文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:両国大相撲殺人事件

2013-11-12 06:00:00 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
耳袋秘帖 両国大相撲殺人事件 (だいわ文庫)
クリエーター情報なし
大和書房


 元祖刺青奉行で、「耳袋」の作者としても有名な南町奉行・根岸肥前守が江戸を騒がす奇妙な事件に挑む「耳袋秘帖」シリーズのうちの一冊、「両国大相撲殺人事件」(風野真知雄:だいわ文庫)。

 今回根岸が挑むのは、タイトルの通り、番付デビューしようとしていた、伊佐二という将来を期待されていた若い力士が、無残に殺害された事件。伊佐二が死亡していた状況が、まるで、大関雷電の得意技で襲われたようであり、現場近くから彼の下駄も見つかったことから、雷電に嫌疑が向けられてしまう。

 この雷電は、もちろん、江戸時代の名大関雷電為右衛門。あまりにも強すぎたために、とうとう横綱に推挙してもらえなかったという伝説が残っているほどの力士だ。相撲での位は、大関が最高位で、横綱は本来称号であるということを聞いたことのある人は多いのではないだろうか。だから、この時代は、いくら強くても、推挙されなければ横綱にはなれなかった。

 実は、この事件、犯人は最初から分かっており、犯行は、相撲道楽の大名同士の意地の張り合いが原因となったものだった。実行犯は、藩内の争いのために浪人する事になったあげく、騙されて道具として使われた形だ。つまらないことに翻弄された彼らからは哀れさと哀しさが漂ってくる。

 この本筋の話が進む間に、笑い茸が入っているという「機嫌のよくなる薬」の話、自分がろくろ首かもしれないと悩んでいる男の話、軒先に獣のどくろがぶら下げられると言う事件などの小ネタ的な事件が散りばめられ、なかなか面白い時代ミステリーになっている。

 当時は、力士を大名が抱えていたり、いきなり関脇からデビューすることも可能だったと言いった、相撲の豆知識も得られるため、特に相撲ファンには面白く読めるのではないだろうか。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。

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