中国湖北省武漢市の海鮮市場を感染源とされている2019年12月に始まった新型コロナウイルスによる感染症が武漢市を超えて、中国国内に広がりを見せていた。
湖北省武漢市から2020年1月6日帰国の神奈川県在住30代男性が帰国前の1月3日から発熱があり、帰国当日の1月6日に医療機関を受診、1月10日から入院、1月15日に新型コロナウイルス陽性が判明し、国内初感染が判明したが、症状は軽く、その日に退院している。〈新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)〉(厚労省/2020年1月16日)
国内感染の2例目は湖北省武漢市在住40代男性。1月19日来日前の1月15、17日に武漢市の医療機関を受診したが、肺炎の診断がなく、そのまま来日。その翌日の1月20日に日本の医療機関を受診、やはり肺炎の診断はなかったが、2日後の1月22日に医療機関受診、新型コロナウイルスに関連した肺炎と診断された。
厚労省は新型コロナウイルス陽性と診断された訪日中国人に対しても、武漢滞在帰国日本人に対しても感染源とされていていた武漢市の海鮮市場に立ち寄ったかどうかを聞き取っているが、いずれも立ち寄っていないと返答している。
海産物等の食材からの感染いがある一方、市場には海産物だけでなく、野生動物を販売している区画もあり,この市場で売られていた、生きた哺乳動物由来であるとする説も浮上していた。
〈2020年1月20日、病原体を調査している中国・国家衛生健康委員会(NHC)専門家グループ長の鍾南山が、広東省でヒトからヒトへの感染が確認されたと発表した。〉(「Wikipedia」)
武漢市の海鮮市場に立ち寄っていないにも関わらず感染していたということはヒトからヒトへの感染を疑わなければならない事例となるが、中国でヒトからヒトへの感染が確認されたこの2020年1月20日は記憶にとどめておかなければならない。それまではヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はないとされていた。
厚労省はその後も日本国内で感染が確認された中国人訪日客に対しては、感染源を知るためにだろう、武漢市の海鮮市場への立ち寄りの有無を聞き取っているが、国内感染6例目の60代奈良県在住の日本人男性が武漢市への滞在歴はなく、1月8日~1月11日に武漢からのツアー客を運転手としてバスに乗せ、さらに別の武漢からのツアー客を1月12日~1月16日に載せてバスを運転、体調を崩し、医療機関への入院を経て、検体を送付、1月28日に国立感染症研究所より新型コロナウイルスに関連した感染症発症の報告を受けている。
要するに1月8日から1月11日の間か、1月12日~1月16日の間に明らかにヒトからヒトへの感染によって新型肺炎を発症、このことが日本国内で初めて確認されたことになる。但し確認された事例であって、確認されていない、潜伏した密かな状況でヒトからヒトへの感染が発生している可能性を危機管理としなければならないことは言わずもがのことであろう。
《医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド》(一般社団法人 日本環境感染学会/ 2020年2月13日)には次のような下りがある。
〈発生状況
国内の感染者数は増加していますが、軽症例や無症候病原体保有者が多くを占めています。〉
〈臨床的特徴(病態、症状)
新型コロナウイルスは呼吸器系の感染が主体です。 ウイルスの主な感染部位によって上気道炎、気管支炎、および肺炎を発症すると考えられます。本ウイルスに感染した方全員が発症するわけではなく、無症状で経過してウイルスが排除される例も存在すると考えられます。〉(一部抜粋)
本人が知らないままにウイルスを抱え込んだとしても、発症しないままに過ごして、知らないままにウイルスが消滅してしまう例があると言うことは、本人は無事であったとしても、ウイルスを抱え込んでいる間、そのウイルスに第三者が感染、発症する例もあることを意味することになる。
特に体力が低下している高齢者や、高齢者ではなくても、何かの病気治療中で体力が万全ではない中高年層がコロナウイルス感染の症状が出ていない、いわば野放し状態となっている無症候病原体保有者と何らかの接触をした場合、ヒトからヒトへの感染が起こり得る可能性は否定できないばかりか、一人の発症から感染経路を辿る作業にしても、感染元が無症候病原体保有者で、既にウイルスを消滅させていた場合は事前の感染者が特定不可能となって、感染元を一人ひとり探し当てて、入院隔離するなりして感染拡大を阻止するローラー作戦にしても、全てがうまくいかないことになって、感染経路を辿る作業が往々にして迷路に迷い込むことになりかねない。
だが、こういった始末の悪さも感染拡大防止対策の危機管理としなければならない。
2020年1月15日に国内初の新型コロナウイルス感染例が報告されてから、国内での感染例が徐々に増えていき、2020年1月20日にヒトからヒトへの感染が確認されたにも関わらず、安倍政権は対策本部をすぐには立ち上げなかった。立ち上げたのはヒトからヒトへの感染が確認された2020年1月20日から10日後の2020年1月30日になってからのことだった。
その日の「新型コロナウイルス感染症対策本部幹事会」での安倍晋三の発言。
安倍晋三「新型コロナウイルスによる感染状況については、我が国でも昨日までに武漢滞在歴がない患者が2名報告されており、その方を含め8名の患者が確認されています。加えて、昨日(1月29日)、帰国された方のうち、3名の方がウイルス検査の結果、陽性であったことが確認されました。現在、専門の医療機関において、入院・治療に当たっています。今回、このうちお二人の方は、無症状でありました。無症状であるにもかかわらず陽性反応が出たということを踏まえれば、これまで実施してきた水際対策などのフェーズを、もう一段引き上げていく必要があります。
感染拡大防止のため、これまでのサーベイランス(調査監視)の考え方に捉われることなく、あらゆる措置を構じてまいります。武漢市などに滞在歴がある全ての入国者を対象として、症状の有無に関係なく、日本固内での連絡先等を確認し、健康状態をフォローアップする仕組みを導入します。
今後も、今回のウイルスの特性をしっかりと踏まえながら、感染拡大の防止を何よりも第一に、事態の推移を十分に注視しながら、これまでの発想に捉われることなく、柔軟かつ機動的な対策を構じてまいります」
以下は2月5日当日の210名の日本人の武漢から帰国に関しての発言だが、最後に次のように述べている。
安倍晋三「各閣僚におかれては本対策本部の下、これらの取組を連携して速やかに実施してください。今後とも、情勢変化を踏まえなから政府一丸となって、何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」――
「我が国でも昨日までに武漢滞在歴がない患者が2名報告されており」と言っているが、武漢滞在歴がなくても、武漢在住訪日中国人との何らかの接触によってヒトからヒトへの感染が国内日本人に既に発生していることから、日本人から日本人へのヒトからヒトへの感染へと場面が変わる状況をも予測内に収め、さらに1月29日に政府のチャーター便で中国から帰国した日本人の中に3名がウイルス検査の結果、陽性であったものの、この内の2名が無症状(無症候病原体保有者)であったことから、検査前に、あるいは検査を経ないままにウイルスが消滅する、あり得る事例が感染経路を辿る作業を困難にすることをも予測する危機管理意識を持った、「これまで実施してきた水際対策などのフェーズを、もう一段引き上げていく必要があります」の発言だったはずである。
特に危機管理意識を働かせなければならない点は中国人から日本人へのヒトからヒトへの感染に代わる日本人から日本人へのヒトからヒトへの感染でなければならない。なぜなら、中国人訪日客が大挙押し寄せていたときであっても、中国人と日本人の接触よりも、日本人と日本人の接触の方が圧倒的に多いから、感染の機会が増えると考えなければならないからである。
香港在住の80歳の男性が1月17日に飛行機で来日、1月20日に横浜港から乗客・乗員合わせて約3700人のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船、横浜港出港1月20日から香港入港1月25日までの6日間のクルーズの旅を楽しみ、香港で下船後、乗船前からの風邪の症状が悪化したことから検査を受けたところ、新型コロナウイルスへの感染が確認されたという。
「ダイヤモンド プリンセス」は2月3日夜に横浜港に戻り、沖合に停泊、厚労省は検疫法に基づく臨船検疫を開始し、翌々日の2月5日にマスコミが乗船者10人から新型コロナウイルスの陽性反応が出たと報道。
2020年2月5日6時14分から同29分までの《新型コロナウイルス感染症対策本部第5回会議》(首相官邸サイト)
安倍晋三「2月3日に横浜港に到着したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』については、先月末に香港で当該クルーズ船から下船した方が新型コロナウイルスの感染が確認されたことを踏まえ、検疫法に基づく臨船検疫を実施しております。現在も継続中ですが、船内において発熱等の症状のある方、濃厚接触者の方などの検体採取をし、分析を進めています。
そのうち、現在までに10名の方から陽性反応が出たことから、検疫官付き添いの下、これらの方々には下船いただき、神奈川県内の医療機関にて措置入院をしています。残る乗員・乗客には、最大14日間の潜伏期間を想定することが必要であることを踏まえ、当面上陸を認めないこととし、必要な期間船内に留まっていただき、感染を予防する行動を徹底しつつ、各自の客室で待機していただいています。
大型客船内での集団感染という新たな事態の発生に直面しましたが、乗員・乗客の方々の健康状態に十分配慮しつつ、感染の拡大防止に向けて万全の対策を講じなくてはなりません。船内で必要となるマスク等の衛生用品や医薬品、生活物資の支給に加え、今後、医師や看護師等を派遣し、乗客・乗員の健康の確保に万全を期してください。関係省庁は引き続き緊密に連携し、冷静に対応を進めていってください。
また、水際対策の強化はもとより、国内の検査体制や相談体制の充実・拡大といった蔓延防止対策の強化も喫緊の課題です。現在、国立感染症研究所や地方衛生研究所で行っている検査について、民間の検査機関においてもできる体制の構築に向け取り組んでいるほか、全国の自治体や関係団体において相談体制を充実しているところでありますが、引き続き体制の整備に向けて取り組み、国民の不安や声をしっかりと受け止めてください。
引き続き、対策本部を中心に何よりも国民の健康と命を守ることを最優先に、やるべき対策を躊躇なく決断し、実行してまいりますので、各位にあっても引き続きよろしくお願いいたします」――
「残る乗員・乗客には、最大14日間の潜伏期間を想定することが必要であることを踏まえ、当面上陸を認めないこととし、必要な期間船内に留まっていただき、感染を予防する行動を徹底しつつ、各自の客室で待機していただいています」と、「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に集団隔離する中で検疫を進める対策を取った。
この14日間、なるべく個室から出ないように通達されたと言うが、乗客が個室を出なくても、乗員が各個室を訪れなければ、買い置きの食材を保存しているわけはないだろうから、生命維持を図ることはできない。特に高齢者は、何らかの持病を抱えているなら、なおさら、体力の維持に極力務めなければならない。不安や食事制限、あるいは食事時間の不規則化等々を受けた体力低下、気持の不安定化はヒトからヒトへの感染に対する予防を体力的にも精神的にも強化するどころか、逆に脆弱化することになるからだ。
当然、乗員は食事に限って手抜きなく調理した料理を時間を厳格に守り、各客室を訪れてルームサービスを行い、決めた時間に食器類を下げなければならない。食事が来る時間や食器類を下げる時間が遅くなった場合、客室という密閉空間に閉じ込められた乗客が、高齢者や持病を抱えた乗客程、何か不穏なことが起きているのではないかと気持の不安に駆られた場合、ヒトからヒトへの感染の隙きを与えない保証はない。
乗客を客室に閉じ込めておいたとしても、乗員が食事やその他の用事で各客室を次々に回って異なる乗客と複数回接触し、その過程で他の乗員と接触していく中で乗客から乗員への、あるいは逆に乗員から乗客への、さらに乗員から乗員へのヒトからヒトへの感染が決して発生しないと断言はできるのだろうか。
当然、このことを予防するためには乗員全てが防護服でしっかりと身を固めて、各客室を訪れる体制を取らなければならない。安倍晋三はこういった危機管理意識に立った指示を出した上で、「感染拡大防止のため、これまでのサーベイランス(調査監視)の考え方に捉われることなく、あらゆる措置を構じてまいります」と広言したのだろうか。
あるいは「今後も、今回のウイルスの特性をしっかりと踏まえながら、感染拡大の防止を何よりも第一に、事態の推移を十分に注視しながら、これまでの発想に捉われることなく、柔軟かつ機動的な対策を構じてまいります」と請け合ったのだろうか。
さらに「今後とも、情勢変化を踏まえなから政府一丸となって、何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」と指示、その指示の先頭に立つ気構えを示したのだろうか。
大体が「最大14日間の潜伏期間を想定」して上陸を認めないという措置にしても、集団隔離である以上、潜伏期間最終日の14日目にヒトからヒトへの感染を受ける可能性は否定できないのだから、「14日」という日数は合理的根拠を失う。合理的根拠を保つためには乗客・乗員合わせて約3700人を厳格に個別隔離するか、先に挙げたように乗員全てが防護服に身を固めて、乗客は各客室にとどめる以外に方法はないはずである。
安倍晋三は検疫法に基づく臨船検疫の結果、「現在までに10名の方から陽性反応が出た」と発言しているが、乗客・乗員合わせて約3700人のうちの何人を検査したのかは2020年2月5日付「日経電子版」が詳しく伝えている。
乗客が提供したという記事添付の写真には男性検疫官は完全な防護服を身に纏っているようには見えない。検疫官の周りにいるのは乗員なのだろう、マスクに手袋といった軽装となっている。この点からもヒトからヒトへの感染に対する危機意識を強く感じることはできない。
「ダイヤモンド・プリンセス」に対する検疫法に基づく臨船検疫の最初の検査対象は乗客・乗員合わせて約3700人のうちの273人で、結果判明者が31人、そのうちの10人から陽性反応が出たと記事は解説している。特に自覚症状がひどい乗客を選んで優先的に検疫したのだろうが、それにしても約3対1という感染率は高い。この時点で当然、ヒトからヒトへの感染に対する危機意識を強めなければならなかった。
2020年2月12日午前のマスコミ報道の時点で「ダイヤモンド・プリンセス」で新たに乗客29人と乗員10人の合計39人と、ご丁寧にも検疫官1人の感染が確認され、乗客・乗員を合わせた感染者は締めて174人となった。その多くが軽症者だそうだが、軽症者から次のヒトからヒトへの感染が軽症を保証するわけではない。それが高齢者や病身であった場合は軽症の保証率は低くなる。当然、軽症者が多いからと言って、ヒトからヒトへの感染防止対策の手を緩めることはできない。
検疫官は2月3日から4日まで船内で乗客の体温の測定や質問票の回収業務を行っていたが、医療用マスクや手袋を着用し、作業ごとに消毒をしていたというが、防護服は着用していなかった。この点からもヒトからヒトへの感染に対する危機意識が相当に低い。
この危機意識の低さは安倍政権の危機意識の低さの反映であろう。
2020年2月16日付「NHK NEWS WEB」記事が、「ダイヤモンド・プリンセス」で新たに70人の感染が確認され、乗員・乗客で感染が確認されたのは合わせて355人となったと伝えている。
新たな70人の感染者のうち、症状がない無症候病原体保有者は38人で、重症者は感染確認の全355人のうちの18人で、ほかに感染が確認されていない1人が重症だそうだ。残りは程度の差はあるものの、軽症者ということになるが、乗客・乗員合わせて約3700人のうち、検査が行われたのは1219人で、まだ約2481人を残している。
例え軽症者が多数を占めていても、「ダイヤモンド・プリンセス」内外で既にかなりの人数の重症者を出していて、神奈川在住の80代女性を国内初の死者としている以上、今後とも重症者も死者も出ない保証は何一つない。「ダイヤモンド・プリンセス」に限って言うと、検査残りの2481人のうち、アメリカ政府がアメリカ人乗客380人のうちの希望者を昨晩2月16日夜にチャーター機でアメリカに帰国させ、カナダ政府も255人のカナダ人乗客のうち複数の感染者を残してカナダに帰国させると言うから、差し引いた1500人程度の検査を進めるうちに、新たなヒトからヒトへの感染が潜行する形でさらに広がることになるのか、既に終わっているヒトからヒトへの感染が検査結果として出てくることになるのか、前者・後者、どちらのケースであっても、終わらない状況として提示されることになるはずだ。
こういったことは何もかも、多くの病院や国の宿泊施設に分離隔離することでヒトからヒトへの感染を防止しながら、多くの手で検疫を行い、陽性なら、さらに重症者・軽症者に分けて効率的に治療に当たるのではなく、クルーズ船という巨大な密室に防護服を身に着けさせることもなく、3700人もの乗客・乗員を閉じ込める形で集団隔離したために新型コロナウイルスの感染者を培養するような結果を招くことになった、ヒトからヒトへの感染に関わる無残な危機管理となったはずである。
安倍晋三は「何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」と指示を出しているが、「ダイヤモンド・プリンセス」に於けるヒトからヒトへの感染に関わる無残な危機管理からは人命を、当然その健康を尊ぶ意識は何ら見えてこない。
湖北省武漢市から2020年1月6日帰国の神奈川県在住30代男性が帰国前の1月3日から発熱があり、帰国当日の1月6日に医療機関を受診、1月10日から入院、1月15日に新型コロナウイルス陽性が判明し、国内初感染が判明したが、症状は軽く、その日に退院している。〈新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)〉(厚労省/2020年1月16日)
国内感染の2例目は湖北省武漢市在住40代男性。1月19日来日前の1月15、17日に武漢市の医療機関を受診したが、肺炎の診断がなく、そのまま来日。その翌日の1月20日に日本の医療機関を受診、やはり肺炎の診断はなかったが、2日後の1月22日に医療機関受診、新型コロナウイルスに関連した肺炎と診断された。
厚労省は新型コロナウイルス陽性と診断された訪日中国人に対しても、武漢滞在帰国日本人に対しても感染源とされていていた武漢市の海鮮市場に立ち寄ったかどうかを聞き取っているが、いずれも立ち寄っていないと返答している。
海産物等の食材からの感染いがある一方、市場には海産物だけでなく、野生動物を販売している区画もあり,この市場で売られていた、生きた哺乳動物由来であるとする説も浮上していた。
〈2020年1月20日、病原体を調査している中国・国家衛生健康委員会(NHC)専門家グループ長の鍾南山が、広東省でヒトからヒトへの感染が確認されたと発表した。〉(「Wikipedia」)
武漢市の海鮮市場に立ち寄っていないにも関わらず感染していたということはヒトからヒトへの感染を疑わなければならない事例となるが、中国でヒトからヒトへの感染が確認されたこの2020年1月20日は記憶にとどめておかなければならない。それまではヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はないとされていた。
厚労省はその後も日本国内で感染が確認された中国人訪日客に対しては、感染源を知るためにだろう、武漢市の海鮮市場への立ち寄りの有無を聞き取っているが、国内感染6例目の60代奈良県在住の日本人男性が武漢市への滞在歴はなく、1月8日~1月11日に武漢からのツアー客を運転手としてバスに乗せ、さらに別の武漢からのツアー客を1月12日~1月16日に載せてバスを運転、体調を崩し、医療機関への入院を経て、検体を送付、1月28日に国立感染症研究所より新型コロナウイルスに関連した感染症発症の報告を受けている。
要するに1月8日から1月11日の間か、1月12日~1月16日の間に明らかにヒトからヒトへの感染によって新型肺炎を発症、このことが日本国内で初めて確認されたことになる。但し確認された事例であって、確認されていない、潜伏した密かな状況でヒトからヒトへの感染が発生している可能性を危機管理としなければならないことは言わずもがのことであろう。
《医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド》(一般社団法人 日本環境感染学会/ 2020年2月13日)には次のような下りがある。
〈発生状況
国内の感染者数は増加していますが、軽症例や無症候病原体保有者が多くを占めています。〉
〈臨床的特徴(病態、症状)
新型コロナウイルスは呼吸器系の感染が主体です。 ウイルスの主な感染部位によって上気道炎、気管支炎、および肺炎を発症すると考えられます。本ウイルスに感染した方全員が発症するわけではなく、無症状で経過してウイルスが排除される例も存在すると考えられます。〉(一部抜粋)
本人が知らないままにウイルスを抱え込んだとしても、発症しないままに過ごして、知らないままにウイルスが消滅してしまう例があると言うことは、本人は無事であったとしても、ウイルスを抱え込んでいる間、そのウイルスに第三者が感染、発症する例もあることを意味することになる。
特に体力が低下している高齢者や、高齢者ではなくても、何かの病気治療中で体力が万全ではない中高年層がコロナウイルス感染の症状が出ていない、いわば野放し状態となっている無症候病原体保有者と何らかの接触をした場合、ヒトからヒトへの感染が起こり得る可能性は否定できないばかりか、一人の発症から感染経路を辿る作業にしても、感染元が無症候病原体保有者で、既にウイルスを消滅させていた場合は事前の感染者が特定不可能となって、感染元を一人ひとり探し当てて、入院隔離するなりして感染拡大を阻止するローラー作戦にしても、全てがうまくいかないことになって、感染経路を辿る作業が往々にして迷路に迷い込むことになりかねない。
だが、こういった始末の悪さも感染拡大防止対策の危機管理としなければならない。
2020年1月15日に国内初の新型コロナウイルス感染例が報告されてから、国内での感染例が徐々に増えていき、2020年1月20日にヒトからヒトへの感染が確認されたにも関わらず、安倍政権は対策本部をすぐには立ち上げなかった。立ち上げたのはヒトからヒトへの感染が確認された2020年1月20日から10日後の2020年1月30日になってからのことだった。
その日の「新型コロナウイルス感染症対策本部幹事会」での安倍晋三の発言。
安倍晋三「新型コロナウイルスによる感染状況については、我が国でも昨日までに武漢滞在歴がない患者が2名報告されており、その方を含め8名の患者が確認されています。加えて、昨日(1月29日)、帰国された方のうち、3名の方がウイルス検査の結果、陽性であったことが確認されました。現在、専門の医療機関において、入院・治療に当たっています。今回、このうちお二人の方は、無症状でありました。無症状であるにもかかわらず陽性反応が出たということを踏まえれば、これまで実施してきた水際対策などのフェーズを、もう一段引き上げていく必要があります。
感染拡大防止のため、これまでのサーベイランス(調査監視)の考え方に捉われることなく、あらゆる措置を構じてまいります。武漢市などに滞在歴がある全ての入国者を対象として、症状の有無に関係なく、日本固内での連絡先等を確認し、健康状態をフォローアップする仕組みを導入します。
今後も、今回のウイルスの特性をしっかりと踏まえながら、感染拡大の防止を何よりも第一に、事態の推移を十分に注視しながら、これまでの発想に捉われることなく、柔軟かつ機動的な対策を構じてまいります」
以下は2月5日当日の210名の日本人の武漢から帰国に関しての発言だが、最後に次のように述べている。
安倍晋三「各閣僚におかれては本対策本部の下、これらの取組を連携して速やかに実施してください。今後とも、情勢変化を踏まえなから政府一丸となって、何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」――
「我が国でも昨日までに武漢滞在歴がない患者が2名報告されており」と言っているが、武漢滞在歴がなくても、武漢在住訪日中国人との何らかの接触によってヒトからヒトへの感染が国内日本人に既に発生していることから、日本人から日本人へのヒトからヒトへの感染へと場面が変わる状況をも予測内に収め、さらに1月29日に政府のチャーター便で中国から帰国した日本人の中に3名がウイルス検査の結果、陽性であったものの、この内の2名が無症状(無症候病原体保有者)であったことから、検査前に、あるいは検査を経ないままにウイルスが消滅する、あり得る事例が感染経路を辿る作業を困難にすることをも予測する危機管理意識を持った、「これまで実施してきた水際対策などのフェーズを、もう一段引き上げていく必要があります」の発言だったはずである。
特に危機管理意識を働かせなければならない点は中国人から日本人へのヒトからヒトへの感染に代わる日本人から日本人へのヒトからヒトへの感染でなければならない。なぜなら、中国人訪日客が大挙押し寄せていたときであっても、中国人と日本人の接触よりも、日本人と日本人の接触の方が圧倒的に多いから、感染の機会が増えると考えなければならないからである。
香港在住の80歳の男性が1月17日に飛行機で来日、1月20日に横浜港から乗客・乗員合わせて約3700人のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船、横浜港出港1月20日から香港入港1月25日までの6日間のクルーズの旅を楽しみ、香港で下船後、乗船前からの風邪の症状が悪化したことから検査を受けたところ、新型コロナウイルスへの感染が確認されたという。
「ダイヤモンド プリンセス」は2月3日夜に横浜港に戻り、沖合に停泊、厚労省は検疫法に基づく臨船検疫を開始し、翌々日の2月5日にマスコミが乗船者10人から新型コロナウイルスの陽性反応が出たと報道。
2020年2月5日6時14分から同29分までの《新型コロナウイルス感染症対策本部第5回会議》(首相官邸サイト)
安倍晋三「2月3日に横浜港に到着したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』については、先月末に香港で当該クルーズ船から下船した方が新型コロナウイルスの感染が確認されたことを踏まえ、検疫法に基づく臨船検疫を実施しております。現在も継続中ですが、船内において発熱等の症状のある方、濃厚接触者の方などの検体採取をし、分析を進めています。
そのうち、現在までに10名の方から陽性反応が出たことから、検疫官付き添いの下、これらの方々には下船いただき、神奈川県内の医療機関にて措置入院をしています。残る乗員・乗客には、最大14日間の潜伏期間を想定することが必要であることを踏まえ、当面上陸を認めないこととし、必要な期間船内に留まっていただき、感染を予防する行動を徹底しつつ、各自の客室で待機していただいています。
大型客船内での集団感染という新たな事態の発生に直面しましたが、乗員・乗客の方々の健康状態に十分配慮しつつ、感染の拡大防止に向けて万全の対策を講じなくてはなりません。船内で必要となるマスク等の衛生用品や医薬品、生活物資の支給に加え、今後、医師や看護師等を派遣し、乗客・乗員の健康の確保に万全を期してください。関係省庁は引き続き緊密に連携し、冷静に対応を進めていってください。
また、水際対策の強化はもとより、国内の検査体制や相談体制の充実・拡大といった蔓延防止対策の強化も喫緊の課題です。現在、国立感染症研究所や地方衛生研究所で行っている検査について、民間の検査機関においてもできる体制の構築に向け取り組んでいるほか、全国の自治体や関係団体において相談体制を充実しているところでありますが、引き続き体制の整備に向けて取り組み、国民の不安や声をしっかりと受け止めてください。
引き続き、対策本部を中心に何よりも国民の健康と命を守ることを最優先に、やるべき対策を躊躇なく決断し、実行してまいりますので、各位にあっても引き続きよろしくお願いいたします」――
「残る乗員・乗客には、最大14日間の潜伏期間を想定することが必要であることを踏まえ、当面上陸を認めないこととし、必要な期間船内に留まっていただき、感染を予防する行動を徹底しつつ、各自の客室で待機していただいています」と、「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に集団隔離する中で検疫を進める対策を取った。
この14日間、なるべく個室から出ないように通達されたと言うが、乗客が個室を出なくても、乗員が各個室を訪れなければ、買い置きの食材を保存しているわけはないだろうから、生命維持を図ることはできない。特に高齢者は、何らかの持病を抱えているなら、なおさら、体力の維持に極力務めなければならない。不安や食事制限、あるいは食事時間の不規則化等々を受けた体力低下、気持の不安定化はヒトからヒトへの感染に対する予防を体力的にも精神的にも強化するどころか、逆に脆弱化することになるからだ。
当然、乗員は食事に限って手抜きなく調理した料理を時間を厳格に守り、各客室を訪れてルームサービスを行い、決めた時間に食器類を下げなければならない。食事が来る時間や食器類を下げる時間が遅くなった場合、客室という密閉空間に閉じ込められた乗客が、高齢者や持病を抱えた乗客程、何か不穏なことが起きているのではないかと気持の不安に駆られた場合、ヒトからヒトへの感染の隙きを与えない保証はない。
乗客を客室に閉じ込めておいたとしても、乗員が食事やその他の用事で各客室を次々に回って異なる乗客と複数回接触し、その過程で他の乗員と接触していく中で乗客から乗員への、あるいは逆に乗員から乗客への、さらに乗員から乗員へのヒトからヒトへの感染が決して発生しないと断言はできるのだろうか。
当然、このことを予防するためには乗員全てが防護服でしっかりと身を固めて、各客室を訪れる体制を取らなければならない。安倍晋三はこういった危機管理意識に立った指示を出した上で、「感染拡大防止のため、これまでのサーベイランス(調査監視)の考え方に捉われることなく、あらゆる措置を構じてまいります」と広言したのだろうか。
あるいは「今後も、今回のウイルスの特性をしっかりと踏まえながら、感染拡大の防止を何よりも第一に、事態の推移を十分に注視しながら、これまでの発想に捉われることなく、柔軟かつ機動的な対策を構じてまいります」と請け合ったのだろうか。
さらに「今後とも、情勢変化を踏まえなから政府一丸となって、何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」と指示、その指示の先頭に立つ気構えを示したのだろうか。
大体が「最大14日間の潜伏期間を想定」して上陸を認めないという措置にしても、集団隔離である以上、潜伏期間最終日の14日目にヒトからヒトへの感染を受ける可能性は否定できないのだから、「14日」という日数は合理的根拠を失う。合理的根拠を保つためには乗客・乗員合わせて約3700人を厳格に個別隔離するか、先に挙げたように乗員全てが防護服に身を固めて、乗客は各客室にとどめる以外に方法はないはずである。
安倍晋三は検疫法に基づく臨船検疫の結果、「現在までに10名の方から陽性反応が出た」と発言しているが、乗客・乗員合わせて約3700人のうちの何人を検査したのかは2020年2月5日付「日経電子版」が詳しく伝えている。
乗客が提供したという記事添付の写真には男性検疫官は完全な防護服を身に纏っているようには見えない。検疫官の周りにいるのは乗員なのだろう、マスクに手袋といった軽装となっている。この点からもヒトからヒトへの感染に対する危機意識を強く感じることはできない。
「ダイヤモンド・プリンセス」に対する検疫法に基づく臨船検疫の最初の検査対象は乗客・乗員合わせて約3700人のうちの273人で、結果判明者が31人、そのうちの10人から陽性反応が出たと記事は解説している。特に自覚症状がひどい乗客を選んで優先的に検疫したのだろうが、それにしても約3対1という感染率は高い。この時点で当然、ヒトからヒトへの感染に対する危機意識を強めなければならなかった。
2020年2月12日午前のマスコミ報道の時点で「ダイヤモンド・プリンセス」で新たに乗客29人と乗員10人の合計39人と、ご丁寧にも検疫官1人の感染が確認され、乗客・乗員を合わせた感染者は締めて174人となった。その多くが軽症者だそうだが、軽症者から次のヒトからヒトへの感染が軽症を保証するわけではない。それが高齢者や病身であった場合は軽症の保証率は低くなる。当然、軽症者が多いからと言って、ヒトからヒトへの感染防止対策の手を緩めることはできない。
検疫官は2月3日から4日まで船内で乗客の体温の測定や質問票の回収業務を行っていたが、医療用マスクや手袋を着用し、作業ごとに消毒をしていたというが、防護服は着用していなかった。この点からもヒトからヒトへの感染に対する危機意識が相当に低い。
この危機意識の低さは安倍政権の危機意識の低さの反映であろう。
2020年2月16日付「NHK NEWS WEB」記事が、「ダイヤモンド・プリンセス」で新たに70人の感染が確認され、乗員・乗客で感染が確認されたのは合わせて355人となったと伝えている。
新たな70人の感染者のうち、症状がない無症候病原体保有者は38人で、重症者は感染確認の全355人のうちの18人で、ほかに感染が確認されていない1人が重症だそうだ。残りは程度の差はあるものの、軽症者ということになるが、乗客・乗員合わせて約3700人のうち、検査が行われたのは1219人で、まだ約2481人を残している。
例え軽症者が多数を占めていても、「ダイヤモンド・プリンセス」内外で既にかなりの人数の重症者を出していて、神奈川在住の80代女性を国内初の死者としている以上、今後とも重症者も死者も出ない保証は何一つない。「ダイヤモンド・プリンセス」に限って言うと、検査残りの2481人のうち、アメリカ政府がアメリカ人乗客380人のうちの希望者を昨晩2月16日夜にチャーター機でアメリカに帰国させ、カナダ政府も255人のカナダ人乗客のうち複数の感染者を残してカナダに帰国させると言うから、差し引いた1500人程度の検査を進めるうちに、新たなヒトからヒトへの感染が潜行する形でさらに広がることになるのか、既に終わっているヒトからヒトへの感染が検査結果として出てくることになるのか、前者・後者、どちらのケースであっても、終わらない状況として提示されることになるはずだ。
こういったことは何もかも、多くの病院や国の宿泊施設に分離隔離することでヒトからヒトへの感染を防止しながら、多くの手で検疫を行い、陽性なら、さらに重症者・軽症者に分けて効率的に治療に当たるのではなく、クルーズ船という巨大な密室に防護服を身に着けさせることもなく、3700人もの乗客・乗員を閉じ込める形で集団隔離したために新型コロナウイルスの感染者を培養するような結果を招くことになった、ヒトからヒトへの感染に関わる無残な危機管理となったはずである。
安倍晋三は「何よりも国民の命と健康を守ることを最侵先にやるべき対策を躊躇なく決断し実行してください」と指示を出しているが、「ダイヤモンド・プリンセス」に於けるヒトからヒトへの感染に関わる無残な危機管理からは人命を、当然その健康を尊ぶ意識は何ら見えてこない。