我々の住んでいるこの3次元空間は、もっと高次元の空間の中に浮かんでいるという理論がある。3次元を超える「余剰次元」は、少し前までは観測不能なほど小さくコンパクト化されていると考えられていたが、アルカニハメド、ディモプロス、ドバリの3人が提案したADD模型によれば、もっと大きい可能性があるという。
自然界には、「強い力」、「弱い力」、「電磁気力」、「重力」の4種類の力が存在するが、この中で重力のみが他の力に比べて、極端に弱い。しかし、この重力こそが3次元のブレーンを超えて、余剰次元まで伝搬する可能性があるというのだ。本来重力は、他の力と同様の強さを持つ力なのだが、他の力のように3次元空間に閉じ込められていはいないために、遠距離では弱まって見えるということである。それを証明するにはどうしたらよいか。これは、原理的には意外と単純だ。
表題の「逆二乗則」というのは、高校物理でも習うように、2つの物体に働く重力は、その距離の逆二乗に比例するということである。実はこの法則は、空間が3次元であることによって成り立つものであり、近距離において成り立たなくなることを示せば、余剰次元の存在の証明に繋がる。ところが、実際にやるとなると非常に難しい。近距離になるほど、ノイズの影響が大きくなるからだ。しかし、2007年には、ワシントン大グループが、0.01%という精度で、重力は逆二乗則と矛盾がないことが示されたそうだ。本当に、余剰次元はあるのか。著者は、「超弦理論」の要請からは、余剰次元の存在は不可避に見え、重力は、余剰次元の存在を示すための唯一の武器であることは確かだという。
ブルーバックスには、時にかなりマニアックなテーマを扱ったものもあるが、本書もかなりのマニアックでな内容だろう。「余剰次元」や「逆二乗則」という言葉だけでも、大部分の人は頭の上を「?」マークが回ってしまうのではないだろうか。それでも、多くの図を使ったり、これまで行われてきた実験を図解で説明したりと、できるだけ分かりやすくする工夫はされている。また、関連する話題についても広く紹介されており、ある程度物理学に興味がある人なら、十分読みこなせると思う。「余剰次元」の存在はまだ証明されていないようだが、夢のある内容ではある。
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※本記事は、2013年07月24日付で
「本の宇宙」に掲載したものです。