登戸通り魔殺人:動機解明は伯父夫婦が川崎市からどのようなアドバイスを受けて、どのような内容の手紙を51歳甥に渡したのかによる

2019-06-10 11:26:25 | 事件
 西暦2019年5月28日朝、川崎市の登戸駅付近の路上で小学校のスクールバスを待っていた児童や保護者ら20名が僅か十数秒の間に包丁で相次いで刺されて、小学校児童1名と付近にたまたま居合わせた男性1名が死亡、犯人は51歳の男で、犯行直後に自殺し、自らを死人に口なしにした。それが歪んだ心理からの犯行であったとしても、相当な決意を秘めた決行だったことを窺うことができる。

 犯人は4本の包丁を用意し、そのうちの刃渡り30センチの2本の柳刃包丁で犯行を決行した。犯行現場に背負ってきたが、犯行直前に近くのコンビニ駐車場に放置したリュックの中には刃渡り約25センチの文化包丁と刃渡り約20センチの刺し身包丁が入っていたという。

 刃渡りが最も長い柳刃包丁を凶器として選んだことと一連の犯行が僅か十数秒の間に決行されたところにも殺意の強さが現れている。

 この事件について西暦2019年6月3に当ブログに《登戸通り魔事件は野田小4虐待死が児相の対応不足が一因と同じく、川崎市の対応不足が一因 包丁購入者に氏名・住所等記入の義務付けを - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と題してエントリーしたが、言葉不足・読み取り不足があったために改めてブログ記事に取り上げて見ることにした。

 51歳の犯人は幼少期に両親が離婚し、小学校入学前後に父親の兄に当たる伯父に引き取られたという。その部屋にはテレビやゲーム機はあったが、パソコンやスマートフォンはなく、包丁が入っていた空き箱4つの他に1冊のノートと過去の大量殺人に関する事例などを集めた雑誌2冊など、合わせて数十点の関係資料が押収された。ノートには動機につながる記述はなかったという。遺留品から動機を窺わせる痕跡を見つけることができず、その上本人が死人に口なしとなったために動機解明が難航しているという。

 犯人は長い間引きこもり状態だったというが、複雑な生い立ちが引きこもりの一因となったのかもしれない。川崎市精神保健福祉センターの男性担当者は記者会見で「(引きこもりが)長い期間だろうなあということは想像しますが、お話からしてですね、昨日や今日に始まったことではない。多分、10年単位でしょうね、長期って」と、その期間の長さを説明している。

 この発言から窺うことができる事実は叔父夫婦から相談を受けたものの、引きこもりがいつ頃から始まったのか、一度も確認しなかったということである。つまり川崎市精神保健福祉センターは引きこもり相談を業務の一つにしていながら、長期に亘る引きこもりの深刻さにまともに向き合わなかった。「いい大人が、引きこもりとは何だ」と思っていたのかもしれない。

 いずれにしても犯人は長期の引きこもり状態にあった。但し引きこもりにも色々なタイプがある。引きこもりの後ろめたさを抱えていながら、引きこもりから抜け出せないイライラを家族に対して暴力という形で発散させる引きこもりもあれば、自分の部屋に閉じ込もった鬱々を過ごすタイプ等々あるはずだ。犯人のタイプについて川崎市健康福祉局の職員が「暴力をふるったり暴れたりすることはないが、コミュニケーションがまったくない。伯父夫婦と顔を合わせないように台所を使う時間やお風呂に入る時間を分けるルールを作っていた」と説明している。

 要するに暴力を振るうわけでもないし、直接的に迷惑を掛けるわけでもなく、引きこもりという状況に自身を一応は調和させていただけではなく、自身の引きこもりと伯父伯母との生活をそれなりに調和させていたことになる。

 2019年3月内閣府発表の《2018年度生活状況に関する調査》が40~64歳人口の推定引きこもり人数を挙げている。40~64歳の男女5千人に訪問調査。

 「ふだんどのくらい外出しますか」の質問に対する答として――

 「5.趣味の用事のときだけ外出する」が(準ひきこもり)

 「6.近所のコンビニなどには出かける」が(狭義の引きこもり)

 「7.自室からは出るが、家からは出ない」」が(狭義の引きこもり)

 「8.自室からほとんど出ない」が(狭義の引きこもり)

  5+6+7+8が(広義のひきこもり)と定義して、60~64歳が17%、〈総務省 「人口推計」(2018年)によれば、 40~64歳人口は4,235万人なので、 広義のひきこもりの推計数は61.3万人となる。〉と記している。

 驚きの推計数だが、この人数を見ると、引きこもりを相談業務の一つとしている川崎市精神保健福祉センターが「いい大人が、引きこもりと何だ」と思うことはないはずだし、当然、長期に亘る引きこもりの深刻さに対してもまともに向き合わなければならないはずだが、その様子が見えない矛盾はどのような理由からなのだろうか。

 40~64歳人口のうちの広義のひきこもりの推計数61.3万人のうちの一人、51歳の男を引きこもりという内に籠もった世界から通り魔殺人という外の世界に駆り出すことになった。この二つの世界の余りにもかけ離れている距離が男にどのような心境の変化を与えたのか窺うことは難しく、その難しさが動機解明の困難さに繋がっているのかもしれない。もし籠もった世界の内側で完結させた犯罪なら、加害者と被害者の距離の狭さが感情面からの軋轢という答を導き出し易くする可能性が生じる。

 被害者にとっては余りにも不条理過ぎる巻き添えだが、単なる感情面の軋轢といったことでは推し量ることができない屈折した心理が本人の中では臨界点に達した末の犯行に思える。

 叔父夫婦とその親族が本人について川崎市精神保健福祉センターに相談していたことと相談から犯行に至る経緯と本人に関わる伯父伯母の説明、川崎市の説明を列記してみる。

 2017年11月~2019年1月 川崎市精神保健福祉センターは叔父や叔母とその親族から面談と電話による相談を14回受けた。その一つなのだろう、「介
        護サービスを導入したいんだけども、同居している御本人について、介護サービスを導入することで、どのような反応があるのかとい
        うことが心配される」(川崎市の説明)
 2018年6月~ 川崎市は家族の状況を確認した上で訪問介護サービスを開始。
 2019年1月 叔父と叔母は川崎市精神保健福祉センターから手紙の遣り取りでのコミュニケーションを勧められて、本人の部屋の前に手紙を置く。 
        数日後、岩崎はドア越しに叔母に対して「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と、言い
        返した。

        川崎市精神保健福祉センターは本人と一度も接触を試みなかった。その理由を伯父と叔母から容疑者を余り刺激したくないという意向を示され
        たことと、「人に会いたくないという人に無理に介入することはいいことではない。親族側が言いたがらないことを言わせることも信頼関係の
        構築につながらない」と述べている理由による。
 2019年2月 4本所持していた包丁のうち犯行に使った2本の刃渡り30センチの柳刃包丁2本は東京都町田市内の大型量販店で購入していた可能性が捜査
        によって明らかにされる。
 2019年5月28日 通り魔殺人を凶行。

 犯行後に報道上に現れたこの他の事実は伯父夫婦には犯人と同年代の長男と長女がいて、本人は地元の公立小と公立中学校に通ったが、長男と長女は通り魔の的となったカリタス小に通っていたという。この差別は本人に"自分は他所の子"ということを意識させて、屈折した心理形成の一つの要因になった可能性は捨てきれない。

 動機解明に欠かすことができないことは過去の大量殺人に関する事例などを集めた雑誌2冊をいつ購入したかであるはずだが、警察の捜査が進んでいないのだろう、どのマスコミも購入時期を伝えていない。購入が川崎市精神保健福祉センターが叔父夫婦に本人とのコミュニケーションの方法を手紙の遣り取りで行うよう勧めて、叔父夫婦がそうしたところ、「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と反発した2019年1月から、1カ月後に刃渡り30センチの2本の柳刃包丁を用意したと見られている2019年2月前後の間であるなら、あるいは2019年1月以降から犯行を決行した2019年5月28日よりもかなり前であるなら、犯行決行前の大量殺人計画の準備の一環と見ることができる。

 万が一、雑誌購入が手紙を出した2019年1月以前であったとしても、一旦は大量殺人計画を思い立ったが、実行に移さずにいたとしたら、眠らせていた計画の目を覚ましたのはやはり手紙以外に考えつくことはできなくなる。何しろ、手紙を出した翌月には凶器に使う柳刃包丁は準備しているのである。

 川崎市精神保健福祉センターは本人と一度も接触を試みなかった理由を、既に上に挙げているように伯父と叔母から容疑者を余り刺激したくないという意向を示されたことと、「人に会いたくないという人に無理に介入することはいいことではない。親族側が言いたがらないことを言わせることも信頼関係の構築につながらない」という川崎市精神保健福祉センター側の論理に基づいた措置であった。

 だが、本人とのコミュニケーションの方法として川崎市精神保健福祉センターに勧められて手紙を本人の部屋の前に置いたところ、数日して本人からドア越しに「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と言い返され、結果的に本人を刺激してしまった。

 と言うことは、本人の引きこもりに触れたことになる。その結果の「引きこもりとは何だ」という反応であり、(この部分、6月10日午後1時20分加筆) 刺激してしまったということは、それが意図していないことであったとしても、川崎市精神保健福祉センターは「無理に介入することはいいことではない」と言っていることに反しして無理に介入したことと同じになる。

 となると、警察は川崎市精神保健福祉センターが本人と叔父夫婦とのコミュニケーションの方法としてどのような内容の、引きこもりに触れた(この部分、6月10日午後1時20分加筆)手紙を書いて渡すよう、アドバイスしたのか、事情聴取しなければならないし、そのアドバイスを受けて、どのような内容の手紙を書いたのか、叔父夫婦に対しても事情聴取しなければならなくなる。

 簡単に分かることが未だにマスコミ報道に現れず、マスコミは動機解明が困難を極めていると伝えるのみだから、警察は手紙については重要視していないのかも知れない。それとも警察は本人がそれまでは自身と引きこもりを調和させ、さらに自身の引きこもりと叔父夫婦との生活も一応は調和させていた(川崎市健康福祉局「暴力をふるったり暴れたりすることはないが、コミュニケーションがまったくない。伯父夫婦と顔を合わせないように台所を使う時間やお風呂に入る時間を分けるルールを作っていた」)にも関わらず、その殻を破って、通り魔殺人という外の世界に駆り出すことになった起点が本人とのコミュニケーションの方法として川崎市精神保健福祉センターに勧められた手紙を出したこと以外にあると見ているのだろうか。

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