ケイの読書日記

個人が書く書評

高野史緒 「翼竜館の宝石商人」 講談社

2018-12-17 08:43:36 | その他
 ファンタジー仕立てのミステリというのかな。画家レンブラントが最後に登場して、謎をスパッと解き明かしてくれる。つじつまがあわない細かい部分はあるが、それでも十分面白い。

 1662年晩夏のアムステルダム。宝石商のホーヘフェーンがペストと思われる症状で死んだ。実はその直前、画家レンブラントの息子ティトゥスがホーヘフェーンと会っていたのだ。ホーヘフェーンは取り乱していて、医者が来たところでティトゥスは屋敷を追い出される。
 城外の墓にホーヘフェーンの遺体が埋葬された翌日、彼の館の金庫のような部屋から、ホーヘフェーンとうり二つの男が意識不明の状態で発見される。
 いったい彼は誰なのか? ひょっとしたら、レンブラントの描いた肖像画から抜け出してきたのか…?

 物語は最初のうち、ナンドという男の目を通して語られる。ところがこのナンド、記憶がないのだ。気づいた時に持っていた書類から、自分がフェルナンド・ルッソという名前だろうと推測したに過ぎない。
 そして、それをたいして不思議がりもせず、自分の過去を思い出そうとも努めない。そもそも、小説の中でも彼の容姿に関する記述がほとんどない。だから、彼が何歳くらいなのか、太ってるのか痩せてるのか、長身なのか中背なのか小柄なのか、黒髪なのかブロンドなのか茶髪なのか、イメージできない。作者はわざと書かなかった。でも、読者としては不安定な読み心地。

 
 作中では、夏だからか天気が安定せず、雨が降り続く。もともと土地が低いネーデルランドは、ポンプで水を汲み上げ海に排水しながら生活している。そして、どぶ川のような水をたたえた水路が縦横に走っている。ひとたびペストが侵入すれば、あっという間に水路を伝って感染するだろう。不安で押しつぶされそうな住民。

 それに、アフリカ航路の船乗りたちの奇病も気味悪い。寄生虫が人間の脇腹などに入り込み、1年から1年半で死に至るという話。熱帯のハエの一種が、人間の傷口に卵を産み付ける話は知っているが、それとは違うようだ。気持ち悪いよね。でも、この寄生虫には裏があって…。

 現代美術と違って、このカメラもない時代、画家の観察眼や記憶力は素晴らしいものだったんだろう。ラファエロの指紋が付いてるから本物って…。すごいなぁ。でも昔は、そういう事もあったんだろう。

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