![]() | 亡国の薔薇 (英国式犯罪解剖学) (創元推理文庫) |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
海軍提督夫人のハリエットと解剖学者クラウザーのコンビが、事件に挑むという、クラウザー&ハリエットシリーズ第2弾となる「亡国の薔薇」(イモジェン・ロバートスン:東京創元社)。今回彼女たちが挑むのは、大英帝国をゆるがしかねないスパイ事件だ。
時代は、アメリカの独立戦争の頃。イギリスは、独立を支持するフランスとの間に、実際の戦闘のみならず、激しい情報戦も繰り広げていた。そんな中で、ハリエットとクラウザーは、海軍本部から、スパイ事件の捜査を要請される。テームズ川から死体で引き上げられたフィッツレイバンという男。フランスに潜入している連絡員から彼の名前が伝えられたというのだ。2人は、事件の真相追究に乗り出すのだが、第二、第三の殺人が起きる。
このハリエットとクラウザーが事件を追っていくのがメインのストーリーだが、本作品には、サブストーリーとも言えるようなものが組み込まれている。占い師をやっているジョカスタ・ブライが、占いの際、カードに不吉なものを感じたケイト・ミッチェルが不審な死を遂げる。彼女は浮浪児のサムといっしょに、ケイトがなぜ殺されなければならなかったかを追い求めていく。
この二つの話が並行して流れていくのだが、神の視点で見ている読者は、この二つの事件が関係していることはすぐに分かる。しかし、これらが、いつどのように一つの大きな流れにまとまっていくのかというところに、読者はドキドキ、ハラハラさせられるだろう。
さらに、提督夫人のハリエット&元男爵のクラウザーと、占い師のジョカスタ&浮浪児のサムといった、あまりにも境遇の違う二組の探偵役の対比。この時代には珍しい行動的な女性であるハリエットと、彼女に批判的な妹のレイチャルとの対比。更には、貧しい暮らしから、才能を認めてくれる人に助けられて、遂には一流の歌姫にまでなったが、事件に巻き込まれて命を落とした悲劇の女性、イザベル・マランの話。こういったものが、巧に織り込まれているために、ストーリーに厚みが生じており、読者を飽きさせないようになっている。
ただ、この日本語タイトルはどうだろう。確かに「薔薇」は物語のアイテムとして大きな役割を果たしており、タイトルの響きもよいのだが、本の内容を適切に伝えていると言えないと思う。私が「亡国の薔薇」という言葉から連想するのは、滅んだ国の美しい姫君なのだが、この作品中では、どこの国も滅びていないし、使われ方も、国家間の争いなどは関係なく、一人の歌姫の悲劇に対する哀しみを表すものとして使われている。原題を見ると"ANATOMY OF MURDER"(殺人の解剖)となっているので、直訳すると、あまり売れそうにないタイトルになってしまうということなのかもしれない。でもストーリーに忠実にしようと思えば、「悲しみの黄色い薔薇」とか、そんな感じの方が良いのではないかと思う。
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※本記事は、「本の宇宙」と共通連載です。