最近は自転車に乗るどころか外出することも滅 多になくなったので、第 4802回の「パンクしないタイヤ」などで取り上げて来たパンクにも縁が無くなってしまいました。
とは言いながら、やはり、新しい発想の自転車などには興味があります。久しぶりに、これは、面白そうと思う自転車の 記事がありました。
これは第 4463回の「パンクしないタイヤ」にも通じる発想だと思いますが、その機構は全く違うものです。人間っ て、色んなアイデアを考えるものですね。恐れ入ります。
WIRED.jpよ り 2015.5.6 WED
ス ポークのない車輪の「再発明」
イギリスのデザイナーが考案した、スポークを使わない衝撃吸収型の車輪「ループホイール」。その用途は自転車に、車 椅子にと、大きな広がりを見せている。そのインスピレーションの源とは、なんだったのか。
起業家たちは「われこそは車輪を再発明した」と言うものだが、あなたが実際に車輪の再発明を成し遂げたとしたなら、 なんと言うだろうか。
「わたしはスポークも大好きなんですが、ちょっと別の考え方をしてみました」とイギリスのデザイナー、サム・ピアー スは語る。彼は自転車や車椅子用に、ス ポークを使わない衝撃吸収型の車輪を新たに考案した。「ループホイール」と名付けられたその車輪は、先日、ロンドン・デ ザインミュージアムのデザイン・オ ブ・ザ・イヤー賞に選定されている。
2013年、この発明が製品化されてすぐ、「その走行品質の高さには一度で魅了される」として、自転車ファンの間で 揺るぎのない支持を集めた。そしてその後、このループホイールの用途は自転車から車椅子へと広がっていった。
ピアースは発明家であると同時にコンサルタントも務める。これまで非侵襲性の(切開などの手段を用いない)外科手術 用器具や、Palm Pilotが初めて世に出たころにはハンドヘルド・コンピューターの開発も手掛け、また3次元折り畳み機構やオートバイなどもつくり出してきた。これまで にない新しい発明を手がけ続け、2007年に取り組んだのがベビーカーだった。
ちょうどオランダの空港で飛行機を待ちながら、ピアースはベビーカーを押している母親に目が留まった。「縁石を跨ぐ ところで前輪を持ちあげなかったせい で、赤ちゃんが前に投げ出されたのです」と彼は言う。「それを見て思いました。車輪にサスペンションを組み込むことがで きたら、どんなにいいだろう、と」
プロトタイプからはじめた
ベビーカーは、衝撃をいかに和らげるかを考えるのにぴったりの題材だった。これまで大した工夫がなされていなかった からだ。
ベビーカーのシートの下には緩衝器が取り付けられてはいるが、それはでこぼこ道での揺れを多少和らげる程度で、車輪 が正面から縁石にぶち当たったときに、後ろへ跳ね返らないようにするほどの機能はもっていなかった。
そのとき、ピアースはほんの数秒でいいアイデアを思いついた。頭に思い浮かんだのは、緩衝器を車輪の内側に組み込ん だシステム。例え(路上の)こぶに乗り 上げたとしても弾んだりせず、回転を続けながら柔軟に乗り越えていくことができるはずだ。そうしてスケッチまで描きなが ら、彼は2年ばかりそのアイデアを 放っておいた。
「まだ実現には程遠かったのです」と彼は語る。「実際にどうやってつくり上げることができるか、見通しが立ちません でした。でもアイデアだけはたくさん浮かんでいて、繰り返し考えてはいたのです」
09年になったころ、ピアースは雨どいに使うゴム管を手に入れて、それを長さ15cmほどの長さに切り分けた。合板 で車輪をつくってその内側のこのパイプ をリング状にして繋ぎ合わせ、その車輪を試しにテーブルの上で転がしてみた。そうして指でつくったでこぼこの上を走らせ てみたのだ。大雑把なプロトタイプ ではあったが、ピアースにはピンと来るものがあった。
スポークを使った昔ながらの車輪は、いまに至るまでずっと同じ形で使われ続けている。初めてつくられてからいまま で、何千年もの間認められている、極めて効率のいい仕掛けなのだ。
車輪の内部に緩衝器を組み込んだのはピアースが初めてではない。最近でも、イスラエルのテルアビブの農夫が腰の骨を 折る大けがをしたあとに車椅子で収穫の 作業を続けて大変な苦労をしてから、車輪を支えるフレームの内部に圧縮シリンダーを組み込んだソ フトホイールをつくり出している。
ピアースも過去の技術を特許も含めて詳しく調べることから始めた。よく似た技術はすでに1800年代から、イギリス その他の欧州諸国で用いられている ことが分かったのだが、それらはどれも金属製のばねを利用しており、時が経つにつれて金属疲労を起こし壊れてしまうよう だ。
ピアースも同じ仕掛けをつくって調べてみた。「最初につくったのはスチール製のばねを組み込んだホイールでした。わ たしの自転車に組み込めたらいいなと 思ったのです」と彼は話を続けた。「でもスチール製のばねはすぐに折れてしまいました」。それゆえ、この初期のタイヤは 実用にならなかったのだそうだ。そ の上、走るとやたら大きな音が出た。
ピアースはこの問題について、ノッティンガムシャーの自宅近くのアーチェリー店の協力を得た。いい矢といい車輪の性 能には類似点がある。どちらも極めて強靭でなければならないが、その一方で人のあらゆる動作に対応するだけの柔軟性も必 要なのだ。
ピアースは例の「すぐに壊れた手製のばね」を見せて、その店の人ならそれをどう料理するか聞いてみた。「複合材のば ねが必要なことはわかっていました」と ピアースは言う。「走行感は圧縮シリンダーを使う場合と同じでなければならず、また一定の固さも必要です。あまりに柔ら かだと、パンクしたように感じてし まうからです」
新たな技術に人が支払う金が、たかが知れている
70回ほども失敗を繰り返した後、彼らはついに製造方法を完成させた。企業秘密だというが、ピアースによるとそれ は、一種の「炭素複合材でできている」そうだ。
ループホイールはまず自転車向けに製品化された(ただし、マウンテンバイク用は未完成だ)。それから、車椅子メー カーがこの新技術に飛びついて、ピアースから製品の供給を受けるようになった。
「ほんとうにこれまでより『3倍スムーズ』なのです」とピアースは言う。「ホイール内に組み込んだこのサスペンショ ンはどんなでこぼこ道でも滑らかに走行 できるし、路面からの振動も取り除いてくれます」。これは、車椅子に頼っているユーザー、体が車椅子に始終触れている人 たちにとっては、極めて重要なポイ ントだ。なぜなら車椅子が路面から受ける衝撃は、そのまま人に伝わる。
そしてユーザーにとってもうひとつ大切なのが、その値段である。ピアースによれば、主要なデザインは2年前に出来上 がっていたのだが、工業生産に至る技術 をより良くするための取り組みを続け、自動車の生産技術も一部参考にした結果、車輪1つにつき、当初は2,000ドルし たものが (モデルによるが) 数百ドルにまで下げることができたそうだ。
「新技術に人が支払う額なんて知れていますから」 とピアースは語る。車椅子の場合はもちろん、ピアースが次にループホイールを利用しようと考えているマウンテンバイクでもそうだろう。
そうですね、第 5352回の「自転車の時代が来るか」で取り上げたソフトホイールと考え方は全く同じのようです。しかしな がら、工夫に工夫を重ねてコストにも配慮しているのが良いですね。とは言いながら、どの程度の価格になるのか気になると ころです。
いずれにしても、従来の自転車などとの価格競争にさえ勝つことができるなら、もしかしてこちらが主流になる可能性も ありそうな気がします。
もうこれ以上改良の余地が無さそうに思えるものでも、これだけの違った発想が出て来るのですから、人間って凄いです ね。
まだまだ、可能性はありそ う!