ケイの読書日記

個人が書く書評

中野京子 「運命の絵」 文藝春秋

2019-05-27 18:04:57 | その他
 前回に続いて西洋絵画のエッセイ。中野京子なので、歴史や芸術に関する知識がいっぱいで、本当に面白い。
 ここには23の作品が紹介されているが、なんといっても一番すごいのは、カール・ブリューロフ『ポンペイ最後の日』1833年、油彩、456.5X651cm 国立ロシア美術館(ロシア)
 なんと縦4.5メートル横6.5メートルの大作。すごい迫力。本物はロシアにあるらしいが、実物を観たら圧倒されるだろうね。

 紀元79年8月24日午後1時ごろ、イタリア南部にある標高1281メートルのヴェスヴィオス火山が大噴火する。硫黄混じりの熱風が吹き付け、灰や焼けただれた小石が雨あられと降ってきた。火砕流は山の斜面を走り、ナポリ湾のすぐそばまで迫った。(雲仙普賢岳の火砕流のもっと大規模なものをイメージすればいいのかな)
 ふもとの町ポンペイでは、大部分の住人は大噴火が起きるとすぐ逃げ出し、ヴェスヴィオス火山からできるだけ遠ざかろうとしたが、逃げ遅れたり、丈夫な屋敷内なら大丈夫だろうと自分の判断で踏みとどまった者、およそ2000人が、火山から吐き出される有毒ガスで息絶えた。
 それらの人々や建物の上に降った灰は、なんと6メートル!
 でも窒息死した後に6メートルの灰が降ったなら、まだ救われる。生きながら火山灰で埋もれてしまうなんて、なんて恐ろしい!!


 この絵では、空が真っ赤に燃えていて空爆されたよう。火砕石が逃げ惑う人々に降り注ぐ。建物の屋上からは、ローマの神像が崩壊し落ちてくる。足元には、空を飛んでいるはずの鳥の焼け焦げた死骸が転がり、倒れて息絶えた母親に赤ちゃんがすがっている。馬から振り落とされた男が、石畳に打ち付けられて、稲妻で怯えた馬に踏みつけられそうだ。
 まるで最後の審判のような地獄絵。

 ただ、この絵が感動的なのは、略奪など一切なく、多くの人たちがパニックに陥りながらも、人としての尊厳を守っている。若者は気を失った花嫁を抱きかかえ、ローマ兵は年寄りを背負い、若い夫婦は子供たちを守りながら逃げようとし、女系家族と祖父は身を寄せ合い固く抱き合っている。素晴らしい。

 日本って昔から自然災害が多いが、そういった絵って残ってないんだろうか? まあ残っていたとしても、リアルさは欠けるだろうね。

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