【謝罪】〈当ブログの中で取り上げた「聯合ニュース」とした記事は発信元が「ソウル聯合ニュース」で、朝鮮日報の紹介記事でしたので、リンク先を「朝鮮日報」に訂正しました。(2019年8月27日 3時32分)〉
2018年10月30日、韓国大法院は新日鉄住金(旧新日本製鉄)の上告を棄却し、韓国人元徴用工に対する損害賠償請求を認める判決を下した。続いて2018年11月29日に同じく韓国大法院は第2次世界大戦中に広島と名古屋の三菱重工業の軍需工場で働かされた韓国人の元徴用工や元女子勤労挺身隊員らが同社に損害賠償を求めた2件の訴訟の上告審で三菱重工業側の上告を棄却し、原告10人(うち5人が死亡)にそれぞれ8千万~1億5千万ウォン(約800万~1500万円)の損害賠償を認める判決が下した。
日本側は1965年の「日韓請求権協定」で個人補償も含めて全て解決済みとの態度を取り、韓国政府が損害賠償すべきであり、「日韓請求権協定」で取り決めた国と国との国際的な約束を守るよう迫った。
但し韓国政府は三権分立を楯に司法不介入の立場を取り、韓国大法院は日本政府の全て解決済みの主張を認める一方で、損害賠償請求の正当性を次のように判決文で述べている。
「新日鉄住金徴用工事件再上告審判決」(韓国大法院/2018年10月30日判決)
〈まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。〉――
つまり1965年の「日韓請求権協定」で個人補償に関わる全面解決は「未払賃金や補償金」に関してであり、苦しめられたり、辛い思いをさせられたり、辱められたりしたことに対する慰謝料までは含まれていないとの主張である。
戦前を引き継いで戦後も日本人による朝鮮人差別は過酷なものがあったが、戦時中の朝鮮人は人間として扱われなかった。一度ブログで取り上げた2011年2月27日放送のNHK「証言記録 市民たちの戦争『“朝鮮人軍夫”の沖縄戦』」に出演した元朝鮮人軍夫の証言を引用してみる。
戦争末期、沖縄戦に備えて沖縄に大量の兵力・武器・弾薬・爆弾を送り込んだ際、船から荷揚げして背負って基地まで運ぶ運搬と壕掘りの過酷な労働に従事させるための軍夫を朝鮮半島から募集、中には強制連行した。過酷な重労働に従事させられながら、食事は満足に与えられなかった。
当時阿嘉島青年団員の垣花武一さんの証言「我々が銀飯(ぎんめし)を食うとき、あの人たち(朝鮮人軍夫)はおかゆ。我々がおかゆに変わるときは、あの人たちは雑炊とか粗末な食事。量も半分くらい。だから、あれですよ。あの壕掘りとか重労働に耐えられなかったと思うんですよ。そういう食料で」
空腹に耐えかねて、近所の田の稲や畑の芋をこっそりと食べて飢えを凌いだ。ポケットの稲が軍人に見つかって、13人が手を縛られ、銃殺された。情け容赦なく取り扱われた。
韓国大法院の1965年「日韓請求権協定」に関係しない慰謝料請求の正当性に対して日本政府は全面解決済みを譲らず、「日韓請求権協定」締結の国と国との約束を守れの一点張りで押し通している。
日韓関係の悪化はご承知のようにこの徴用工問題に端を発している。そして安倍政権は2019年7月4日、韓国を対象に半導体材料の輸出管理を強化する措置を発動。徴用工問題で日本側が望む満足な対応で応じない韓国に対する報復と韓国側は解釈したが、日本側は否定。あくまでも輸出管理上の問題だとした。
但し7月4日のこの措置発動に関わる合理的な根拠は3日後の2019年7月7日の安倍晋三のフジテレビ番組発言からは全然見えてこない。
安倍晋三「韓国はちゃんと(対北朝鮮経済)制裁を守っている、ちゃんと貿易管理をしていると言っているが、徴用工問題で国際約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ。
(輸出管理規制強化は)徴用工問題の対抗措置ではない。彼ら(韓国)が言っていることが信頼できないのでこの措置を打った」(産経ニュース)
「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」と、合理的な根拠の提示とは遥かに程遠く、一つの罪を以って推測で次の罪まで被せる濡れ衣紛いの発言となっている。
安倍政権は半導体材料の輸出管理強化措置だけでは終わらなかった。2019年7月末から韓国を輸出管理の優遇対象国「ホワイト国」から除外する動きに出た。対して韓国側は安全保障上の機密情報共有を可能にする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を示唆、除外阻止を図ったが2019年8月2日の閣議で「ホワイト国」からの韓国除外を正式に決定した。
2019年7月7日の安倍晋三のテレビ番組発言からすると、「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」の濡れ衣を「ホワイト国」除外にまで広げたと解釈できないこともない。
いずれにしても、2019年7月末時点で「GSOMIA」破棄の可能性を読んでおかなければならなかった。
「GSOMIA」は2016年締結、1年ごとの延長だが、日韓いずれかが毎年8月24日までに通告すれば終結できることになっていたという。締結以前は北朝鮮に関わる軍事情報は韓国と米国が、米国と日本がそれぞれ共有して、日本の情報は米国を仲介して日本の了解のもと韓国が、韓国の情報は韓国の了解のもと日本が入手する手続きになっていたという。
韓国側の「GSOMIA」破棄の動きに対する官房長官菅義偉の午前記者会見発言(NHK NEWS WEB/2019年7月29日 12時04分)
菅義偉「協定は両国の安全保障分野での協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するとの認識のもとに、締結以来、毎年、自動延長してきている。政府としては日韓関係が現在、非常に厳しい状況にあるものの、連携すべき課題はしっかり連携していくことが重要だと考えており、適切に対応していきたい」
「GSOMIA」の重要性、必要性の発言となっている。つまり自動延長が望ましいとしている。当然、韓国側が「GSOMIA」の延長に関してどのような動きに出るか情報収集に出ただろうし、破棄の動きを察知したなら、それを阻止しなければならない。
対して韓国政府は2019年8月22日、「GSOMIA」を延長せずに破棄することを決めたと発表、日本の長嶺駐韓大使が翌8月23日に韓国外務省に呼び出されて、協定破棄を通告する文書を受け取り、3ヶ月後の2019年11月22日に効力を失うことになった。
翌日の2019年8月24日朝、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射。「GSOMIA」は11月21日まで生きていることから、日本と韓国は今回の北朝鮮の弾道ミサイル発射に対して補完的な情報交換を行ったということだが、その一方で「GSOMIA」破棄が日本の情報収集等に影響することはないという態度を取っている。
補完的な情報交換とは言葉通り、それぞれ異なる情報の交換によって補完し合うということになる。具体的にはどいうことなのか、2019年8月22日付「NHK NEWS WEB」記事が防衛省情報本部長を務めた太田文雄氏の話として紹介している。
〈北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、地理的に近い韓国軍は地上に配備されたレーダーによってミサイルの発射地点など発射時の情報について日本よりも多く収集できる。
一方、北朝鮮は弾道ミサイルを日本海に向けて発射するケースが多く、地理的に近い日本の自衛隊がイージス艦などで落下地点などの情報を正確に把握でき、ミサイルの着弾時の情報は日本の方が多く収集できる。「GSOMIA」を元に韓国が収集したミサイルの発射時の情報と日本が収集したミサイルの着弾時の情報を共有できれば、ミサイルの射程や軌道についてより正確な情報を得られる。〉
2019年8月23日夜のBS番組。
外務副大臣佐藤正久「協定破棄で困るのは韓国だ。韓国側の対応を冷静に見るのが我々の立場だ」(Yomiuri Online)
この発言は「GSOMIA」破棄の日本の情報収集等への無影響説で成り立っている。だが、日韓が情報を補完し合うことでより満足な情報となる体裁を取る以上、一方の情報を欠いた場合、情報のより満足な体裁を失うことになる。日本側は2019年11月22日以降、ミサイルの発射時の韓国側の情報を米国を通して入手することになるが、入手については韓国側の了承を必要とするということだから、情報の迅速性を幾分か欠く恐れが出来しない保証はない。
つまり、情報を補完し合う必要性は明確に存在していた。破棄に関わるアメリカ側の懸念、あるいは失望を見れば、そのことを証明してくれる。存在しなければ、「GSOMIA」を締結する必要性はないし、安倍晋三のことだから、「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」の論理で日本側から「GSOMIA」破棄を打って出て、韓国悪者説の濡れ衣をさらに広げた可能性は無きにしもあらずである。
韓国側の「GSOMIA」破棄の理由を2019年8月22日付け「朝鮮日報」記事が伝えている。
金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長(8月22日記者会見)「GSOMIAを終了することを決めた。協定の根拠に基づき、延長通知期限内に外交ルートを通じ、日本政府にこれを通知する。
日本政府が2日に明確な根拠を示さず、韓日間の信頼喪失で安全保障上の問題が発生したとの理由から『ホワイト国(優遇対象国)』から韓国を除外し、両国間の安全保障協力の環境に重大な変化をもたらした」
その上で、〈こうした状況で安全保障上の敏感な軍事情報交流を目的に締結した協定を維持することは韓国の国益に合致しないと判断したと述べた。〉という。
安全保障関連の全体会議関係者「政府は強制徴用被害者に対する日本企業の賠償責任を認めた大法院(最高裁)の判決を三権分立の原則の下で尊重すると同時に、韓日関係を踏まえ、韓日首脳会談の提案や2度の特使派遣を含め日本政府に解決策を提示して努力したが、日本は応じず、(文大統領が対話を呼びかけた)光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)の演説にも公式な反応を示さなかった」
要するに日本側の韓国に対する徴用工問題解決要求と「ホワイト国」除外が予想外の拒絶反応を韓国に与え、それが「GSOMIA」破棄へと発展した。安倍政権は韓国側のその拒絶反応の程度を読み誤ち、その結果、「GSOMIA」の自動延長を望みながら、その破棄を予想することができなかった。
安倍政権の情報収集能力とはその程度ということなのだろう。
2018年10月30日、韓国大法院は新日鉄住金(旧新日本製鉄)の上告を棄却し、韓国人元徴用工に対する損害賠償請求を認める判決を下した。続いて2018年11月29日に同じく韓国大法院は第2次世界大戦中に広島と名古屋の三菱重工業の軍需工場で働かされた韓国人の元徴用工や元女子勤労挺身隊員らが同社に損害賠償を求めた2件の訴訟の上告審で三菱重工業側の上告を棄却し、原告10人(うち5人が死亡)にそれぞれ8千万~1億5千万ウォン(約800万~1500万円)の損害賠償を認める判決が下した。
日本側は1965年の「日韓請求権協定」で個人補償も含めて全て解決済みとの態度を取り、韓国政府が損害賠償すべきであり、「日韓請求権協定」で取り決めた国と国との国際的な約束を守るよう迫った。
但し韓国政府は三権分立を楯に司法不介入の立場を取り、韓国大法院は日本政府の全て解決済みの主張を認める一方で、損害賠償請求の正当性を次のように判決文で述べている。
「新日鉄住金徴用工事件再上告審判決」(韓国大法院/2018年10月30日判決)
〈まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。〉――
つまり1965年の「日韓請求権協定」で個人補償に関わる全面解決は「未払賃金や補償金」に関してであり、苦しめられたり、辛い思いをさせられたり、辱められたりしたことに対する慰謝料までは含まれていないとの主張である。
戦前を引き継いで戦後も日本人による朝鮮人差別は過酷なものがあったが、戦時中の朝鮮人は人間として扱われなかった。一度ブログで取り上げた2011年2月27日放送のNHK「証言記録 市民たちの戦争『“朝鮮人軍夫”の沖縄戦』」に出演した元朝鮮人軍夫の証言を引用してみる。
戦争末期、沖縄戦に備えて沖縄に大量の兵力・武器・弾薬・爆弾を送り込んだ際、船から荷揚げして背負って基地まで運ぶ運搬と壕掘りの過酷な労働に従事させるための軍夫を朝鮮半島から募集、中には強制連行した。過酷な重労働に従事させられながら、食事は満足に与えられなかった。
当時阿嘉島青年団員の垣花武一さんの証言「我々が銀飯(ぎんめし)を食うとき、あの人たち(朝鮮人軍夫)はおかゆ。我々がおかゆに変わるときは、あの人たちは雑炊とか粗末な食事。量も半分くらい。だから、あれですよ。あの壕掘りとか重労働に耐えられなかったと思うんですよ。そういう食料で」
空腹に耐えかねて、近所の田の稲や畑の芋をこっそりと食べて飢えを凌いだ。ポケットの稲が軍人に見つかって、13人が手を縛られ、銃殺された。情け容赦なく取り扱われた。
韓国大法院の1965年「日韓請求権協定」に関係しない慰謝料請求の正当性に対して日本政府は全面解決済みを譲らず、「日韓請求権協定」締結の国と国との約束を守れの一点張りで押し通している。
日韓関係の悪化はご承知のようにこの徴用工問題に端を発している。そして安倍政権は2019年7月4日、韓国を対象に半導体材料の輸出管理を強化する措置を発動。徴用工問題で日本側が望む満足な対応で応じない韓国に対する報復と韓国側は解釈したが、日本側は否定。あくまでも輸出管理上の問題だとした。
但し7月4日のこの措置発動に関わる合理的な根拠は3日後の2019年7月7日の安倍晋三のフジテレビ番組発言からは全然見えてこない。
安倍晋三「韓国はちゃんと(対北朝鮮経済)制裁を守っている、ちゃんと貿易管理をしていると言っているが、徴用工問題で国際約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ。
(輸出管理規制強化は)徴用工問題の対抗措置ではない。彼ら(韓国)が言っていることが信頼できないのでこの措置を打った」(産経ニュース)
「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」と、合理的な根拠の提示とは遥かに程遠く、一つの罪を以って推測で次の罪まで被せる濡れ衣紛いの発言となっている。
安倍政権は半導体材料の輸出管理強化措置だけでは終わらなかった。2019年7月末から韓国を輸出管理の優遇対象国「ホワイト国」から除外する動きに出た。対して韓国側は安全保障上の機密情報共有を可能にする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を示唆、除外阻止を図ったが2019年8月2日の閣議で「ホワイト国」からの韓国除外を正式に決定した。
2019年7月7日の安倍晋三のテレビ番組発言からすると、「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」の濡れ衣を「ホワイト国」除外にまで広げたと解釈できないこともない。
いずれにしても、2019年7月末時点で「GSOMIA」破棄の可能性を読んでおかなければならなかった。
「GSOMIA」は2016年締結、1年ごとの延長だが、日韓いずれかが毎年8月24日までに通告すれば終結できることになっていたという。締結以前は北朝鮮に関わる軍事情報は韓国と米国が、米国と日本がそれぞれ共有して、日本の情報は米国を仲介して日本の了解のもと韓国が、韓国の情報は韓国の了解のもと日本が入手する手続きになっていたという。
韓国側の「GSOMIA」破棄の動きに対する官房長官菅義偉の午前記者会見発言(NHK NEWS WEB/2019年7月29日 12時04分)
菅義偉「協定は両国の安全保障分野での協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するとの認識のもとに、締結以来、毎年、自動延長してきている。政府としては日韓関係が現在、非常に厳しい状況にあるものの、連携すべき課題はしっかり連携していくことが重要だと考えており、適切に対応していきたい」
「GSOMIA」の重要性、必要性の発言となっている。つまり自動延長が望ましいとしている。当然、韓国側が「GSOMIA」の延長に関してどのような動きに出るか情報収集に出ただろうし、破棄の動きを察知したなら、それを阻止しなければならない。
対して韓国政府は2019年8月22日、「GSOMIA」を延長せずに破棄することを決めたと発表、日本の長嶺駐韓大使が翌8月23日に韓国外務省に呼び出されて、協定破棄を通告する文書を受け取り、3ヶ月後の2019年11月22日に効力を失うことになった。
翌日の2019年8月24日朝、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射。「GSOMIA」は11月21日まで生きていることから、日本と韓国は今回の北朝鮮の弾道ミサイル発射に対して補完的な情報交換を行ったということだが、その一方で「GSOMIA」破棄が日本の情報収集等に影響することはないという態度を取っている。
補完的な情報交換とは言葉通り、それぞれ異なる情報の交換によって補完し合うということになる。具体的にはどいうことなのか、2019年8月22日付「NHK NEWS WEB」記事が防衛省情報本部長を務めた太田文雄氏の話として紹介している。
〈北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、地理的に近い韓国軍は地上に配備されたレーダーによってミサイルの発射地点など発射時の情報について日本よりも多く収集できる。
一方、北朝鮮は弾道ミサイルを日本海に向けて発射するケースが多く、地理的に近い日本の自衛隊がイージス艦などで落下地点などの情報を正確に把握でき、ミサイルの着弾時の情報は日本の方が多く収集できる。「GSOMIA」を元に韓国が収集したミサイルの発射時の情報と日本が収集したミサイルの着弾時の情報を共有できれば、ミサイルの射程や軌道についてより正確な情報を得られる。〉
2019年8月23日夜のBS番組。
外務副大臣佐藤正久「協定破棄で困るのは韓国だ。韓国側の対応を冷静に見るのが我々の立場だ」(Yomiuri Online)
この発言は「GSOMIA」破棄の日本の情報収集等への無影響説で成り立っている。だが、日韓が情報を補完し合うことでより満足な情報となる体裁を取る以上、一方の情報を欠いた場合、情報のより満足な体裁を失うことになる。日本側は2019年11月22日以降、ミサイルの発射時の韓国側の情報を米国を通して入手することになるが、入手については韓国側の了承を必要とするということだから、情報の迅速性を幾分か欠く恐れが出来しない保証はない。
つまり、情報を補完し合う必要性は明確に存在していた。破棄に関わるアメリカ側の懸念、あるいは失望を見れば、そのことを証明してくれる。存在しなければ、「GSOMIA」を締結する必要性はないし、安倍晋三のことだから、「徴用工問題で国際約束を守らないのだから、貿易管理でも守れないだろうと思うのは当然だ」の論理で日本側から「GSOMIA」破棄を打って出て、韓国悪者説の濡れ衣をさらに広げた可能性は無きにしもあらずである。
韓国側の「GSOMIA」破棄の理由を2019年8月22日付け「朝鮮日報」記事が伝えている。
金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長(8月22日記者会見)「GSOMIAを終了することを決めた。協定の根拠に基づき、延長通知期限内に外交ルートを通じ、日本政府にこれを通知する。
日本政府が2日に明確な根拠を示さず、韓日間の信頼喪失で安全保障上の問題が発生したとの理由から『ホワイト国(優遇対象国)』から韓国を除外し、両国間の安全保障協力の環境に重大な変化をもたらした」
その上で、〈こうした状況で安全保障上の敏感な軍事情報交流を目的に締結した協定を維持することは韓国の国益に合致しないと判断したと述べた。〉という。
安全保障関連の全体会議関係者「政府は強制徴用被害者に対する日本企業の賠償責任を認めた大法院(最高裁)の判決を三権分立の原則の下で尊重すると同時に、韓日関係を踏まえ、韓日首脳会談の提案や2度の特使派遣を含め日本政府に解決策を提示して努力したが、日本は応じず、(文大統領が対話を呼びかけた)光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)の演説にも公式な反応を示さなかった」
要するに日本側の韓国に対する徴用工問題解決要求と「ホワイト国」除外が予想外の拒絶反応を韓国に与え、それが「GSOMIA」破棄へと発展した。安倍政権は韓国側のその拒絶反応の程度を読み誤ち、その結果、「GSOMIA」の自動延長を望みながら、その破棄を予想することができなかった。
安倍政権の情報収集能力とはその程度ということなのだろう。