ケイの読書日記

個人が書く書評

多和田葉子 「献灯使」「不死の島」「彼岸」

2016-12-26 10:18:23 | その他
 最近、こういったディストピア小説って流行しているんだろうか? ユートピアの反対ディストピア。2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故後の日本が、ディストピアになったという近未来小説。

 多和田葉子は、1960年東京生まれ。日本の大学を卒業後、ドイツに留学。定住し日本語・ドイツ語両方の言語で作品を書くようになる。
 だから、外から見た日本の危うさをテーマに、いろいろ書いてるみたいね。

 東日本大震災や福島原発事故後、もっともっと大きな地震や津波や原発事故が起こった。東京から京都の間は汚染がひどく、人間が住めなくなってしまう。東北や北海道、四国、九州、沖縄は、比較的安全なので、移り住みたいという人が多いが、北海道は移民(本当にそう書いてある!)は受け入れない方針だし、沖縄は農業従事者しか受け入れないという制約がある。
 それどころか、外国から「放射能汚染を拡散させるな!」と非難されたせいかは分からないが、日本は鎖国してしまう。

 「不死の島」という短編には、こういう場面がある。
 空港で日本のパスポートを出すと、相手の手が一瞬こわばり顔が引きつる。私は相手に抗議する。「これは、日本のパスポートですけど、私は30年前からドイツに住んでいて、あれ以来日本には行っていません。だからパスポートには放射能物質は付いていません」
 こうやってこの人は、差別される側から、差別する側に昇格する。この近未来小説の中では、「日本」というと差別されることになっている。

 「彼岸」という短編には、飛行機が原発に墜落するという大事故があり、日本は壊滅的な被害を受ける。大勢の日本人が難民となって海を渡り、中国やロシア、朝鮮半島(この短編では南北は統一されている)に渡るという設定になっている。
 中国やロシア、朝鮮半島の人々は、日本がかつて酷い事をしたのに、温かく迎えてくれたそうだ。
 とっても素敵な話だが、中国やロシア、朝鮮半島にも、どっさり原発はあり、飛行機はどこにでも飛んでいるのに…そこについては考えないんだろうか?この作者は?

 でも、この「彼岸」という短編には考えさせられた。そうか…自分が難民になったら…という想像をするのも価値あることかもしれない。
 しかし、自分の年齢的な制約もあるが、どこにいっても、厄介者扱いされるなら、自分が生まれ育った国で死にたいね。

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