「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

感染を制御しつつ、子ども達の学び・育ちの環境づくりをして行きましょう!病児保育も鋭意実施中。子ども達に健康への気づきを。

リストカットに向き合う

2009-07-20 18:10:07 | 子育て・子育ち
 今、十代の若者の約1割に自傷の経験があります。
 そして、自傷の経験のあるものの約6割が、1回以上経験しています。

 学校が“把握している”自傷する生徒の割合は、中学生で0.33%、高校生で0.37%であり、これは、氷山の一角にしか過ぎないと思われます。

 自傷する理由は、なにか。死にたいわけでも、人の気を引きたいわけでもありません。
 不快感情への対処が、まず一義的な理由です。

 自殺と、自傷は、大きく異なります。
 自殺での苦痛は、「耐えられない、逃れられない、果てしなく続く痛み」であり、自殺の目的は、「唯一の最終的な解決策」です。
 一方、自傷の苦痛は、「寄せては返す波のような痛み」であり、その目的は、「一時的な解決策」であるわけです。
 即ち、自傷では、耐え難い“心の痛み”に対し、“体の痛み”でふたをし、無感覚・まひ状態となります。脳内には、「エンケファリン」が過剰産生されその状態をつくりうるのです。 
 繰り返していくと、自傷は、体が痛みになれることで、エスカレートしていきます。

 自傷は、自殺関連行動ではありますが、「自殺企図」とは異なります。


 自傷する人の「援助希求」を見逃してはなりません。
 しかし、自傷する人は、その自傷行為の部分の医療ケアをしません。リストカットした傷を放置することもふくめ、自傷行為であるわけです。
 その9割は、医療機関をも受診しません。

 
 リストカットした子どもを、医療機関は次のように迎えます。

 ①最初に、幸いにして受診したわけであり、「頭ごなしに自傷をやめなさい」とは、決していうことはありません。

 ②援助を求めて、つらい中、受診しました。その受診したこと自体が高く評価されるものです。

 ③人生のつらいことを耐えてきたそのことは、共感すべきものです。

 ④ただ、専門家の分析に寄れば、だんだんリストカットの効き目が悪くなり、エスカレートすることがあることは、伝えます。

 ⑤「もうしないと約束してね」など無意味な約束もしません。
 ただ、切ったら、かならず報告に来てもらうように約束はします。


 治療にあたっては、まず、自傷の程度をきちんと評価(①援助希求、②コントロール、③エスカレート、④解離、⑤自己破壊的習慣の各項目で)します。

 実際の治療では、まずは、自傷に代替しうる対処法を提案します。
 また、簡単な日々の記録をつけていただき、その情報から、自傷しないですむ場所・人・状況は何か?引き金は何か?を見出し、環境整備への資料とします。


 自傷は、決して無視してはなりません。
 将来のパーソナリティ障害にならないために、今の援助は大切です。結果ではなく、プロセスを大切にした援助でなくてはなりません。


 リストカットをする子ども達に、最も伝えたいことは、「世の中には、信頼できる大人もいて、苦しいときは、いつでも助けを求めてもいいんだ。」ということです。
コメント (1)
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