ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介 「河童」

2020-05-15 13:58:26 | その他
 小学生の頃、読んだ少女マンガのヒロインが、この芥川龍之介の『河童』を読んで感動したという部分があったのを覚えている。それで、その後、私も読んでみたのだ。河童の国では母カッパの胎内にいる赤ちゃんカッパは、父カッパから、生まれてくるかどうか尋ねられてから生まれて来るそうだ。そこにすごく感動したと、少女マンガのヒロインはのたまっていた。この赤ちゃんカッパに生まれてくるかどうか確認するという箇所は、すごく有名らしい。

 お話はこうだ。
 ある青年が、穂高岳に登ろうとしたが、霧で迷った。梓川のそばで休んでいると、カッパらしき生物を目撃し、追いかけると…深い穴に落ちて「河童の国」に転がり落ちていた。まるで『おむすびころりん』や『不思議の国のアリス』みたいに。いやいや、その河童の国での生活を書いたものを読むと、まるで『ガリバー旅行記』か?

 その河童の国は、当時の日本社会を風刺したものだろうが、少しユーモアを感じられるものの、執筆当時の芥川の精神状態を反映したのか、暗くて残酷な描写も多い。
 そうそう、河童の国といっても、人間社会と同じで隣国があり(かわうそ国が仮想敵国)紛争がある。資本家も知識人も労働者もいる。技術革新がすごく進んでいるので、労働者がどんどん余ってしまうが、ストライキが無い。なぜだろうと、青年が資本家の金持ち河童に尋ねると、「失業した河童を殺して食肉にしている」と答えて、サンドイッチを青年に進めながら「どうです。これも職工の肉ですよ」と言う。

 すごいなぁ、河童はハガネのメンタルの持ち主!と感じるが、意外にも河童の神経作用はとても微妙で繊細なので、死刑囚には絞首刑も電気椅子もなく、死刑囚が犯した犯罪の名前を言って聞かせるだけでショック死するらしい。 
 だから河童に「きさまは盗人だ!!」と怒鳴って殺すこともできる。
 すごいな!そうなると、核兵器でなく拡声器が武器になるのね?!

 最終的に青年は、河童の国にいることが憂鬱になって、人間の国に帰ってくる。「決して後悔しない」と誓って。でも人間世界に戻ったら戻ったで、後悔し始める。何とかしてまた河童の国に帰りたいと思うようになる。

 そうだよ。後悔しない人生なんてありえない。後悔しても戻る事ができないから「後悔しない!」って自分に言い聞かせてるだけじゃないの?

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