孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷が閉廷 その成果と限界

2017-12-21 22:47:55 | 欧州情勢

(ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦での残虐行為を裁く旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)で29日、戦争犯罪で有罪判決を受けた被告が自らの無実を訴えた後、持っていた毒を飲んで自殺を図った。男は救急搬送されたが、死亡が確認された。【11月30日 ロイター】)

終身刑のムラディッチ被告「全てでっち上げ」 遺族「神よ、感謝します!」】
1990年代のユーゴスラビア内戦の民族虐殺、迫害の責任者を裁く旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)の閉廷式典が今日21日に行われるそうです。

旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷では11月22日、各勢力による凄惨な「民族浄化」が行われたボスニア・ヘルツェゴビナ内戦にあって、ジェノサイド((集団殺害)と断罪された「スレブレニツァ事件」を主導したとされるセルビア人武装勢力司令官ラトコ・ムラディッチ被告に終身刑が言い渡されました。

****ムラディッチ被告に終身刑=ボスニア虐殺のセルビア人司令官―戦犯法廷****
1992〜95年のボスニア・ヘルツェゴビナ内戦時のジェノサイド(集団虐殺)などの罪に問われた当時のセルビア人武装勢力司令官、ラトコ・ムラディッチ被告の判決公判が22日、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で開かれ、被告に最高刑となる終身刑が言い渡された。法廷で「全てでっち上げ」と大声を上げた被告は、退廷させられた。
 
判決は、95年に「民族浄化」の一環として7000人以上のイスラム教徒らが虐殺されたスレブレニツァ事件を被告が「主導した」と認定。死者1万人以上のボスニアの首都「サラエボ包囲」についても、被告が指揮したと判断した。被告は起訴された11の罪状のうち10件で有罪となった。
 
判決文は「状況は残虐だった。命や人の尊厳にはほとんど敬意が払われなかった」と断罪した。
 
公判で検察は「終身刑以外を科すのは無責任だ」と最高刑の終身刑を求刑。被告は起訴内容を否認してきた。
 
内戦終結後、逃亡を続けた被告は2011年、セルビア国内の潜伏先で拘束された。戦犯法廷は16年3月、ムラディッチ被告と並ぶ大物戦犯でセルビア人勢力の元政治指導者ラドバン・カラジッチ被告にも禁錮40年の判決を言い渡している。【11月22日 時事】
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この判決に、被害者側のイスラム教徒遺族は歓喜しています。

****ムラディッチ被告終身刑、虐殺遺族に安堵 「息子の死に償い****
「神よ、感謝します!」ネドジバ・サリホビッチさんは、国連の法廷がボスニア・ヘルツェゴビナ内戦(1992~95年)の戦犯ラトコ・ムラディッチ被告(74)に終身刑を言い渡した瞬間、喜びで飛び上がった。
 
サリホビッチさんは他の大勢のボスニア人イスラム教徒と共に、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)がセルビア人武装勢力の元司令官ムラディッチ被告に、ジェノサイド(大量虐殺)と戦争犯罪の罪で判決を下すのを長い間待ち望んでいた。
 
1995年にボスニア東部の町スレブレニツァで起きた虐殺事件で夫と父親、息子を失ったサリホビッチさんは「あれから20年、ムラディッチは私の息子を殺したために、ハーグで死を迎えるのです」と語った。息子の遺体は、いくつかの集団墓地に一部があることだけしか分かっていないという。
 
サリホビッチさんはほかの人たちと一緒に、スレブレニツァ近郊ポトチャリ村に設置された大型スクリーン3つに映し出された審理の生放送を見守っていた。村には、近くの森林と丘陵で殺害されたボスニア人の男性8000人を追悼する施設がある。
 
アルフォンス・オリエ裁判長が判決文を読み上げると、犠牲者の遺族から拍手喝采が沸き起こった。中には涙を流して喜ぶ人や、安堵して互いに抱擁したり接吻をしたりする人もいた。
 
ムラディッチ被告は虐殺を命じたという起訴内容を否認。被告の息子は22日、被告は上訴する意向だと述べている。
 
遺族の中には、終身刑ですら被告が犯した残虐行為を償うには十分でないと考えている人もいる。スレブレニツァの虐殺で親類42人を失ったアイサ・ウミロビッチさんは判決前に「もし彼が1000回生きて1000回終身刑に科されたとしても、正義が果たされたとは言えない」と話した。【11月23日 AFP】
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戦争犯罪者としてではなく、殉教者としてクロアチア人の記憶に残ることを演出したプラリヤック被告
ただ、“戦争”という状況にあって、立場が違うと異なる見方もあります。
前出記事にもあるように、ムラディッチ被告は「全てでっち上げ」と判決を認めていませんし、セルビアにあっては彼を民族的英雄とみなす人々も少なくありません。

このような、裁かれる側の異議申し立てが、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷の最後の公判において、もっとも劇的な形で行われたのは周知のところです。

旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷の最後となるこの日、内戦中にクロアチア人単一民族国家建設を目指してムスリム人に対して行われた人道に対する罪(虐殺、レイプ、迫害、強制退去など)、戦争犯罪で起訴されたボスニア系クロアチア人元政治家や元軍人6名に対する控訴審判決公判が行われていました。

****<旧ユーゴ戦犯法廷>被告が服毒自殺 衝撃的幕切れに****
オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)で29日、イスラム教徒のボスニア人への弾圧など人道に対する罪に問われたクロアチア人の被告が、有罪判決を言い渡されている最中に液体を飲み、その後死亡した。服毒自殺とみられる。24年間続いたICTYでの公判はこの日が最後で、衝撃的な幕切れとなった。
 
死亡したのは、ボスニア内戦(1992〜95年)でクロアチア人武装勢力指導者だったスロボダン・プラリヤック被告(72)。2013年の1審で禁錮20年の判決を受け、控訴していた。

裁判長が1審の量刑を支持する判決を読み上げた際、プラリヤック被告は「私は戦争犯罪人ではない。有罪に反対する」と述べ、持っていた小瓶を口に当てて液体を飲み、「今、毒を飲んだ」と述べた。プラリヤック被告は病院に運ばれたが、間もなく死亡した。
 
この日の法廷では別のクロアチア人の指導者ら5人にも禁錮10〜25年の判決が言い渡された。クロアチアのプレンコビッチ首相は「プラリヤック被告の行動は、(ICTYの)クロアチア人に対する不当な扱いを示している」と述べた。
 
ICTYは93年に設置され、これまでに161人を起訴し、19人が無罪、37人が起訴取り消しなどになっている。ICTYは今年末で終了し、残る控訴審は「国際刑事法廷のための国連メカニズム」に引き継がれ、組織は大幅に縮小される。

 【ことば】ボスニア内戦
ボスニア・ヘルツェゴビナが1992年、旧ユーゴスラビア連邦から独立を宣言したのをきっかけに、セルビア人、クロアチア人、ボスニア人(イスラム教徒)による三つどもえの内戦に突入。20万人以上の犠牲を出した末、95年に和平合意。現在も3民族間には感情的なしこりが残り、再度の衝突を避けるため、国家元首を8カ月ごとに3民族で回す輪番制を取っている。【11月30日 毎日】
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この事件に関しては、“「オランダ在住×セルビア脱線」系こーたろーの社会派ブログ”に詳しく記されていますが、その中から、いくつか抜粋すると以下のとおり。

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クロアチア首相
「プラリャクが毒物自殺を図ったことは、クロアチア民族に対して倫理的に受け入れられない不正が行われた裁判だったことを証明している」

服毒自殺したプラリャクの故郷に住むクロアチア人
「カトリック教徒として、自殺が勇ましい行為であると人生で初めて感じた。子供たちと共に、殉教したプラリャクに対してロウソクに火を灯してきた。彼は罪を犯していないとは言わないが、罪を犯していない民族はいないよ」

クロアチア系メディアがプラリャク被告の自殺を検証
「プラリャクは慎重に自殺を映画監督として演出し、戦争犯罪者としてではなく、殉教者としてクロアチア人の記憶に残ることを願っていた」

クロアチア大統領コリンダ
「クロアチア民族は我ら民族とボスニア国家の生き残りをかけて、大セルビア主義の攻撃に対抗した。クロアチアは誰に対しても攻撃していない。ミロシェビッチと旧ユーゴ軍が我々とボスニアを攻撃したことこそ真実だ。」
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一方で、“欧州委員会のリベラル派政治家の中には、この判決に対して不服の意を露わにして、自殺した戦犯者を擁護するかのように民族主義的な声明を発表したクロアチア政府リーダーの反応を、公式に非難する必要性を考慮すべきだとの声も上がっている。”【同上】とも。

プラリャクの死に哀悼の意を捧げるため、12月11日にクロアチア首都ザグレブにて、クロアチア軍隊が哀悼式典を開催。
式典には、クロアチア政府から防衛大臣や退役軍人大臣2名や旧ユーゴ戦犯者として実刑判決を過去に受けた者、旧ユーゴ紛争時代の政治家、右翼思想を持つクロアチア人気歌手などの政界・軍関係、文化界からの著名人も参列したそうです。

しかし、クロアチア首相や大統領はこの式典には参列しませんでした。“背景としては、プラリャク自殺後に民族主義的な声明を発表した際に、世界各国メディアから非難されたことを考慮して自重した可能性が考えられる。”【同上】

ジェノサイド罪の確立 紛争時の性犯罪を訴追 一方で、大国の意向が影響
東京裁判を含め、戦争犯罪に対する裁判については、いわゆる“勝者の裁き”にすぎないとの批判もありますが、プラリャク被告がそのような線を印象づけることを狙って自らの命をかけて周到に演出した結果、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷もその問題をクローズアップする幕切れとなりました。

****勝者の裁き」に限界も ユーゴ戦犯法廷が四半世紀の裁判に幕「国家元首の犯罪野放しにせず」の原則は確立****
1990年代のユーゴスラビア内戦の民族虐殺、迫害の責任者を裁く旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)の閉廷式典が21日に行われる。

設立以来、24年間で「国家元首の犯罪を野放しにしない」という国際原則を確立する一方、大国の思惑に左右される戦犯法廷の限界も示した。

「目の前にいた男がのどを切って殺された」
「私は当時25歳。12歳の少女と一緒にアパートに監禁され、15人のセルビア人兵士に毎日レイプされた。部屋には『白鳥の湖』の曲がかかっていた」
「深夜、一緒に寝ていたみんなの前で犯された。隣に10歳の息子がいた」
「町中が銃撃され、住民は集合を命じられた。行った途端、目の前にいた男がのどを切って殺された」
 
判決の証言から陰惨な民族紛争の実態が浮かびあがる。法廷が召喚した証人は約4650人。起訴状や判決文は250万ページに上る。
 
法廷は93年、国連安全保障理事会決議で設立された。第二次大戦後の東京、ニュルンベルク裁判以来、初めての戦犯法廷だ。91年に始まったユーゴ内戦中の集団レイプ、虐殺の責任者を処罰し、紛争を阻止する狙いがあった。

ジェノサイド罪の確立に成果
最大の成果はジェノサイド(集団殺害)罪の確立。95年、イスラム系住民が8割を占めるスレブレニツァでセルビア人勢力が約8千人を殺害した事件に適用した。
 
ジェノサイドは民族や宗教集団を意図的に破壊する行為で「人類最悪の罪」とされる。ナチスのユダヤ人虐殺を踏まえ、第二次大戦後に条約で定められた概念を判例で具体化した。120人以上の証言から虐殺が組織的に行われたことを証明した。
 
2001年に始まったユーゴのミロシェビッチ元大統領の裁判は元国家元首を裁く初ケースになった。元大統領は公判中に死亡したが、セルビア人元指導者のカラジッチ被告、元軍司令官のムラジッチ被告はジェノサイドでそれぞれ禁錮40年、終身刑の判決が下った。
 
法廷はまた、紛争中の集団レイプを「人道に対する罪」と初認定。その指揮官だったセルビア人被告は禁錮28年の判決を受けた。
 
セルジュ・ブラメルツ首席検察官(ベルギー出身)は今月6日に国連安保理で演説し、「国際社会が結束すれば、最悪の人道犯罪の責任者を訴追できると示した」と成果を強調した。

法廷が訴追したのは161人。このうち90人以上がセルビア人だ。受刑者は、法廷と協定を結ぶ欧州14カ国で収監された。

法廷で「戦犯ではない」と叫び服毒も
四半世紀にわたり、裁かれ続けたセルビア人には「われわれだけが戦犯扱い」という不満が残る。セルビアの世論調査で「法廷は公平でない」と考える人は65%を占めた。
 
その根底には1999年、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)が行ったミロシェビッチ政権への空爆がある。

空爆の巻き添えになり、国際人権団体の調べで民間人約500人が死亡し、劣化ウラン弾やクラスター爆弾も使われた。NATOは民間人保護を定めたジュネーブ条約に違反したとの訴状が出されたが、同法廷は「十分な証拠がない」と不起訴にした。
 
セルビア人被告弁護団の一人、トミスラフ・ビスニッチ氏は「検察はたった1カ月で結論を出し、ろくに捜査しなかった。大国の意向が影響した」と指摘する。
 
同氏は、「検察は米軍の動向を見て法廷戦略を変えた」とも述べた。2003年のイラク戦争中、民間人が巻き添えになった米軍の空爆が報じられると、法廷の検察官は被告の武器使用法が同条約違反だという追及を止めたと訴える。
 
法廷には公平な裁判で民族融和を促す狙いもあったが、実現とはほど遠い。昨年のカラジッチ被告の判決時、ベオグラードで数千人が「セルビア人だから処罰された」と訴えて抗議デモを行った。

今年11月に有罪が確定したクロアチア人被告は「私は戦犯ではない」と叫んで法廷で服毒。抗議の自殺とみられている。

人道犯罪は国際社会が裁く原則広がる
法廷は11月末、最後の公判を終えた。カラジッチ被告ら2人の控訴審は、国連の後継組織「国際刑事裁判メカニズム」が引き継ぐ。
 
防弾ガラスや金属探知機で囲まれたハーグの法廷はそのままだが、千人以上いた職員は半分以下になり、残務処理を行う。
 
旧ユーゴ法廷を契機に戦犯法廷は各地で発足した。ハーグには常設の国際刑事裁判所が設立され、カンボジアやアフリカ・シエラレオネに特別法廷ができた。重大な人道犯罪は国際社会が裁く原則が広がった。
    ◇
「公平性、東京裁判より前進」
《識者談話》米ワシントン・アンド・リー大学のマーク・ドランブル教授
旧ユーゴ法廷はセルビア人、クロアチア人ら各勢力を訴追した。NATOは訴追されなかったが、敗戦国だけを訴追した東京、ニュルンベルク裁判とは異なり、国際社会が納得できる程度の公平性を保った。
 
法廷がジェノサイド罪を明確化した意義は大きい。犠牲者の数ではなく、集団抹殺の意図が問題だと明示した。紛争時の性犯罪を訴追したのも初めてだ。
 
裁判は本来、国際法廷より、事件当事者に近い場所で行うのが望ましい。このため、カンボジア特別法廷は、国連任命の外国人とカンボジア人が共に判事団を組み、国内に設けられた。ただ、旧ユーゴ法廷のように効率的に裁判が進んでいないようだ。
 
常設の国際刑事裁判所も設立されたが、世界中の事件を訴追するのは責任が大きすぎ、知識も捜査力もついていかない。私は旧ユーゴ法廷のように対象を限定した方がよいと思う。
 
国際刑事裁はアフリカ諸国の人道犯罪を訴追する一方、アフガニスタン戦争での米軍の罪は訴追できずにいる。勝者が歴史を作る現実は変わらない。(談)【12月20日 産経】
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成果も、限界も・・・といったところです。
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イエメン  「忘れられた戦争」で進行する飢餓・コレラの人道危機 見捨てられた住民の生命

2017-12-20 22:23:39 | 中東情勢

(イエメン西部ホデイダの病院で治療を受ける栄養失調の子ども(2017年12月19日撮影)【12月20日 AFP】)

サレハ前大統領殺害 これを機に政権側・サウジが攻勢を強めることも
今月初めのカンボジア旅行の最中に、3年近くに及ぶ内戦が続くイエメン情勢では大きな出来事がありました。

イランの支援をうけているとされる反政府勢力フーシ派と連携して、サウジアラビアの空爆支援を受ける政府軍と戦っていたサレハ前大統領がフーシ派との共闘解消を発表、その直後にそのサレハ前大統領がフーシ派によって殺害されるという事態となっています。

****イエメン・サレハ前大統領を殺害 フーシ派が襲撃 共闘解消直後****
内戦下にあるイエメンのイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」の系列メディアは4日、サレハ前大統領が死亡したと伝えた。

ロイター通信によると、サレハ氏が率いる政党、国民全体会議も死亡を確認した。首都サヌア近郊でサレハ氏が乗った車を同派の戦闘員が襲撃し、射殺したという。
 
イエメン内戦はイランとサウジアラビアの代理戦争の様相を呈しており、情勢は一段と混乱しそうだ。
 
サレハ氏は2012年、中東・北アフリカの長期政権が相次いで倒れた「アラブの春」の中で退陣したものの、イランを後ろ盾とするフーシ派が勢力を伸ばした約3年前から同派と共闘し、ハディ暫定大統領側と対立してきた。
 
しかし、最近はフーシ派との対立が表面化し戦闘が発生。サレハ氏は3日、同派との関係解消を表明し、ハディ政権を支援するサウジが歓迎する意向を示したばかりだった。住民がロイターに語ったところでは、サヌアのサレハ氏宅も4日朝、同派に爆破された。
 
内戦は泥沼化しており、英BBCテレビ(電子版)によると、サウジが軍事介入した15年以降、8600人以上が死亡している。【12月5日 産経】
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反体制派の指導者はテレビ演説で、「裏切りが終わった歴史的な日になった」と。【12月5日 NHK】
また、“イランの最高指導者顧問のベラヤティ元外相も5日、「両国によって仕組まれた陰謀は失敗に終わった」と述べ、暗殺を正当化した。”【12月6日 毎日】とも。

“裏切り”“陰謀”というのは、サレハ前大統領が2日、サウジアラビアとの和平協議の準備があると表明したことを指します。

サウジアラビアとイランの代理戦争と言われながら“こう着状態”にもあったイエメン情勢ですが、これを機に政府軍側が攻勢を強め、戦局がはげしくなることも懸念されています。

****イエメン外相 反体制派分裂で政権側攻勢強める考え****
・・・こうした中、イエメンのミフラフィ外相が10日、NHKのインタビューに応じ、「サレハ前大統領の支持者の多くが殺害されるか、拘束されている。首都はパニックと恐怖で支配されている」と述べ、反体制派が支配してきた首都のサヌアで前大統領派に対する大規模な粛清が続いているとの認識を示しました。

そのうえで、「今回の事件で反体制派に協力する政治勢力はいなくなった。反体制派の孤立は勝利につながる」とし、政権としては反体制側の分裂を好機と捉えて首都サヌアなどを奪還するための軍事作戦を強化する方針を明らかにしました。

政権側が反体制派への攻勢を強めれば首都などで市街戦になるおそれもあり、戦闘に巻き込まれる民間人が増えることへの懸念が広がっています。【12月11日 NHK】
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政府軍を支援するサウジアラビア等アラブ諸国連合軍の空爆も激しさを増しています。

****サウジ連合軍のイエメン空爆、10日間で民間人136人死亡 国連****
サウジアラビア率いる連合軍が今月実施したイエメンに対する空爆で、10日間で民間人少なくとも136人が死亡した。国連(UN)が19日、明らかにした。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の高等弁務官は、現地は「地獄」のようだと非難している。
 
OHCHRによると、12月6~16日に首都サヌアやサーダ、フダイダ、マーリブ、タイズで行われた空爆で民間人少なくとも136人が死亡、87人が負傷した。
 
OHCHRのルパート・コルビル報道官はスイス・ジュネーブで記者会見を行い「サウジ主導の連合軍による空爆が激化した結果、イエメンにおける民間人の死傷者数が近頃激増していることを深く憂慮している」と述べた。
 
サウジ主導の連合軍は国際的に承認されたアブドラボ・マンスール・ハディ政権を支援するため、2015年3月からイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」に対する空爆作戦を行ってきた。
 
連合軍がイエメンの内戦に介入して以来、戦闘で8750人以上が死亡したほか、今年に入り2000人以上がコレラで死亡している。【12月10日 AFP】
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フーシ派のサウジアラビアへのミサイル攻撃
一方のフーシ派は、サウジアラビア首都の王宮を狙ったミサイル攻撃を行っており、サウジ側が米国製パトリオットミサイルPAC3でこれを迎撃する展開ともなっています。

****サウジ、首都上空でミサイル迎撃 フーシ派が王宮を標的に****
サウジアラビア国営メディアは19日、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」が発射したミサイルを、首都リヤドの上空で迎撃したと発表した。

また、フーシ派側もミサイル攻撃の標的について、リヤドにあるサルマン国王の公邸、ヤママ宮殿だったと表明した。
 
フーシ派と戦争状態にあるサウジアラビア主導の連合軍は声明で、「弾道ミサイルがリヤド上空で迎撃された」と発表した。フーシ派によるリヤドに向けたミサイル攻撃はここ2か月で2回目。(中略)
 
数日前に米政府は、先月フーシ派がリヤドに向けて発射したミサイルを製造したのはイランだと非難していた。
 
最初の攻撃があった11月4日、フーシ派はリヤドのすぐ北に位置するキング・ハリド国際空港に向けて弾道ミサイルを発射。これを受けて連合軍は、すでに飢饉(ききん)の瀬戸際にあるイエメンへの長期にわたる封鎖を一層強化した。【12月19日 AFP】
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米国製パトリオットミサイルPAC3は、日本も北朝鮮ミサイルからの防衛戦略として重視している兵器です。
11月の攻撃では“迎撃に成功した”と報じられていましたが、その後、迎撃は失敗した可能性がある・・・とも指摘されています。

****サウジ、イエメンからのミサイル迎撃に失敗か 米紙****
サウジアラビア当局が先月、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」が首都リヤドに向けて発射した弾道ミサイルを迎撃・破壊したと発表したことについて、米紙ニューヨーク・タイムズは4日、軍事専門家らによる分析結果を公表し、米国製の地対空誘導弾パトリオットによる迎撃にサウジアラビアが失敗していた可能性があると報じた。(後略)【12月5日 AFP】
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イランはフーシ派へのミサイル等武器提供を否定していますが、サウジアラビア・アメリカはイランがフーシ派にミサイルを提供しているとしてイランを強く非難しています。

(米首都ワシントンの米軍基地で、イラン製とされる弾道ミサイルの残骸の前に記者会見するニッキー・ヘイリー米国連大使(2017年12月14日撮影)【12月20日 AFP】)

イランからのミサイル・武器供与を絶つための封鎖によって深刻化する飢餓・コレラ
この事態が問題なのは、戦局への影響もさることながら、イランの支援を絶つということでサウジアラビア等連合国側が、すでに飢饉の瀬戸際にあるイエメンへの長期にわたる封鎖を一層強化することです。

これまでも再三取り上げてきたように、イエメンでは内戦の被害に加え、飢餓とコレラによって多くの住民の生命が奪われる危機的状況にあります。

サウジアラビアが報道を厳しく規制していることや、難民がイエメンから流出することもできない状況にあることなどで、国際社会で大きく取り上げられることはありませんが、イエメンの人道危機は深刻さを増しています。

****内戦のイエメン 一日に子ども130人が犠牲に****
紛争地域の子どもが直面する厳しい現状について国連は、内戦が続く中東のイエメンで一日に130人の子どもが命を落としているなどとして、子どもたちの保護に向け国際社会のさらなる行動を求めました。

国連の安全保障理事会で紛争地域の子どもの保護を担当する作業部会の議長を務めるスウェーデンのスコーグ国連大使は14日、記者会見を開きました。

スコーグ大使は「イエメンでは内戦に起因する飢えや病気によって毎日130人の子どもが命を落としている。シリアでは安全なはずの学校に爆弾が落とされ、子どもたちは教育と保護を拒否されている」と述べ、弱者である子どもたちが紛争の犠牲になっている現状に強い危機感を示しました。(後略)【12月15日 NHK】
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イランからの武器支援を絶つためのサウジアラビアなど連合国側による海上・空路封鎖によって、住民への食料や医薬品の搬入が行えないことが、こうした飢餓・コレラの危機的状況を悪化させています。

****イエメン、1000日となる「忘れられた戦争」 NGOら行動呼び掛け****
戦闘で8700人以上の犠牲者を出しながら国際社会から「忘れられた」戦争となっているイエメン内戦が、20日で1000日目を迎えた。
 
数多くの子どもたちが餓死する中、援助団体らはこの国での人道危機が日ごとに深刻さを増していると警告し、内戦終結への働きかけを国際社会に訴えている。
 
子ども支援の国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン(Save the Children)」は、港湾や空港の封鎖、食糧や医療品の不足、コレラの発生などが複合的な原因となり、年末までにイエメンの子どもたち5万人が亡くなる恐れもあるとしている。

同NGO上級アドバイザー、キャロライン・アニング氏は「苦難の深刻さと、すべて人が引き起こした事態だということを考えると、イエメン情勢はもっと国際社会から注目されてしかるべきだ」と語る。
 
援助活動に従事する人の多くが期待する最優先項事項は、2015年3月26日以降、イスラム教シーア派反政府武装勢力「フーシ派」を攻撃しているサウジアラビア主導の連合軍がイエメンの封鎖を解除することだ。
 
仏NGO「ACTED」によると、内戦前のイエメンは食糧輸入への依存が高かったことから、現在では人口の4分の3に当たる約2200万人が援助に頼って生きている状況だという。

また11月以降に封鎖が強化されたことで、ワクチンが極度に不足しており、すでに広まっていた感染症の状況もさらに悪化している。
 
インターネット上で最近立ち上げられた「Yemen Can't Wait(イエメンは待てない)」という支援運動では、世界の著名人約350人が国連安全保障理事会常連理事国である米英仏の3か国首脳に対し、イエメン内戦の即時停止と和平交渉に尽力するよう要請する公開書簡に署名した。
 
18日の仏紙ルモンドには、この書簡の内容が掲載された。そこには、内戦によってイエメンは「中東の最貧国から、世界最悪の人道危機になってしまった」と書かれていた。
 
書簡ではさらに、イランとサウジアラビアの代理戦争と化しているこの内戦で、イランと同じシーア派反政府武装勢力を攻撃しているサウジアラビアが米英仏と巨額の軍事契約を結んでいる点も指摘。

「イエメンの何百万人もの女性、男性、子どもたちは、人命よりも利益と政治を優先する世界の指導者たちから見捨てられたと感じている」とつづられた。

■見えない紛争
イエメン内戦が世界のニュースのトップで報じられることはほとんどない。「Yemen Can't Wait」のキャンペーンは、この内戦に対する関心を高め、欧米諸国の指導者らが行動を起こすよう、圧力をかけることを意図したものだ。
 
ACTEDのイエメン事務所代表、リニー・スハルリム氏は「イエメンは見えない紛争とされている。世界に忘れられている」と言う。
 
イエメン内戦が世界の関心を集めていない状況についてセーブ・ザ・チルドレンのアニング氏は、サウジアラビアが報道陣を近づけないことに成功しているのが一因と話す。

また、貧困や地理的条件などによりイエメン人が戦闘から逃れられず、そのため他国に影響を与えるような大きな難民危機が生じていないことも、欧米諸国にこの内戦を無視させているともした。

「急性栄養失調の極めて高い発生率、毎日亡くなっている子どもたちの数、世界最大のコレラの流行などが起きているにもかかわらず、それらはすべてイエメンの国境の内側に閉じ込められている」【12月20日 AFP】
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住民の人命よりも利益と政治を優先する世界の指導者たち
国連はサウジアラビア等に封鎖を即時解除するように求めており、さすがにアメリカ・トランプ政権も支援物資搬入を認めるようにサウジアラビアに要求しています。

****<イエメン>深刻な食糧危機 国連、サウジに封鎖解除要請****
内戦が続くイエメンが深刻な食糧危機に直面している。政府側を支援するサウジアラビアなどのアラブ諸国連合軍が、海上や空路の封鎖を強化しているためだ。国連人道問題調整事務所は「(国民の約3分の1に当たる)850万人が飢餓の危機にひんしている」と警鐘を鳴らし、封鎖の即時解除を求めている。
 
「イエメンの飢餓は壊滅的だ」。今月5日、国連安全保障理事会でイエメンの現状報告を受けた後、安保理議長国・日本の別所浩郎国連大使は記者団に惨状を訴えた。
 
空中給油や情報提供で連合軍を支援するトランプ米政権も6日、「人道援助や燃料油など生活必需品の搬入を認めよ」との声明を発表し、サウジに圧力をかけている。
 
イエメンでは反政府勢力のイスラム教シーア派系武装組織フーシが首都サヌアを実効支配し、南部アデンを拠点とする政府側と戦闘を続けている。

フーシはイランの支援を受けているとされ、イランと長年対立するサウジやアラブ首長国連邦(UAE)などは2015年3月、サヌアなどへの空爆を開始。イランとサウジの代理戦争の様相を呈している。
 
フーシ側も弾道ミサイルで反撃しており、11月4日には約1000キロ離れたサウジの首都リヤド近郊の国際空港付近にも撃ち込んだ。フーシは今月、サウジとの和平を模索したイエメンのサレハ前大統領を殺害するなど強硬姿勢を強めている。
 
イエメンは旧ソ連や北朝鮮から射程約500キロのスカッドミサイルをかつて調達していたが、今年2月以降は飛躍的に飛距離が伸びた。改造したり、新たなミサイルを国外から調達したりした可能性が高く、米国防総省は毎日新聞の取材に「イランが関与している」と回答した。
 
ミサイルの追加搬入を恐れるサウジは、参戦時から主要港や空港で実施していた封鎖を拡大していった。イエメンは食糧の9割を輸入に頼るだけに影響は大きく、国連によるとこの1カ月で飢餓状態にある国民が150万人増えた。医療品不足も深刻で、人口約2700万人のうち、2000万人以上が食糧・医療など緊急の人道支援を必要としている。
 
深い井戸から水をくみ上げるポンプに使う燃料油の輸入も止まった。清潔な水を確保できず、衛生状態の悪化から伝染病が流行し、今年4月以降、100万人近くがコレラに罹患(りかん)し、2200人以上が死亡している。NGOなどの援助団体はコレラ流行地域への立ち入りを試みているが、紛争当事者が妨害する場合も多いとされる。【12月15日 毎日】
*********************

フーシ派側のミサイル攻撃も、サウジアラビアに軍事的脅威を与えるだけでなく、サウジ側に封鎖強化を余儀なくさせ、サウジアラビアに対する国際社会の批判を強めたい・・・との思惑・狙いもあるのかも。

実際、今回のフーシ派のミサイル攻撃によって、サウジアラビア等は解除どころか封鎖を更に強めており、住民らの悲劇も更に深刻化すると思われます。

フーシ派にしてもサウジアラビアにしても、またイランやサウジと提携する欧米にしても、飢餓とコレラに苦しむイエメン住民のことはほとんど気にかけていないように見えます。

「イエメンの何百万人もの女性、男性、子どもたちは、人命よりも利益と政治を優先する世界の指導者たちから見捨てられたと感じている」・・・極めて残念な現実です。
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サウジアラビア  国民に支持される経済・社会改革 パレスチナを置き去りにするイスラエル接近

2017-12-19 22:44:00 | 中東情勢

(3月14日 トランプ米大統領と昼食を共にするムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(当時) バノン氏の姿も【https://www.strategic-culture.org/news/2017/12/14/kushner-and-saudi-crown-prince-wunderkinds-wreak-havoc.html】)

乗用車、運動競技場に続いて、映画館やオートバイ・トラックも
これまでも何度か取り上げてきているように、保守的なことで知られるサウジアラビアにおいて、従来は男性のみに認められていた自動車の運転を来年6月ごろに女性にも解禁、さらに運動競技場への女性の入場も来年から認めるなど、ムハンマド皇太子(32)が主導する経済・社会改革にの一環としての規制緩和が進められています。

****<サウジアラビア>次は映画館解禁へ 経済・社会改革の一環****
イスラム教の厳格な習慣・戒律を重視する体制下、娯楽が制限されているサウジアラビアで、来年3月にも映画館の運営が解禁される見通しとなった。

ロイター通信などが11日報じた。サルマン国王(81)の実子で「次期国王」と目されるムハンマド皇太子(32)が主導する経済・社会改革の一環で、設置されれば約35年ぶりという。
 
サウジ文化情報省は「映画解禁は経済成長を促す」と強調した。上映内容については、イスラム的価値観からの逸脱の有無を事前検閲される見通し。
 
サウジでは男女が同じ空間で長く過ごすことを保守的な宗教界が問題視したことから上映が禁じられた。娯楽を求める国民は頻繁にアラブ首長国連邦(UAE)など近隣国に出かけ、巨額の消費が国外に落ちているのが実情だ。
 
サウジは人口3200万人のうち約6割が30歳未満という「若い国」で、潜在的な娯楽市場は大きい。(後略)【12月12日 毎日】
********************

****サウジ、女性のトラックとオートバイ運転も解禁へ****
サウジアラビア当局は15日、女性によるトラックやオートバイの運転を解禁することを明らかにした。同国は9月に女性による乗用車の運転を解禁すると発表していた。
 
サルマン国王は9月、保守的な同国における改革推進の一環として、来年6月から女性の運転を解禁する内容の国王令を公布した。
 
サウジ交通総局は15日夜、国営サウジ通信(SPA)を通じて新規定の詳細を公表した際、「女性にオートバイ(およびトラック)を運転する権限を認める」と言明した。
 
同総局はまた、国王令は同国の運転に関する法律を男女「平等」することを定めていると説明。女性が運転する車専用のナンバープレートを設けることはないと明らかにした。

ただし、女性が運転中に事故に巻き込まれたり交通違反を犯したりした場合は、女性が設置・運営する専門の施設が対処するという。
 
サウジアラビアは女性による自動車の運転や整備を禁止している世界唯一の国で、この規制は国際社会から抑圧の象徴とみられていた。【12月17日 AFP】
********************

こうした改革・規制緩和は、国内・宗教保守派の見方は別にして、一般的価値観からすれば歓迎されるべきものでしょう。

皇太子による腐敗の一掃と社会の自由化を支持する国民
一方で、ムハンマド皇太子は、汚職捜査を名目に王族や閣僚経験者ら約200人を拘束して超高級ホテル「リッツ・カールトン」に閉じ込めるという、“大規模粛清”を断行しています。

“汚職捜査を名目”とは言いつつも、中国・習近平政権の粛清同様に、政敵排除が主たる目的とも見られており、また、釈放の条件として巨額の資産を没収することによる資金集めの効果もあるとも言われています。

ただ、これまでほとんどアンタッチャブルだった王族等に追及が及んだことは、サウジラビア国民からは概ね歓迎されているとも。

****サウジ皇太子の改革を称賛する国民の本音****
<懸念を募らせる国外の有識者たちとは裏腹に、国内では皇太子の改革を称賛する声が圧倒的に多い>
(中略)

邪魔者の放置を許すな
しかし私が旅先で会ったサウジアラビア人たちは、海外の有識者たちよりもずっと自国の未来を楽観していた。ムハンマドが自分への権力集中を急いでいること(これ見よがしな汚職摘発はその一環だ)についても、庶民の圧倒的多数は肯定的な反応を示した。(中略)

32歳のムハンマドは超保守的な社会の自由化も進めているが、この点についてもサウドは、自分は「イスラム教徒もそうでない人も」、誰もが好きなように生きられる国に暮らしたいと語った。(中略)

私の会った人は例外なく、この国の若者たちはもう、やたらと制約の多い社会制度に愛想を尽かしていると指摘した。よその国の人々の暮らしを見て、自分たちも同じように暮らしたいと考えているのだと。だからこそ人々は、ムハンマドが宗教警察(勧善懲悪委員会)の逮捕権限を剝奪したことを歓迎し、称賛したのだ。

王族らの腐敗への怒り
(中略)ミレニアル世代だけではない。エリート層でありながら、国の奨学金で大学を出て専門職に就いているある中年男性も、11月の一連の逮捕劇を「これまでに起きたことでは最高の出来事」と断言した。(中略)

国の資源が王族や政府高官のポケットに消えていくという現実に、みんなうんざりしている。(中略)

しかしサウジアラビアの庶民は、こうした腐敗に激しい怒りを抱くあまり、ムハンマドもまた腐敗の元凶であるシステムから生まれた存在であることを見落としがちだ。今回の旅で「ムハンマドを信用し過ぎていないか」という質問をためらったことが悔やまれる。(中略)

汚職摘発の真の意図
(中略)私が現地で出会ったサウジ国民はバカではない。これが王族の権力闘争であることくらい承知している。しかし宗教警察の弱体化など、これまでの改革を見た上で、ムハンマドを支持し、信じている。

ある教師は私に、ムハンマドには良心があると言った。だから腐敗に手を染めることなどあり得ない、と。

もちろん、最終的に結果を出せなければ面倒なことになる。しかし今のところ、少なくとも私の出会った限りでは、現地の人々が最も望んでいるのは腐敗の一掃と社会の自由化だ。そして、ムハンマドならそれを実現できると信じている。たとえ、その代償が彼の独裁の確立であるとしても。【12月6日 Newsweek】
*******************

国民の多くが支持するムハンマド皇太子の一連の改革ですが、上記記事にもある“ムハンマドもまた腐敗の元凶であるシステムから生まれた存在である”こと、それも桁違いの贅沢にふけっていることが、明らかにされています。

****汚職摘発に熱心だったサウジ皇太子、ケタ違いの贅沢が明らかに****
12/19 16:56
<7月に王位継承者となって以来、身内の王族も容赦しない汚職摘発でクリーンさをアピールしてきたムハンマド皇太子の天文学的買い物リストが明らかになった>

サウジアラビアの皇太子で経済改革のリーダーを自任するムハンマド・ビン・サルマンが、世界で最も高額な邸宅を3億ドルで購入していたことが明らかになった。

邸宅はパリ郊外のルーヴシエンヌにあり、「ルイ14世の城」と呼ばれている。2015年に売却されたときは、誰が買ったのかわからずじまいだった。それがムハンマド皇太子だったことを、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。

記事はまた11月、レオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ(救世主)」を美術作品としては過去最高の4億5000万ドルで落札したのも、ロシアのウォッカ会社の投資家から5億ドルのヨットを購入したのも、ムハンマドだった、と報じている。(中略)

米中央情報局(CIA)元高官で、現在はテロ対策専門家のブルース・リーデルはニューヨーク・タイムズ紙に対し、「皇太子は、自分はほかの人間とは異なる改革派で、腐敗した人間ではない、というイメージでかなりの成功を収めてきた」と言う。「それだけに今回の件は、深刻なダメージになるだろう」。(中略)

ムハンマド自身も、同じ穴の狢だったようだ。【12月19日 Newsweek】
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もっとも、“サウジ国民はバカではない。これが王族の権力闘争であることくらい承知している”とのことですから、直ちに皇太子が信頼を失うということでもないのでしょう。

桁違いの贅沢ぶりはイメージダウンにはなるのかもしれませんが、皇太子が破格の資産家であること(その資金のでどころはともかく)は、国民にとっては常識なのではないでしょうか。

中東を不安定化させる皇太子の性急・強引な外交政策
ムハンマド皇太子について言えば、問題はその贅沢ぶりよりは、イラン敵視政策を進めイエメンに介入し、カタールを締め付け、レバノン首相を呼びつけて辞任を迫るという性急・強引な外交政策にあるように思えます。

その結果、イエメンでは泥沼にはまり、カタールをイラン側に押しやることにもなり、レバノン政治、ひいては中東全域の不安定化招いています。

****中東に不要な争いを起こすサウジ・ムハンマド皇太子****
11月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「シーア派のイランとサウジアラビアの爆発しそうなライバル関係」と題した社説を掲載し、サウジのムハンマド皇太子のやり過ぎを批判しています。社説の論旨は次の通りです。
 
中東にとって最も不必要なのはさらなる花火である。サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)が、レバノンを宗派間抗争の新しい場にしていることはそれである。
 
イランの勢力拡大と、そのためのレバノンのヒズボラなど代理人の使用は、地域を不安定化させている。しかし、その問題の解決は、サウジがイランと同じように行動して出来るものではない。
 
サウジは、すでにイエメンでホーシー派との戦争で苦労している。シリアでの反乱勢力へのサウジの支援も効果的とは言えない。これに対しイランの革命防衛隊が訓練したシーア派民兵がシリアでもイラクでもIS退去後の領土をとり、強くなっている。

MBSのカタール制裁政策も成果を上げていない。
 
この宗派対立に、キリスト教やイスラム各派のモザイクであるレバノンを引き込むのは爆発につながりうる。先週、リヤドで、ハリリ・レバノン首相が、首相辞任を発表した。

サウジの求めによると見られているが、やり過ぎの感がある。イランとサウジの代理者がレバノンで危うい均衡を保っており、それでシリア内戦がレバノンに波及しなかった。ヒズボラが強くなりすぎたのはその通りであるが、それが排除されうると考えるのは不遜であろう。(中略)
 
不幸にしてトランプはサウジがもっと自己主張することを奨励している。トランプはサウジと歩調を合わせ、イランには強硬に出ている。
 
サウジもイランも地域で保護すべき利益を持つ。対話を通じてその利益を相互承認することが平和のための緊張の解消に役立つ。中東ではあまりに多くの戦争がある。新しい紛争は防止されるべきである。(後略)【12月18日 WEDGE】
*****************

対イランからイスラエルと接近 パレスチナ問題ではイスラエル“言い値”の提案も
イラン敵視を進めるムハンマド皇太子は、“対イラン軍事同盟”とも言える、イスラム教スンニ派諸国の軍事連合を主導する姿勢を示す一方で、“敵の敵”イスラエルとも接近しています。

****サウジとイスラエルが急接近****
(中略)一方、スンニ派の盟主サウジの状況だ、シリア、レバノン、イエメンの3紛争地の背後にはイランのプレゼンスがあることは明確だ。サウジではイランの脅威が囁かれている。

イランが中東の覇権を奪い、レバノンからイラン、ペルシャ湾から紅海までその勢力圏に入れるのではないか、といった不安がある。

サウジのムハンマド皇太子(32)は反イラン政策を強化している。米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューの中でイランへの融和政策の危険性を警告し、イランの精神的指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラー」と呼んでいるほどだ。(中略)

イランの外交、軍事攻勢に対し、サウジはトランプ米政権と結束して対抗する路線を取ってきているが、ここにきてアラブの宿敵イスラエルに急接近してきた。サウジはイランの侵攻に対抗するため軍事的、経済的大国のイスラエルとの関係正常化に乗り出してきたものと受け取られている。

宿敵関係だった両国が急接近してきた背景には、両国が“共通の敵”を持っていることがある。イランだ。イスラエル軍のガディ・エイゼンコット参謀総長はサウジの通信社 Elaph とのインタビューに応じ、「イスラエルはサウジと機密情報を交換する用意がある。両国は多くの共通利益がある」と述べている。(中略)

米トランプ政権はパレスチナ問題の解決を考えている。その和平案は2002年のアラブ連盟が提案した内容と酷似、アラブ諸国はイスラエルを国家承認し、国交関係を樹立。イスラエルは東エルサレムを首都としたパレスチナ国家を承認し、1967年以降占領した地域から撤退し、難民パレスチナ人の帰還問題にも対応するという内容だ。

イスラエル側はトランプ大統領の和平案に強い警戒心を持っている。そこでネタニヤフ首相はサウジの反イラン対策を支援する代わりに、パレスチナ和平案でサウジ側がイスラエルの要望を受け入れることを期待しているというわけだ。(後略)【11月26日 長谷川 良氏 アゴラ】
*******************

アメリカの政権としても姿勢・方針とトランプ大統領個人の考えは必ずしも一致しないことがありますが、エルサレムについてもイスラエルの首都として認めるトランプ大統領の発言で国際的に大きな波紋が広がったことは周知のところです。

この“アラブの大義”を否定するトランプ・エルサレム発言について、激高しやすいトルコ・エルドアン大統領などはイスラエルが併合した東エルサレムに将来在パレスチナ大使館を開設する意向を明らかして、トランプ大統領との対決姿勢を示していますが、アメリカ・イスラエルとの関係を重視するサウジアラビアは「世界中のイスラム教徒の感情をあおり立てることになる」(サルマン国王)とトランプ大統領を諫めつつも、イスラム教の2聖地を抱える盟主としては対応も遅く、抑制的です。

****エルサレム首都認定」への反応でわかったアラブ諸国の本当の敵****
12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、各国からの批判を一身に集めているトランプ米大統領。アラブ諸国からも非難の声が挙がっていると報じられていますが、「マスコミ報道とは異なり、親米アラブ諸国の政権との関係は損なっていない」とするのは静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さん。

西さんは軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、その理由を記すとともに、アラブ諸国に「中東紛争=パレスチナ問題」という認識は存在しないと結んでいます。

親米アラブ諸国の多くはトランプに反発していない
通り一遍のマスコミ報道とは異なり、トランプ米大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都として承認したことは、エルサレムの聖地の管理権をもつヨルダンを例外として、親米アラブ諸国の政権との関係を損なっていない。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、トランプ政権そしてイスラエルは、イランを中東最大の脅威と認識し、ガザ地区のハマス(イスラム抵抗運動)を含むムスリム同胞団を警戒ないし敵視している点で一致しているからだ。

サウジアラビアは、エルサレムに関するトランプ大統領の動きがまだ報道されていなかった11月21日の時点で、「リヤドはエルサレムよりも大事」という宣伝を、ツイッターのハッシュタグなどソーシャルメディアで行っていた。

この日、アラブ連盟外相会議は、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラをテロ組織に指定し、ハマスはその決議に従うことを拒否した。また、サウジアラビアがカタールにハマスとの関係断絶を要請したことも、ハマスは批判した。

この宣伝によると、サウジ人はエルサレムとパレスチナ人の権利を守ることでは誰にも引けを取らないが、サウジアラビアの努力をパレスチナ当局が無視し、いくつかの「北方アラブ諸国」がイランと共にサウジアラビアに対する陰謀を企てていることに、警告しているのだという。

また、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は11月にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領をリヤドへ招き、イスラエルに有利な中東和平案を示したと、12月3日以後、ニューヨークタイムズなどが報道している。

この和平案は、パレスチナ国の領土をヨルダン川西岸地区の複数の飛地とガザ地区に限ったうえで主権を制限し、西岸地区のイスラエル人入植地のほとんどはイスラエルが併合し、東エルサレムはパレスチナ国の首都として与えられず、パレスチナ難民とその子孫にはイスラエル国内への帰還権を認めないという、イスラエルの言い値に近いものだ。米国の歴代政権も、これほどイスラエル寄りの提案をしたことはない。

パレスチナ国が西岸地区の一部を失うことへの補償として、サルマン皇太子は、ガザ地区に隣接するエジプト領土(シナイ半島北部の岩石砂漠)を提案した。

実は、ガザ地区をシナイ半島へ拡大し、パレスチナ国の主な領域とすることは、イスラエル右派が、西岸地区の入植地と東エルサレムの併合を、アラブ諸国に容認させるための手段として、1990年代末から主張してきた。トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問の社会環境では、このような構想が当然視されている。

その一方で、クシュナー氏は同年代のムハンマド皇太子と親しく、10月下旬にも米政府のジェイソン・グリーンブラット中東特使(元トランプ・オーガナイゼーション弁護士)とともにサウジアラビアを訪れ、ムハンマド皇太子と会談している。

その機会にサウジ側が警告していれば、トランプ大統領が東西エルサレムの区別もしないで、イスラエルの首都として承認したとは考えにくい。

これは、少なくないアラブ諸国にとって中東紛争とはまず自国とイランやムスリム同胞団との争いであることを如実に物語っている。日本から眺めているように、中東紛争=パレスチナ問題という認識は、そこには存在しないのだ。(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)【12月19日 MAG2 NEWS】
********************

パレスチナに寄り添う“アラブの大義”が“建前”にすぎないことは昔から指摘されてきたところですが、イスラエルの言い値に近い提案を“アラブの盟主”を自任するサウジアラビアが行っているというのは、やはり驚きでもあります。

トランプ発言も、アメリカ国内受けがいいということだけでなく、アラブ世界、特にサウジアラビアのこうした“現状容認姿勢”を踏まえてなされたものでしょう。
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インド  中国の「一帯一路」への対抗姿勢を強めるも、止まらない中国の勢い

2017-12-18 22:44:02 | 南アジア(インド)

【12月15日 姫田小夏氏 DIAMONDonline】

伝統的インド勢力圏で影響力を拡大する中国
インドが、「一帯一路」のもとでインド周辺地域への影響力を強める中国に対し、強い警戒感を持っていることは今に始まった話でもありません。

しかし、インドの懸念にも拘わらず、情勢は中国に傾く流れにも見えます。

****<ネパール下院選>野党連合が圧勝 親中政権発足へ****
ネパール下院選(定数275議席)は13日、小選挙区の投票結果が確定し、地元メディアによると、中国寄りとされる野党連合「左派同盟」が165議席中116議席を獲得して圧勝した。開票作業が続く比例代表(110議席)でも左派同盟が優勢で、親中政権が発足する見通しとなった。
 
報道によると、左派同盟の統一共産党が80議席、ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)が36議席を獲得。与党・ネパール会議派は23議席にとどまった。首相には統一共産党のオリ議長が就任するとみられている。

インドと中国に挟まれた小国ネパールはバランス外交を強いられてきたが、親中政権の発足で中国の支援によるインフラ開発などが進む可能性がある。【12月14日 毎日】
*****************

「左派同盟」が持続するのか?という問題はさておき、“NCP(与党・ネパール会議派)は親インド住民「マデシ」への支持拡大を狙う戦略を採用。11月13日に政府は、中国企業と契約していた中部ブディガンダキ川での水力発電所プロジェクトを取り消すなどして、インドに近い層を取り込む作戦に出ていた。”【12月11日 産経】という与党・ネパール会議派の戦略は、大地震から2年半が経過してもいまだ復興が進まないなかでの「何党でも中国でもインドでもいい。生活を楽にしてほしい」【11月25日 産経】「これまで政府は再建に十分な支援をしてくれなかった。家が再建できるなら、中国が背後にいようと知ったことではない」【11月26日 時事】という国民の声に対抗できなかったようです。

“主要地元メディアは左派同盟の背後に「中国の存在がある」と指摘する”【11月25日 時事】という「左派同盟」圧勝で、インドの影響力が伝統的に強いネパールの中国への接近が加速されるだけでなく、南アジア全域の流れにも影響しそうです。

同じく伝統的なインド勢力圏のスリランカにおいても、“借金のカタ”に中国が重要港湾の経営権を取得することになっているのも、これまでも取り上げてきたところです。

****中国が「借金のカタ」にスリランカ有力港湾を99年間経営、日印対抗****
米紙ニューヨーク・タイムズは12日付で、スリランカ政府が9日、同国南部のハンバントタ港の経営権を中国国有系企業に譲渡する手続きを完了させたと報じた。インドは中国のスリランカ進出を強く警戒しており、日本とともにスリランカへの投資に注力するなどの動きを示している。

中国がスリランカへの進出を本格的に始めたのは、2005年11月から15年1月まで続いたラジャパクサ前大統領の時代だ。西側諸国がラジャパクサ政権には深刻な人権侵害の問題があるとして距離を置いた時期に、中国は同政権と急接近してインフラ整備などの投資事業を進めた。

スリランカではラジャパクサ大統領に対して、中国資本絡みで進めた港湾や空港などのインフラ整備計画などで不正な利益を得ているとの批判が出た。ラジャパクサ大統領は大統領三選を禁止する憲法を修正して2015年1月の大統領選挙に出馬したが、汚職や独裁、極端な親中政策が批判され落選。対立候補のシリセナ氏が大統領に就任した。

シリセナ大統領は当初、中国企業絡みのインフラ整備を凍結する意向を示したが、2016年になると建設の再開を認めるようになった。ハンバントタ港については、17年7月に同行の株式70%を中国国有系企業の招商局港口に11億ドル(約1240億円)で売却する契約を結んだ。

ニューヨーク・タイムズによると、スリランカ国会は12月8日に同契約を認めることを採決し、政府は9日に関連手続きを完了させた。招商局港口が今後99年間にわたるハンバントタ港の経営権を取得することが最終的に確定した。

スリランカ政府は深刻な財政難を抱えており、インフラ整備などでは中国企業に対して80億ドル(約9020億円)以上の債務がある。ハンバントタ港の経営権譲渡は中国企業への債務返済に充てられる。

構図としては、インド洋進出を強化する中国の思惑に乗った結果として返済に苦しむことになり、「借金のカタ」として自国にとって重要なインフラ施設である港湾の経営権を譲り渡したことになる。

スリランカ国内でも批判の声や抗議活動が発生していたが、ウィクラマシンハ首相は国会に対して、港湾地区に造られる経済ゾーンや産業施設は経済発展と観光客誘致をもたらすと説明した。

スリランカにはかつて、インドの衛星国のような側面があった。インドは領土問題などで中国とは対立関係にあり、中国のスリランカへの本格進出を警戒している。

ニューヨーク・タイムズによると、インドは日本と共同でスリランカ東部の港湾を開発する動きを進めており、ハンバントタ港の近隣地区での空港建設に対する投資でもスリランカ側と交渉を始めた。

日本側の最近の動きとしては、河野太郎外相が1月上旬にパキスタンとスリランカを訪問する方向で調整しているとされる。さらにミャンマーとインドも訪れ、「質の高いインフラ」の整備について各国外相らと会談する方針だ。河野外相の南アジア歴訪には、中国の進出をけん制する狙いがある。【12月15日 Record china】
*******************

インド:スリランカ・ハンバントタ港に近い空港買収で中国を牽制
インドも手をこまねいている訳でもないようです。
問題のハンバントタ港近くに、ラジャパクサ前大統領が地元に建設した“世界で最も利用者の少ない空港”がありますが、この空港をインドが買収して、中国の港湾利用を牽制する目論みとも。

****インドが世界で最も利用者の少ない空港を買収、中国をけん制か****
・インドが、スリランカで2番目に大きな空港を買収する。だが、この空港の1日あたりの利用者数は10人ほどだ。

・買収の背景には、インド洋で存在感を増す中国に対する懸念がある。中国は最近、重要な貿易ルートに位置する近くの港を掌握していた。

・専門家は、今回のインドによる3億ドルの投資は、中国がこの港を軍事拠点として使用する可能性を削ごうとするものだと話している。(中略)

「海外の海軍拠点はもちろん、物流施設にとっても、人や物に空から容易にアクセスできることが重要だ。海軍の拠点であれば、沿岸の空中監視能力も必要になる。ハンバントタ港に近い空港をコントロールできれば、港の使い道に関しても、インドがある程度の影響力を持つことができる」ブリュースター氏は言う。

「空港抜きでは、中国海軍がハンバントタをその重要な拠点として開発することも難しくなる。要するに、インドは3億ドルで空港を買うことで、中国の海軍拠点をブロックしている」(中略)

インドでは、ハンバントタ港の買収は、中国の海上交通路戦略「真珠の首飾り」の一環と捉えられている。

1つ1つの真珠は、中国の軍事資産やインド洋やアジア太平洋の同盟国を意味し、それをつなげることでインドを取り囲もうというもの。マレーシアやパキスタン、バングラデシュ、ミャンマーもこれに含まれる。

中国は今年の夏、初の海外軍事基地をインドのすぐ西に位置するジブチに設置した。【12月18日 BUSINESS INSIDER】
*******************

日本もインドと連携して「自由で開かれたインド太平洋戦略」で、「一帯一路」に対抗
日本もインドと連携して「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めることで、中国の進出を抑止しようとしています。

****中国の「一帯一路」にインドが反旗、アジア2大国の壮絶バトル****
中国の「一帯一路」と袂を分かつインド
インドと中国が世界の「パワーゲーム」の主力になるといわれる中で、2大国の拮抗がクリアになってきた。「一帯一路」構想と袂を分かつかのような動きがインド、そして日本に顕在化している。
 
それを象徴する動きが、今年5月に北京で開催された「一帯一路」構想の国際フォーラムだ。インドが、このフォーラムに政府代表団を派遣しなかったのである。インドは「一帯一路」構想に第一陣として参加する、アジア21ヵ国のうちの一つであったにもかかわらずだ。

「一帯一路」構想に対するインドの懸念は、パキスタンのインフラ建設「中パ経済回廊」に他ならない。中国の資金で進めるこの回廊が、パキスタンとインドがともに領有を主張する、インドのジャムカシミール州を通過することに不快感を示しているのだ。

「海上のシルクロード」といえば、あたかも交易の発展に資する“夢の航路”を想像させるが、インドにとっての現実はそんなポジティブなものではない。中国がインドを取り囲むようにして進行させる「一帯一路」構想で、インドの影響力は徐々に減退する傾向にある。
 
すでに中国の影響力は「南アジア地域協力連合(SAARC」の加盟国にも及んでおり、“インドの裏庭”といわれるスリランカやバングラデシュなどでは、中国資本による港湾開発が行われている。
 
日本の海洋政策に詳しい専門家によれば「インド洋で中国の潜水艦航行が常態化し、原子力潜水艦すら目撃されている」という。

中央アジアはインドの生命線 カザフスタンの原油輸入で対立
中央アジアをめぐっても、インドは中国と真っ向から対立する。
 
中国は、資源確保をめぐり、中央アジアを「一帯一路」構想の重要な沿線の国々として位置付けている。原油の調達先を西から東に移動する動きを見せており、中国の資源専門メディアが「従来のアフリカから中央アジアにシフトさせている」と指摘するように、中国はカザフスタンからの原油の開発輸入を期待している。
 
しかし、それはインドの利益と反する。インドもまた、カザフスタンからの資源輸入を狙っているのだ。資源確保と同時に、中央アジアにおけるプレゼンスを高め、企業を進出させ、そこで生産した製品を欧州に送り込む狙いもある。
 
また「一帯一路」構想そのものが、インドの利益と反するといえる可能性がある。インドは、中国の「一帯一路」構想の発表から10年以上もさかのぼる2002年に、ロシア、イランとともに「北南輸送回廊(INSTC」を打ち出しているのだ。
 
全長7200キロメートルにおよぶこの経済回廊は、インドと中央アジアやロシアを鉄道、道路、船を使ってイラン経由で南北に結ぶもので、2015年時点でベラルーシ、カザフスタン、タジキスタン、オマーン、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、キルギスタン、トルコがこれに参加している。

インドは、米国や欧州の対イラン制裁などを理由にINSTCを10年にわたり凍結させたが、近年再びこれを復活させた。インドには、INSTCをさらに拡大する計画がある。
 
インドのムンバイとイランのバンダルアッバス港を海路で結び、その先のアゼルバイジャンの首都バクーを経由し、モスクワ、サンクトペテルブルクへと陸路で結ぶというルート、またロシアからバルト海に出て欧州をめぐるルート以外にも、イランからトルクメニスタン、カザフスタンを結ぶ鉄道をイラン国内の鉄道に連結させてペルシャ湾に至るルートなど複数が存在する。あたかも「インド版一帯一路」を見るかのようだ。

ソ連崩壊後、インドはパキスタンを牽制する意図から、真っ先に中央アジア5ヵ国と外交関係を結んだが、インドにとって中央アジアは軍事的にも切り離すことができない。

物流の9割を海運に依存する日本はインドと連携
2017年5月、アフリカ開発銀行の年次総会で、インドのモディ首相は「アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)」の骨子を明らかにした。
 
東南アジア─太平洋─南アジア─アフリカをカバーするこの経済回廊の特徴は、質の高いインフラ建設と、人と人とのパートナーシップを重視する点にあり、健康、医薬、農業あるいは災害対応などのプロジェクトが優先される。素案づくりにはインド、ジャカルタ、東京の調査チームや学者が臨んでおり、2016年に日印首脳間で合意が形成されている。

また、安倍晋三首相は海洋の安全保障を強化するため、今年11月のアジア歴訪時の首脳会談において、自身が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」に米豪印との連携を確認した。
 
もともとこの構想は、安倍首相が提唱した「日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4ヶ所をひし形に結ぶ安全保障のダイヤモンド構想」がベースとなっており、インドを取り巻くようにして中国が布石を打つ海上ルート(「真珠の首飾り」)への抑止が原点にあるといわれている。背景には、物流の9割を海運に依存している日本の現実がある。

もちろん中国は、インドや日本の動きを好ましくは思っていない。中国の『環球時報』は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」という概念について、「中国を狙ったものであり、インドの役割を強調したものだが、その戦略は今のところ中身がない」と批判する。
 
その一方で、中国はこの4ヵ国にとっても1位の貿易パートナーであることを強調し、中国と経済貿易関係を強めるインド太平洋地区の国家は、「自国の発展を犠牲にするような選択をするのか」と疑問を投げる。(後略)【12月15日 姫田小夏氏 DIAMONDonline】
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ロシアはインドに「一帯一路」への協力を提言
一方、ロシアがインドに対し、「一帯一路」に協力するよう提言し、中国を側面から支援するという動きも。
別にロシアは中国のために動いている訳でもないでしょうが、その思惑はよく知りません。

****ロシア、インドに「一帯一路」への協力提言 中国を側面からサポート****
ロシアは11日、インドに対し、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に協力するよう提言し、中国を側面から支援した。

インドは、中国が一帯一路の一環としてパキスタンとの間に建設する経済回廊が、インド・パキスタン両国が争っているカシミール地域を通ることに強く反発。5月に中国の習近平国家主席が開いた一帯一路フォーラムを公式にボイコットした唯一の国となった。

こうした中でロシアのラブロフ外相は、中国の王毅外相、インドのスワラジ外相との3者会談を踏まえ、「インドがいくつかの問題を抱えているのは承知している。われわれは本日、一帯一路のコンセプトについて議論したが、個別の問題があるからといって政治的解決を他のすべての分野に結び付けるべきではない」と語った。

その上でラブロフ氏は、ロシアと中央アジア、欧州のあらゆる国が一帯一路の推進に同意していることが事実だと指摘。「インドには、このプロセスから恩恵を得られるようにする道を探せるだけの非常に賢明な外交官や政治家がいると、私は100%信じている」と強調した。

一方、スワラジ氏は3者会談では経済的問題やテロとの闘いに関して、とても建設的な話し合いがあったとだけ述べた。【12月12日 ロイター】
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中印国境紛争地で軍事拠点化を進める中国
周知のように、インドは国境問題でも中国と恒常的に小競り合いを繰り返しいますが、南シナ海同様に着々と軍事拠点化を進める中国に対して、インドは後手に回っているようにも見えます。

とりあえず関連記事見出しだけ。

“中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か”【12月2日 産経】
“インド無人機侵入を非難=「強烈な不満」―中国”【12月7日 時事】
“ドローン墜落にインド抗議、中国メディア反論「インドが謝罪すべき」”【12月11日 Record china】
“中国、係争地にヘリパッド建設=「恒久的駐留」―インド紙”【12月11日 時事】

中国が一枚上手のような感も。

アメリカ・トランプ大統領は中国を“競争相手”と明示するも・・・・
いずれにしても、インド・日本・アメリカが束になっても、中国の勢いはなかなか止められないようにも見えます。

日本が頼みとするアメリカ・トランプ大統領は、18日に予定している国家安全保障戦略の発表で、中国とロシアはアメリカの競争相手であり、安全や繁栄を脅かそうとしているとの見解を述べる見通しと報じられていますが、南シナ海での中国進出への対応など、明確な強い姿勢は見えません。

むしろ、いつでも“ウィン・ウィン”の関係として中国と手を結ぶ用意があるようにも見えます。

日本は、そうした現実を踏まえた戦略を考える必要があるでしょう。
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コロンビア  問題も山積する左翼ゲリラとの和平合意 今後も維持できるのか?

2017-12-17 22:08:21 | ラテンアメリカ

【12月4日 毎日】

国内に強い和平合意に否定的な声
サントス大統領がノーベル平和賞を受賞するなど、国際的には評価が高い南米コロンビアの左翼ゲリラ組織FARCとの和平合意ですが、FARCによる被害者や遺族を中心に、国内的には和平合意を評価しない声が大きいのも事実です。

****コロンビアは今 和平合意から1年/4 続く国民の「分断****
・・・・和平合意を受け入れる遺族や被害者がいる一方、国民のFARCへの不信感は根強い。FARCが政党「人民革命代替勢力」になった後の今年10月末に実施された米ギャラップ社の世論調査では、6割以上が「FARCは和平合意を履行しないと思う」と回答した。
 
政府軍の指揮官だった父が1998年にFARCに誘拐、殺害されたボゴタのジェニア・アルバドさん(25)は「幼い頃の出来事だが、今も思い出すのがつらい」と声を震わせ、「FARCに譲歩した和平合意は絶対に反対だ」と憤る。
 
和平合意は昨年10月の国民投票で小差で否決された。だがその後、内容を一部修正した上で、国民投票にかけず、議会承認で発効した経緯がある。
 
和平合意の否決を主導したウリベ上院議員(元大統領)が率いる中央民主党は10月、合意の無効か変更をにらみ、再度の国民投票を実施するため署名集めを始めた。
 
同党所属のアルバルド・プラダ下院議員(44)は「今も700人がFARCに誘拐されたまま、行方が分からない状況だ」と指摘し、「犯罪を犯したFARCが政治参加したり、元メンバーに免責を与えたりするのは到底、受け入れられない」と強調する。来年3月までに国民投票の実施に必要な約170万人を超える300万人分の署名を目指す。
 
和平合意後も残る国民の分断。「真の和解」に向けたコロンビア社会の苦闘は終わらない。【12月4日 毎日】
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特に、FARCのリーダーが大統領選挙に出馬すると表明したことで、反対勢力の怒りは高まっています。

****ゲリラの大統領選立候補に非難渦巻くコロンビア***** 
政府とゲリラの和平合意が国民投票で否決されたものの、大統領がノーベル平和賞をもらったこともあり、合意文書をどうにか締結させた南米コロンビア。

その締結一周年を前にした2017年11月、今度はゲリラの頭目が18年の大統領選への立候補を表明し、「調子に乗るな」「いい加減にしろ」と保守勢力から非難の大合唱が起きている。
 
コロンビアは独立を挟んだ過去200年あまり、地主と小作、富裕層と貧困層との戦乱が繰り返され、16年に和平合意に至ったコロンビア革命軍(FARC)ら左翼ゲリラと政府軍は最後の半世紀の暴力を担ったにすぎない。

200年におよぶ内乱の終結という「大きな物語」が前に進んだのは確かだが、この国は依然、いくつもの否定的な「小さな物語」を抱えている。
 
コロンビア革命軍はその名を「コロンビア革命代替勢力」(FARC)に改め、合意文書で約束された政党として議会に10議席を確保されている。

スペイン語のArmada(武装)という言葉をAlternativa(代替)に変え、なぜか略称のFARCをそのまま残している。面白いのはR、つまりRevolucionaria(革命的)という言葉を温存しているところだ。武器なしでも、今も革命を、国家転覆を、富裕層打倒を目指しているという意味だ。
 
ゲリラ時代の議長で現党首、ロドリゴ・ロンドーニョ氏、通称ティモチェンコは17年11月、大統領選に出馬すると言い出し、右派の怒りを買い、2代前と1代前の大統領が共闘し始め、2人で大統領候補を選ぶと言い出した。

2人はサントス現大統領による和平合意に一貫して反対してきた古株で、仮にこの共闘勢力が大統領選で勝てば、和平合意をご破算にしかねない。
 
特に2代前のウリベ元大統領は米軍を呼び込み大規模なゲリラ掃討作戦を展開した人物。下手をしたら再びFARCを野に放つといった最悪のシナリオもささやかれている。
 
00年代初頭には1万8000を数えたFARCの戦闘員は9000人にまで減ったが、17年9月に武装解除し、社会復帰のための滞在施設に入ったのは8000人。その半数がすぐに姿を消し、約1000人が今も武装したまま、かつての支配地域でコカイン栽培の縄張り争いなどに当たっている。
 
議会では、和平合意は甘すぎるという意見を受け、内戦中の戦争犯罪を裁くよう新たな法廷を設立する法案が通過した。犯罪を告白すれば罪に問われない「真実委員会」のような形になるようだが、18年の大統領選で右派が勝てば、これもどうなるかはわからない。(後略)【12月13日 WEDGE】
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進まぬ社会復帰 FARC側にも不満が
不満が募っているのは、ゲリラ組織FARCも同様です。不満の矛先は、約束を履行しない政府です。

“元メンバーが社会復帰訓練を受ける一時滞在施設は予定の半分以下しか完成しておらず、社会復帰プログラムの導入も遅れている。国連は元メンバーの約半数が施設を去ったとの報告を発表しており、深刻な状況だ。”(コロンビア国立大のダニエル・ガルシア教授(政治学))【12月5日 毎日】

FARCの元メンバーやその家族が殺害される事件も多発しており、武装解除に応じていないメンバーも。

****<コロンビア>和平、道半ば 元ゲリラ社会復帰困難****
 ◇FARCと政府と合意1年
南米コロンビアで半世紀以上の内戦を続けた左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」と政府との和平合意が発効して30日で1年となる。

この間、FARCは武装解除を完了し、政党「人民革命代替勢力」(略称FARC)に生まれ変わった。しかし、元メンバーの社会復帰は順調にいかず、真の和平に向けて課題は山積だ。
 
サントス大統領とFARCのロンドニョ党首(元FARC最高司令官)は24日、2人が合意に署名して1年を記念したイベントに参加した。両者は合意の履行を進めると強調したが、サントス氏は「FARCが不満を言ったり、心配したりしているのを知っている」と明かした。
 
合意にあたり、政府は元メンバーの安全を保障。だが合意後、数十人の元メンバーや家族がほかの武装勢力に殺害され、FARCは不信感を募らせる。
 
FARCは8月、国連監視のもと武装解除を完了し、9月に政党になった。だが国連によると、約8000人のメンバーが社会復帰のための一時滞在施設に入ったが、半数近くが途中で退去。約1000人のメンバーは武装解除に応じず、ゲリラ活動を続けている。
 
また合意事項の一つとして、FARCに国会で議席が与えられることに関し、政府やFARCへの不信感は国民の間で依然として根強い。ボコタ市民のセルジオ・トーレスさん(68)は「なぜ、人殺しのFARCが議員になれるのか理解できない。国会でろくに議論せず拙速だった」と非難する。

 ◇コロンビア和平合意
(中略)合意は▽FARCは18年から8年間、上下両院で各5議席を得る▽犯罪を告白したFARC幹部は懲役刑の代わりに社会奉仕活動に従事する−−などの内容。【11月28日 毎日】
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FARC残党が加担した武力衝突も報じられています。

****左翼ゲリラ戦闘、13人死亡=FARC残党交戦―コロンビア=****
コロンビア政府は5日、エクアドル国境に近い西部ナリニョ州のマグイパヤンで11月27日に農民武装組織と左翼ゲリラ民族解放軍(ELN)が衝突し、市民ら13人が死亡したと発表した。ELNは10月から政府と停戦中で、政府は「停戦合意違反だ」と非難している。
 
既に武装解除した左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)の残党の支援を受けた農民組織が、服従を求めるELNと銃撃戦となった。死者にはFARC残党2人が含まれているとみられる。(後略)【12月6日 時事】 
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FARCの空白を埋める麻薬組織の抗争も
更に、麻薬関連からFARCが手を引いた空白を埋めるように、麻薬密売グループ間の抗争も激化しているようです。

****内戦から麻薬抗争へ、出口の見えないコロンビア*****
コロンビアの港湾都市トゥマコでは、半世紀続いた内戦が和平合意により終結してから1年が経過しても、いまだに銃弾が飛び交っている。
 
(中略)政府軍と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との戦いによって家を追われた人々は再び、銃弾にさらされている。今度は多額の利益をもたらす太平洋沿岸のコカイン密輸ルートをめぐり、勢力争いを繰り広げる麻薬密売グループらの抗争だ。

マルシア・ペレアさん(47)は「私たちのアパートも銃撃されました。恐怖で赤ちゃんが泣き叫びました」と語る。リビングと寝室を仕切っていたドアの枠はいくつもの銃弾によって穴が開き、プラスチックの椅子も粉々に砕け散った。
 
マルシアさんの隣人の大半は、国内の別の場所からここへ逃れてきた。コロンビアで50年以上続いた内戦によって家を追われた人々は、約700万人に上る。

彼らが住む粗末な小屋は、悪臭を放つ沼地の上に立っており、ぼろぼろの木製の橋がもつれた蜘蛛の巣のように小屋と小屋をつないでいる。
 
1991年からコロンビアで活動しているNGO「ノルウェー難民委員会(NRC)」のクリスチャン・ビスネス代表は「トゥマコは、コロンビアで続く紛争の中心地の一つだ」と語った。
 
エクアドルとの国境に位置するナリーニョ州の港湾都市であるトゥマコは、この地域一帯の大規模な麻薬密売ルートの中でもトップを占めている。ここからはボートや潜水艇を利用して、中央アメリカやさらにその北にある巨大市場・米国に向かうことができる。
 
コロンビア政府は先ごろ、FARCや他のグループのメンバーらを追跡するため、9000人規模の軍や警察を配備すると発表したが、うっそうとしたジャングルと沿岸部のマングローブの沼地は、政府による監視を困難なものにしている。

■縄張り争いにかき消された和平合意
麻薬カルテルにとって、トゥマコは密輸のための戦略的ルートというだけではない。この地域には、コロンビア最大のコカの栽培地があり、世界最大のコカイン生産地となっているのだ。麻薬密売経路におけるすべてのネットワークは、この場所に集中している。
 
コロンビア政府が1年前にFARCと和平合意を結ぶと、周辺地域でのゲリラ活動の特徴である手りゅう弾による攻撃が減少したと、ある人権団体の代表は言う。
 
しかし、大いに期待された平和は長続きしなかった。「私たちが今、心配しているのは、殺人の増加です」と同代表は語った。
 
戦闘資金をコカインの密輸で調達していたFARCが武器を置いて立ち去ると、他の武装集団が力の空白を利用して流入し、敵対する集団同士の縄張り争いが始まった。

NRCのビスネス氏によると、現在、15もの反社会的集団が、多額の利益がからむ麻薬取引の主導権争いをしているという。(中略)

■「すべての問題の引き金は、コカ」
NRCによると、トゥマコでは1月~10月までの間に少なくとも2665人が自宅を離れて避難することになった。
 
トゥマコ教区のアルヌルフォ・ミナ司教代理は、すでに数十件の殺人事件が発生していると訴えた。「ここではコカが、すべての問題の引き金になっている」
 
昔から太平洋沿岸部は、コロンビア国内の他の地域からないがしろにされてきたとミナ氏は指摘する。トゥマコでは、人口のおよそ半数が貧困生活を送っており、その大半は安全な飲料水さえも手に入らない。
 
ミナ氏は「もしも政府が積極的な社会的投資計画を打ち出すことができなければ、前途にはいっそうの問題が待ち受けているだろう」と語った。
 
コロンビアから苦悩の半分を取り除くはずだった和平合意から1年。黒い砂のビーチと沿岸部の絶景から、かつては「太平洋の真珠」として知られたトゥマコは今、地獄の入り口にある楽園のようにみえる。【12月17日 AFP】
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今後を左右する大統領選挙
このように問題は山積していますが、前出【WEDGE】は、以下のようにも。

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このように否定的な「小さな物語」をあげればキリがない。

だが、例えば1990年代の南アフリカではアパルトヘイト崩壊後も騒乱が延々と続いたが、真実委員会などを経て、数年で政治的暴力は収まった。

コロンビアも政争が盛り上がり、通常の犯罪が増えたとしても、内戦終結という「大きな物語」が覆ることはないだろう。【12月13日 WEDGE】
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是非とも、そうあって欲しいものです。ただ、コロンビアには国民に信頼されたネルソン・マンデラがいないのが問題です。

今後の展開を左右するのは来年の大統領選挙です。

****和平合意から1年/5止 行く末占う大統領選 ダニエル・ガルシア コロンビア国立大教授(政治学****
(中略)
 --大統領選の見通しは?
◆第1回投票が5月にある大統領選はこの数十年で最も重要な選挙で、和平合意の行く末に大きな影響を与える。最近、合意に反対する中央民主党と保守党が大統領選で共同候補を擁立すると発表し、これが大きな右派勢力を形成する。右派が政権を取れば、和平合意を無効にするための国民投票を実施するだろう。
 
 --残る左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」との和平交渉の状況は?
◆FARCの交渉相手は政府だったが、ELNは政府だけでなく、さまざまな分野の市民社会や地域コミュニティーを巻き込んだ和平合意を目指している。このため、より複雑でより難しい。

大統領選があるためサントス政権で合意にこぎ着けるのは困難だろう。問題は、FARCとの和平合意を履行するにあたり政府の法令順守意識の欠如が明らかになったので、ELNは政府の実行力に懐疑的になっていることだ。【12月5日 毎日】
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サントス大統領の支持率26%という不人気ぶりを考えると、上記右派勢力による政権奪取、合意無効の国民投票実施という可能性も相当に高いようにも思えます。

そうなれば、再び内戦の火の手もあがります。残念な流れです。
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中国  「不均衡で不十分な発展」の矛盾解決のためトップダウンで進められる社会改革

2017-12-16 22:38:43 | 中国

(北京郊外で立ち退き命令を受けて荷物を運ぶ人々(11月27日)【12月6日 WSJ】)

小さな横断歩道は、社会の縮図
日本が好むと好まざるとにかかわらず、日ごとに世界における政治・経済的影響力を大きくしている中国ですが、先進国とは言い難い社会の後進性については多くが指摘されるところです。

習近平政権もそのことは承知しているようで、共産党一党支配という政治体制のもとで、上からの指示による社会改革を推し進めようという動きが見られます。

先ずは悪評が高い交通マナー。中国の「道路交通安全法」によると、“自動車は横断歩道を通過する際は減速しなければならない。歩行者が通行中であれば停止しなければならない。”と規定されているそうですが、実態は完全な自動車優先です。

****車と人、どうしたら譲り合いできる 中国「歩行者優先」を強化****
中国の運転免許試験に10月1日から、「運転手は横断歩道を通過する際や交差点を直進、左折、右折する際、優先されるべき車両や歩行者、軽車両へ道を譲らなければ不合格となる」という新たなルールが導入された。
 
全国で今年から、横断歩道で歩行者に道を譲らない自動車に対する取り締まりが強化されている。例えば、北京市では罰金200元(約3380円)と3点の減点。西安市では交通警察から運転手の勤務先へ報告される。昆明市では、監視カメラによって違法行為として撮影され、街角のモニターに映し出される。
 
公安部が2017年6月に発表したデータによると、過去3年間の全国の横断歩道上で発生した車と歩行者の事故は1万4000件で、3898人が死亡した。また、自動車側の過失による事故が、全国の交通事故の90%を占めるという。(中略)
 
この交差点近くで働いているという黄さんは、「毎日、何度もこの交差点を通るけど、横断歩道側の信号が青色になったのに、右折車両が途切れないから渡ることができない。危険だと分かっていても、こちらが先に渡り始めないと車は止まってくれない」と話す。
 
北京でタクシー運転手として8年働いている王さんは、「普段は歩行者に道を譲るよう気を付けてはいるけれど、渋滞する時間帯はタクシーに乗るお客さんも急いでいる。ちょっと歩行者に道を譲ろうものなら右折するのに4~5分もかかってしまうし、後ろの車からはクラクションを鳴らされてしまう」と嘆く。(中略)

公安部交通管理局はパトロールや監視カメラなどの措置をさらに強化し、違法車両を厳しく取り締まるとともに、歩行者の信号無視などの違法行為も厳しく取り締まり、「譲り合い」の交通環境を目指すとしている。
 
また、交通設備の合理的な設置も必要だ。北京市内のある広い道路では信号もなければ、100メートル以内に横断歩道が1本あるだけで、歩道橋なども見当たらない。付近の住民は、「信号がないからここは本当に不便。車が行き交う道路の真ん中にはさまれて、進むことも引き返すこともできなくなってしまう時もある」と話した。(中略)
 
小さな横断歩道は、社会の縮図であると言ってもよい。中国が自動車社会に突入してから、「路怒症(訳:ハンドルを握ると性格が荒くなること)」や、むやみにクラクションを鳴らす行為や路上駐車など、さまざまな問題が議論されている。交通に関する問題は、今後も世論の重点的な話題となりそうだ。【12月3日 CNS】
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相手を思いやることができるか、ルールを順守できるか・・・まさに“小さな横断歩道は、社会の縮図”です。
おそらく、この問題が改善されるようであれば、そのとき国際社会における中国への批判・悪評も大きく減少し、隣国日本としても、付き合いやすくなるかと思います。

もちろん、国民一人一人の意識改革が一番重要ですが、当局の対応、インフラ整備がその先導役となるなら結構な話です。

監視カメラで撮影した違反者をモニターで映し出すといった、中国特有の“人権絡み”の問題はありますが、それは今回はパスします。

貧困問題解決を掲げる最高指導部の姿勢をアピールする「トイレ革命」】
中国に関して昔から話題になるのはトイレの汚さ、設備の悪さです。最近は都市部では大きく改善しているようにも思えますが、地方農村部ではいまだ「ニーハオトイレ」が残存しています。

このトイレ問題は貧困問題の象徴でもあることもあって、習近平主席は汚名返上の旗振り役となっているとのことです。

****<中国>「トイレ革命」進行中 汚名返上へ習氏旗振り****
トイレ環境の劣悪さで知られてきた中国で「トイレ革命」が進行中だ。習近平国家主席自らが旗振り役を務める一大プロジェクトで、公衆トイレの大量設置など、あの手この手で汚名返上に取り組んでいる。
 
中国では都市部の大型商業施設などでトイレ施設の改善が進む一方、仕切りがなく、隣で利用する人の姿が丸見えなことから名付けられた「ニーハオ(こんにちは)トイレ」が今も農村を中心に健在だ。
 
新華社通信によると、習氏は最近の重要指示で「トイレは小さな問題ではない。観光地や都市だけでなく、農村でも大衆生活の質の足りない部分を補っていかなくてはならない」と主張した。

習氏は2012年の中国共産党総書記就任以来、トイレ問題にたびたび言及しており、地方視察で農家を訪れると、トイレが水洗化されているかを尋ねるという。
 
15年には習氏の指示で国家観光局による3年間の公衆トイレ整備計画がスタート。今年10月末までに全国の観光地で目標の5万7000を上回る6万8000のトイレが新設・改修された。

今回の指示で習氏は、農村にも「トイレ革命」を浸透させる考えを示した。貧困問題解決を掲げる最高指導部の姿勢をアピールする狙いもありそうだ。(後略)【12月4日 毎日】
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“Wi−Fi・空調完備、ガス・電気代の支払いが可能、といった現代的な要素を備えた公衆トイレがこのほど遼寧省瀋陽市の街中に登場した。”【12月1日 Record china】というのは、何か方向が違うのではないか・・・という疑問もありますが、トイレ事情がかいぜんすることは、これまた大いに結構なことです。

もっとも、“なんでも後先考えずに行動し、その結果、表面的な改革、革命で終わってしまうのが中国”(黄文雄氏)という懸念もあるようです。具体的には、水質汚染が指摘されています。

****習近平が主導する「トイレ革命」に世界が絶望するこれだけの理由****
(中略)
● 中国で河川、湖、地下水の汚染が深刻、「人が触れられない」状況も―英メディア

淮河、黄河、北京や天津、河北省を流れる川の下流域では70%以上が汚染されているとされ、また、2015年に中国水利部が調査したところでは、中国各地の地下水の80%以上が飲用に適さないと報告されています。

しかも、中国の淡水資源は世界の7%を占めるものの、水資源の分布が偏っているため、国内の都市の3分の2が水不足に陥っているとされています。

● 中国の水質汚染が深刻化、背景に「2つの重圧」―シンガポール華字紙

「トイレ革命」は結構ですが、表面的な成果ばかりを追求した結果、ただでさえ少ない水資源がトイレの水洗に使われ、それが浄化されずに河川、さらには海に垂れ流しになる可能性が高いのです。(後略)【12月7日 黄文雄氏 MAG2NEWS】
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【「もう一つの中国」からの出稼ぎ労働者 強制立ち退きで事は済むのか?】
“表面的な改革”という点で、より深刻な問題性をはらんでいるのが、首都北京で進む、危険な建築物に居住する出稼ぎ労働者の強権的一斉退去措置です。

****北京、家失う出稼ぎ労働者 火災機に次々退去通知****
中国・北京の郊外で今月中旬、出稼ぎ労働者ら19人が死亡した火災を受け、当局が同様の危険がある住宅から住民を一斉に追い出し、多くの労働者たちが行き場を失っている。

背景には習近平(シーチンピン)指導部が進める産業構造転換の方針なども見え隠れする。首都の発展という政治目標のために、弱い立場の人を苦しめる当局の強権的な手法に市民から批判が噴出している。
 
火災は18日夜に発生し子ども8人を含む19人が死亡。大半が地方からの出稼ぎ労働者だった。地元メディアによると、現場は地上2階、地下1階の建物で地下倉庫から出火した。
 
「すぐに出ていくようにと通知があったのは今朝。敷金も返してもらえないが、どうしようもない」
24日昼、北京市南部の大興区西紅門にある火災現場から数百メートル離れたアパートの前で、安徽省から出稼ぎに来た理容師の男性(30)は力なく語った。
 
4階建てのアパートはどの部屋も空っぽ。退出した住人が持ち出せなかったベッドや靴が散乱していた。
 
市中心部から車で約1時間のこの地域には衣料品などの工場が並ぶ。違法改築とみられる住宅も多いが、家賃が安いため出稼ぎ労働者が集まる。地元住民によると、火災後に突然、退去を求める当局の通知が各所に張り出された。

 ■首都発展へ強硬策?
背景には、「高度成長から質の高い発展」(共産党大会の政治報告)への転換を目指す習指導部の意向がありそうだ。

これまで低賃金の出稼ぎ労働者の力を借りて急速に発展してきた北京は人口が増えすぎて環境が悪化。指導部は首都機能を分散させ、隣の河北省にIT技術者や留学経験者ら「高レベル人材」を集め先端産業を育成する「雄安新区」を建設中だ。
 
習氏の腹心として「偉大な首都を建設する」と都市整備に力を入れる蔡奇(ツァイチー)・北京市書記は火災当夜に現場を視察し、「街という街、家という家を調べ、危険は一つも残すな」と大号令をかけた。

これを機に問答無用の追い出しが北京全域に広がり、一部メディアには、対象は10万人以上との予測もある。
 
北京の戸籍を持たない出稼ぎ者を含む北京の常住人口は2016年末で約2173万人。市政府は増加のペースを抑え、20年までに2300万人程度に安定させることを目指す。そのため、今回の火災を口実に、知識や学歴を持たず「低ランク(低端)人口」と言われる出稼ぎ労働者を標的にしたのではとの受け止めが広がっている。
 
ネットには住民が当局に家を追い出される動画や寒空の中で路上にたたずむ写真が拡散し、「彼らも人間だ」と政府を批判する声が幅広い層に広がっている。
 
だが、ネットの書き込みは次々と削除されており、当局は「低ランク人口を追い出すとは言っていない」と否定。メディアも住宅の危険性を強調している。一方、学者や弁護士らは「暴力的に追い出すのはやめ、安全な家が見つかるまで政府が居場所を提供すべきだ」と呼びかけている。
 
河南省出身の建築電気工の30代の男性は「北京の繁栄は出稼ぎ労働者が築いたんだ。出ていけと言うなら出ていく。あとは北京人がやってくれ」と言い、家を後にした。【11月28日 朝日】
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北京の繁栄を支えてきた出稼ぎ労働者を「低ランク(低端)人口」と見下して、もはや用済みとばかりに追い出す強権的な手法には中国国内でも批判があり、追い出される労働者への同情もあるそうです。

“北京では最低気温が氷点下まで下がり、本格的な冬を迎えようとしている。ネット上では同情や政府批判の声が上がっている。
「日本軍が北京に入城したときでさえ、3日で出て行けとは言わなかった」「悪いのは建築した人間だ。顧客ではない」「暖房もなくなれば彼らはどうするのか。これが政府の政策といえるのか」”【11月27日 産経】

“中国の有識者100人余りが、突然の退去命令は人権侵害だとする文書に署名した。文書は「いかなる文明社会、法規制に基づくいかなる社会でも、こうした状況は許容されない」としている。”【11月30日 WSJ】

ただ、こうした意見・声明はネット上から削除されるなど、当局による批判封じ込めが行われています。
“政府はメディア各社に対し、これとは別に批判を招いている幼稚園の虐待を巡るネット検閲と併せ、今月の火災についても報道を控えるよう通達した。通達を受けた複数の中国人ジャーナリストが明らかにした。”【同上】

また、出稼ぎ労働者への市民の同情についても、いつまで続くか?という指摘も。

“北京市民は一般に、出稼ぎ労働者が公共サービスに支障を来し、犯罪をもたらし、無免許オートバイで渋滞を引き起こす上、貴重な水資源を枯渇させているとして反感を持っているからだ。”【12月6日 WSJ】

ただ、この出稼ぎ労働者一斉退去命令は、その非人道性が問題となるだけでなく、「チャイナドリーム」に乗れない「もう一つの中国」の存在という、中国社会・政治の抱える大きな問題を示すものでもあります。

****中国貧困層が脅かす習氏の「チャイナドリーム****
・・・・習氏が10月の中国共産党大会で表明したところでは、それは人々のより良い生活への欲求と「不均衡で不十分な発展」のはざまで起こる葛藤だ。国営新華社通信は、そうした「主たる矛盾」を解決しなければ「大混乱に陥り、ついにはマルクスが予言したように革命が起こる」と解説した。(中略)

長年かけて猛烈な経済成長を遂げた今、清潔な空気と安全な食品を求める声が高まっている。人気の高い学校への入学や病院の診察に汚職が入り込んでいることに憤然とする者も多い。市民が政治的自由と引き換えに経済的繁栄を手にする社会契約はほころびつつある。

政府が耳を傾け、不満に誠実に対応することを一般社会はますます強く求めるようになっている。
 
習氏はこうした重圧を全て認識している。だからこそ、景気が減速する中でも生活環境の改善を進めようとしているのだ。これまでのところ、汚職撲滅キャンペーンや大気汚染対策の取り組みは高く評価されている。
 
習政権が直面する大きな問いは、こうした社会的矛盾がいずれその統治スタイルによって克服されるのかどうかだ。

政権の統治は容赦ない権威主義で、社会の下層から多様な視点をくみ上げるのではなく、トップダウンで規律を課すことが重視される。北京市は厳格な人口抑制目標を掲げている。住民の多くは、当局が雑居ビル火災を出稼ぎ労働者排除の口実に使ったにすぎないとみている。
 
習氏は先の第19回党大会で、世界の超大国となる自信を表明したが、その背後にはもろさを抱える現実がある。

中国の隆盛は揺るぎないとの見方は迷信だ。社会の矛盾は共産党の支配を脅かしかねないほどに広がっている。
都市部の特権階級と、それに仕える地方の貧困層の間の深い溝は、何十年にもわたり経済発展に足かせとなる可能性がある。

人口の半分は習氏が掲げる富と権力の「チャイナドリーム」を追い求めている。退廃した北京のスラム街をさまよう残りの半分が、その夢を狂わせるかもしれない。
 
スタンフォード大学のスコット・ロゼル教授は、教育と医療を巡る大規模な調査を実施し、5億人の人口を擁し出稼ぎ労働者の出身地でもある内陸部を「もう一つの中国」と名付けた。

調査によると、大半の子供が病気か栄養失調で、約3分の2が貧血や寄生虫疾患、近眼のせいで学校についていけずにいる。幼児の過半数は認知機能の発達が遅く、知能指数(IQ)が90を超えることがないという。
 
地方における知的発達の遅さが原因で、中国の労働人口のうち高校教育を受けたのはわずか24%にとどまる。ロゼル教授によると、人的資本に関して中国は中所得国の間で最下位となっている。
 
欧米諸国は習政権の前進を観測する際、「一帯一路」の大規模プロジェクトを通して港湾や高速鉄道に注ぐ何十億ドルという資金や、ロボット工学など国内ハイテク産業への惜しみない投資、海洋進出に充てるさらに多額の資金を目安にする。
 
習氏自身が示唆するように、そうした目安は間違っている。政権の支配を脅かすマルクス主義的な矛盾は、必ずしも解決に多額の費用を要しない。子供の視力を矯正する眼鏡は1本20ドル、寄生虫疾患の治療薬は1ドルだ。ただし、誠実に対応する統治が必要とされる。

北京の真冬の強制退去は、習氏の崇高なメッセージに冷や水を浴びせてしまった。【12月6日 WSJ】
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出稼ぎ労働者を追い出したのでは、都市の美観は達成できても、快適な都市生活を維持できないという問題もあります。

****底辺住民」を追い出す不条理****
出稼ぎ労働者の排除で短期的には北京の街並みがきれいになるとしても、長い目で見ればこれは現実的な解決策とは言えない。

北京の人目は2170万人強で、引き続き増加中だ。この巨大都市から未熟練労働者がごっそりいなくなれば、どうなるか。

次の3つの部門を見れば想像がつくだろう。いずれも中国の中間層が享受している便利で快適な生活を支える部門だ。

■スマートフォンなどで注文すれば、レストランの料理を届けてくれる便利なオンライン出前サービス。(中略)大都市の通りをバイクで走り回る300万人以上の配達員の多くは出稼ぎ労働者だ。

■電子商取引大手アリババ・ドットコムは11月11日の「独身者の日」に毎年24時間のタイムセールを実施する。(中略)注文数は8億件以上。配達はオンライン出前と同様、出稼ぎ労働者が担う。

■(中略)中国の出稼ぎ労働者の約20%は建設業に従事している。都市の開発事業は彼らなしには成り立だない。

民間が支援に乗り出す
オンライン出前、宅配、建設-この3部門だけで中国全土で6500万人近い労働者が雇用されている。その圧倒的多数は出稼ぎ労働者だ。

彼らがいなくなれば都市住民の生活が不便になるだけではない。中国がグローバル経済の覇者であり続けるには、テクノロジー、輸送、都市開発部門の成長が不可欠だ。この3部門を下支えする人々を排除すれば、影響は広範囲に及び、中国の国際競争力まで低下するだろう。(後略)【12月19日号 Newsweek日本語版】
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都市人口を抑制し、都市機能の再開発を行うために地方出身者を強制的に立ち退かせ、転居させるという手法は、今回の北京に限らず全国で進められています。

そのような強権的手法で「不均衡で不十分な発展」がもたらす「主たる矛盾」が解決・緩和されるのか、それとも「大混乱」拡大の要因となるのか・・・共産党政治の根幹にかかわる問題でもあります。

おそらく“効率的”な強権手法が一定の成果を達成するのでしょう。
しかし、そこには“もの言わぬ”多大な犠牲者が存在します。それでいいのか?その不満はいずれ大きな問題とならないのか?という疑問が一番の問題でしょう。
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エルサルバドル  流産女性を厳しく殺人罪に問う“欺瞞”

2017-12-15 22:02:05 | ラテンアメリカ

(中米エルサルバドルの首都サンサルバドルの裁判所で開かれた公判に出席するテオドラ・バスケス被告(2017年12月13日撮影)【12月14日 AFP】 流産した彼女は凶悪殺人の罪で禁錮30年の刑に服しています。)

中絶全面禁止国は5か国
出産によって母体が危険にさらされる場合とか、レイプによって妊娠した場合など、妊娠の人工中絶の合法・違法性については、宗教的な社会環境もあって、その条件は世界各国でバラつきがあります。

宗教右派の強いアメリカで、日本では想像しがたいほどの先鋭な政治対立の問題ともなっていることは、よく取り上げられるところです。

世界各国の状況については、「Worldwide Abortion Policies」(Pew Research Center)に詳しい一覧表があります。
上記によれば、たとえ出産することで母体が危険にさらされる場合でも、一切中絶を認めないという国が、南米チリ、中米エルサルバドル、ニカラグア、エクアドル、欧州マルタ、バチカンの6か国とされています。

このうち、チリでは昨年規制が緩和されました。

****チリ議会、妊娠中絶禁止の緩和を可決****
チリ議会は2日、軍事独裁を敷いた故アウグスト・ピノチェト大統領政権末期に導入された厳格な妊娠中絶禁止法を緩和する法案を賛成22、反対13の賛成多数で可決した。

これまで約30年にわたりチリでは、いかなる状況であっても妊娠中絶が禁じられ、違反者には最大5年の禁錮刑が科せられていた。
 
今回の改正案では、レイプによって妊娠した場合や、母親の命が危険にさらされている場合、胎児に致命的な先天性障害が確認された場合などに限り、中絶を認めている。現在は野党の請求に基づき、憲法裁判所の判断を待っている。
 
チリは非常に保守的な国だが、1989年に現行法が施行されるまでは50年間にわたり、母体に危険が及ぶ場合と胎児の生存が不可能とみられる場合には合法的に中絶ができた。
 
チリ初の女性大統領で小児科医でもあるミチェル・バチェレ大統領は、中絶禁止法の緩和を最重要課題として掲げ、2018年3月の任期満了前に施行することを約束して取り組んでいた。【2017年8月3日 AFP】
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中南米はカトリックの影響が強いことで、中絶に厳しい国が多くなっていますが、上記チリのほか、2014年12月には同じく全面禁止だったドミニカ共和国が、強かん、近親相かん、胎児に障がいがある、母体に危険がある場合には、中絶を犯罪と見なさないこととする規制緩和がなされています。

流産女性が殺人として何十年もの禁錮刑を受けるエルサルバドル
そうしたなかにあって中米エルサルバドルは、いまだ厳しい全面禁止を維持しています。

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カトリック教徒の多いエルサルバドルでは、人工妊娠中絶は固く禁じられており、違反すると禁錮50年という厳しい罰則がある。

2013年5月29日、母子ともに病に冒され(母が全身性エリテマトーデス、子が無脳症)、子を生んでも、子は出産直後に死亡する可能性が高いと診断された女性が裁判所に中絶、および中絶を行った医師の刑事免責などの特別許可を求めていたが、裁判所はこの要請を不許可とし、中絶は認められないとした。

この件では、エルサルバドルの閣僚も、中絶を許可するよう裁判所に要請していたが、裁判所は中絶厳禁の姿勢を変えなかった。この女性は2013年6月3日に女児を帝王切開で出産、女児は数時間後に死亡した。母体は健康である。【ウィキペディア】
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全面禁止というのも厳しい規定ですが、“違反すると禁錮50年”というのも・・・・。
実際に、エルサルバドルでは、違法中絶、あるいは殺人の罪で多くの女性が投獄されています。

たとえ流産であっても、意図的に中絶を企てたとみなされると、違法中絶はおろか、殺人の罪にも問われることになるようです。

****流産で殺人罪問われた女性、控訴審判決も禁錮30年 エルサルバドル****
中米エルサルバドルで、流産が殺人の罪に当たるとして禁錮30年の有罪判決を受けた女性の控訴審で、首都サンサルバドルの裁判所は13日、この判断を支持した。エルサルバドルは中絶を例外なく禁じる法律があることで知られている。
 
控訴していたのはテオドラ・バスケス被告(34)。バスケス被告はすでに10年間勾留されているが、判事の一人は「判決は支持されるべきとの結論に達した」と述べた。
 
米人権団体「性と生殖に関する権利センター」のナンシー・ノーサップ代表は声明で、エルサルバドルの裁判所は「女性の尊厳、自由、権利を否定している」と指摘し、今回の判断を厳しく非難した。
 
ベスケス被告は妊娠9か月だった2007年7月、勤務先の学校で子どもを死産。その際、救急隊員を呼ぼうとしたが気を失ってしまったという。その後、流産を引き起こそうとしたとして起訴され、翌2008年1月に加重殺人罪で有罪判決を受けた。
 
1998年に施行された同法は、レイプによる妊娠や、出産が危険をもたらす場合であろうと、国内における全ての中絶を違法としている。【12月14日 AFP】
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上記のような流産のケースでも、刑事告発を恐れる医者が警察に通報し、確たる証拠もないまま“殺人”にされてしまうことが多々あるようです。こうした事態を人権団体は強く批判しています。

また、富裕層は国外での手術など抜け道があるのに対し、貧困層は安全性に問題がある闇医者を利用したて健康被害に苦しんだり、罪に問われたりと、不公平さがつきまといます。

幸いにも刑期途中で釈放される女性も 一方で、更に厳しい罰則を求める動きも
そのような女性の一人、カルメン・グアダルーペ・バスケス・アルダナさん(上記記事の女性と同様に“バスケス”という名前ですが、おそらく別人でしょう)の場合は、“幸い”恩赦によって7年で釈放されることになったようです。

****エルサルバドルでは流産で刑務所に入れられる****
先月(2015年2月)、エルサルバドルで1人の若い女性が、7年の獄中生活から解放された。彼女の罪は、流産したことだった。

この女性、カルメン・グアダルーペ・バスケス・アルダナさんは、強かんされて妊娠してしまった。18歳の時のことだ。流産したために病院に連れていかれると、医者に故意に妊娠を止めたと非難された。そして、明確な証拠もなしに、凶悪殺人の罪で30年の刑を言い渡されたのだ。

エルサルバドルは中絶を最も厳しく法律で規制している国だ。この国では、いかなる中絶も犯罪だ。母親の生命や健康が脅かされている場合でも、強かんされて妊娠した場合でも、胎児に生存の見込みがなくても。

この法律に背き、隠れて怪しげな中絶手術に頼れば、命を落としかねない。裕福ならば私立の医療サービスを受ける金銭的余裕があるし、治療を国外に求めることもできる。法の犠牲になるのは、痛みを感じて初めて診療所を訪れる女性だ。刑事告発を恐れる医者に、警察を呼ばれてしまう。

エルサルバドルは極度に保守的で、カトリック教会の影響力が政策決定にまで及んでいる。10年にわたった内戦終結後の1990年代、再建に向かう不安定な状況の中で、教会は狙いを定めてキャンペーンを張り、1998年に中絶を全面禁止に持ち込んだ。

現在教会勢力は、有力なコネを持ち資金が豊富な中絶反対の圧力団体と、連携している。マスコミも躊躇することもなく中絶した女性を犯罪者として糾弾する。中絶禁止を非難する政治家もいることはいるが、大衆の反発に遭っている。

グアダルーペさんのような事例は珍しくない。エルサルバドルのアドボカシ―グループである「中絶の非犯罪化を求める市民連合」によれば、2000年、2011年の2年間に中絶関連で129人の女性が起訴され、そのうち23名が非合法中絶、26名が殺人で有罪となっている。

また、1999年からの3年間に、中絶により実刑判決を受けた女性が、グアダルーペさんを含め17人いる。「Las 17」として知られる彼女たちの大半は、凶悪殺人の罪を着せられている。刑期が一番長い者は、40年の刑を受けた。(中略)

昨年4月、法的救済を求める闘いで万策尽きた弁護士たちは、17人の恩赦を求める要請をエルサルバドル議会に提出した。

そして今年1月、議会は最初の裁判で審理手続きに不備があったとして、グアダルーペさんの恩赦を認めた。

このグッドニュースに力づけられるものの、議会の巻き返しが懸念される。当局は今のところ何ら公式声明を出していないが、アムネスティに対し「これ以上の恩赦を認める予定はない」とそれとなく示した。(後略)【2015年03月13日 アムネスティ】
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2016年5月にも、流産をしたために4年間獄中で過ごした女性の釈放が決定しています。

このマリア・テレサさんの場合も、“トイレで多量の出血で意識がもうろうとしているところを義母に発見され、その後病院に運ばれた。病院の職員は、患者が中絶したと警察に告げ、テレサさんは逮捕された。”【2016年5月20日 アムネスティ】というものです。

カルメン・グアダルーペ・バスケス・アルダナさんやマリア・テレサさんのように刑期途中で釈放されるケースもありますが、一方で、中絶でも禁錮50年と、更に厳しく対処すべしとする動きもあるとか。

****エルサルバドル:野党が中絶厳罰化の法改正を提案****
エルサルバドルの野党ARENAが中絶の罪の刑期を現行の最大8年から50年に引き伸ばす提案を出した。これは、国際人権基準を踏みにじる言語道断の提案である。

野党議員は、数百万の女性の人生を踏みにじろうとしている。命に危険が及ぶ場合でも中絶が認められないこと自体、非常に理不尽であるが、中絶した女性や医者らの処罰を重くするよう求めるのは、あまりに卑劣である。
同国がやるべきことは、中絶の犯罪化などという時代錯誤の法律を廃止することである。

998年の刑法改正で、中絶はいかなる場合も禁止されるようになった。強かんや近親相かんによる妊娠でも、母体が危険な場合の時でも中絶は罪になる。現行の刑期は、2年から8年だ。

この法改正の結果、不当な告発や刑法の誤用が起き、胎児を失った女性は即座に犯罪者と見なされるようになった。経済的に恵まれない女性は特に、この改正法の影響を大きく受けている。【2016年7月15日 アムネスティ】
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上記提案がどのように処理されたのかは知りませんが、こうした政治的動きがあるということは、それを支持する国民世論が一定に存在するということでしょうか。

麻薬ギャングが跋扈する社会にあって警察・司法が目を向けるべきは・・・・
中絶に関する宗教的・倫理的問題については言うべき知見も持ち合わせていませんが、中絶に関して女性に厳しい対応をとっているエルサルバドルの現状を見ると、著しくバランスを失しているように思われます。

エルサルバドルは中絶に対して厳しい宗教的・倫理的規制を行う一方で、麻薬組織が社会を牛じる社会で、殺人は日常茶飯事で、これを恐れた人々(特に子供など)が遠くアメリカまで国外に逃避するという国です。(この難民が、トランプ大統領の“壁”騒動の背景でもあります)

****死を見る目──エルサルバドルのギャングたち****
朝の5時に電話で起こされるのは、間違い電話か緊急事態のどちらかだ。この金曜日は、間違い電話ではないほうだった。

電話をかけてきたのは、私の情報提供者の一人。エルサルバドルの悪名高いギャングのメンバー数百人が、国内東部の刑務所2か所から、首都サンサルバドルの西方イサルコにある最高レベルの警備の刑務所に移送されるという情報だった。

この数週間、エルサルバドルでは当局が囚人たちの大規模な移送を行っていた。収監されているギャングのリーダーたちと、塀の外にいる彼らの部下たちとの連絡ルートを断つ戦略の一環だ。リーダーであることが判明した囚人たちは、警備がより厳戒な刑務所へ送られる。

人口600万人のこの国で、今年に入ってから3か月の間に組織犯罪絡みの抗争によって1124人が死亡した。犠牲者は兵士や警官、巻き込まれた民間人、そして対立するギャング同士のメンバーたち。急増したこうした事件を絶つことが、大規模な囚人移送の狙いだった。(中略)

エルサルバドルでは殺人事件が起きない日など1日たりともない。私はこうした「死」をギャングたちの目を通して、また恐怖の中で生きざるを得ない人々の目を通して見ている。そうした恐怖心は人々を麻痺させ、生活のすべてに影響を及ぼす。

公式の統計によると、エルサルバドルでは計6万人前後のギャングが活動している。加えて、1万3000人が刑務所に入っている。

最大勢力である二つの組織、「マラ・サルバトルチャ」と「バリオ18(Barrio 18)」は麻薬密売の覇権をめぐり、血みどろの縄張り争いを繰り広げている。さらに小規模なギャング組織も存在している。

こうした中では、誰がギャングで誰がそうでないか、見分けなどつかない。バス停で毎日顔をあわせている人はギャングのメンバーかもしれない。街で時間を聞いてきた人もそうかもしれない。彼は銃を持っていなかっただろうか?

エルサルバドルで私たちは、明日のことを考えずにその日その日を暮らしている。真隣にいる人物が一体何者なのか、決して分からないからだ。【2015年6月2日 AFP】
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こうした社会では、麻薬ギャングの影響は警察・政治家に及んでいるのが“当然”のことです。
司法にはどうでしょうか?

このように麻薬ギャングが我が物顔に跋扈し、殺人事件が起きない日など1日たりともないような状況で、司法・警察がその目を向けるべき先は、中絶を問われる女性では絶対にないはずです。
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北朝鮮からの大量難民に備える中国  北朝鮮国内では“幽霊病”?  国民に知らされない実態

2017-12-14 22:07:23 | 東アジア

(中朝国境の鴨緑江で漁をする北朝鮮の住民。中国の国境警備隊から許可を得ていると思われる=2017年9月(撮影:パク・ヨンミン)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】)

中国が密かに難民キャンプ建設
北朝鮮への強硬な対応については、その結果、体制崩壊した場合の大量難民にどのように対応するのか・・・という難しい問題があることは周知のところです。

9月には、かねてよりこの種の問題への見識を披露している麻生副総理の問題提起が話題になったこともあります。

****麻生副総理「警察か防衛出動か射殺か」 武装難民対策****
麻生太郎副総理は23日、宇都宮市内での講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れたうえで、「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」と語った。
 
麻生氏はシリアやイラクの難民の事例を挙げ、「向こうから日本に難民が押し寄せてくる。動力のないボートだって潮流に乗って間違いなく漂着する。10万人単位をどこに収容するのか」と指摘。さらに「向こうは武装しているかもしれない」としたうえで「防衛出動」に言及した。
 
防衛出動は、日本が直接攻撃を受けるか、その明白な危険が切迫している「武力攻撃事態」などの際に認められており、難民対応は想定していない。(後略)【9月24日 朝日】
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体制崩壊時の大量難民は日本にも渡来するでしょうが、陸続きで、国境近くに朝鮮族が多数生活している中国にとっては、日本よりはるかに深刻な問題となります。

中国が、北朝鮮へのアメリカによる武力攻撃においそれと乗れない大きな理由のひとつが、この難民問題、その結果、中国の政治体制自体に大きく影響することがあるとされています。

ただ、北朝鮮情勢がここまでくると、中国としても難民問題への具体的対応を検討せざるを得ない状況にもなっているようです。

****中国が密かに難民キャンプ建設──北朝鮮の体制崩壊に備え****
<難民キャンプのネット接続サービスを請け負ったらしい国営チャイナ・モバイルの内部資料から明らかになった詳細とは>

中国は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制崩壊による難民の大量流入に備え、1400キロ余りの国境沿いに数カ所の難民キャンプを建設する計画を密かに進めている。

朝鮮半島の危機に備えた難民キャンプ建設計画の詳細は、国有の通信大手・中国移動通信(チャイナ・モバイル)の内部資料から明らかになった。12月7日に資料の一部が中国のソーシャルメディア「微博」を通じて一気に拡散。英紙フィナンシャル・タイムズが10日に報じた。

資料(本誌の調査では信憑性を確認できなかった)によると、チャイナ・モバイルは難民キャンプのインターネット接続サービスを請け負ったとみられ、中国北東部の吉林省白山市にある北朝鮮国境の町、長白朝鮮族自治県の3つの村と、省内の2つの都市に難民キャンプが建設されるという。

「国境を越えた情勢の緊迫化により......党委員会と長白朝鮮族自治県政府は、5カ所の難民キャンプの設置を提案した」と、資料には書かれている。

資料には、チャイナ・モバイルが「北朝鮮との国境沿いの緊張」に対応するため、工事を請け負ったことが明記され、長白朝鮮族自治県の3カ所の建設予定地も記されている。

北朝鮮との国境沿いに点々と
加えて、米紙ニューヨーク・タイムズによると、吉林省の2つの都市、図們と琿春にも難民キャンプが建設される予定だと、地元の実業家が匿名で明かしたという。この2つの都市は国境の川・図們江(豆満江)を挟んで北朝鮮に面し、脱北者の収容所がある。

一方、長白朝鮮族自治県は、鴨緑江を挟んで北朝鮮の恵山市の対岸に位置し、金政権が9月3日に行った地下核実験の震動が感じられたほど北朝鮮に近い。

「政府はこれらの収容先を指定したが、心配することはない。地元ではパニックは起きておらず、騒ぐようなことではない」と、チャイナ・モバイルの長白支社の広報担当は述べた。

11日に行われた中国外務省の定例記者会見では、陸慷(ルー・カン)報道官は難民キャンプの建設計画について「そうした報道は目にしていない」と述べ、事実とは認めなかったが、否定もしなかった。

中国は北朝鮮の政治的混乱、さらには体制崩壊の可能性を懸念しており、密かに進む難民キャンプ建設もその表れと見ていい。

北朝鮮がアメリカ本土に到達できる核弾頭搭載ミサイルの開発を急ピッチで進め、米朝指導者が激しい舌戦を繰り広げるなか、ここ何カ月か朝鮮半島の緊張は一気に高まっており、この状況で中国が非常事態に備えることは「全くもって合理的」だと、中国共産党中央党校の張*瑰(チャン・リエンコイ)教授(専門は外交)はニューヨーク・タイムズに語った(*は王へんに連)。

「現状では北朝鮮とアメリカの間で紛争が起きる可能性は高い。中国が(国境地帯で)進めているのは、朝鮮半島で起きるあらゆる事態に対応するための準備だ」【12月14日 Newsweek】
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北朝鮮に苛立つ中国
中国が北朝鮮問題にどのように対応するつもりなのかは、なかなか知りえない問題であり、それが北朝鮮問題を難しくしているところでもありますが、中国としても対応に苦慮していることは間違いありません。

おそらく党指導部内にもいろんな意見があるところで、更に、実際に北朝鮮に接して交易などを行っている地方と中央では、また見方にも差があるのでしょう。

****国境の橋、きしむ中朝 「友誼橋」修理で閉鎖・新橋は未開通****

中国・北朝鮮国境の鴨緑江にかかり、中朝貿易の主要ルートになっている「中朝友誼(ゆうぎ)橋」が11日、北朝鮮側の路面修理のために閉鎖された。

橋の老朽化に備えた新橋が10キロ下流に3年前に完成しているが未開通のままだ。北朝鮮が費用を負担しようとしないためで、中国がいら立ちを募らせている。
 
中国遼寧省丹東と北朝鮮新義州を結ぶ中朝友誼橋は普段、貿易品を積んだトラックが盛んに行き交う。だが、中国の通関当局は8日付で、「北朝鮮側の工事のため11日から20日まで車の通行を禁止する」と通達。

11日に記者が訪ねると、橋は静まりかえり、北朝鮮側の橋上で約10人の作業員が補修作業に当たっていた。中朝貿易関係者によると、工事は元日用の食品などで輸送量が増えるのに備えた北朝鮮側の措置だという。
 
同橋は戦時中の1943年に日本が建設し、老朽化が激しい。昨年には北朝鮮側に開いた穴が原因で中国のトラックが横転し、橋の補修費用を巡る中朝間の話し合いが紛糾した。
 
一方、同橋から約10キロ下流には、片側2車線の白く大きな「鴨緑江界河公路大橋」がそびえ立つ。中朝友誼橋に代わる新橋として2014年9月に完成したが、北朝鮮側の取り付け道路が整備されず、開通できないでいる。
 
新橋は金正日(キムジョンイル)総書記時代の11年、中朝協力の目玉として約18億元(約300億円)を中国が負担して着工。中朝関係筋によると、それに先立つ着工式には中国とのパイプ役で13年末に処刑された張成沢(チャンソンテク)・国防副委員長も列席したという。
 
丹東市政府関係者によると、完成の翌年、中国の負担で接続道路を建設する計画も浮上したが、北朝鮮側は税関庁舎の新築も要求。北朝鮮はビルの設計図まで示して中国側を怒らせ、計画は頓挫した。

それでも両国の交渉は続いていたが、今春以降、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返したため中断した。【12月12日 朝日】
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中国が北朝鮮に対する影響力を実際のところどの程度有しているのかは、いつも議論になるところですが、開き直った弱者が「俺たちが崩壊したら、あんたらもただではすまないぜ」と強者をゆするような構図もあって、中国も大変でしょう。

中朝関係が厳しくなったことで、中断しているプロジェクトも少なくないようです。

****国境で見た対北朝鮮制裁 中国は本気か****

(中略)(中国側)南坪の対岸(北朝鮮側)・茂山には北朝鮮人の取材協力者がいる。この11月中旬、鉱山に直接行って状況を調べてもらうと、次のように伝えてきた。

「鉄鉱石の輸出が完全に止まったのは10月に入ってからだそうです。でも、今も採掘は続き、鉱石は野積みされています。今のところ、労働者には前と変わらぬ給与が支払われている。当局は『輸出停止は一時的。しばらくしたら再開するだろう』と労働者に説明しています」

茂山で掘った鉄鉱石の対中輸出は、完全に止まっているようだ。売る当てのない鉄鉱石採掘をいつまで続けることができるだろうか。労働者への給与支払いが止まったら、何千人もの労働者はどうなるのだろうか。

北朝鮮に絡む大型プロジェクトは・・・・
南坪では今、巨大施設が建設されている。2015年から進む「和龍国家級辺境経済合作区」の施設だ。

この計画は、賃金の安い北朝鮮の派遣労働者を雇うことを前提とし、工場を誘致する内容だ。鉱産物や水産物、木材などの加工に加え、国境観光の拠点をつくる狙いもある。

中国側は既に10億元(約170億円)を投じたという。中国政府が対北朝鮮制裁を履行すれば、これらの施設も無用の長物となる。

実は、似たようなプロジェクトやインフラ整備は国境地帯にいくつもある。いずれも北朝鮮との経済協力を前提としており、順調に進んでいるとは言い難い。(後略)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】
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【“幽霊病”? 先天性異常の子は北朝鮮政府の手で殺害?】
一方、核開発を急速に進める北朝鮮では、その強引な開発・実験過程で、「幽霊病」とも称される住民の健康被害が出ているのでは・・・とも報じられています。

****北朝鮮の核実験場周辺で「放射能汚染の噂」が拡散****
北朝鮮の北東部、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場周辺では、以前から放射能汚染の噂が絶えない。実際に被害を訴える声も出ている。

聯合ニュースは昨年9月、韓国の統一ビジョン研究院が咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)出身の脱北者17人を対象にして健康状態に関する聞き取り調査を行ったところ、複数の脱北者が原因不明の体調不良を訴えたと報じた。

「じっとしていても汗が出て、いくら食べても力が出ず頭痛が続く。韓国に来てから吉州で流行っていた『幽霊病』が核実験のせいだとわかった」 (3回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北男性)

「2010年頃から視力が1.5から0.8に落ちた。疲れやすく不眠に苦しめられている。心臓が痛く、つかみ出したくなるほどだ。(北朝鮮で)病院に行ったら『幽霊病』だと言われた」 (2回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北女性)

吉州の中心から核実験場までは40キロ以上離れており、山に遮られている。しかし、吉州を流れる南大川(ナムデチョン)の源流が核実験場のそばにあるため、水を通じて汚染されているという噂が絶えない。

当局はそれを抑えようと様々な対策を取っていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

現地の情報筋がRFAに語ったところよると、北朝鮮当局は吉州郡と化成(ファソン)郡を統制区域として指定し、部外者の立ち入りを禁止した。「わが国の核技術を盗み出そうとするスパイ、敵対分子の策動を防ぐ」ことを理由に挙げている。

しかし、核実験から2ヶ月経っても統制が解除されないため、住民の間では「スパイや敵対分子は言い訳に過ぎず、実際は放射能汚染が深刻だからではないか」との噂が絶えないという。

北朝鮮当局は専門家を派遣して調査を行わせ、その結果を示して汚染されていないと何度も説明した。また、住民にアブラハヤ(コイの一種)を捕まえさせ、南大川に放流させた。前述の専門家の「この魚は汚染に敏感なので、川が本当に汚染されていれば死んでしまうだろう」という説明に基づくものだ。

アブラハヤが比較的きれいな水を好むというのは事実だが、地元民にはあまり説得力がなかったようで、噂を抑え込むには至っていない。

最近、国境地域を訪れた吉州の住民によると、当局は外部の人間の立ち入りを制限しているが、内部の人間が他の地域に行くことは制限していない。当局は「本当に汚染されているなら出るのも入るのも禁止する」と宣伝している。しかし、これもあまり効果がないようだ。

なお、上述の情報筋の話は先月29日時点のものだが、テレビ朝日が報じた、先月10日に起きたとされる核実験場の崩落事故がついては触れていない。

核実験場の近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)があり、政治犯が核実験施設で防護服なし、すなわち放射能に被曝しながら強制労働させられていると言われている。

死亡事故が起きれば遺体は放射性廃棄物扱いされ、収容所内でも「一度入ったら二度と出られない」と言われる完全統制区域に埋められるという。

つまり、核実験場の労働者と吉州の一般住民は接触する機会が限られているため、情報が伝わりにくい可能性がある。

ちなみに、韓国統一省の報道官は豊渓里出身の脱北者を対象に、放射線被曝の調査を行っていることを明かしている。【11月6日 デイリーNKジャパン】
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“現地の噂”がどの程度真実を反映しているのか、そもそも“現地の噂”がどのような形で外部に伝わるのか・・・など、不確実性は避けられませんし、脱北者の話もどこまで信用できるのかという問題もあります。

ただ、“あの国なら・・・”と思いたくもなるのが北朝鮮でもあります。

****北の核実験で広がる「幽霊病」と苛酷な仕打ち****
<地元住民が貧困と食料不足のせいと思っている「幽霊病」は放射能汚染によるものか>

(中略)また、同じく吉州郡から逃亡してきた別の脱北者、リ・ヨンシルによると、近所の住民が産んだ子には、生殖器がないという先天異常があったという。こうした子は北朝鮮政府の手で殺害されるケースが多いため、両親が自らの手で赤ん坊を殺したと、リは証言している。

異常のある子は殺される
北朝鮮は周囲から孤立した独裁国家であるため、核実験場の周辺を外部の者が検証するのは不可能だ。そのため、核実験による放射能汚染があったとする脱北者の主張についても、これを裏付ける科学的証拠はほとんどない。NBCは、前述のリ・ヨンファについて、放射能汚染の検査では陰性の結果が出たと伝えている。

しかし韓国メディアは、北朝鮮の金正恩党委員長の核実験によって実験場付近の環境が汚染され、先天性異常がある子どもの出生が相次いでいると報じる。(後略)【12月13日 Newsweek】
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実際は“放射能汚染”ではなく、やはり“満足に物が食べられないせい”なのかも。
ただ、それはそれで大問題であることにかわりありませんが。

この国の問題は、国際的に批判されている実態が国民に知らされていないことにあります。
そのあたりの状況、また、制裁の影響については、下記のようにも。

****制裁下の北朝鮮、国民の声を聴く****
肝心の北朝鮮国内では、制裁の影響がどう出ているのだろうか。
私たちは北朝鮮国内にいる約10人の取材協力者用に中国の携帯電話を密かに搬入し、連絡を取り合っている。今、彼らが異口同音に伝えてくるのは、経済制裁の概要や「なぜ制裁を受けているのか」について、国民はまともに知らされていない、ということだ。

「こちらでは『経済封鎖』をやめさせるためにミサイルを撃ったと説明しています。発射実験を続ければ、米国も韓国も膝を屈して援助してくる、そうすれば暮らしが良くなる、と」(咸鏡北道に住む労働党員の協力者)
「世界の多くの国が経済制裁に参加しているなんて、まったく知らされていません」(両江道の小売業者)
「ミサイル発射を続けているがために経済制裁を受けていることを知れば、人民は政府に怒るでしょう」(両江道の主婦)

経済制裁が続いて外貨収入が減れば、北朝鮮では購買力が落ちて景気が悪化したり、北朝鮮ウォンの価値が下落したりする。インフレになる可能性もある。私たちはそう考えていた。

ところが、北朝鮮国内の協力者が調査したところ、制裁が強まったこの1年、物価や北朝鮮ウォンのレートは安定している。今年4月にガソリンや軽油の価格が暴騰したほかは、市場に大きな変化はない。

この12月12日時点では、ガソリン1キロは1万8450ウォン(約257円)、北朝鮮産コメ1キロは4500ウォン(約63円)。1中国元は1230ウォン(約17.1円)。物不足も発生していないという。

ただ、統計からは「制裁の効果」を読み取ることもできる。
この11月下旬に中国の税関当局が公開した10月の貿易統計によると、北朝鮮からの輸入は約6億元(約102億円)にとどまり、前年同月比で6割も減少した。北朝鮮の外貨獲得手段は、主に石炭や鉄鉱石、繊維製品、海産物の輸出であり、統計を見る限り、中国による制裁の影響は大きい。

制裁は効果を上げるのか
では今後、中国が制裁を完全履行すると、北朝鮮はどのくらい外貨収入を失うのだろうか。
日本貿易振興機構が今年3月に公表した2016年度の「最近の北朝鮮経済に関する調査」所収の統計から試算すると、中国への輸出総額は約26億ドルで、そのうち禁輸品目の合計額は約24億ドルに達する。

「完全履行」の場合、北朝鮮は対中輸出のおよそ9割を喪失する計算だ。加えて中国への労働者派遣による収入2億~3億ドル(推定)も失う。(後略)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】
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日中関係  習近平国家主席が起こした“ざわめき” 中国人の本音 中国南方航空のワサビ

2017-12-13 23:47:19 | 中国

https://blogs.yahoo.co.jp/sungai10/64578484.html

習近平国家主席が起こした“ざわめき”】
今夜は時間がないので、気になった記事の紹介だけ。

****関係改善のメッセージ」=習氏演説なし、会場ざわめき―南京事件追悼式典****
「全国政治協商会議(政協)の兪正声主席が講話を発表する」―。13日、旧日本軍による南京事件の追悼式典が行われた「南京大虐殺記念館」では、出席した習近平国家主席が登壇しないことが分かると、会場を訪れた国内外の記者らからざわめきが起こった。
 
「どういうことだ?」。驚きの表情で質問する記者らに、会場にいた南京市当局者らは「分からない」と当惑した様子。「関係改善のメッセージだ。政協主席が講話を発表したことが物語っている」と解説する当局者もいた。
 
午前10時、式典開始に合わせて登場した習主席は、哀悼の意を示すサイレンや車のクラクションが鳴り響く中、事件の遺族ら集まった約1万人の参加者と一緒に頭を下げて黙とう。兪主席の講話を穏やかな表情で聞いた後、式典終了とともに立ち去った。【12月13日 時事】
******************

習近平主席が出席するということで、日中関係に関する歴史問題がまたクローズアップされるのか・・・とも思われましたが、“国内外の記者らからざわめきが起こった”ような“意外”な展開となったようです。

これが、今後の日中関係改善につながれば幸いですが・・・。

中国人の本音
日本を訪れる中国人が増加するなかで、「日本はすごい」「日本がうらやましい」等の称賛の声がある・・・というたぐいの日本人にとって心地よい記事は毎日のように目にしますが、実際のところは・・・という下記記事も。

****中国人が日本人には絶対言わない日本旅行の意外な本音****
毎年、中国から日本にたくさんの観光客がやってくる。彼らに日本の感想を尋ねれば、「日本はすごい」「日本がうらやましい」等と口々に賞賛するだろう。しかし、経済が急成長している現在の中国人の目から見て、本当に「すごい」と思っているのだろうか。中国在住17年目の筆者があえて本音を聞いてみると、辛辣で意外な感想が次々と出てくるのである。(作家 谷崎 光)

中国人はあまり豊かには感じない現在の日本
日本人は“社交辞令”を真に受けすぎ!?
「あまり豊かじゃないけど、日本て、いい国よね」――。
 
北京の友人宅のパーティーで、中国人たちが何度も行った日本旅行の感想を話していた。話に夢中で(日本人の)私が横で聞いているとは思っていない。私にはいつも絶対、日本のいいところしか言わない。
 
(あまり豊かな国じゃない、か……)
あらためて聞くと、やっぱり、ちょっとショックだった。
 
私は中国在住でよく知らなかったのだが、現在日本には、外国人による「日本のココがすごい」という言説があふれている、らしい。(中略)
 
たくさんある「ニッポン・スゲー」本が招いた誤解だろうか。あれは、爺さん向けの紙のキャバクラで、そりゃ1500円分、ヨイショはしてくれるが、北京に住んで17年の私からすれば、中国の人口は13億、「それは確かにそういう人も中にはいますが……」というお話である。

日本の皆さん、今、とても心が弱っていて、外国人のお得意の“社交辞令”を真に受けすぎである。

中国人にとって今の日本はたくさんある旅行先の一つにすぎない
そもそも現在の中国人にとって今の日本は、たくさんある旅行先の一つにすぎない。

タイ(今、安さで人気)や台湾、香港、シンガポール、オーストラリアやトルコ、ドバイ、欧米、その他たくさんの候補の中で、「4度目の日本旅行に行くオレに、同僚は皆、無口……」という感じだろうか。そういう日本オタクや世界中を旅する富裕層以外は、日本は近くて安い庶民の旅行先である。

いや、彼らも、例えば日本人の上司から日本研修の感想を聞かれたら、

「人が親切ですね、清潔ですね、食事におしぼりがついているのがイイですね、トイレすごい……」と決してウソではない、“日本、良かった”を告げるだろう。

インテリ中国人は、一般的に外国人に本音は言わない。まして、会社の行事であれば、それは「ホメて、ホメて」と待つ日本人上司の気持ちを忖度したものだ。必死で探して見つけたスゴいところが、「オシボリデス」みたいな。

さらに言うなら、中国人にもホントの(日本、いいなぁ)はあるのだが、それは中国人だからこそ、口にできないことばかり。

ではここでちょっと中国人の本音を聞いてみよう。

空港バスの荷物係が“老人”でビックリ 小柄な高齢者だらけの国、日本
「成田行きの空港バスに乗ったら、小さな白髪の老人たちが(旅行客の)荷物を積み込んでいてビックリした!」

日本を旅行した中国人がまず驚くのは、あちこちで高齢者が働いていることである。しかも、中国北方だと身長が高い人が多いから、そこから来ると、日本の年配者は非常に小柄に見える。

人間、歳をとると身長も縮む。日本も今の若者は背が高いが中国に比べると目につく数が少ない。

中国では都市部のサービス業に勤務する人は20代、30代の若者が大半で、人というのは毎日見ているものがデフォルトになる。しかも中国はリタイアが早い。私も日本に一時帰国したとき、スーパーの家電売り場で、白髪の男性が顧客対応に出てきて、ギョッとしたことがある。

「朝、日本の電車に乗ると、出勤する人たちの年齢がすごく高い。中国もそうなるわけだけど……」

高齢化社会はまさに縮小社会。つまり中国人から見て、日本は小さい、歳をとった人が大量にいる国なのである。

街が小さくて古い インフラが更新されていない国
そして、街も小さくて古い。

以前、瀬戸内のある島を旅行したことがある。同じ日本なのに道の幅や建物など、なにもかもが一回り小さかった。つまり中国やその他の大陸から来た人には、日本はその島のように見えている。

さらに日本の都市のインフラは数十年前に基本が完成している。そしてそれが続いた不景気のせいか、あまり更新されていない。地方都市や、都市部でも一部、建物や天井の高さなど、多くのスペックが昔の身長を基準として作られたままである。よく話題になるトイレも中国から来ると、いろんな場所で、「小さっ!」という感じで高さも低い。

「なんでも小さくて可愛い。日本て萌える」という中国女子もいるが、「日本のホテルや旅館に泊まったら、足がいつもベッドからはみ出す」という中国人男性はけっこう、いる。

中国は軍隊や大学の寮でもない限り、キングサイズのベッドが多い。大陸で家も広い。
日本人は天井の低い、虫が住むような部屋に住んでいる」と言って、中国に帰ってしまった中国人留学生もいた。

まあこれは、本当に今の中国の金持ちの子弟なら、親が広いマンションを投資を兼ねて子の下宿用に買うから、単に勉強ができなかったんだろうと私は思う。

しかし「日本は清潔と聞いていたのに、東京の地下鉄やJRの階段はなぜ古くて汚いの?端を歩きたくない」(20代、中国人男性)という指摘には、賛成である。

こういうインフラが古いのと、京都の木造高級日本旅館が古いのとは違う。

いくら掃除しても限界があるし、階段でしか移動できないところも多い。一方、経済が急成長した中国は都市開発の大半がここ10年以内で、まだピカピカのところが多い。

中国の都会育ちの若者からすれば、今や日本は、「昔懐かしい国ね」(20代、中国人女性)なのである。

が、別の視点で日本に感動している中国人もいる。

「日本人は『一戸建て』と呼ぶ“別荘”に住んでいる。中国よりとても安く、しかも私有財産だ。何年たっても土地も自分のものだ」

ハイ、中国は家を買っても土地は私有できません。70年たったら国に返還することになっている。

舞妓さんは「日本の少数民族!?」 中国人に「わび・さび」がわかる人は少ない
さらに日本“ご自慢”の風景や観光地も、中国人から見ると、「……別になぁ」のことが多い。

中国の観光地は、その“騙し”だらけの管理の質はともかく、とにかく何でも大きい。黄河は対岸が見えないし、滝もナイアガラみたいなのがある。

「大阪城ね。小さいのがぽつんとあるだけ。大理(雲南省の少数民族の町)のお城と変わらないわ」

「日本の風景はスケール感が足りなくてどこも同じ」

私も昔、日本の山陰地方に取材に行ったら、村役場総出でご自慢の「逆さの松」というのに“連行”され、それがまた本当に普通の松の木で、(ここではこれが宝物なのか)と別の意味で感動したことがある。

日本の景色や文物の大半は、彼らにはそんな感じである。「わび・さび」がわかる人は少ない。

京都はどんな中国人にもウケているが、舞妓さんを見たある中国人は、「あれは日本の少数民族か?」

中国人に大人気の北海道だが、ウニいくら丼は“気持ち悪い食べ物”
そんな彼らが大好きなのは広々とした北海道である。

中国人の北海道ブームのきっかけとなったのは、映画『非誠勿擾』(邦題『狙った恋の落とし方。』)である。この映画に登場する風景は非常に美しいが、田舎のスナックで、40年前の写真で騙して入店させるおばちゃんたちが出てくるし、生玉子を落としたウニいくら丼が、生臭い、“気持ち悪い食べ物”として描かれている。
 
映画は、壮大な景色の中で中国人たちがおりなす恋愛ドラマ。登場人物らの旅資金はベンチャービジネスで当てたものであり、旅館の浴衣を着た彼らに、給仕の和服の日本人女性が正座で頭を床につくほど下げるシーンが出てくる。かつて経済的に大きく先を行っていた日本の、この“描かれ方”が彼らの心をくすぐったのはまちがいない。

日本で会社の飲み会に参加すると日本人を嫌いになる!?
実際、彼らの日本人に対する本音はなかなか辛辣である。

「日本で会社の飲み会に参加しないほうがいい。幻滅するから。一緒に仕事をして日本人が好きだったのに、嫌いになった」

 昼は過剰なほど自分を抑えていて、夜の盛り場で別人のようにハジけたり、ワガママになる日本人。日本で働くのはそんなに我慢しないとダメなのか。日本人の昼と夜のあまりの違いに中国人は引いてしまう。中国人は昼もワガママ、夜もワガママなので変化はない。

「割り勘が細かすぎる!仕事でもやることが細かすぎて、変態の域に達している」

「日本人て、なぜあんなにすぐに初対面の人を信じるの?バカなんじゃないの?人も思いきって騙せない。中国で仕事ができるわけがない」

「男尊女卑がすごい国。新幹線でおばあさんが席を探し、荷物をあげておじいさんを座らせているのを見て、あれ、何?と思った」

中国で東日本大震災の映像を見ているとき、避難所で高齢女性ばかりがお給仕をしている様子が映し出され、中国の友達(男女複数)から、いっせいに「やっぱり日本は!(男尊女卑の国だ)」と大ブーイングが上がったことがある。

 
日中の男女平等比較問題は話が長くなるので省略するが、ポイントは彼らにはそう見えている(また実際そうだ)、ということである。コンビニのエロ雑誌は、女性の中国人や中国が長い私にも衝撃だが、東京オリンピックを控えて地方自治体やコンビニチェーンでは規制しようという気運が高まっている。

中国の住所を書いた途端に態度が豹変したホテルのフロント係
一方、日本人の、中国人に対するビミョーな気持ちも彼らは感じ取っている。

先日、私が日本でホテルに泊まったときに、ふと中国での現住所を宿泊カードに書いたら、それまで笑顔だったフロント係の対応が突然変わり、怒り声で「パスポート、見せてください!!」。

……私は純ジャパニーズだって。

羽田近くのホテルで、まあ、きっと今までにいろいろあったんだろうが、この手の対応を嘆く中国人は多い。

自分の、中国人に対する“差別感”に気がついていない日本人は結構いる。(中略)

いまだに現金で買い物 ファクスを使用する「奇特な国」日本
日本での食事や買い物については、まずスマホでピッと決済ができる店が少ない、あったとしても店員が慣れていないことに不満が多い。「日本は先進国のはずなのに、どうして?」。

中国では現在、スマホ決済がどこでも普及しており、ちょっとした屋台の買い物も配達やレンタルなどいろんなサービスもスマホで決済できる。

「人の国に来てまで自国の決済方式にこだわらなくてもいいじゃないか」とは思うが、これに慣れてしまうと、現金で払うのは非常に苦痛になる。

さらに今、中国はスマホ決済に伴って、申込書や受取書などが高速でペーパーレスになっているので、なんでもかんでもまだ紙の日本に、正直「えっ?」という感じがする。(中略)

買い物そのものや消費については、サービス、商品の質・価格ともに皆さん大満足で、「なんでも中国より安~い!」と昔の日本人のアジア旅行みたいなことを言っている。

それ以外の「水がきれい、空が青い、食べ物が安全……」、という彼らのホメ言葉もウソではない。
 
だけどそれは全部、旅行地としての一時的なものばかり。「日本で発展したい」、「未来をかけたい」という言葉は、あまり聞かない。

まだファックスすら使っている日本は、逆に“奇異な国”なのである。

政府批判ができる、警官が威張っていない… 心からの「日本いいなあ」は中国の現体制批判に
彼らの心からの(日本いいなぁ)は、もっと中国の現体制批判につながることだ――。


中国だってもう10年すれば、日本みたいな選挙があるんだ!」「誰もが気軽に病院に行けるなんていいね。うち、おじいちゃん、手術せず死んだよ」「警官がこっちに道ゆずった!威張っていないんだね」「不正や賄賂が少ない。まじめ。でも中国のほうが儲かる」「日本は公開で政府批判ができる」

日本のそこは認める。民度の高さも認める。しかし、結論は、「日本で遊ぶのはいいけど働きたくない。ストレス強そうで、人と人との関係が冷たそう」

中国の内陸の安徽省に西逓・宏村という有名な観光地がある。

昔栄えた村で、中国らしくなく、古い建築がそのまま保存されている。水もきれいで汚染されていない。交通が隔絶されており、閉じた社会で人々は非常に善良で騙す人がいない。しかし老人ばかりで、たまにいる若者は足抜けできず不機嫌そうである。取り残され物価も安い。

ここに発展に疲れた都市部の中国人たちが、近年のひなびた田舎観光ブームで観光バスを仕立てて大挙して押し寄せている。そして短時間のうちにバーっと消費し、帰っていく。「いいね、いいね」と言いながら。

中国の桃源郷と呼ばれるここ、私は日本に重なるのだが、どうだろうか。【12月12日 谷崎 光氏 DAIMONDonline】
******************

まあ、上記内容も“クセ”のある部分も相当にありますが、「日本はすごい」「日本がうらやましい」等に自己満足してしまうのも、いささか単純にすぎるでしょう。

中国南方航空のワサビ
カンボジアを旅行していて昨日帰宅しましたが、中国南方航空を使用しました。

その広州から関空へのフライトで出た機内食のソバについていた“ワサビ”がすごかった。

日本でもよく見る四角い小袋にはいったものですが、その辛さが殺人的な辛さで、口の中のソバを噴出さないようにするのに一苦労しました。

機内のあちこちで、むせかえって咳き込む様子も。

本当に信じられない辛さです。帰国後ネットで「中国南方航空 機内食 ワサビ」で検索すると、たくさんヒットします。

知る人ぞ知る、有名な名物ワサビのようです。しかも少なくとも2010年頃から続いているようです。

広州では“ワサビ味”のポテチなどが人気だとかで、ワサビブームにもあるとか。

ただ、その“ワサビ”も、日中では相当な違いがあるのかも・・・なんて文化論的感慨も。
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イラン核合意に続き、エルサレムという蜂の巣をつついたトランプ大統領

2017-12-12 22:05:13 | パレスチナ

(12月11日 Newsweek)

中東和平政策頓挫か、“新たな中東の姿”か
10日あまりのカンボジア旅行から帰国し、今日自宅に戻りました。

旅行中の世界の動きは十分にフォローできていませんが、もっとも露出が多かった話題は、トランプ大統領によるエルサレムの首都認定でしょう。

エルサレムについては、“イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、イスラム、ユダヤ両宗教の聖地がある東エルサレムを占領し、西エルサレムと合わせて「不可分の永遠の首都」としているが、国際的には承認されていない。一方、自治政府も、東エルサレムを「将来の独立国家の首都」としている。計約530万人に上るパレスチナ難民の帰還問題なども未解決となっている。”【12月6日 産経】という、パレスチナ問題の重要課題であり、きわめて微妙な問題でした。

当然ながら、今回のトランプ大統領の決定は中東世界・イスラム社会に大きな衝撃を与え、これまでの歴代アメリカ政権のとってきた中東政策の持続を困難にするものです。

もっとも、トランプ大統領としては、“これまでの歴代の中東政策が結果を出せずにきたのだから、枠組みを変えないと進展はない”という立場ですから、従来政策が頓挫するのは全く問題のないことにもなります。

****米のエルサレム首都認定、中東和平政策頓挫の恐れも 専門家****
米国のドナルド・トランプ大統領が、これまで長きにわたり実施が延期されてきた米国政府によるエルサレムの首都認定および大使館移転を正式に表明したことで、米国の中東和平政策が頓挫する恐れが出てきた。

トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー上級顧問が、イスラエルとパレスチナの間の和平合意を目指してこの難しい問題に取り組んできたが、今後状況はさらに複雑化する見通しとなった。専門家らが現状を分析した。
 
トランプ氏は6日、米首都ワシントンのホワイトハウスでの演説で、「和平交渉を進めるための、長年後回しにされてきた一歩だ」として、エルサレムをイスラエルの首都に認定する方針を表明した。中東諸国からの警告や欧州の同盟国からの訴えを押し切る形での発表となった。
 
しかし中東のアナリストらは、この米国動きが「和平」というトランプ氏の言葉とは真逆に作用する恐れがあると指摘する。
 
米首都ワシントンにあるシンクタンク「新米国安全保障センター(CNAS)」の中東安全保障プログラム責任者のイーラン・ゴールデンバーグ上級研究員は、今後の流れについて「最良のシナリオは、単にトランプ氏の和平努力が頓挫するだけ。最悪のシナリオは、広範囲な抗議行動や大規模な暴動まで発生すること」だと語る。
 
ゴールデンバーグ氏は、米政府の発表によって、東エルサレムを最終的なパレスチナ国家の首都とすることを理念に掲げるパレスチナ解放機構(PLO)のマハムード・アッバス議長や、その他のアラブ諸国の指導者たちが困難な立場に置かれることになると話す。

その理由は「アッバス議長やアラブ諸国の指導者の中の誰かが、この件に政治的に関与できるとは思えない」からだという。
 
トランプ氏の発表から間もなく、アッバス議長はテレビ演説で「嘆かわしく、容認できない」とのコメントを発表。米国はもはや和平交渉の仲介役としての役割を果たすことができないと非難した。

■「新たな中東の姿」
クシュナー氏はここ数か月、イスラエル・パレスチナ間の和平交渉をめぐり水面下で作業を進めてきた。しかしある外交筋は、和平計画の公表は今後しばらく行われないだろうと話す。最短でも2018年前半以降になるとの見方だ。
 
米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のバーバラ・スレイビン氏は、「クシュナー氏の和平努力は、対イラン政策においてイスラエルとの協力関係を正当化するためにサウジに与えたイチジクの葉(不都合なものを覆い隠すためのもの)のようなもの」と語る。
 
トランプ氏とクシュナー氏は、政権発足直後から、共通の敵イランに対する同盟国として、サウジアラビア──とりわけムハンマド・ビン・サルマン皇太子──との親密な関係を築いてきたのだ。
 
一方で、エルサレムへの首都移転が大きな政情不安をもたらすとは思わないとする意見もある。
 
匿名を条件に取材に応じた中東情勢に詳しいある外交官は、「この地域では、政治的な地殻変動がいくつも起きている」としながら、「これが新たな中東の姿だ」と語る。
 
3日にめずらしく公共の場に姿を見せたクシュナー氏も、シーア派イランに対して地域のイスラム教スンニ派アラブ諸国がイスラエルと協調するのであれば、和平のための一つの機会になるとの考えから、この流れに困惑している様子はみられなかった。
 
クシュナー氏は「彼らはこの地域の脅威に目を向けている。彼らはこれまでイスラエルを敵視してきたが、20年前に比べれば、イスラエルとの同盟関係ははるかに自然なことだと考えていると思う」と語っている。【12月7日 AFP】
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確かにサウジアラビアは“対イラン包囲網”としてイスラエルと接近しており、今回のトランプ大統領の発表に対しても控えめな反応に抑制してはいますが、パレスチナ問題という(いささか古ぼけた看板とはなってはいるものの)“アラブの大義”に反する形でイスラエルとの新たな関係を進めるのは困難でしょう。

アメリカの安全保障にも重大な影響を持つ今回発表においても、トランプ大統領の意向が突出し、政権が組織として機能していないように見えることも懸念される点です。

パレスチナを切り捨てる形ではなく、パレスチナの新しい展開についてどういう具体案が考えられた(今となっては水泡に帰しましたが)かについては下記のようにも。

****エルサレム首都認定は米政権も説明できないトランプ究極の利己的パフォーマンス****
<首都認定がどうアメリカの安全保障に役立つのか、記者たちへの背景説明もできないホワイトハウス。そんな決定のために、中東に住むアメリカ人とその家族も含めて多くの人が不幸になりかねない>

ドナルド・トランプ米大統領は12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表した。この発表には、トランプ政権の政策決定における2つの最悪な傾向が現れている。

一つは、トランプが支持率のみを気にして、まったく利己的な理由から重大な決定をしてしまうこと。
もう一つは、政権の無能さが事態をさらに悪化させてしまうことだ。

エルサレムの首都認定は、トランプの支持基盤をつなぎ止めるためのパフォーマンスにすぎない。現時点でこの決定を下す戦略的根拠などまったくない。だからこそ政権スタッフは、この決断がどうアメリカの安全保障に資するのか、記者たちに説明がつかず頭を抱えたのだ。


しかもこれは支持基盤にとってさえ大した問題ではない。確かに大統領選中、トランプは米大使館をエルサレムに移転すると公約していたが、それによって獲得できた票はたかが知れている。

パレスチナの首都を強奪
トランプにとっては小さなパフォーマンスでも、それが及ぼす被害は甚大だ。パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は文字通り進退窮まりかねない。アッバスはパレスチナでは貴重な親米派。中東和平でアメリカと歩調を合わせてきたことにはもともとパレスチナ人からの批判もあった。これで、アッバスの政治生命は風前の灯だ。

エルサレムの最終的な地位は、パレスチナ政治の最も繊細な問題と言ってもいい。東エルサレムを独立国家パレスチナの首都とすることは和平の譲れない条件だ。

トランプは双方にとってよい和平合意のために尽力すると言ったが、現実にはトランプはイスラエルに圧倒的な勝利を与えただけで、パレスチナからは奪っただけだ。

アメリカの最も重要なアラブの友好国は、自分たちの助言を無視したトランプの決断のおかげで尻に火が付くことになった。

とりわけアメリカの信頼できるパートナー、ヨルダンはパレスチナ難民が人口の70%を占め、抗議の高まりによる治安の悪化が懸念される。

トランプの決定は、中東に駐在するアメリカの外交官や民間人の安全も脅かしかねない。パレスチナ側は既に「怒りの日」と名付けた3日間の抗議行動を呼び掛けており、ヨルダン川西岸とガザ地区では暴力的な抗議が吹き荒れる可能性がある。

中東諸国の米大使館には安全保障上の警告が発せられ、大使館の警備チームは警戒態勢を強化している。レックス・ティラーソン米国務長官とジェームズ・マティス米国防長官も安全保障上の懸念から今回の決定にぎりぎりまで反対していた。

最後に、この決定は和平を模索してきた自らのチームを裏切るものだという点でも利己的だ。トランプの娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナーは何カ月も前から中東を歴訪し、関係者と協議を重ねてイスラエルとパレスチナの和平交渉再開に向けて準備を進めてきた。その努力を水の泡にする今回の決定に、クシュナーが賛同したとは思えない。(中略)

残念だが、トランプ政権は目の前にあったチャンスを逃した。一度限りの爆弾発表をして中東和平交渉の再開を不可能にするくらいなら、きちんとした手順を踏んでエルサレムをイスラエルの首都と認め、広範な和平プロセスの一環として大使館を移転することが、トランプにはできたはずだ

。和平の条件とその範囲を提示し、和平交渉再開の土台にする方法もあった。イスラエルとパレスチナの双方がそれらを受け入れるよう説得していれば、和平実現に近づく大胆で有意義な一歩だったろう。その過程で大使館移転も実現できたはずだ。

双方の首都にもできた
具体的にはこうだ。まずどんな和平合意もイスラエルの国家安全保障上の懸念に配慮し、パレスチナ難民の大量流入を招く解決策にはしないと、和平条件に明記する。

パレスチナに対しては、1967年の第3次中東戦争前にヨルダンとエジプトが支配していた領土を割譲し、その代わりにヨルダン川西岸のユダヤ人入植者が集中する土地をイスラエルに併合する「土地交換」で合意を図る。

エルサレムは、パレスチナとイスラエル双方の首都だと認める。和平に向けた外交努力の一環として、アメリカはエルサレムを双方の首都として承認すると発表することもトランプにはできた。

そうすればアメリカはエルサレムにイスラエル大使館を新設し、現在エルサレムにある米総領事館(これまではパレスチナ人向けの大使館のような役割を担ってきた)を在イスラエルの大使館に格上げできただろう。

こうした微妙なバランス感覚のあるアプローチを追求するどころか、トランプは火に油を注いでしまった。現時点で、誰も今後の見通しは分からない。

クシュナーが準備を進めていた和平交渉再開が吹き飛ぶにしても、最良のシナリオは、数日間の抗議デモが終わった後、中東諸国の怒りの嵐が収まることだ。最悪のシナリオは、中東で新たな紛争の火の手が上がることだ。 イラン・ゴールデンバーグ 【12月7日 Newsweek】
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クシュナー氏の立ち位置、トランプ大統領に賛同しているのかどうかは知りません。

親イスラエルはアメリカ政治の特徴でもありますので、歴代大統領が国内的にエルサレムをイスラエルの首都と明言し、議会乗員も大使館移転に全員賛成しているのも事実ですが、その影響を考慮してこれまでは慎重・現実的に扱われてきました。(なぜそこまでユダヤ系ロビーの影響力が大きいのか、銃規制問題と並んでアメリカ政治のよくわからないところでもあります。)

****<エルサレム首都認定>米議会から称賛の声****
 ◇政界の親イスラエルぶり改めて浮き彫り
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことを受け、米議会からは称賛する声が相次いでいる。支持者向けの公約実現に固執するトランプ氏の特異性が強調される今回の問題だが、米政界に根強い親イスラエルの姿勢も改めて浮き彫りにしたといえそうだ。(後略)【12月8日 毎日】
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国内疑惑から国民の目をそらす狙いも
トランプ大統領が強引に今回発表に踏み切った背景には、ロシア疑惑が深まるなかで自身のコアな支持層へのアピールがあったと指摘されています。

“歴代大統領中最悪の支持率となったトランプ氏が、彼自身の「手法」として、ユダヤ教徒やキリスト教福音派など親イスラエル派の支持を得るための国内向けパフォーマンスに出た、と考えるほうがこれまでの行動から見ても腑に落ちる。”【12月11日 MAG2NEWS】

****窮地トランプ大統領を“応援団”は救えるのか****
(中略)
ゲーム・チェンジャー
トランプ大統領は、上院で税制改革法案を可決させましたが、フリン氏起訴のニュースの影に隠れてしまい、満足のいくアピールができませんでした。

そこで、6カ月間先送りができたのにも関わらず、同大統領はこのタイミングで、「公式にエルサレムをイスラエルの首都に承認する」と発表したのです。
 
2016年米大統領選挙においてエルサレム首都移転を訴えたトランプ大統領は、ホワイトハウスでの演説の中で、「歴代の大統領は、主要な選挙公約として掲げてきたが、約束を果たすことができなかった。私は、今日約束を果たす」と強調しました。

選挙公約遂行を持ち出して、国内の親イスラエル支持者の票固めを狙ったことは間違いありません。

ホワイトハウスのホームページに掲載されたトランプ大統領のこの演説の視聴回数は、5万8000回に上りました。同大統領の思惑通り、エルサレム首都移転はロシア疑惑よりも注目を浴びたのです。
 
ただし、それは一時的であり、エルサレム首都移転の発表は、ロシア疑惑から国民の目を逸らし、難局を乗り切る「ゲーム・チェンジャー(不利な形勢を覆す切札)」には成り得ないでしょう。

今後フリン氏に続き、仮にクシュナー氏及びジュニア氏までが起訴されると、トランプ大統領はゲーム・チェンジャーに最も成り得る「北朝鮮のカード」を切る可能性が高くなります。

日本は、北朝鮮問題とロシア疑惑を結びつけて注視していく必要があるということです。【12月11日 WEDGE】
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国内問題を対外問題でするかえる・・・・というのは、古今東西の政権の常套手段ではありますが、国際的影響力の大きいアメリカのそうした対応は世界に大きな影響を与えます。

国内的に“不正疑惑”を抱えている点では、イスラエルのネタニヤフ首相も同じです。

****老練イスラエル・ネタニヤフ首相 「エルサレム」問題で自身の不正疑惑批判そらす****
「和平に向けた重要な一歩だ」。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した後、イスラエルのネタニヤフ首相はこう述べて決断を称賛した。

イスラエルの捜査当局は首相をめぐる疑惑の捜査を行っている最中で、トランプ氏の発言は首相に対する“援護射撃”になったとの見方も出ている。
 
イスラエルのラジオは8日、パレスチナ側の大規模な抗議運動に対し、イスラエル治安当局が「いかに犠牲者が出ないように対処するかに重点を置いている」とする元警察幹部の見方を伝えた。
 
ネタニヤフ首相は今回訪れた欧州だけでなく、外交面で今後、強い批判を浴びる可能性がある。こうしたことも念頭に、デモによる犠牲者を最小限に食い止めたい考えとみられる。
 
逆に騒ぎが早期に収拾できれば、「首都認定」の既成事実化に向けた大きな一歩となる。
 
イスラエル有力紙ハーレツ(英語版)は7日付で、ネタニヤフ首相は今後、「私が首相でなかったら、こうした事態は起こらなかった」と強調し、トランプ氏との良好な関係をアピールするとともに、「首都認定」を自らの実績だと訴えるだろうと指摘した。自らの疑惑に対する世論の批判をそらす狙いだ。
 
首相には、有力紙のトップに報道姿勢を改めるよう交渉した疑惑や、不正にぜいたく品を受け取った疑惑が浮上している。首相は否定しているが、今月初めには西部の最大都市テルアビブで、約2万人が抗議デモに集結した。
 
2009年に首相の座に返り咲いた老練なネタニヤフ氏は、窮地に追い込まれれば総選挙を前倒しして実施するとの観測も出ている。トランプ氏の発言は、イスラエル内政にも多大な影響を与えている。【12月11日 産経】
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トランプ大統領やネタニヤフ首相が、今回のような重大な問題を自身の疑惑隠しに利用しているとは思いたくはないですが・・・・。

中東諸国の怒りがどこに向かうのか?】
一番の懸念は、今回発表をきっかけとした暴力の拡大です。

“最良のシナリオは、数日間の抗議デモが終わった後、中東諸国の怒りの嵐が収まることだ。最悪のシナリオは、中東で新たな紛争の火の手が上がることだ。”【前出Newsweek】

(トランプ大統領が恐らく考えているように)直接の混乱は一定の範囲内に収まるかもしれませんが、イスラム過激派に今後の自身の行動を正当化する理由を与えることにもなります。

もちろん、暴力的手法を肯定することはできませんし、アメリカもテロリストの暴力を否定しています。

しかし、“旧市街内部で警戒に当たっていたイスラエル軍兵士の男性(20)は、「(中略)パレスチナ側には武力で立ち向かう力はもはやない。せいぜい抗議デモしかできない」と治安維持に自信をのぞかせた。”【12月8日 産経】といった考えのもとで、アメリカ・イスラエルが“力”で大国・強国の考えを押し通そうとするのであれば、暴力・テロで立ち向かうしかないではないか、国際世論がアメリカ・イスラエルを押しとどめてくれるのか?・・・という心情も理解できます。

蜂の巣をつついて災いがおきたとすれば、それは蜂のせいではなく、無分別に巣をつついた者の責任が問われるべきです。
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