ケイの読書日記

個人が書く書評

宮野叢子「鯉沼家の悲劇」

2007-10-21 14:01:47 | Weblog
 素晴らしい名作。いままで読まなくて損した気分。

 以前、たかさんのブログで紹介されていたし、二階堂黎人も作品中で褒めちぎっていたので、ぜひ読みたいとは思っていたのだ。


 終戦間もない日本。美しい水の里とうたわれた農村にある旧家・鯉沼家。
 江戸時代は、大名をもしのぐ名家中の名家。明治に入ってから勢いは衰えたものの、それでも何十人もの使用人を召し使っている大家だったが、戦後はすっかり落剥して人の気配もほとんど無い。

 この鯉沼家には、4人姉妹がおり、次女は結婚して家を出て、その息子がこの物語の語り手になっている。
 後の3人は未婚。長女(50位)婚約者が死んだので、彼に操を立て生涯独身を誓い、三女(40過ぎ)四女(40前)は気位ばかり高く、あれも嫌これも嫌とごねているうちに縁談が無くなった。

 あと、4人姉妹には行方不明になっている兄と、妾腹の妹(駆け落ち同然に家を出ている)がいる、という複雑な家庭。

 未婚の女3人という本家には、当然ながら跡継ぎの子供がいない。そこに、駆け落ちしていた妾腹の妹が狂人のようになって子供を連れて戻ってきた。
 そして、不吉な事を次々と予言する。


 その不吉な予言が次々現実のものになっていくのだが、物語後半の推理部分はあまり効果的でないというか、無い方が良いんじゃないか?
 推理小説では無くなるが、3人の姉妹だけでマクベスの3人の魔女を思い出し、恐怖小説としては十分。

 しかし、いくら名門の娘とはいえ、この人たちは一体毎日何をして暮らしているのだろうか?
 10代の頃は女学校へ通ったり、花嫁修業をしたり、やることはあるが、嫁がないと決めた今、家事をやるわけでない(女中さんにまかせきり)農作業をするのでない、カルチャースクールが近くにあるわけでもない、テレビも普及していないこの時代、何をやって暇をつぶすのだろうか?

 だいたい名門に生まれた子どもが一番すべき事は「血統を絶やさない」事ではないだろうか?

 犯人も「鯉沼家のため」と言いながら次々に殺していったら皆死に絶えてしまって一番「鯉沼家のため」にならなかった。

 なんにせよ、戦後の農地改革で(山林は残ったかもしれないが)田畑は取られてしまったろうから、どちらにせよ鯉沼一族には、こんなお城のような旧家を維持できなかっただろう。

 なんと、この鯉沼邸の周囲には塀がぐるりと巡らされ堀が掘られていて、朝、門を開けて小橋を渡して、夕方、小橋を引き上げ門を閉めていたそうだ。まさにお城。


 横溝正史の世界が好きな人は必読の一冊。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 島田荘司「上高地の切り裂き... | トップ | 山本文緒「結婚願望」 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (たか@ヒゲ眼鏡)
2007-10-22 01:19:01
TBありがとうございました! こちらからもさせて頂きましたあー。

ほおー、二階堂黎人も誉めてましたか!
実は僕は、二階堂黎人って読んだ事なかったり"(^^;"。
返信する
たかさんへ (kei)
2007-10-23 10:21:40
 コメントありがとうございます。

 この鯉沼家というのは、作者の宮野叢子の生家がモデルだとか。それだけに現実味がありますね。彼女、すごい旧家の出身なんですね。
返信する

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事