日本学術会議会員6名任命拒否は国民主権が関わっている人事である以上、加藤勝信の「人事の話だから詳細は控える」は説明責任回避の詭弁

2020-10-19 09:49:05 | 政治
  ご存知のように日本学術会議会員は1983年(昭和58年)11月の政府側証人の国会答弁によって会議側の推薦に基づいて総理大臣が推薦どおりに任命するのが慣例となっていたが、今回、初めて推薦どおりではなく、6人の任命拒否者が出た。但し任命拒否に関わる人事について政府は具体的な説明責任を果たしていない。公正・公平に行われた人事なのか、反政府姿勢に対する不明朗極まりない拒絶意識からの恣意的人事なのかが問われることになった。
 
 2020年10月7日の衆議院内閣委員会閉会中審査と翌日の2020年10月8日の参議院内閣委員会閉会中審査で政府側証人内閣府副大臣の三ッ林裕巳(ひろみ
)と内閣府大臣官房長の大塚幸寛が憲法第15条第1項を持ち出して、任命拒否の正当性論理を展開した。

 三ッ林裕巳「憲法第15条の規定により明らかにされているとおり、公務員の選定・罷免権が国民固有の権利であるという考え方からすれば、任命権者たる内閣総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないというわけではなく、日本学術会議会員が任命制になったときから、このような考え方を前提としております」

 大塚幸寛「憲法第15条第1項を引用させて頂きますが、これはやはり公務員の選定・罷免権が国民固有の権利であるという考え方からすれば、任命権者である内閣総理大臣が、推薦どおりに任命しなければならないということはないということでございまして、これは会員が任命制になったときからこのような考え方を前提としておりまして、考え方を変えたということはございません」

 日本国憲法「第3章国民の権利及び義務第15条」の第1項と第2項を見てみる。
 
 1 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

 日本学術会議法の第7条2項に〈会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。〉と規定されている。第17条は日本学術会議が会員の候補者を選考し、内閣総理大臣に推薦すると定めている。

 つまり憲法第15条が規定している公務員を選定し、及びこれを罷免することが国民固有の権利であることに基づいて日本学術会議の会員任命に関しては任命権者となっている内閣総理大臣が国民に代わって行うという組み立てとなる。そうである以上、それが正しい任命か、正しくない任命か、常に国民に対して説明責任を負うことになる。

 逆説するなら、説明責任を負わずに任命を行っていいという道理には決してならない。

 常に国民に対して説明責任を負うことは先に上げた2020年10月8日の参議院内閣委員会閉会中審査で政府参考人の答弁も間接的に指摘している。

 内閣法制局第一部長の木村陽一が憲法第15条第1項の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とする規定は国民主権の原理に基づくとの趣旨の発言を行った上で次のように答弁している。

 木村陽一「このような国民主権の原理を踏まえますと、内閣が国民及び国会に対して責任を負えない場合にまで申し出のとおりに必ずしも任命しなければならない義務があるわけではないと一貫して考えてきております」

 「申し出のとおりに」とは「日本学術会議法の候補者の選考どおりに」との意味を取ることは断るまでもない。

 このことを言い換えると、国民及び国会に対して責任を負うことはできないと考える任命を拒否することは国民主権に対しても、当然憲法に対しても、日学法に対しても何ら法律に違反することではないとの主張となり、6名任命拒否は国民及び国会に対して責任を負うことのできる措置であったということになる。

 国民及び国会に対して責任を負うことができることによって憲法第15条第1項を通して国民主権を尊重していることの証明となる。

 当然、6名任命拒否が実際に国民及び国会に対して責任を負うことのできる措置となっているのかどうかの説明責任が任命当事者たる内閣総理大臣からなければ、責任云々に関して国民及び国会は何ら判断できないことになる。次も当然ということになるが、記者会見や国会で追及を受ける前に内閣総理大臣も官房長官も説明責任を果たさなければならないのだが、任命拒否に至った詳しい経緯を求める質問に入ると、菅義偉は具体的な決定経緯については何一つ述べずに「法律に基づいて任命を行っている」と通り一遍の説明責任のみで済まし、特に詭弁家加藤勝信は「人事の話だから詳細は控える」と言い逃れて、一向に説明責任を果たそうとしない。

 6名拒否が明らかになってからの2020年10月9日、首相の菅義偉はマスコミ各社によるグループインタビューで「会員任命を最終的に決裁したのは9月28日で、会員候補リストを拝見したのはその直前だったと記憶している。その時点では最終的に会員となった方(99人)がそのままリストになっていた」と発言したと報道されている。

 つまり学術会議が選考した会員候補者105名の名簿は見ていなかったということは6名任命拒否に関与していなかったことを意味する。既に6名は排除されていて、残り99人のリストとなっていた。菅義偉は単に機械的に任命を決裁したことになる。では、日本学術会議会員の任命権者は内閣総理大臣となっているにも関わらず、誰がどのような根拠に基づいて6名を排除したのか。ますます説明責任が求められることになった。

 任命拒否された6名の人物像を「時事ドットコム」記事が「任命拒否が判明した推薦候補」と題して記事に乗せていた、ブログに一度使った画像から見てみる。

 6名には一定の共通した政治姿勢を窺うことができる。安倍晋三の国家主義的な強権政策に対する顕著な拒絶姿勢である。もしこのような特定の政治的傾向を持つ人物を狙い撃ち的に排除したなら、憲法が保障する思想・信条の自由の侵害そのものに当たる。

 当然、疎かにできない重大な問題であり、国民主権のみならず、思想・信条の自由に関係する任命に関わる「人事の話」である以上、説明責任は最必須の義務行為となる。益々菅義偉のような「法律に基づいて任命を行っている」といった通り一遍の説明責任では片付けることはできない。加藤勝信の「人事の話だから詳細は控える」は説明責任からの卑劣極まりない逃げ口上となる。

 この菅義偉の10月9日のグループインタビューを受けて、各マスコミ記者は誰がどのよう根拠に基づいて6名を排除したのか、官房長官の加藤勝信に対して記者会見で追及することになった。詭弁家官房長官加藤勝信の2020年10月12日午前記者会見と翌2020年10月13日午前記者会見を取り上げて、どのような経緯を踏んで日本学術会議105名の候補者が結果的に6名拒否、99名会員任命となったのか、どのようように説明されているのかを見てみる。そして最後に両日の記者会見中の任命問題に関係する箇所の全文を載せておく。

 先ず2020年10月12日午前の記者会見から。加藤勝信の発言から分かったことは99名の任命は内閣府が起案したということ。決裁文書には推薦名簿が参考資料として添付されていたが、参考資料までは詳しく見ていられなかったということで菅義偉は推薦名簿は見ていないと発言することになったということ。内閣府の起案から決済までの間には総理には今回の任命の考え方の説明が行われていたということ。そして最終的な決済が菅義偉によって為されたという手続きを踏んでいたことになる。

 では、加藤勝信が言う「任命の考え方」とは何を意味するのか。10月13日の午前記者会見になって、その最初の方で説明している。

 加藤勝信「(任命の)考え方というのはこれまで説明させて頂いているところであります。まさに推薦に則って総理が任命するという学術会議法の規定があり、他方で憲法の15条を含めてですね、国としてこれまでの総合学術会議等の提言でも、総合的・俯瞰的的扱いをされている等の指摘があり、そうしたことを踏まえて、まさにそうした任命についての考え方が説明されですね、共有されたということであります」

 これは日本学術会議会員の任命に関わる手続きの説明であって、周囲が説明責任として要求している、どのような理由・根拠で6名を任命拒否したのかの「考え方」を説明したものではない。つまり加藤勝信のこの物言いは任命に関してどういった手続きを取るのかの「考え方」の説明だけで、6名の任命拒否を決めたという矛盾を曝すことになる。

 「総合的・俯瞰的的扱い」を以ってさも任命拒否したかのように取り繕っているが、具体的説明がないと、理由・根拠にまで至らない。
 いずれにしても10月12日午前の記者会見の内閣府の起案から菅義偉の最終決裁までの手続きに関わる加藤勝信の説明によると、6名任命拒否は内閣府が決めて、内閣府から任命の考え方(=任命の手続きに関した考え方)の説明が一応行われ、菅義偉はその任命の考え方そのものを受け入れて、内閣府が決めたとおりに機械的に決裁文書に判を押したことになる。機械的な決裁だから、菅義偉は推薦者名簿を見る必要がなかったということで納得できることになる。

  この経緯は次の記者と加藤勝信の遣り取りが証明する。

 記者「決済までについては総理には考え方が示されているということを今お話されましたけども、今回6人除外というのは最終的に総理の判断で除外されたという理解でよろしいでしょうか」

 この記者の質問は加藤勝信の説明からいくと、間違っていることになる。内閣府から説明を受けた任命の考え方は任命の手続きに関した考え方に過ぎない上に105人の推薦名簿は参考文書として添付されてはいたものの、菅義偉は目を通していなくて、99名の決裁文書しか見ていないのである。菅義偉は決裁はしても、判断していないことになる。

 加藤勝信「6人除外ではなくて、99人を任命されたということでございます。それについては最終的には勿論、総理が最終決裁であります」

 決裁文書が既に99人の名前のみとなっていた。それに判を押した(決裁した)のだから、「6人除外ではなくて、99人を任命された」という経緯を取ることになる。菅義偉は6人任命拒否にノータッチだった。但し「それについては最終的には勿論、総理が最終決裁であります」と言っているが、管義偉自身が105名の中から9名を排除して99人任命の決裁をしたとは言っていなくて、既に99名となっていた決裁文書を承認しただけのことだから、厳密な意味で憲法第15条第1項に基づいた任命でもなければ、内閣法制局第一部長の木村陽一が言っているように国民主権の原理に基づいて内閣が国民及び国会に対して責任を負うことのできる任命であったかどうかは極めて怪しくなる。

 この怪しさを晴らさないことには説明責任を果たしたことにはならない。
 記者がさらに追及すると、加藤勝信は「詳細について人事の話ですので、詳細は控えさせて頂きますけれども、そういったプロセスがあったということでございます」と詳しいことは説明責任を拒否している。

 総理大臣たるものが憲法第15条第1項に則って「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とされている国民主権の原理に忠実であったかどうかが問われている「人事の話」であるにも関わらず、国民主権の原理から切り離して、単なる「人事の話」だとして説明責任を回避する。

 説明責任を回避できない「人事の話」を説明責任の回避に付すことは意図的な秘密仕立てを意味することになる。秘密仕立ては隠蔽が必要だから、秘密仕立てとする。つまり加藤勝信が国民主権が絡んでいる日本学術会員会員任命問題を「人事の話」だとして説明責任を回避するのは詭弁家らしく、詭弁で以って事実を隠蔽する振る舞いに過ぎない。

 誰がどの段階で、どのような根拠で6名任命拒否を決めたのかという追及になると加藤勝信は「決裁までの間には今回の任命の考え方について総理には説明があった」ことと「詳細について人事の話ですので、詳細は控えさせて頂きます」を決り文句にして自らの説明責任の代わりとしている。

 加藤勝信の次の発言などは詭弁中の詭弁である。

 加藤勝信「日学法の中に於いて、推薦を基にですね、質問からちょっと外れますが、推薦を基にその中から選ぶということであります。従って中から選ばれた者について総理は決裁をされたということでありますから、適法に行われているものと承知をしております」

 誰がどのような理由・根拠で推薦会員の中から選んだのかの説明責任を省いておいて、「推薦を基にその中から選ぶということであります。従って中から選ばれた者について総理は決裁をされたということでありますから、適法に行われているものと承知をしております」云々と理由・根拠を省いて、単に表面的な手続きで説明して済ましている。詭弁家の面目躍如と言ったところだろう。

 加藤勝信のこの日の午前中の記者会見の最後の発言は「最後の決裁の段階では99名にする、まさに任命行為です。99名を任命するという決裁文書は起案をされ、そのまま最終決済されたということであります。

 そこに至るプロセスについては先程申し上げたように総理に対して説明をされたということでありますから、当然、説明に当たってはそうした法律を踏まえた説明を成されていると思います」となっている。

 「最後の決裁の段階では99名にする、まさに任命行為です」と菅義偉が主体的に99名を選んだような発言をしているが、真っ赤なウソである。菅義偉のグループインタビューでの自身の発言と加藤勝信のこれまでの説明から、菅は105名の名簿には目を通していなくて、6名を抜いた99人の決裁文書しか見ていない。99人の決裁に基づいて文書に単に判を押したに過ぎない。

 最初から最後まで誰がどの段階でどのような理由・根拠で6名を除外したのかの説明責任を抜きに「最後の決裁の段階では99名にする、まさに任命行為です」と、表面的な手続きだけの説明責任で、さも正しい任命が行われたかのように取り繕う。薄汚い限りである。

 続いて「99名を任命するという決裁文書は起案をされ、そのまま最終決済されたということであります」と言っていることも、最初に言ったことの繰り返しに過ぎない。同じく誰がどの段階でどのような理由・根拠で6名を除外したのかの説明責任を抜いたまま表面的な手続きだけの説明で終えているからだ。
 
 次に2020年10月13日午前の記者会見から任命と任命拒否について、いわば菅義偉の関わりについて加藤勝信がどのようように説明しているのかを見てみる。

 記者「事務の官房副長官(杉田和博内閣官房副長官のこと)がですね、内閣府の提案に基づき任命できない人が複数いると決裁前に総理へ報告。口頭で報告したということですが、日本学術会議法には会員は総理が任命するとございます。今回の任命について総理が総理以外の方が判断された可能性について、また改めて任命に総理がどのように関与していたのか、ご説明をお願いします」

 加藤勝信「まさに任命については最終的には総理が決裁をされて、決定されたということであります。で、そのプロセスに於いてはこれまで申し上げましたように任命の考え方について説明があり、共有されたということは間違いありません。個々の遣り取りについては人事に関することでありますから、誰が何をということは今までも説明を差し控えさせて頂いております。

 その上で内閣官房副長官のお話が出ましたけども、一般論として申し上げれば、内閣官房副長官は官邸に於ける総合調整の役割を果たして頂いております」

 国民主権の原理に耐えられる任命なのか、国民及び国会に対して責任を負うことのできる任命なのかの説明責任は一切排除・無視して、ここでも表面的な手続きのみを以って任命は正しく行われたと強弁し、任命拒否の理由・根拠には何一つ触れていない。

 ここで問題なのは「任命の考え方について説明があり、共有されたということは間違いありません」と言っている点である。2020年10月12日午前の記者会見では内閣府から菅義偉に対して「任命の考え方については説明があった」とのみ述べていて、「共有」という言葉は一度も使っていない。「共有」という表現がない場合は99名任命の決裁文書を見せられ、任命に関わる手続きの「考え方について説明」があり、その「考え方」を受け入れて菅義偉が機械的に決裁したと受け取れるが、「共有」という言葉を入れると、内閣府からの「考え方について説明」に菅義偉が理解・同意して、いわば「共有」して決裁文書にサインしたという手順を取ることになり、菅義偉が任命に主体的とまでいかなくても、自身の意思をかなり加えた6人任命拒否・99人任命の決裁と言うことにすることができる。つまり日学法が規定している任命権者としての内閣総理大臣の役割を一応は保つことができる。

 では、なぜ2020年10月12日午前の記者会見では「共有」という言葉を使わなかったのだろうか。2020年10月12日22時04分発信の「時事ドットコム」が6人任命拒否の判断に内閣官房副長官(兼内閣人事局長)の杉田和博が関与していたことが関係者の10月12日の話によって明らかになったと伝えている。

 記事は書いている。〈関係者によると、政府の事務方トップである杉田副長官が首相の決裁前に推薦リストから外す6人を選別。報告を受けた首相も名前を確認した。首相は105人の一覧表そのものは見ていないものの、排除に対する「首相の考えは固かった」という。〉

 「共有」という意思関与がなく、単に「任命の考え方について説明があり」決裁しただけでは機械的な意思関与となるだけとなって、国民主権との兼ね合い、国民及び国会に対して責任を負うこととの兼ね合いから不都合が生じるゆえに主体的な意思関与があった如くに見せる必要からの、「共有」という言葉を後付けで付け加えた可能性は高い。

 この「共有」という言葉を入れれば、内閣官房副長官杉田和博が決めた6人任命拒否であっても、総理大臣の菅義偉が機械的な意思関与から決裁したのではなく、多少なりとも主体的な意思関与を示すことになって、国民主権との兼ね合いと国民及び国会に対して責任を負うこととの兼ね合いに対して少しは座りを良くすることができる。

 だが、2020年10月13日付時事ドットコム記事、「杉田副長官、審議会人事に介入 前川元文科次官が証言」の記事を読むと、国民主権との兼ね合いも、国民及び国会に対して責任を負うこととの兼ね合いも大分怪しくなる。
 
 前川喜平元文部科学事務次官が2020年10月13日に立憲民主党などの野党合同ヒアリングに出席して、2016年の文化功労者選考分科会委員の選任の際、杉田和博官房副長官に人事案の差し替えを指示されたことを明らかにしたという。

 2016年8月頃に委員のリストを杉田副長官に提出したところ、1週間ほど後に呼び出され、2人の差し替えを命じられた

 前川喜平氏「杉田氏から『こういう政権を批判するような人物を入れては困る』とお叱りを受けた」

 「こういう政権を批判するような人物」は今回、任命拒否された6人と重なる。この6人の任命拒否は杉田和博自身の拒絶反応から出たことなのか、安倍晋三が自身は表に立つことができないゆえに杉田和博を使い、裏から手を回す形で自身の6人に対する拒絶反応を菅義偉に伝えることになったことから出たことなのかである。2016年は安倍政権下であったことと安倍晋三自身が思想・信条の自由に拒絶意思を持っていることを考えると、大いにあり得る話となる。

 調べてみると、2020年10月12日午後の記者会見からであるが、加藤勝信は内閣府からの「任命の考え方の説明」のプロセスに加えて、菅義偉によるその考え方の「共有」というプロセスを付け加えて、法律に則った任命だと説明するようになった。

 だが、「共有」というプロセスを付け加えただけで、誰がどのような理由・根拠で任命拒否に至ったのかの説明は一切なく、2020年10月12日午前の記者会見同様、13日午前の記者会見も表面的な手続きだけの説明で任命を正当化する詭弁は些かも衰えない。次の発言が典型的な例となる。

 加藤勝信「ちょっと背景がありますけども、基本的には一つの考え方があり、全体としてですね、作業を変えていくわけです。一つ一つ、例えば今お話があったように一人ひとり総理が任命を一つ一つチェックしてわけではなくて、一つの考え方を共有し、それは事務方にそうしたものは、いわば任せて処理をしていく。

 別に本件に関わらずそうしたまさに通常の遣り方に則って作業を進める、作業が進められたということです」

 ここで言っている「基本的には一つの考え方があり」という言葉と「一つの考え方を共有し」という言葉は恰も6人命拒否の考え方のように聞こえるが、先に挙げた「まさに推薦に則って総理が任命するという学術会議法の規定があり、他方で憲法の15条を含めてですね、国としてこれまでの総合学術会議等の提言でも、総合的・俯瞰的的扱いをされている等の指摘があり」云々と説明している手続きの「考え方」とは矛盾することになる。

 だが、実際は共通する政治姿勢を持った6人の任命拒否なのだから、「一つの考え方」は任命拒否の理由・根拠に関係した「考え方」でなければ、前後の整合性が取れない。加藤勝信は詭弁家らしく手続きの「考え方」で誤魔化そうとしたが、不注意にも任命拒否の理由・根拠に関係した「考え方」として顔を覗かせてしまったのかもしれない。

 大体からして6人が任命拒否という結果を受けたことを見れば、6人の共通する政治姿勢から判断しさえすれば、菅義偉が内閣府から説明を受けたとしている「任命の考え方」、あるいは上に挙げた加藤勝信の発言を参考にすると、「一つの考え方」とは安倍晋三の国家主義的な強権的政策に拒絶姿勢を示す人物を、あるいは内閣官房副長官杉田和博の言葉を借りるなら、「政権を批判するような人物」を任命拒否に持っていくための「考え方」、あるいは「一つの考え方」でなければならない。こうすることによって任命拒否に関する一連の騒動の整合性が取れる。

 結果から見て、それ以外の「考え方」は存在しない。そして菅義偉たちはそのような「考え方」を「共有」し合った。

 となると、既に触れたように特定の政治的傾向を持つ人物を狙い撃ち的に排除したことになって、憲法が保障する思想・信条の自由の侵害そのものに当たるばかりか、憲法第15条第1項と第2項の悪用、日本学術会議法の第7条の悪用、国民主権の悪用に相当する。

 内閣総理大臣菅義偉のこのような悪用とその悪用に「人事の話だから詳細は控える」と秘密仕立ての隠蔽を策して説明責任を回避する官房長官加藤勝信のさらなる悪用は内閣総理大臣としての、あるいは内閣官房長官としてのそれぞれの資格に値しないことになる。即刻辞任すべきであろう。

 特に菅義偉は「雪深い秋田の農家の長男に生まれた」と庶民性をウリにしているが、とんだ食わせ者である。

 加藤勝信2020年10月12日午前記者会見

 記者「日本学術会議で憲法23条の学問の自由に関連してお伺いします。菅首相は5日のインタビューで、『学問の自由は全く関係ない。どう考えてもそうじゃないですか』とご説明されていました。この『どう考えても』というの、何をどう考えるべきか、学問の自由と全く関係がないとうことをもう少し政府の考えをお伺いできますでしょうか」

 加藤勝信「そのときの遣り取りではでね、記者の方々から独立の機関であって、研究者の中には学問の自由の侵害ではないかという指摘があることに対する答が今言われた『学問の自由とは全く関係ない』ということでありますから、これに対してその前に総理がこの学術会議についてですね、国の行政機関である等の話を、またこの場に於いても特別職の国家公務員ということ。当然、これによって日本国憲法第15条との絡み、縷々説明させて頂きました。まさにそういうことを踏まえた発言だということであります」

 記者「続けてお伺い致します。いま15条の話もありました。学術会議の任命拒否の問題についてですね、憲法上の条文との関係について、以前の関係で15条でしたりとか、その他65条、72条、併せて23条のことも仰っていたと思います。菅総理の説明云々にこの学術会議の任命拒否、そのことについては政府の見解としては23条というのは全く関係がなく、23条の観点から検討することはないというご認識でしょうか」

 加藤勝信「ですから、(5日の記者会見の)ご質問の趣旨が独立の機関であるから、学問自由との関係を仰ったもんで、それはそうではないということで言われたということでありまして、これは独立の機関ではなくて、国家行政機であるし、それから先程申し上げた特別職の国家公務員である。そうした事情の中で当然、憲法15条が指定される。

 そうした中で云々しているということ踏まえて、学問の自由とは関係ない。だから、あくまでも言葉の(聞き取れない)。だからあくまでも学問自由だけを取って言ったのではなくて、『独立の機関だから、学問の自由を侵害されているんではないか』っていうご質問に対してそういう答をされたということですから、質問と答の結構を考えて頂ければ、ご理解頂けると思います」

 記者「日本学術会議についてお伺いします。菅総理が9日のグループインタビューで任命をされなかった6人を含めて105人の会員の推薦者リストを見ていないと説明をされました。先月28日の決済直前に任命する99人のリストを見たとの説明でしたが、総理はその105名の学術会議側のリストをご覧になっていないのであれば、どのタイミングでどの方が6名を任命されないというのを決められたのでしょうか」

 加藤勝信「先ずは99名任命することについては内閣府に於ける起案から総理大臣による最終的な決済まで、過程、これは一貫していたということであります。

 総理が推薦者の名簿について見ていないと答えられたのは決裁文書には推薦名簿、参考資料として添付されてますけども、参考資料までは詳しく見ていられなかったということを指されているんだろうと思います。決済までの間には総理には今回の任命の考え方の説明は行われているところであります」

 記者「決済までについては総理には考え方が示されているということを今お話されましたけども、今回6人除外というのは最終的に総理の判断で除外されたという理解でよろしいでしょうか」

 加藤勝信「6人除外ではなくて、99人を任命されたということでございます。それについては最終的には勿論、総理が最終決裁であります」

 記者「確認ですが、決裁文書による確認後にはリストに載っていたということで、そこは十分ご覧になったのかどうか分からないということでございますが、105人の候補者が99人に絞られたという認識は総理はお持ちだったということですね」

 加藤勝信「決裁文書そのものは任命どおりですから、99名のリストを見てですね、(ハンコを打つジェスチャー)これを決済すると、これが基本です、ということになるわけですね。

 先程申し上げた決裁までの間にには今回の任命の考え方について総理には説明があったということで、詳細について人事の話ですので、詳細は控えさせて頂きますけれども、そういったプロセスがあったということでございます」

 記者「詳細について総理に考えを示されたということでございますが、総理の先日のインタビューを受けて、日学法に基づいていないのではないかという専門家からの指摘もあります。

 つまり105人の推薦を十分に見ることなく任命決裁をしたことは違法行為という指摘ですけど、政府としてはこうした指摘は当たらないという認識ですか」

 加藤勝信「日学法の中に於いて、推薦を基にですね、質問からちょっと外れますが、推薦を基にその中から選ぶということであります。従って中から選ばれた者について総理は決裁をされたということでありますから、適法に行われているものと承知をしております」

 記者「今回の任命の考え方について総理にご説明があったというお話でした。逆に菅総理の側からこういった方針で任命する対象者を選んでほしいとかですね、そういった方針が起案する事務局に当たる部分なのか、起案者に何らかの指示があったのでしょうか、その辺をお聞かせください』

 加藤勝信「人事上の判断にかかりますので、そこら辺の細かい遣り取り等は控えたいと思いますが、先程申し上げたように決裁までの間に総理に対して今回の任命の考え方が説明の機会があったということです」

 記者「会員の総理の任命権というものは非常に重いものがあると思います。任命をし、推薦をされた方がですね、見送られるということに関してはより慎重な任命の行使というものがひつようかと思うのですけども、105人はですね、段階で見ていないと、99人のリストしか見ていないということはですね、首相が任命権を行使されたということに関しては適切であったとお考えでしょうか」

 加藤勝信「ですから、先程申し上げたように任命の考え方については説明する機会があった。それを踏まえて最終的に判断でですね、それを決裁、99名の任命をして頂いたということでございます。

 全く法律上ですね、出てきた推薦の案そのものを全然無視してやっているのではなくて、その中に日本学術会議から頂戴した推薦リスト、これに基づいて任命を行ったというわけであります」

 記者「今までの説明で全く法律上の推薦の案を無視してやっているわけではないというご説明がありました。例えば日学法17条を見ますと、日本学術会議は会員の候補者を選考し、内閣総理大臣に推薦するものというふうにされています。そうしますと、この105人のリストを参考資料として検討したとしても、推薦者として示されていたのが99人であれば、これは直接99人の推薦を総理に見せるという行為とこの17条の整合性はどういうふうにご説明されるのでしょうか」

 加藤勝信「ですから、最後の決裁の段階の話させていただいて、最後の決裁の段階では99名にする、まさに任命行為です。99名を任命するという決裁文書は起案をされ、そのまま最終決済されたということであります。

 そこに至るプロセスについては先程申し上げたように総理に対して説明をされたということでありますから、当然、説明に当たってはそうした法律を踏まえた説明を為されていると思います」

 

 加藤勝信2020年10月13日午前記者会見

 記者「事務の官房副長官がですね、内閣府の提案に基づき任命できない人が複数いると決裁前に総理へ報告。口頭で報告したということですが、日本学術会議法には会員は総理が任命するとございます。今回の任命について総理が総理以外の方が判断された可能性について、また改めて任命に総理がどのように関与していたのか、ご説明をお願いします」

 加藤勝信「まさに任命については最終的には総理が決裁をされて、決定されたということであります。で、そのプロセスに於いてはこれまで申し上げましたように任命の考え方について説明があり、共有されたということは間違いありません。個々の遣り取りについては人事に関することでありますから、誰が何をということは今までも説明を差し控えさせて頂いております。

 その上で内閣官房副長官のお話が出ましたけども、一般論として申し上げれば、内閣官房副長官は官邸に於ける総合調整の役割を果たして頂いております」

 記者「日本学術会議の任命についてお伺いします。内閣府は99人を任命する決裁文書を起案したのは9月24日ですが、昨日の説明ではそれまでの間に首相に対して考え方が説明され、共有化され、それに基づいて具体的な作業がされたというご説明を頂きました。

 この考え方、共有とはどのような内容なのか、改めてお伺いします」

 加藤勝信「考え方というのはこれまで説明させて頂いているところであります。まさに推薦に則って総理が任命するという学術会議法の規定があり、他方で憲法の15条を含めてですね、国としてこれまでの総合学術会議等の提言でも、総合的・俯瞰的的扱いをされている等の指摘があり、そうしたことを踏まえて、まさにそうした任命についての考え方が説明されですね、共有されたということであります」

 記者「考え方の説明をされました。共有化後を確認させていただきたいのですが。昨日の会見でもですね、共有化というのは総理から指示があったのか。それとも事務方で判断したのか、そこら辺を昨日の会見でもはっきりしたことは私の方も至らなかったこともあるのですけども、共有化の遣り取りってどういう遣り取りがあったのでしょうか」

 加藤勝信「これも先程申し上げましたように人事に関してですから、誰がどこで何を言ったかと言うことについてはこれは差し控えさせて、これまでも控えさせて頂いているのですが、いずれにしてもそういう説明についてお互い共有したということです」

 記者「確認ですが、9月24日の99人推薦の起案までに首相が基本的な考え方の説明を受けて、共有化されたものの、この105人の名簿見ていないということでよろしいでしょうか」

 加藤勝信「ちょっと背景がありますけども、基本的には一つの考え方があり、全体としてですね、作業を変えていくわけです。一つ一つ、例えば今お話があったように一人ひとり総理が任命を一つ一つチェックしてわけではなくて、一つの考え方を共有し、それは事務方にそうしたものは、いわば任せて処理をしていく。

 別に本件に関わらずそうしたまさに通常の遣り方に則って作業を進める、作業が進められたということです」

 記者「総理は先週のインタビューでですね、会員は後任を事実上指名することもできる仕組みだと述べられています。内閣府の事務局や学術会議からはそうした使命は不可能との指摘が出ているんですが、総理の発言の趣旨をお聞かせください」

 加藤勝信「まずは総理から会員の人選は推薦委員会などの仕組みがあるものの、現状では事実上、現在の会員が自分の後任を示すことも可能な仕組みになっているということを言われたわけです。学術会議の選考に当たってはまさに現在の会員・連携会員から候補者の推薦を受けて、選考の上に、候補者が発生されている。そして選考委員会の選考を経て、候補者名簿を作成するので、推薦をされた者(シャ)が必ずしも候補者となるとは限らないというのが、そのとおりでありますが、総理の発言はまさに現在の会員が候補者を推薦できてる。

 そして結果として現在の会員に推薦された者(シャ)が候補者名簿に載り、総理から現在の会員が後任を推薦こともあり得るということを述べられたということであります」

 記者「総理の発言の趣旨を長官が度々説明されたり、先日も菅総理の名簿を見ていないという発言、真意を巡って昨日も長官、度々説明されました。
やはり改めて菅総理が国民に向かって説明するということ必要だと思うんですけども、記者会見を開く対応などについて官房長官の考えがあれば、お願いします」

 加藤勝信「まさに総理の発言に対して皆さんから質問があるので、私は勉強しているわけでありまして、私が積極的に何か解説をしているわけではありません。従って、こうした場に於いて、まさにこの記者会見は政府の考え方を説明する場所でありますから、基本的に総理の考え方を説明する場所と言ってもいいんだろうと思います。まさにそういった場でその役割を果たさせて頂いているというふうに思っております」

 記者「先程の基本的な考え方が共有化されたということについてなんですけども、結果的に除外された6人の個人名やどういった業績があるかということを首相が事務方から説明を受けたっていうことはそれはいつなんでしょうか。

 この24日までの間にこの99人とは別に6人の個人名を総理は把握されていたという理解でよろしいでしょうか」

 加藤勝信「それは先程申し上げておりますように個々の人事の関係がありますから、個々の遣り取りについては申し上げておりませんが、まさに今申し上げた任命するに当たっての考え方について説明があり、そのことが共有化され、それに則って作業が為された。そしてそれに基づき起案が為され、最終的に総理が決裁をされた。まさにそういうプロセスであります」

 記者「24日までに説明があり、遣り取りがあったというのは全て口頭の遣り取りがあったということでしょうか」

 加藤勝信「すみません、個々の詳しい遣り取りは私は承知をしておりません」

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