今度スノウさんに会ったら、この話をしてあげようと、ある時私は思いました。
この話と言うのは、スノウさんが生まれた日の朝のお話です。
私が4歳になってそれからほぼ一か月後の朝の事でした。
朝目が覚めると、私と姉は違う部屋で同じ布団に寝かされていたのです。
ぬくぬくとした気持ちの良い布団の中で、目が覚めた途端に大好きな姉が横に居て、不思議に思うのと同時に幸せな気持ちになりました。
姉が
「隣の部屋でお母さんが赤ちゃんを産んでいる。」と言いました。
それを聞いて、私はドキドキし、そしてワクワクしました。
まさに隣の部屋で、秘密の儀式が行われているのだと思ったからです。もちろん4歳になったばかりの子供が「儀式」などと言う言葉は知らなかったと思います。だけどイメージはそんな感じです。なぜならその日の数日前、母はもうすぐ赤ちゃんがやって来るようなことを私に言いました。
「どこから来るの?」
「お母さんのお腹からよ。」
「えっ、どんな風に ? どうやって ? お腹がパァーって開くの?」
「ええ、そうよ。その時、光がパァーって包み込んで『おぎゃあ』って産まれてくるのよ。」
「えっ、光が !!
それ見たいな!!
見る事が出来る ?」
「ううん。見ちゃダメなの。それは見られるのはお産婆さんだけで、他の人が見たら目が潰れるのよ。だから絶対に見ちゃダメよ。」
母は自宅出産でした。
それで幼い子供に部屋を覗きこまれないように、そんな予防線を張ったのだと思います。
だけどそれを聞いた私は「オサンバサン」と言う、シャーマンのような女性や光に包まれて生まれてくる赤ちゃんって素敵だなと思いました。きっとその赤ちゃんは金糸で出来た衣をまとって生まれてくるに違いないと夢を膨らませました。
でも母は、私に赤ちゃんの話をするのが遅すぎたと思います。そんな素敵な不思議な事がすぐに我が家で起きるとは思ってもみない事で、スノウさんは私にとっては唐突にやって来た妹だったのでした。
朝もかなり早い時間で、私と姉は隣の部屋で起こっている見えない出来事よりも、二人でぬくぬくとした布団の中でふざけ合う事に夢中になりだしたころ、同じく部屋を閉め出されていた父が私の布団の横で、障子に指で穴をあけていました。
それを見つけて私はガバッと跳ね起きました。
「パパ駄目よ !!! 目が潰れるわ。」
父は驚いて私を見ましたが、夫婦と言うものは似たり寄ったりなんだなと後から思います。父は何も動ぜず
「大丈夫。パパは特別に許されているんだ。」と言ったのです。
それからはさっきとは違う意味で、私はドキドキしていました。父はそう言ったけれど、本当に大丈夫なのだろうかと。
だけど父が障子の穴から中を覗いた時からほどなく、妹は産声をあげました。
すぐに父が呼ばれ、そこからはワサワサとバタバタとしていました。
かなりの早朝だったので、私も暖かい布団の中で二度寝してしまったと思います。
もちろんこの話をスノウさんにした時は、こんな私主体の話ではありませんでした。
朝起きたら別の部屋にいた。それはかなりの早朝だった。父が障子に穴をあけて覗き込んでいて、赤ちゃんが生まれてくることを心待ちにしていたと言うようなことを話しました。
でもこの話を本当にスノウさんにする前に、何故か夢の中で完全な予習をしたんです。だけど夢の中のスノウさんは、それがどうしたのと言わんばかりでした。
ところが実際も、まるっきり夢と同じ。
それがどうしたのと言うような無反応だったのです。
たぶん寝たきりになってしまったスノウさんには、まったく興味のない話だったのかもしれません。
残念だなと、私は思いました。
もしも誰かが、私が生まれた日の朝の話をしてくれたとしたら、私はとっても嬉しく思うのに・・・・・。
母が話した私が生まれた時の話・・・・・
本当に情けなくて涙が出ちゃうから。
また不定期に続きます。
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