ケイの読書日記

個人が書く書評

小泉八雲 「生霊(いきりょう)」

2020-12-11 16:16:17 | 小泉八雲
 生霊(いきりょう)といえば、ほとんどの人が思い浮かべるのが、源氏物語にでてくる六条の御息所ではないだろうか。私もそう。
 うんと年下の光源氏に夢中になってしまった身分の高い女が、外面は平静を装いながらも心の中は嫉妬の炎で煮えたぎっていたので、自分では気が付かないまま生霊となって、光の君の正妻や愛人たちにとりつく。
 
 この小泉八雲の生霊もそういったドロドロした恋愛の話だろうかと期待して読んだが…だいぶ趣が違った。八雲の怪談にしては珍しく、江戸時代の話だからだろうか?

 江戸の裕福な商家に奉公する手代が主人公。彼はとても商売の才覚があり店は繁盛したが、しばらくすると病気がちになってしまった。いろいろお医者様に診せるが、どうもはっきりしない精神的なものらしい。そこで、手代の叔父さんが彼に、誰か好きな女でもいて、それで思い悩んでいるのではないかと尋ねる。すると、やつれきった手代は思いもよらない話をし始める…。
 なんと、この裕福な商家のおかみさん(ご主人のお内儀)が夢の中に出てきて、自分の喉を締めて殺そうとする、というのだ。だとすれば50歳くらいのおかみさんが、若い手代に横恋慕し、想いを受け入れてもらえないので、可愛さ余って憎さ100倍、生霊となって彼の夢に毎晩現れるのではないか、と考えるのが普通だろう。
 しかし八雲は、日本女性は貞淑という思い込みがあったので、そんな色っぽい愛欲話にはならなかった。おかみさんが手代を夢の中で絞め殺してやりたいほど憎んでいた、その理由とは?

 この理由は現代にも通じるものがあります。興味のある人はぜひ読んでください。

P.S. 私も世間の流行に乗っかろうと、遅ればせながらカミュの「ペスト」を読み始めた。まだ、本当に最初の方。ネズミが大量に血を吐きながら死んでいく。どうした?何があった?と不審がっているうちに、今度は人間があちこちで死に始めて…。本の中に入って登場人物たちに叫びたい。「あんたたち、なにボーっとしてる!ネズミが大量に死んだんだよ。ペストだよ、ペスト!!」

 伝染病って、お化けや妖怪より、数千倍怖いです。

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