(首都アジスアベバに開業した初の地下鉄駅【7月23日 朝日「GLOBE」】 エチオピアは急速に変わりつつあります)
【国が豊かになるかどうかを決めるのは、運命や資源ではなく、明確なビジョンと戦略】
アフリカ・エチオピアの首都アジスアベバには成田からエチオピア航空の直行便があるようです。知りませんでした。アフリカへは唯一の直行便ではないでしょうか。
アフリカのイメージというと、どうしても内戦・紛争、飢餓、貧困、暴力といったネガティブなものが先にたちますが、いつも言うようにアフリカは経済成長が著しい地域でもあります。
とは言うものの、私自身、アフリカについてネガティブなイメージでとらえがちですし、何より情報・知識がありません。エチオピアと聞いて思い浮かべるは東京オリンピックのアベベ選手(古いですね・・・)など、陸上長距離種目がやたらと強いといったところ。70年代、80年代の大飢饉の記憶も残っています。
国際ニュースで目にするのは、隣の内戦国ソマリア絡みのものが多く、4月には、やはり内戦国の南スーダンの武装集団が国境を超えてエチオピア西部ガンベラ付近を襲撃し、約140人を殺害、多数を拉致したといったニュースも。
内戦・紛争が絶えないソマリアや南スーダン、スーダン、更には人権侵害で「アフリカの北朝鮮」とも言われるエリトリアなど“物騒な国”に囲まれていますが、エチオピア自体は1991年以来、国内に戦乱はなく、首都のアディスアベバは夜中に外を出歩いても安全(エチオピア政府関係者)だそうです。
エチオピアは未だ世界最貧国の一つではありますが、近年は10%を超える経済成長を続け、資源ブームが終わって失速傾向のアフリカ経済にあっても独自の成長を続けています。人口も1億人近く、市場規模もかなりのものです。
****エチオピア*****
人口約9700万人。2050年には2億人近くになると見込まれる。
国際通貨基金(IMF)によると、14年の実質GDP成長率は10・3%。世界でもトップクラスの成長を続ける。人件費が安く、外国からの投資が集中。小売業や建設業も活発だ。【3月22日 朝日】
*******************
順調な経済成長について、アルケベ・オクバイ首相特別顧問は、国が明確なビジョンを持って主導していると語っています。
****エチオピア 高度経済成長の秘密とは(アルケベ首相特別顧問)****
エチオピアの経済は今、急速に成長しています。国内総生産(GDP)は過去12年間、平均して年11%ずつ成長を続けています。おもに農業と製造業の成長によるものです。
この成長はなぜ可能だったのか。私たち政府は、教育やインフラに投資してきました。1991年に大学は二つしかありませんでしたが、今では公立、私立を合わせて60以上の大学があります。人文系や社会科学系よりも、自然科学系や工学系を強化してきました。
交通機関の建設にも力を入れています。全国に総延長6000キロに及ぶ鉄道を敷設する計画があります。エネルギーも重要です。水力、風力など、クリーンエネルギーの開発に力をそそいでいます。政府予算の6割は、教育やインフラなどの長期的な投資に費やしているのです。
エチオピアはアフリカの中で最も安定した国でもあります。91年以来、国内に戦乱はありません。首都のアディスアベバは夜中に外を出歩いても安全です。
エチオピアは今も世界の最貧国の一つです。でも、状況は大きく変わりつつあります。国が豊かになるかどうかを決めるのは、運命ではありません。資源でもありません。日本だって資源に恵まれた国ではないでしょう。大事なのは、明確なビジョンと戦略です。
私たちは、アジア諸国など、これまでに成功を収めてきた国々から学んできました。日本からは製造業の「カイゼン」を学びました。韓国の科学技術大学のモデルも導入しようとしています。職業訓練センターはドイツの仕組みに学びました。
私たちは、アフリカにおける製造業のリーダーになることを目指しています。基本的な条件はそろっています。まず、優秀な労働力です。中国などの新興国では、労働力のコストが上がっています。世界は競争力のある労働力を探しています。我々にとって大きなチャンスです。
製造業は今後、毎年25%の成長を目指します。輸出の中で製造業が占める割合をこれまでの4倍に伸ばしたい。製造業だけで200万人分の雇用を新たに創り出したい。そう考えています。
そのためにも、外国からの質の高い投資が必要です。私たちは工業団地を大きく拡張しています。工業団地の中に行政のワンストップ窓口も開設したいと考えています。(中略)
今のところ、日本企業は出遅れています。日本企業がアジアに力を入れていることは理解しています。地理的に近く、サプライチェーンを築くことも容易でしょうから。それに、日本企業はアフリカのことをよく知らない。
でも、この状況は近いうちに変わると思います。エチオピア航空は昨年、東京に直行便を就航させました。今や、日本とアフリカ大陸をエチオピア航空がつないでいます。アフリカにおけるビジネスチャンスの認識も、これから広まると期待しています。
私たちは日本企業を誘致したい。そのために日本企業に特化した工業団地を建設することを日本側に提案しています。(中略)
エチオピア政府は明確なビジョンを持って経済発展を引っ張っています。一方で、「政府が多くのことをやりすぎている」と批判されることもあります。たとえば、エチオピア航空や、通信事業を独占しているエチオテレコムは、国営企業です。
それと、金融も今のところ外資はお断りしています。私たちに外国資本をコントロールする能力はありません。2008年の金融危機や、97年のアジア通貨危機を見れば、先進国にとっても金融をコントロールすることは容易ではないことが分かります。しかし、金融と通信以外の分野はすべて、外国資本にも開かれています。
私たちは非常に低い位置からスタートしました。通信事業は稼げるビジネスです。そこで稼いだお金を、鉄道などのインフラ建設につぎ込んでいるのです。日本でも韓国でも台湾でも、経済が成長するときに国家が重要な役割を果たしました。私たちも国家の役割の重要性を信じています。
エチオピアは2025年に中所得国の仲間入りを目指します。その頃には1人あたりGDPが1300ドルくらいになっているでしょう。人口も1億5000万人になっているはずです。これから10年でエチオピアは大きく変わります。この構想を現実にするために、これからも一生懸命働きます。【7月23日 朝日「GLOBE」】
******************
“国が豊かになるかどうかを決めるのは、運命ではありません。資源でもありません。日本だって資源に恵まれた国ではないでしょう。大事なのは、明確なビジョンと戦略です。”・・・「失われた20年」を続け、来るべき少子高齢化社会への準備が進まない日本にとっては耳が痛いお言葉です。
【日本から学んだ「カイゼン」】
“日本からは製造業の「カイゼン」を学びました”とありますが、「カイゼン」とは「改善」のことです。
****「カイゼン」で変わるアフリカ****
・・・・エチオピア政府は11年、工業省の傘下に「エチオピア・カイゼン機構」を設立した。「カイゼン(改善)」とは、日本の製造業の現場で生まれた作業効率化の取り組みだ。
日本の国際協力機構(JICA)が専門家をエチオピアに派遣し、具体的な「カイゼン」方法を助言。これまでにエチオピア国内の縫製業や皮革産業など、計約180社が取り組んでいるという。
エチオピア・カイゼン機構のゲタフン・タダセ所長は「製造現場の意識と態度を変えることで、各企業で3~30%のコスト削減に成功した」と言う。
2013年から「カイゼン」に取り組む地元の靴メーカー「ピーコック」の工場を訪ねた。建物に入るとすぐに目に入る看板に、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「規律」を意味するアムハラ語(エチオピアの公用語)の標語が書かれていた。
工場を見学すると、さまざまなナイフや、革、靴の中敷きなど工具や材料が、きれいに色分けされた箱に、種類ごとに見つけやすく片づけられていた。工場内の床は、作業場や通路などのスペースごとに緑や黄色のペンキで塗り分けられている。
工場のマネジャー、チャラムラク・サハレが、カイゼンを導入する前の工場の写真と比べながら説明してくれた。「以前は工具や材料がバラバラに散らばっていて、工場の中が雑然としていたが、整理整頓したことで作業効率が上がった。
1カ月の生産量は靴1万8000足から2万3000足に増え、品質のばらつきも少なくなり、今では約半数を米国や英国、イタリアなど外国に輸出している」。各職場にリーダーを置き、現場の従業員らの意見を吸い上げながら、職場の「カイゼン」に務めているという。
JICAの神公明・エチオピア事務所長は「エチオピアはかつて『貧困』の代名詞のような国で、JICAも主に保健衛生や井戸掘りなどのプロジェクトに携わってきた。だが、最近10年余りの発展はめざましく、今では私たちも『カイゼン』などの産業支援に力を入れている。これからはさらに、輸出振興のために、有望な革製品のブランド化などにも取り組みたい」と話している。【7月12日 朝日「GLOBE」】
******************
【アフリカ経済を牽引してきた中国の動向】
アフリカ、そしてエチオピアの経済成長を支えてきた大きな要因のひとつが中国の支援・投資です。
中国の支援・投資にはいろいろ問題もあります。隣国ケニアでは8月2日、中国資本による鉄道建設の現場で作業中だった中国人14人が、地元の青年ら約200人に襲撃され負傷する騒ぎがありました。地元青年らは就業機会が分配されないことに不満を感じていたとのことです。
ただ、中国が資金的にアフリカの成長を支えてきたことも事実です。エチオピアでは中国人2万人が働いていますが、エチオピアに進出している日本企業は首都アディスアベバ郊外に工場を開設した横浜市の革製品店ぐらいのようです。
関与の差は歴然としています。
****インフラをつくる中国(JETRO平野克己理事)****
アフリカ経済で注目されるのは中国の動向です。
中国のアフリカ政策は一般に「資源獲得」ばかりが言われていますが、今の習近平政権は資源にほとんど手を出していません。代わりに何をやっているかと言うと、インフラづくりです。
経済成長はインフラ建設との追いかけっこです。急速に経済成長する国では、電力、道路、鉄道網がものすごい勢いでつくられます。日本も韓国も中国もそうでした。
経済成長が一段落したときに、そういった建築土木部門や公共事業をいきなりなくすわけにはいきません。日本の場合は、国内各地で公共事業を展開しました。中国はそれを国際的にやっている。それがアフリカにも及んでいる。そう言えるのではないかと思います。
もう一つ、国家主席の習近平氏が言っているのは、「中国は賃金が上がって国際競争力を失いつつある。このままでは輸出力が落ちてしまう。競争力の劣る国内企業は、国外に出て稼いでほしい」ということです。その対象にアフリカも含まれています。
エチオピアは、アフリカの中でも中国がもっとも熱心に製造業投資をしてきた国です。アフリカ大陸には中国人が100万人いると言われますが、エチオピアには少なくとも2万人はいるとみられています。エチオピアはアフリカ連合の本部もありますから、政治的にも非常に重要です。
ただし、エチオピアの製造業に対する投資も、今は激減しています。おそらく中国の景気が悪くなったからでしょう。今後どうなるか、注意深く見ています。
いま、世界のものづくりの25%は中国一国にあります。その中国からどこに製造業が飛び出していくのか。
戦後の開発史をみると、ものづくりの現場は最初は日本、次に台湾、香港、韓国、そのあと東南アジア諸国連合(ASEAN)に移って、そこから中国に行きました。中国の次にベトナム、カンボジア、ミャンマーに広がっています。
それがアフリカにまで来るかどうか。中国のエチオピアに対する製造業投資が今後どうなるかを見れば、その行く末を占うこともできます。(後略)【7月13日 朝日「GLOBE」】
******************
【日本は“緩慢なる自殺”】
上記記事の平野氏は、外に目を向けない日本は“緩慢なる自殺”をしているとも。
******************
日本は長い不況の中にいます。問題は、輸出力の減退と、対日投資の低さです。先進国の中で日本の輸出力は極端に低く、外から入ってくる投資も少ない。日本はグローバル化の恩恵をまったく受けていないとさえ言えます。
これから日本の人口は減っていきます。それなのに国内の市場に依存している。緩慢なる自殺をしているのと同じです。まずは、輸出を増やすことが必要です。そこでまず、市場としてのアフリカの重要性があるのです。
資源価格の低迷で、資源ビジネスは、もうからなくなりました。それでは、他の分野があるのかどうか、本腰を入れて考えなければいけない。そういう中で注目されている国がエチオピアなんです。【同上】
******************
【医療状況を劇的に改善している「保健普及員」】
エチオピア政府の取り組みは、経済成長に向けた産業政策だけでなく、国民生活に直結した保健衛生分野にも及んでいます。
****エチオピア、草の根医療 「保健普及員」若い女性ら3万人****
エイズなどの感染症に長く苦しめられてきたエチオピアの医療が、劇的な進歩を遂げている。カギは「保健普及員」として活躍する若い女性たちだ。
保健システム強化はアフリカの新たな課題で、ケニアで8月末に開かれる第6回アフリカ開発会議(TICAD6)=キーワード=でも議題となりそうだ。
農村に拠点、診療や処方担う
エチオピアの首都アディスアベバから北へ約500キロ。ティグレ州キヘン村の一角に、トタン屋根の「ヘルスポスト(診療所)」がある。
「おなかの赤ちゃんの動きが止まったり、出血したりしたら危険なサインです。すぐ連絡下さいね」
シンダヨ・タッカさん(29)は、ここで保健普及員として働く。妊婦健診に訪れた女性(40)に注意点を説明し終えると、「緊急時には電話して」と携帯番号のメモを手渡した。
エチオピア政府は2000年以降、全国1万6千カ所に、ヘルスポストと呼ばれる地域の保健医療の拠点を設置。保健普及員を2人ずつ配置し、診療や薬の処方を担わせた。国際援助を活用し、感染症関連などは無料だ。これが農村の医療事情を大きく向上させた。
受診した女性(45)は、簡易検査でマラリアの再発が見つかった。薬を飲んで回復したが、「昔なら死んでいたでしょう」。別の男性(52)も「10年以上前は、具合が悪くなったら薬草を飲んだ。現代的な薬のおかげで、感染症や出産での死亡はすごく減った」と喜ぶ。
政府が急ピッチで配置を進める保健普及員は、現在全国で3万人以上いる。担うのは地元の女性たちだ。
高校卒業後に1年間の研修を受ければ、政府から保健普及員に任命される。予防接種や、エイズやマラリアの検査もできる。国からもらう月給約8千円は、周囲の農家の収入よりも高い。特に妊婦や子供の医療が課題だったため、女性が適任なのだという。
ヘルスポストに入ると、壁一面に張られた手書きの表やグラフが目に飛び込んでくる。病気別の患者数の推移などをまとめたものだ。こうした情報は州レベルで集計され、例えば感染症が拡大してもすぐ覚知できる体制をとっている。
死亡率激減、課題は医師不足
エチオピアは1990年代まで、アフリカでも最低レベルの医療水準だった。近年は保健普及員の活躍で向上ぶりがめざましい。
5歳未満の死亡率は00年に145人(千人あたり)だったが、15年には59人に減少。この15年間でエイズ死亡率(78%減)、マラリア死亡率(74%減)も大きく減少した。
ここに至るには問題もあった。壁となったのは伝統や宗教だ。
エチオピアでは自宅出産が伝統で、15歳に満たず結婚する女性も珍しくない。性器切除を強いられる「割礼」も根強く残る。識字率も約4割だ。
政府は地元の女性たちに保健・衛生面の知識を教えたほか、キリスト教やイスラム教の指導者たちへの研修も進め、意識の変化を促した。「押しつけてはいけない。地道に理解を進めるのが大事」と政府の担当者は話す。
05年から7年にわたり保健相を務めたテドロス外相は「政府の主導や資金援助に加え、地域が主体的に取り組んだことが大きい。保健普及員はその代表格だ」と胸を張る。(後略)【8月11日 朝日】
*******************
もちろん「光あるところに影あり」で、今回取り上げたような“いい話”ばかりではないでしょう。急速な変化で伝統的な生活・文化が困難に直面している面もあるでしょう。エチオピアも多くの問題を抱えているであろうことは当然のことです。
それはそれとして、ややアフリカに対する認識・イメージを改めさせてくれるようなエチオピア政府の取り組みです。
今度機会があったらエチオピアを観光してみましょう。直行便もあることですし。