基本的人権は人類が等しく認められるべき普遍的な価値観である。ゆえに人権問題に国境を設けてはならない。一国の人権抑圧に対する他国の非難を「内政干渉」だと国境を設けることは如何なる正当性も持たないことになる。
日本の覇気のない首相菅義偉と就任早々いやに張り切っているアメリカ大統領との初の首脳会談が2021年4月16日午後(日本時間17日未明)行われた。ネットで調べてみると、会談後に共同声明を発出し、次に共同記者会見、その次に日本記者団に対するぶら下がり会見の順で行われたようだ。バイデンとの共同記者会見前にぶら下がりを行うのは不躾と見られる可能性が生じるからである。
日本政府が今後、中国に対してどのような外交姿勢で臨んでいこうとしているのか、その姿勢と関連する香港問題、新疆ウイグル問題と共に共同声明と共同記者会見での菅発言、ぶら下がりから関係する箇所を拾ってみた。
先ず日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」(外務省/2021年4月16日)
「普遍的価値及び共通の原則」という言葉が4回出てくる。
「海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている」
「両国は共に先頭に立ってきた。日米両国の長年にわたる緊密な絆を祝福し、菅総理とバイデン大統領は、消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする。日米両国は、新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う」
「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」
「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」
「菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」――
日米は「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」と、「国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序」という「共通の原則」の二つを国際社会に於ける基本姿勢――国際秩序とすると規定している。このように謳うのは「普遍的価値」と「共通の原則」を国際秩序としていない、特に中国を睨んだ文言なのは最後の「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、その「懸念」に対して「日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」との文言で中国に対して「普遍的価値及び共通の原則」のルールを以ってして対抗していくとの文意に現れている。
では、中国の普遍的価値に基づかない行動に触れた箇所を見てみる。
「日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する。日米両国は、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」
「普遍的価値」と「共通の原則」という土俵に中国を乗せようと心づもりしているが、「中国との率直な対話の重要性を認識する」にとどめている。日米が反対するとしている「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試み」の「あらゆる」の中には、勿論、武力を用いた一方的な現状変更の試みが入る。台湾に対しては中国による武力統一の懸念がくすぶり続けている。中国と台湾の「両岸問題の平和的解決」を促しているが、アメリカが台湾海峡、その他で行っている「航行の自由作戦」は中国の台湾武力統一には武力を以って対抗する意思表示であろう。
台湾有事の際は憲法解釈で集団的自衛権を認めている関連から、日本も無関係ではいられない。
香港及び新疆ウイグル自治区に関してはその人権状況への深刻な懸念を日米は共有するとしている。間接的に中国に対して「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」の両地域での履行を求めていることになるが、共産党一党独裁体制で国民を上から統治し、自治区の他民族に対してはその文化や制度までも強権的に中国と同化させようとする普遍的価値の尊重とは真逆の国家意志のもとでは簡単に求めに応じることはないだろう。
次に「日米共同記者会見」(首相官邸/2021年4月16日)から中国向けの外交姿勢とその覚悟の程を示す菅発言を見てみる。
菅義偉「米国は日本の最良の友人であり、日米は、自由、民主主義、人権などの普遍的価値を共有する同盟国であります。日米同盟は、インド太平洋地域、そして、世界の平和、安定と繁栄の礎として、その役割を果たしてきましたが、今日の地域情勢や厳しい安全保障環境を背景に、同盟の重要性はかつてなく高まっております。
このような共通認識の下で、本日の首脳会談では、お互いの政治信条、それぞれが国内で抱える課題、そして、日米が共有するビジョンなどについて、幅広く、率直な意見交換を行うことができました。
バイデン大統領とは、先月の日米『2+2』で一致した認識を改めて確認し、その上に立って、更に地域のために取り組むことで一致いたしました。『自由で開かれたインド太平洋』についても話し合いをしました。この地域の平和と繁栄を確保していくために、日米がこのビジョンの具体化を主導し、ASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インドを始めとする他の国々、地域とも協力を進めていくことで一致いたしました。
また、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について、真剣に議論を行いました。東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対することでも一致しました。その上で、それぞれが中国と率直な対話を行う必要もあること、そして、その際には、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべきであることでも一致いたしました」――
中国が画策している「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対する」としているが、「力による現状変更の試み」の対象地域として尖閣諸島の言葉も台湾という言葉も使っていない。前者の言葉が出てくるのは「バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、米国による日本の防衛へのコミットメントを改めて示していただきました」のみで、中国の「力による現状変更の試み」に反対する直接的で明確な意思表示とはなっていない。
つまり中国が台湾に対して「力による現状変更の試み」を実行した場合は中国に対して明確に反対を示すとする直接的で明確な意思表示は見えない。
このことは「日米首脳会談等についてのぶら下がり会見」(首相官邸/2021年4月16日)の中の台湾問題に触れた発言からも見て取れる。
菅義偉「あと、台湾の問題ですけども、やはりこの台湾海峡、また尖閣周辺でも、厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います。
その中で、やはり解決は、平和裏に解決をすると、そうしたことを最優先にしていく。そうしたこともお互いに、そういう方向で、平和と安心・安全、そうしたことを進めていこうということで合意しましたので、中国に対して、必要なことは、言うべきことははっきり言っていく中で、この地域の安定・平和に寄与していきたいと思います」――
「尖閣周辺」も含めて「台湾の問題」、「台湾海峡」が「厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います」と断定を避けて、推測の範囲に置いている。「尖閣周辺」は日本の首相である以上、当事者の立場にある。「台湾の問題」にしても中国によって武力統一されて直接的な中国領土となった場合、尖閣諸島や沖縄は中国本土からよりも台湾からより近い距離となって、直接的に日本の安全保障に関わってくる。
それを厳しい状況は「事実だというふうに思います」と腰の引けた、当事者であることをどこかに置いた発言ができる。推測するに中国に対してアメリカと共に直接的に「力による現状変更の試み」に反対姿勢を示したのはバイデンの勢いに引っ張られてしたことであって、今までのように中国が何かしたなら、犬の遠吠えにもならない、型通りの抗義で済まして現状を容認する事勿れな態度に終始したかったのかもしれない。
日米共同声明で台湾に言及したのは日中国交正常化前の1969年の佐藤・ニクソン会談以来の約半世紀ぶりだそうだが、中国が経済及び軍事大国化する前で、安全保障環境も現在のようには厳しくなっていなかった。厳しくなった要因は中国の経済力と軍事力を背景とした海洋進出の国家意志であり、武力行使も辞さない台湾統一の国家意志である。特定の国家意志が高まっているとき、それに対して経済的軍事的に対立する大国がそれなりの大国と共に共同声明という形で中国側がルールとしていない普遍的価値と共通の原則を楯に異議申し立てに出れば、中国は当然、激しく反発する。その反発を2021年4月17日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
駐米中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「台湾と香港、新疆ウイグル自治区に関わる問題は中国の内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土と主権、海洋権益に関わるもので、干渉することは許さない。我々は強い不満と断固とした反対を表明する。中国は国家の主権と安全、発展の利益を断固として守る。
2国間の関係の範囲を完全に超えており、第三者の利益や、アジア太平洋地域の平和と安定を損なうものだ。時代に逆行し、地域の人々の心に背こうとする企ては自身を傷つける結果になるだろう」
駐日中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「中国に対して謂われのない非難を行い、中国の内政に干渉し、領土と主権を侵害しており、われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国側はすでに日米双方に厳正な申し入れを行った。
台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない。(尖閣諸島は)中国固有の領土であり、日米が何を言っても、中国に属するという客観的事実を変えることはできない。
最近、日本側は中国に関わる問題で相次いで消極的な行動をとり、政治的な相互信頼を著しく損ない、双方の関係発展の努力を妨害している。我々は日本側に対し、両国関係が振り回されず、停滞も後退もせず、大国間の対抗の渦に巻き込まれないよう忠告する」
台湾も新疆ウイグル自治区も香港も、それぞれに純粋に中国の内政問題であり、尖閣諸島は客観的事実を変えようもない中国固有の領土だから、いわば外国の口出しは許すことはできないと猛反発している。
中国が自らと台湾の統一に関して武力の行使を選択肢としているのは外国が中国に国交締結を求めた際に台湾は中国の一部であるという条件を承認させてきた経緯があるものの、その後50年間一国二制度の維持を謳う香港基本法が全国人民代表大会会議によって1990年4月に成立、そして香港は1997年7月1日にイギリスから返還されるが、中国が徐々に共産党一党独裁に基づいた専制主義の姿を露わにして、香港の民主主義をなし崩し的に侵食していき、その集大成が2020年6月施行の国家安全維持法であって、中国の従来からのこのような専制的な姿勢が統一した場合の台湾にも適用されるのではないのかと台湾自身だけではなく、西欧各国に懸念を持たれた結果、世界基準とは異なる中国の平和的なとしている台湾統一が困難になったからであろう。
例えば「国家安全維持法」「第4条 香港特別行政区は、国家安全を維持するために人権を尊重し、保障するとともに、香港特別行政区基本法と《市民的及び政治的権利に関する国際規約》、《経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約》に基づいた言論・報道・出版の自由、結社・集会・行進・デモの自由などを法に基づいて保護しなければならない」云々と基本的人権の保障を全面的に認めているように見えるが、あくまでも国家安全維持の範囲内を条件とする基本的人権の保障である。中国にとっての好ましい「国家安全」とは共産党一党独裁体制の維持可能な状況を言う。この体制が少しでも脅かされた場合、国家安全を維持できないとして基本的人権の恣意的な解釈に基づいた罰則が幅広く可能になる。
結果、台湾に於ける新疆ウイグル自治区や香港、あるいはチベットで吹き荒れている民主主義の壊滅状況への二の舞である。普遍的価値を奉じている西欧民主国家にとって簡単には看過できない中国による台湾統一に向けた懸念ということになり、このような懸念への焦りから出ている中国の台湾武力統一への欲求意志の現れということなのだろう。
米中の正式国交正常化は1979年1月1日だが、1972年2月28日の「上海コミュニケ(ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明)」によって事実上の相互承認が行われた。(一部抜粋)
〈双方は、米中両国間に長期にわたつて存在してきた重大な紛争を検討した。中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙(つとに)に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、「一つの中国、一つの台湾」、「一つの中国、二つの政府」、「二つの中国」及び「台湾独立」を作り上げることを目的とし、あるいは「台湾の地位は未確定である」と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。
米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう。〉
かくしてアメリカは台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の国内問題であって、そのことに口を出すことは内政干渉となるという中国の「立場に異論をとなえない」ことを誓った。
では、日本の1972年9月29日の日中国交正常化と同日の「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」を見てみる。(一部抜粋)
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。
ポツダム宣言第8項とは、〈カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また、日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに吾等が決定する諸小島に局限せらるべし。〉
日本も「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」ことを「十分理解し、尊重」することを中国に対する約束とした。
だとしても、チベットや新疆ウイグル自治区に於ける人権抑圧状況は米中国交正常化、日中国交正常化当時と比較にならない程に深刻化し、香港に於いても
民主化要求デモに対して一国二制度を自らが真っ向から否定して、徹底的弾圧で臨む強権姿勢は西欧民主国家が奉じる「自由、民主主義、人権、法の支配」といった普遍的価値観の中国に対する影響力の無力を突きつけている。
当然、中国の「台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」と主張する内政干渉説を打ち破らなければ、西欧民主主義国家が望む人権状況、普遍的価値観の中国への波及は期待できない。
日米共同声明で「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則」を世界共通のルールとして望んだとしても、中国やロシア、北朝鮮等の独裁国家、専制国家が壁となって立ち塞がることになる。
人間が人間として生きるべく保障されている基本的人権は人類が等しく認められるべき普遍的な価値観である。ゆえに人権問題に国境を設けてはならない。一国の人権抑圧に対する他国の非難を「内政干渉」だと国境を設けることは如何なる正当性も持たないことになる。
もし国境を設けたなら、人類が等しく認められるべきとする要件を破ることになる。「内政干渉だ」と国境を設けることは等しく認めることから外れて人権抑圧を正当化する口実としているに過ぎない。
もし中国が共産党一党独裁から離れて普遍的価値観を全面的に奉ずる民主国家に変貌を遂げたなら、香港や新疆ウイグル、チベット等の人権抑圧も過去の問題となり、中国の海洋進出も国際ルールに則った行動となり、台湾を中国の不可分の領土として統一することも認めることができると、こういった道理を特に中国に向けて発信しなければならない。
民主国家とならなければ、台湾は独立した存在としておかなければ、台湾国民の基本的人権は守ることはできないと。
日本の覇気のない首相菅義偉と就任早々いやに張り切っているアメリカ大統領との初の首脳会談が2021年4月16日午後(日本時間17日未明)行われた。ネットで調べてみると、会談後に共同声明を発出し、次に共同記者会見、その次に日本記者団に対するぶら下がり会見の順で行われたようだ。バイデンとの共同記者会見前にぶら下がりを行うのは不躾と見られる可能性が生じるからである。
日本政府が今後、中国に対してどのような外交姿勢で臨んでいこうとしているのか、その姿勢と関連する香港問題、新疆ウイグル問題と共に共同声明と共同記者会見での菅発言、ぶら下がりから関係する箇所を拾ってみた。
先ず日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」(外務省/2021年4月16日)
「普遍的価値及び共通の原則」という言葉が4回出てくる。
「海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている」
「両国は共に先頭に立ってきた。日米両国の長年にわたる緊密な絆を祝福し、菅総理とバイデン大統領は、消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする。日米両国は、新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う」
「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」
「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」
「菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」――
日米は「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」と、「国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序」という「共通の原則」の二つを国際社会に於ける基本姿勢――国際秩序とすると規定している。このように謳うのは「普遍的価値」と「共通の原則」を国際秩序としていない、特に中国を睨んだ文言なのは最後の「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、その「懸念」に対して「日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」との文言で中国に対して「普遍的価値及び共通の原則」のルールを以ってして対抗していくとの文意に現れている。
では、中国の普遍的価値に基づかない行動に触れた箇所を見てみる。
「日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する。日米両国は、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」
「普遍的価値」と「共通の原則」という土俵に中国を乗せようと心づもりしているが、「中国との率直な対話の重要性を認識する」にとどめている。日米が反対するとしている「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試み」の「あらゆる」の中には、勿論、武力を用いた一方的な現状変更の試みが入る。台湾に対しては中国による武力統一の懸念がくすぶり続けている。中国と台湾の「両岸問題の平和的解決」を促しているが、アメリカが台湾海峡、その他で行っている「航行の自由作戦」は中国の台湾武力統一には武力を以って対抗する意思表示であろう。
台湾有事の際は憲法解釈で集団的自衛権を認めている関連から、日本も無関係ではいられない。
香港及び新疆ウイグル自治区に関してはその人権状況への深刻な懸念を日米は共有するとしている。間接的に中国に対して「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」の両地域での履行を求めていることになるが、共産党一党独裁体制で国民を上から統治し、自治区の他民族に対してはその文化や制度までも強権的に中国と同化させようとする普遍的価値の尊重とは真逆の国家意志のもとでは簡単に求めに応じることはないだろう。
次に「日米共同記者会見」(首相官邸/2021年4月16日)から中国向けの外交姿勢とその覚悟の程を示す菅発言を見てみる。
菅義偉「米国は日本の最良の友人であり、日米は、自由、民主主義、人権などの普遍的価値を共有する同盟国であります。日米同盟は、インド太平洋地域、そして、世界の平和、安定と繁栄の礎として、その役割を果たしてきましたが、今日の地域情勢や厳しい安全保障環境を背景に、同盟の重要性はかつてなく高まっております。
このような共通認識の下で、本日の首脳会談では、お互いの政治信条、それぞれが国内で抱える課題、そして、日米が共有するビジョンなどについて、幅広く、率直な意見交換を行うことができました。
バイデン大統領とは、先月の日米『2+2』で一致した認識を改めて確認し、その上に立って、更に地域のために取り組むことで一致いたしました。『自由で開かれたインド太平洋』についても話し合いをしました。この地域の平和と繁栄を確保していくために、日米がこのビジョンの具体化を主導し、ASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インドを始めとする他の国々、地域とも協力を進めていくことで一致いたしました。
また、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について、真剣に議論を行いました。東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対することでも一致しました。その上で、それぞれが中国と率直な対話を行う必要もあること、そして、その際には、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべきであることでも一致いたしました」――
中国が画策している「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対する」としているが、「力による現状変更の試み」の対象地域として尖閣諸島の言葉も台湾という言葉も使っていない。前者の言葉が出てくるのは「バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、米国による日本の防衛へのコミットメントを改めて示していただきました」のみで、中国の「力による現状変更の試み」に反対する直接的で明確な意思表示とはなっていない。
つまり中国が台湾に対して「力による現状変更の試み」を実行した場合は中国に対して明確に反対を示すとする直接的で明確な意思表示は見えない。
このことは「日米首脳会談等についてのぶら下がり会見」(首相官邸/2021年4月16日)の中の台湾問題に触れた発言からも見て取れる。
菅義偉「あと、台湾の問題ですけども、やはりこの台湾海峡、また尖閣周辺でも、厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います。
その中で、やはり解決は、平和裏に解決をすると、そうしたことを最優先にしていく。そうしたこともお互いに、そういう方向で、平和と安心・安全、そうしたことを進めていこうということで合意しましたので、中国に対して、必要なことは、言うべきことははっきり言っていく中で、この地域の安定・平和に寄与していきたいと思います」――
「尖閣周辺」も含めて「台湾の問題」、「台湾海峡」が「厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います」と断定を避けて、推測の範囲に置いている。「尖閣周辺」は日本の首相である以上、当事者の立場にある。「台湾の問題」にしても中国によって武力統一されて直接的な中国領土となった場合、尖閣諸島や沖縄は中国本土からよりも台湾からより近い距離となって、直接的に日本の安全保障に関わってくる。
それを厳しい状況は「事実だというふうに思います」と腰の引けた、当事者であることをどこかに置いた発言ができる。推測するに中国に対してアメリカと共に直接的に「力による現状変更の試み」に反対姿勢を示したのはバイデンの勢いに引っ張られてしたことであって、今までのように中国が何かしたなら、犬の遠吠えにもならない、型通りの抗義で済まして現状を容認する事勿れな態度に終始したかったのかもしれない。
日米共同声明で台湾に言及したのは日中国交正常化前の1969年の佐藤・ニクソン会談以来の約半世紀ぶりだそうだが、中国が経済及び軍事大国化する前で、安全保障環境も現在のようには厳しくなっていなかった。厳しくなった要因は中国の経済力と軍事力を背景とした海洋進出の国家意志であり、武力行使も辞さない台湾統一の国家意志である。特定の国家意志が高まっているとき、それに対して経済的軍事的に対立する大国がそれなりの大国と共に共同声明という形で中国側がルールとしていない普遍的価値と共通の原則を楯に異議申し立てに出れば、中国は当然、激しく反発する。その反発を2021年4月17日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
駐米中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「台湾と香港、新疆ウイグル自治区に関わる問題は中国の内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土と主権、海洋権益に関わるもので、干渉することは許さない。我々は強い不満と断固とした反対を表明する。中国は国家の主権と安全、発展の利益を断固として守る。
2国間の関係の範囲を完全に超えており、第三者の利益や、アジア太平洋地域の平和と安定を損なうものだ。時代に逆行し、地域の人々の心に背こうとする企ては自身を傷つける結果になるだろう」
駐日中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「中国に対して謂われのない非難を行い、中国の内政に干渉し、領土と主権を侵害しており、われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国側はすでに日米双方に厳正な申し入れを行った。
台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない。(尖閣諸島は)中国固有の領土であり、日米が何を言っても、中国に属するという客観的事実を変えることはできない。
最近、日本側は中国に関わる問題で相次いで消極的な行動をとり、政治的な相互信頼を著しく損ない、双方の関係発展の努力を妨害している。我々は日本側に対し、両国関係が振り回されず、停滞も後退もせず、大国間の対抗の渦に巻き込まれないよう忠告する」
台湾も新疆ウイグル自治区も香港も、それぞれに純粋に中国の内政問題であり、尖閣諸島は客観的事実を変えようもない中国固有の領土だから、いわば外国の口出しは許すことはできないと猛反発している。
中国が自らと台湾の統一に関して武力の行使を選択肢としているのは外国が中国に国交締結を求めた際に台湾は中国の一部であるという条件を承認させてきた経緯があるものの、その後50年間一国二制度の維持を謳う香港基本法が全国人民代表大会会議によって1990年4月に成立、そして香港は1997年7月1日にイギリスから返還されるが、中国が徐々に共産党一党独裁に基づいた専制主義の姿を露わにして、香港の民主主義をなし崩し的に侵食していき、その集大成が2020年6月施行の国家安全維持法であって、中国の従来からのこのような専制的な姿勢が統一した場合の台湾にも適用されるのではないのかと台湾自身だけではなく、西欧各国に懸念を持たれた結果、世界基準とは異なる中国の平和的なとしている台湾統一が困難になったからであろう。
例えば「国家安全維持法」「第4条 香港特別行政区は、国家安全を維持するために人権を尊重し、保障するとともに、香港特別行政区基本法と《市民的及び政治的権利に関する国際規約》、《経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約》に基づいた言論・報道・出版の自由、結社・集会・行進・デモの自由などを法に基づいて保護しなければならない」云々と基本的人権の保障を全面的に認めているように見えるが、あくまでも国家安全維持の範囲内を条件とする基本的人権の保障である。中国にとっての好ましい「国家安全」とは共産党一党独裁体制の維持可能な状況を言う。この体制が少しでも脅かされた場合、国家安全を維持できないとして基本的人権の恣意的な解釈に基づいた罰則が幅広く可能になる。
結果、台湾に於ける新疆ウイグル自治区や香港、あるいはチベットで吹き荒れている民主主義の壊滅状況への二の舞である。普遍的価値を奉じている西欧民主国家にとって簡単には看過できない中国による台湾統一に向けた懸念ということになり、このような懸念への焦りから出ている中国の台湾武力統一への欲求意志の現れということなのだろう。
米中の正式国交正常化は1979年1月1日だが、1972年2月28日の「上海コミュニケ(ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明)」によって事実上の相互承認が行われた。(一部抜粋)
〈双方は、米中両国間に長期にわたつて存在してきた重大な紛争を検討した。中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙(つとに)に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、「一つの中国、一つの台湾」、「一つの中国、二つの政府」、「二つの中国」及び「台湾独立」を作り上げることを目的とし、あるいは「台湾の地位は未確定である」と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。
米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう。〉
かくしてアメリカは台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の国内問題であって、そのことに口を出すことは内政干渉となるという中国の「立場に異論をとなえない」ことを誓った。
では、日本の1972年9月29日の日中国交正常化と同日の「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」を見てみる。(一部抜粋)
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。
ポツダム宣言第8項とは、〈カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また、日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに吾等が決定する諸小島に局限せらるべし。〉
日本も「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」ことを「十分理解し、尊重」することを中国に対する約束とした。
だとしても、チベットや新疆ウイグル自治区に於ける人権抑圧状況は米中国交正常化、日中国交正常化当時と比較にならない程に深刻化し、香港に於いても
民主化要求デモに対して一国二制度を自らが真っ向から否定して、徹底的弾圧で臨む強権姿勢は西欧民主国家が奉じる「自由、民主主義、人権、法の支配」といった普遍的価値観の中国に対する影響力の無力を突きつけている。
当然、中国の「台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」と主張する内政干渉説を打ち破らなければ、西欧民主主義国家が望む人権状況、普遍的価値観の中国への波及は期待できない。
日米共同声明で「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則」を世界共通のルールとして望んだとしても、中国やロシア、北朝鮮等の独裁国家、専制国家が壁となって立ち塞がることになる。
人間が人間として生きるべく保障されている基本的人権は人類が等しく認められるべき普遍的な価値観である。ゆえに人権問題に国境を設けてはならない。一国の人権抑圧に対する他国の非難を「内政干渉」だと国境を設けることは如何なる正当性も持たないことになる。
もし国境を設けたなら、人類が等しく認められるべきとする要件を破ることになる。「内政干渉だ」と国境を設けることは等しく認めることから外れて人権抑圧を正当化する口実としているに過ぎない。
もし中国が共産党一党独裁から離れて普遍的価値観を全面的に奉ずる民主国家に変貌を遂げたなら、香港や新疆ウイグル、チベット等の人権抑圧も過去の問題となり、中国の海洋進出も国際ルールに則った行動となり、台湾を中国の不可分の領土として統一することも認めることができると、こういった道理を特に中国に向けて発信しなければならない。
民主国家とならなければ、台湾は独立した存在としておかなければ、台湾国民の基本的人権は守ることはできないと。