「家にありたき木は、松・さくら。松は五葉もよし。」とはじまる『徒然草』第百三十九段で、兼好さんはこう言っています。「卯月ばかりのわかかへで、すべて萬の花・紅葉にもまさりてめでたきものなり。」と。四月頃の若葉の楓(若楓)は、すべての花や紅葉にもまして、いいものであるというのです。映えて透けるように繊細な楓の若葉は、新緑の美しさそのものでした。
すっかり初夏の装いとなって満目の緑が爽やかです。黄金色の麦畑の横を車で通りかかりました。陽を受けて白っぽく輝く穂先が、風に揺れなびきだしたのは優しげでした。

爽やかな朝を迎えていたら、友人から連絡が入りました。「娘が富士山に登るんだけど…」という話です。登山どころかトレッキングさえ体験がないという娘さん。母娘一緒に登山グッズを買いに行ったそうです。山の天候は変わりやすいからと、用具の機能を熱心に説明する店員さんですが、若い娘は色や柄ばかりを気にするというのです。「危なっかしくて。なんか気持ちがすれ違っちゃってね」とこぼします。結局どれも気に入らずなので、登山用品を売る店を知っていたら教えてほしい、といったやりとりの朝でした。
太宰治の『富嶽百景』を取り出してみました。
作者は、「甲府市からバスに揺られて一時間」、御坂峠にたどり着きます。井伏鱒二が夏の間、この峠の頂上にある天下茶屋を仕事場にしているのを知っていて、訪ねて行ったのです。で、2、3日経った午後、二人して三ツ峠にのぼることになります。
「井伏氏は、ちゃんと登山服着て」、太宰は、「登山服の持ち合わせがなく、ドテラ姿」。「茶屋のドテラは短く、…毛臑(けずね)は一尺以上も露出して… 茶屋の老爺から借りたゴム底の地下足袋をはいたので、われながらむさ苦しく、少し工夫して、角帯をしめ、…古い麦わら帽をかぶってみた」が「いよいよ変で」といった身なりでした。
この娘御はどんなファッションで頂上を目指すのでしょう。
すっかり初夏の装いとなって満目の緑が爽やかです。黄金色の麦畑の横を車で通りかかりました。陽を受けて白っぽく輝く穂先が、風に揺れなびきだしたのは優しげでした。

爽やかな朝を迎えていたら、友人から連絡が入りました。「娘が富士山に登るんだけど…」という話です。登山どころかトレッキングさえ体験がないという娘さん。母娘一緒に登山グッズを買いに行ったそうです。山の天候は変わりやすいからと、用具の機能を熱心に説明する店員さんですが、若い娘は色や柄ばかりを気にするというのです。「危なっかしくて。なんか気持ちがすれ違っちゃってね」とこぼします。結局どれも気に入らずなので、登山用品を売る店を知っていたら教えてほしい、といったやりとりの朝でした。
太宰治の『富嶽百景』を取り出してみました。
作者は、「甲府市からバスに揺られて一時間」、御坂峠にたどり着きます。井伏鱒二が夏の間、この峠の頂上にある天下茶屋を仕事場にしているのを知っていて、訪ねて行ったのです。で、2、3日経った午後、二人して三ツ峠にのぼることになります。
「井伏氏は、ちゃんと登山服着て」、太宰は、「登山服の持ち合わせがなく、ドテラ姿」。「茶屋のドテラは短く、…毛臑(けずね)は一尺以上も露出して… 茶屋の老爺から借りたゴム底の地下足袋をはいたので、われながらむさ苦しく、少し工夫して、角帯をしめ、…古い麦わら帽をかぶってみた」が「いよいよ変で」といった身なりでした。
この娘御はどんなファッションで頂上を目指すのでしょう。
