森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

ジーン

2009-04-03 00:47:40 | 梢は歌う(日記)

 自分で忘れたくないことを、続けて書いています。「ジーン」と言うタイトルですがノーマ・ジーンのことではありません。ズバリ、ジーンときたというお話です。

二月三月は別れの季節。時間はサクサク過ぎていってしまうので、少し前の事になってしまいましたが、今年中学になる一人の少年との別れが二月にありました。

その少年がある日私に言いました。
「おれさあ、卒業文集用の作文に、ここでの事を書くんだ。」

卒業文集に書くといわれて「ジーン」と来たわけではありません。

なぜなら、私は
「ダメ、ダメ、ダメ、絶対に書いちゃダメ~!!!」と絶対禁止を言い放ちました。

普通なら、卒業文集に書いてくれるんだと嬉しくもなると思うのですが、この子の場合は嫌です。なぜなら、絶対にろくでもないことを書くのに違いないからですよ。

「やっだね~。絶対に書いちゃうんだ、俺。」
「どうせろくでもないことを書くんでしょ。」
「さあね、教えてあげないよ~。」

 

私の想像、あれこれ。

「先生はデブな人ですが、自分の事を美人だと思っています。」
「先生は自分の事を魔女だと平気で嘘をつきます。」
「会うたびに僕にジャニーズに入れとうるさいです。」

どれも門外不出の秘密です。書かれたらまずいです・・・・。

ちなみに私がジャニーズ事務所の人だったら、彼を青田刈りします。でも彼は他でも同じ事を言われていて、本気でうんざりしているので、ここ数年は言わないようにしていましたが、あまり言うことを聞かないと言ってやりたくなりました。
「ちゃんとやらないと、ジャニーズに入れちゃうよ。」ってね。

「入れちゃうよ。」で入れるわけもないのですが・・。

 

「おかしいよ。」とその彼がある日突然言いました。
「何が?」
「だってさ、先生は絶対に自分の事を美人だと思っているでしょ。それってなんか変だよ。」

何じゃ、それってとは思いましたが、なんかちょっとムカつく。私はとっても大人気ない人なので、言い返してやりました。

「いつか君が結婚して、そのあなたのお嫁さんが私の歳になった時に、今の私を思いだしなさい。そうしたらわかるわよ。」

「へっ、覚えていられるわけないね。そんな先のこと。」

「あっそ。覚えていることが出来ないんだ。」

出来ないと言われて、カチッときた彼は

「だって無理にキマリだろ。先生は千歳以上生きている魔女なんでしょ。」

一瞬言葉を失った私を見て、勝ったと彼は勝ち誇った顔をしました。

不覚を取りました。

私は彼が入ってきたばかりの二年生の時、我が家の変わった箒と私の年齢ばかりに興味のある子供達に、私は魔女だと大法螺を吹いたことがあるのです。夜になってみんなが寝たらその箒にまたがって、みんなの家々をそっと伺って宿題をやっているかチェックするからね、と言ったのです。年齢も数字を足したり引いたりかけたりしたらそれになるような数で教えてあげました。例えば私が35歳なら、簡単にやってしまうと1702歳みたいにです。

でもこれは、その場限りの楽しいお話です、普通はね。でも彼だけが、
「先生は嘘つきだ。僕は昨日窓を開けて、いつ先生がやってくるのかとずっと待っていたのに来なかったじゃないか。」と、私を責めたのでした。

「だからね、君が寝ないから行きたくても行けなかったんじゃない。寝たら行くんだって言ったでしょ。」

今思うと、なんだかこの話も可愛いですね。ジーンと来てしまいます。(実はこのお話も何かバトンの記事の中で書いたことがあるんです。)

でも彼はその二年生の時の私が戯れに言ったことを覚えていたのですね。もちろん今の彼は、そんなことは信じてはいませんよ。

なんか負けた感じで、私も悔しかったので(あくまでもオトナゲないんです)
「ああ、この数年間で、私は誰かのせいですっかり疲れ果てて、本当のおばさんになってしまったのだわ。自分が何者であるのかさえも忘れてしまうほど、働いてきたのよね。誰かのせいで。」と演技過剰で言ってやりました。

「わかったよ~、俺のせいって言いたいんだろ。」
正解です!

と、言うような話はブログには書いても、学校の作文に書かれては、ちょっと困りますよね。

でも本当に大変でした。日々バトル。お勉強が分からないからではなく、それ以前の問題で、させることから始めなければならないのです。遣りたくなくて、騒ぐ、ひっくり返る、プリントを隠す、くしゃくしゃにして破く。そんなに嫌なら来なければいいのに休みなし。あんまり酷くて疲れ果て、基本だけ脇についてさっさと終わらせ
「もう、帰っていいです。」と言うと、寂しげに肩を落としてうな垂れる。

もう難しい。彼と向き合っていると
「パトラッシュ、僕は疲れたよ・・」って、本当に呟きたくなりました。

 

この記事のオチは、作文ネタではないんです。あの作文の内容は私には永遠の秘密です。教えてくれませんし、私も怖くて知りたくもありません。大方こんな事かなと言う予想は
「僕は春休みだけだからと、お母さんに言われて××に行きました。春休みだけと言ったはずなのに、気が付いたらだまされてその後5年間もそこに通ってしました。早く辞めたいです。」といったところじゃないかなと思います。

そんな彼も、三月の最初に去っていきました。

 

卒業式も終わった頃、その子のお母さんからお手紙を戴きました。
「先生で良かった。」とお母さんが書いてくださった内容も嬉しかったのですが、下の方にその子の添え書きがしてありました。

 

「先生へ

こんな僕を、長い間ありがとうございました。
中学に行ってもがんばります。            」


 

 ―こんな僕を・・・・

                             

 


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