江戸の妖怪絵巻 (光文社新書) | |
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光文社 |
最近では、妖怪と言えば水木しげるを連想してしまう。妖怪が、これだけポピュラーな存在となったことについて、彼の功績が大きかったことは言うまでもないだろう。しかし、現代に負けず劣らず、妖怪が人気者だった時代がある。江戸時代だ。「江戸の妖怪絵巻」(湯本豪一:光文社新書)は、当時描かれた多くの資料を示しながら、江戸時代、いかに妖怪文化が花開いていたかを教えてくれる。
この時代に、妖怪がブームになったのは、木版印刷技術の発達によるところが大きい。絵師による肉筆画だと、美術館というものの無い時代に、多くの人が目にするという訳にはいかなかっただろう。印刷という工業技術が進歩したからこそ、庶民が妖怪画を気軽に見ることができ、江戸時代の多彩な妖怪文化が生みだされたのである。
このような技術的進歩を背景に、妖怪関係の出版物が生みだされていく。中でも、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」は、妖怪を図鑑スタイルで表した記念碑的な作品だ。これには、説明はほとんど記されてなかったが、続く「今昔画図続百鬼」打は、それぞれの妖怪について解説が加えられている。これが、一つの妖怪本のパターンとして定着していったらしい。また、妖怪は草双子にも多く登場し、錦絵にも描かれるようになった。月岡芳年や河鍋暁斎は、妖怪絵師として知られているが、他にも多くの絵師たちが、妖怪を描いていた。
それだけではない。遊びの中にも妖怪は取り入れられ、おもちゃ絵、双六に描かれ、狂歌の題材にもされるようになる。鍔、印籠、キセル、根付といった妖怪グッズも人気だった。広島三次藩では、「稲生物怪録」という、記録に残る大事件も起きている。お江戸はまさに妖怪花盛り。生物進化におけるカンブリア大爆発のように、江戸時代は、妖怪文化が一気に爆発したのだ。
ところで、口絵に、「神農化物退治絵巻」が掲載されているが、これが爆笑ものである。神農は農業や漢方の神さまであるが、妖怪を退治するために攻撃が、なんと放屁なのだ。妖怪に尻を向けて黄色い毒ガスを放出している様は、なんともユーモラスである。
本書は、このように江戸時代の妖怪文化の豊かさを、豊富な挿絵や写真と共に教えてくれる。妖怪ファンや民俗学に関心のある方には外せない一冊だろう。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。