機関職員の別の女性も、ほかの数人の女性と共に、複数の男に何度も強姦されたと証言した。

援助団体のフィリピン人男性職員はベッドの下に隠れ、室内を荒らし回る兵士たちを目撃した。兵士たちは「お前たち外国人がこの国で問題を起こした。これはアメリカ人が南スーダンに対してやったことだ」と主張していたという。

兵士たちはさらに、反体制派と同じ民族の地元記者(32)を銃撃して殺害したという。

南スーダンの治安部隊や民間警備会社が事件発生から3時間以上たって、ようやく1人目の生存者を救出。全員が救出されたのは約18時間後だった。

目撃者らの話では、襲撃された施設の近くには国連の拠点があり、国連南スーダン派遣団(UNMISS)は同施設から何度も救援要請を受けたにもかかわらず、対応しなかったという。このため救助は民間警備会社や南スーダン軍に頼らざるを得なかったと目撃者は話している。

国連の潘事務総長は声明を発表し、UNMISSが適切に対応しなかったと伝えられたことを重く見て、独立調査を指示したことを明らかにした。

国連安全保障理事会は8月12日、南スーダンの平和維持部隊を増強するため4000人の増派を決議した。

一方、UNMISSの広報は当時の同国の状況について、「極度に困難かつ予断を許さない治安環境」にあり、「危険にさらされた人員の救助を実行できる能力に重大な限界があった」と説明。UNMISSは事実関係や経緯について調査に乗り出すと表明した。

南スーダンの大統領報道官は、襲撃の計画があることは知らなかったと述べ、事件に関与した人物を見付け出して訴追すると表明した。政府は外国人に対する襲撃を指示したことはないと強調している。【8月18日 CNN】
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“襲撃された施設の近くには国連の拠点があり、国連南スーダン派遣団(UNMISS)は同施設から何度も救援要請を受けたにもかかわらず、対応しなかった”・・・・人員・装備の点で「救助を実行できる能力に重大な限界があった」ということのようですが・・・・。

そうであるにしても、PKOとしてそこにいるのですから、やはり国連の旗を掲げて救援に向かってほしかったという思いがあります。

前回7月30日ブログでも取り上げたように、PKO部隊が住民女性への性的暴行を見て見ぬふりをした・・・という報道もなされています。

****戦闘激化の南スーダンで性的暴行120件、PKO要員が見ぬふりか****
国連は27日、南スーダンでサルバ・キール大統領を支持する政府軍とリヤク・マシャール第1副大統領(当時)の支持勢力との間で激しい戦闘が再発した今月8日以降、少なくとも120件の性的暴行事件が起きたと発表した。

国連の平和維持活動(PKO)要員が暴行現場を目撃していながら見逃した疑いがあるとして、調査を開始したという。

「PKO要員が窮地にある市民を救助しなかった疑いがあり、深刻に受け止めている」と、ファルハン・ハク国連事務総長副報道官は述べ、国連南スーダン派遣団(UNMISS)司令部が調査を行っていることを明らかにした。
 
報道によると、少なくとも1件の女性暴行事件の現場にPKO要員が居合わせたが、何もしなかったという。AP通信は目撃者1人の証言として、基地の入り口近くで女性が兵士2人に襲われ、助けを求めて叫んでいるのを中国とネパールのPKO部隊員30人余りが見ていたと伝えた。
 
ハク副報道官によると、首都ジュバでは国連基地の付近を含む市内各地で、軍服を着た南スーダン兵と私服の男たちが市民に対し性的暴行をはたらいたとみられ、集団暴行も起きたという。被害者には未成年者も含まれているという。(後略)【7月28日 AFP】
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紛争が一応収まっているというPKO派遣時の状態と現在の状況が異なるということはあるのでしょうが、これでは何のための国連部隊なのかわかりません。
紛争国の揉め事にかかわると厄介な事態になるというのもわかりますが、国連の旗のもとに、多少の武器も手にしてそこにいるのですから。

ルワンダでのジェノサイドやボスニア・ヘルツェゴビナ東部スレブレニツァでの事件を経験して、国連も現地住民保護に積極的に関与する方向に変わってきており、今回追加派遣も「任務遂行のためなら武力行使も辞さない」とされていますが、まだ実際に現地に派遣されている部隊の意識はそこまで至っていないようです。

日本の自衛隊も、こうした事態を想定しておく必要があります。
場合によっては、任務遂行のための犠牲もやむを得ないと考えます。それは国際社会において果たすべき責務であるとも考えます。

それにしても、今回の外国人職員などが滞在していた施設を襲撃したのは南スーダン政府軍兵士のようですが、「お前たち外国人がこの国で問題を起こした。これはアメリカ人が南スーダンに対してやったことだ」という彼らの憎悪はどこから生じているのでしょうか?
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核軍縮に立ちはだかる「現実論」 オバマ大統領の「先制不使用宣言」 国連での核禁止条約交渉の議論

2016-08-18 22:51:33 | 国際情勢

(8月6日 広島で、「核兵器のない世界」に向け努力を積み重ねていくことを誓う安倍首相 【8月6日 朝日】)

オバマ大統領の核先制不使用宣言検討に対し、日本など同盟国から強い疑義
来年1月に退任するアメリカ・オバマ大統領が、自身のレガシー(政治的遺産)として、核兵器の先制不使用宣言を検討しているとのことです。

“オバマ氏は広島訪問で改めて発信した「核兵器なき世界」の段階的実現に向け、核攻撃への反撃を除いて核兵器を使わない政策を検討している。核実験を禁止する国連安全保障理事会決議を採択する構想もあるという。
先制不使用は通常兵器や化学兵器などによる攻撃への反撃として核兵器を使わず、対核兵器に限ることで核使用を限定する。核保有国の中では中国が先制不使用を宣言している。”【8月16日 日経】

しかし、国内外の反対が強く、実現は困難と見られています。

****核抑止依存」という現実の厚い壁 オバマ米大統領の核先制不使用宣言は頓挫の見通し****
オバマ米大統領が検討している核兵器の先制不使用宣言は、政権内外からの反対に遭い、頓挫する見通しが強まってきた。「核兵器なき世界」を一段と進めるという理想は、国際社会がなお、核抑止力に依存している現実という厚い壁に阻まれている。
 
2009年4月、プラハ演説で「核兵器なき世界」を初めて目標に掲げたオバマ氏は、今年5月の被爆地・広島での演説で、この理念の実現を目指す決意を表明した。
 
その後、具体策の一つとして検討されてきたのが、核兵器の先制不使用だ。核政策の大幅な変更であり、これには(1)核実験禁止を確認する国連安全保障理事会の決議採択(2)21年に期限切れとなるロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長(3)核兵器の改修・更新計画の縮小−なども含まれている。
 
来年1月に退任するオバマ氏には、核兵器の役割低減を図る政策を進展させ、レガシー(政治的遺産)を形にする狙いがある。
 
だが、北朝鮮は核・弾道ミサイルの開発に邁進(まいしん)し、中国も北米を射程に収める多弾頭型の移動式長距離弾道ミサイルの開発に余念がない。ロシアは戦術核を強化し欧米を脅かしている。
 
これら核戦力が強化されている中で、日本をはじめとする同盟国などから強い疑義が呈されることは、自明の理だといえよう。
 
オバマ政権内でカーター国防長官らが「米国が先制不使用を宣言すれば、同盟国に米国の核抑止力に対する不安を抱かせ、独自に核開発に走る国が出てくる可能性がある」と反対していることも、うなずける。
 
米軍や野党・共和党にも「核政策の柔軟性を、急速かつ著しく損なう」との反対論が強い。核保有5大国では中国が唯一、先制不使用を宣言しているが、うのみにできないのが実情だ。【8月16日 日経】
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アメリカ国内では、ケリー国務長官やカーター国防長官が反対の意向を示しているほか、空軍長官が公の場で懸念を表明しています。

****核先制不使用に懸念=「個人的には疑問」―米空軍長官****
ジェームズ米空軍長官は17日、ニューヨークで記者会見し、オバマ大統領が検討中とされる核兵器の先制不使用宣言について、「懸念する」と述べた。

核先制不使用をめぐり、米メディアはケリー国務長官やカーター国防長官、日本を含む同盟国が反対していると報じているが、米政権幹部が公の場で懸念を表明するのは異例。
 
ジェームズ長官は、潜在的な敵国に明確なメッセージを発したい場合もあれば、「あいまい戦略」が最善策の場合もあると指摘。核兵器の先制不使用を事前に明言する政策に関し「個人的には疑問だ」と語った。【8月18日 時事】 
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通常戦力でアメリカに劣るロシアは核を中核とした軍備に固執していますが、欧州のミサイル防衛計画や韓国へのTHAAD配備などでアメリカへの不信感も強く、先制不使用宣言についても現実味を疑う見方が強いとのことです。

****露、核戦力の近代化に邁進 米の兵器高度化、MDを警戒 核先制不使用****
オバマ米大統領が検討している核兵器の先制不使用宣言について、ロシアではその現実味を疑う見方が強く、これまでに公式反応は出ていない。

米国や北大西洋条約機構(NATO)に通常戦力で後れをとるロシアは、核兵器を「中核」とする軍備増強に邁進(まいしん)。また、米国による高度通常兵器の開発やミサイル防衛(MD)システムの配備、核兵器の更新計画に対する警戒感を強めている。
 
ロシアが2010年2月に改定した軍事ドクトリンは、通常兵器による大規模攻撃にも「核兵器の使用を辞さない」とうたっている。米国が高度通常兵器で世界各所への短時間攻撃を可能にする「グローバル・ストライク」構想も打ち出す中、ロシアは核兵器によってしか米国との戦力格差を埋められない事情がある。
 
プーチン露政権は11〜20年の長期的な軍備刷新計画を進めており、戦略核兵器はその根幹を成している。米MD網を突破できるとされる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「ブラバ」や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「ヤルス」、新型のボレイ級原子力潜水艦や戦略爆撃機の配備を進め、核戦力の近代化を図りつつある。
 
米露の新戦略兵器削減条約(新START)に基づく3月時点のデータによると、ロシアの配備済み核弾頭数は1735と11年以降で200近く増え、米国の1481を上回っている。
 
ロシアは他方、米国が、命中精度や制御力を高めた新型爆弾「B61−12」の製造準備を進めていることについて、「核兵器使用のハードルを下げることにつながる」(露外務省高官)と批判。米国による「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備にも、米MD網強化の一環だとして反発を見せている。【8月16日 産経】
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米ロのレベルからは大きく劣る自国の核事情から先制不使用を宣言している中国にとっては、アメリカの先制不使用宣言は“好都合”とのことのようです。アメリカの先制使用の危険がない間に、せっせと大陸間弾道ミサイルなどの開発を進めるつもりとも。

*****米国の核先制不使用は中国の“宿願”核弾頭約260発保有も米露に及ばず*****
中国は原爆実験に初成功した1964年以降、核兵器の「先制不使用」を表明している。米国やロシア(旧ソ連)と比較すると核戦力に著しい差があり、自ら先制不使用を宣言することで両大国に核軍縮を求める外交カードとして利用してきた。米の軍事介入を防ぎたい中国にとって先制不使用政策は“宿願”だ。
 
同時に中国は、米国の核戦力に対抗するため大陸間弾道ミサイルの開発に多大な資源を投じている。昨年9月に北京で開かれた抗日戦勝70年記念の軍事パレードでは、米国に直接届く東風(DF)31A型と5B型を見せつけた。
 
昨年末には戦略ミサイル部隊の第2砲兵部隊を「ロケット軍」に格上げ。核弾頭保有数は非公表だが、米露などが核削減を進める中で中国は増加傾向にあるとされ、ストックホルム国際平和研究所によると今年1月時点で約260発を保有している。
 
中国が南シナ海で軍事拠点化を進めているのは、海洋権益の確保と米国への軍事的な対抗が主眼にある。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した潜水艦が海南島から南シナ海の深海部を通り西太平洋に出ることで米国への核抑止力は飛躍的に強化される。
 
茅原郁生・拓殖大名誉教授は米国の先制不使用政策について「中国にとってみれば大変好都合なこと。中露は平気で国際秩序を無視して現状を変える国であり、米国の核抑止力がそれを止めうる唯一の手段だ」と指摘する。【8月16日 産経】
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どのみち、米ロ、あるいは中国といった報復能力のある国の間では、「先制不使用」を宣言しようが、しまいが、実際には核兵器は“使えない兵器”となっているとも言えます。

報復覚悟で核攻撃に出ることは考えられませんし、米中ロの間で核攻撃を必要とするような通常兵器による大規模侵略が起こるとも思えません。

紛争の可能性があるのは、アジアで言えば、朝鮮半島とか台湾、そして日本といった地域でしょう。

ただ、(どういう事情か想定は困難ですが)仮に中国あるいはロシアが東京に大規模攻撃をしかけた、あるいは、核攻撃をしかけたといった場合、アメリカが先制であろうが報復であろうが、ニューヨーク・ワシントンが消滅する危険をおかして北京やモスクワに核攻撃をしかける・・・・というのはあり得ないでしょう。

ましてや尖閣諸島などの“小競り合い”で核使用が検討されることは100%あり得ません。

そういう意味で、やはり先制不使用宣言の有無は現実問題には関係がなさそうです。

唯一、関係がありそうなのが北朝鮮の動向です。

日本・安倍首相もそのあたりを配慮して、宣言には反対の意向を伝えています。

****安倍首相、米の核先制不使用検討に反対伝達 ****
15日付の米紙ワシントン・ポストは、オバマ米大統領が核兵器を最初に使わない先制不使用宣言を検討していることについて、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に反対の意向を伝えたと報じた。北朝鮮などへの抑止力が低下し、紛争リスクが高まる懸念があると伝達したとしている。(後略)【8月16日 日経】
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いかに北朝鮮といえども、日本との間で、核兵器使用が考慮されるような事態というのは想定しづらいところがあります。

仮に北朝鮮がノドンを東京に打ち込んでくるとしたらもはや“正気の沙汰”ではなく、そうした“狂気”(北朝鮮の場合は“狂気”にもやや現実味があります)に対し核兵器の先制不使用宣言がどういう影響を持つか考えても仕方がないところがあります。
アメリカの先制使用に対する恐怖から、核を先に撃ってくることも考えられます。

もっと現実性があるのは北朝鮮の韓国への侵攻(あるいは中国の台湾侵攻)ですが、そうしたケースを想定すると、日本としては、アメリカに核の先制使用などされたら困るのではないでしょうか。
先述のように中国にアメリカが核攻撃することは考えられませんが、報復能力の殆どない北朝鮮に対してならありうるでしょう。

しかし、おそらくそうした事態に至るまでには、アメリカに同調する日本との関係も悪化しているでしょうから、核兵器が飛び交うような事態となれば、その一部は日本にも飛んできます。

日本としては、38度線侵攻があろうと、台湾進攻があろうと、核兵器が使用されるような状況をつくらないことが重要なのでは。

そういた意味で、東アジアの核に関する緊張緩和を促す「先制不使用宣言」ということであれば、日本にとっては検討に値するのではないでしょうか。

核抑止の話は、ブラフをかけながら相手の出方を想定するゲームのようで、いかようにも想定できます。

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先制不使用宣言は核抑止力に影響を与えるとして日本や韓国、英国、フランスなどの同盟国が反対。ケリー国務長官やカーター国防長官らも、核抑止力への不安が広がると同盟国で核開発が加速すると懸念しているとの報道もある。このため実現は不透明だ。
 
同紙(米紙ワシントン・ポスト)は会談日時について触れていないが、日本の外務省によると、訪日したハリス氏は7月26日、首相官邸で安倍首相と約25分間会談した。日米同盟を一層強化することなどで一致したとしているが、発表文では先制不使用宣言について協議したかどうかは言及していない。
 
田上富久長崎市長は8月10日、松井一実広島市長と連名で、米の先制不使用の実現を後押しするよう日本政府に求める要請書を安倍首相らに出している。【8月16日 日経】
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【「核軍縮に反対している真の敵はここ(会議場)にいる」】
核兵器に関するもうひとつの動きは、国連における「核兵器禁止条約」に関する議論です。

唯一の被爆国として核軍縮をアピールする日本ですが、やはり「核抑止力」「核の傘」を重視する現実論から、早急な「核兵器禁止条約」には反対する立場をとっています。

そうした「漸進的アプローチ」を主張する日本のような国々に対しては「核軍縮に反対している真の敵」との評価も。

****<国連・核軍縮>「17年中に核禁止条約交渉開始を**** 
 ◇100カ国以上が表明、条約推進派が勢い
スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開会中の核軍縮国連作業部会で16日、100カ国以上が地域機関代表などを通じて、来年中に核兵器禁止条約の交渉を開始すべきだとの立場を表明し、条約推進派が勢いを見せ付けた。段階的な核軍縮を主張する少数派は守勢に立たされている。
 
中南米、アフリカ、東南アジア、南太平洋などの国々が「核廃絶は急を要する」(ドミニカ共和国)、「核兵器がある限り事故や爆発の危険が残る」(ラオス)などと交渉開始を支持。キューバやコスタリカなどは「来年中の交渉開始」を作業部会として国連総会に明確に勧告するよう求めた。
 
交渉開始への支持表明が相次いだ理由について、推進派のオーストリアのトマス・ハイノツィ国連代表部大使は毎日新聞に「サイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)が声を上げた」と説明。「来年中の交渉開始を支持する国が100カ国以上に上ったのは明白だ」と指摘した。
 
一方、非政府組織(NGO)からは、核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効などを通じた核軍縮の積み重ねによる「漸進的アプローチ」を主張する北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本など少数派グループへの批判が出た。
 
NGO「ワイルドファイア」のリチャード・レンナン氏は、オバマ米政権が検討中の核兵器先制不使用政策に日本や韓国が反対の意向を伝えたとの米紙報道を引用し、「核軍縮に反対している真の敵はここ(会議場)にいる」として「漸進的アプローチ」陣営を批判した。
 
作業部会は17日の議論の結果を踏まえ、秋の国連総会に提出する報告書を19日に採択する予定。タニ議長(タイ)は16日の会合終了後、合意の取りまとめについて「楽観している」と述べた。【8月17日 毎日】
********************

早急な対応を求める立場で議論を主導してきたメキシコのホルヘ・ロモナコ駐ジュネーブ国連・国際機関代表部大使は、議論に核保有国が参加していないことから「実効性がないのでは」といった見方に対し、”私たちは長年、「核保有国がいなければ何もできない」という考えにとらわれてきた。だが、それは保有国に力を与えることで、まさに「現状維持」だった。”【8月17日 毎日】と答えています。

確かに「現実論」に終始していては、結局「現状維持」から抜け出すことはできないでしょう。

核兵器については、戦争で使用される危険よりは、事故や人為的ミスによる爆発の方が現実味がありそうです。
これまでも、そうした危機的事例は(恐ろしいことに)多々ありますし、核保有国が大量にため込んでいる古い核兵器の管理・更新も難しくなっています。

****差し迫る核誤爆の脅威****
<トランプが核のボタンをもつよりひょっとしたら怖い話。新作ドキュメンタリー映画『コマンド・アンド・コントロール』によれば、米エネルギー省の機密資料から発掘した「核兵器運用上の事故」は千件以上。核弾頭を飛行機から落としたり、地上で失くしたり、爆風で30メートルも飛ばしたり......。今まで大惨事に至らなかったのが奇跡というべきだが、米国防総省は「核の安全神話」の上にあぐらをかいている> (中略)

そうした事故がいまだ大惨事に至っていない理由について、シュローサ―は「まったくの幸運だが、運はいずれ尽きる」と語る。「パソコンや車と同様、核兵器も所詮は機械。機械はいつか必ず不具合が生じる」(中略)

身震いするほど恐ろしかった
1980年9月18日の夜、メキシコ州のサンディア国立研究所で核兵器の研究に携わっていた科学者のロバート・ピュリフォイは、一本の電話に耳を疑った。アーカンソー州ダマスカス郊外のミサイル発射基地で、大陸間弾道ミサイル「タイタンⅡ」の保守点検作業をしていた若い作業員が、誤って重さ3キロほどの工具を数メートルの高さから落とした。それでミサイルの燃料タンクの表面に穴が開いたというのだ。

燃料漏れから大規模な爆発が起きれば、核弾頭が爆発する一触即発の危機だった。(中略)

間に合わなかった。ついに格納施設内で燃料爆発が起き、9メガトンという当時のアメリカで最強の威力を誇る核弾頭が爆風で空高く吹き飛び、30メートル離れた地上に落下した。

「自分は何としても事故現場に行かねばならないと覚悟していた。その核弾頭でいつ核爆発が起きても不思議ではなかった」とピュリフォイは当時を振り返る。

幸い、最悪の事態は免れた。安全装置が作動し、核爆発は起きなかったのだ。政府関係者の中には、大惨事に至らなかったのを良いことに、アメリカの核兵器は製造から30年以上経っても安全だと証明されたと豪語する者もいた。だがピュリフォイの危機感は消えなかった。「あの事故に関する記録を隅々まで読みあさって、身震いするほど恐ろしくなった」

1961年には、ノースカロライナ州上空で米空軍のB-52爆撃機が空中分解し、積んでいた核爆弾2発が地表に落下する事故が起きた。「うち1発は起爆のために必要なすべてのステップが実行に移され、地上に落下した時点で爆発用のシグナルが送られていた」とシュローサ―は映画で語っている。「水爆の爆発を寸前で阻止したのは、たった一つの安全装置だ」(中略)

「事故は必ず起きる。それが明日なのか、何百万年も先になるのかは分からない。確かなのは、いつか事故は起きるということだ」【8月15日 Newsweek】
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シリア  激戦が続くアレッポ 補給路を確保するも危機に瀕する住民の生命 

2016-08-17 22:57:28 | 中東情勢

(シリア政府軍による塩素ガス攻撃で呼吸困難になったとされるアレッポの少女 祖父は「国際社会がシリアに背を向けた」と非難しています。【8月17日 BBC】)

イスラム過激派が主体となった反体制派 包囲網に補給路を開く
内戦が続くシリアの現在の主戦場は、北部の主要都市アレッポをめぐる政府軍と反体制派の戦いと、トルコ国境に近いISへの補給路の要衝マンビジュでのISとクルド人民兵を主体とする「シリア民主軍(SDF)」との戦いとなっています。

特に、アレッポをめぐる攻防は、7月28日ブログ“シリア アレッポ包囲で飢餓状態 マンビジュでは誤爆も 反体制派の残虐行為 増大する犠牲者”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160728でも取り上げたように、いったんシリア政府軍が包囲網を完成させ、包囲された反対派支配地域住民約25万人の食料・水・医薬品等の不足が懸念される状況でしたが、反体制派側が補給路を開くという一進一退の展開となっています。

ただ、現在も激しいロシア、シリア政府軍の空爆が行われており、危機的状況にあることには変わりないようです。
更に、政府軍支配地域住民(およそ100万人)についても、反体制派の攻勢で危機が懸念されます。

また、反体制派の主力はアルカイダ系「ヌスラ戦線」の改名組織が担っており、“欧米が支援する穏健な反体制派”といったものとは異なる様相にもなっています。

****アレッポで一進一退の激戦、シリア内戦、最大のヤマ場に****
シリアの内戦は8月初めから北部アレッポで激戦となり、最大のヤマ場に差し掛かった。
市内に閉じ込められた住民は水や食料不足が深刻化、切迫した飢餓状況に追い詰められている。

しかし反体制派は国際テロ組織アルカイダ系の「シリア征服戦線」が主導権を掌握したことから、ロシア、シリア政府軍が空爆を強化、戦闘終息の見通しは全く立っていない。

突然の包囲網突破
アレッポは内戦前、人口200万人を超えるシリア最大の商業都市だった。内戦勃発で市をめぐる攻防が激化。2012年以来、市の西側半分を政府軍が支配、東側半分を反体制派が占領してにらみ合ってきた。政府軍は7月からロシア軍の空爆支援で市の包囲網の強化を開始した。
 
政府軍側は8月初め、レバノンの武装組織ヒズボラ、イラクのシーア派民兵軍団などの地上部隊の支援を受けて北部も制圧、アレッポを完全包囲下に置くことに成功した。これにより、反体制派勢力のトルコとの補給ルートが遮断され、反体制派にとっては死活的な打撃となった。
 
反体制派支配地区に残留している住民は約25万人。補給線が途絶したことにより、水や食料の他、医薬品、生活用品も入らなくなり、深刻な人道問題となった。逃げようにも完全包囲下では脱出ルートがなく、国連安保理も緊急協議したが、ロシアが反体制派に補給物資が渡ることを懸念、協議は難航している。
 
こうした中、今度は8月6日、アルカイダとの連携を解除したとして、「ヌスラ戦線」から名称を変更したばかりの「シリア征服戦線」がアレッポ南西部ラモウス地域で不意を突いて市の外側から政府軍に攻勢を掛けて撃退。包囲網を突破して市東部の反体制派地域までのルートを切り開いた。
 
この「シリア征服戦線」の勝利によって市南西部に新たな補給路が開通、その上、政府軍が支配するアレッポ西側が攻撃にさらされる状況になった。西側地区には政府支持の住民約100万人が居住しており、住民らの懸念が高まっている他、物価が暴騰している。
 
米国は2月、ロシアとの間で停戦に合意し、内戦の当事者にそれぞれ影響力を行使して停戦を順守させた。しかしそれも約3ヶ月で破綻し、戦闘が再び激化していた。停戦の合意からは、過激派組織「イスラム国」(IS)と「ヌスラ戦線」への攻撃は除外された。この点が停戦崩壊の大きな要因になった。
 
というのも「ヌスラ戦線」は反体制派勢力の一角としてアサド政権軍と戦ってきたからだ。内戦が続く中で、「ヌスラ戦線」戦闘員と反体制派戦闘員の混合状態が進み、切り分けることが難しくなった。アサド政権を支援して空爆を続行するロシア軍は「ヌスラ戦線」を攻撃しているとして、反体制派も攻撃した。
 
米国はロシアが「ヌスラ戦線」攻撃を口実にして反体制派つぶしにかかっているとしてロシアを批判したが、ロシアは「過激派と反体制派を引き離すのは米国の仕事」として取り合わなかった。このロシア軍の空爆に反体制派が反発して戦闘が激化、停戦は完全に崩壊し、「ヌスラ戦線」が反体制派の最強組織にのし上がった。

アルカイダの生き残りが集結
「ヌスラ戦線」の指導者ジャウラニは7月28日、アルカイダとの決別を宣言、組織名も「シリア征服戦線」に改称した。ジャウラニは両組織の決別を認めるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリの声明も発表した。
 
「彼らは反体制派の主導権を掌握したことで内戦終結後もシリアの主勢力として生き残りを図った。そのためにはアルカイダとの連携が障害になる。だから表面上、関係を解消してみせた」(ベイルート筋)ということのようだ。欧米は名称を変更しても、その本質に変わりはないとしている。
 
米国の情報機関が特に注目しているのが、かつてのアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン時代の大物テロリストたちが続々とシリアに集結し、「シリア征服戦線」に加わっていることだ。戦闘員の勢力も1万人を超えた。
 
その中には、ビンラディンの側近でアルカイダ軍司令官だったエジプト人のサイフ・アデル、元最高幹部議長のアブカイル・マスリ、テロ計画立案で知られるアハメド・アブドラらが含まれている。米情報機関はアルカイダによる米本土へのテロが起きるのは時間の問題との見方を強めている。
 
シリア内戦はISというモンスターを作ったが、「シリア征服戦線」という新たな手強い怪物も誕生しようとしている。【8月17日 WEDGE Infinity】
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12日のトルコ系メディアTRTによると、包囲網が破られたことでアレッポに支援物資が届き始めたとのことです。

****アレッポに支援物資が届き始める***
アレッポの地元メディア活動家の1人ヤシール・アブー・アンマー氏は、先週反体制派が支援物資の制御を確保し、南部のラムーセ地域から都市に届けられたと話した。

人道機関や商人の努力により、まず都市に基本的食料物資の到着が確保されたと明かしたアブー・アンマー氏は、
「反体制派が統制している町の中心や市場ではもうさまざまな果物や野菜がある。支援機関は、反体制派地域に小麦粉も送った。」と話した。

アブー・アンマー氏は、支援は届けられたが、政権とロシアの戦闘機が攻撃を続けていることも付け加えた。(後略)【8月12日 TRT】
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もっとも、25万人ともいわれる住民に対し、物資がどの程度行きわたっているのかも疑問ですし、何より激しい戦闘・空爆が続いています。

急接近したトルコ・ロシア シリア対策では対立
トルコは従来よりイスラム過激派を含めた反体制派を支援してきており、今回のアレッポ反体制派支配地区住民への支援物資などにも関与しているのではないでしょうか。

最近、急接近を始めたロシア・プーチン大統領とトルコ・エルドアン大統領ですが、対ロシア制裁を続ける、また、トルコのクーデター未遂事件後のエルドアン政権の強引な粛清・権限集中に懸念を示す欧米を牽制したいという点で両者の利害は一致しているものの、シリア・アサド政権に対する姿勢では対立しています。

その対立点の調整についても報じられてはいますが、お互いにともアサド政権、反体制派それぞれの支援をやめるのは難しいでしょう。

****<露トルコ協議>シリア問題で政府間委員会を設立****
関係正常化を進めるロシアとトルコは、両国間で懸案のシリア問題に関する政府間委員会を設立した。トルコのカリン大統領報道官が10日、明らかにした。軍、情報機関、外務省の代表者がメンバーとなる。
 
ロシア通信によると、プーチン露大統領、エルドアン・トルコ大統領が9日の首脳会談で同委設立に合意。両軍間のホットラインも再開したという。トルコのチャブシオール外相は11日、「過激派組織『イスラム国』(IS)に対する共同作戦についてロシアと議論する用意がある」と地元テレビで語った。【8月11日 毎日】
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ただ、クルド人勢力をめぐる対応については、若干の歩み寄りもあるのかも。

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・・・・トルコのシリア問題での焦眉の急はトルコが安全保障の重大な脅威と位置付けるシリアのクルド人勢力の台頭だ。

シリアのクルド人勢力に対しては米国が武器を援助し、ISと戦わせている。ロシアも空爆でクルド人の勢力拡大に手を貸してきた。クルド人勢力は米ロの支援を利用し、トルコとの国境地帯に「自治区」の発足を宣言している。
 
トルコ国内の反政府クルド人組織を弾圧してきたエルドアン氏はシリアのこうしたクルド人の勢力拡大を安全保障上、看過できないと危機感を深め、ロシアにクルド人への支援をやめるよう要請した。これもプーチン氏との首脳会談の狙いの1つだった。(後略)【8月13日 WEDGE】
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政府軍が塩素ガス使用か 国連調査
話をアレッポ攻防にもどすと、戦闘は泥沼化しており、政府軍による「塩素ガス」使用も報じられています。

****<シリア>北部で塩素ガスか 国連調査へ 特使「戦争犯罪****
シリア和平を仲介するデミストゥーラ国連特使は11日、シリア政府軍と反体制派の戦闘が続く同国北部の主要都市アレッポで、塩素ガスが兵器として使われた可能性が高いとして国連が調査する方針を明らかにした。デミストゥーラ国連特使は「もし使われたのであれば戦争犯罪にあたる」と指摘した。
 
英BBC放送などによると、反体制派が支配する地域に10日、たる爆弾が落とされ、4人が死亡し多数が負傷した。塩素ガスが使用されたとみられ、病院で負傷者が呼吸困難を訴えた。反体制派は、今回の爆撃でシリア政府軍が塩素ガスを使用したと主張している。
 
塩素ガスの兵器への使用は化学兵器禁止条約で禁止されているが、化学兵器禁止機関(OPCW)の調査団報告書によると、シリアでは2014年4〜8月に塩素ガスが兵器として使用された。
 
国連安全保障理事会も15年3月、再び塩素ガスを使用すれば実行者に制裁を科すとする決議を採択している。
 
国連はアレッポで水や電気の不足が深刻化しているとして、援助物資を搬入したり、病人や負傷者を避難させたりするための「人道停戦」を1週間あたり48時間設けるよう関係各国に要請している。【8月12日 毎日】
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国連調査で“政府軍による化学兵器使用”が認定されると大きな影響がありますが、当然にシリア政府側は認めないでしょうから、どうなるのか・・・・。

なお、塩素はびらん剤のマスタードガスや神経ガスのサリンなどと比較して毒性が低く、廃棄対象のリストには掲載されていないそうです。

一方、シリアの国営メディアも8月2日、反体制派が毒ガスを搭載したロケット弾を撃ち込み、5人が死亡、8人が窒息に伴う損傷を負ったと報じています。【8月12日 「コレキタ速報」より】

【「史上最悪レベル」の状況に「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」とも
激しい空爆、包囲網による飢餓作戦、更には塩素ガスというアレッポの状況に関して赤十字国際委員会(ICRC)総裁は史上最悪のレベルにあるとの見解を示しています。

****赤十字総裁、シリア・アレッポでの戦闘は「史上最悪レベル****
赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁は15日、シリア第2の都市アレッポで続く紛争は、都市における戦闘として史上最悪のレベルにあるとの見解を示した。
 
マウラー総裁は声明で「(アレッポでの戦闘が)都市での戦闘において、現代で最も破滅的なものの一つであることは疑いようがない」と述べ、「膨大な」犠牲者が出ていると非難。

政府軍と反体制派に分断されているアレッポでは戦闘が激化し、何百もの人々が死亡するとともに、数えきれない人々が負傷し、支援が届かない市内で何万もの人々が身動きがとれなくなっていると指摘した。
 
また、「誰もが安全ではないし、安全な場所も存在しない。砲撃は絶え間なく続き、家も学校も病院もすべて攻撃を受けている。人々は恐怖を抱きながら生きている」、「子どもたちは傷を負っている。犠牲は計り知れない」と述べた。
 
かつて同国経済の中心地だったアレッポは、5年に及ぶ内戦の激戦地となり、2012年半ば以降は反体制派が掌握する東側と政権側が支配する西側に分断されている。
 
戦闘が激しさを増す中、市内には推定150万の市民がいる一方で、反体制派が掌握する地域にも約25万人がいるとされ、懸念の声が高まっている。
 
マウラー総裁は「戦闘による直接的な脅威に加え、水や電気といった必要不可欠なサービスが不足しており、基本的な医療を受けることも非常に困難な最大200万もの人々を、緊急かつ重大な危険にさらしている」と警告した。【8月16日 AFP】
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現地の医療関係者の声は、もっと直截的です。

*****涙は不要、行動を」 シリア激戦地の医師団、米政府に訴え****
「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」。

シリア東部の激戦地アレッポで活動する医師15人が12日までに連名でオバマ米大統領に宛てた書簡を公表し、現地の窮状を訴えて具体的な行動を要請した。

アレッポでは反体制派が1カ月に及んだ政府軍による包囲を破ったが、まだ平和には程遠い状態が続く。市民は戦闘に巻き込まれて身動きできず、基幹インフラは破壊され、人道支援物資の供給は限られている。

15人の医師たちは、今もアレッポに残る30万人のために、負傷者や病人の手当てを続ける。書簡では米国の対応について、「包囲を解除させようという努力も、市民を守るために影響力を行使しようという姿勢さえも見られない」と批判した。

アレッポ東部は2012年から反体制派が支配してきたが、政府軍に包囲されて支援物資の供給ルートは断たれ、非政府組織(NGO)のシリア人権監視団によれば、80日間続いた戦闘で市民を中心に6000人以上が死傷した。

「私たちが最もつらいのは、誰を生かし、誰を死なせるかを選ばなければならないことだ。幼い子どもたちが重傷を負って救急室に運ばれてくれば、可能性が大きい方を優先せざるを得ない。助けるための機材がないこともある」。そう医師団は伝えている。

「2週間前、爆発で保育器への酸素の供給が断たれ、新生児4人が空気を求めてあえぎながら窒息死した。まだ始まったばかりの命が終わった」
「それでも私たちはここにいることを選び、助けを必要とする人たちを助けると誓った」

米政府高官は11日、書簡がホワイトハウスに届いたことを確認し、「米国は繰り返し、アサド政権によるアレッポなどシリア各地での医療施設に対する無差別な爆撃を非難してきた」と強調。国連と連携し、ロシアとも対話しながら暴力を抑え、人道援助をアレッポに届けるための外交手段を見付けると表明した。

この反応について、書簡に署名したシリア人医師の1人は、ホワイトハウスの反応にショックを受けたと語り、「ロシア空軍が我々の頭上にいて、想像できる限りのあらゆる武器で我々を攻撃しているのに、人道支援や交渉や外交努力について語るのは大きな皮肉だ」「ホワイトハウスは何が起きているかを知っているはず」と批判した。
同医師は、アレッポで10日に化学兵器が使われた疑いもあり、そうした中でのオバマ政権の反応はあまりに鈍いと指摘する。

書簡によれば、アレッポの医療施設は17時間ごとに攻撃を受けているといい、このままの状態が続けば1カ月以内に同地の医療は壊滅状態になると予想。

「アレッポへの恒久的なライフラインが開通しなければ、再び政府軍に包囲され、飢えが蔓延(まんえん)して病院の物資が完全に底を突くのも時間の問題だ」「死がますます避けられない状態になりつつある」と危機感を示した。

国連の報道官によると、アレッポでは200万人以上が電気を使えない状態にあり、井戸やタンクに残ったわずかな水ではシリアの夏の猛暑の中で、この人口を支え切れない状態に追い込(原文がここで中断)【8月12日 CNN】
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訴えは、包囲網が破られたあとになされたものです。やはり補給路を開いたとは言っても、大勢を改善するには至っていないように見えます。

住民無視の戦闘を続ける点では政府軍も反体制派も同じ 必要なのは即時停戦
“シリアでは、「国境なき医師団」(MSF)支援病院などの病院が、シリア政府軍やロシア軍のターゲットになっている。住民の生存に不可欠な施設を破壊して一刻も早く追い出すためだ。”【8月17日 Newsweek】とも。

「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」・・悲痛な叫びではありますが、“激戦地アレッポで活動する医師”というのは反体制派メンバーでもあるのでしょう。

政府軍・ロシアが熾烈な攻撃を続けているのは事実ですが、一方で、反体制派が執拗な抵抗を続けているのも事実です。
第三者的に見ると、住民の生命を無視した戦闘を続けている点では、政府軍・ロシアも反体制派も五十歩百歩にも思えます。

悲惨な状況を改善するために必要な行動は、アメリカ・オバマ政権が騎兵隊のごとく介入して住民を救い出すことではなく、政府軍・反体制派双方が武器を置いて停戦に応じることです。

アレッポを死守する反体制派は停戦の呼びかけに対し、「包囲網を破って自分たちに有利に展開している。今停戦することは政府軍・ロシアに立ち直りの時間を与えることになる」と、全く応じていません。

アレッポの住民の命を危機にさらしているのは政府軍・ロシアだけでなく、反体制派も同じです。

クルド人民兵を主体とする「シリア民主軍(SDF)」などが制圧したシリア北部の要衝マンビジュについては、「人間の盾」とされた住民の問題などもありますが、話が長くなるので、また別機会に。
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フランス  イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感がもたらす危険性

2016-08-16 22:18:51 | 欧州情勢

(イスラムの戒律に配慮して肌を露出しない水着「ブルキニ」【8月12日 TRT】 特別、問題はなさそうですが・・・・)

テロの恐怖・警戒から緊張を高めるフランス社会
イスラム過激派によるテロが繰り返されるなかで、イスラム教徒全般に対する過度の警戒心・不信感・恐怖心、いわゆる「イスラム恐怖症(イスラモフォビア)」が社会に広がり、そのことがイスラム教徒とその他住民との相互理解・融和を阻害し、イスラム教徒の中に社会への不信・怒りを育て、さらなるテロを誘発する・・・・という悪循環を生み出す危険があります。

フランスでは昨年11月に130人が犠牲になった首都パリの同時襲撃事件を受けて非常事態宣言が出され、今も継続されています。

パリの同時襲撃事件もイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した攻撃が相次ぎ、先月14日にもニースで群衆にトラックが突入し85人が死亡する事件が起きています。

また、先月26日には、北部ルーアン近郊のカトリック教会で刃物を持った男2人が押し入り、司祭ら5人を人質に取って立てこもり、人質となった司祭はのどを切られて死亡しました。

こうした相次ぐテロへの恐怖から、フランス社会にはピリピリした雰囲気も漂っているようです。
花火見物の人々を対象にしたニースの事件の影響が大きく、大勢の人が集まるイベントも中止されることが多くなっているようです。

よく言われるように、「普段どおりの生活を続ける」ことがテロリストに対する最も効果的な反撃ではあるのですが、実際にはなかなか・・・。

****南仏テロ1カ月 観光地、戻らぬ日常 イベント中止続々****
夏のバカンスで華やぐはずのフランス各地で、大型イベントが次々に中止されている。85人が犠牲になった南仏ニースのトラック突入テロから14日で1カ月。「ふだん通り」の暮らしが揺らいでいる。
 
惨劇が起きた海岸沿いの大通り「プロムナード・デ・ザングレ」の風景は一変した。ところどころに花束が手向けられ、人で埋まる例年の様子にはほど遠い。「オフシーズンのよう」(タクシー運転手)な浜辺を、迷彩服姿の兵士が自動小銃を手に行き交う。ニースでは、15日の花火大会、9月の自転車レースなどが相次いで中止された。
 
テロの現場に居合わせた建設作業員のクリストフ・モネさん(47)は「息子が外出する時は、周りに気を付けろと必ず声をかけるようになった」。海岸近くに住むブリジットさん(66)は毎日、浜辺のベンチで読書を楽しむ。でも、「怖いからと、海に来なくなった友だちもいる」と明かす。
 
パリでは、シャンゼリゼ通りの歩行者天国や、星空の観察会、公園などでの映画上映会が軒並み見送られた。仏北部リールでは毎年200万人が集うという大規模な「のみの市」(9月)が中止になった。第2次大戦後初めてだという。【8月15日 朝日】
********************

こうした緊張状態にあっては、ちょっとしたことがパニックを引き起こします。

****南仏リゾートで銃声のような音、爆竹か パニックで約40人負傷****
フランス南部コートダジュール(フレンチリビエラ)のリゾート地ジュアンレパンで14日夜、銃声のような音が響き渡り、「テロ攻撃」と思い込みパニックになった人々が一斉に逃げ出す騒ぎがあった。
 
地元ラジオ局は、銃声のような音は車から放り投げられた爆竹によるもので40人近くが負傷したと伝えた。消防当局によると負傷者はいずれも軽傷。負傷者の数は明らかにしていない。現在、警察が音の原因を特定するため監視カメラ映像の分析を進めている。
 
当時の様子を捉えた動画には、海沿いのカフェやレストランではテラス席のテーブルや椅子がひっくり返り、人々が大声で叫びながら折り重なるように倒れる様子が写っている。
 
日刊紙ニース・マタンは目撃者の話として、ビーチにいた海水浴客らは銃声を聞いたと思い込んで人々で賑わう繁華街に逃げ込んで来たと伝えた。
 
また別の目撃者はAFPに「たくさんの人たちが走っていた」と話し、パニックで殺到した人たちが折り重なって倒れ、数十人が軽いけがをしたと付け加えた。けが人は現場やレストランの店内などで手当てを受け、街の中心部は警察に封鎖されたという。(後略)【8月15日 AFP】
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【「ブルカ」「ニガブ」に続いて「ブルキニ」も
かねてよりフランスはイスラム教徒の宗教色が強い服装に関しては規制する動きがあり、2011年4月にはイスラム教徒の女性の着衣「ブルカ」(目の部分に網状の布をつけて全身を覆い隠す服装)と「ニカブ」(目の周囲だけを外に出す服装)の公の場での着用を禁止する欧州では最初の国家となっています。違反者には罰金150ユーロもしくは公共への奉仕活動の従事が命令されます。

背景には公の場に宗教を持ち込まない世俗主義・政教分離というフランス伝統的な考えもありますが、同時に、フランス社会で高まるイスラムへのネガティブな感情も働いていると思われます。

そうした流れを受けて、この夏はイスラム教徒女性の水着「ブルキニ」が問題となっています。

****イスラム教徒の女性水着を禁止、テロ対策で 南仏カンヌ****
フランス南部の地中海沿岸にあるカンヌ市当局は13日までに、市内の海岸でイスラム教徒の女性用の水着「ブルキニ」の着用を禁止すると発表した。フランスや他の欧州諸国で多発したテロへの対抗措置としている。

同市長府によると、禁止の対象期間は7月28日~8月31日で、違反者には罰金38ユーロ(約4294円)を課す。違反者はこれまで報告されていない。ブルキニは、顔と手足の先以外の全てが隠されるデザインとなっている。(中略)

南仏マルセイユ近くにある遊泳施設では最近、イスラム教徒の女性専用の「ブルキニ・デー」の設定が同市当局の介入により中止される一幕もあった。この行事の主催者側に脅迫文が届いたことが原因だった。

カンヌ市はブルキニ禁止の新条例の発表で、宗教への信仰をこれ見よがしな方法で明示する水着は公共秩序を乱しかねない可能性があるとの見解を発表。フランスと宗教関連の施設は現在、テロの標的になっているとの認識を示した。

これに対しカンヌ地域の人権擁護団体の幹部はブルキニ禁止の施策を批判し、逆に地域社会での緊張を高めると主張。

また、仏南部のイスラム教団体組織の報道担当者は宗教色が色濃い水着の公然とした禁止はブルキニだけへの影響にとどまらないと指摘。ベールを被った女性やユダヤ教の民族衣装の1種であるキッパーの着用者らは海岸にいる権利を奪われたとも述べた。(後略)【8月13日 CNN】
*******************

上記記事では、なぜ「ブルキニ」が禁止されるのかよくわからないので、同じ件を扱ったトルコメディアの記事も。
なお、記事中の「ハセマ」というのは「ブルキニ」のことのようです。

****仏カンヌでイスラム系水着着用が禁止****
フランス南部のカンヌで、県庁は浜辺やプールでのイスラム系水着「ハセマ」の着用を禁止した。

県庁から公表された通告によると、国内での宗教の礼拝場所がテロ攻撃の標的になっていることから、浜辺やプールで宗教的な象徴を持つ衣装の着用を禁止すると明かされた。

先週マルセイユで、プライベートプールを1日借りた女性協会が、施設に男性教師もいるとして、ビキニを着用しないようメンバーを警告したことが、国内で話題の1つとなり、極右の協会や組織がこの件に反発を示した。

9月10日に開催予定であったこの行事は、プライベートプールの管理者とレ・ペンヌ・ミラボー市によって安全上の理由から中止された。

行事を組織した協会「スマイル13」の代表は、何日も脅迫を受けており、言葉や物理的な攻撃にさらされていると明かし、協会代表に送付された郵便物から銃弾と人種差別的な脅迫が出てきたと述べた。

フランス・イスラム恐怖症対策協会は、この件に関して行った発表で、賃借したプールが私有財産であり、適用に関して法や規則違反はなく、フランスの法律でプールにどのように入るべきかに関する規則も見当たらないと強調し、議論と禁止を批判した。【8月12日 TRT】
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“女性専用の「ブルキニ・デー」の設定”というのは“施設に男性教師もいるとして、ビキニを着用しないようメンバーを警告した”ということで、そのことがイスラム教徒の存在を苦々しく思う者を刺激して、脅迫行為に至った・・・ということでしょうか。

そこから、“浜辺やプールで宗教的な象徴を持つ衣装の着用を禁止”という措置にいたるまでには飛躍もあるようですが・・・。
禁止・警戒すべきは、特定宗教への脅迫行為を行うような人物・組織の方と思われますが、事情がよくわかりませんので。

個人的には、「ブルカ」や「ニカブ」には社会的融和を進めるうえで、コミュニケーションを拒否しているような印象を受け、なじめないものを感じます。大げさに言えば、市民社会の理念に反するものがあるようにも。

ただ、スカーフやブルキニについては、そうした話もありませんので抵抗感はありません。

「ブルキニ」禁止の動きはカンヌだけではないようです。

****仏コルシカ島の村、ムスリム女性用水着の着用禁止 同国で3例目****
フランス・コルシカ島の村、シスコの村長は15日、イスラム教徒の女性が着用する全身を覆う水着「ブルキニ」の禁止を発表した。13日にブルキニがきっかけで衝突が発生したことを受けた措置で、同国でブルキニ着用が禁止されたのはこれで3例目となった。
 
地中海に浮かぶコルシカ島北部にあるシスコの入り江で13日、観光客らがブルキニを着用して泳ぐ女性たちの写真を撮っていたとして、地元住民らと北アフリカ系の家族らとの間で衝突が発生。双方は石や瓶を投げ合い、車3台が放火された。中には手おので武装していた者もいたとされ、5人が負傷し、病院に搬送された。警察官約100人が出動して、事態収拾に当たった。
 
これを受けてシスコのアンジュピエール・ビボニ村長は、「住民を守る」ためとしてブルキニ禁止を発表。
 
ビボニ村長の話では、最近同島北部で宗教をめぐる緊張が高まっていたという。AFPの電話取材に応じたビボニ氏は、ブルキニ禁止措置は「イスラム教に反対するものではなく、原理主義の拡大を回避するためだ」と説明。

「私は断じて差別主義者ではない。住民を、特にわが村のイスラム教徒の住民を守りたいと考えている。こういった過激主義の挑発行為の主たる犠牲者になっているのはイスラム教徒だからだ」としている。
 
イスラム過激派による攻撃が相次いでいるフランスでは現在、イスラム教徒のコミュニティーとの関係性が非常にデリケートな問題として受け止められている。
 
シスコに先立ち、南仏コートダジュールのカンヌとビルヌーブルベでも最近ビーチにおけるブルキニ着用が禁止され、論争が巻き起こっていた。
 
フランスでは以前から、イスラム教徒の着衣が物議を醸してきている。2010年、イスラム教徒の女性が顔を全て覆うベール「ブルカ」を公共の場で着用することを欧州諸国で初めて禁じたのも同国だった。
 
ブルキニ反対派は、ブルキニが世俗主義の理念を踏みにじるものだと主張。これに対し反差別を掲げる活動家らは、ブルキニ禁止はイスラム教徒に対する差別に他ならないと指摘している。【8月16日 AFP】
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この話も、観光客とのトラブルから地元住民らと北アフリカ系の家族らとの間で衝突へ至る経緯、それが「ブルキニ」禁止になる理由、「ブルキニ」禁止が原理主義の拡大を回避することになる理由など、事情はよくわかりません。

イスラム的なものが反イスラム感情を刺激するというのであれば、対処すべきは反イスラム感情の方であるように思えるのですが。

“ブルキニが世俗主義の理念を踏みにじる”というのも奇妙な論理です。学校とか政治的な場ならともかく、海辺でビキニを着ようが、ブルキニを着ようが、世俗主義云々とは関係ないように思えます。

いずれにしても、社会に広がる緊張感がうかがえる話ではあります。
その緊張感が冒頭にあげた「イスラム恐怖症」的な悪循環に陥ることがなければいいのですが。

根本的な問題として言うなら、どのようにテロを警戒するかより、いかにして社会の融和を図っていくかという視点が重要です。

“『貧困という監獄 』の著書があるフランスの社会学者ロイック・バカンは、ヨーロッパ中でフランスほどインサイダーとアウトサイダーの格差が大きい国はないと言った。就職などで同じ資格をもつ白人のフランス人と比べて最も差別を受けているのはムスリムを含む少数民族だ。現にパリやリヨン、マルセイユなどの郊外の貧困地域では、若者の失業率は40%かそれ以上に上ることもある。”【4月25日 Newsweek】

そうした差別的な格差がある限り、いくら警戒にあたる兵士を増やそうともテロはなくならないでしょう。
イスラム教徒にのしかかる重圧は、あらたなテロの土壌となるだけです。
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フィリピン  故マルコス元大統領の英雄墓地埋葬を決定したドゥテルテ大統領 風化する歴史

2016-08-15 22:39:03 | 東南アジア

(マルコス元大統領の英雄墓地への埋葬に抗議する人々【8月15日 CNN】)

【「マルコスは英雄」か?】
8月15日の終戦の日を迎えると、毎年繰り返されるのが靖国参拝をめぐる騒動。

特に今年は、中国や韓国が「最も右翼的で、軍国主義的傾向のある閣僚」として警戒する稲田朋美防衛相のこともあって、中国は外交ルートを通じて、閣僚の靖国神社への参拝自粛を日本政府に働きかける異例の対応を行ったとか。

そうした世間の注目もあって、稲田防衛相はアフリカのジブチで海賊対処に当たる自衛隊の部隊を視察するため、毎年恒例としてきた終戦の日の靖国神社参拝を今年は見送たようです。

靖国参拝で問題とされるのがいわゆるA級戦犯合祀の問題ですが、個人的にはそれ以前の問題として、靖国が戦前・戦争遂行において果たしてきた役割に関する総括がなされたのか?ということがあるように思っています。

それは単に靖国神社にとどまらず、日本社会全体に言えることで、いわゆる「歴史認識」の問題でもあります。

フィリピンでは、違法薬物犯罪者に対して強硬な取り締まりを公約にして当選したドゥテルテ大統領の就任後の7月1日~8月10日までの期間に、司法手続きを無視して警官が違法薬物容疑者に対して射殺した人数が500人を超えたと言われています。

8月5日ブログ“フィリピン 麻薬犯罪撲滅に「射殺」を奨励するドゥテルテ大統領 「法の支配」無視では中国と同じ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160805

そのドゥテルテ大統領が、強権支配と汚職から1986年の「ピープルパワー革命」(エドサ政変)で国を追われた故マルコス大統領を国立英雄墓地に埋葬する方針を決めています。

****マルコス元大統領が英雄墓地埋葬へ、抗議デモも フィリピン****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が故フェルディナンド・マルコス元大統領を国立英雄墓地に埋葬する方針を決めたことに対し、首都マニラ市内の公園で14日、数百人が参加して抗議デモが開かれた。

マルコス元大統領はフィリピンで約20年にわたって独裁政権を築き、戒厳令を敷いて反対派を弾圧した。遺体は現在、出身地である北部イロコスに安置されている。

抗議デモ主催者によると、フィリピン国防軍の規定には、不道徳行為に関与した罪で有罪を言い渡された人物は英雄として埋葬できないという条項があり、マルコス元大統領はこれに当てはまるという。

大雨の中で抗議デモに集まった参加者は、著名活動家や政治家、マルコス政権の下で弾圧された被害者などの演説に耳を傾け、「マルコスは英雄ではない」というスローガンを掲げた。

演説に立った元上院議員のボビー・タナダ氏は、マルコス元大統領を英雄として埋葬する計画について「国家の恥」と切り捨て、元下院議員のウォールデン・ベロ氏は「アル・カポネをアーリントン米国立墓地に葬るようなもの」と形容した。

有力政治家のリサ・ホンティベロス上院議員によれば、ドゥテルテ大統領は一方的に埋葬を強行する構えで、9月18日に埋葬式を予定しているという。

ドゥテルテ大統領は最近、犯罪撲滅の正当性を主張する中で戒厳令に言及。後に冗談だったと釈明したが、大統領にそうした発言は許されないとホンティベロス議員は強調する。

マルコス政権下で政治犯として秘密警察に拷問されたという元女優アイーダ・サントス氏は、ドゥテルテ政権下で行われているとされる司法外殺人を憂慮すると述べ、そうした残忍な犯罪摘発は、マルコス政権当時の暗黒の時代を思い起こさせると指摘した。【8月15日 CNN】
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国を追われたマルコス夫妻でしたが、すでに一族は十二分な復権を果たしています。

先の大統領選挙では、副大統領に立候補した故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス上院議員は、当選が有力視されていましたが、小差で落選しました。
落選はしたものの、国民のマルコス大統領への怒りは、1986年当時とは比べものにならないほどに薄れていることも感じさせる選挙戦でした。

夫妻の亡命後に宮殿に残された3,000足の靴と6,000着のドレスが世界的に注目されたイメルダ夫人も帰国して今は下院議員、娘は北イロコス州知事です。

14日の抗議デモも、悪天候のせいもあってか“数百人”ということで、社会を動かすようなものにはなっていないようにも見えます。
1986年のマニラ首都圏のエピファニオ・デ・ロス・サントス大通り(エドサ)には100万人の群衆が集まりました。

歴史の風化は早いスピードで進んでいるようにも。

故マルコス氏とドゥテルテ氏の関係
ドゥテルテ大統領と故マルコス大統領との繋がりも指摘されています。

****埋葬】ドゥテルテ大統領の検事時代は マルコスの戒厳令と重なる****
違法薬物犯罪者に対して強硬な取り締まりを公約にし、当選したドゥテルテ大統領だが、就任後の7月1日~8月10日までの期間に、司法手続きを無視して警官が違法薬物容疑者に対して射殺した人数が500人を超えた。

こういった強硬な背景はドゥテルテの検事時代と密接な関係があるのではないかと見られている。ドゥテルテは1972年に司法試験に合格。その後1977年から1986年までダヴァオ市で検事生活を送っている。

1986年のエドサ政変によってダヴァオ市の副市長代理に任命されたのを皮切りにダヴァオ市の最高権力者として君臨し、2016年の大統領選で代理立候補という姑息な手を使って当選した。

ドゥテルテの父親はセブ州中部のダナオ市の市長を務め、1959年~1965年には分割前のダヴァオ州知事を務めている。知事の後、1965年~1968年までマルコス政権の閣僚を一期務めている。

このため、ドゥテルテはマルコス家に対して『恩義』があると発言し、2016年の副大統領選で落選したマルコスの息子に対して、同情を表明している。

エドサ政変時にフィリピンを追われハワイに逃亡したマルコスは、1989年、72歳で当地にて憤死。その後、マルコス一族はなし崩し的に復権を果たし、副大統領選には落選したものの息子は上院議員、娘は北イロコス州知事、マルコスの妻イメルダは下院議員と北イロコスに王国を築いている。

このマルコス一族の悲願が、現在故郷で冷凍保存されているマルコスの遺体の『英雄墓地』【写真】への埋葬で、これに対して、マルコス以降の歴代大統領はマルコス側の画策はあっても認めず、ここに来てドゥテルテは英雄墓地への埋葬を認め、埋葬への動きが活発となっている。

マルコスは1972年~1981年までフィリピン全土に戒厳令を布いて独裁政権を強化したが、その戒厳令時期とドゥテルテの検事時代は重なり、ドゥテルテはマルコス政権の意向に沿って反マルコス派を法律という名で弾圧を加えていたのではないかとの指摘が出ているが、まだ実証的な研究は表に出ていない。

ちなみに、戒厳令時代にマルコスの片腕として警察部門を指揮したのが後の大統領、ラモスであった。

マルコスの英雄墓地埋葬の動きに対して、8月14日、各地で埋葬反対集会が開かれ、マニラではリサール公園、セブでは観光場所と知られるサンペドロ要塞のある独立広場で行われた。

特に戒厳令時代に拘束され拷問などを受けた体験者の舌鋒は鋭く、マルコスの英雄墓地阻止の訴えを次々と行った。

英雄墓地は国に尽くした英雄、とりわけ軍事で栄誉を挙げた故人を埋葬する国立施設で、今年初めにフィリピンを訪れた天皇もこの墓地へ表敬している。

マルコスは対日ゲリラの指導者として戦功があり、それによって勲章を得ているが、ゲリラ時代の戦功は客観的な資料が残っていなくて、マルコスが政界に進出するための捏造とまで言われている。

今回のマルコスの英雄墓地を巡って、いかなる世論であってもドゥテルテは埋葬方針を貫くようだが、検事時代のマルコス協力者としての立場が暴露される恐れも出ている。【8月15日 PHILIPPINES INSIDE NEWS】
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マルコス協力者だったかどうかはわかりませんが、仮にそうだったとしても、今のフィリピンではさほど問題にもならないのでは。

体質的にも、人権などへの関心が低く、力で物事を推し進めていこうとする点で、ドゥテルテ大統領と故マルコス大統領は近いものがあるようにも思えます。

【「適切な時期に中国政府と正式会談したい」】
同様に、「法の支配」を無視し、力で物事を推し進める点でドゥテルテ大統領と近いのが、8月5日ブログでも取り上げた中国。

ドゥテルテ大統領が特使に任命したラモス元大統領が香港を訪れ、中国の外務次官などを歴任した全国人民代表大会外事委員会の傅瑩主任らと非公式に会談、信頼関係の構築が必要だという考えで一致するなど、一定の成果があったことを明らかにしています。

****<中国>フィリピン懐柔工作 南シナ海の現状維持狙う****
南シナ海問題を巡ってフィリピンが申し立てた仲裁裁判の判決が出てから12日で1カ月が過ぎた。

判決は中国の主張を「根拠がない」などと退けたが、中国に受け入れる気配はない。中国側はフィリピンを懐柔して判決の有名無実化を狙う。

一方のフィリピン側も「判決の尊重」を訴えながら中国との対話の道も探る。「判決後」を見据えた駆け引きが本格化し始めた。
 
12日、中国政府と太いパイプがあるフィリピンのラモス元大統領が香港で記者会見した。ラモス氏は南シナ海問題を巡るフィリピン政府の特使を引き受けており、前日まで香港で中国全国人民代表大会(全人代)外事委員会の傅瑩主任委員らと非公式に会談していた。
 
会見ではラモス氏が中国側に「適切な時期に中国政府と正式会談したい」と伝えたと表明。ラモス氏は「(具体的時期は)フィリピン大統領が決めることだ」と述べた。
 
フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国との対話姿勢を示して対立を避けつつ、判決をテコに交渉で優位に立ち、一方的な中国の海洋進出に歯止めをかけたい考えだ。
 
ドゥテルテ氏は7月27日、マニラでのケリー米国務長官との会談で「いかなる協議も判決を前提に行う」と明言。さらに8月11日の岸田文雄外相との会談でも「法の順守」で一致している。
 
判決は中国にとって大きな打撃だった。しかし、7月下旬にラオスで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議で、ASEANの分断に成功。ASEAN外相会議の共同声明は判決に言及せず、中国としては一息ついた形となっている。
 
中国は現在、国際社会の圧力をはねのけて時間稼ぎをしながら、フィリピンと判決を棚上げし、判決の効力を失わせる戦略を描く。ラモス氏の香港訪問は中国にとって前向きな一歩だ。

このまま中国の思惑通りに進むかは不透明だが、中国としては判決を前提とする対話は受け入れがたく、経済支援、海底資源の共同開発をちらつかせて懐柔工作を強めるとみられる。
 
一方で、中国は判決受け入れを迫る日米にいらだちを募らせている。日本に対しては東シナ海の沖縄県・尖閣諸島周辺海域に中国公船が大量の漁船とともに出現し、ゆさぶりをかけている。

だが、米国には、自国の主張をぶつけながらも緊張緩和のシグナルも送っており、日本と異なる配慮を示す。
 
米国政府もいたずらに緊張を高めることは望んでおらず、判決後は目立った言動を控えているようだ。8月8日には米太平洋艦隊の軍艦が山東省青島に寄港し、軍レベルでも対話のパイプが機能していることを印象づけた。
 
南シナ海での軍事拠点化の動きは判決後もとどまる気配がない。米シンクタンクは最近の人工衛星画像から、中国が南沙諸島で軍用機も利用可能な格納庫を建設しているとの分析結果をまとめた。
 
また、ロイター通信は10日、複数の西側当局者の話として、ベトナムが南沙(英語名スプラトリー)諸島の島に移動式のロケット弾発射台を新たに設置したと伝えた。
 
ベトナムの新たな動きも表面化し、仲裁裁判の判決が関係国の対立を緩和する役割を果たしていない現実が浮き彫りになった。【8月12日 毎日】
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日本の岸田外務大臣も11日、ドゥテルテ大統領と会談し、南シナ海をめぐる問題で支持する考えを伝えるとともに、沖縄県の尖閣諸島周辺で中国当局の船が領海侵入を繰り返している現状を説明し、日本の立場に理解と協力を求めました。

ただ、どうでしょうか・・・似た者同士の中国とドゥテルテ大統領ですから、早晩話がまとまるのではないでしょうか。
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イエメン  国連を脅して「ブラックリスト」から外れたサウジアラビアの空爆で再び子供の犠牲者

2016-08-14 21:44:05 | 中東情勢

(サウジアラビア軍の空爆を受けた学校でしょうか。【8月13日 Pars Today】)

国連仲介の和平交渉は「中断」】
「反政府勢力フーシ派及びサレハ前大統領派」と「ハディ暫定大統領派及び軍事支援するサウジアラビア」との内戦が続く中東最貧国イエメン。

フーシ派は宗教的にはシーア派の一派ということで、イランが後押ししていると言われ、地域大国であるサウジアラビア対イランの代理戦争とも見られています。

イエメン内戦の和平交渉は事実上破綻したようだ・・・という話は、7月30日ブログ“「世界は戦争状態にある」 難民問題、イエメン、南スーダン、ブルンジ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160730でも取り上げたところです。

その後も国連特使はなんとか交渉継続を・・・ということで粘っていましたが、結局「中断」を認めることを余儀なくされています。

****イエメン和平交渉中断、武装勢力側の「最高評議会」創設受け*****
イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装勢力「フーシ派」らが同国の「最高評議会」設置を発表したことを受け、国連は6日、フーシ派らとアブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領派との和平交渉を一時中断した。
 
イラン政府の支援を受けているフーシ派とアリ・アブドラ・サレハ前大統領を支持する勢力は7月、国連が提示した和平案を拒絶し、イエメンを運営する「最高政治評議会」の創設を発表した。

これに対し国連のイスマイール・ウルド・シェイク・アフメドイエメン担当特使は、同議会は国連安保理決議2216号の「重大違反」に当たり、和平交渉の義務に反するとして非難した。
 
アフメド特使は6日、クウェートで3か月以上にわたって行われてきた和平協議は一時中断するが、交渉を進展させるために両陣営との協議は継続していくと述べ、「われわれは今日クウェートを離れるが、イエメンの和平協議は続く」とクウェート市で報道陣に語った。
 
アフメド特使は和平案の詳細を詰めるため、数週間以内に両陣営との2者間協議を持ちたいとし「われわれは双方から交渉の席に戻る用意はあるという保証と言質を取っている」とコメント。新たな話し合いが1か月以内に始まる可能性を示唆した。
 
4月から行われている和平交渉は進展していないにもかかわらず、アフメド特使は「失敗」と認めようとはしなかった。
 
アフメド特使が提示した和平案は、国際社会がイエメンの政権として認めているハディ暫定大統領派には受け入れられたが、反政府武装勢力側には拒絶された。反政府武装勢力は、自分たちの要求の柱である「統一政府」の樹立について和平案は満たしていないと主張している。この条件は、ハディ暫定大統領の退陣を明確に要求するものといえる。【8月7日 AFP】
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“4月から行われている和平交渉”の間も戦闘は継続していましたので、形だけの「和平交渉」の失敗が明らかになったといったところです。

今後の和平交渉についても、正直なところあまり期待できません。

再び空爆による子供の犠牲
イエメン和平交渉の「中断」を受け、サウジアラビアはイエメンの各都市への空爆を拡大しています。

****空爆で子供10人死亡=イエメン****
イエメンからの報道によると、同国北部ハイダンで13日、サウジアラビア主導の連合軍による空爆で学校が被害に遭い、少なくとも子供10人が死亡、28人が負傷した。国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」が14日、情報を確認した。
 
ハイダンのある北部サアダ州は、内戦でハディ大統領派と戦うイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」の勢力が強く、大統領派を後押しする連合軍が空爆作戦を展開している。フーシ派は学校に大きな被害が出たことについて「凶悪な犯罪だ」と非難した。【8月14日 時事】 
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サウジアラビアに敵対するイランのメディアによれば、“サウジアラビアの戦闘機は、犠牲者を救出しようとしていた救援隊をも標的にしました。”【8月13日 Pars Today】とも。

これまでも国連は、サウジアラビアが主導するアラブ連合空軍の空爆で、多くの民間人・子供の死傷者が出ていることを非難してますが、これに対してアラブ連合は民間人を標的にしていないと反論しているそうです。

恐らく「標的にしていない」でしょう。もし、していたら明確な戦争犯罪です。
問題は標的にしなくても、空爆の場合はどうしても巻き添えや誤爆で民間人犠牲者が多く出ることです。

先の大戦で、東京をはじめ、日本中に民間人を標的にした爆弾・焼夷弾を落としまくり、広島・長崎を原爆で民間人もろとも全滅させたアメリカも、いつの頃からか“ピンポイント攻撃”ということで、民間人を巻き込まないことをアピールするようになりました。

(民間人犠牲に対する配慮や人権意識のというのは、当時はその程度のレベルだったということであり、アメリカだけでなく、日本も中国・朝鮮などで同様レベルのことを行っていたことが当然のこととして推察されます。)

そのアメリカが現在シリアなどで行っている空爆においても、誤爆や巻き添えは避けられないのが現実です。
非常に失礼な言い方ですが、サウジアラビアの空爆技術がアメリカのレベルに達しているとは思えません。
また、住民の生命に関する配慮が強いお国柄とも思えません。

実際、イエメンにおけるサウジアラビアの空爆では、これまでも子供を含む多大な犠牲者が出ています。

サウジアラビア 国連を脅して「ブラックリスト」から外れる
潘基文国連事務総長が4月にまとめた「子どもと武力紛争」に関する年次報告で、サウジアラビア主導のアラブ連合軍が行った攻撃により多数の子どもが死傷したと指摘し、連合軍をテロ組織と並べて「ブラックリスト」に記載したところ、サウジ側が猛反発。このため、事務総長はサウジアラビアの圧力を受ける格好でリストからの削除に応じたという経緯があります。

****サウジ、国連に「猛烈な」圧力 ブラックリスト除外求め****
イエメンへの介入で子どもたちを殺害したとしてサウジが一時、国連のブラックリストに

イエメン内戦で子どもたちを殺害したとして、国連がサウジアラビア率いるアラブ有志連合を「ブラックリスト」に入れた問題で、サウジがリストからの除外を求めて国連に対し非常に強い圧力をかけていたことが、国連関係者の話で明らかになった。

有志連合は昨年3月以降、内戦状態のイエメンでイスラム教シーア派武装組織「フーシ」などによる政権掌握を防ぐため武力介入を行っていた。

だが今年5月、国連は2015年に内戦で死亡または重傷を負った子どもの数は前年比6倍の1953人に達したとの報告書を発表した。

このうち、有志連合の攻撃が原因だったケースは60%に上ったとされ、有志連合諸国は武力紛争において子どもの権利侵害を行った集団のブラックリストに加えられた。

サウジと有志連合諸国はその後、ブラックリストから除外されたが、国連関係者によればその背景には国連との「完全な決別」をちらつかせたサウジの強硬姿勢があったという。

サウジは国内のイスラム教聖職者に、国連は「反イスラム」だとするファトワ(イスラム法に基づいて下される裁断、勧告)を出させる可能性までちらつかせたという。

サウジからの圧力は「過去に例がないほど猛烈なものだった」とこの国連関係者は言う。

国連の潘基文(パンギムン)事務総長の報道官は、有志連合のブラックリストからの除外を認めるとともに、子どもが犠牲となった事例や件数についてサウジ当局と合同で再検討を行うことで合意したと述べた。

こうした国連の動きを受けてヒューマン・ライツ・ウォッチなど20の人権団体は、有志連合を「恥のリスト」に即時に戻すよう求める公開書簡を潘事務総長に送った。【6月10日 CNN】
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この件に関し、“潘氏は同日の記者会見で、サウジ側が国連人道活動への資金拠出停止をちらつかせたことを示唆し、「加盟国による不当な圧力行使は受け入れがたい」と批判した。潘氏は人権団体などから「弱腰」を非難されているのを念頭に「(リストからの削除は)これまでで最もつらく困難な決定の一つだった」と釈明した。”【6月10日 時事】とも。

要するに、サウジアラビアの資金拠出停止などの脅しに屈した・・・ということでしょう。

一応、国連はその後もサウジアラビアに対し、子供の殺害を防ぐための措置について説明するよう求めてはいます。

****国連、サウジアラビアにイエメン人の子供の殺害を停止するよう要請****
国連が、サウジアラビアに対し、イエメン人の子供の殺害を防ぐための措置について説明するよう求めました。

IRIB通信がロイター通信の報道として伝えたところによりますと、国連のパン事務総長は、(7月)14日木曜、サウジアラビア政府に対し、イエメンの子供たちの死傷を防ぐための措置について、必要な情報を提示するよう求めました。

この要請は、サウジアラビア政府が、イエメン攻撃では最新の注意を払っていると発表したことを受けて、行われたものです。

パン事務総長は、これ以前に、アメリカとサウジアラビアの圧力を受け、子供の権利侵害者のリストから、サウジアラビアを削除しています。

国際人権団体ヒューマンライツウォッチは、サウジアラビアのリストからの削除は懸念すべきものだとしました。

イエメンの住宅地を含む各地は、昨年3月26日から、サウジアラビア連合軍の大規模な攻撃に晒されており、この攻撃で、数千人のイエメン人が死亡し、インフラにも大きな被害が出ています。【7月15日 Pars Today】
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上記【Pars Today】はイランメディアですから、ここぞとばかりにサウジアラビアと圧力に屈した国連批判を強めています。
ただ、サウジアラビアには非難されても致し方ないところがあります。

****サウジアラビアのイエメンでの犯罪と国連事務局長の消極的な態度****
サウジアラビアのイエメンにおける犯罪の影響について、数々の報道が伝えられています。この犯罪は、サウジアラビアに人道的な危機を引き起こしており、国際機関の懸念を呼んでいます。

ナジャフィー解説員
国連は、「少なくとも37万人のイエメン人の子供が、栄養不良に苦しんでいる」と発表しました。国連はさらに、「イエメンの人口のおよそ半数にあたる1400万人以上が、食料や医薬品の支援を必要としている」としています。

これ以前にも、FAO国連食糧農業機関が、「イエメン人の50%、特に22州のうち19州の住民が、飢餓に苦しんでおり、70%が食糧を確保する上で困難に直面している」と発表していました。

国連人道問題調整事務所のイエメン担当官も、イエメンの人々、特に子供の生活は危機的な状況にあるとし、「この危機は、衝突の継続や世界の無関心によって、さらに悪化するだろう」と語りました。

こうした中、サウジアラビアが、イエメンで大規模な人権侵害を行っているのが明らかであるにも拘わらず、国連のパン事務総長は、2日火曜、国連安保理への報告の中で、イエメンの子供たちの将来に懸念を示すに留まりました。

パン事務総長は、「イエメンの人道状況に関する報告を見直し、サウジアラビアを子供の権利侵害者のリストに加えることに関して決定を下すには、さらなる時間が必要だ」と語りました。

パン事務総長はこの報告で、イエメンの子供の状況に対して深刻な懸念を表明し、「この問題に関する前回の報告の見直しを続ける」と語りました。この前回の報告は、サウジアラビアの抗議に直面しました。

パン事務総長は、「サウジアラビアの皇太子や外相など、関係者と会談し、イエメンの子供の現在の状況や、戦争や封鎖が彼らに及ぼす影響についての懸念を伝えた」としています。

この発言は、サウジアラビアの国連大使の以前の表明を認めるものです。同大使は、「サウジアラビアを子供の権利侵害者のリストから除外するという国連の決定は最終的なもので、それを見直すことはない」と語っていました。(後略)【8月4日  Pars Today】
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こうした経緯のなかで起きた13日空爆による子供10人の死亡です。
サウジアラビアはどのように説明するのでしょうか?

アメリカはサウジアラビア軍事支援を継続
他方、民間人犠牲や住民人権には“敏感”なはずのアメリカは、依然としてサウジアラビアへの軍事援助を続けています。

****米国、サウジに11.5億ドル相当の武器供与へ****
米国防総省は9日、国務省がサウジアラビアに対する約11億5000万ドル相当の武器供与計画を承認したと発表した。130台以上のエイブラムス戦車などが含まれている。

米国防総省傘下の国防安全協力局(DSCA)によると、米防衛大手ゼネラル・ダイナミクス<GD.N>が主要契約者となる。

同局は「この武器供与は、サウジ軍と米軍の相互運用性を高め、サウジの安全保障と軍備の近代化に対する米国のコミットメントを示すものだ」としている。【8月10日 ロイター】
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イエメンで起きていることに関しては、軍事的にサウジアラビアを支えるアメリカの見解も聞きたいものです。

イランとの核合意やシリア内戦への対応で、サウジアラビアとアメリカの関係には溝ができていると言われていますが、それだけにアメリカとしては、これ以上サウジアラビアを不快にさせるようなことはしたくない・・・というところでしょう。
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在韓米軍へのTHAAD配置で揺れる東アジア情勢 中国の苛立ち 韓国の反発 「蜜月」一変

2016-08-13 22:34:22 | 東アジア

(8日、青瓦台(大統領府)で首席秘書官会議を開き、THAADの韓国配備問題に関し政党を超えて協力することの重要性を訴えた朴大統領 【8月8日 聯合ニュース】)

北朝鮮「くず鉄の塊にすぎないTHAAD」】
韓国とアメリカは、1月及び2月に行われた北朝鮮の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射という戦略的挑発を受け、今年2月、アメリカの最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備問題に関する協議を始めることで合意。

その後、紆余曲折はあったものの、米韓両国は7月8日、THAADを在韓米軍に配備することを決定したことを発表しています。

標的とされている北朝鮮はTHAADについて、「くず鉄の塊にすぎない」とのこと。

*****北朝鮮、THAADなど「くず鉄の塊にすぎない****
北朝鮮の祖国平和統一委員会(祖平統)のスポークスマンは11日、朝鮮中央通信社とのインタビューで、韓国が「『THAAD』の南朝鮮配備に反対する内外の糾弾世論を免れるために共和国に引き続き悪らつに言い掛かりをつけている」と非難した。同日、朝鮮中央通信が報じた。

スポークスマンは、「朴槿恵(パク・クネ)が権力の座につくやいなや、オバマの懐に入ってあらゆる嬌態を振りまいて忠犬になることを盟約したということは、世人がみな知っている事実である」と指摘。

そのうえで「このような親米逆徒が『THAAD』配置を共和国の『脅威』に対処した『自主的決断』であるかのように描写していることこそ、へそで茶を沸かすことだと嘲(ちょう)笑した」という。

また「かいらい一味がくず鉄の塊にすぎない『THAAD』などであえて駆け引きしようとすることこそ、相手も知らず、身のほども知らない間抜けの気が狂ったたわごとにすぎない」と、強調した。

さらに「特等の親米毒蛇である朴槿恵が権力のポストについている限り、南朝鮮全域が米国の侵略的な核戦争陣地に転落し、南朝鮮の人民はより危険な死地に置かれるようになるのは火を見るより明らかである」と主張した。【8月13日 デイリーNKジャパン】
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中国の韓国批判・圧力に、韓国側の反発も強まる
まあ、いつもの言い様ですが、その「くず鉄の塊」に激しく反発しているのが中国。
THAAD配備に伴う高性能レーダーによって北朝鮮だけでなく自国のミサイル基地の動向までが監視対象となってしまうことから、配備を決めた韓国を強く批判、「中韓蜜月」と言われた関係も様変わり状態となっています。

7月8日ブログ“韓国 米中による“板挟み”のなかでTHAADの在韓米軍配備を決定 「中韓蜜月」に亀裂も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160708
2月25日ブログ“韓国 THAAD配備問題での中国“恫喝”に反発  中国国内では北朝鮮政策変更の気運も”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160225 
でも、そうした状況は取り上げてきましたが、中韓の溝は深まる一方です。

中国側は、ビザ発給要件や韓流ドラマなどで韓国への圧力を強めています。

****中韓、対立局面に=THAADで「蜜月」一変****
米韓両国が在韓米軍への配備を決定した地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」をめぐり、中国と韓国の間のあつれきが増している。

中国メディアが「深刻な代償を支払うことになる」(共産党機関紙・人民日報)と批判する記事を出せば、韓国は「事実と異なる話が国内外に出ていて心配だ」(朴槿恵大統領)と応酬。首脳同士の個人的な信頼に基づき「蜜月」を誇った関係は一転し、対立局面へと変わりつつある。

「韓国人向けの商用ビザ発給要件が強化された」。韓国メディアは8月に入り、THAAD配備決定への中国の対抗措置とみられる動きについて次々と報じ始めた。

中国ではここ数年、韓流ドラマなどが相次いでヒット。だが最近は、「韓流」コンテンツの認可や文化交流の中断、番組制作の許可取り消しなどの動きが出ているとされ、「韓国たたきだ」と反発する声が上がっている。

中国も非難の度合いを強めている。中国政府はTHAAD配備決定時に「強烈な不満」(外務省)を表明し、国営メディアは7月末~8月初旬にかけて韓国批判のキャンペーンを展開した。

人民日報は「警戒すべき危険な行動」「韓国は冷静になるべきだ」などと題した評論を連日配信したほか、朴大統領にも矛先を向け、韓国大統領府が反論する事態に発展している。【8月10日 時事】
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韓国が中国の反対にもかかわらずTHAAD配置を決めたのは、中国の北朝鮮に対する抑止が有効に働いていないとの判断からで、韓国側からすれば、「文句があるなら、北朝鮮をなんとかしろよ!」といったところです。

中国共産党機関紙が8月3日社説で「韓国の指導者は自国を最悪の状況に陥れないよう慎重を期すべき」「朴大統領の支持率は下がり続けており、国民の60.7%が国政遂行に否定的な評価をしている」などと朴槿恵大統領を名指しで批判したことについて、大統領府は表向きは「外交問題にいちいち言及するのは適切でない。必要があれば外交部で対応する」としていましたが、さすがに最近は反発を強めています。

****在韓米軍迎撃ミサイル】韓国大統領府ついに中国に反撃****
韓国大統領府は7日、中国が国営メディアを通じ、米軍の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を決定した韓国を激しく批判していることについて、「(中国は)THAADの配備決定が(北朝鮮の)挑発の原因であると主張しているが、それは本末転倒だ」と反論。

核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し「中国はもっと強力に問題を指摘しなければならない」と要求した。【8月7日 産経】
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韓国メディアの中国批判も高まっています。

****THAAD配備、韓国紙が中国の反発に批判強める****
2016年8月12日、韓国の主要紙が在韓米軍への「高高度迎撃ミサイル(THAAD)」配備をめぐり、配備に反発する中国に批判を強めている。「友邦」と見ていた中国の攻撃的な態度には堪忍袋の緒が切れたようで、「恐ろしい隣人」「まるで宣戦布告」「内政干渉」などの激しい言葉が並んだ。

中国批判の急先鋒は朝鮮日報だ。コラムで「THAADの韓国配備問題や南シナ海の領有権問題などを通じ、中国はアジアの盟主になろうとする本性を隠そうともせず、牙をむき始めた」と前置き。「最近もラオスで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、中国の王毅外相がTHAAD問題で韓国に対し非常に傲慢(ごうまん)かつ傍若無人な態度を取った様子を目の当たりにした」と言及した。

「王毅氏の目つきと態度から、500年以上前に朝鮮の王が中国の使者にひざまずいた時の彼らの嘲笑と嘲弄(ちょうろう)の表情を想像した」と指摘。「中国は自国の利害が関わる問題では、いつでも帝国として周辺国に君臨する『恐ろしい隣人』であることを改めて示した」と断じた。

続いて「われわれの4000年の歴史は中国と日本に対する屈従の歴史であり、同時に貧困の歳月でもあった」と回顧。「第2次世界大戦後、われわれは中国と日本に捕らわれた状態から一気に開放され、米国の手を取りながら世界に出て民族の歴史上最も豊かな60年をつくり上げた。中国と日本に束縛されていた時、われわれは悲惨な国だったが、そこから逃れた時に初めて住みよい国になったのだ」と強調した。

その上で「今、再び中国と日本の圧力を肌で感じ始めている。今忘れてはならないことは、彼らに捕らわれている時、われわれは死んだも同然となり、そこから逃れた時は豊かになるという歴史的経験だ。同時に中国がいかに恐ろしい国であるかを今やっと思い出した」と述べた。

東亜日報は社説で北朝鮮の核・ミサイル挑発をめぐり、「世間が皆知る金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の挑発ではなく『すべての当事者』の自制を求める中国は果たしてどんな価値を志向する国家なのか、深い疑念が生じる」とした。

さらに中国共産党の公式な立場を代弁する人民日報が「『もし衝突が勃発するなら、韓国は最初に攻撃目標になるだろう』と書いたことは、まるで宣戦布告を思わせる」と批判。「防衛手段であるTHAADを非難することこそ『大国』らしからぬ態度だ。中国の真意は日米韓3 国の安全保障協力構図で絆の弱い韓国を引き離し、韓米同盟を弱体化させることにある。THAAD配備の決定を翻すことは、韓米同盟を終わらせ、再び中国の属国になることを選択することも同然だ」と言い切った。

中央日報も社説で「中国の動きが果たして米国とともに世界を率いていくG2の国としての品格を備えているのかとの疑いを持たせる」と論難。「(中国メディアが)THAADに反対する韓国人から寄稿を受けたりインタビューしたりして韓国国内の対立を助長する行為は中国の伝統的な周辺国への扱い方である「以夷制夷(いいせいい」の手法を思い起こさせる。中国があれほどまでに反対する内政干渉の臭いまで漂う」と指弾した。【8月13日 Record China】
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アメリカ「中国狙わず」、日本「THAAD配備について防衛省が検討を急ぐ」】
アメリカは本音はともかく、一応、THAAD配置は中国を狙ったものではないとの立場です。

*****THAAD「中国狙わず」=対北朝鮮を強調―米軍高官*****
米国防総省ミサイル防衛局のシリング局長は11日、在韓米軍への配備を決定した地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」について「目的は北朝鮮の弾道ミサイル迎撃。中国を狙うことはないだろう」と語った。訪問中のソウルで韓国メディアとのインタビューに応じた。聯合ニュースが伝えた。
 
THAAD配備をめぐっては、システムの一部である「TPY―2」と呼ばれる早期警戒Xバンドレーダーが「中国国内まで監視可能だ」と中国は強く反発している。シリング局長の発言には、中国の警戒を和らげたい思惑があるとみられる。
 
局長は、韓国配備のTHAADが「グアムなどの(米軍の)ミサイル防衛(MD)システムとは連動しない」と強調。米本土ではなく韓国防衛のためのシステムと訴えた。日本へのTHAAD導入については「日本政府と公式に議論したことはない」と述べるにとどめた。【8月11日 時事】
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上記記事にもある日本配置については、「防衛省が検討を急ぐ」と報じられています。【8月10日 NHKより】

なお、韓国メディアも日本の「検討」を報じていますが、“日本は韓国とは異なり、自衛隊が直接THAADを運営する計画とされる。現在日本には京都府京丹後市の経ヶ岬分屯基地、青森県の車力基地にTHAADに使われるXバンドレーダー(TPY-2レーダー)が配備されている。しかし、これは迎撃用ではなく、最大探知距離が2000キロメートルの早期警戒用で、敵の弾道ミサイルを上昇段階で探知するレーダーだ。”【8月11日 朝鮮日報】とのことです。

また、日米韓の情報共有の取り決めにより韓国軍が収集した北朝鮮の核とミサイル情報はアメリカ経由で日本と共有することになっていますが、韓国に配置されるTHAADによるレーダー情報を日本と共有することについては、日本への警戒感が強い韓国国内世論に配慮して韓国政府はこれまで否定してきました。しかし、中国の強圧的な姿勢もあって、共有を認める方向に転じています。

韓国国内の予定地住民・野党の反対
韓国内ではTHAAD配置について、「どこに配置するのか?」という問題と、中国を過度に刺激することへの批判が起きています。

「どこに配置するのか?」という問題は、日本の基地問題と同じでなかなか住民の賛同が得られません。
朴大統領は自らの選挙地盤である大邱・慶尚北道(TK)地域に配備することしていますが、当初の予定地は住民の反対で変更を迫られています。レーダーによる健康被害が問題とされています。Xバンドレーダーは日本にもあるのですが・・・・。

****韓国大統領、THAAD配備場所の変更示唆 住民反対で=報道****
韓国政府が高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備場所を変更する可能性があると、聯合ニュースが朴槿恵(パク・クネ)大統領の発言を引用して伝えた。周辺住民が健康や環境への影響を懸念しているためという。

韓国は7月、南東部の星州に米軍のTHAADが配備されると発表したが、周辺住民が配備に抗議していた。

聯合ニュースによると、朴大統領は議員との会議で「星州の住民の懸念を踏まえ、星州が推奨する場所があれば別途検討することになる」と語った。【8月4日 ロイター】
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朴大統領のTHAAD配置決定に反対する野党議員が「中韓関係の改善を目指す」と中国を訪問した件については、朴大統領は相当に怒っているようです。

****韓国の朴槿恵大統領、訪中議員の批判強める****
2016年8月10日、米華字ニュースサイト多維新聞は、韓国への地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備を受け、「朴槿恵(パク・クネ)大統領が訪中議員への圧力を強め、THAADについて語ることはタブーになっている」と伝えた。

韓国最大野党の共同民主党議員6人が8日、3日間の予定で北京を訪問した。6人は訪中前、THAAD配備をめぐる韓国政府の姿勢を批判。「中韓関係の改善を目指す」と訪中に踏み切ったが、その後突然態度を変え、言葉少なに帰国した。あまりに急な変化が憶測を呼んでいる。

9日に北京であった共同会見で、韓国議員団と中国は短い共同声明を発表。2国間関係の改善を目指すことで一致したものの、韓国側議員はTHAAD配備には触れず、足早に帰国の途についた。

一方、韓国・聯合ニュースによると、朴大統領は訪中した議員を「政治を理解していない。一部の議員は中国の意見に賛成し、北朝鮮の核問題解決を目指す韓国政府の努力をまったく分かっていない」と厳しく批判。配備に関する国内外の一部意見は事実と異なり、懸念を招いているとした。【8月11日 Record China】
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北朝鮮回帰を強める中国 アメリカ主導体制への反発
一方、中国の方は、北朝鮮寄りの姿勢を強めています。

****THAAD配備で「米国にだまされた!」北擁護強める中国、「国際包囲網」から離脱も 「活気」取り戻す中朝貿易****
北朝鮮による3日の中距離弾道ミサイル発射について、国連安全保障理事会が検討していた非難声明が中国の反対で見送られた。

米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備が決まった7月中旬以降、中国は米韓に対し反発を強める一方、北朝鮮を擁護する姿勢を鮮明に示すようになった。今後、国際社会が構築する“北朝鮮包囲網”から中国が本格離脱する可能性も浮上してきた。
 
中国の外交関係者は産経新聞の電話取材に対し「THAADの配備決定は、地域の軍事的緊張を高めた。(北)朝鮮のミサイル発射よりも中国に対する脅威は大きく、非難声明を出すなら米韓をも一緒に非難すべきだ」と話した。
 
中国はこれまで、ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮を批判し、国際社会が実施する一連の経済制裁にも参加してきた。しかし、THAAD配備の決定を受けて、中国国内でとくに軍などの保守派の間で「米国にだまされた」「対北朝鮮政策を全面的に見直すべきだ」といった意見が浮上した。
 
それに伴い、中朝関係は急接近し、遼寧省丹東などの国境付近でしばらく停滞していた中朝貿易が最近になって、「再び活気付いた」(中朝貿易関係者)という。こうした中朝交流の加速によって、国際社会の北朝鮮への経済制裁の効果が低下したといわれる。
 
しかし一方、中国による最近の北朝鮮を擁護する動きは、米韓に対しTHAADの配備を撤回させるための揺さぶりにすぎないとの見方もある。北朝鮮が核兵器を持つことを中国も望んでいない。今後、中国が米韓と距離を置くにしても「北朝鮮の核開発を支持することはない」と中国の外交関係者は強調した。【8月11日 産経】
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東アジア・東南アジアにおけるアメリカの影響を弱め、自国が中心となることを目指す中国は、韓国がアメリカに従うことが我慢ならないようです。

****<北朝鮮の非難声明>中国が反対、米国と激しく対立****
中国ではあらゆるメディアがTHAAD配備を決めた韓国を批判している。だが、その視線の先にあるのは米国だ。中国共産党機関紙「人民日報」は論評で「THAADは米国が東北アジアに打つくさびであり、朝鮮半島情勢をさらに悪化させる」と指摘。「韓国がTHAADに同意することは、主体的に米国の手先となることだ」と強い調子で警告した。
 
習近平指導部は対米関係を最重視し、中国がアジア地域で影響力を高めることを米国に認めさせようと腐心してきた。しかし、現実はオバマ米大統領が掲げるアジア・太平洋重視の「リバランス(再均衡)」政策との摩擦ばかりが目につくようになっている。
 
中国は、韓国へのTHAAD配備をきっかけに、米国主導のミサイル防衛網が中国周辺に構築されることを懸念している。5日付の人民日報海外版は「THAADのドミノ効果に警戒せよ」と題する記事を大きく掲載した。記事では「韓国への配備がドミノ効果を生み、フィリピンでも、台湾でも、米国は(THAAD配備を)好きなようにやれる」とする復旦大国際問題研究院、方秀玉教授の分析を紹介。中国側が、南シナ海や台湾統一の問題にもつながりかねない脅威と捉えていることが浮かび上がった。
 
中国では領土・領海や祖国統一に関わる問題は「核心的利益」と呼ばれる最重要事項であり、譲歩は許されない。毎年この時期は、中国指導部などが河北省の保養地、北戴河に集まって重要方針を話し合う「北戴河会議」と重なる。国内向けにも韓国に対し強硬姿勢を維持する必要がある。
 
一方で、強気一辺倒の外交では、打開の出口が見えないのも事実だ。韓国を攻撃し過ぎて米国の側に追いやれば、中国はむしろ傷口を広げかねない。
 
また、9月には中国・杭州で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれる。議長国のトップとして習氏が会議を成功させるには、韓国との決定的な対立は避けたいところだ。G20首脳会議に向け中韓が落としどころを探る可能性もある。【8月11日 毎日】
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中国としても、韓国をアメリカの側に追いやるのは得策ではありません。
韓国も、THAAD配置は中国側に対して北朝鮮を放置しないでほしいとの強いメッセージを出すという意味もあり、中韓関係に亀裂が入ることで北朝鮮包囲網が崩れることへの懸念があります。

両国ともそこらを睨んでの綱引きですが、とりあえずは9月のG20首脳会議が駆け引きの舞台となるようです。

THAAD配置では中国と、慰安婦問題や竹島では日本と、非常に難しい立ち位置にある朴大統領です。日本としては朴政権を追い込むより、日米の側に手繰り寄せる方向の方が得策でしょう。
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イラン  実効を伴わない制裁解除でイラン経済の困難続く 政権・核合意への期待は失望に

2016-08-12 22:42:02 | イラン

(“イラン政府は世界中で流行中のスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」を他の多くのインターネット規制同様、即座に禁止したが、テクノロジーに精通した若者たちは禁止令などお構いなしで夢中でプレーしているようだ”【8月6日 AFP】)

核開発の野心を持ち続けるイラン
イラン・ロウハニ大統領は2013年8月に就任後、「対話外交」を実践し、昨年7月に核問題で欧米などと最終合意し、制裁は今年1月に解除されました。

「核合意」でイラン経済が改善し、「対話路線」「改革路線」のロウハニ政権の政治基盤が強化され、核以外の問題においても、イランと欧米の協調体制が強化される・・・というのが期待された「筋書」でした。

実際、制裁解除による景気回復の期待を追い風に、2月及び4月(決選投票)の国会議員選で支持勢力の改革、穏健両派が躍進し、ロウハニ大統領は事実上2期目の信任を得たとも見られていました。

しかし、どうもこうの「筋書」も怪しくなってきています。

ひとつは、イランが合意内容は遵守しているものの、核開発への取り組み自体は依然として続けているのではないかとの疑念が深まっていることです。

****イラン「核開発継続」の証拠続出 オバマ「外交遺産」は早やご破算****
イランと米欧など六カ国が結んだ核合意から一年を経て、イランが核開発のみならず、大量破壊兵器開発の野心を持ち続けていることが明らかになった。

イランが期待した経済交流も停滞気味で、イラン国内では保守派から、「合意に縛られる必要はない」との強硬論も強まる。オバマ政権下の唯一の中東での外交成果は、空中分解の危険が高まっている。
 
七月初旬、ドイツの情報機関「憲法擁護庁」が爆弾報告を発表した。イランが核合意後も、核開発に必要な物資調達を、国際市場で画策しているというのだ。
 
憲法擁護庁は昨年一年間の動向を分析した中で、「イランは極秘の手法により、ドイツから武器技術を違法に獲得しようとしている」と結論づけ、国際的な標準から見て「(調達の試みは)かなり量的に高水準である」と評価した。(中略)
 
ドイツは国連安全保障理事会の五常任理事国に加わり、イラン核合意をまとめた。それだけに、ふだんは慎重な独外務省も、「イラン国内の核合意に反対する勢力が、核合意を骨抜きにしようと試みている」(報道官)とイラン側の暗躍を厳しく批判した。

国益むき出しで地域覇権を目指す
さらにAP通信は七月中旬、イランの核開発に関する規制が、当初想定よりずっと早く解除される見通しであることを特報した。

昨年の核合意は、「規制は十五年で解除」としたが、未公表の付随文書では、「十年後には、ウラン濃縮計画を拡大する」旨が明記されていた。この報道について、米、イラン両国政府が直後に事実であることを認めた。
 
米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のジェームズ・フィリップス上級研究員は、「そのころになれば、ずっと高性能の遠心分離機を堂々と使える。濃縮ウランは二倍の効率で生産できるから、核武装化を止められない」と言う。同上級研究員は元来、核合意に反対の立場だが、「状況は一年前より悪くなっている」と指摘する。(後略)【選択8月号】
******************

イランが核開発を完全に放棄した訳ではなく、“イランは核の野心を延期しただけで、次の15年を高度な遠心分離機やミサイルの開発に使うつもりだ”というのは中東湾岸諸国などイランと対峙する国の見方でしたので、上記のような話はある程度“想定内”のことではあります。

制裁解除への失望が保守強硬派台頭を招く
それより冒頭「筋書」を怪しくしているもうひとつの要因は、制裁解除が実質的には進んでおらず、イラン経済は相変わらず疲弊したままで、国民にロウハニ政権への失望感が広がっていることでしょう。

****核合意を脅かすイランの失望****
・・・・イランが核合意を忠実に履行していることは確かなようです。IAEAは、イランの行動は「文句無し」と言っています。

問題は、核合意の結果、イランが期待したような経済効果を上げていないことです。大規模な航空機購入の契約は結ばれましたが、それ以外にイランに対する投資は停滞したままです。

我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない
この状態に対し、ハメネイ最高指導者は今月初め、「米国は信用できない。核協議は、我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない」と述べました。これは政治的発言ではありますが、イラン人の感覚を代弁している面もあります。
 
なぜ、欧米諸国が制裁を解除したのに、このような状態なのでしょうか。

それは、米国が、核開発がらみの制裁の他にも、イランの人権、ハマス、ヒズボラなど米国がテロ組織と指定したものへの支援、それに長距離ミサイル開発に関しても制裁を課しており、これらの制裁は核合意の対象ではなく、合意後も継続しているからです。
 
特に、制裁の対象組織に指定されている革命防衛隊は、広範なビジネスに関与しており、革命防衛隊の関与している企業と取引すると制裁の対象となります。

そのため、欧州の銀行はイランとの取引に躊躇しています。2014年、仏大手銀行のBNPパリバが、米国の制裁に違反してイランとスーダンと取引をしたとして90億ドルの罰金を払わされました。この前例がある以上、欧州の銀行が躊躇するのも無理はありません。(後略)【8月1日 WEDGE】
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イラン側が特に問題視するのは、喫緊の課題である航空機購入がブロックされたことです。

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制裁下では部品さえ輸入できなかったため、イランの航空会社は毎年のように大惨事を起こしていた。

ロウハニ大統領は今年一月、フランスを訪問した際、「エアバス百十八機を買う」という超大型契約を結んだ。三兆円を超す買い物だが、それだけイラン側は困っていた。
 
しかし、エアバスは部品の一〇%以上が米国産で、引き渡しには米側の承認が必要。半年たっても米国はその兆候さえ見せない。米ボーイング社に発注した八十機購入(百七十六億ドル)の計画は、米下院が圧倒的多数で「認められない」と決議してしまった。【選択8月号】
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経済全般の数字も一向に改善されていません。
一年前の「核合意」のとき街頭に繰り出して合意を熱狂的に歓迎した国民の期待は失望に変わり、ロウハニ大統領の好感度は急落しています。

代って台頭しているのが、政権を追われたはずの保守強硬派アフマディネジャド前大統領です。

****イラン経済、続く停滞 残る米の制裁、外資戻らず 欧州の銀行も及び腰****
昨夏のイラン核合意=キーワード=を受けた今年1月の制裁解除から半年あまりが過ぎたが、イランでは経済の回復に足踏みが続く。

米国が核関連以外の制裁を続け、欧州が取引に及び腰になっているからだ。強まる不満を背景に、反米色の強いアフマディネジャド前大統領が復権を狙う。来年5月の大統領選で再選を目指すロハニ大統領は厳しい立場に置かれている。
 
「核合意後も景気は変わらない。むしろ悪くなったよ。客足は伸びず、財布のひもは固いままだ」。首都テヘラン中心部のバザール(市場)でカバン店を営むアフマド・アリラシカリさん(70)はぼやいた。
 
制裁が終われば外資は戻り、経済も回復――そんな国民の期待はしぼみつつある。3月の失業率は11%で前年同期より0・4ポイント悪化。物価の高騰も続き、3月の消費者物価指数は前年より7・4%上がった。
 
経済評論家のプヤ・ジュベルアメリ氏は「制裁で失われたイランと外国企業の取引は、5%しか回復していない」と指摘する。
 
主な原因は、米国による制裁の継続だ。1月に解除されたのは核問題に絡む制裁だけ。米国は1984年からイランをテロ支援国家に指定し、ほとんどの米企業が今なおイランと取引できない。銀行も対象で、送金に米ドルは使えない。
 
そこでイランはもう一つの国際通貨、ユーロに頼ろうとしたが、欧州の大手銀行はそろって慎重だ。米国がかつてイランとの取引などへの罰金として、14年にフランスのBNPパリバに計89億ドル(約9千億円)、15年にドイツのコメルツに計14・5億ドルを科したことが尾を引いているとされる。
 
ロハニ大統領が1月の訪欧で署名したエアバス118機、総額250億ドルの巨額契約も決済をめぐって紛糾。イランは制裁下で機体を更新できずに老朽化したため大量調達を試みるが、まだ1機も届いていない。
 
米国は大統領選を11月に控え、対イラン政策がさらに強硬になる可能性もあり、「模様眺めの空気が広がっている」(日本外交筋)という。(中略)
 
 ■反米の前大統領、台頭
イランの最高指導者ハメネイ師は今月1日、「制裁解除後、生活に目に見える変化は皆無だ。米国は信用できないと改めて証明された」と憤りを示した。
 
ロハニ大統領はひたすら核合意の実現に努め、インフレや失業問題は「制裁解除で解決する」と答えてきた。今は「核合意は無意味だった」と批判を浴びる。
 
米メリーランド大などが6月、イランの約1千人に行った世論調査では、核合意で暮らしが改善したと答えた人は26%。ロハニ氏の好感度も、「非常に良い」が昨年8月の61%から38%まで下がった。
 
台頭するのが、アフマディネジャド前大統領だ。次の大統領を尋ねる質問で、1年前はロハニ氏と27ポイント差があったが、今回は8ポイント差に詰めた。7月から各地のモスクで演説を始め、「時が来れば私は戻る」と発言している。今月8日にはオバマ米大統領に資産凍結の解除などを求める書簡を送り、イランメディアの話題をさらっている。
 
また、イラン司法府は7日、原子力科学者のシャハラム・アミリ氏を「国家機密を米国に渡した」として死刑に処したと発表した。司法府と前大統領は政治的に近い。
 
アフマディネジャド氏が政権にあった05年からの8年間、イランは核開発を強行し続けた。返り咲けば、核合意を破棄しかねない。【8月12日 朝日】
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イラン国民の対米不信も強まっています。
“在カナダの調査会社が今年六月、イラン人約一千人に電話で聞き取りをしたところ、「米国はやがて全制裁を解除する」と信じる人は、二三%しかいなかった。一年前には同じ問いに、六二%が「そう信じる」と答えていた。
「米国は義務を守らない」と思う人は七二%、「米国は他国が関係改善をしようとするのを邪魔している」と思う人は七五%と、大多数が対米不信を強めていた。”【選択8月号】

原子力科学者のシャハラム・アミリ氏の処刑については、下記のように報じられていますが、真相はよくわかりません。

****イラン、核科学者を処刑「米国のスパイ****
イランの司法府報道官は7日、米国に「機密かつ極めて重要な」情報を提供したとして有罪になったイラン人核科学者シャハラム・アミリ氏(39)を処刑したと発表した。
 
同報道官はテヘランで記者団に対し、「シャハラム・アミリは敵に国家の最高機密を漏えいしたため絞首刑となった」と述べた。
 
アミリ氏は2009年にサウジアラビアでその行方が分からなくなり、一年後に米国で生存が確認された。イランの核開発計画をめぐる国際的な緊張がピークに達していた当時、アミリ氏の失踪については、拉致と亡命との間で見解が分かれていた。
 
その後、アミリ氏は2010年7月にイランに帰国。テヘランの空港では英雄として歓迎を受け、自分はサウジアラビアのメディナで、ペルシア語を話す米中央情報局(CIA)員に銃を突き付けられ拉致されたと説明していた。
 
また、米国当局からは、「自ら亡命し、イラン核開発計画の機密を含む重要な書類とラップトップを携行した」とメディアに話すよう圧力をかけられたと述べ、「だが、神の御意思により抵抗した」と話していた。
 
イラン当局は、この説明を受け入れなかったとされ、その直後にアミリ氏は再び公の場から姿を消した。同氏の逮捕に関する公式な情報はなかった。
 
司法府報道官は、イランの情報機関は米情報機関の裏をかき、アミリ氏の行動をすべて監視していたと述べ、「国家の機密、高度な機密情報を入手することができたこの人物は、わが国第一の敵である米国と結託し、イランの決定的な機密情報を敵に渡した」と記者団に説明した。
 
米国務省は7日、同件についてのコメントを拒否している。【8月8日 AFP】
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アメリカ側では大統領選挙ただなかにあって、「当選したら、核合意を破り捨てる」といった有権者受けするイランへの厳しい姿勢がトランプ氏からアピールされています。

これに対し、イランの最高指導者ハメネイ師は「それならこっちは焼き捨ててやる」と応じたそうで、“「歴史的合意」を軌道に乗せようという熱意は、双方の側ですっかりしぼんでしまった。”【選択8月号】という状況です。

アメリカ側がイランに「身代金」を支払ったのではないか・・・という件も報じられており、アメリカ世論のイラン及び「核合意」への見方を厳しくしそうです。

****米、イランに「身代金」400億円・・・・米紙報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは3日、イランが今年1月、スパイ容疑で拘束していた米国人5人を釈放した時期に、米政府がイラン側に4億ドル(約400億円)を支払ったと報じた。
 
米政府は「釈放と資金の支払いは無関係だ」と説明しているが、共和党は「秘密裏の身代金」と批判しており、米大統領選の新たな争点になりそうだ。
 
釈放は今年1月、米英などとの核合意に基づく制裁解除に合わせて行われ、同紙によると米政府は、現金4億ドルを輸送機でイランに運んだ。
 
米ホワイトハウスのアーネスト報道官は記者会見で資金について、「イランが1979年の革命前に武器調達費として米国に支払った金額の一部を返金した」と説明したが、共和党全国委員会は「巨額の資金がテロ組織の懐に入りかねない」とする声明を発表。同党の大統領候補ドナルド・トランプ氏もツイッターで「スキャンダルだ」と批判した。【8月4日 読売】
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イランが周辺地域のシーア派勢力を支援して、その影響力拡大を狙っているのは事実ですが、それを言うなら、アメリカの「同盟国」であるサウジアラビアのイスラム過激派支援や、パキスタンのタリバン支援の方がもっと深刻な結果をもたらしています。

イラン以上に非民主的・人道軽視の国は山ほどあります。

79年のテヘランでおきたアメリカ大使館占拠・人質事件のトラウマでしょうか、アメリカ議会のイランへの厳しい姿勢は合理性に欠けるように思われます。

かつての民主派ハタミ大統領のときも、アメリカはイランとの関係改善を進めず、結局民主派政権を見殺しにし、保守強硬派アフマディネジャド大統領への道を開き、対立と核開発を促すことになりました。

アメリカは再び同じような道を歩もうとしているように見えます。

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現状の打開のために何がなされるべきでしょうか。米国がテロ組織支援、長距離ミサイル開発などを対象にした制裁を緩和、解除することは考えられません。

そうとすれば、欧州の銀行の対イラン投資を促すためには、米国政府が、外国の銀行がどうすれば制裁違反にならないかについての明確なガイドラインを示すことが必要でしょう。
 
オバマ政権にとって、イランとの核合意は、功績として残るような成果です。オバマ政権がその成果が無にならないようにするのは当然です。【8月1日 WEDGE】
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