CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】邂逅の森

2024-03-25 20:58:32 | 読書感想文とか読み物レビウー
邂逅の森  作:熊谷達也

旅マタギの一生を描いた小説
一生というとやや語弊があるので、「マタギ」としての一生といったらいいか、
どうしてなったか、そしてどうして引退したかまでを描いていて
その間の劇的な変遷が面白くて、講談のような楽しさもあり、
見習いマタギだったが村を追われ、炭鉱夫として働き、やがて狩猟の世界に戻っていく
その変遷に男女のそれがあり、人生のいくつかの転機があり、
それでいて、愉快な弟分との出会いや、詐欺師と仲良くなるとか、
それぞれの話が面白くて、一貫して何か大きなテーマがという感じではないが、
熊を追うこと、その描写の面白さから
ぐいぐい読まされて、気づいたら、マタギの習わしに染まりそうになるくらいの
かっこよさがあって、とても楽しかった

農地解放からこちらといったところの寒村の話なので、
旅マタギというものがどういう経緯で生まれ、
何をしていたかという風俗史的な面白さもあるのだけども、
その一種宗教めいたもの、強い絆、頭領を絶対とした統制といった
男性的な強権、戦術が面白くて読まされてしまう
それでいて、山っ気のある話や、生きるための狩猟という強い欲望、
ある意味生存のための手段としての狩猟へのすごみというのもあって
素人狩猟者が増えていた当時の情勢とかもあいまって
面白すぎるのでありました

そのあと、炭鉱に送られてどうなるんだと思っていれば、
なかなかうまいこと生き延びていくし、そこで出会う弟分がまた面倒だがいい奴で、
この出会いが主人公の生涯を明るくしているようにも見えて
読んでいてほのぼのというか、頼もしくなるのがよかった

村から追われたり、そのあと、別の村に定住するためにと
その度に女性との関係が出てくるのだが、
物凄く太くはっきりと、男女の分かり合えなさが描かれているのがむしろ好感触で、
女のそれはさっぱりわからんが、そういうことかとあきらめる
このご時世、全世代的な家族というか、夫婦、男女のありかたそのままの様子が
あっけらかんとしてて、一週回って可愛いくらいなのがよかった
女性からしたら嫌なもんだろうけども、
男性としてはわけがわからんとなるし、それによって、手玉にとられたようなことを怒るわけでなく
むしろ、怖いとおじけづくというのが、いかにもな感じで、
しみじみほのぼのするのであった

最終的には、山の神に試されるというそこに帰結していくのだが
その直前の女二人の戦いの方がむしろ鮮烈で、
それを経た後の結末が、はたして、描かれなかった先がどうなったか
想像の余地がありありあって、とても楽しく読み終えたのでありました