雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

騒がしきもの

2014-06-11 11:00:38 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百三十八段  騒がしきもの

騒がしきもの。
走り火。
板屋の上にて、鳥の、斎(トキ)の生飯(サバ)食ふ。
十八日に、清水に籠もり合ひたる。
暗うなりて、まだ火もともさぬほどに、ほかより人の来合ひたる。まいて、遠きところの他(ヒト)の国などより、家の主の上りたる、いと騒がし。

近きほどに、「火出で来ぬ」といふ。
されど、燃えはつかざりけり。


騒がしいもの。
ぱちぱちとはね飛ぶ火の粉。
板屋根の上で、鳥が施餓鬼の食べ物を運んで食べている様子。
十八日(観音菩薩の縁日にあたる)に、清水寺に参籠者が立て込んだ時。
家の中が暗くなって、まだ灯りをつける前の頃に、来客が大勢来合せてしまった時。まして、遠方にある地方などから、その家の主人が上京した時などは、とてもあわただしい。

近所で、
「火事だ」という声がした時。
けれど、延焼はまぬがれました。



「騒がしきもの」という言葉の意味は、現在とほとんど変わらないようです。
少納言さまが挙げられている事例も、火の粉がぱちぱちはねる様子や、鳥の騒ぐものと、人が立て込んだり大騒ぎするものなどを並べていますが、現在も同様の使い方をしています。
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謎めいていて ・ 心の花園 ( 59 )

2014-06-11 08:00:34 | 心の花園
          心の花園 ( 59 )
               謎めいていて

心の花園には、あらゆる花が咲いています。
花の季節も、地域を選ぶものでも、心の中であれば、あらゆる花を望みのままに咲かせることができます。
「黒百合」は、それらの花の中でも、何か謎めいているように感じられます。

わが国に自生する「黒百合」は、わが国固有のもののようです。分布としては、本州中央部より北、北海道から千島列島、サハリン、シベリヤ、アラスカ辺りまで自生が確認されているようです。
「黒百合」は、ユリ科の植物ですが、いわゆる百合の花とは少し違う植物です。
山百合や鉄砲百合は、ユリ科ユリ属に分類されますが、「黒百合」は、ユリ科バイモ属に分類されます。例えば、チューリップは、ユリ科チューリップ属に分類されますので、山百合と「黒百合」とは少し性格が違う植物といえます。

わが国に自生している「黒百合」には、変種として、北海道の低地に自生する草丈50cm程のエゾクロユリと、中部地方より北から北海道の高地に自生する草丈20cmほどのミヤマクロユリがあります。他にも、黄色い花を咲かせるものもあるそうです。
黄色い花を咲かせる「黒百合」というのも何とも不思議ですが、他のものも、真っ黒の花というより黒みがかった紫という花色をしています。

「黒百合」の花言葉は、「恋」そして「呪い」です。ずいぶん違った意味の花言葉ですが、どちらも伝説から来ています。
「恋」は、アイヌ民族の伝説に、「黒百合」を好きな人の側に名前も告げずに置いておき、その人が手に取ってくれるといつの日にか結ばれる、というものです。
「呪い」の方は、戦国時代、富山城主佐々成政は秀吉軍に攻められ、厳冬の北アルプスの立山を越えて家康の援軍を得ようとしましたが思いに任せず、窮地に追い込まれていました。ちょうどその頃、かねてから最も寵愛していた愛妾の早百合が密通しているとの噂が伝えられたのです。成政は濡れ衣だと訴える早百合を成敗してしまいました。その時早百合は、「立山に黒百合が咲く時、佐々の家は滅びる」と言い残したというのです。この話には続きもあるようですが、このことから「呪い」という花言葉が生まれたそうです。

二つの花言葉は、かなり意味合いが違いますが、伝説を見てみますと、何とも切ないものが含まれています。
なかなか「黒百合」を見る機会は少ないかもしれませんが、謎めいたこの花に思いを傾けてみるのもいかがでしょうか。

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