昨年は、奈良に4回行った。平城遷都1300年ということもあったが、行けば行くほど、1000年以上の時を越えて、ここまですばらしい文化が残された奇跡を感じざるをえないのである。皮肉にも、都がすぐに、平安京に移ったことも幸いしている。
本書は、平城遷都1300年を記念して、その道のプロ中のプロである上田さんが、書き下ろした本だ。
平易な内容の中に、なるほどとうならせる洞察が、散りばめられている。古代史ファンには、是非お勧めしたい本だ。
時代順になっているが、そうすると必然的に、大和(山の辺の道)、飛鳥、平城京という構成になる。
山の辺の道については、歩道が整備されて、一部舗装されているのだが、自然のまま保存したいものだと述べておられる。
「山の辺の道は、人間疎外の現代人が見失ったもっとも古道らしい古代への回路のひとつである。」
古道をそう多く歩いたわけではないが、フムフムと思った次第。
天皇という名が、いつから使われ始めたについても、大きな議論があるが、上田さんは、飛鳥時代であったのではないかと言う。その根拠は、天寿国繍帳の亀の図柄と、酒石船石の下から見つかった亀型石造物の類似にある。確かに似ている。
キトラ古墳や、高松塚古墳の図柄は、唐→朝鮮→日本を渡って来た文化の反映と思っていたが、キトラ古墳の図柄などは、日本独自のものなのだそうだ。日本の文化は、当時から、独自性を発揮していたのだ。
奈良を巡ると、当時の亜細亜とのつながり、日本の起源について、思いを馳せる(推理する)ことになる。それ自体が楽しみでもある。
本書は、その楽しみを倍増させてくれる。