「喫茶シトロン」を会場にして、高齢者6人が月に一度集う読書会〈坂の途中で本を読む会〉は、課題図書を決めて、順番に朗読し、その読み方についても語り合い、物語の解釈に独自の感想を披露する。
それは〈感想という名の想い出語り〉で、わが身に重ねての記憶なのだが不思議と作中人物の眼差しと結びついていて、共感が生まれる。
前店長の叔母のあとを引き継いだ28歳の店長・安田松生。彼は小説で新人賞を受賞したが、送られてきた手紙が心の奥でうずき、書けなくなって久しい。
ほんとうに、あなただけのお話ですか?
あなたひとりでつくりましたか?
モン
何かと引きずりがちな安田の、想い出の中の記憶が浮き上がる。
読書会の活動を軸に、周辺の物語がふくらむ。実はそこに仕掛けがあった。それが明かされるのは物語の終わり近くだった。
手紙の差出人も明らかになった。
物語の佳境はどこだった?? まったく伏線に気づかぬまま読み終え、ページをめくりかえした。
「死んでいくには生きがいがほしい」。それは「ここでみんなで本を読むこと」だった。
それぞれに過去を屈託を抱えながら、孤立せずに仲間を見つけ、どの人も自分の人生を生きていることの尊さを思った。生きる喜びは、生き抜く力になる。
そして物語の終りに、谷川俊太郎さんと出会うという驚きが潜んでいた。
訃報を知ったのが読了の二日前。
「この若者は意外に遠くからやってきた、してその遠いどこやらから彼は昨日発ってきた、十年よりさらにながい、一日を彼は旅をしてきた・・・」
会長が谷川俊太郎の第一詩集『二十億年の孤独』の序を誦んじる場面が描かれていたのだった。
ちょっと疲れる読書だったけれど、「生きる甲斐になっている」という93歳のまちゃえさんの言葉は、いつか私も思い返す日がくるかもしれないと思って胸にしまっておこう。