PCR検査陰性を条件に飲食店・カラオケ店でのマスク無し、時短無しで感染を防ぐ

2021-04-05 10:11:07 | 政治
 コロナ感染が止まらない。緊急事態宣言発令期間のみは感染が縮小するが、宣言終了後暫くして徐々に増え始めて、再び緊急事態宣言を発令せざるを得なくなる増減サイクルを繰り返している。

 最近のこの繰り返しを振り返ってみる。2020年7始めから8月中旬までの第2波の感染者数を遥かに上回る2020年11月初旬以降のコロナ感染第3波を受けて、政府は2021年1月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象として期間は1月8日から2月7日までの1カ月間とした緊急事態宣言の再発令。さらに1月13日に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を再発令の区域に加えることになった。主な柱は飲食店に対する営業時間午後8時まで、酒類提供は午前11時から午後7時まで。午後8時以降の不要不急の外出自粛等となっている。

 この緊急事態宣言は首都圏を除く大阪、兵庫、京都の関西3府県と愛知県、岐阜県、福岡県の合わせて6府県に対して2021年2月28日に解除決定。大阪、兵庫、京都の関西3府県は3月1日から飲食店などへの時短営業要請を緩和することを決め、大阪府は対象エリアを府内全域から大阪市内に縮小、午後8時までの営業時間を午後9時まで1時間延長することにして、なおかつ無症状の人へのPCR検査を繁華街などで行い、再拡大の予兆がないか継続的に監視することにした。

 一方、特に感染者が多かった首都圏東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県1都3県の2月7日期限とした緊急事態宣言はさらに2月8日から3月7日までの1カ月の延長を決定。ところが期限とした3月7日を迎える2日前の2021年3月5日、1都3県の緊急事態宣言を2週間延長し、3月21日までにすることを決定。そして決定どおりに3月21日に解除の運びとなった。

 但し2021年2月28日に解除決定した大阪府の感染者が3月中旬頃から徐々に増加。増加を受けて大阪府の吉村知事は解除約1カ月後の2021年3月29日に緊急事態宣言が出されていなくても集中的な対策を可能にする「まん延防止等重点措置」の適用を国に要請する方針を示した。この際、適用された場合はマスク会食の義務化を実施したい考えを示した。

 そして2日後の3月31日に適用を要請した。この日の大阪府内の感染者数は報道によると、1日としては過去5番目に多い599人にのぼっている。

 こういった感染経緯は緊急事態宣言の発令以外に感染拡大阻止の手立てはないことを証明している。だから、緊急事態宣言の発令と解除の繰り返しに応じて感染者数の増減サイクルも繰り返すことになる。

 マスク会食の義務化は飲食店や飲食を伴うカラオケボックス等を対象としていることになる。つまり食べ物と飲み物を口に運ぶときだけに限ってマスクを外すことができる義務化でもある。食べたり飲んだりには会話が付き物で、そのどれもが愉快な気分を誘い、高める源泉となる。そしてそのような愉快な気分はときには興奮状態にまで達することがある。どれ程の人間が食べ物と飲み物を口に運ぶときだけマスクを外し、口に入れ終わると直ちにきちんとマスクをし、それから会話に打ち興じるといった繰返しのルールをきちんきちんと厳守することができるのだろうか。

 求めるとおりの厳守に不安を感じたのか、翌4月2日になって大阪市の松井市長は大阪府と合同で「見回り隊」を作り、市内の飲食店などへの巡回を始める方針を示した。約5万軒ある大阪市内の飲食店を4、50人の職員で個別に巡回、監視する方針だと言う。

 この「見回り隊」については2021年3月28 日付け、4月1日変更の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)の、〈三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項 (3)まん延防止 8)緊急事態措置区域及び重点措置区域以外の都道府県における取組等〉の⑤に、〈政府は、関係団体や地方公共団体に対して、飲食店に係る業種別ガイドラインの遵守徹底のための見回り調査、遵守状況に関する情報の表示や認定制度の普及を促すとともに、関係団体等と連携しつつ、クラスターが発生している分野等(飲食・職場など)を対象とした業種別ガイドラインについて、見直し・強化を図り、徹底する。〉と記されている。(文飾当方)

 要するに飲食店や飲食店利用者の自主性に任せていたのでは感染防止はできない、感染防止に関わるガイドラインの遵守徹底を図るためには関係団体や地方公共団体のより強力な関与が必要だというわけなのだろう。

 なぜかくも飲食を伴う場での感染に神経を使っているのかと言うと、ここ数日は東京都よりも大阪府の1日の感染者数が上回っているが、これまで最も多かった東京都の感染者の半数前後が感染経路不明ではあるが、感染経路判明の濃厚接触者の内訳はクラスターの発生場所と発生状況に応じて順位が入れ替わることがあるが、大体に於いて「家庭内」が最も多く、次いで「施設内」か「職場内」、最後が「会食」となっているものの、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長尾身茂が、〈歓楽街や飲食を介しての感染が感染拡大の原因 家族内感染や院内感染は感染拡大の結果である〉と見ているからである。少々大袈裟な言い方をすると、感染拡大の目の敵にすべきは飲食の場であるというわけである。

 この言葉は「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)」(2020年12月23日)の中で新型コロナウイルス感染症対策分科会会長尾身茂が「現在直面する3つの課題」と題してグラフ入りで分析し、警告を発している見方である。

 その他にも次のように分析し、警告を発している。

 〈見えているクラスターだけを見ても飲食店でのクラスターが多い〉、〈クラスターの発生は飲食店で先行した後に医療・福祉施設で発生する〉、〈レストランの再開が感染を最も増加させる〉等、いわば飲食店元凶説を掲げている。

 さらに感染経路不明者の感染についても飲食店元凶説に立っている。

 〈例えば東京都では”見えている感染”だけを見ると家族内感染が最も多いが、“見えない感染”を”見る”と・・・

1. 東京などの都市部では、感染者数が多いことに加え、人々の匿名性が地方に比べ高いことから、感染経路不明(”見えない感染”)の割合が多い(東京都では約6割)。
2. しかし、この感染経路が分からない感染の多くは、飲食店における感染によるものと考えられる。その理由は以下a b cである。

 a. これまでのクラスター分析の結果、日常生活の中では、飲酒を伴う会食による感染リスクが極めて高く、クラスター発生の主要な原因の一つであることが分かっている。
 b. 感染経路が判明している割合の高い地方でも、飲酒を伴うクラスター感染が最近になっても多く報告されている。
 c.欧州でもレストランを再開すると感染拡大に繋がることが示されてる。〉

 勢い飲酒を伴う会食の場への「見回り隊」という発想が出てくるのも無理はないということになる。元凶を抑えることができなければ、緊急事態宣言の発令と解除の繰り返しか、まん延防止等重点措置に頼ることになるということなのだろう。

 最初に挙げた「見回り隊」についての記載がある「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に次のような記載がある。

 〈新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させる可能性がある期間は、発症の2日前から発症後7日から10日間程度とされている。また、この期間のうち、発症の直前・直後で特にウイルス排出量が高くなると考えられている。

 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、他の人に感染させているのは2割以下で、多くの人は他の人に感染させていないと考えられている。〉

 後段の「他の人に感染させているのは2割以下」であっても、飲食店が感染拡大の元凶説としている以上、、飲食店での感染の危険性を抑えなければならない。

 新型コロナウイルスの潜伏期間(病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間)は1〜14日程度で、平均の発症期間は5~6日程とWHOは報告している。つまり感染したその日に発症する場合もあれば、2週間後に発症するというケースもあるが、平均すると、感染してから5~6日後程度の発症ということになる。

 この平均値を取るとして、先の〈新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させる可能性がある期間は発症の2日前から発症後7日から10日間程度とされている。〉としている予測を当てはめると、感染後の平均的な発症期間5~6日から他人に感染させる可能性期間である発症2日前を差し引くことによって感染から3~4日後程度で他人に感染させる2次感染源になり得るという計算が成り立つ。あるいは平均での遅いケースでは発症後5日から8日程度は2次感染源となり得る可能性は消えないということになる。

 この早いケースの場合のみを逆の方向から言うと、感染から1~2日後程度は2次感染源になり得ない、他人に感染させる可能性は少ないということになる。と言うことは、PCR検査をして翌日に陰性と判定されれば、検査当日の検査後にか、検査翌日に感染したとしても、その間は他人に感染させる可能性は低いことになる。あくまでも「低い」であって、絶対ではないが、可能性としては成り立つ。

 そしてこのことは感染していてもウイルス量が少ないために陰性と判定された場合でも、ウイルス量が増えて人に感染させるまでに1~2日程度は余裕を見ることができるから、当てはめ可能となる。

 PCR検査の結果について翌日に判定することは決して不可能ではないはずだ。「NHK NEWS WEB」記事がプロ野球の巨人軍は2021年4月3日に監督やコーチ、選手、スタッフの合わせて101人にPCR検査を行った結果、二人の選手が陽性判定、一人が再検査となったと報じていた。2021年4月4日 13時23分の報道だから、検査翌日に結果を伝えられていたことになる。PCR検査を行っている民間病院の中には翌日結果判明を謳っているサイトを見受けることができる。

 PCR検査の翌日結果判定の体制を整えさえすれば、陰性判定された対象者はその翌日に飲食店、その他で飲酒を伴う会食をしたとしても、他人に感染させる可能性はかなり低く見積もることができる。勿論、PCR検査日と結果判定日を入れた陰性証明書の発行が必要で、その提示者のみの入店を認めれば、マスク装着をさ程厳しくしなくても、あるいは見回り隊などと物々しい体制を敷かずとも、現況以下に感染を抑えることができることは否定できないし、飲食店元凶説も、遠い話とすることができる。

 こういった状況を招くことができれば、時短も必要なくなる。飲みたくなったら、その都度PCR検査を受け、陰性証明書を持ってた客のみの入店を許可すればいい。時短が必要なくなれば、経済もそれなりに回すことができる。

 但し全てのPCR検査を無料の行政検査としなければならない。現在、感染再拡大を防ぐために不特定の市民に対してPCR検査を通した街頭モニタリング検査を各地で行っているが、方法は希望する無症状者に唾液を使ったPCR検査キットを無料で配布、持ち帰って唾液を専用容器に入れ、指定場所に送ると、検査結果が返ってくる仕組みだということだが、それをその場で専用容器に唾液を採取(唾液はペッと吐くのではなく口の中に溜めて容器に垂らす方法を厳守させれば採れば、飛沫は飛ばない)、検査側が回収してその日のうちに検査機関に持ち込めば、翌日の判定は可能とすることができる最善の方法になると思うが、このようなPCR検査と併行して飲食店に行く予定者を特定的に行政検査の対象とする体制に持っていく。

 これまで飲食店等に対する時短要請で受ける飲食店側等の損失に対してその補償を行ってきたが、時短が必要でなくなれば、その補償金が浮いて、無料の行政検査費用にまわすことができる。

 この方法は不可能だろうか。
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菅義偉の無症状感染者関係の危機管理欠如がコロナ対策を失敗に導き、ワクチン接種のリスクコミュニケーション欠如が信頼喪失を招く

2021-03-29 10:54:05 | 政治
 緊急事態宣言は首都圏を除く6府県に対して2021年2月28日に解除決定。但し特に感染者が多かった首都圏1都3県の緊急事態宣言はさらに2月8日から3月7日までの1カ月延長されることになった。我が日本の首相菅義偉は2月28日の解除決定を伝える2月26日の「記者会見」で次のように勇ましく宣言した。

 菅義偉「今後改めて、今申し上げました1都3県については解除の判断を行いますが、3月7日に全てが解除できるように、正に、感染拡大防止の、飲食の時短を始めとして、やるべきことを徹底して行っていきたい、このように思います。政府としてはあらゆることを考えておりますが、今大事なのは、やはり、感染拡大防止を徹底して行って、3月7日、全国で解除することが大事だと思います」

 「やるべきことを徹底して行っ」た結果、2021年3月5日の「記者会見」で次のように述べることになった。

 菅義偉「先ほど新型コロナ対策本部を開催し、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県において緊急事態宣言を2週間延長し、3月21日までにすることを決定いたしました」

 言っていることとやっていることが異なる有言不実行は、当然、国民の信頼を獲ち得ない。

 この記者会見でワクチンの効果についてある情報が伝えられる。

 岩上安身(フリーランサーIWJ代表)「ワクチンだけが全ての決め手になる。何かワクチン万能論のような感じが世の中にあふれかえっているわけですけれども、しかし、実際にはワクチンには発症や重症化の予防効果はあっても、感染そのものの予防効果はないということが明らかになっております。

 これは、2月24日の(記者会見で)田村厚労大臣が私どもIWJの記者の質問に答えて、感染予防が十分なエビデンスはないとはっきり明言されておりまして、この頃、ファイザーのワクチンがイスラエル等で感染予防効果があったというロイター等の報道はありますけれども、査読前の論文です。これを確認しました、厚労省にです。厚労省の担当課は、この件について、国としての姿勢として、感染予防効果はないという姿勢を、これらの報道で改めるつもりはないというふうにはっきりとおっしゃっています。

 感染予防効果がないということは、実は、発症しない人を増やすということであって、感染しても発症しない、本人が気付かない、無症状者を増やすに等しいことであって、かえって無症状者による市中感染を増やす可能性があります。ということは、これは同時に、無症状者に対する無差別のPCR検査を大量に行っていく必要がある。片方でワクチン、片方でPCR検査の社会的検査を無差別に拡充するということをやると。そこで陽性者を洗い出していくということをやっていって、初めて成り立つものではないかなというふうに思います

   ・・・・・・

 PCR検査の拡充について質問させていただいたのですけれども、全量検査は必要ないと当時、総理はおっしゃったのですね。その御認識は変わらないでしょうか」

 要するに岩上安身氏はワクチンには感染予防効果があるわけではない。発症予防効果と重症化予防効果があるのみだから、感染しても、発症しないままに、重症化しないままにさらに感染を広げていく可能性は否定できない。その過程で予防効果が常に絶対と言うことはないから、中には発症し、重症化する例も出てくる。当然、ワクチンを接種したから、全てオーケーというわけではなく、ワクチン接種の過程や接種後に無症状感染者が出るのを少しでも抑え込むために現在から無差別のPCR検査を大量に行って、無症状感染者を割り出して、隔離、陰性に持っていく必要があると主張していることになる。

 それが「片方でワクチン、片方でPCR検査の社会的検査を無差別に拡充する」と言うことになる。

 岩上安身氏が「全量検査は必要ないと当時、総理はおっしゃったのですね」と指摘していることは2020年12月25日「記者会見」で同じ岩上安身氏が「中国が全量検査を徹底して、感染を抑え込み、経済を回復させた中国と比べて日本は全量検査に熱心ではない」と質問したのに対して菅義偉が「全国、全員ということは、私は、色んなところに相談しますけど、そうした必要性はない。こういうふうに思っています」と発言したことを指す。

 野党はPCR検査の拡充を一貫して要求していたが、政府は同じく一貫してその必要性を認めてこなかったが、菅義偉のこの発言にもその姿勢が如実に現れている。

 岩上安身氏が上記2021年3月5日の記者会見で社会的PCR検査の無差別な拡充を求めたのに対して菅義偉と新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂のそれぞれの答弁を取り上げてみる。

 菅義偉「私自身もワクチンは発症、重症の効果がある、このことの理解を示しています。発症と重症化にはワクチンは効果がある、こういう中であります。ですから、一日も早く国民の皆さんにワクチン接種をしたい。それと同時に、検査の充実、これも必要だと思います。先ほど私、最初の一連の挨拶の中で高齢者施設に対して集中的に今月中に3万か所やるということを申し上げました。さらに、繁華街でモニタリング検査を実施する。こういうこともこれから大都市でやっていきたい、このように思っています」

 菅義偉自身もワクチンは発症予防と重症化予防には効果があると保証している。裏を返すと、感染予防効果が絶対的にあるわけではないとしていることになる。その上で感染防止対策として3万か所の高齢者施設に対して集中的にPCR検査を行う。繁華街でPCR検査を通した感染状況のモニタリング検査を実施する。この二つの実施共に感染が判明する前の検査であって、当然、無感染者であるか、感染はしているものの、無症状者であるかの判別を行ない、後者の場合は2次感染、3次感染を防ぐために病院等への隔離に持っていくということになる。

 勿論、菅政権として今まではしてこなかったこのPCR検査の拡充は既に触れたようにワクチン接種の過程や接種後に無症状感染者が出るを少しでも防ぐために無症状感染者の数を少しでも減らしていくための方策であろう。

 この姿勢は野党のPCR検査拡充の要求に一貫して消極的であった菅政権の180度の政策転換を示すことになる。180度の政策転換は前の政策が間違っていたことを意味する。2020年10月29日の衆議院本会議代表質問で共産党委員長志位和夫が「無症状の感染者を把握、保護することを含めた積極的検査への戦略的転換を宣言し、実行に移すべきではありませんか」と求めたのに対して菅義偉は「医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等に対しては、既に無症状であっても行政検査の対象とするなど、積極的な検査を実施しているところです」と答弁。要するに医療機関や高齢者施設等で感染が確認された場合はその濃厚接触者も含めて、つまり全員、無症状であっても行政検査の対象とするが、感染が確認されない場合は行政検査の対象とはしないと答えている。

 言っていることはPCR検査の実施は感染して症状が出るまでは待つという姿勢でいたことになる。医療機関や高齢者施設、あるいは劇場や飲食店、家庭等の人が集まる閉鎖空間では感染者が出れば、その濃厚接触者は割り出し可能となって、PCR検査を実施、陰性のみを病院等に隔離していけば、概ね事は片付いていく。だが、最初にコロナウイルスを持ち込んだ人間は感染していると思っていなかったから、持ち込んだのであり、閉鎖空間での濃厚接触者扱いとなって、感染経路不明者とは扱われにくくなる。つまり発症時間に個人差があるから、感染が誰から始まったのか把握しにくく、逆に感染経路不明という事態が起こりやすくなる。

 さらに現実には人が集まる閉鎖空間での感染ばかりとは限らず、東京都の殆どの場合、感染者の半数か半数近くを占めてきた感染経路不明者は誰から感染したのか分からない、どこから感染したのか分からないということからの感染経路不明ということなのだから、その大半はコロナウイルスに感染はしているものの無症状の感染者(無症候病原体保有者)からの市中感染と見るのが妥当で、だから、感染経路不明に繋がっていくという危機管理意識を当初から持っていなければならなかったはずだ。だからこその野党側の無症状感染者に対するPCR検査拡充の要求であった。

 菅政権が野党の要求に応じてこなかったのは感染経路不明者の多くは無症状の感染者からの感染の可能性を疑う危機管理に立つことができなかったからだろう。そしてワクチン接種という段階に至ってから、初めてこの手の危機管理の考え方を採用することになった。ワクチンが発症予防効果と重症化予防効果はあるものの、感染そのものの予防効果は必ずしも保証するものではないというその性格上、感染があった場合、無症状の感染者からの感染と限定せざるを得なくなり、今からPCR検査等を通して無症状感染者を減らしていく必要に迫られた。

 そのため政策転換であるはずだが、感染経路不明者の大半が無症状の感染者からの感染の可能性を疑う危機管理に立ち、PCR検査を通して市中に放たれている無症状感染者を割り出す政策を怠ってきたことのこの場に至ってのPCR検査の拡充であって、従来からのPCR検査体制の失敗を物語ることになる。

 尾身茂「今、おっしゃる重症化あるいは発症化予防。これが非常に重要で、しかし、それだからといって、実は仮に、よく分かりませんけれども、普通の常識を使えば、日本の(ワクチン接種の)候補者になる人々の恐らく90パーセントが接種することはないでしょうね。国民の7割が仮に打ったとしますよね。子供さんとかは別に。そうなっても、実は、私は、時々のクラスターはそれからも起きると思います。なぜならば、ワクチンの感染力防止ということと同時に30パーセントは打っていないわけですよね」

 国民の7割がワクチンを接種すると予想。30パーセントは接種しない。この30パーセント内で感染と被感染が繰り返されたなら、当然、クラスター発生の可能性も出てくる。但し30パーセント内での感染だけとは限らない。ワクチン接種の7割内でも無症状感染者を出す可能性は否定できないのだから、7割の中の無症状感染者から無接種の30%に対しての被感染の可能性も否定できず、東京都の場合、感染確認のうち約20%は無症状だということだから、無接種の30%に対して無症状の約20%はほぼ維持するかもしれないが、ワクチンを接種していない分、残りの80%分から重症患者を出す少なからずの可能性にしても否定できないことになる。

 岩上安身氏が取り上げた2月24日の田村憲久の記者会見での記者とのワクチンの感染予防、発症予防、重症化予防についての遣り取りを見てみる。

 記者「昨年10月2日の第17回厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会の『ワクチンの有効性・安全性等副反応の捉え方について』という資料の中で、ワクチンの効果についてというページがございます。接種した人は感染しないという効果については実証が難しいと書かれています。ある意味心配な記述ですが、その後これについての見解の変化ということはございますでしょうか」

 田村憲久「感染予防の効果があるかということですかね」

 記者「そうです」

 田村憲久「これは今のところ、世界中で、感染予防効果があるということ自体が認められているということではない、と我々は理解しています。実際例えばファイザーのワクチンに関しても、我が国においては発症予防に関しては確認できていると。

 重症化予防に関しては重症者の事例が少ないため確認はできていないのですが、ただ重症化予防というよりは重症者が減るかということから考えると、発症者が減れば重症化しないわけですから、発症者が減った分は重症者が減るのだろうと思っております。

 ただ、感染予防という意味からすると、これは十分にエビデンスがまだないので、そういう意味では我々はこれを確認できておりません。あるかないかが分からない」

 かくこの通り発症予防と重症化予防についてはそれなりの効果はあるはずだとし、感染予防については「十分にエビデンスがまだない」

 記者はコロナワクチンの予防効果についての情報根拠を2020年10月2日の「第17回厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会」の「資料3 ワクチンの有効性・安全性と副反応のとらえ方について」に置いている。どんな記述になっているか見てみる。

 「新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方(一部抜粋)新型コロナウイルス感染症対策分科会」(2020年8月21日)

 〈新型コロナワクチンの治験に関する論文報告(概説)

 誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間については、まだ評価されておらず不明。

※ 自然感染においては、抗体が比較的早期に低下するとの情報がある。〉

 〈一般的に、呼吸器ウイルス感染症に対するワクチンで、感染予防効果を十分に有するものが実用化された例はなかった。従って、ベネフィットとして、重症化予防効果は期待されるが、発症予防効果や感染予防効果については今後の評価を待つ必要がある。しかし、今から、安全性と共に有効性が妥当なワクチンが開発されたときに備えて準備を進めていく必要がある。〉

 結論は、〈誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間については、まだ評価されておらず不明〉であり、〈発症予防効果や感染予防効果については今後の評価を待つ必要がある。〉とどちらも「不明」の評価を下している。

 だが、この分科会の「議事録」では次のような発言となっている。

 林予防接種室長「ワクチンが開発されたときに効果があるかどうかが分かるのは、発症予防、重症化予防という観点の効果だと考えます。感染予防の効果については、まず治験を行っても、その瞬間には分からない、社会の中でしっかり使ってみないと分からないという性格のものであるということです。

 これは内閣官房のほうの分科会でも議論になったと承知していますが、なかなか呼吸器感染症のウイルスのワクチンで、感染予防に効果があるというものはこれまで開発されていないという御指摘もありますので、開発されたときには発症予防や重症予防、期待できるとしてもそのようなものが期待でき得るという考えの中で、いろいろな優先順位も含めて考えていく必要があるのではないかというのが、今の時点の内閣官房の分科会の議論も含めた現時点の考え方だと思います」

 ワクチンが「開発されたときには発症予防や重症予防、期待できるとしても」、「感染予防の効果」は「社会の中でしっかり使ってみないと分からないという性格のものであ」り、「呼吸器感染症のウイルスのワクチンで、感染予防に効果があるというものはこれまで開発されていないという指摘がある」と感染予防効果にかなり懐疑的になっている。総合すると、発症予防効果や重症化予防効果は期待できるが、感染予防効果は期待しにくいということになる。

 そしてこのような情報の国民に対する取り扱いについて1人の委員が発言している。

 大石委員「私も、前半の議論を踏まえて意見を述べたいと思います。臨時接種の接種勧奨・努力義務ということについて、あるいは接種率の目標について、やはり重要なのは、国民にワクチンのリスクコミュニケーションをしっかりしていくことだろうと思います。ワクチンを接種することで、個人の重症化予防ということだけではなくて、医療の逼迫を最小限にするといった社会的役割を国民にしっかり伝えていくことが大変重要なのだろうと思います。そうすることで、ワクチン接種の理解が接種率の向上に当然つながってくるわけですから、義務だとか言うよりも、やはり国民の理解を高めることが一番肝要になってくるのだろうと私は思います。以上です」

 2020年10月2日の時点でワクチンの感染予防効果や発症予防効果、重症化予防効果について議論が行われていながら、少なくとも菅義偉が記者の指摘に応じて公に取り上げたのは5カ月後の2021年3月5日の記者会見ということになる。しかも大石委員が指摘したようにワクチン接種のリスクを国民にしっかりと伝えて、そのリスクを国民と共有する目的のコミュニケーションという体裁を取ったものではない。質疑応答で記者に質問されて、その質問に手短に応じて伝えるべきリスクの類いではない。

 リスクコミュニケーションの意図を有していたなら、冒頭発言で早々にこのリスクを具体的に明らかにしておかなければならなかった。だが、そうはしていなかったのだから、コロナワクチンは発症予防効果や重症化予防効果は一応認められるものの、感染予防効果についてはかなり疑問符がつくというリスクに関しての情報を、少なくとも公にははっきりとさせない意図の隠蔽を働かせていたことになる。

 菅政権が現在着手し始めている高齢者施設に対しての集中的なPCR検査と繁華街でのPCR検査、それらのモニタリング検査が無症状感染者を少しでも多く割り出して隔離に持っていくことで、今から無症状感染者を抑え込んでいき、コロナワクチン接種後の無症状感染リスクを最小限にとどめるための政策であるはずであることからすると、無症状感染者をピックアップするためのPCR検査に消極的であった従来の政策が誤りであったことを証明となるにも関わらず、その誤りを認めないばかりか、コロナワクチン接種のリスクを国民と共有するためにそのリスクを公にする情報開示とは逆の、リスクを曖昧にしておく形での情報隠蔽まで働いている。

 菅義偉は常々「国民から信頼される政府を目指します」を謳っているが、自分では逆の信頼を失うことをしていることに気づかないでいる。
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食事用の布マスクが頭に思い浮かび、その仕組を形にしてみた 仕組み通りに実用性に適うかどうかは分からない

2021-03-08 12:05:56 | 政治
 食事用の布マスクが頭に思い浮かんだ。Google画像で既存の食事用マスクを調べたら、顔一面を覆うフエイスシールドを口に飲食物を運ぶたびに上げ下げする仕掛けのものとか、布マスクの口の部分を二重にして、ひと重側の布を持ち上げると、ふた重側の口に当たる布部分がくり抜かれていて、右利きなら、ひと重側の布を左手で持ち上げておいて、その間に右手で食べ物をくり抜いてある場所から口に運ぶ方式のものなどがあった。

 当方が考えたファスナーと形状記憶合金ワイヤーを使った食事用の布マスクは見当たらなかった。但し実際に製作してみたのではなく、頭に浮かんだ仕組みをその仕組み通りに画像と言葉の形にしただけのものだから、実際に着用可能なのか、着用可能でも、実用性があるのかどうかも分からない。専門家が一目見ただけで、使い物にならないといった評価を下す代物かもしれない。だが、折角頭に浮かんだから、ここに紹介してみることにした。

 画像にして説明することにしたが、手直し箇所があるので、改めてテキストで説明し直すことにする。

 〈ズボンのファスナーはスライダーを上に上げると閉まり、下げると開くが、逆の開閉にする。ファスナーの外側に沿って布の中に0.3ミリの形状記憶合金ワイヤー仕込む。スライダーを上げて、ファスナーを開くと、ワイヤーが上に跳ね上がって、口元に茶碗等を持っていけるようにマスクの端を表側に湾曲させる形で左右に開く仕掛けとする。食べ終えたら、スライダーを下げて、マスクとしての形に戻して、お喋りをするなりする。〉
 
 より具体的に説明すると、ファスナーの片方の歯列〈Zep teeth(務歯・むし)〉を前以って通してあるスライダーにもう一方の歯列を通して左右の歯列を噛み合わせ、ファスナーを閉じることができるようにする蝶棒(ちょうぼう)と呼ばれている小さな部品と、蝶棒を受け止める箱と呼ばれている部品は不必要なため、取り付けず、左右各歯列の下端(布マスクの最下端)にスライダーが抜け落ちないようにストッパーのみの取り付ける。

 スライダーはマスクを閉じている間はマスクの顎の下にイヤリング様のアクセサリーとして吊るしておくことになる。

 当方のファスナーを用いた食事用布マスクは、実用性があった場合はという条件付きとはなるが、飲食物を口に入れる直前にファスナーを上げておけばいいから、フエイスシールドや布二重マスクのように口に頬張るまで空いている方の手で支えていなければならない面倒は省くことができる。但し何らかの面倒を必要としても、既存の食事幼まずくは実用性という点で優るということなのかもしれない。

特にフエイスシールドの場合は何よりも相手の表情が透明なアクリル板を通して眺めることができる点が長所となっているのだろう。

いずれにしても、家庭内感染や飲食の機会の場の感染が多いということは複数で飲食する際には対人距離が最も狭まる状態でマスクを外す回数が多くなることがより大きな要因となっているはずだ。政府側は家庭内での生活は個室すること、食事や寝るときも別室にすること、食事の際はなるべく会話を交さない、その他頻繁に手を触れる場所を消毒することといった注意を一貫して出しているが、飲食の機会の場と共に家庭内の感染が多い傾向は変わらない。

 家庭内感染の場合の原因は空間的にも時間的にも家族それぞれが別室で生活する、あるいは時間をずらす生活をすることのできる余裕のある家庭がどれ程にあるかということに尽きるはずだ。家の狭さに応じた空間的な部屋数の少なさ、子どもが複数いて、親も共稼ぎなら、子どもを幼稚園や学校に間に合わせ、親自身も出勤に間に合わなければならない時間的な余裕の無い家庭の絶対数がより多いということを考えなければならない。

 感染者のウイルスはクシャミや咳だけではなく、これらの生理現象を伴わなくても、目前の距離で会話する場合に生じる飛沫が他者や物に付着することによって感染を広げていく仕組みを取るということを考えると、特に別室で別々に、あるいは時間をずらして食事を摂る空間的余裕も空間的余裕もないとなれば、最も対人距離が一定の時間狭くなる食事の際に飲食を口に運ぶとき以外はなるべくマスクをして会話を交わす必要に迫られる。

 このことは飲食店という飲食の機会の場でも言うことができる。と言うことは、これと言った面倒を煩わされることなく使用できるより実用的で感染防止により効果的な食事用マスクが必要になる。

 既存のマスクがその用を既に果たしているなら、家庭内感染や飲食の場でも感染はもっと減っていいはずだ。
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安倍内閣・菅内閣の国産ワクチン開発政策の大失態とそれを糊塗する愚かしい論理

2021-03-01 10:11:19 | 政治
 なぜ大失態なのか。その答は簡単である。菅政権は2021年1月7日に1都3首都県に2月7日期限の緊急事態宣言の再発令を行ない、1月13日になって対象地域を栃木県、愛知県、岐阜県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県へと拡大した。そして2021年2月2日の記者会見で栃木県のみの緊急事態宣言を最初の期限としていた2月7日で解除することとし、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県については3月7日まで1か月延長することを決定したと。

 菅義偉2021年2月2日記者会見質疑

 タカハシ「イギリスの軍事週刊誌、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー、東京特派員のタカハシと申します。

 ワクチンについて伺います。総理、2月中旬から接種を開始したいとの意向を示されましたが、世界では既に60か国近くがワクチン接種を開始しております。日本は何でこんなに時間がかかるのでしょうか。G7の中でワクチンの接種を開始していないのは日本だけです。OECD(経済協力開発機構)加盟国37か国中、ワクチンをまだ未接種なのは日本やコロンビアなど僅か5か国。そもそもワクチンは、国家安全保障や危機管理で凄く重要な、日本でやるべき生産、開発だと思うのです。なぜこんなに日本はできないのか。

 なおかつ、総理はいつも日本は科学技術立国と名乗っていますよね。その立国を名乗るならば、なぜメード・イン・ジャパンのワクチンを生産できないのか。こういう状況で、ワクチンも駄目、あと検査も日本は人口比当たり138位です、世界で。検査不足、ワクチン未接種、この中でオリンピックを強行していいのでしょうか。危機管理でもっとコロナに専念してというのは国民の願いではないでしょうか」

 尾身会長にも、ワクチンは何でこんなに日本が遅いのか、一言伺えればと思います。以上です」

菅義偉「先ず、日本のワクチン研究にも国として支援をしていることは事実であります。しかし、現実的にはまだまだ遅れているということであります。

 ただ、このワクチンの確保は、日本は早かったと思います。全量を確保することについては早かったと思います。ただ、接種までの時間が海外に遅れていることは事実であります。それは日本の手続という問題も一つあると思います。慎重に慎重に、いろいろな治験なりを行った上で日本が踏み切るわけでありますから、そういう意味で、遅れていることは現実であるというふうに思います。

 ただ、こうしてようやくこのワクチン接種の体制ができて、これから始めるようにしたいと思っていまして、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい、このように思っております」

 尾身茂(政府新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)「日本の国内でも、実はもう御承知のように、ワクチンの生産を今、始めているわけですよね。それで、なぜ日本はというのは、これは今の直接の問題よりも、ワクチンというものの全体の日本の状況を世界と比較すると、日本のワクチン業界というのは、もうこれは個々の企業は本当に頑張っていますけれども、やはりこれはグローバルなスケールという意味では、これは今日の今のことではなくて、全体として日本のワクチン業界というのが、欧米の非常に競争力の強いというものに対して、少しスケールメリットがということだと思います。

 それからもう一つは、今回、欧米の今、話題になっているようなのは全く新しい方法をつくったわけですよね。これについて、日本の場合にはもう少ししっかりと、比較的今までに分かっている方法をという、そういう文化の違いもあるし、だけれども、一番の違いはやはり私は日本のこれは今、今日のことではなくて、ずっとワクチン業界のこのグローバルな競争力というものが本質的にあったのではないかと思います」

 タカハシ記者は日本のワクチン接種の遅れと国産ワクチン開発スピードの遅さを尋ねた。対して尾身茂は「日本の国内でも、実はもう御承知のように、ワクチンの生産を今、始めているわけですよね」とは言っているが、製薬会社や研究所の5組織程が開発に関わっているが、政府の資金を2、3百億と得て、最短で2021年3月から臨床試験開始の意向とか、2021年末までに3000万人分の生産体制構築の目標等を掲げているのみで、臨床試験用のワクチンは生産しているだろうが、効果の承認を受けて、本格的生産に至ることができるのかどうかの保証もない状態にあるのだから、尾身茂の答弁は一種のペテンに過ぎない。

 但し日本のワクチン業界はグローバルスケールが小さく、欧米の競争力と比べた場合、劣るといった趣旨で一応はワクチン開発のスピードの遅さの理由については述べているが、菅義偉は「日本のワクチン研究にも国として支援をしていることは事実であります。しかし、現実的にはまだまだ遅れているということであります」と、なぜ遅れているのかの理由には答えずに表面上の遅れのみを言ってかわすペテンを演じている。

 その上、国産ワクチン開発の遅れをカバーできるはずもないのにカバーできるが如くに「このワクチンの確保は、日本は早かったと思います」と早かったことを以って得点とするトンチンカンは大失態を糊塗する愚かしい論理に過ぎない。

 この「早かった」は厚労相田村憲久が2021年1月20日に記者団に対してファイザーとの間でワクチンが日本国内で承認されることを前提に年内に7200万人分にあたる約1億4400万回分の供給を受ける契約を正式に結んだと発表したことを指す。ワクチン確保の契約が「早かった」ことが欧米と比較したワクチン開発の遅れと接種開始の遅れをカバーできる理由とはならない。

 菅義偉は接種の遅れに関しては国会でも答弁している。

 2021年2月17日衆議院予算委員会

 長妻昭「私も多くの方から色んな聞かれることが多いんですね。その中の一つにですね、素朴な疑問として欧米に比べて何で接種が遅れたんだろうと、こういうことがよく聞かれて、担当の大臣からはですね、色んな河野大臣や田村大臣から色んなお話はこれまであったと思うんですけども、全体を統括する総理としてですね、総理の口からこういう理由だから遅れているんだというのを分かりやすく、今日初めてでございますので、総理の口からご説明頂ければ、ありがたいと思います」

 菅義偉「私自身も早くならないかということで何回となく厚労省始め、関係者と打ち合わせをしました。色んな中で先ずワクチン承認が諸外国と較べて遅い。こうした分析があります。

 我が国は欧米諸国と比較して感染者数は一桁以上少なく、治験での発症者数が集まらず、治験結果が出るまでにかなり時間を要する。これが先ず一つ。

 また一方、ワクチンは人種差が、これ想定されて、欧米諸国の治験データーのみで判断するのではなくて、やはり日本人を対象者とした一定の治験を行う必要があると。さらに有効性・安全性に配慮した結果、時間を要したことは事実だというふうに思います。

 そうした様々なご指摘を真摯に受け止めてさせて頂いて、何とか今月(接種が)始まりますので、ある意味慎重にではありますけども、遅れを取り戻すような多くの国民の皆さんに1日でも早くですね、摂取できる環境をしっかりつくっていくのがこれは政府の責任だと思っています」

 菅答弁で抜けていることは外国産ワクチンに頼ったことが接種遅れの原因の一つになっているということである。勿論、効果の承認を受けた国産ワクチンは未だ一つとしてない。だが、果たして国産ワクチン開発の有効な政策の構築という目は皆無だったろうか。


 この答弁はまた、菅自身が気づいていたのかどうか分からないが、気づいていなかったとしたら、鈍感過ぎるが、そのまま国産ワクチン開発の遅れの理由と重なる。

 「NHK NEWS WEB」記事、「新型コロナ ワクチン接種 海外は開始 日本は2021年2月下旬以降か」 

 2020年12月28日の記事である。この記事の中に「国産ワクチン 開発の現状は?」と「国産ワクチンの効果 確認が難しい?」の中見出し付きでそれぞれに解説が加えられている。前者は省略、後者のみの全文を取り上げてみる。文飾は当方。

 国産ワクチンの効果 確認が難しい?

ただ日本で行う臨床試験には課題があり、欧米や南米などと比べると感染者の数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が各国に比べると低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しいと指摘されています。

また、今後海外メーカーのワクチンが国内で広く接種されるようになると、感染者の数がさらに少なくなったり、多くの人が免疫を持ついわゆる「集団免疫」の状態に近づいたりして、臨床試験で予防効果を確認する難しさが増すのではないかという指摘もあります。

このため国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構は、国内で少人数を対象に行う初期段階の臨床試験を終えたあとは、海外で大規模な臨床試験を行うことも選択肢の1つだとしています。

 この国産ワクチン開発が抱えている困難な条件を伝えている記事前半は上記2021年2月17日衆議院予算委員会で菅義偉がワクチン接種の遅れについて述べたこととほぼ重なる。本来なら、菅義偉は国産ワクチン開発の遅れにも留意が必要だったが、タカハシ記者から日本のワクチン開発の遅れについての質問を受けていながら、「ワクチンの確保は、日本は早かったと思います」と言い抜けるのみで、開発遅れについての留意は見当たらない。

 では、菅義偉が「ワクチン承認が諸外国と較べて遅い」と言っていたことの現状を次の記事から確かめてみる。

 「ファイザー日本法人、日本で新型コロナワクチンの治験開始」(化学工業日報/2020年10月21日)
  
 記事冒頭、〈ファイザー日本法人は2020年10月20日、新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」の日本国内第1/2相臨床試験(P1/2)を開始したと発表した。〉と伝えている。

 20~85歳の健康成人を対象とする日本人160例を登録し、21日間隔で2回接種して、安全性や免疫原性などの評価を行う。この国内第1/2相臨床試験(P1/2)と海外で実施中のP2/3(第2/3 相臨床試験)データを合わせて日本で承認申請を行う方針だとしている。

 このような国内での治験の結果、2020年10月20日の日本国内に於ける治験開始後から約4ヶ月近く経った2021年2月14日に厚労省はその有効性に基づいて「特例承認」とし、国内初の新型コロナワクチンとして正式承認、2021年2月17日から医療従事者を対象とした先行接種の運びとなった。

 ファイザーは2020年7月から米国など6カ国で4万人超を対象に国際共同治験を実施、英政府が他国に先駆けて2020年12月2日に承認している。要するに国際共同治験開始から英国の承認までに約5ヶ月がとこを要している。と言うことは、ファイザーの日本国内治験開始から承認までの約4ヶ月近くとさして変わらない。この近似値は国際共同治験対象が4万人超であることに対して日本人の治験対象が160例と少ないことと、既に国際共同治験で実績を上げていたことから考えた場合、日本での治験結果獲得に日数が掛かり過ぎているように見えるが、上記NHK NEWS WEB記事が指摘しているように、〈欧米や南米などと比べると感染者の数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が各国に比べると低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しい。〉ことが影響していた可能性がある。

 結果として国際共同治験に日本人は治験対象に加えて貰えずに日本国内の治験が後回しにされて、菅義偉が言っているように「ワクチン承認が諸外国と較べて遅い」と状況が生じたのだろうか。

 但しいずれにしても人種差は認められなかった。認められたなら、日本国内での承認を受けることもできなかったし、接種開始に至ることもなかった。

 だとしたら、安倍政権にしても、菅政権にしても、ファイザーの国際共同治験方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるような政府援助を伴ったワクチン開発政策を構築できなかっただろうか。

 例えば国産ワクチン開発の塩野義製薬が国内2例目の臨床試験を開始したと伝えている「NHK NEWS WEB」(2020年12月16日)記事を見てみる。1例目となる臨床試験は2020年6月に大阪大学発製薬ベンチャー「アンジェス」(大阪)が行っている。

 塩野義製薬の臨床試験開始は2020年12月16日。214人の健康な成人が対象。ワクチンに似せた偽の薬、偽薬のどちらかを3週間の間隔をあけて2回投与し、1年間にわたって追跡して評価する。この治験は第1/2相臨床試験を指す。1年間追跡後に効果が証明されたなら、第3/4相臨床試験に着手ということなのだろう。この第3/4相臨床試験から承認に至るまでに一定の日数を要することになる。ファイザーが2020年7月から国際共同治験を開始し、約5ヶ月後の2020年12月2日に英政府が承認したスピード感とは桁違いの遅い様相となっている。

 このスピード感も最初のNHK NEWS WEB記事に書いてあるように日本人感染者数が欧米や南米と比較すると極端に少ないことと、、臨床試験参加対象者が感染する可能性が各国に比べると低いことといったことが影響しているのだろうか。

 アンジェスが2020年6月に国内治験開始後の約6ヶ月後の2020年12月18日に米国で第1相臨床試験(P1)の開始を発表したと2020年12月21日付「化学工業日報」が伝えている。

 〈安全性などが確認されたら、中等症~重度の新型コロナ患者を対象としたP2へ進める。P2で良好な結果が得られれば、米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する予定。米国の進捗を見ながら、日本でも開発を検討する。〉と記事は解説している。

 この米国での第1相臨床試験(P1)の開始は記事が解説しているようにアンジェス単独の開発ではなく、カナダのバイオベンチャー、バソミューン・セラピューティクスとの共同開発となっていることから、米国を臨床試験の場所として選んだ可能性が窺うことができる。例え事実は異なっていても、多人数の治験対象者を望むことができる米国で第1相、第2相と効果を確かめつつ、承認を視野に入れた段階で日本国内でも続きの第2相臨床試験を行って、承認に持っていくという計画を立てていることが予想される。

 ファイザーの国際共同治験方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるような政府援助をなぜしなかったのだろうか。

 つまりアンジェスは日本国内で第1相臨床試験を開始したものの、米国で改めて第1相臨床試験を開始、第2相を経て承認まで持っていき、成果としたその技術の効果を日本人でも試して、米国内の承認だけではなく、国内承認を獲得する。

 となると、国外から攻めて日本国内の承認に漕ぎつけたファイザー方式と殆ど変わりはない。アンジェスが行った日本国内での第1相臨床試験をファイザーが省き、後回しにした点の違いのみで、アンジェスにしてもこの点を省いて、最初から米国での臨床と承認に的を絞っていたなら、開発のスピードは格段に上がっていたはずである。

 だとしたら、安倍政権にしても、菅政権にしても、ファイザー方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるようにワクチン開発の政策を立て、政府援助していたなら、国産ワクチン開発の遅れや接種の遅れを国会や記者会見で追及される恐れは最小限度に抑えることも可能となったはずである。

 こういったことが安倍内閣・菅内閣の国産ワクチン開発政策の大失態の答である。安倍晋三は記者会見で、「政府としても一日も早く皆さんの不安を解消できるよう、有効な治療薬やワクチンの開発を世界の英知を結集して加速してまいります」とか、「私たちは自由民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的な価値をしっかりと堅持していく。そしてこうした価値を共有する国々と手を携え、自由かつ開かれた形で、世界の感染症対策をリードしていかなければならないと考えます」と、安倍晋三自身がさも実効性の実力を備えているかのように見せかけることもなかっただろうし、

 菅義偉が記者から日本の国産ワクチン開発の遅さと接種の遅れを指摘されたのに対して「ワクチンの確保は、日本は早かったと思います」などと、このことを以って国産ワクチン開発政策の大失態の代償とすると同時にその大失態を糊塗する愚かしい論理とする必要性も生じなかったはずだ。

 国産ワクチンを早期に開発できていたなら、日本時間の2021年2月26日夜のオンライン開催のG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議で麻生太郎が「低所得国にもワクチンがきちんと配布できるよう資金を出し合って、サポートしなければならない」などと今更ながらに言う必要はなく、ファイザーの日本に回したワクチンを低所得国に回す余地も出てくる可能性は疑い得ない。

 菅義偉が「第75回国連総会における菅総理大臣一般討論演説」で、「第一に新型コロナウイルス感染症から命を守るために治療薬・ワクチン・診断の開発と途上国を含めた公平なアクセスの確保を全面的に支援していきます」と国際公約したことをほんの僅かでも果たすことができていたかもしれない。

 あるいはワクチン担当相の河野太郎が記者会見でワクチンの配送状況を聞かれるたびにファイザー社と合意した供給量の各機関への配送を「EUの(輸出)承認が前提だ」と出たとこ勝負の不安定な保証を振り撒く必要性もかなり減らすことができたはずだ。あるいは高齢者の次の番となる一般国民への具体的な接種時期について、「まだ分からない」などと無計画性を曝け出すこともなかったはずだ。

 全てが国産ワクチン開発政策の大失態から始まっている。当然、河野太郎が言っていることも、結果として大失態を糊塗する愚かしい論理から否応もなしに発していることになる。

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菅義偉長男菅正剛による総務省幹部官僚接待疑惑は安倍晋三森友疑惑と同じ構造の可能性 菅義偉への忖度が便宜付与の動機か

2021-02-15 09:24:48 | 政治
 森友学園理事長籠池泰典が安倍晋三妻安倍昭恵を国有地格安購入疑惑が問題になるまで森友学園ホームページに学園新設予定の小学校名誉校長として紹介していたのは安倍昭恵の背後に控えている首相安倍晋三への忖度が国有地売却側の財務省の役人に働いて、売却が有利に進むことを期待してのことだろう。

 「文春オンライン」が2021年2月3日付で、〈総務省の幹部らが、同省が許認可に関わる衛星放送関連会社に勤める菅義偉首相の長男から、国家公務員倫理法に抵触する違法な接待を繰り返し受けていた疑いがあることが「週刊文春」の取材で分かった。〉と報じた。翌日衆院予算委で立憲民主党の黒岩宇洋(たかひろ)がこの接待疑惑を取り上げ、菅義偉を追及した。

 2021年2月4日衆院予算委員会 

 要所要所に青文字で大したこともない解説を入れていくことにする。

 黒岩宇洋は質問冒頭、「総理は先日緊急事態宣言の延長を決定した。国民にはさらなる自粛を、行動の制約をお願いした。その中でコロナを克服するためには政府に求められるのは国民からの信頼だと思う。この一年以上、安倍政権、菅政権に於いて不祥事が重なり国民からの信頼を損ねている。一昨年の菅原経産大臣、公職選挙法の疑いがあるということで大臣を辞職した。

 次に河井克行法務大臣、公職選挙法で起訴され、裁判中です。妻の河合案里参議院議員も巻き込んで、前代未聞の大掛かりな選挙買収という状況になった。そのあとは桜を見る会、これは1年を経って、昨年秋からこの問題を巡って前総理の公設秘書が政治資金規正法違反で起訴、有罪になった。安倍前総理自らも退陣して3ヶ月で検察から事情聴取を受けた。正直、国民からも失望の声が上がった。

 これも昨年になるけども、IR汚職、秋元元内閣府副大臣が逮捕、起訴された。昨年夏には鶏卵事業者の問題で吉川元農水大臣がこれも起訴された。年明けになって、直近では与党の複数の議員が銀座でハシゴ酒。本当に国民の信頼をどんどん失墜させている云々と菅義偉たちにとっては痛くも痒くも感じないことを長々と前置きしてから、目的の質問に入る。

 黒岩宇洋「今日お聞きするのは私は本当に恐縮で残念なんですけども、総理ご自身のご長男、放送事業会社に勤めているということが報道されていますが、本来原則では接待することが禁止されている、そんな所管官庁である総務省に対して総理のご長男が接待したという、こういう疑惑が出てきました。
 
 私は総理に誠意を持ってこの事案についての説明をお願いしたいと思います。これ、総理の著書、敢えてコピーを持ってきましたが、ここに書いてある、『国民の「当たり前」私が実現する』、今日、総理、あくまでも『国民の「当たり前」というモノサシでですね、自己不信(?)や官僚の答弁のようではなく、きっちりと国民に向けて説明して頂きたいとおもいます。

 先ず総理、今日発売された、総理のご長男の事案となっている週刊誌、お読みになられましたか」
 
 菅義偉「全体像は掌握しています」

 「全体像の掌握」ということなら、週刊誌は菅長男接待疑惑を報じているのだから、長男が不法な接待主側に立たされていることは承知していることになる。

 黒岩宇洋「お読みになられたのか、巻頭のグラビア写真等はお読みになられたのか、簡単にお答え願います」

 菅義偉「それは見ていません」 

 黒岩宇洋「モノクロの巻頭カラー(?)で、トップ。そこでですね、目を目隠ししていますけど、総務省の高級官僚に、今日ですね、週刊誌を資料として出したいと言ったのですけども、理事会で拒否されたんで、残念ながら、うん。

 で、口頭で説明するご無礼を国民の皆様にはご容赦頂きたいと思います。黒目隠しが入って、長髪の方で、タクシーチケットを総務省官僚に渡していると思しきこの方はどなたですか」

 菅義偉「それは分かりません」

 黒岩、自席から「えっ」と声を上げる。

 黒岩宇洋「今、総理、週刊誌のグラビア写真もご覧になったと仰いましたよね。これ、総理のご長男、指摘されている方ですよ。それはご長男だったのか、そうではなかったのかお答えください」

 菅義偉は「全体像は掌握しています」と言ったのであって、巻頭のグラビア写真等は「見ていません」と答えている。「ご長男が接待疑惑をかけられていることは承知しているんですね」という場所から追及を進めていくべきを回り道ばかりしている。

 菅義偉「正直言って、そうかどうかは分かりません」

 黒岩宇洋「総理、国民の当たり前でいきましょうよ。自分の息子が、しかもかくかくしかじかときっちりと背景を説明されて、写っている写真。だったら、その方が自分のご子息かどうか、ご子息に確認されたんですか」

 菅義偉「確認はしていません」

 黒岩宇洋は菅義偉が「どう全体像を掌握しているのか」と問うべきだったろう。否でも週刊誌が菅長男を接待疑惑の主役と目していることに触れざるを得ない。

 黒岩宇洋「報道によりますと、我々の驚くべき事実が書かれているんですよ。昨年の10月7日、そして12月の8日、10日、14日と立て続けに霞が関総務省のナンバーツー以下、ちゃんと幹部官僚が接待を受けていた。

 では、ここで報道されている12月14日、これは総理がステーキ会食をして猛省をされた日です。けども、これ昨日事前通告して、ちゃんと事実確認してくださいと総理にお願いしたんです。総理のご子息は高級官僚と何をされていましたか」

 菅義偉「先ずですね、関わった者が誰であったか、国民の皆様から疑念を抱かせることがないように総務省がしっかりと事実関係を確認した上で、ルールに則って対応して欲しいというふうに思っています。先ずお尋ねが私の親族であるとは言え、公的立場ではない一民間人に関するものであります。本人や家族の名誉、プライバシーに関わることであり、本来このようなことでお答えすべきことでは私はないと思います。

 ただ週刊誌に民間会社に報道にあるように勤めていることは事実であります」

 あくまでも把握している「全体像」には触れないようにしている。下手に触れたなら、自身と関連付けられることを恐れている可能性はある。

 総理大臣ともなると、その権威は周囲の人間までが身に帯びることもある。例えば首相の国会議員初当選時代からの長年の政策秘書ともなると、その地位にあるというだけで地元の市長や県知事よりも権勢を振るう者が出てくる場合もあるし、首相との関係を利用して、その権威を自己評価を高める道具に代えて、自分を売り出す者も出てくる。勿論、好むと好まざるとに関わらず、親族は首相の権威を身に纏うことになって、首相の身内の誰々さんだと手厚いもてなしを受けたり、畏れ多い扱いを受けたりする。特に権威主義を行動様式・存在様式としがちな日本人は何かと上の権威に対して自分の方から勝手に有り難ったり、畏れたりする傾向に囚われがちとなる。こういった上の地位の人間を畏れ多い存在だと見る上下関係が往々にして忖度という一方的な義務行為を生じさせることになる。

 いくら菅義偉が長男は「公的立場ではない一民間人」だと言っても、長男を相手にする総務省の役人たちが長男の背後に菅義偉の存在を全然見ないという保証はない。もし長男と菅義偉を切り離すことができなかった場合は忖度という心理的作用が働く余地を自ずと抱えることになる。2月4日にマスコミが長男接待疑惑を報じた次の日の2月5日にTwitterに次のような投稿をした。

 〈安倍昭恵の友人たちに対する「私の肩書を自由に使って」云々は安倍晋三の虎の威を借りた首相夫人としての肩書が持つ権威が周囲を従える効き目があることを知っていたから。菅義偉の息子が別人格であっても、父親の持つ権威が息子自身を優越的立場に置くベースとなっていなかったかどうかが問題。〉

 黒岩宇洋「ちょっと総理、勘違いされていると思いますね。何か自分の身内だから公私混同、公の立場ではなく、私人のことって言うんですが、この疑念・疑惑は私人にかけられたものではなくて、菅政権そのものにかけられた疑念・疑惑なんですよね。これを払拭するためにその事実関係を知り得る方が身近にいらっしゃったら、その方に総理としてお聞きすることがある意味当然なことじゃないんですかという趣旨で質問しているんです。

 12月14日、これは報道によりますが、総理のご長男は高級寿司店で会食されていたということでございます。父親は高級ステーキ店で会食をした。ご子息は高級寿司店で会食をした。こうしたことが事実だかどうか、本来、確認したいと思いませんか、総理。例えば事実でないんなら、ご子息に確認して、総理は昨日から、もっと言えば、おとといからネット報道されてから、ご子息と直接、ないしは電話で話をされていますか」

 「菅政権そのものにかけられた疑念・疑惑」だとしているなら、菅長男を介して総理である菅義偉個人に対する忖度が総務省官僚をして衝き動かすことになった菅長男に対する接待を伴った何らかの利益供与の形で現れた「疑念・疑惑」とは見ていないことになる。但し安倍政権の間に政治の疑惑や不祥事に対して役人側が協力して文書を改竄したり、破棄したりしたように総務省の接待疑惑が菅政権に波及しないように口裏を合わせて疑惑自体を隠そうとしていると見ているなら、その疑いを口に出さなければ、「菅政権そのものにかけられた疑念・疑惑」だと根拠づけることはできないし、口で言っているだけと受け取られることになる。

 菅義偉「電話では確認をしました」

 黒岩宇洋が少し前に「写っている写真。その方が自分のご子息かどうか、ご子息に確認されたんですか」と質問したき、菅義偉は「確認はしていません」と答えている。要するに目のところに黒のモザイクが入った写真の主については確認しなかったが、週刊誌が報じている接待疑惑につては自身の長男が標的にされていることを知って、「電話では確認をしました」ということになる。となると、やはりどの程度に「全体像」を把握しているのかを、菅義偉自身の神経を逆撫でしてイライラとさせるためにも聞くべきだったろう。

 黒岩宇洋「では、その接待は事実かどうか、これについてご子息からお聞きになったことをお伝え下さい」

 菅義偉「接待と言うよりも、私は調査が入ったら、事実関係に対してそこは協力するようにということは申し上げました」

 あくまでも掌握しているという「全体像」に於ける細部には触れないようにしている。不法接待を議題に長男を語ることも、語ることによって自身と関連付けられることも避ける自己防衛意識が働いているからだろう。

 身近な周囲が疑惑を否定しても、その否定が事実かどうかの調査が入る。肯定すれば、なおさらのことに具体的な経緯を知るためと再発防止のために調査が入る。菅義偉の「調査が入ったら」は調査を覚悟している言葉となるが、疑惑の否定を成功させるためには総務省の役人との口裏合わせという連携プレーが必要になる。この場合、長男の背後にいる菅義偉に対する忖度が連携プレーを確かなものとするかどうかの鍵を握ることになる。

 黒岩宇洋「私はね、ちょっとこれも常識とは残念ながら、かけ離れているのではないのかと。一般の親子、まさに国民の当たり前から言えばですね、息子さん、こんだけ報道されて、公知の事実としてこういった疑惑を持たれたときにそれはやっぱり詳らかに話を聞いて、そして今度は総理として今度はしっかりと国民に伝える。

 これは国民の当たり前だと思うんです。その上でですね、総理が、私が冒頭申し上げたとおり、こういった疑念、それについて事案に私は誠実に丁寧に答えているとはなかなか思えない。

 この点についてさらに何点か話を進めてお聞きしたいと思います。今日ですね、接待を受けたとされる4人の官僚のうち、残念ながら総務省の審議官のお二人は出席を拒否されました。今日いらっしゃっている秋本芳徳総務省情報流通行政局長、いらっしゃっていますか。

 じゃあ、局長、お聞きします。(2020年)12月10日、六本木の小料理屋で総理のご子息から接待を受けたのはこれは事実ですか」

 秋本芳徳「お答えいたします。会食をさせて頂いたことは事実でございます」

 黒岩宇洋「会費はご自身で支払われましたか」

 秋本芳徳「お答えいたします。当初出席者の中に利害関係者がいないと認識しておりましたため、自己分の負担を行っていませんでした。事後に取材を受ける過程で出席者の中に東北新社の社員であると共に利害関係者であると思われる子会社の社長等を兼ねている方がいることが判明いたしましたため先ず確認できる範囲での返金を行っています」

 「当初出席者の中に利害関係者がいないと認識しておりました」。つまり2020年12月10日の面会の時点では初対面だったことになる。でなければ、事後の取材で「利害関係者であると思われる」人物の存在を知ることにはならない。

 但し初対面の場合であっても、高級官僚が外部の人間と会合を持つ場合、会合の約束を取り付ける段階で相手がどこの誰と分かっているはずだし、顔を初めて合わせた段階で双方共に名刺を出しながら、自己紹介し合うごくごく一般的な儀礼をこなすものだが、誰と合うのかも分からずに待ち合わせ場所にのこのことでかけたことになるし、自己紹介も名刺交換もせずに飲食の伴う会合をこなしたことを意味することになる。

 つまり少なくとも役人側は相手の氏素性を知らないままに一定時間の会合を持ったことになる。一杯屋でカウターに隣り合った者同士がお互いに相手の素性を知らないままに酒を酌み交わし、お喋りにいっときの時間を費やすということはあり得るが、ここで取り上げられている飲食に関しては秋本芳徳がウソをついていることによってのみ、こういった場面が成り立つ。当然、
「当初出席者の中に」云々は出てこない。

 さらに秋本芳徳は
「事後に取材を受ける過程で出席者の中に東北新社の社員であると共に利害関係者であると思われる子会社の社長等を兼ねている方がいることが判明いたしました」と言っているが、黒岩はここで「どういった利害関係に当たるのか」と聞かなければならなかった。「利害関係者であると思われる子会社の」云々では秋本芳徳自身はこの期に及んでも利害関係者かどうかははっきりとは把握していないことになるからである。

 黒岩宇洋「簡略化して再度お答えください。要はその日は自分では一切お金を払わずにご馳走になったということでよろしいですね」

 秋本芳徳「事後的に額、確認できる範囲での額を確認致しまして、振り込みをさせて頂きました次第であります」

 黒岩宇洋「その日は払っていないわけですから、ご長男からご馳走になったということでよろしいですね」

 相手の戦法は「当初出席者の中に利害関係者がいないと認識」していたためにご馳走になったが、後で分かったから、返金した。何も問題はないと無実を主張するもの。ご長男と審議官が最初から利害関係にあることを相互に知っていたという両者の関係を確定しなければ、黒岩宇洋の追及は空回りすることになる。当然、利害関係者がいるとは知らなかったとする言葉のカラクリを見破らないことには事は始まらないことになる。

 加計学園獣医学部新設に向けた安倍晋三の便宜供与疑惑が生じたとき、2015年4月2日に首相秘書官の柳瀬唯夫が首相官邸で愛媛県と今治市の職員と面会したかどうかが疑惑解明のカギと目されたものの、2018年5月10日午前中の衆院予算委員会に参考人招致された柳瀬唯夫は面会者が大勢いて、中に県市職員が混じっていたのに気づかなかった、名刺交換しなかったのかと問われて、保存してある中には加計学園関係者以外の名刺はなかったからと暗に名刺交換はしなかったかのように答弁させただけで追及を見事免れさせてしまった失敗を野党は教訓にしていないらしい。


 秋本芳徳「確認できる範囲で返金を行わせて頂いた次第でございます」

 黒岩宇洋「えー、タクシーチケットは先方から貰ったのか、お土産もタダで貰ったのか、事実をお答えください」

 秋本芳徳「飲食代やタクシー代も当初はご負担を頂きました。事後的に返金をさせて頂きました」

 黒岩宇洋「総理、人から食事や飲食をご馳走になって、お土産までタダで貰って、タクシーチケットまで出して貰う。これ、我々は接待と言うんですが、総理、如何ですか」

 総務省役人に対して接待主が当初から利害関係者であると承知していたという言質を取らない限り、「我々は接待と言うんです」は蚊に刺された程度の打撃しか与えない。

 菅義偉「私自身、全く承知しておりません。それが息子であれ、誰であれ、それに関連してご指摘のような不適切なことがあったかどうかについてはしっかりと関係者の中で対応して貰いたいというふうに思います」

 菅義偉にとって長男の対総務省官僚接待疑惑がどのような形であれ、自身と関連付けられることは認めるはずはない。となると、やはり把握しているという「全体像」がどの程度に把握しているのか、どのような意味づけをしているのか、問わなければならないことになるが、黒岩宇洋は問わないままに遣り過している。

 黒岩宇洋「会食、お金を返したと言いますが、これ一般的にですと、皆さん聞いてください。モノを盗りました、あとで返しました、無罪放免。そんな話が通るんだったら、刑法も何も要らなくなっちゃう。お返しになったと言いますが、局長、いくら返したんですか」

 秋本芳徳「お答え致します。具体的な返額の妥当性も含めて、現在、調査を受けている最中でございまして、この場でのお答えを差し控えさせて頂きたいと思っています」

 黒岩宇洋「返したからいいでしょうと言っても、いくら返したのか、それも言えないと。これ、この接待の疑惑に対して何をどう説明しようとしているのか。

 じゃあ、これ、局長にお聞きしますけども、この一緒に会食をした総理のご長男はこれは総務省にとっての利害関係者ですか」

 秋本芳徳「お答え致します。今ご指摘の点も含めて、今後(国家)公務員倫理審査会(人事院設置)等に於いて調査が進められると承知をしておりまして、この場でのお答えは差し控えさせて頂きたいと思っております」

 秋本芳徳が「当初出席者の中に利害関係者がいないと認識しておりました」と答弁したときに素早く食いついて、「事後に取材を受ける過程で出席者の中に東北新社の社員であると共に利害関係者であると思われる子会社の社長等を兼ねている方がいることが判明いたしました」と既に答弁していることを根拠に利害関係者であることを既成事実に持っていかなければならなかったはずだが、その機を逸した以上、この発言を再度持ち出して、「お答えは差し控えさせて頂きたい」を無効にすべきだったが、その機会さえ逃してしまった。

 黒岩宇洋「局長ね、おととい2月2日ですよ。局長は12月10日飲食したんだけれども、これは利害関係者と割り勘で飲んだときにのみに提出する1万円以上、会費がかかった届け出を事務次官宛に出しているじゃないですか。

 これ、利害関係者と飲んだときだけ出す届けですよ。何で出したんですか]

 「国家公務員倫理教本」(国家公務員倫理審査会)

 1万円を超える飲食の届出(倫理規程第8条) 自分で費用を負担するなど、利害関係者の費用負担によらずに利害関係者と共に飲食をする場合において、自分の飲食に要する費用が1 万円を超える場合は倫理監督官へ事前に届け出なければなりません。

 ただし、やむを得ない事情により、事前に届出ができなかった場合は、事後速やかに届出を行わなければなりません。
 
 なお、届け出る内容は、各府省等の倫理監督官が定めています。


 秋本芳徳「お答え致します。先ず基幹放送事業者として認定を受けております放送事業者につきましては利害関係者に該当を致します。会食相手の一部の方は役員を兼務していおられましたことから、外形上、利害関係者に該当する疑いがあると考えまして、事後的な報告を行わせて頂きました。
 
 但し利害関係者に該当するか否かにつきましては個別の判断を要するということで今後、総務省の大臣官房、そして人事院、公務員倫理審査会による事実確認が行われると認識おりまして、私はその調査を受ける立場(うまく誤魔化していると思ったのか、フッと笑う)でございます。その調査に真摯に対応してまいりたいと思います」

 あくまでも「当初出席者の中に利害関係者がいないと認識しておりました」の既成事実化を目論んでいる。黒岩宇洋はこの既成事実化を如何に破るかに追及の成否がかかることになる。

 黒岩宇洋「どうも私、事前の説明を聞くと、要は東北新社は直接、放送事業の許認可権は(利害関係者に)該当しないと。その子会社、これは総理のご長男が取締役をしている。これは登記簿にも載っておりますけども、ここは利害関係者だと。

 要は東北新社、親会社だったら、利害関係者ではないですよという説明のようなんです。ここで人事院、事務局長、人事審査会の事務局長に来て頂いていますが、これね、利害関係者とは何ですかと、これは倫理規定に定義はしっかりとされています」

 ここで黒岩は「国家公務員倫理規程」を持ち出して、2条に1号から8号まであるの、1号の1から5まではどうのと関係もしない講釈を垂れるムダを費やしから、目的としていた6を持ち出して、必要とする質問を行う。取り上げて、書き記す価値もないから、省くことにした。

 黒岩宇洋「そこで確認しますけども、この所管する業界というのはこれは役所用語で言うところの所掌する業界という理解でよろしいでしょうか」

 荒井仁志(国家公務員倫理審査会事務局長)「お答え致します。倫理規定2条1項6号に於ける各省が所管をする事務のうち、事業の発達・改善・調整に関する事務に関してその相手方となる事業者を利害関係人とするでございます。いわゆる省庁が所管する事業に於いて事業を行う企業といったものとなります」

 要するに黒岩は「省庁に於ける利害関係者とはどのような定義となっているのか」ということと、特定の業者に限定した場合の東北新社、あるいはその子会社は総務省にとって利害関係者に当たるのかどうかを聞くだけで済んだ。

 黒岩宇洋「ちょっとペーパー読まれたんでね、私、事前に人事院に確認して、所管と所掌と一緒かと。一緒だと、要は所管とは簡単に言ったもので、本来は所掌と。そうすると、総務省の設置法、これ第4条、所掌事務というのは96項まであるんですよ。総務省の所掌事務第4条の60号にですね、『電気通信業及び放送業の発達、改善及び調整に関すること』

 許認可とか免許とか何も書いていない。『放送業の発達、改善及び調整に関すること』。これは所掌ですよ。所管です。業界って、こんなに広いんです。で、今申し上げた東北新社の定款を取り寄せると、この定款、総則ですね、第2条、これ目的です。第9項にもっと細かく書いてある。放送法に基づき基幹放送事業及び一般放送事業と。
 
 これをやるんだと。こうなると、明らかに総務省の所管は放送業であって、この東北新社は放送業を営んていると。これは間違いなく政治倫理規定が指名している、これは利害関係者です。利害関係者から接待を受けるのはこれは政治(倫理)規定違反、アウトなんです。懲戒対象、国家公務員法倫理規定法違反です。

 総理ね、総理聞きますけども、総理も総務大臣をやっているわけですから、この放送業のエキスパートですよ。この業界の人だったら、東北新社というだけで、当然ね、もうCSチャンネルやっていると。そういう業者だって、もうこれ、ある意味、常識じゃないですか。如何ですか」

 「Wikipedia」によると、黒岩宇洋は中退しているものの東大に入っている。頭がいいと、回りくどい質問をしなければ気が済まないらしい。

 菅義偉「それは分かりません」

 黒岩宇洋「今日、時間ないんで、あれですけど、そもそもね、総理は総務大臣のときに息子さんを20代半ばに総務大臣秘書官に採用しましたね。任命しましたね。その事実関係をお答えください」

 菅義義偉「任命をしました」

 黒岩宇洋「総理ね。総理はここのところ世襲批判をしていますけども、世襲でも選挙を通らなければ、バッジは付けられないですよ。だけども、総務大臣秘書官というのは任命したら、すぐそのまま25歳でも政務秘書官ですからね、私は世襲より遥かに甘いことをやっている。どうも総理は言っていることとやっていることと真逆のような気がする。

 国民に対してもこんなに厳しいことを言いながら、今日聞いていても、自分の親族や家族や、そしていま一番近いと言われている総務省を庇っているとしか思えない。どうも言っていることとやっていることに逆だ。

 で、今申し上げたとおり、総理のご子息は総務大臣政務秘書官という総務省の重責のポストを経てから、この東北新社に行ったわけですから、これは当然、総理だって東北新社のことは息子を含めて、企業ですから、これが分からなかったというのは国民の当たり前とかけ離れていると言わざるを得ないでしょう。

 この倫理規定違反、今後も詰めていきますけども、そこで総理、やっぱり国民にとって非常に不思議な話。総務省のナンバーツーって言ったら、なかなか会うことができない、一般の国民は、我々国会議員だって本当に相手が忙しければ、局長クラスでも30分で退席ですよ、それが年末に1週間で3回、10月にはナンバーツーの総務省審議官が2時間45分も会食している。

 何でこの人達はこんなに総理のご子息とここまで会食したのか。思い当たる理由、目的をお答えください」

 菅義偉「先ずですね、秘書官にすることにどうしてここはルールの元に秘書官にしてるんです。世襲制限というのは私は言い続けてきました。息子3人いますけども、政治家には誰もしません。これは了解をしています。それと今40代ぐらいですよ。私は殆ど会っていないですよ。それは私は全く承知していませんが、それが息子であれ、誰であれ、それがご指摘なようなことがあったら、あったかどうかというのはやはりしっかり調査して貰う必要があるだろうというふうに思います。

 いずれにしろ、私自身は自分の政治信条として世襲制限するということはずっと言い続けてきましたから、そこはやり遂げますし、秘書官やったのは10年以上前のことですよ。東北新社の社長というのは私も秋田の同じ出身ですから、先輩で、もうお亡くなりになりましたけども、そういう色んなご縁があって、応援して貰っていることは事実でございますけども、それと今の私の長男のことと決めつけるというのはそれはいくら何でもおかしいんじゃないですかね。

 私、完全、別人格ですからね。そこは是非ご理解をして頂きたいと思います。私の長男にもやはり家族がいますし、プライバシーも、勿論、これもあると思いますよ。それを長男は長男で会社の一社員ですから、そういう中で言われているような不適切なことがあるかどうかについてこれから総務省の政治倫理ですか、審査会でそこはしっかりと対応して貰いたいと思います」

 菅義偉は現在でも東北新社から「応援して貰っている」。つまり菅義偉と東北新社は深い関係にある。当然、総務省役人は菅義偉が持つ首相としての権威のいくらかを東北新社の子会社の社長をしている菅長男に纏わせて、菅義偉に対する忖度と同時に菅長男に対する忖度を併せ持つ可能性は生じる。と言うことは「別人格ですからね」だけでは済まない問題を抱えていることになる。

 黒岩宇洋「今いみじくも東北新社の社長とのご縁まで仰った。それで先程東北新社は何をしている会社か知りませんと。これがね、国民の当たり前とはかけ離れていると言っているんですよ。

 それでね、私は接待を受けた3人のこの今回のご長男と会食した目的っていうのを総務省から先程返ってきた先ずナンバーツーと言われる総務省審議官、これね、内外の通信事業の動向等に意見交換を行うため、まあ、ちょっと尤もらしいけれども、やっぱりさっき言ったように2時間40分ですよ。で、次に2番目、吉田審議官、ナンバースリーの方、親睦を図るため。今日来ている流通行政局長に至って、本人または親が東北出身者の懇親会。

 こんなものにですよ、今申し上げた接待となったら、懲戒処分となる、自分の身の危険を侵してまで4回も、12月に週3回、しかもコロナ禍でこんなに自粛しているときに駆けつけるというのは一般感覚で言ったら、どうも、今、総理はサラリーマンみたいなことを仰ってますが、やっぱり総理大臣や総務大臣を経験している方の影響が大きいかもしれません。

 こういう疑念を抱かれるから、今日、そういったことはないということをはっきりとみなさんに、これからもですけども、国民の皆さんにまでお伝え頂きたいと思います」

 黒岩宇洋は「やっぱり総理大臣や総務大臣を経験している方の影響が大きいかもしれません」と口にした以上、総務省役人による菅義偉への忖度の力学が働いた菅長男からの接待受諾であり、総務省役人側からの忖度と接待の反対給付としての菅長男に対する放送事業に関わる何らかの便宜供与ではないのかとはっきりとした形の疑惑へと持っていくべきだった。

 菅義偉「いま私は東北新社のことはずっと知っておりますけども、先程の質問はみんなが知っているということじゃなかったですか。私は今ウソを言ったような言い方じゃないですか。

 じゃあ、私自身もですよ、ご指摘のような不適切なことがあったら、それは長男から電話があったときにそれはそうした会社から色んなことを聞かれたら、そこは事実に基づいてしっかり対応するということは申し上げました。

 そういう中で先程東北新社の内容について私は皆さんのことを聞かれたと思いましたよ。東北新社を知っていらっしゃる方は非常に少ないと思いますよ。何をやってらっしゃるか、そこは私が知らないって言ったわけじゃないですから、そこは違ったと思います」

 黒岩宇洋「それは誤解です。私もしっかりと総理宛の質問、これは文、写してきています。この道のエキスパートですから、総理はご存知ですねと私は質問したつもりですし、私は行き違いの齟齬があったら、それは私としては遺憾だと思いますが、少なくとも総理とか私が言ってきた一般の人など(のことについては)、誰も聞いていないですよ。総務省で放送行政を担っている人なら、誰でも分かっているでしょうとそう言ったわけですよ。その人達が分かりませんでしたと(?)。

 総理ね、今後利害関係者かどうかということも同僚議員が詰めていくと思いますが、先ずね、お話聞いて、局長仰った、こういった肩書、公務員ですよ、ホントにね、倫理規定というのは国民に不審や疑念をいだかれないということですごーく厳しくできている。そんな中で平気でこれ1万円以上ですよ、そんなおカネを払わずに飲み代、食べ物代、チケット代、タクシーチケット代、お土産、これご馳走されている。これ適切だと思いますか」 

 菅義偉「まあ、総務省に於いて既に調査開始ということでありますから、国民の皆さんから疑念を抱かれるようなことは絶対しないというルールに基づいてしっかりと対応する必要があるというふうに思います。

 私自身は全く承知しておりませんので、今言われているような総務省に於いてご指摘の会社とどのようなことがあったのかですね、事実を確認をして、ルールに基づいて対応すべきだというふうに思います」

 菅義偉はあくまでも一般論で片付けることを願い、菅長男と総務省役人との間の特定の問題だとすることを避ける巧妙な答弁で片付けようとしている。

 黒岩宇洋「今の質疑をしていてもですね、本当に不可解な分からないことだらけだったと思います。そして残念ながら、総理ですね、国民の当たり前からかけ離れているんじゃないかというのが卒直な印象です。で、今後ですね、この話は総理が主導して速やかに事案解明して頂くことを強く要請して質問を終わらせて頂きます」

 秋本芳徳は接待主に支払ってもらった飲食代等の返金額について「具体的な返額の妥当性も含めて、現在、調査を受けている最中でございまして、この場でのお答えを差し控えさせて頂きたいと思っています」、あるいは黒岩宇洋の総務省にとって菅長男は利害関係者に当たるのかの問に対して「今後(国家)公務員倫理審査会(人事院設置)等に於いて調査が進められると承知をしておりまして、この場でのお答えは差し控えさせて頂きたいと思っております」と答弁拒否しているが、2021年2月10日付「asahi.com」記事がこういった答弁は正当性がないということを2021年2月10日の衆院予算委員会での立憲民主党今井雅人の質問に対する人事院の答弁によって裏付けられたといった趣旨のことを伝えていた。その遣り取りを文字起こししてみた。

 2021年2月10日衆院予算委員会

 今井雅人「総務省の接待疑惑の件で色々と伺わせて頂きたいのですけども、国家公務員倫理審査会というのがありますね。法律(国家公務員倫理法)を読ませて頂きました。規定(国家公務員倫理規程)も色々読ませて頂きました。事前にレクを色々と遣り取りさせて頂いておりますけども、この倫理審査会の元で任意で各省庁にこれからこういう調査をしますという端緒(の報告)が行って、調査(開始の通知)が来て、それから(調査結果の)報告が来る。

 こういう流れだと思いますが、この調査をしている間に国会に(各省庁は調査に関係する事柄の)説明してはいけないという規定がどこにも見当たりません。そういう規定があるのかないのか。そして(人事院は)今回の事案に関してですね、総務省に対して調査の間は今回は説明しないようにというようなご指導をされたかどうか、教えて下さい」

 荒井均(人事院設置国家公務員倫理審査会事務局長)「お尋ねの根拠にお答え致します。倫理法理の中に調査中であることを理由に調査の対象となっている本人が自ら調査している内容について対外的に発言することを禁止した規定はないものと承知をしております。

 また、倫理審査会の方からこのようなご指導を申し上げたことはございません。いずれにしましても、倫理審査会に於いて倫理基準に応じてしっかりと調査を致すことが重要であり、倫理審査会と致しましては任命権者の報告を受けた上で疑義があると考える場合、倫理法に定められた権限に基づき、意見を述べ、再検討を求めるなど的確に対処してまいりたいと思います」

 今井雅人は人事院設置の国家公務員倫理審査会事務局長の荒井均の保証を得て、参考人として出席している総務省官僚に対して「今後お答えできませんなどと言わないで欲しい」と釘を差してから、秋本芳徳総務省情報流通行政局長に菅義偉の長男菅正剛(せいごう)といつから知り合いになったのかと尋ねる。

 秋本芳徳「私が記憶している限り菅正剛さんと知己を頂いたのは2015年以降のことでございます」

 今井雅人「年に1回程食事をされていると伺ってましたが、これは2015年当時から、毎年1回ぐらいは食事をされていたのですか」

 秋本芳徳「2015年以降、年に1回程度でございます」

 今井雅人「最初はどういう場でお会いしたのでしょうか。2015年ですね」

 肝心なことを聞くことができないから、文字起こしやめた。

 上記2月4日の衆院予算委員会で同じ秋本芳徳が黒岩宇洋の質問に答えて「当初出席者の中に利害関係者がいないと認識しておりましたため、自己分の負担を行っていませんでした。事後に取材を受ける過程で出席者の中に東北新社の社員であると共に利害関係者であると思われる子会社の社長等を兼ねている方がいることが判明いたしましたため先ず確認できる範囲での返金を行っています」と答弁したことを今井雅人は頭に入れていなかったらしい。

 要するに2015年当時から総務省官僚は接待主が東北新社子会社社長の菅正剛であり、総務省とは利害関係者であることを承知していて、接待を受けていたが、そのことを隠すために黒岩宇洋の追及にウソを重ねていた。ウソを重ねるについてはただ単に利害関係者から接待を受けていたことを隠すためだけでは済まない。接待に対する反対給付として不正な利益供与、あるいは便宜供与を与えていたからこそ、ウソの積み重ねが必要となる。接待側も何らかの不正利益供与・便宜供与を期待していなければタダで飲み食いさせる接待は行わない。

 問題となるのは総務省側が菅長男と菅義偉を切り離して接待を受け、利益供与等を図ったのか、菅長男の背後に控えている菅義偉への忖度が働いた利益供与なのか、はっきりとさせなければならない。

 また秋本芳徳は2月4日の衆議院予算委員会で黒岩宇洋に対して「お答え致します。具体的な返額の妥当性も含めて、現在、調査を受けている最中でございまして、この場でのお答えを差し控えさせて頂きたいと思っています」、「お答え致します。今ご指摘の点も含めて、今後(国家)公務員倫理審査会(人事院設置)等に於いて調査が進められると承知をしておりまして、この場でのお答えは差し控えさせて頂きたいと思っております」の答弁拒否ができなくなった。その点追及がしやすくなったはずである。このことを 今日、2021年2月15日に開催される衆議院予算委員会で活かすことができるかどうかである。既にNHKで中継放送が始まっている。菅長男接待問題を詰めるために野党はどういった追及の仕方をするのだろうか。鮮やかに詰めることができれば、菅内閣支持率低下に対応して野党の党支持率は少しは上げることができるはずである。

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森喜朗を女性蔑視の権威主義とオリンピズムの根本原則を同居させたままオリ・パラ開催に関わらせるのは日本の恥を世界に曝す行為

2021-02-08 10:38:08 | 政治
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 東京オリ・パラ大会組織委員会会長の森喜朗が2021年2月3日の報道陣オンライン公開の日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で女性蔑視発言をしたとマスコミが一斉に報じた。マスコミやSNSで批判が出尽くしている感があるが、遅まきながら、批判に参入することにした。当方は野次馬根性からの参入。

 「日刊スポーツ」(2021年2月4日7時15分)(一部抜粋)

 森喜朗「これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割(JOCが評議員会理事の女性比率を4割以上とする目標を定めていること)というのは、女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言います。ラグビー協会は倍の時間がかかる。女性が今、5人か。女性は競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局、女性はそういう、あまり私が言うと、これはまた悪口を言ったと書かれるが、必ずしも数で増やす場合は、時間も規制しないとなかなか終わらないと困る。そんなこともあります。

 私どもの組織委にも、女性は何人いますか。7人くらいおられるが、みんな弁えておられる。みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり、ですからお話もきちんとした的を射た、そういうご発言されていたばかりです」

 前段の趣意を解説すると、森喜朗は男性の発言はそれなりに意味があり、価値があるが、女性の発言は意味も価値もないと女性の存在を否定的に見ていて、そのことを女性に対する全体的な価値観としていることになる。だから、女性理事を増やした場合は時間規制して、意味も価値もない発言を最小限に抑えなければならないという答を引き出すことになっている。

 その一方で後段では東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の女性委員はきちんとした的を射た発言をみんな弁えているとの物言いで、意味・価値ある発言を心がけていると評価している。

 後段に重きを置いて森喜朗の女性に対する評価を素直に解釈すると、女性を個別的な価値観で捉えていて、つまり意味・価値ある発言を専らとする女性も存在すれば、意味・価値のない発言に終始している女性も存在しているというふうに女性の存在全体を否定的な価値観で捉えていないように見えるが、だとしたら、女性理事の定員を増やした場合、どんな女性が入ってくるのか分からないのだから、「女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります」と女性を個別的な価値観で捉えることができず、全体的に否定的な価値観で見る評価は口を突いて出てこないことになるが、実際にはそのような評価、否定的な価値観が口を突いて出た。

 大体が「女性がたくさん入っている理事会」云々の発言自体、女性の存在全体を否定的な評価・価値観で捉えている言葉以外の何ものでもない。後段の一見、女性の存在を個別的な価値観で評価しているように見える発言は前段の女性の存在全体に対する森喜朗自身の否定的な価値観を正しいと証明する比較上持ち出した便宜的な評価に過ぎないと見なければ、前後の整合性が取れない。

 前段の否定と女性委員がきちんと的を射た発言をみんな弁えているとしている後段の肯定との間に整合性を与えるとしたら、森喜朗が自身をかつて総理を務め、通産大臣も文部大臣も歴任し、日本ラグビー協会の会長も名誉会長も務めた人間だとしている権威を自身に纏わせていて、その権威を力に下を従わせ、下は森喜朗という上の権威に従う権威主義の力学が意思決定の場では働くことを望んでいるものの、一方ではその権威主義の力学が思うように機能せず、「誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思う」と見る状況が生じ、その一方で権威主義の力学がうまく機能して、結果的に女性が思うように発言できない雰囲気が誘発している女性委員の弁えた態度と解釈しなければならない。

 なぜなら、女性という存在を男性に対するのと違って、ケースバイケースで肯定・否定を混じえた個別的な価値観で捉えることができずに頭から否定的な価値観で捉えて、女性の存在そのものの全体的な価値観と看做す評価を一度でも下している以上、男性の権威は認めて、女性の権威は認めずに、その事実によって女性よりも男性を上の存在に置く、あるいは女性を男性よりも下の存在に置く権威主義から発している森喜朗の態度ということになるからだ。

 こういった権威主義を言葉を変えて言うと、男尊女卑、あるいは男性優位・女性下位、あるいは男性優越主義の思想ということになる。

 森喜朗が持つ経歴上からも、性が男であるという点からも、自分を上に置いて何様と見るその権威主義の力学が自ずと意思決定の場で支配的となり、特に女性は発言は慎重になったり、遠慮がちになったりした場合は森喜朗から見たら、そのような態度は「弁えている」と評価を受けることになり、森喜朗を何様と見ない、それゆえに森自身を上に置く権威主義から自由な女性が自分の意見は自分の意見として闊達に述べた場合は森喜朗から見たら、自身の権威が蔑ろにされ、自身に対するリスペクトのない態度と映って、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」と意味・価値のない発言として処理することになるのだろう。

 男の側が自身の判断に従って女性を個別的な価値観で捉え、相手に応じて肯定・否定の評価を使い分けるのではなく、女性の存在全体を否定的な価値観で統一する一方的な評価は男を上の権威に置いた権威主義なくして成り立たないだけではなく、このような権威主義的な性向を人格の一部としていなければ、森喜朗の前段の発言は出てこない。明らかに自身の権威を上に置いた、あるいは男の権威を上に置いた女性蔑視発言そのものとなる。

 つまり男尊女卑、あるいは男性優位・女性下位、あるいは男性優越主義といった権威主義の性向は既に森喜朗の人格の一部そのものとなっている。

 2021年2月2日に森喜朗は自民党本部で開かれた党スポーツ立国調査会の合同会議に出席、東京パラ・オリンピックを「新型コロナウイルスがどうであろうと、必ずやり抜く」と発言したということだが、この発言も開催と新型コロナウイルスの感染を受けた社会状況との兼ね合いを考えずにオリンピックそのものと自身の役目・活動そのものを最上位に権威づけて、それを全てとし、社会の感染状況は眼中に置かない権威主義からの発想でしかない。

 森喜朗は自身の女性蔑視発言に対する謝罪記者会見を2021年2月4日に行った。森喜朗の男の権威を上に置き、女性の権威を無視する権威主義の性向は既に人格の一部となっているのだから、謝罪したからと言って、その権威主義の性向は人格からそう簡単にはスッポリと抜け落ちるわけではない。自らの権威主義の性向が余程のダメージを受けるような経験をしなければ、終生、抜け落ちない頭の古さに支配されていると見るべきだろう。要するに謝罪会見は自身の男尊女卑等の権威主義の性向を自らの人格から剥がす儀式とはならず、批判に幕を降ろすことが目的の儀式で終わるのは目に見えている。

 「森喜朗謝罪会見・発言詳細」 (NHK NEWS WEB/2021年2月4日 19時17分)
“不適切な表現であった”

森会長
「きのうJOCの理事会の後で私がご挨拶をしました。それをお聞きの方々もいらっしゃると思いますので、これ以上詳細のことは申し上げません。今わざわざお集まり頂いてご心配頂いていることに恐縮しております。きのうのJOC評議員会の発言につきましては、オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現であったとこのように認識しています。そのためにまず深く反省をしております。そして発言致しました件につきましては撤回したい、それから不愉快な思いをされた方についてはお詫びを申し上げたい。以上であります」

“引き続き献身して努力していきたい”

森会長
「オリンピックパラリンピックにおきましては、男女平等が明確に謳われております。アスリートも運営スタッフも多くの女性が活躍しておりまして大変感謝しています。私は組織委員会のことを申し上げたことでないことは皆さんご承知頂いていると思いますので、私も組織委員会については非常に円満にうまくいってると注釈で申し上げたことも聞いておられたと思います。次の大会まであと半年になりまして関係者一同頑張っております。その中で責任者である私が皆さんのお仕事に支障があるようなことがあってはいけない、そう考えてお詫びをして訂正撤回をすると申し上げたわけです。世界のアスリートを受け入れる都民国民、IOCをはじめ国際的な関係者にとってもオリンピック・パラリンピック精神に基づいた大会が開催できますように、引き続き献身して努力していきたいと思っています」

(以下は質疑応答。)

“辞任の考えない”

(質問)
今回の発言で国内外から大きな批判。会長の中で辞任をしなければいけない考えはあったか。

(森会長)
辞任するという考えはありません。私は一生懸命献身的にお手伝いして7年間やってきたわけで、自分からどうしようという気持ちはありません。皆さんが邪魔だと言われれば、おっしゃるとおり老害が粗大ゴミになったのかもしれませんから、そしたら掃いて貰えばいいんじゃないですか。
“知ってる理事会の話をした”

(質問)
IOCはオリンピックにおける男女平等を掲げている。日本もジェンダーバランスを同じようにしていこうと努力している中での発言だったが、大会のトップとして世界にどのように説明していきたいか。

(森会長)
私は組織委員会の理事会に出たわけじゃないんですよ、JOCの理事会に僕は名誉委員という立場だったからそこで挨拶をした。私は自分なりに整理をしていたつもりです。組織委員会の理事会と一緒にしておられる方もいるが、それは皆さんの報道のしかただと思いますが。あくまでもJOCの評議会に出て私は挨拶をしたということだ。

それは1つは山下さん(JOCの山下会長)が、今度の改革は大変大きな改革で、JOCが人事の改革をするのに大変な苦労をしている、最初から理事会で相当な突き上げをくらったりして難航しておられると相談があったものですから。山下さんの最初の大きな仕事としては、最も成功して貰わないといけない仕事、そこが人事のことですから、そのことはよくできたということを私はよく評価して山下さんにお礼を申し上げることを、そこで発言をしたんです。

ですが政府から来ているガバメントに対してはあまり数字にこだわるとなかなか運営が難しくなりますよと、そういう中で私の知ってる理事会の話をしてああいう発言になったということです。

特定の女性を念頭においたものではない

(質門)
女性の話が長いという発言については、ラグビー協会の特定の女性理事を念頭においたものではないか。

(森会長)
一切頭にありませんし、今回の理事会でどういう人が理事で誰がどう話したかというのは、私は一切知りません。
IOCへの説明“必要ない”

(質問)
発言についてIOCから問い合わせはあったか。

(森会長)
私は分かりませんが、職員は毎日毎日きょうもこれから、いつも会議が始まりますから、そういう話はあるかもしれません。

(質問)
森会長からご説明される意思はあるのか。

(森会長)
それは必要はないでしょ。今こうしているんだから。

“誤解生むといけないので撤回”

(質問)
五輪の理念に反する発言。辞任しないことが大会への批判になるのでは。

(森会長)
ご心配頂いたのはありがとうございます。誤解を生むといけないので撤回します。そう申し上げています。

“オリンピック精神に反すると思うから…”

(質問)
会長は国民から理解を得られる大会をと言っていた。オリンピックの理念に反する発言だったと思うが、ご自身が何らかの形で責任を取らないというのは大会の開催の批判を強めてしまうものではないかと思うが、どうお考えか。

(森会長)
ご心配いただいたのであればありがとうございます。誤解を生むといけないので撤回しますと申し上げている。オリンピック精神に反すると思うからとそう申し上げた。
“数字にこだわって無理しないほうがいい”

(質問)
女性登用についての基本的な考え方を伺いたい。会長はそもそも多様性のある社会を求めているわけではなく、ただ文科省がうるさいから登用の規定が定められてるという認識でいらっしゃるのか。

(森会長)
そういう認識ではありません。僕は数字にこだわって何名までにしないといけないというのは、あんまりそれにこだわって無理なことはしないほうがいいな、ということを言いたかったわけです。

(質問)
きのうの文科省のうるさいからというのは、数字がという意味か。

(森会長)
うるさいからというのは、ガバナンスを守るためにみんな大変苦労されているようです。私はいま、どこの連盟にも関係をしておりませんからね。いろいろな話が入ってくるので、総括して会議の運営は難しいですよというのを申し上げた。
“密をどう避けられるかという話の例” 

(質問)
聖火リレーで愛知で走る予定だったタレントの田村淳さんが森会長の直近の発言で何があってもオリンピックをやるということを田村さんは解釈されて、理解不能だと聖火ランナー辞退した。どう受け止めているか。

(森会長)
きのうのことに合わせて報道されたんでしょうが、これはきのうの会合じゃないと思いますよ。おとといの自民党のことで、そのときにリレーについてはどうなってますか、という質問があったから、われわれ直接やるものではないが、各県がやっておられる実行委員会にお願いして基本的には密を避けてやっているんだと。

その中で、例えば人気のあるタレントさんは、できるだけ人がたくさん集まるところはご遠慮していただくほうがいいかなと思ってると。誰が走るかとか、何キロ走るかは僕らが決めることではないので、実行委員会が考えること。

僕らが県に言えるのは、できるだけ密は避けてくださいと、タレントさんがくるとみんな集まってくる、そうすると密になるからどう避けられるだろうという話の例で、密じゃないところといえば、それじゃあ田んぼで走るしかないね、空気がこもらないし、それしかないですねという意見もありますということを紹介しただけで、組織委員会がするということを言ったわけではない。

それもこれも実行委員会でお考えをいただき、決めていただきたいとその例で申し上げただけで。

“私は誰が走るか一切知りません”

(質問)
著名人のランナーに継続して走っていただきたいという思いは。

(森会長)
私は走ってくださいとか走って下さるな、とかを言う立場じゃありません。お決めいただいた人たちは、所定の手続きをされてこちらに持ってこられるんだろうと思います。私は誰が走るか一切知りません。

“私も”話が長いほう

(質問)
基本的な認識だが女性は話が長いと思っているのか。

(森会長)
最近女性の話を聞かないから、あんまりわかりません。

(質問)
東京都の小池知事が会見で「話が長いのは人によります」と発言されていた。

(森会長)
私も長いほうなんです。

(質問)
国会議員でも、女性の割合をあらかじめ決めておこうという話も盛り上がっている。

(森会長)
それは民意が決めることじゃないですか。

(質問)
会長ご自身は賛成か反対か。

(森会長)
賛成も反対もありません。国民が決めることだと思います。

“責任が問われないとは言っていない”

(質問)
冒頭誤解を招く発言とか不適切という発言があったが、どこがどう不適切だと会長はお考えなのか。

(森会長)
男女を区別するような発言をしたということです。

(質問)
オリンピック精神に反するという話もされてましたが、そういった方が組織委員会の会長をされるのは適任なのか。

(森会長)
さあ、あなたはどう思いますか?

(質問)
私は適任じゃないと思うんですが。

(森会長)
じゃあそのように承ります。

(質問)
会長としての発言ではないので責任が問われないという趣旨の発言も…。

(森会長)
責任が問われないとは言ってませんよ。場所をわきまえてちゃんと話したつもりです。

(質問)
組織委員会としての場じゃないから、あの発言はよかったということなのか。

(森会長)
そうじゃありませんよ。ちゃんと全部見てから質問してください。

“場所、時間、テーマとかに合わせて話すことが大事”

(質問)
わきまえるという表現を使われていたが、女性は立場を控える立場だという認識か。

(森会長)
そういうことじゃありません。

(質問)
じゃあなぜああいう発言になったのか。

(森会長)
場所だとか時間だとかテーマだとかにそういうものに合わせて話すことが大事じゃないんですか。そうしないと会議は前に進まないんじゃないですか。

(質問)
それは女性と限る必要はあったのか。

(森会長)
だから私も含めてと言ったじゃないですか。

(質問)
先ほど女性がいると会議が長くなるという発言を誤解と表現したと思うが、これは誤った認識だということではないのか。

(森会長)
去年から各協会や連盟は、人事に苦労しておられたようです。私は昔は全体を統括する体協、今のスポーツ協会の会長をしておりましたから団体の皆さんとも親しくしております。そういう皆さんたちはいろいろ相談にも来られます。その時になかなか大変ですということでした。

特に山下さんのときは、JOCの理事をかなり削って女性の枠を増やさないといけないということで大変苦労したという話をしておられて、理事の中で反対もあって大変だったけど何とかここまでたどりついた苦労話を聞いたからです。

“聞いたことを思い出して言っている”

(質問)
競技団体から女性が多いと会議が長いという話が上がってるということか。

(森会長)
そういう話はよく聞きます。

(質問)
それはどういう競技団体から。

(森会長)
それは言えません。

(質問)
実際データがあるとか根拠に基づいた発言ではなかったと受け止めたが、どうか。根拠のある発言とは思えないが。

(森会長)
僕はそういうこと言う人はどういう根拠があっておっしゃったかわかりませんけども、自分たちが女性の理事をたくさん選んだけども、結果としていろんなことがあったということを聞いたことを思い出して言っているんで、そういうことで苦労されますよということを申し上げたんです。

“謙虚に受け止めている”

(質問)
今回の発言で皆さん怒っている。オリンピックを運営するトップの方が女性を軽視する発言をされたことについて、皆さん怒っています。森会長の率いる大会を見たくないという声もネットなどで上がっています。それについてどう受け止めているのか。

(森会長)
謙虚に受け止めております。だから撤回をさせていただきますと言っておるんです。

【オリンピック・パラリンピックの精神】

オリンピック・パラリンピックの精神は、IOCの「オリンピック憲章」などで定められ、人種、肌の色、性別、性的指向などを理由にしたいなかる差別も否定しています。

憲章はIOCや競技団体だけでなく、森会長がトップを務める大会組織委員会も守る義務があります。

また、憲章では「男女平等の原則を実践するため、あらゆるレベルと組織において、スポーツにおける女性の地位向上を促進し支援する」とIOCの役割について記していて、IOCは女性の参加比率を高める取り組みとして、東京大会から男女の混合種目を柔道やトライアスロンなどで増やしていました。
競技団体 女性理事の割合 目標40%以上

スポーツ庁は2019年6月に競技団体が守るべき規範、「スポーツ団体ガバナンスコード」をまとめ、役員の体制については、女性理事の割合の目標を40%以上とすることが明記されています。

そして、競技の普及・発展などのために女性の視点や考え方を積極的に取り入れることが求められるとしていますが、スポーツ庁が調査した国内の107の競技団体の女性理事の割合は、2019年3月の時点で15.6%と、低い水準にあるということです。

スポーツ庁によりますと、この規範は競技団体を統括する立場のJOCにも適用されるとしています。スポーツ庁は「競技団体からは人材が不足しているという声もあり、女性役員育成のための研修を開くなどの支援をしている。すぐに達成が難しい場合でも、段階的に割合を増やしていくなどの方法はある。今後も目標達成へ向けてサポートしていきたい」としています。

 記者「IOCはオリンピックにおける男女平等を掲げている。日本もジェンダーバランスを同じようにしていこうと努力している中での発言だったが、大会のトップとして世界にどのように説明していきたいか」

 森喜朗「私は組織委員会の理事会に出たわけじゃないんですよ、JOCの理事会に僕は名誉委員という立場だったからそこで挨拶をした。私は自分なりに整理をしていたつもりです。組織委員会の理事会と一緒にしておられる方もいるが、それは皆さんの報道のしかただと思いますが。あくまでもJOCの評議会に出て私は挨拶をしたということだ」

 記者は森喜朗の発言が見せることになった男女差別・女性蔑視を問題にした。対して森喜朗は発言場所のレベルに合わせて発言に現れている問題のレベルを下げ、発言場所から言って問題ではないかのように見せかけている。つまり話にならないくらいに問題の本質と向き合っていないし、向き合おうともしていない。至って頭の古い人間だから、致し方がないのだろう。自分の発言が女性蔑視に当たると気づいていないのかもしれない。

 結果、女性という存在を個別的な価値観で捉えることができずに女性全体を否定的な価値観で評価・判断する、自らの人格の一部として根付かせているいる男尊女卑の権威主義的性向に何ら気づいていないことを発言の端々に見せることになる会見となっている。

 「オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現であったとこのように認識しています」とは言っているが、自身の女性蔑視が自身の人格のどのような性向に起因しているのかは考えることも気づくこともないのだから、謝罪のために口にする都合上の言葉に過ぎない。このことは次の発言に現れている。

 「その中で責任者である私が皆さんのお仕事に支障があるようなことがあってはいけない、そう考えてお詫びをして訂正撤回をすると申し上げたわけです」

 皆さんのお仕事に支障があってはいけないから、それとの関係で謝罪する。勿論、皆さんのお仕事に支障を及ぼす。だが、その原因は自身の女性の存在を蔑ろにする発言にあるのだから、その発言との関係で謝罪しなければならないのだが、自分が本質的にどのような発言をしたのか、そのことに直視するつもりも、直視もできないから、仕事との関係での謝罪で誤魔化すことになる。

 このことは次の発言とも関連する。「オリンピックパラリンピックにおきましては、男女平等が明確に謳われております」。問題発言が男性に権威を置き、女性の権威は認めない権威主義を骨格として、男尊女卑や男性優位・女性下位、あるいは男性優越主義などの考え方からの女性の在り様に対する蔑視であることとを結びつけることができないのだから、深刻な思いとは程遠い、表面的な認識に過ぎない。

 記者は「五輪の理念に反する発言。辞任しないことが大会への批判になるのでは」と尋ねているが、単に五輪の理念に抵触する男女不平等の考え方に基づいた発言とするのではなく、女性の存在を男性の存在よりも劣ると見る権威主義に基づいた女性差別発言は五輪の理念に反するのではないかと質問していたなら、「ご心配頂いたのはありがとうございます。誤解を生むといけないので撤回します。そう申し上げています」などと通り一遍の口先だけの謝罪を受け取ることはなかったかもしれない。

 記者「基本的な認識だが女性は話が長いと思っているのか」

 森喜朗「最近女性の話を聞かないから、あんまり分かりません」

 「女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります」と女性の会話の能力・知能という点で男よりも劣ると決めつけていながら、自身の発言にあまりも不正直で、もはや論外である。

 問題とすべき本質的な事柄はただ一つ、東京大会組織委員会会長の立場でオリンピック・パラリンピックの開催に関わっている以上、上記記事にあるように人種、肌の色、性別、性的指向などを理由にした如何なる差別をも否定要素としていなければならない「五輪の理念」(オリンピズムの根本原則)を上っ面の知識としているのではなく、自身の人格の一部としていなければならないことに反して女性の存在を劣ると見ている森喜朗の性差別的な権威主義的性向が人格の一部となっているということである。

 ところが、上っ面の知識ともしていなかった。だから、ポロリと権威主義的性向が顔を覗かせてしまう。

 森喜朗の自身の発言に不正直であることからも理解できるようにこの手の人格が容易には変えようがない以上、日本オリンピック委員会(JOC)会長山下泰裕が「本人が謝罪されて、発言を撤回されております。色んな意見があることは分かっていますけど。(職務を)最後まで全うして頂きたいと思っています」(時事通信)とその地位を擁護するのはオリンピック憲章、その理念に砂をかける思惑としかならない。

 山下泰裕がJOC会長としてオリンピック憲章、その理念を擁護することを自らの姿勢としなければ、会長としての使命を失うことになる関係から言うと、その理念とは相容れない、性差別的な権威主義にまみれた森喜朗をオリンピックに関わる職務から排除してこそ、理念の擁護に添う姿勢となる。だが、山下泰裕だけではなく、オリンピックの運営に関わる多くが単なる失言と捉えていて、その失言の裏にある根深い問題に気づかずに謝罪し、発言を撤回すれば済む軽い問題へと矮小化している。

 要するに森喜朗と同様に東京オリンピック・パラリンピックが無事開催されさえすればいいと、祭典そのものを最上位に権威づけ、その開催を最重要課題としているがために森喜朗の発言が男性を上に権威づけ、女性の権威を蔑ろにした権威主義の思想から出た根深い問題だと突き詰めもせずに単なる失言と片付け、謝罪すればシャンシャンと手を打つことができると軽く考えているのだろう。

 IOCも同じ穴のムジナである。2021年2月5日付「asahi.com」記事によると、IOCの広報担当者が朝日新聞の取材に対して2月4日、「ジェンダーの平等はIOCの根本原則で、将来を見据えた五輪ムーブメントの長期計画、アジェンダ2020でも重要な柱に据えてきた。森会長は発言について謝罪した。これでIOCはこの問題は終了と考えている」とメールで回答したと伝えている。

 東京オリンピック・パラリンピックが無事開催されさえすればいいとしているからこそ、謝罪で問題解決とすることができる。欧米のマスコミの批判とは正反対のオリンピック開催至上命令としている。

 森喜朗が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長としてオリ・パラの開催に関わっている以上、オリンピック憲章にある「オリンピズムの根本原則」、〈6. このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。〉の決まり事を単なる頭の理解ではなく、人格に根付かせ、常々行動として表現していなければならない。ところが、人格に根付かせることができていないことから行動として表現できず、自らの人格の一つとして抱え込んだ男尊女卑、あるいは男性優位・女性下位、あるいは男性優越主義の考え方に基づいた権威主義の赴くままに「オリンピズムの根本原則」の「6」に抵触する女性蔑視を発言という形で行動することになった。

 女性差別を露わにした発言を謝罪し、撤回したとしても、森喜朗の中で女性差別の権威主義的性向が消えてなくなるわけではなく、腹の底で持ち続けることになり、結果として森喜朗の中で「オリンピズムの根本原則」と女性蔑視の権威主義を同居させたままオリ・パラの開催に関わり続けさせることになる。そのことに目をつむるのは日本の恥を世界に曝す以外の何ものでもない。

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菅義偉の「個々の研究についてはコメントを差し控えています」の答弁をそのままスルーさせる野党追及の甘さ加減

2021-02-01 11:50:48 | 政治
 安倍政権も菅政権も、コロナ対策として「感染拡大の防止と社会経済活動の両立」を公約としてきた。GO toキャンペーン等の社会経済活動の推進によって各業種の経済状況が向上しても、感染も拡大したなら、「両立」とした公約は破綻する。言わずもがなのことだが、感染も抑え、社会経済活動も活発化させることによって両立は公約として立派に成り立つ。

 2020年11月18日、厚生労働省の発表によると1日の新規陽性者数が2000人を初めて超えて、2179人と過去最多を更新した。同11月18日の東京都の新規感染者は8月1日の472人を上回って、過去最多の493人を記録した。いわゆる第3波の到来と言われた。

 年が明け、菅政権は2021年1月7日に感染拡大が著しい1都3県に緊急事態宣言を再発令した。翌2021年1月8日、東京都の新規陽性者は2392人を記録、過去最多となったが、増減を繰り返しながら、徐々に下降線を辿っていき、東京都の場合は2021年1月29日は868人、2021年1月30日は769人、2021年1月31日は633人と低い人数で推移していくまでになった。

 緊急事態宣言とは飲食店等の営業時間短縮、テレワークの拡大、不要不急の外出の自粛等の要請を柱としていて、これら全ては人の移動制限をベースとしている。人の移動制限こそが自動的で確実な3密回避状態を作り出す。逆に人の移動制限を解き、移動を活発化すれば、いくら気をつけていたとしても、3密回避に緩みが生じて、感染は拡大に向かう。

 あるいは人の移動制限の解除が人々を開放的な気分に否応もなしにいざなうことになって、そのような気分が多くの行動に波及して、コロナに対する警戒感を緩めてしまうといったことも起こり得て、そのことが感染を拡大する要因の一つとなっているのかもしれない。

 2021年1月26日衆議院予算委員会

 大西健介(立憲民主党)「今日も西浦先生、お呼びしましたけども、今日も来て頂くことができなかったですけども、これ、西浦先生はですね、Go toトラベルについてそれが開始されたあとに旅行に関する新型コロナウイルス感染者が最大6から7倍増加したという分析結果を発表されています。

 で、第2波は8月中旬までに減少に転じていたが、初期のGo to事業が感染拡大に影響を及ぼした可能性があると、こういう指摘をされているわけですけども、同じようにこういう指摘をしっかりと踏まえればですね、きのう総理はこの委員会でGO toトラベルは然るべき時期に再開したいと言っていましたけども、この科学的知見をまさにちゃんと踏まえて頂いていくと、再開するとまたぶり返すんじゃないか。またリバウンドするんじゃないか。

 また少なくともですね、再開する場合には今までと同じ形じゃなくて、遣り方を見直さなければいけないと思うのですけれども、菅総理、きのうは然るべきときに再開すると、言ってましたけども、これ、GO toトラベルはやっぱり影響するんだと、西浦先生言ってますけども、これ、どう受け止められますか」

 菅義偉「いずれにしろ一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたいと思います」

 大西健介「やっぱりね、私何度も言ってますけども、都合のいいとこだけつまみ食いだけするんでなくて、ちゃんと受け止めてほしいんですよ。

 それで先程の西浦教授のシミュレーションに戻ると、これ、緊急事態宣言発令の前日に開かれた厚生労働委員長のアドバイザリーボードでこのシミュレーションを西浦教授、しっかりと説明してるんですよ。ところがですね、なぜかその資料そのものが非公開という扱いにわざわざしてるんですよ。

 で、なぜ非公開にするのか。それこそ政権の方針と異なる都合の悪いデータに背を向ける行為じゃないかと私は思うんですけど、総理如何でしょうか」

 田村憲久「これはですね、アドバイザリーボードを開く前日に西浦先生が出したいというお話がアドバイザリーボードにお話がありました。それに関しましてはですね、中身(内容?)の精査もございますし、そういう意味で公表しなくてもいいというご理解を頂く中に於いてですね、そこで資料として、参考資料として出して頂いということであります」

 大西健介「今の答弁よく分からないのですけども、別に資料ですから、先程言われたように別に一つ一つの科学的研究にはコメントしないみたいな話がありましたけども、それが絶対正しいかどうか分かりませんけども、一つの材料として議論するために会議をしているのにわざわざ非公表にすると先生にわざわざ話して非公開にしていいですかと言わなきゃいけない。

 そこまで出したくないということは何なんでしょうか。田村大臣、どうしてわざわざ出さないということを言わなきゃいけないのか。そのまま出せばいいんじゃないですか」

 田村憲久「様々な資料がですね、アドバイザリーボードには出される場合があります。その場合は表に出すもの、一定の時間を置いてから表に出すもの。色んなものがありまして、その中に関してですね、今回の資料に関してはですね、ご本人の了解を得た上で、まあ、公開しなかったということであります」

 大西健介「今の答弁に関してもあんまりよく分からない。結局、政権の方針と違うようなデータは出したくないということなんかなあと受け止めてしまいます」

 結局のところ、菅義偉の「研究結果についてコメント差し控え」をスルーさせてしまった。田村憲久が答弁しているように本人の了解を得た非公開で済ませることができる問題ではないことに大西健介は気づかなかった。西浦教授のGo toトラベルが感染拡大の要因となったとしている分析結果を追及材料と決めた時点で菅政権のGO toトラベルに関する答弁を頭に入れておかなければならなかったのだが、そのように準備する心がけさえ持たなかった。

 2020年11月25日予算委員会。

 枝野幸男「政府は、GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはないと繰り返して仰っていますが、じゃ、何でこの時期にこんなに急増していると認識をされているのか。その原因、理由をはっきりできなければ対策を打てないはずだと思います。なぜ今こんなに急増しているんですか」

 厚労相の田村憲久は専門家の方々に色々と確認しているが、GO toトラベルが感染増加の要因だとは明確な断定はできないが、人の動きというものが増えてきていること、気温の低下が感染増加の要因となっているとの趣旨の答弁をしている。

 要するに人の移動ということに関してはGO toトラベルがそれを活発化させて、感染増加の要因となっていることだけは認めている。
 
 枝野幸男「人の移動が活溌になれば、感染が広がる。GO toトラベルは人の移動を政府が推奨した、勧めていた、これは間違いないですね。今も勧めているんですよね、全面中止じゃないですから。総理」
 
 菅義偉「先ず政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることで、そうした中でGoToトラベル、今日まで約4千万人の人にご利用頂いていております。そして現実的にコロナの陽性になった方は180人であります。元々このGoToトラベルを進めるに当たって、当然、政府の分科会のみなさんに意見を聞きながら進めさせて頂いております。まさにこのGoToトラベルによって地域経済を支えていると、これ、事実でないでしょうか。

 そして先週(11月)20日の日に専門家の分科会の提言においてGoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない、こうしたこともご承知だと思います。先ず専門家委員会のみなさんから20日の日に提言を頂いた。その提言を尊重し、感染拡大地域に於いてGoToトラベルの運用のあり方について早急に検討して頂きたいということでありましたので、私たちは20日の翌日にコロナ対策の全体会合を開いて、新たに感染拡大防止のために予防措置として医療体制を守るために一部の地域に一時的にそうした方向を決定したということでございます」

 田村憲久の答弁と異なって、「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とGoToトラベル感染拡大説を否定している。

 GO toトラベルによって「コロナの陽性になった方は180人」。この180人は症状が出てPCR検査の結果、陽性と判定された数なのか、GO toトラベルそのものには関係していない濃厚接触者をPCR検査にかけて陽性とされた人数をプラスした180人なのだろうか。2次感染、3次感染をカウントしていくと、GO toトラベル以外への影響が広がっていき、問題が大きくなることから、GO toトラベルそのものに関係していない濃厚接触者のうちの陽性者はカウントしないことにしているのか、はっきりしたことは公表していない。

 但しGO toトラベル中に感染したものの、症状が出ずに自分が感染していることに気づかない無症状ウイルス保有者はPCR検査を受ける動機がないことを考えると、GO toトラベル終了後に知らないままに市中感染させ、感染経路不明となったケースは絶対ないとは言い切れないから、GoToトラベルでの感染者数にカウントされないことだけは確かである。要するに180人を180人だけで終わらせることはできない。

 いずれにしても菅内閣は政府分科会の意見を受けて、「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とするGoToトラベル感染拡大説を否定する態度を取り続けている。

 であるなら、初期のGo to事業が感染拡大に影響を及ぼした可能性があるとしている西浦教授の分析と菅内閣の「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とする主張が真っ向から対立することになるのだから、菅義偉の「いずれにしろ一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたいと思います」の発言をそのままスルーさせてしまうのは策がなさ過ぎる。

 「西浦教授の分析結果が正しいのか、政府のGo to関連政策が感染拡大に関係しないとしている主張が正しいのか、導き出すことが国民に与える安心材料となるのだから、説明責任が伴うことになって、コメントしないとするのは無責任過ぎないか」と攻めることもできるはずである。野党の追及の甘さがこの場面にも出たとしか思えない。

 大西健介に続いて質問に立った同じ立憲民主党の奥野総一郎も大西健介と同様の質問をしている。「西浦先生の研究結果によると、GO toトラベルに関する新型コロナウイルス感染者が最大6倍から7倍増加したとの分析結果を発表した。この研究通りとすると、GO toトラベルはやめなければいけなかった。この研究についてどう思うか。GO toトラベル停止は遅れたと思うか」と追及した。

 西村康稔(経済再生、担新型コロナ対策等担当大臣)「先ほど総理も答弁されましたけど、一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません。いろんな研究を私共は見ております。この件についてご質問でありますので、申し上げればですね、研究者自身、西浦先生自身が書かれていますけども、これは旅行や観光等の行動履歴を分類しており、GO toトラベルの利用者か否かを分析したものではない。

 それから、これは(Go toトラベル開始の)7月22日から26日は4連休を挟んでおりますので、そもそも観光が活溌な時期であることなどから、著者自身がですね、我々の分析は観光キャンペーンと日本に於けるコロナ発生率との因果関係を断定するには余りにも単純化し過ぎているというふうにご自身が書かれておりますので、私たちは様々な研究を受け止めながらですね、対応してまいりたいと思います」

 西村康稔の答弁を理解するためにこの衆院予算委員会前日の2021年1月25日付の「NHK NEWS WEB」記事を参考にする。

 西浦教授の分析は京都大学のグループの形で国際的な医学雑誌「ジャーナルオブクリニカルメディシン」に発表した研究論文だという。2020年5月から8月にかけて24の県から報告された新型コロナウイルスの感染者約4000人を分析、約20%・約800人が発症前に旅行していたり、旅行者と接触したりするなど旅行関連とみられる感染者だったとしている。

 GO toトラベルが開始されたのは2020年7月22日。それから8月にかけた感染者となると、新型コロナウイルスの潜伏期間は1~14日間程だが、WHOの報告によると、感染してから症状を発症するまでの平均期間は平均5~6日程度としているから、GO toトラベルの利用者の感染が入っていないとは言い切れないが、GO toトラベルであっても、GO toトラベル以外の旅行であっても、人の移動によって成り立たせているのだから、人の移動制限が3密状態回避の自動的で確実な方法となることに反して気をつけているつもりでも、3密回避に緩みを誘い込む要因となることを考えると、人の移動を推奨することになるGO toトラベルのみを感染と関連付けないで済ますことはできない。

 このことは次のことが証明する。安倍政権が2020年5月25日に最初の緊急事態宣言の全国解除後、つまり人の移動制限を解除後、暫くは落ち着いていた新規感染者数が6月末頃から増えていって、いわゆる第2波を迎えて8月1日を挟んで頂点を迎えたのは2020年7月22日のGO toトラベルの開始による人の移動の推奨もさることながら、緊急事態宣言全国解除による人の移動制限解除が感染拡大への発端と見なければ、第2波の説明がつかないことになる。

 西浦教授の分析は期間ごとの発生率を比較する手法で詳しく分析した結果、「GO toトラベル」が始まった2020年7月22日から7月26日までの5日間での旅行に関連した感染者は、と言うことはGO toトラベル以外の旅行と言うことなのだろうが、127人、発生率は前の週の5日間と比べて1.44倍に高くなっていたことが分かった上に旅行の目的を観光に限定すると、発生率は前の週の5日間の2.62倍になっていたとの分析結果を記事は伝えている。

 この傾向を前提とすると、GO toトラベルであっても、GO toトラベル以外の旅行であっても、観光を目的としているなら、人の移動と共に観光施設内での飲食を伴い、3密に対する意識を薄れさせる機会が二重三重に待ち構えている状況を考えると、GO toトラベルだけを西浦教授の分析から除外することはできない。

 西村康稔の西浦教授の分析は「旅行や観光等の行動履歴を分類しており、GO toトラベルの利用者か否かを分析したものではない」と答弁していることに対応する説明が記事の最後のところで、〈地域によって公開情報に差があることなどから、今回の分析だけでは「GO toトラベル」が感染拡大につながったかどうかを決めることはできない。〉と記載されているが、続けて、GO toトラベルが〈少なくとも初期の段階では感染の増加に影響した可能性があるとしていて、グループでは今後、感染の抑制と経済活動の回復のバランスが取れた政策を探るためにも、さらに科学的な証拠が必要だとしている。〉との解説がなされている以上、菅内閣は自らが「GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはない」としている分析と西浦教授の分析のどちらがより妥当性があるのかを、国民に対する安心材料とするためにも実証しなければならない立場にあることになる。

 当然、西村康稔の「一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません」も、菅義偉の「一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたい」も、正当性ある国会答弁とは言えなくなる。

 また西村康稔が「これは(Go toトラベル開始の)7月22日から26日は4連休を挟んでおりますので、そもそも観光が活溌な時期であることなどから、著者自身がですね、我々の分析は観光キャンペーンと日本に於けるコロナ発生率との因果関係を断定するには余りにも単純化し過ぎているというふうにご自身が書かれておりますので、私たちは様々な研究を受け止めながらですね、対応してまいりたいと思います」と答弁していることは、「4連休の観光が活溌な時期」は人の移動も活溌な時期と重なるのだから、注意していても3密維持にどうしても油断が生じるケースとなり得て、これらのことを抜きに、いわばGoToトラベル感染拡大説の否定理由とするには自己都合な解釈となる。

 もし菅内閣が「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」を絶対的分析として掲げ続けるなら、枝野幸男が「政府は、GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはないと繰り返して仰っていますが、じゃ、何でこの時期にこんなに急増していると認識をされているのか。その原因、理由をはっきりできなければ対策を打てないはずだと思います。なぜ今こんなに急増しているんですか」と追及したようにGoToトラベル開始以降の感染拡大の傾向が何を原因としているのか、その明確なエビデンスを示さなければならない。その分析結果が西浦教授の分析結果と異なる、正当性あるエビデンスを示し得たとき、西浦教授の分析を如何ようにもコメントしないとすることができる。
 
 菅義偉は奥野総一郎との遣り取りの中でGO toトラベルに関わる人の移動について見落としてはいけない答弁を行っている。

 菅義偉「当初は移動によって感染はしないという見解を頂いて、私共はスタートしました。しかし確かに去年の12月14日ですけど、まあ、あの、コロナ感染の拡大し始めて、確か、あー、医師会の会長がエピデンスはないけれども、そういう脇を甘くしていると、そういう発言があったと思います。そういう中で私は12月14日に年末年始についてGO toトラベルを全国一切、一斉にですね、停止するという決断をさせて頂きました。

そういう意味に於いて全体としてはですね、その間の意見を聞きながら、そこは行ってきたところありです。それは分科会の方針でもありましたので、そうしたことについては私自身決断をして行いました。そして一つのGO toトラベルが12月8日に私が発令したときに尾身会長もここまでは想定外のことだったということも言っていたということもこれは事実であります」

 次の発言箇所、「一つのGO toトラベルが12月8日に私が発令したときに」の意味が素直に取れないが、菅内閣は2021年1月末までの予約で終了するとしていたGoToトラベル事業を2021年6月末まで延長する方針を固め、その政策と1兆311億円の予算を「追加経済対策」に盛り込んだ日付が「12月8日」で、「新たなGO toトラベルを」と言うべきところを、「一つのGO toトラベルが」と言い間違えてしまったのだろう。発言自体に覇気がなく、言葉をスムーズに押し出すこともできないから、リーダーとしての雰囲気がどこからも見えてこない。
 
 発言の趣意は政府分科会の専門家は人の移動を推奨することになるGoToトラベルを始めても、感染は拡大しないと見ていた。菅義偉もその見解に従い、2020年7月22日にGoToトラベルをスタートさせた。ところが第2波を迎えることになり、その第2波の鎮静が高止まりの状態で落ち着き、11月に入って再び拡大傾向へと移行、第2波を遥かに超える感染者数で第3波を迎え、新規感染者数が増加傾向にある中でGoToトラベル事業の延長を2020年12月8日に決定。

 その際、尾身会長は「移動によって感染はしないという見解」に反したことになったからだろう、「ここまでは想定外のことだった」と言っていた。要するに人の移動促進によって感染者数がこれ程までに拡大するのは想定外だったと驚いた。勿論、人の移動を推奨するのはGoToトラベルやGoToイート等、GoTo関連のイベントだけではない。既に触れたように人の移動制限の解除が人々を開放的な気分に否応もなしにいざなって、そういった気分が多くの行動に波及し、コロナに対する警戒感を緩めて、感染が収まらない状況を作り出しているという可能性は否定できない。

 菅義偉はGoToトラベル事業の延長を決定した2020年12月8日の3日後の12月11日午後のインターネット動画番組に出演、GoToトラベルの全面的な一時停止について「まだ、そこは考えていない」と述べたものの、さらに3日後の12月14日に年末年始についてGO toトラベルを全国一斉停止に踏み切らざるを得なかった。

 菅義偉も尾身茂も、遅まきながら、人の移動が感染を拡大する要因になると気づいた。となると、GoToトラベル自体が直接的にか、あるいは開放的な気分を醸し出すキッカケとなって、間接的に感染の原因としていたなら、GoToトラベルが〈少なくとも初期の段階では感染の増加に影響した可能性がある〉としている西浦教授の分析に対して西村康稔の「一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません」も、菅義偉の「一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたい」もなおさらに許されないことになる。

 だが、奥野総一郎は「当初は人の移動による感染はないと見ていたと仰ってましたけど、では、今どう思われているのか、このことは大事なことだと思いますね。人の移動がもし感染拡大に、西浦先生の論文もそうですけども、関係しているとすれば、早急なGO toの解除と言うか、執行というのは避けるるべきだということになりますし、過去の反省、なぜ今こうなっているのかという分析が非常に重要だと思います」等、人の移動と感染を仮定の関係に置いて追及するのみで、直接的に関係付けて、「コメントの差し控えは許されないのではないのか」と追及することはなかった。

 この奥野総一郎の問い質しに対する続きは次のようになっている。

 菅義偉「やはり飲食店ですね。今8時から時間短縮させて頂いています。そこの部分が甘かったんではないかなあというふうに思っています。当時は確か10時ぐらいに首都圏については、そういう状況だったというふうに思っています」

 奥野総一郎「今のご答弁だったと、人の動きは関係していないと。飲食が原因だと。会食が原因だと。まあ、そう言いながら、自ら会食をされていたわけですけどね、ということになったわけです」

 追及が甘いのは大西健介だけではなく、奥野総一郎もその一人となる。飲食店にしても、人の移動によって成り立っている。営業時間の短縮要請は人の移動制限の求めに他ならない。

 2021年1月29日、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の知事がオンラインで意見交換をし、2月7日が期限となっている緊急事態宣言が延長された場合、つまり新規感染が予定通りに抑制されなかった場合、休業要請などの強い措置を検討せざるを得ないと決めたということだが、飲食店に対する休業要請は飲食店そのものへの人の移動のシャットアウトを意味することになる。

 要するに菅義偉は飲食店に関係する人の移動が感染の大きな要因の一つとなっているということを明かしたことになる。奥野総一郎は「そう言いながら、自ら会食をされていたわけですけどね」などと言っている場合ではない。

 飲食店への人の移動が感染に関係しているなら、GoToトラベルも人の移動によって成り立っているのだから、飲食店程には密な距離を維持しなくても、GoToトラベルが感染に関係しないとは言えなくなる。180人の感染者にとどまらずにGoToトラベル中に感染し、ウイルス保有者になったものの、無症状であったためにカウントから免れ、PCR検査を受ける機会も持たずに市中で2次感染させていた疑いは払拭しきれない。

 あるいはGoTo関連のイベントを受けた人の移動が人々の気分を開放的な方向に持っていって、コロナに対する警戒心を緩め、感染拡大の一因となったということも決して否定しきれない。

 要するに人の移動と感染は密接な相関関係にある。人の移動が活溌化すれば、感染は拡大する。人の移動を抑えれば、感染は縮小する。このことを誰もが当然のこととして認識する必要がある。認識していたなら、菅義偉の「当初は移動によって感染はしないという見解を頂いて、私共はスタートしました」などと言った発言は口が裂けでも出てこないし、「コメント差し控え」の発言も許されないことになるし、その手の発言をスルーさせることもなくなる。

 2021年2月1日の朝のNHKニュースで菅内閣は医療提供体制の逼迫状況の点から緊急事態宣言を延長する方向で調整に入ったと伝えていたが、解除に障害となる点を全てクリアして解除されて人の移動も再開された場合、緊急事態宣言再発令によって現在減少傾向にある新規陽性者は人の移動と感染が密接な相関関係にある以上、再び増加傾向を取ることになる。そしてこの繰り返しは国民の大多数がワクチンを接種するまで続くことになる。

 この繰り返しの波の頭を少しでも抑えるためには感染して、ウイルス保有者となりながら、無症状なためにPCR検査を受けないままに市中に放し飼いの状態に置くことになる、その多くが新規陽性者の半数前後を占めている感染経路不明と考えられる無症状感染者を如何に効率よくPCR検査の網にすくい取るかにかかってくることになるはずである。

 だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めている尾身茂も菅義偉もこの視点に欠けている。

 2021年1月27日参院予算委 徳永エリ

 徳永エリ(立憲民主)「尾身会長は若い人たちの協力が不可欠なんだというふうに仰ってます。先日ですね、『20代から50代へのみなさんへ』ということで、今実行を拡散して欲しいということでメッセージを出されました。このメッセージを出された思いを尾身会長にお伺いしたいと思います」

 尾身茂「実は先生方、ご承知のようにこれはウイルスのせいで、誰のせいでもありませんが、特に若い人は感染しても無症状であったり、まあ、症状が軽いということが分かっています。当然のことですけども、若い人は我々高齢者に比べて活動がアクティビティが高いのですので、これは本当に強調させて頂きますが、ご本人たちのせいではなくて、まあ、気がつかない内に感染を、二次感染をして、それがですね、実は先程西村大臣が高齢者施設で多いという話がございましたがけども、実はその結果、この感染が少し時間差があって、高齢者施設とか、あるいは医療、あるいは家庭に、そういうことがほぼはっきりと分かってきました。

 そういう中で、勿論、若い人は我々高齢者に比べて重症化する率が少しないんですけども、それでも何人かの人は後遺症があるということが分かっているので、そういう意味では既に多くの人も、若い人も、多くの人が協力して頂いているわけですけども、我々の実感はですね、若い人の一部になかなか、これ、我々、努力不足ということがあったかもしれませんけども、メッセージが伝わらないっていうことも、これも明らかにあって、従って若い人にテレビとかラジオとか、社会意見だけでは、新聞やテレビを見ない人が結構多いということが分かっているので、どうしても最近のツイッターだとか、ラインだとか、フェースブックのSNSで使う、活用して貰う。

 我々ではなくて、若い人が若い人に伝えて頂くということが大事だと思って、まあ、そういうメッセージを有志の会(ツイッターアカウント「コロナ専門家有志の会」)のネットワークを使って、お願いしたわけですけども、そういう中で、まあ、若い人がちょっとしたことを気をつけるだけで、マスクをする、3密を避ける、食事は家族か、同居する人というようなこと、ほんのちょっとしたことをするだけでですね、ご自身の命を守り、それからおじいちゃん、おばあちゃん高齢者の命を守るだけではなくてですね、日本の医療を救う。

 是非、これから彼らの時代ですから、日本の医療を救う立役者になって頂きたいという思いでこのメッセージを出して頂くことにしました」

 徳永エリ「しっかり知識を得てですね、正しく恐れるということが大事なんだなというふうに思います。今、無症状感染者というお話がありましたけど、無症状感染者と約2割がですね、スーパースプレッダーという方がいると。他
者への感染が極めて強いということで、中国の天津で一人で160人に感染させたと、この事例が発表されましたよね。このスーパースプレッダーについて尾身会長、お伺いしたいと思います」

 尾身茂「実はこれは日本がずっと、いわゆるクラスター、(聞き取れない。「集団感染」?)これは世界で恐らくクラスター班を中心に最も早くそれを見つけたグループだと思いますけども、実は例えば5人に感染した人がいるとしますよね、5人のうち、4人が2次感染させない。そのうちの1人だけが2次感染、他の人に感染させて、その人がいわゆる我々が前から言っている3密のような場所ですね、非常に狭い場所、ひどい狭い空間、換気の悪い空間に行くと、爆発的に感染するということがまあ、当初から分かっていて、それをスーパースプレッダーイベントということで、これが実はほかの疾患、インフルエンザだとか、そういう疾患とまったく違う今回の特徴なんで、そういう意味でこれ、クラスター、クラスターと言っている。

 そういう意味でこれはもう(2020年の)2月、3月のところから日本の、まあ、クラスター班が突きつめたことですけども、この今の現象、大体大まかに言って5人に1人だけが2次感染して、その人がそういう場所に行って、感染させ、それから高齢者ということで、それが現在でも全く当てはまるということが分かっています」

 徳永エリ「と言うことは自分が無症状であってもですね、多くの人たちに感染させる可能性があるんだと、家族や知人や友人や大事な人たちに感染させて、命を奪うことになりかねないんだということをしっかりとメッセージとして発信して頂きたいんです。(若い人たちは)知らないですよ。ちゃんと伝えてください」

 感染の原理には詳しく、そのことについて力説しているが、では2次感染誘発予備軍を如何にPCR検査の網にかけて隔離へと持っていき、次なる感染を可能な限り防ぐかという方法論への視点は常に欠いている。徳永エリが言っているように「正しく恐れる」だけでは事は片付かない。

 尾身茂は前のブログでも紹介したことだが、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」とか、「感染拡大の防止には役立たない」と言って、PCR検査に非常に消極的である。

 そのせいなのだろう、「若い人は感染しても無症状であったり、まあ、症状が軽いということが分かっている」が、「マスクをする、3密を避ける、食事は家族か、同居する人というようなこと、ほんのちょっとしたことをするだけでですね」と、2次感染の危険性は省いて、その程度のことをするだけで、「ご自身の命を守り、それからおじいちゃん、おばあちゃん高齢者の命を守るだけではなくてですね、日本の医療を救う」ことになると請け合っている。請け合えなかったから、「ここまでは想定外のことだった」などと口にすることになったはずだ。まるで第2波も第3波も現実の出来事ではなく、遠い世界の出来事であるかのようだ。

 最後にこのブログのテーマに関係しないが、2021年1月27日の参院予算委員会で菅義偉に「少し失礼じゃないでしょうか」と言わしめた蓮舫の追及がワイドショー番組で評判の悪い捉え方をされているので、的を得ているのかどうか見てみることにした。

 2021年1月27日参院予算委員会

 蓮舫「実際に症状が急変して亡くなられたとか、あるいは病院先を捜して、確認している、カウントされている方は急変して亡くなられたとか、そういう方たちの事例で何かありますか」

 田村憲久「お亡くなりになられた方にはご冥福をお祈り申し上げるわけでありますけども、自宅療養、あるいは宿泊療養中に生じた死亡事例について都道府県を通じて把握している限りでありますけども、1月25日時点でありますけども、12月1日から1月25日間の事例でありますが、東京都8例を含めて、12都府県で計29名。うち自宅療養中の方が27名。宿泊療養中の方が2例ということであります」

 蓮舫「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうかね。総理、その思い分かりますか」

 菅義偉「えー、そこは大変申し訳ない思いであります」

 蓮舫「もう少し言葉ありませんか」

 菅義偉「心から申し上げましたように大変申し訳ない思いであります」

 蓮舫「そんな答弁だから、言葉が伝わらないんですよ。そんなメッセージだから、国民に危機感が伝わらないんですよ。あなたには総理としての自覚や責任感、それを言葉で伝えようとする、そういう思いはあるんですか」

 菅義偉「少し失礼じゃないでしょうか。私は少なくとも総理大臣として昨年の9月16日に就任してから、何とかコロナ対策、1日も早い安心を取り戻したい日本(?)そのものに、そういう思いで全力で取り組んできたんです。まあ、そういう中で必死の中で取り組んでくる中で、私自身ができることはさせて頂いてきています。

 兎に角緊急事態宣言、あと出しだとの色んなことの批判はあります。だが、この緊急事態宣言を発するについてもですね、衆参の付帯決議、これは国民のみなさんにいろんな制約を課すものであるから、できる限り慎重にやるということも付いています。そしてまたそれを決めるときに専門家のみなさんに相談して決めるということも書かれています。そうした中で私自身、まさに迷いに迷って、悩みに悩んで判斷させて頂きました。

 その言葉が通じないという、それは私に要因があるかもしれませんけれども、私自身は精一杯これに取り組んでいるところであります」

 自民席から拍手。

 蓮舫「その精一杯は否定しません。ただ伝える努力は足りないと言っているんです。私はやっぱりこの総理のもとでね、特措法を改正して、入院拒否に刑事罰を科すなんて言うことは絶対たやっちゃあいけないと改めて思った。
 兎に角入院先を捜す。それを優先させなければ、(刑事罰は)やってはいけないと思います」

 菅義偉はコロナ禍でも、「政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることだ」を看板にしてきた。だが、そのように言うことができるのは自らの政治が守ることが実践できている状況を作り出していなければならない。現実問題として少なくない国民が死に見舞われ、仕事を失ったり、立ち行かなくなったりしているし、それが現在進行形の形を取って、その数を増やし、延々と続いている。政治が満足に守ることが実践できていない状況にある以上、一国の首相として口にすべきは実践できていないことへの謝罪であろう。

 だが、蓮舫の「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうかね。総理、その思い分かりますか」の問い質しに対して「そこは大変申し訳ない思いであります」は一国の首相として言葉を違えている責任の重さから言うと、「少し失礼じゃないでしょうか」の部類に入る、蓮舫が言っていることと異なるが、余りにも自覚も責任感も軽い言葉となる。

 当然、菅義偉自身は「私自身は精一杯これに取り組んでいるところであります」とは言っているが、それを証明するにはコロナ感染防止に見るべき何らかの成果を上げていなければならない。野党の追及態度は精一杯取り組んでもいない、何の成果も上げていないと見ている立場からのものなのだから、一貫性を持たせて、蓮舫は「その精一杯は否定しません」などと言うべきではく、「精一杯取り組んでいるようには見えません」と突き放すべきだったろう。

 「ただ伝える努力は足りない」と言うことなら、実際の仕事は満足にこなしていることになって、蓮舫の追及は矛盾することになる。蓮舫は頭はいいが、才気が勝ち過ぎていて、相手の欠点を追及することには長けているが、追及の種が何かの実に結びつくような仕掛けはなかなか見当たらない。要するに威勢だけはいい。

 ワイドショー番組で総理に対してリスペクトがないとか、失礼な言い方だとか批判されているが、リスペクトは成果があって初めて獲得し得る。菅義偉が与党議員からリスペクトを受けるの単なる立場上の形式的な敬意であって、与野党から実質的なリスペクトを受けるには見るべき何らかの成果が必要になる。だが、感染拡大防止も社会経済活動の促進についても成果は見えてこない。当然、菅義偉は内閣総理大臣と野党の一議員とでは責任と範囲の大きさも重さも桁違いに違うと自覚して、成果を出すことを一矢を報いる方法としなければならない。

 成果を出していないのに「全力で取り組んできた」とか、「必死の中で取り組んでくる中で、私自身ができることはさせて頂いてきた」と言っても、言うだけ虚しい。

 蓮舫にしたら、ここで菅義偉のを遣り込めて、内閣支持率をさらに下げ、遠くない時期に行われる総選挙を少しでも有利に運ぼうという魂胆もあったに違いない。

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安倍・菅内閣の「感染拡大防止と社会経済活動の両立」の相互矛盾の国民騙しとPCR検査体制の欠陥

2021-01-25 11:09:19 | 政治
 「感染拡大防止と社会経済活動の両立」は相互に矛盾するテーマであって、安倍内閣も菅内閣もそのことを認識せずに「両立」を進めていたのか、認識していたが、感染拡大を無視して社会経済活動を優先させたいばっかりに前者を無視していることを隠すために体裁よく「両立」を掲げたのか、どちらなのだろう。

 認識していなかったとしたら、鈍感過ぎるということになって、政権担当能力に疑問符がつくことになる。矛盾していることを認識していながら、「両立」を言っていたとしたら、国民を騙していたことになる。現実問題としても感染拡大が経済を圧迫しているのだから、両立の矛盾を認識していて、国民騙しの手として使っていたに違いない。

 「ある程度の感染拡大を無視して社会経済活動を推進する。感染拡大が一定限度を超えるようなら、社会経済活動にブレーキを掛けて、感染を抑える政策に転換する」としていたなら、国民を騙す相互矛盾を曝け出すこともなかったはずだ。

 新型コロナウイルスの感染の増加が止まらない状況を受けて、安倍政権は政府は2020年4月7日に緊急事態宣言を発令した。対象地域は感染が拡大している東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。宣言の効力は5月6日までと決めた。安倍晋三は緊急事態宣言発令当日の記者会見で、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と請け合った。

 感染が7都府県にとどまらず、全国に拡大する気配に2020年4月16日に対象地域を全国に拡大、当初の7都府県に北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県を加えた13の都道府県を「特定警戒都道府県」に指定した。

 「人と人との接触機会の削減」とは外出自粛という名目の人の移動制限に他ならない。人の移動制限こそが密閉・密集・密接の3密回避の否応もなしの実現をもたらし、最大のコロナ感染拡大防止策となると見做した。緊急事態宣言によって3密回避の人の移動制限を全国に掛けたことになる。

 人の移動制限は当然、感染拡大の防止に役立ったものの、同時に消費活動を停滞させ、消費活動の停滞は当然、生産活動の停滞を招き、両活動の停滞=需要と供給双方の停滞は結果として社会経済活動の縮小を道理とすることになった。

 具体的にはこの人の移動制限によって倒産件数の増加や生産活動に於ける収入の減少等の社会経済活動の縮小と同時にコロナ感染が抑えられるに至り、2020年5月14日に39の県で緊急事態宣言の解除決定を下し、5月21日に大阪府、京都府、兵庫県について緊急事態宣言を解除、5月25日に全国的に解除決定を下した。人の移動制限の解除である。マスクをすること、手洗いをすること、3密を回避することの条件は維持したままだったが、3密は人の移動と増減関係をなす。人の移動が活溌になれば、3密は緩くなる。

 3密をなし崩しにするこの再びの人の移動の活溌化に伴って社会経済活動も活溌化することになって、2020年7始めから8月中旬までの第2波と言われる、第1波よりも感染者数が圧倒的に多い感染拡大期が訪れることになった。「両立」など元々あり得なかった。

 第2波を迎えてから、飲食店の営業時間の短縮や不要不急の外出の自粛(=移動制限)を呼びかけ、その呼びかけに生活者もそれなりに応じたこともあって、感染者数が下降線を取り始めた。

 ところが安倍内閣は相変わらず「感染拡大防止と社会経済活動の両立」の名の下、コロナ感染の第1波と第2波の影響で低下した社会経済活動の回復、消費と生産の需要と供給の喚起事業として感染拡大防止とは逆行することになる人の移動を積極的に促すことになるGo Toトラベル、Go Toイート、Go To イベント、Go To 商店街等のGo Toキャンペーンを繰り広げることになり、先行して政府のカネで一定金額の割引やクーポン券を与えるGo Toトラベルが2020年7月22日以降からの旅行に適用されることになった。

 この人の移動の積極的呼び掛けが感染拡大に効果テキメンだったことは当然の成り行きであった。最初に断ったように「感染拡大防止と社会経済活動の両立」など相互矛盾するテーマだからだ。

 2020年12月25日記者会見の冒頭発言の最後に菅義偉は感染の急拡大を認めつつ、「国、自治体のリーダーが、更なる市民の協力を得るべく、一体感を持って、明確なメッセージと具体的な対策を提示することが必要で、こうした急所を国、自治体、国民、事業者が一体となって行えば、私は、今の感染状況を下方に転ずることは可能だと思っています」と見通しを述べ、質疑で、「緊急事態宣言についてであります。緊急事態宣言については尾身会長からも、今は緊急事態宣言を出すような状況ではない、こうした発言があったことを私は承知しています」と尾身茂が会長を務める政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の主張に同調することを明らかにしている。

 ところが、「今は緊急事態宣言を出すような状況ではない」と言っていながら、2週間も経たない2021年1月7日になって、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象として期間は8日から2月7日までの1カ月間とした緊急事態宣言の再発令、さらに1月13日に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を再発令の区域に加えることになった。主な柱は飲食店に対する営業時間午後8時まで、酒類提供は午前11時から午後7時まで。午後8時以降の不要不急の外出自粛等となっている。

 要するに人の移動制限に他ならない。感染防止にはそれしか手がないからであり、この点からも「両立」は相矛盾するテーマであり、夢物語とさえ指摘することができる。

 東京都の場合、緊急事態宣言の再発令の2020年1月7日に初の2000人超えとなり、8日、9日と2000人を超え続けて、それ以降、1500人前後か、1000人前後で推移している。人の移動制限が厳格に実施されれば、そのまま3密回避となって現れ、消費・生産両活動の低迷による社会経済活動の低下を招きながらも、感染の減少に向かうはずだ。

 但し人の移動制限が反映されず、3密回避に繋がり得ない老人施設や介護施設、一般家庭の場合はPCR検査を頻繁に行って、感染者をピックアプ、3密回避可能な場所に収容して、他への感染を防いでいくしかない。2021年1月21日の時点で新型コロナウイルスに感染した自宅療養者は関東の1都6県で2万2410人に上っているとNHK NEWS WEB記事が伝えていた。大邸宅に住んでいるなら兎も角、一般家庭でどう人の移動制限・3密回避を可能にできるというのだろうか。
大体が家庭内感染が最多となっていて、濃厚接触者の内訳も「家庭内」が最多、それ以下「会食」、「施設内」、「職場内」が上位を占めている。

 特に菅内閣は「社会経済活動」の名の下、Go toキャンペンで人の移動を推奨しながら、感染の有無を判定して感染者をピックアップ、隔離に導くことで次なる感染の芽を潰して感染拡大防止の繋げていくためのPCR検査の回数増加を怠ってきた。2020年4月28日時点でちょっと古いが、経済協力開発機構加盟国36カ国中、1000人当たりの日本のPCR検査数は1.8人で、最小のメキシコ0.4人に次ぐ下から2番目となっている。

 なぜこうも少ないのか、ネットを探る内にPCR検査に関する尾身茂の講演記事に出会った。ここに記事全文を拝借することにした。 
 
 「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」と尾身氏(日経ビジネス/2020年10月16日)
  
 橋本 宗明 日経ビジネス編集委員 日経バイオテク編集委員

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂氏(地域医療機能推進機構理事長)は10月14日、横浜市で開催されたBioJapan2020というバイオ産業のイベントで基調講演を行った。日本の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策は「準備不足の状態で始まったが、医療関係者、保健所スタッフ、一般市民の協力のおかげで何とかここまでしのいできた」と語った。

 講演で尾身氏が特に時間をかけて説明したのはPCR検査に関してだ。「今よりもっとPCR検査を充実させるべきだというコンセンサスはできている。ただし、増やしたキャパシティーをどういう目的で使うのかという点にはコンセンサスができていない。費用負担の問題や、感染者が見つかった場合にどうするかなど、国民的なコンセンサスを得るべきだ」と指摘した。

 PCR検査に関して尾身氏が強調した点は、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」という点だ。まずPCR検査の性質として、感染3日後から約3週間は陽性が続くが、実際に感染性を有するのは感染3日目から12日間程度で、PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度、つまり、誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられることを紹介した。

 その上で、「症状がある人が検査を受けられないという状況はあってはならない。有症状者には最優先で検査を行うべきだ。また、濃厚接触者や発生したクラスターに関わっている人など、症状がなくても感染リスクが高いと考えられる人に対しても、徹底的に検査をすべきだ」と述べた。

 検査数増で、感染を抑え込めた証拠はない

 感染リスクが低い無症状者が検査を受けることに関しては、「経済活動に参加できるよう、安心のために検査を受けるというのは理解できる」としながらも、「感染拡大の防止には役立たない」と指摘。各国における検査数と感染者数の比較や、経時的な変化を分析したデータを示しながら、次のように述べた。

 「検査数と感染者数に相関は見られるものの、検査数を増やしただけで、感染を抑え込めたという証拠はない。検査は重要なツールだし、私自身ももっと増やすべきだと思っているが、リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない。メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」

 一方で、各国の人口当たりの累積検査数を累積死亡数で割った数字を示した上で、「死亡者数当たりの検査数で見れば、日本は比較的多くの検査をやってきた」とも語った。

 PCR検査に関しては、このところ希望者に自費で実施する医療機関も増えている。安心のためにこうした検査を受診すること自体を否定するものではないが、公衆衛生施策の一環で、希望者全員に検査を行うことには改めて否定的な考えを示した格好だ。

 5人の感染者のうち4人は他人に感染させない

 この他尾身氏は、日本が行ってきたクラスター対策について、以下のように語った。

 「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ。だから感染者が見つかったときに、その濃厚接触者が発症しないかを追跡するだけでなく、感染者の行動を遡って調査して、共通の行動があったかを突き止めて、クラスターが見つかればその周辺をしっかりと検査することをやってきた」

 「このクラスター対策は、日本や台湾など一部の国でしかやっていないが、小さなクラスターを見つけて早い段階で対策して次に広がらないようにすることが重要だ」

 今後の対策としては「検査体制のさらなる強化」「冬に備えた医療体制の準備」とともに、「クラスター発生時のより迅速な対応」が重要だと述べた。

 さらに、今後の不安解消の要因として、治療薬やワクチンの他に、重症化するか否かを見分ける方法の重要性に言及。国立国際医療研究センターが発表した「CCL17」という物質を挙げて、「早い時点で治療できるという点で、安心につながる研究成果だ」などと語った。

 国立国際医療研究センターは9月に、「重症・重篤化へ至る患者は、新型コロナウイルスに感染した初期から、血液中のCCL17の濃度が基準値以下になることが分かった」と発表している。

 PCR検査に関しての尾身氏の強調点。〈「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」という点に集約することができる。ここにPCR検査回数の増加に不熱心な姿勢が現れている。勿論、理由・根拠があってことなのだろう。

 〈まずPCR検査の性質として、感染3日後から約3週間は陽性が続くが、実際に感染性を有するのは感染3日目から12日間程度で、PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度、つまり、誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられることを紹介した。〉

 PCR検査の成果について纏めてみる。

1.PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度。
2.誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられる。
3.陽性は約3週間持続するが、持続期間中の1日目・2日目は無感染性の陽性。
3.感染3日目~12日目程度の約10日間は有感染性の陽性。
4.陽性持続期間の約21日目までの残り9日間は無感染性の陽性。
 
 と言うことは、感染3日目~12日目程度の約10日間のみが有感染性の陽性ということになる。

 にも関わらず、〈感染リスクが低い無症状者が検査を受けることに関しては、「経済活動に参加できるよう、安心のために検査を受けるというのは理解できる」としながらも、「感染拡大の防止には役立たない」〉という結論に至ったことを示すことになる。この結論が、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」の次なる結論に繋がっていることになる。

 要するに感染リスクが低い無症状者にPCR検査を実施するよりも、咳や発熱や、味覚症状の異変が出た有症状者を重点にPCR検査を実施しないことには感染拡大の防止には役立たないと主張していることになる。
 
 PCR検査に関わるこの主張の具体的な説明が次の発言となる。

 「検査数と感染者数に相関は見られるものの、検査数を増やしただけで、感染を抑え込めたという証拠はない。検査は重要なツールだし、私自身ももっと増やすべきだと思っているが、リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない。メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」

 要するに感染リスクが低い無症状者に対するPCR検査よりも、既に発症した感染リスクが高い有症状者に対するPCR検査を重点的に行うか、老人ホームや介護施設、あるいは飲食店等で感染者が出た場合、その濃厚接触者が無症状であっても、積極的にPCR検査を行って、感染の有無を判定、感染していた場合は特に高齢者は重症化の危険性を抱えているゆえに即入院・治療に備えるための「メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」としている。

 この方法論が次の発言に繋がっている。「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ。だから感染者が見つかったときに、その濃厚接触者が発症しないかを追跡するだけでなく、感染者の行動を遡って調査して、共通の行動があったかを突き止めて、クラスターが見つかればその周辺をしっかりと検査することをやってきた」
 
 だが、尾身氏のこれらの主張は濃厚接触者以外の無症状者全員に対して陰性を前提としていることになって、「誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられる」との自身の指摘が意味することになる、残りの約半数は有感染性があるとしていることと矛盾することになる。

 具体的にはPCR検査を実施することで判明することになる陽性無症状者の感染3日目~12日目程度の約10日間の有感染性を問題外、あるいは小さな問題としてPCR検査は必要ないとしていることの矛盾である。

 尾身茂は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めている。新型コロナウイルス感染症対策本部の下に新設され、2020年7月3日廃止の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長も務めていた。当然、政府のPCR検査に関わる対策に影響することになる。

 尾身茂の上記2020年10月16日の横浜市での講演6日前の2020年6月10日の衆議院予算委員会。

 志位和夫(共産党委員長)「この緊急提言の考え方というのは、これまでのような強い症状が出た有症者に対して受動的な検査を行うのではなくて、発想を転換して、無症状者も含めて検査対象者を適切かつ大規模に拡大し、先手を打って感染拡大を封じ込める攻めの戦略を行おうというものです。

 総理に伺いたい。私は、第二波に備えて、再度の緊急事態宣言を回避しなきゃならない、回避するためには、この緊急提言は積極的で合理的提案だと考えます。受動的検査から積極的検査への戦略的転換を政府として宣言し、断固として実行に移すべきではありませんか、総理」

 安倍晋三「PCR検査については医師が必要と判断した方や、あるいは、症状の有無にかかわらず、濃厚接触者の方が確実に検査を受けられるようにすることが重要であると考えています。

 また、医療・介護従事者や入院患者等に対しても、感染が疑われる場合は、症状の有無にかかわらず検査を行うこととしています」

 共産党委員長志位和夫の「受動的PCR検査から無症状者も含めた積極的PCR検査への戦略的転換」を行うべきではないかという提案に対して安倍晋三は「医師が必要と判断した方」と「濃厚接触者」と「感染が疑われる場合」の3ケースにPCR検査を限定している。「医師が必要と判断した方」とは既にコロナ感染の症状が出ていて、感染が疑われるケースで、PCR検査は当然としなければならない。「濃厚接触者」は症状が出ていなくても、感染者と密な関係性にあったことからウイルスを吸い込んでいる危険性が疑われるケースで、これもPCR検査で感染の有無の判定が必要となる。

 この2ケース以外の「感染が疑われる場合」とはコロナ感染のいずれかの症状が出ていることを指すのだろう。でなければ、感染を疑われることはない。いずれの場合も経験的な因果関係から感染の可能性が目や頭で判断できるものばかりで、感染の疑わしい状況が発生するまでを待つ、待ちの姿勢のPCR検査でしかない。それ以外はPCR検査から除外されている。

 安倍晋三のPCR検査を必要とする対象は尾身茂が「感染リスクが低い無症状者」に対してPCR検査をしても「感染拡大の防止には役立たない」と指摘していること、「リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない」と指摘していること、「メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」と指摘していることと対応している。

 東京都の場合、PCR検査による感染判明者のうちの約半数前後が感染経路不明者である。つまり誰が感染源となったのか不明の、感染者の半数前後を占めるウイルス保有者が市中に存在していることになる。中には一定時間の経過後に発症するケースもあるだろうし、無症状のまま、ウイルスが消滅する場合もあるだろう。

 発症した場合、自らPCR検査を受けることになって、陰性と判断された場合は隔離されることになるが、そのような陽性者の全てが感染経路が判明するとは限らず、やはり感染経路不明者が出てきて、感染源となったウイルス保有者が一定期間は無症状のまま、あるいはウイルスが抜けるまで無症状のまま市中に存在する状況は続く。

 但し尾身茂が指摘したようにPCR検査の結果、陽性と判断された感染者のうち約半分は感染性がないという知見からすると、感染経路が不明のままのウイルス保有者が一般人と混じって生活していたとしても、他人に感染させることはないから心配することはないが、残りの半数の感染性を有する陽性者の場合は感染3日目から12日目程度の約10日間はその感染性を維持するとしているとしていることと、「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ」点からして、その半数が感染性がない陽性者であるものの、残りの半数は感染性のある陽性者で、そのうちの何人かが無症状のまま推移して誰かに感染させるという循環を繰り返すことになっていないと断言できないことになる。

 そしてこういった陽性者に対してはPCR検査の対象から除外されている。例えそうであったとしても、緊急事態宣言を使って人の移動に制限を掛けた場合、それが3密回避の条件となって、有感染性の無症状者による感染拡大を難しくすることになるが、緊急事態宣言を解除して人の移動が活溌になると、3密の条件が自ずと崩されて、再び感染が拡大する。これが今までの推移であったはずだ。

 そう遠くない時期にワクチン接種によって感染が終息することになるだろうという予測は許されない。2021年1月23日時点でコロナ感染による死者は全国で5000人を超えて5064人となっている。安倍晋三も菅義偉も「国民の命と暮らしを守る」と言いながら、守ることができていない上に暮しを維持できなくなって、倒産や廃業に追い込まれる事例が多発している。10年連続で減少していた自殺者数は2020年に増加に転じて、速報値で2万919人にも上ったとマスコミは伝えている。女性や若年層の増加を特徴としているとのことだが、増加の原因を新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や生活環境の変化が影響した恐れがあると報道されている。どの年代の自殺であっても、その全てがコロナと無関係とは言い切れない。

 要するにコロナ感染が「命と暮し」に現在進行形で影響を与えている以上、その現在進行形を無視して、未来の期待を述べることは許されない。

 PCR検査費用が医師の判断により感染が疑わしい場合と濃厚接触者の場合のみが行政検体として公費で受けることができるということも政府のPCR検査の重点的な対象範囲から当然のことだが、自費検査の場合は3万円前後もかかるという費用の点からも、有感染性の無症状者を野放しにしてきて、「命と暮しを守る」ことができなかったことの結果としてある、死者や生活破綻者を世に送り出してきた状況も当然ということになる。

 現実も教えていることだが、両立するはずもない「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を掲げてきた国民騙しを続けてきたこととPCR検査対象を網羅的にして、徹底的に感染抑止に持っていく強い意志を示すことができなかった不備は尾身茂や安倍晋三に限ったことではなく、菅義偉の姿勢にも当然のことながら見受けることができる。

 衆議院本会議代表質問2020年10月29日。

 志位和夫「日本のPCR検査の人口比での実施数は世界152位。必要な検査がなお実施されていません。総理にはその自覚がありますか。

 無症状の感染者を把握、保護することを含めた積極的検査への戦略的転換を宣言し、実行に移すべきではありませんか。国の責任で、感染急増地、ホットスポットとなるリスクのあるところに網羅的な検査を行うこと、病院、介護施設、保育園等に対して社会的検査を行うことを求めます。感染追跡を専門に行うトレーサーの増員など、保健所の体制強化を求めます。

 多くの自治体が独自にPCR検査の拡充に乗り出していますが、行政検査として行う場合、費用の半分が自治体負担となることが検査拡充の足かせとなっています。全額国庫負担による検査の仕組みをつくるべきではありませんか」

 菅義偉「検査の国際比較についてお尋ねがありました。

 我が国と他国では感染状況などが異なることから、PCR検査の実績の人口比で一概に評価することは難しいと考えております。

 その上で、我が国における1週当たりの検査数としては、4月上旬に約5万件あったのが、感染者数のピーク時における8月上旬には17万件を超え、直近の一週間でも約15万件となっており、全体として検査体制は向上していると認識しており、今後、冬の季節性インフルエンザの流行期も含めて、必要な方が迅速、スムーズに検査を受けられるよう、引き続き検査体制を強化してまいります。

 新型コロナウイルス感染症に係る検査の拡充についてお尋ねがありました。

 医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等に対しては、既に、無症状であっても行政検査の対象とするなど、積極的な検査を実施しているところです」

 1週当たりの検査数を「4月上旬に約5万件」、「感染者数のピーク時における8月上旬には17万件」、「直近の一週間でも約15万件」とその検査数をいくら誇ろうとも、検査対象を「医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等」に限定して、感染者の約半数を占める感染経路不明の、その多くが無症状と考えられるウイルス保有者を放置していたままでいた結果、決定的な感染防止に向かわずに緊急事態宣言の再発令となったのだから、、何の意味もない。

 この意味のないことに意味がないと気づかずに現在に至っているという点では尾身茂にしても、安倍晋三にしても、菅義偉にしても同罪であって、その罪は重い。

 2021年1月20日の衆議院代表質問での共産党委員長志位和夫の質問に対する菅義偉の答弁も何も変わらない。

 「志位和夫質問」(しんぶん赤旗/2021年1月20日)

 志位和夫「総理は、『緊急事態宣言』の発令にさいして、飲食店への時間短縮要請など「四つの対策」を呼びかけましたが、そのどれもが国民に対して努力を求めるものとなっています。その一つひとつは必要なものだと考えますが、それでは、政府として感染抑止のためにどのような積極的方策をとるのか。それがまったく見えません。私は、ここに政府の対応の深刻な問題点があると考えます。

 いま政府が何をなすべきか。私は、三つの緊急提案を行うものです。

 第一はPCR等検査を抜本的に拡充し、無症状者を含めた感染者を把握・保護することによって、新規感染者を減らすことです。

 新型コロナの厄介な特徴は、無症状感染者が知らず知らずのうちに感染を広げてしまうことにあります。ところが政府は、検査によって無症状感染者を把握・保護するという、積極的検査戦略を一貫して持ってきませんでした。

 本庶佑氏、山中伸弥氏らノーベル医学生理学賞を受賞した4氏は、1月8日、声明を発表し、『PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する』ことを提言しています。本庶氏は、『現在の最大の問題は無症候感染者だ』と強調し、日本の検査数が国際的にみて、『いまだに少ない。感染者の早期発見と隔離は医学の教科書に書いてある。なぜ厚労省が教科書に書いてあることをしないのか理解に苦しむ』と述べました。さらに、1日2000検体を処理できる完全自動のPCR検査機器を搭載したコンテナトレーラーが開発されていることも紹介し、『なぜやらないのか』と厳しく指摘しました。

 総理、この指摘をどう受け止めますか。政府として、無症状感染者を把握・保護する積極的検査戦略を持ち、実行すべきではありませんか。答弁を求めます」

 菅義偉の答弁はにPCR検査関してのみ取り上げる。

 菅義偉「無症状感染者の把握についてお尋ねがありました。感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です。

 この為これまでも地方自治体と連携し、一応の検査を受けられるように検査体制の拡充を図ると共に感染拡大地域では症状のない方も含めた大規模集中的な検査を実質的に国の費用負担で実施できるようにしてきたところです。無症状、または軽症の30代以下の若年層が知らずしらずの内に感染を広げていると指摘されていることから、こうした方への呼び掛けを強化してまいります」

 本庶佑氏、山中伸弥氏らノーベル医学生理学賞を受賞した4氏が「PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する」ことへの要請と本庶氏が、「現在の最大の問題は無症候感染者だ」と強調していることは尾身茂や安倍晋三、菅義偉の姿勢とは真っ向から異る。「最大の問題」である無症候感染者の隔離の強化はPCR検査の網を無差別・広範囲に掛けなければ、ウイルス保有の無症候感染者であるかどうかの判定は不可能とある。

 菅義偉は無症状感染者の早期の把握に関して、「感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です」と、把握できた場合の無症状感染者の扱いの方法論を述べているのみで、どう「早期に把握」するのかの、出発点となる把握の方法論には何も触れていない。

 この無症状感染者を把握する方法論を確立しない限り、このことが出発点である限り、「感染拡大地域では症状のない方も含めた大規模集中的な検査を実質的に国の費用負担で実施できるようにしてきたところ」であったとしても、これまでと同様にコロナ感染の症状が現れて病院に検査に訪れるか、濃厚接触者の分類に入れられた場合のみのPCR検査となり、疑わしい状況が発生するまでを待つ、待ちの姿勢のPCR検査であることに変わりはない。

 待ちの姿勢に徹しているなら、「感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です」としていることは従来の状況と何も変わらないことの説明にしかならない。

 「無症状、または軽症の30代以下の若年層が知らずしらずの内に感染を広げていると指摘されていることから、こうした方への呼び掛けを強化してまいります」
にしても、どういった方法を採用するのかの説明が一切ない。ウイルス保有者となっていながら、無症状のため、自分は感染しているとは思ってはいない30代以下の若年層が積極的にPCR検査に応じる自身に対する動機づけに対して感染して会社や周囲に迷惑がかかることになって自分のマイナス点となると考える、PCR検査に応じない自身に対する動機づけの優劣の問題が横たわっている。

 例え感染していたとしても、無症状であるなら、感染性の有無は半々で、有感染性の半数に入ったとしても、感染性が維持されるのは10日間程度で、それ以後はウイルスは抜けていくという情報を手に入れていた場合、後者の動機づけが優って、検査を受けない可能性が大きくなる。当然、自身は無症状のまま、他に感染させて、有症状に至らしめる事例も発生することになる。

 こういった事例を招かないためには会社単位や自治会単位で行政検査として公費負担で行えば、ウイルス保有の無症状者の多くが把握可能となる。この方法をまだ感染者数が少ないときの行っていたなら、感染拡大が現在のようにならなかっただけではなく、現在問題となっている病床逼迫の状況をも避けることができたはずである。

 安倍晋三と菅義偉のコロナ対策に関わる無策とその責任は重い。

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安倍晋三のペテンで獲ち取った2015年12月従軍慰安婦日韓合意 最大のペテンは「政府が発見した資料の中には」云々

2021-01-18 09:51:18 | 政治
 日本政府は1965年の日韓請求権・経済協力協定で慰安婦問題を含めて日韓間の財産・請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みであるとの態度を取ってきた。だが、交渉過程での「日本側文書」に交渉に於ける日本側の基本的姿勢を証明することになる、当時の日本外務省の伊関アジア局長の構想が記録されている。

 「新規開示文書を参考にした日韓請求権問題の考察」 (李洋秀/2014.1.20補筆)から。

「日本としては補償金を支払うが如きことはできないが、韓国帰還と直接関連する形ではなく、例えば住宅の建設の如き間接的に帰還者のesettlement(再定住)の援助になる事業に対しては韓、日、米が3分の1ずつ金をcontribute(提供)する。ただし日本は日韓会談がまとまり、国交を正常化してからでないと支払わないから、それまでは米国側で日本の分を立替え支払うという構想」

 補償金とは犯した罪に対して支払う金銭を意味する。当然、補償金の支払いに応じることは何らかの罪を認めることを意味するだけではなく、どのような罪に対していくら補償したのかが記録され、その記録を後世にまで残すことになる。韓国側が要求した補償金支払いの補償項目は慰安婦や徴用工の未払給与や人的被害補償、あるいは精神的苦痛に対する補償となっている。そしてこの被徴用者には日本軍に徴用された韓国の軍人軍属を含んでいる。

 日本側は韓国側の要求を飲んで補償に応じ、補償金を支払った場合、慰安婦や徴用工等に関わる一大汚点を日本の歴史に残すことになると考えて、補償金という形ではなく、韓国側の徴用工の未払給与や人的被害補償その他の補償要求をすべて抑えて、無償3億米ドル、有償2億米ドルの合計5億米ドルと民間融資3億米ドルの経済協力協定という形に持っていき、経済協力の背後に汚点の全てを隠す一大ペテンに成功し、なおかつ韓国に対して経済援助という形の施す側に立った。

 全ては「日本としては補償金を支払うが如きことはできない」という最初からの基本姿勢を貫き通した結果である。

 だが、日本側が1965年の日韓請求権・経済協力協定で慰安婦問題を含めて日韓間の財産・請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みであるとしているにも関わらず、韓国に於いて元徴用工らが日本企業を訴える賠償請求訴訟だけではなく、元慰安婦女性による日本政府を相手取った謝罪と損害賠償を求める訴訟が相次いだ。

 つまり日本側が1965年の日韓請求権・経済協力協定で慰安婦問題を含めて日韓間の財産・請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みであるとしていることに効き目がないと見たのか、安倍晋三は2015年12月に日韓慰安婦合意という新たな一大ペテンとなる協定を結んで、改めて日韓慰安婦合意によって慰安婦の問題は完全かつ最終的に解決済みであるとの態度を取るようになった。

 この2015年日韓慰安婦合意がなぜ安倍晋三による一大ペテンなのかは後で証明する。

 2021年1月8日付NHK NEWS WEB記事が次のようなことを伝えていた。ソウルの地方裁判は韓国の元慰安婦女性12人が「反人道的な犯罪行為で精神的な苦痛を受けた」として日本政府を相手取って損害賠償を求めていた裁判で原告側の訴えを認め、日本政府に対して原告1人当たり1億ウォン、日本円にして約950万円の支払いを命じる判決を言い渡したと。

 この記事は触れていないが、2021年1月12日付「Newsweek」記事には今回の判決に至るまでの経緯が出ている。

 元慰安婦女性12人は2013年8月当初は慰謝料を求める民事調停を申し立てが、日本政府が訴訟関連書類の送達を拒絶したため調停が行われることはなかった。原告側は正式裁判への移行をソウル中央地裁に要請、地裁は2016年1月に正式裁判に移行。日本政府が訴訟関連書類の送達を再度拒絶したため、地裁は訴訟関連書類を受け取ったと見なす「公示送達」の手続きを取った。多分、日本政府が見ようが見まいが、訴訟関連書類をソウル中央地裁のサイトにでも掲示し、見たことにして裁判を開始したのだろう。「公示送達」は訴訟関連書類の送達を拒否したり、相手方が所在不明であったりした場合は裁判で広く認められている方法だという。

 5年をかけた裁判の結果が今回の判決ということになるが、日本政府が訴訟関連書類の送達を拒絶した理由は、上記NHK NEWS WEB記事によると、主権国家はほかの国の裁判権に服さないとされる国際法上の「主権免除」の原則を持ち出して訴えは却下されるべきだとしていた、つまり裁判そのものを認めなかったことによる。

 「主権免除」とは「コトバンク」の解説を借りると、〈主権国家およびその機関が、その行為あるいは財産をめぐる争訟について、外国の裁判所の管轄に服することを免除されること。国家の活動をその機能により主権的行為と私法的・商業的な性格をもつ業務管理的行為に分け、前者についてのみ裁判権免除が認められるとされる。〉ということになる。

 勿論、「主権免除」だけではなく、1965年の日韓請求権・経済協力協定と2015年日韓慰安婦合意が関連していることは同NHK NEWS WEB記事が伝えている加藤勝信の2021年1月12日午前記者会見発言からも明らかに読み取ることができる。

 加藤勝信「国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきた。

 慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で、完全かつ最終的に解決済みであり、2015年の日韓合意において『最終的かつ不可逆的な解決』が両政府の間で確認もされている。それにも関わらず、このような判決が出されたことは極めて遺憾であり、日本政府として、断じて受け入れることはできない。極めて強く抗議した。

 韓国が国家として国際法違反を是正するために適切な措置を講じるよう強く求める。また今月13日に判決が予定されている類似の訴訟においても、訴訟は却下されなければならず、韓国政府が日韓合意に従って適切な対応をとることを強く求める」

 一大ペテンの上に成り立たせた1965年日韓請求権・経済協力協定であり、2015年日韓慰安婦合意となると、話は別である。

 同記事は加藤勝信が言っている「国際法上の主権免除の原則」についてのソウル中央地方裁判所の見解を載せている。〈「主権免除」の原則について「計画的かつ組織的に行われた反人道的な犯罪行為であり、適用されないとみるべきだ」〉と。

 つまりかつての日本軍の反人道的な犯罪行為に対する徹底的な断罪の必要上、主権免除は認められないとしていることになる。このソウル中央地裁の主権免除否認の理由は「[全訳]慰安婦訴訟についてのソウル中央地裁報道資料」(Yahoo!ニュース/2021/1/8(金) 12:37)によって詳しく知ることができる。

 先ず主権免除とはどういうことかの説明とその適用の例外の存在を述べてから、〈この事件の行為は日本帝国に依り計画的、組織的に広範囲にわたり恣行された反人道的犯罪行為として国際強行規範を違反したものであり、当時日本帝国に依り不法占領中だった韓半島内でわが国民である原告たちに対し恣行されたものとして、たとえこの事件の行為が国家の主権的行為であるとしても、国家免除を適用することはできず、例外的に大韓民国の法院に被告に対する裁判権があると見る。〉と裁判の正当性を主張している。

 この記事はまた「原告たちの請求要旨」についても触れている。

 〈原告たちは日本帝国が侵略戦争中に組織的で計画的に運営してきた'慰安婦'制度の被害者たちで、日本帝国は第二次世界大戦中、侵略戦争の遂行のために組織的・計画的に'慰安婦'制度を作り運営し、‘慰安婦’を動員する過程で植民地として占領中だった韓半島に居住していた原告たちを誘拐や拉致し、韓半島外へと強制移動させ、原告たちを慰安所に監禁したまま常時的な暴力、拷問、性暴行に露出させた。このような一連の行為(以下、‘この事件の行為’と通称する)は不法行為であることが明白で、このために原告たちが深刻な被害を負ったため被告にその慰謝料の一部として各100,000,000ウォンの支給を求める。〉

 ここに取り上げるまでもなく、この種の裁判に向けた訴訟理由は強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)に対する損害賠償で共通している。そして受けた扱いそのものについては韓国人元慰安婦女性だけではなく、インドネシア人元慰安婦女性も、台湾人元慰安婦女性も、フィリッピン人元慰安婦女性も、インドネシアで日本軍に民間人収容所に収容された、その多くが未成年であるオランダ人元慰安婦女性も証言している。

 では、2015年日韓慰安婦合意を見てみる。2015年12月28日、日本の外相岸田文雄と朴槿恵(パククネ)政権のユン韓国外相が韓国ソウルで両国間に横たわっていた従軍慰安婦問題で会談し、合意に至った。合意に至るについては安倍晋三ブレーン国家安全保障局長谷内正太郎と当時の大統領秘書室長李丙琪(イビョンギ)元駐日大使との間で秘密交渉が重ねられたとマスコミは伝えている。

 合意内容は「共同記者発表」(外務省HP/2015年12月28日)に記載されている。

〈1 岸田外務大臣

 (1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉――

 多数の女性を慰安婦という立場に貶めて、その名誉と尊厳を深く傷つける行為に当時の日本軍が関与していたという意味解釈となる。名誉と尊厳を深く傷つける行為とは、当然、元慰安婦女性の立場からしたら、強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)を内容としていることになる。

 あれ程日本軍の関与・日本軍の責任を認めてこなかった安倍晋三が到頭認めるに至った。日本国内の右翼及び右翼系政治家は安倍晋三の豹変に反発した。当時日本のこころ代表の中山恭子も同じである。

 2016年1月18日の参議院予算委員会

 中山恭子「今回の共同記者発表は極めて偏ったものであり、大きな問題を起こしたと考えております。共同記者発表では『慰安婦問題が当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本の責任を痛感している』。

 すべての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復の代替として日本のために戦った日本の軍人たちの名誉と尊厳が救いのない程に傷つけられています。さらに日本人全体がケダモノのように把えられ、日本の名誉が繰返しがつかない程、傷つけられています。

 外務大臣にお伺い致します。今回の共同発表が著しく国益を損なうものであることに思いを致さなかったのでしょうか」

 対して岸田文雄は、この合意は「従来から表明してきた歴代の内閣の立場を踏まえたものであり」、「この立場は全く変わっておりません」と答えている。

 この答弁に納得せず、中山恭子は質問を安倍晋三に変えて、なお追及している。

 中山恭子「安倍総理は、私たちの子や孫、その先の世代の子供たちにいつまでも謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかないと発言されています。私も同じ思いでございます。しかし、御覧いただきましたように、この日韓外相共同記者発表の直後から、事実とは異なる曲解された日本人観が拡散しています。

 日本政府が自ら日本の軍が元慰安婦の名誉と尊厳を深く傷つけたと認めたことで、日本が女性の性奴隷化を行った国であるなどとの見方が世界の中に定着することとなりました」

 安倍晋三「海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは 20万人 といった事実ではない。この批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第1次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。

 また 当時の軍の関与の下にというのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと、であると従来から述べてきている通りであります。

 いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」――

 中山恭子が「日本政府が自ら日本の軍が元慰安婦の名誉と尊厳を深く傷つけたと認めたことで、日本が女性の性奴隷化を行った国であるなどとの見方が世界の中に定着することとなりました」と言っていることは「共同記者発表」を素直に読めば、そのとおりの文脈になるのだから、当然なことだが、安倍晋三は日本軍の関与は「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送」と慰安婦募集を業者に要請したことに限定、強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)に関しては日本軍の関与を全面否定している。このことが一大ペテンとしている何よりの理由でなる。

 朴槿恵韓国大統領が元慰安婦の意思を無視してこのような結論でなぜ同意したのかは想像するしかないが、当時の韓国は経済低迷期にあった。2014年の4月からの経済成長率は3四半期連続の0%台で、2015年も同様の傾向が続くと予想されていた。経済苦境打開のために中国に接近したが、韓国経済は一向に改善しなかった。さらに大統領支持率が2014年4月16日の大型旅客船「セウォル(世越)」の転覆・沈没事故に対する救助活動の不手際や政府の危機管理能力に対する信頼低下を境にして40%台後半にまで一気に低下したこと、2014 年 12 月の大統領の元側近による国政介入疑惑を受けた人気低迷、さらに財閥支配の経済構造からの様々な矛盾の噴出と世界的な景気後退を受けて国家経済が低迷する中、歴史認識の違いを言っているどころではなくなり、日韓関係の改善を力とした政権運営の建て直しと国家経済の建て直しの背に腹は代えられない必要性に迫られて、「当時の軍の関与の下に」云々が強制連行と強制売春が行われたことを認めたものではなく、慰安所の設置や管理及び慰安婦の移送のみを意味しているに過ぎないことを弁えていながら、日本側の思惑に乗って2015年12月28日の従軍慰安婦日韓合意に至ったという可能性は否定できない。

 安倍晋三は強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)への日本軍関与否定のフレーズに「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」を常に根拠としている。

 だが、このフレーズ自体が一大ペテンを用いて成り立たせているに過ぎない。

 当時民主党の辻元清美が安倍内閣に対して2013年5月16日に「バタビア臨時軍法会議の証拠資料」についての安倍首相の認識に関する質問主意書」を提出した。内容を簡単に纏めてみる。

 先ず安倍晋三の「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった。その証拠はなかったのは事実ではないかと思う」という2007年3月1日の発言と「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった」とする3月5日の参議院予算委員会での発言を取り上げてから、日本軍がインドネシア占領後に民間人収容所に強制入所させた民間オランダ人のうち、「Wikipedia」によると17歳から28歳の合計35人のオランダ人女性を強制的に慰安所に連行、日本軍兵士の強制売春相手とした蛮行に対して日本敗戦後、インドネシアを再度占領したオランダ軍が蛮行を主導した日本軍兵士をバタビア臨時軍法会議で裁くことになった。

 裁判資料はオランダ政府戦争犯罪調査局がオランダ人慰安婦女性の証言や日記、それ以外の証言に基づいて「強姦」、「強制的売淫のための婦女子の誘拐及び売淫の強制」、「抑留市民又は被拘禁者の虐待」等々の39の犯罪事項が列挙されていて、バタビア臨時軍法会議に証拠資料として提出され、採用されているとしている。

 この犯罪事項は韓国人元慰安婦女性の訴えの内容と共通している。

 そこで質問。最初の一点は省くが、軍法会議に提出された証拠資料のうち、〈日本軍の憲兵が女性を集める指示に直接的に関与していたことを示して〉いる箇所は〈軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」であると考えるか。政府の見解を示されたい。〉が一点。

 同資料の内、〈女性がその意志に反して強制的に連行されたことを示して〉いる箇所は〈「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」であると考えるか。政府の見解を示されたい。〉がもう一点。

 〈総じて当該資料は「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」資料であるという認識か。〉が一点。

 さらに別に当該資料に対する安倍自身の認識について質問している。

 資料が〈憲兵が女性を集める指示に直接的に関与していたことを示し〉ている箇所は、〈「官憲が家に乗り込んで人さらいのように連れて行くような強制性」を示したものであると考えるか。〉

 〈女性がその意志に反して強制的に連行されたことを示して〉いる箇所は〈「官憲が家に乗り込んで人さらいのように連れて行くような強制性」を示したものであると考えるか。〉

 〈安倍首相は、総じて当該資料は「当初、定義されていた強制性を裏付けるもの」であるという認識か。〉の三点。

 対する「答弁本文」(2013年5月24日)

 〈お尋ねについては、先の答弁書(2007年6月5日内閣衆質166第266号)一及び二についてでお答えしたとおりである。〉

 では、2007年6月5日の辻元清美の質問主意書に対する安倍内閣「答弁書本文」のみを見てみる。

 〈一及び二について

 連合国戦争犯罪法廷に対しては、御指摘の資料も含め、関係国から様々な資料が証拠として提出されたものと承知しているが、いずれにせよ、オランダ出身の慰安婦を含め、慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成5年8月4日の内閣官房長官談話(河野談話)のとおりである。

 三について

 連合国戦争犯罪法廷の裁判については、御指摘のようなものも含め、法的な諸問題に関して様々な議論があることは承知しているが、いずれにせよ、我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)第11条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。〉

 内容はこれだけとなっている。要するに辻元清美の「日本軍関与による強制連行なのかどうなのか」、「官憲が家に乗り込んで人さらいのように連れて行くような強制性があったのかどうなのか」等の質問に直接的には何も答えていない。質問に直接答えないという姿勢は国会答弁でも頻繁に見せる安倍晋三十八番の手である。この遣り方も一種のペテンであろう。

 最後の文言から日本軍関与による人攫い同然の強制性の有無について安倍晋三自身がどう考えているのか探るしかない。再度その文言を改めて取り上げる。

 〈連合国戦争犯罪法廷の裁判については、御指摘のようなものも含め、法的な諸問題に関して様々な議論があることは承知しているが、いずれにせよ、我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)第11条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。〉

 意味していることは連合国戦争犯罪法廷の正当性については法的な諸問題の面から様々な議論があるがと、その正当性に否定的態度を一応は示しているが、〈我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)(サンフランシスコ平和条約のこと)第11条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。〉と述べて、裁判の過程と判決を受け入れたという態度を取っていることになる。つまり裁判そのものを、渋々だろうが、厭々だろうが、面従腹背だろうが受け入れた。

 裁判そのものを受け入れたということは当該裁判に対する原告の訴えの内容とその内容に対する判決を受け入れたことを意味する。訴えの内容はオランダ人慰安婦女性の証言や日記を元にして裁判所が証拠として取り上げ、罪状とした、主として「強姦」、「強制的売淫のための婦女子の誘拐及び売淫の強制」である。

 それが罪名となって、「Wikipedia」によると、BC級戦犯として11人が有罪とされた。軍人だけではなく、慰安所を経営していた日本人業者も入っていた。責任者である岡田慶治(出生地は広島県福山市)陸軍少佐には死刑が宣告、中心的役割をはたしたと目される大久保朝雄(仙台出身)陸軍大佐は戦後、日本に帰っていたが軍法会議終了前の1947年に自殺。慰安婦にされた35人のうち25名が強制だったと認定された。

 「強姦」、「強制的売淫のための婦女子の誘拐及び売淫の強制」の判決そのものを受諾し、安倍内閣が、あるいは安倍晋三自身が〈国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。〉としている以上、当該裁判の判決に反して、あるいは韓国人元慰安婦女性の裁判意思に反して、「官憲が家に乗り込んで人攫いのように連れて行くような強制性はなかった」とか、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とか、「日本軍の関与は慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送と慰安婦の募集を業者に当たらせたぐらいだ」といったことを国会その他で口にすることはバタビア臨時軍法会議を受諾しているとしていることに違反するペテンとなって、許されないことになる。

 大体が「政府が発見した資料の中には」云々自体がペテンでしかない。なぜならバタビア臨時軍法会議が慰安婦とされたオランダ人女性の証言や日記に基づいて証拠採用した裁判記録そのものを資料の中に入れていないからだ。

 要するに軍や官憲による強制連行を直接示すような記述のない資料だけを発見したことにして、強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)の事実を抹消するペテンをやらかした。そもそもからして韓国のみならず、台湾、フィリッピン、インドネシア等々、元慰安婦の証言が資料として残されているにも関わらず、政府発見の資料の中には入れないペテンを弄した。架空の事実を拵えて、「政府が発見した資料の中には」云々としてきた。強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)が事実として存在していたことの裏返しのペテン行為であろう。
まさしく最大のペテンである。

 かくまでも強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)の歴史的事実を認めまいとしている。かつての日本軍とかつての日本国家の不名誉となることを恐れている以外の理由を見つけることはできない。要するに戦前の日本国家を名誉ある偉大な存在と看做している。だから、「政府が発見した資料の中には」云々とする最大のペテンを働かざるを得なかった。

 日本政府の慰安婦に関わる資料発見が如何に恣意的に行われた最大のペテンだったのかを証明できる2013年10月15日付「asahi.com」記事、《慰安婦記録出版に「懸念」 日本公使がインドネシア側に》がある。

 内容は、〈駐インドネシア公使だった高須幸雄・国連事務次長が1993年8月、旧日本軍の慰安婦らの苦難を記録するインドネシア人作家の著作が発行されれば、両国関係に影響が出るとの懸念をインドネシア側に伝えていた。〉というもので、〈朝日新聞が情報公開で入手した外交文書などで分かった。〉としている。

 以下、記事の内容。〈日本政府が当時、韓国で沸騰した慰安婦問題が東南アジアへ広がるのを防ぐ外交を進めたことが明らかになったが、高須氏の動きは文学作品の発禁を促すものとみられ、当時のスハルト独裁政権の言論弾圧に加担したと受け取られかねない。

 当時の藤田公郎大使から羽田孜外相(細川内閣)宛の1993年8月23日付極秘公電によると、高須氏は8月20日にインドネシア側関係者と懇談し、作家の活動を紹介する記事が7月26日付毎日新聞に掲載されたと伝えた。

 この記事は、ノーベル賞候補だった作家のプラムディア・アナンタ・トゥール氏が、ジャワ島から1400キロ離れた島に戦時中に多数の少女が慰安婦として連れて行かれたと知り、取材を重ねて数百ページにまとめたと報じた。公電で作家とインドネシア側関係者の名前は黒塗りにされているが、作家は同氏とみられる。〉――

 ここで確認しておかなければならないことは「政府が発見した資料の中には」云々のフレーズを用いることになったキッカケを辻元清美が提出した質問主意書に対する2007年3月16日の 「政府答弁書」から見つけ出すことができる。

 〈お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成3年12月から平成5年8月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月4日の内閣官房長官談話(「河野談話」のこと)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。〉

 要するに「河野談話」を1993年8月4日に発表するに備えて政府が事実関係を調べるために漁った慰安婦関係の資料の中には強制連行と受け取れる箇所はなかったとの説明であって、この説明が強制性を否定するフレーズとして用いられるようになったということになる。

 では、上記「asahi.com」の記事に対する解釈に戻る。

 当時の駐インドネシア公使高須幸雄が「河野談話」発出の1993年8月4日から19日後の1993年8月23日に日本とインドネシアの関係悪化への懸念を持ち出して、作品の発禁を謀ったのは「政府が発見した資料の中には」云々のペテンでしかない歴史認識との調和を崩すわけにはいかなかったからだろうが、このことは同時に「政府が発見した資料」が「軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする歴史認識に都合よく合わせた恣意的な「発見」だったことを証明して余りあることになる。

 つまり「政府が発見した資料の中には強制性を示す記述はなかった」としているペテンを事実であるかのように維持するためにはそのペテンを崩す強制性を証拠立てる事実が入ってきては困ることになるから、出版を阻止しなければならなかった。

 インドネシア共産党の影響を受けたインドネシア国軍部隊が1965年の9月にクーデーター未遂事件を起こし、陸軍戦略予備軍司令官だったスハルトがスカルノ大統領から事態収拾の権限を与えられて鎮圧、同年10月16日に陸軍大臣兼陸軍参謀総長の任を与えられると、共産党弾圧に乗り出し、共産党関係者と疑った一般住民までを虐殺したり捕らえたりして、逮捕者をB級政治犯の流刑地であるブル島に送った。

 「asahi.com」が紹介しているプラムディア・アナンタ・トゥール氏はインドネシア共産党関係者と疑われて逮捕され、スカルの跡を継いで1968年にインドネシア大統領となったスハルト政権下の1969年にブル島送りとなり、そこでの生活が10年以上に及び、スハルト政権下(1967年3月12日~1998年5月21日)では氏の作品は事実上の発禁処分をうけていたと「Wikipedia」が紹介している。

 氏の日本語訳作品『日本軍に棄てられた少女たち ――インドネシアの慰安婦悲話――』は氏の流刑地となったブル島には政治犯の流刑者以前に島外から住人となっていた者がいたことが描かれている。他の場所で日本軍の従軍慰安婦にされてブル島に連れて来られたり、ブル島に連れて来られてから日本軍の従軍慰安婦にされたりした過去を経て、日本の敗戦後にブル島に置き去り同然に棄てられて年を取ることになった元少女たちである。彼女たちの方から近づいてきたり、流刑者の方から移動の自由によって行動範囲を広げていく内に彼女たちの存在を知り、身の上話を聞く関係にまで発展していった。

 物語は自身が聞いた身の上話や仲間の流刑者が聞いた身の上話で構成されていて、それらの身の上話には少女たちが数人で家の庭で遊んでいたところ、幌付きの軍用トラックが庭に乗り付け、幌をかけた荷台から歩兵銃を持った十人近くの日本兵が飛び降りてきて、少女たちを捕まえては荷台に放り込み、また走って、少女たちを見つけると、トラックを停めて少女たちを捕まえていき、荷台がほぼ一杯になると慰安所に連れていき、泣き叫び暴れる少女たちを力づくで押さえつけて姦していき、それが毎日続くことになったという内容や、あるいは留学話で釣り、日本に向けて船出はするものの、昭南島(日本軍占領時期のシンガポール)に連れて行って強制的に慰安婦にしたり、あるいはブル島に連れて行って、暴力的に慰安婦の境遇に投げ込むといった内容が取り上げられている。

 これらの慰安婦だった元少女たちの身の上話として語られた証言の全てが「政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」としている歴史認識を最大のペテンであると暴き立てることになる慰安婦の現実となっている。「政府が発見した資料の中には」の云々のフレーズの背後に強制連行(誘拐・拉致・強制移動)と強制売春(監禁・日常的暴力・拷問・性暴行)といった慰安婦の真正な現実を隠したがっている勢力にとっては外交的圧力をかけて発禁を願うことでしか、ペテンをペテンとして最大限に守ることができないと考えたのだろう。

 1965年の日韓請求権・経済協力協定にしても、2015年12月の日韓慰安婦合意にしても、かくかように一大ペテンで成り立たせた日本と韓国の約束である以上、国際法上の主権免除の原則は成り立つはずはなく、ソウル中央地裁が被告を日本政府とした元慰安婦女性12人の訴えを認めて、日本政府に対して原告1人当たり1億ウォン、日本円にして約950万円の支払いを命じる判決を言い渡したとしても、日本政府側が国際法上の主権免除の原則を楯に韓国政府を批判したり抗議したりする資格はない。

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夫婦別姓反対派主張の日本の伝統的な家族の在り方・伝統的家族観を守るは男尊女卑の権威主義を核のところで擁護する思想

2021-01-11 11:00:54 | 政治
 2020年12月半ば前後のマスコミ記事によると、菅内閣は選択的夫婦別姓導入に前向きな第5次「男女共同参画基本計画」案を作成、自民党に提示したが、自民党は賛成派と反対派が激しく対立、菅内閣は計画案を3回も修正し、最終的に選択的夫婦別姓に関わる文言を削除した修正案で自民党内が纏まり、その修正案を閣議決定するに至ったと報じていた。

 この経緯は選択的夫婦別姓に関しては菅内閣は善玉、自民党は悪玉に映る。だが、菅内閣が善玉役を演じ、自民党が悪玉役(ヒール役)を引き受けることで、菅内閣に差し障りが生じないように選択的夫婦別姓の文言削除を成功させたと見ることもできる。

 5次「男女共同参画基本計画」を閣議決定したのは2021年12月25日。この日を遡ること1ヶ月半余の2020年11月6日参議院予算委員会での共産党小池晃の菅義偉に対する追及を見ると、なる程なと頷いて貰えるかもしれない。

 小池晃は最初は法相の上川陽子に対して2001年11月当時、自民党議員有志の立場で選択的夫婦別姓制度導入に向けた民法改正について早急かつ徹底した党内議論を進めること、速やかに今臨時国会に当該問題についての閣法が上程され、審議に付されることという提案を党三役に申し入れを行ったことに併せて、2008年1月の財団法人市川房枝記念会出版部発行の「女性展望」に「私も選択的夫婦別姓については賛成で、そのために議員として活動してきました」、政治家としての信念はと聞かれて、「言行一致、つまり、言ったことには自分で責任を持つことが大切だと考えています」と答えているが、ならば選択的夫婦別姓導入を「言行一致」でやったらどうかと追及。

 対する答弁。

 上川陽子「私の個人として、政治家としてのこれまでの意見については、先生今御紹介をして頂いたとおりであります。

 この問題については、それぞれ家族の在り方についての考え方について様々な意見があるということで、世論調査におきましてもその意見の幅が表れているというところも確かであります。

 今回、第5次男女共同参画基本計画の中に、こうしたことについての調査を、意見的な、パブリックコメントでありますとかヒアリング等に応じて、特に若い世代の皆さんに聴取をしているということも事実でございます。

 そういう意味で、国会が非常に大事な役割を果たしていくというふうに思っておりまして、そうした動向も踏まえまして検討に当たってまいりたいというふうに思っております」

 要するに上川陽子は内閣の一員である法相の意見と政治家個人としての意見を別物に扱っていて、法相という立場上、世論調査に現れている家族の在り方についての様々な意見を考慮の内に入れなければならないといった趣旨の答弁をしている。至極尤もな答弁ではあるが、いつの世論調査なのか明らかにしていない。

 小池晃の前に質問に立った矢田わか子に対しては上川陽子は「希望すれば結婚前の姓を名のれる選択的夫婦別氏制度の導入の問題は、我が国の家族の在り方に深く関わる事柄であると考えております。直近の平成29年(2017)の世論調査の結果を見ましても、いまだ国民の意見が分かれている状況にございます」と、選択的夫婦別姓導入に関しての昨今の状況変化を無視して3年前の世論調査を持ち出すペテンを働かせている。
 
 このペテンにまずいと気づいたから、小池晃についてはいつの日付か分からない世論調査とする新たペテンを働かせたのだろう。

 朝日新聞社2020年1月25、26日実施の全国世論調査(電話)では選択的夫婦別姓「賛成」69%、「反対」24%。自民支持層「賛成」63%、「反対」31%。このように1年前に賛成が反対を大きく上回る状況となっていたにも関わらず、3年前の世論調査を持ち出して、「いまだ国民の意見が分かれている状況にございます」とヌケヌケと言うことができるペテンは流石である。

 2020年12月12日毎日新聞と社会調査研究センター実施全国世論調査ではる選択的夫婦別姓導入「賛成」49%、「反対」24%、「どちらとも言えない」27%。夫婦別姓が認められた場合の対応、「夫婦で同じ名字を選ぶ」64%、「夫婦で別々の名字を選ぶ」14%、「わからない」22%。

 例え夫婦同姓選択が64%と大きく上回ったとしても、夫婦別姓を認める意識が3年前と違って、国民の間に大きく浸透していることを示している。

 小池晃は上川陽子に対してと同じように続いて菅義偉に対しても過去の選択的夫婦別姓に関わる姿勢を取り上げている。

 小池晃「総理、総理もこの2001年の自民党有志議員の申入れに名前を連ねていらっしゃることを覚えていらっしゃいますか。覚えていらっしゃいますか」

 菅義偉「確かそうだったと思います」

 小池晃「それだけではない。2006年3月14日の読売新聞。自民党内で別姓導入に理解を示す菅義偉衆議院議員は、『例外制でも駄目ならもう無理という雰囲気になってしまった、しかし、不便さや苦痛を感じている人がいる以上、解決を考えるのは政治の責任だ』

 別姓導入を求めてきた方が総理になり、法務大臣になったんですよ。政治の責任を言行一致で果たすべきときではありませんか。総理、どうですか」

菅義偉「夫婦の氏の問題は、我が国の家族の在り方に深く関わる事柄であり、国民の間に様々な意見があり、政府として、引き続き、国民各層の意見を幅広く聞くとともに、国会における議論の動向を注視しながら対応を検討してまいりたいというふうに思います。

 ただ、私は、政治家としてそうしたことを申し上げてきたことには責任があると思います」

 小池晃が菅義偉のかつての発言として伝えている「例外制」とはネットで調べてみると、夫婦は同じ氏を名乗るという現在の制度を原則としつつ、家庭裁判所に許可を得た場合のみ別姓を例外的に認める考え方のことだそうで、この考え方で法案を纏め、議員立法で通すことを目的として2002年7月16日に自民党内でグループを発足させたが、立法に至るまでに自民党内を纏めることができず、法案提出は見送られたという。

 法案提出が見送りに対して菅義偉が2006年3月14日の読売新聞にインタビューで発言したのか、単に発言が取り上げられたのか、「例外制でも駄目ならもう無理という雰囲気になってしまった」云々の言葉が紹介されたということなのだろう。

 「夫婦の氏の問題は、我が国の家族の在り方に深く関わる事柄」であることは菅義偉の発言を待つまでもなく、別姓導入反対派は古くから同様のことに反対の根拠を置いてきた。「我が国の家族の在り方に深く関わる事柄」だから、下手に手を付けてはいけないというタブーに祭り上げてきた。

 但し菅義偉自身は「我が国の家族の在り方」に深く関係するものの、過去に於いて政治家個人としては別姓導入に理解を示していたと言うことは「我が国の家族の在り方」よりも選択的夫婦別姓導入を優先させる姿勢でいたとことを示す。だが、「国民の間に様々な意見がある」を現在の姿勢としているということは、この文言も夫婦別姓反対派が便宜的に頻繁に使っていることから、選択的夫婦別姓導入よりも「我が国の家族の在り方」を優先させるニュアンスの発言となる。

 当然、国会に於いて、あるいは与党内に於いて「我が国の家族の在り方」を重視する勢力が優位にある情勢に対して「国会における議論の動向を注視しながら対応を検討したい」は選択的夫婦別姓導入に距離を置く発言となる。つまりかつては個人的立場から理解を示していた選択的夫婦別姓導入であるにも関わらず、小池晃に「別姓導入を求めてきた方が総理になり、法務大臣(上川陽子のこと)になったんですよ。政治の責任を言行一致で果たすべきときではありませんか。総理、どうですか」と促されたものの、首相となったことが導入に向けて手に入れたリーダーシップ発揮のチャンスだとは捉えていなかったことになる。

 要するに2020年11月6日の参議院予算委員会の時点で菅義偉がチャンスだ捉えていなかったことが菅内閣が一旦は選択的夫婦別姓導入に前向きな第5次「男女共同参画基本計画」案を作成していながら、自民党の抵抗に遭って前向きな箇所を削除、削除したままの修正案で2021年12月25日に閣議決定したという経緯を踏むことになった。

 当然、菅義偉が選択的夫婦別姓導入に向けてリーダーシップを発揮するチャンスと最初から見ていなかったのだから、導入に前向きな文言を削除させた自民党側が単純に悪玉と割り切ることはできないばかりか、文言を削除させられた側の菅内閣が単純に善玉と看做すこととができなくなって、最初に触れたように菅内閣が善玉役を演じ、自民党が悪玉役(ヒール役)を引き受けることで、菅内閣に差し障りが生じないようにそれぞれの役割を演じたと見ることができるとしたことがあながち的外れだとは言えなくなる。

 ただ確かに言えることは第5次「男女共同参画基本計画」案に一旦は導入に前向きな文言を入れたのだから、菅義偉にはその文言どおりに持っていくだけのリーダーシップは発揮できなかったということである。もし最初からリーダーシップを発揮する気はなかったということなら、かつては夫婦別姓導入に理解を示していたとする姿勢をウソにすることになる。

 選択的夫婦別姓導入反対派の先ず第一の理由は既に挙げたように伝統的な家族の在り方・伝統的な家族観と深く関わる問題だとすることで、暗に簡単には壊すことはできない夫婦同姓制度だとしている点にある。

 安倍晋三もこの考え方に立つ答弁を行っている。2019年10月8日の安倍晋三の所信表明に対する立憲民主党長浜博行の質問に対する答弁。

 安倍晋三「夫婦の別氏の問題については、家族の在り方と深く関わる問題であり、国民の間に様々な意見があることから、この対応についてはSDGsの議論とは別に慎重な検討が必要と考えております」

 「SDGs」とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称だそうで、「貧困ゼロ」、「飢餓ゼロ」「不平等ゼロ」、「平和と公正さの平等の実現」、「公平・平等で高質な教育機会の実現」などの17の目標の中に「ジェンダー(社会的性差)解消と社会的に男女平等であることの実現」を掲げているという。

 もう一つの反対理由。家族の一体感の喪失とその喪失による子どもへの影響。「夫婦の姓が違うと、子どもが混乱する」という言葉を使っている。この点について山谷えり子が朝日新聞の「インタビュー」(asahi.com/2020年12月12日 16時30分)に答えている。

 ――選択的夫婦別姓制度の導入の是非をどう考えていますか。

 山谷えり子「導入に慎重な立場です。社会の基礎単位は家族だと思っています。選択的夫婦別姓というのは、ようするにファミリーネームの廃止。氏が、個人を意味するものに変化する。家族が、社会の基礎単位ではなくて、個人の寄り集まったものみたいに変化していく可能性は大きいのではないでしょうか。色々なギクシャクも予想される部分もあるし、子どもは混乱すると思いますね」

 確かに選択的夫婦別姓制度は氏に意味を置かず、個人に意味を置く。個人に意味を置いた男女が夫婦となれば、従来のように氏に意味を置いたのとは異なる家族を形成し、子どもができれば、その子どもを加えた家族という形を取る。そしてそのような家族が社会の基礎単位となる点に於いて従来と何も変わらない。

 「色々なギクシャクも予想される部分もある」と言っていることは家族の一体感の喪失を指しているが、夫婦同姓であったとしても、「ギクシャク」している夫婦、家族はいくらでも存在する。要するに氏の問題でも、姓の問題でもなく、個人対個人の問題である。

 氏、あるいは姓が、現実が物語っているように夫婦、あるいは家族のカスガイの役割を果たすわけではない。カスガイの役割を果たすのは夫が妻を、妻が夫を個人的に尊敬できる存在であるかどうかの意思であって、相手に対しての個人的尊敬の意思を失えば、家庭内別居、離婚という破局となって現れる。

 この破局は当然のことながら、氏や姓が防いでくれるわけではない。子どもが父親か母親に対して個人的な尊敬を失うことになれば、反抗という形で現れる。反抗が最悪、父親殺し・母親殺しという形で現れてしまう例もあるはずだ。中には個人的に尊敬できない父親・母親を反面教師として社会的に人間的な成長を遂げていく子どもも存在するはずだ。

 夫婦別姓に於いても然り。氏や姓に意味を置かず、個人に意味を置いた男女関係・夫婦関係にしても、親子関係にしても、相手に対する個人的尊敬が男女・夫婦の一体感を生み、持続させ、親の姓が異なっていても、父親と子の、母親と子の一体感を育んでいく。個人的尊敬という要素さえ手に入れることができれば、子どもが混乱するどのような要素があると言うのだろうか。子どもができなく血の繋がっていない子どもを自分の子どともして引き取り、育てる父親・母親にしても、その子に対する個人的尊敬の気持ちが持てなければ、逆に引き取られた子が引き取られて以降感覚的に、そして物心ついて以降、実感的に父親・母親に対して個人的尊敬の気持ちを持つことができさえすれば、血の繋がりは問題ではなくなる。

 要するに山谷えり子は古い人間にふさわしく、氏や姓といった形式に価値を置いて、中身の人間の在り様に価値を見ないでいる。

 安倍内閣で総務相を務めていた安倍晋三の秘蔵っ子右翼高市早苗が自身の「サイト」に2020年12月1日付で自民党の法務部会(奥野信亮部会長)に対して『婚姻前の氏の通称使用に関する法律案』を提出したことを報告している。選択的夫婦別姓の法律化に反対しているがゆえの婚姻前の氏の通称使用を認める法制定に向けた動きである。氏の通称使用の法律化によって選択的夫婦別姓の法律化を葬り去ろうとする魂胆を前提としているはずだ。

 法案の概要と通称使用に関わる自身の主張や別姓に関わる経緯等を載せているが、主張のところをピックアップしてみる。

 「高市早苗Column」

 夫婦同氏制度は、旧民法の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものです。

 氏は、家族の呼称として意義があり、現行民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性があります。

 そして、夫婦親子が同じ氏であることは、家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有しています。
 
 各種手当や相続をはじめ、戸籍を基に運用される多くの法制度も存在します。

 特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服することを示すために、子が夫婦双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があります。
  
 「戸籍上も夫婦別氏」となってしまうと、「子供の氏」は両親のどちらかと異なることとなり、婚姻届や出生届の提出前に、子供の氏を両親が奪い合うようなトラブルも想定されます。
 
 (『夫婦別氏法案(民法の一部を改正する法律案)』が平成14年に自民党法務部会で審査された)当時も「兄弟姉妹の氏が異なることは、子に対して悪影響がある」という世論調査結果を受けて、「複数の子の氏は統一する」こととされていましたが、これでは「家名を絶やさない」という別氏推進派の希望も叶わない上、婚姻届提出時、出生届提出時、成人後など、子の氏が度々変更される可能性があります。

 私は、「子供の氏の安定性」は、損なわれてはならないと考えます。

 また、夫婦親子別氏の御家族に対して、「第三者が神経質にならなければならない煩雑さ」も懸念しています。

 仮に民法改正が実現したとして、経過措置期間中に別氏に移行した夫婦や親子を認識していなければ、例えば年賀状の宛名書きでも、相手に対して大変な失礼をしでかすことになります。

 結婚披露宴に招かれて「ご両家の皆様に、お慶びを申し上げます」と祝辞を申し上げてしまった場合、新郎と新婦のご両親が別氏を選択していたなら、「ご4家の皆様」と言わなければ失礼にあたります。

 今や殆どの専門職(士業・師業)など国家資格においても、届出により、戸籍氏名と婚姻前の氏を併記することが認められており、マイナンバーカードでも同様です。

 総務大臣在任中には、『公職選挙法』を所管する立場から、議員の当選証書も併記を可能にしました。

 先ずは、婚姻前の氏の通称使用が可能な場面を増やすことによって、婚姻に伴う氏の変更による社会生活上の不便を解消し、我が国の優れた「戸籍制度」や「ファミリーネーム」は守り抜きたいと考えます。

 議員立法の場合、党内で法案を審査していただけるか否かは、内閣提出法案の数や国会日程など様々な事情を勘案しながら、政調会長や法務部会長が判断して下さることだと思いますので、先行きは見えませんが、私の法案は、今後の議論の叩き台にはなると思います。

 「氏は、家族の呼称として意義がある」と言っているが、一般的に氏で家族を呼称した場合、その多くが夫を家族の代表と見做して、妻を夫の次に置いた意識の元の呼称となる。例え夫が婿入りして妻の氏を名乗っていることを知っていたとしても、妻が家庭内に於いても、家庭外に於いても余程の実権を握っていない限り、夫を家族の代表と看做す意識で家族というものを認識することになる。

 夫婦別姓であっても、一つの家族を構成する。その家族を認識する際、夫婦別姓であると知った以降は必要に応じて夫の氏で認識したり、妻の氏で認識することになるだろうが、夫の氏で認識する場合は夫をより個人としての存在で見ることになり、妻の氏で認識する場合は妻を夫の付属物でも、従属物でもなく、より個人としての存在で見ることになって、個人対個人の独立した人間関係で認識せざるを得なくなり、日本国憲法第3章国民の権利及び義務に於ける〈すべて国民は、個人として尊重される。〉の第13条に近づくことになるのだから、どこに不都合があるのだろうか。

 例えばママ友同士が氏(名字)で呼び合っていた関係が名前で呼び合う関係に進む場合があるが、個人的により親しくなった関係となったことの証明以外に何ものでもないはずだ。氏よりも個人により価値を置くという点で夫にとっても、妻にとっても、夫婦別姓は意義のある制度となる可能性を孕んでいる。勿論、子どもがどちらの氏を選んだとしても、夫と妻が相互に個人対個人の独立した人間関係を築いていれば、夫も妻も子どもに対して選んだ氏の関係物ではなく、個人対個人の関係性で子どもを捉えることになるだろう。

 兎角日本人は個人よりも集団に価値を置く。どこそこの有名大学を出たと評価することも集団に価値を置いているからで、勤めている会社の規模で評価を違えているのも集団に価値を置いているからで、その集団の一員であることを自己に対する評価とする。どのような大学を出ようと、どのような会社に勤めうよと、自分という個人に価値を置いて自らを自律させる例が少ない。

 当然、「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性がある」としても、その「集団単位」そのものの中身の構成員が相互に独立した個人としての関係を築けていなければ、その集団は意味がない。「その呼称を一つに定めることには合理性がある」としていること自体にしても、その「合理性」は単なる便宜的なものと化す。

 また、「夫婦親子が同じ氏であることは、家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有する」にしても、内部の構成員が相互に独立した個人の関係を築いていない、単に「集団」を主体とした「対外的公示・識別」であるなら、さして意味のある「公示・識別」とはならない。

 「婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服することを示すために、子が夫婦双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があります」

 夫と妻同士、夫・妻と子供同士が相互に個人対個人の独立した人間関係を築けていなければ、「夫婦間の子が夫婦の共同親権に服すること」は単なる夫婦間の関係物に成り下がるだけである。

 「『戸籍上も夫婦別氏』となってしまうと、『子供の氏』は両親のどちらかと異なることとなり、婚姻届や出生届の提出前に、子供の氏を両親が奪い合うようなトラブルも想定されます」は国家権力が国民を愚民扱いするのに似て、夫や妻の理性や良識を疑ってかかっていることになる。

 夫婦別姓は夫・妻・子ども共に相互に個人対個人の独立した人間関係を築くことによって始まるから、子どもが主体的に氏を選択できる年齢になるまでは夫か妻の氏を仮の氏と定めて、その年令に達したなら、子ども自身が主体的に選択して、本氏とするよう法律に規定したなら、「子供の氏を両親が奪い合うようなトラブル」も起きないし、子どもが混乱することもない。却って子供の自律心・自立心が幼い頃から育まれることになる。

 「『夫婦別氏法案(民法の一部を改正する法律案)』が平成14年に自民党法務部会で審査された)当時も「兄弟姉妹の氏が異なることは、子に対して悪影響がある」という世論調査結果を受けて、「複数の子の氏は統一する」こととされていましたが、これでは『家名を絶やさない』という別氏推進派の希望も叶わない上、婚姻届提出時、出生届提出時、成人後など、子の氏が度々変更される可能性があります。

 私は、『子供の氏の安定性』は、損なわれてはならないと考えます」

 兄弟姉妹の氏が例え異なったとしても、尊重されるべき価値は兄弟姉妹が相互に独立した個人として存在することができているかどうかであって、同じ氏であっても、独立した個人として存在できていなければ、いわば氏に単に所属しているだけなら、同じ氏であることは意味を成さないし、氏という集団の一員であるという意味しか持たないことになる。

 「夫婦親子別氏の御家族に対して、『第三者が神経質にならなければならない煩雑さ』も懸念しています」と言っていることは氏ではなく、名前で呼び合う習慣を身につければ解決する。欧米の映画では初対面同士のどちらが呼びかけようとして、「ミスター・・・」と口にすると、相手がファーストネームを口にして、「ファーストネームで読んでくれ」と申し出ると、親しい関係になっていなくても、お互いがファーストネームで呼び会う関係に持っていくシーンをよく見かける。

 あるいは会社の重役がお抱え運転手をファーストネームで呼び、お抱え運転手も重役をファーストネームで呼ぶという映画のシーンに出会ったことがある。

 年賀状の宛名書きにしても、夫婦別姓と決めて結婚した際に結婚の案内状に夫婦別姓であることを告げておけば、迷うことはない。案内状を出さない相手から一つの氏で夫婦双方に年賀状が届いた場合は返書に夫婦別姓であることを告げれば、何の問題があるだろうか。

 要するに高市早苗の夫婦別姓に対する懸念は戦前右翼の血を引く高市らしく、集団の中で個人個人が独立した関係を持ってそれぞれに能力を発揮し、その総合性に価値を置くよりも、集団を個人よりも上の価値に置いて、すべての個人がそれぞれの能力を集団に捧げ、そのことによって集団と個人が一体関係を築くことにより価値を置いていることから発生している。結果、集団主義は個人が独立した存在であることを忌避する。

 大体が夫婦別姓反対派の政治家は日本の伝統的な家族の在り方・伝統的家族観の正体を何だと思っているのだろうか。

 日本の伝統的な家族の在り方は男尊女卑の権威主義が歴史的にも文化的にも支えてきた。このような男尊女卑の権威主義が夫は妻を従え、妻は夫に従う上下関係・序列を作り出し、それが家族だという考え方が伝統的家族観となった。

 夫を上の価値に起き、妻を下の価値に置くこの権威主義は妻に育児・子育て、家事・洗濯は任せっ放しで、自分は何もしないという形で現在も残っている。この任せっ放しは夫と妻が相互に独立した個人を築くことができていない社会的未成熟から来ているはずである。日本の伝統的な家族の在り方や伝統的家族観を守るということは伝統的な男尊女卑の権威主義を核のところで擁護することに通じる。

 また集団主義は権威主義が持つ序列・階級を骨組みとして成り立っているゆえに前者は後者を入れ子構造の関係に置いている。

 夫婦別姓は夫・妻・子どもそれぞれを相互に独立した関係に導く機会となり、そのような関係を確固と築くことができたとき、夫が妻に何でも任せっ放しにするのではなく、妻が夫に何でも任せっ放しにされるのではなく、子どもが何でも親に頼りっ放しになるのではなく、相互に協力し合う関係で家族というものを成り立たせる関係に進むはずである。

 夫婦別姓はいいことづくめではないか。戦前右翼の血を引いていない限り、選択的夫婦別姓制度を忌避する理由などどこにもない。

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