雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

木の花は

2015-01-21 11:00:00 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第三十四段  木の花は

木の花は、
濃きも淡きも紅梅。
桜は、花びら大きに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。
藤の花は、しなひ長くて、色濃き咲きたる、いとめでたし。
     (以下割愛)


木の花は、濃いのでも薄いのでも紅梅が結構ですね。
桜は、花びらが大きくて、葉の色が濃いのが、枝が細くて咲いているのが良い。
藤の花は、花房が長く、色が濃く咲いているのが、とてもすばらしい。

四月の末か五月の初めの頃、橘の葉が濃く青いところに、花がとても白く咲いているのが、雨の降っている早朝などは、世に類ないほど情緒がある様子で、たいへん良い。花の間から、昨年の実がまるで黄金の玉かと思うばかりに、たいへん鮮やかに見えているのなどは、朝露に濡れている朝ぼらけの桜の風情に劣らないし、ほととぎすにゆかりの木だと思うからでしょうか(古歌から引用されている)、言い表わせられないほどすばらしいものです。

梨の花は、世間ではつまらない花だとして、身近に鑑賞することもなく、ちょっとした手紙などを結びつけることにも使いません。
魅力の乏しい女性の顔などを見ると、たとえに引いたりしますが、たしかに、この花は、葉の色からして釣り合いが悪い感じがしますが、中国では、この上もないものとして、詩などに作られているのですよ。
「やはり、そうは言っても、何かわけがあるのでしょう」と、よくよく見てみますと、花びらの端の所に、しゃれた色が、ほら、ほんの少しばかりあるではないですか。
「楊貴妃が、玄宗皇帝の御使者に会って泣いた時の顔にたとえて、『梨花一枝、春、雨を帯びたり』などと表現したのは、嘘ではないでしょう」と思うにつけても、「やはり、梨の花がとてもすばらしいというのは、中国の人にとっては、特別なのでしょう」と、納得しました。

桐の木の花が、紫色に咲いているのは、とても情緒のあるものですが、葉の広がり方が大げさで嫌な感じがしますが、他の木々と同列に並べて論ずべきではありません。
中国では、名のある鳥(鳳凰)が、特に選んでこの木だけに棲むというのは、何ともすばらしいことではありませんか。
まして、桐で琴を作り、さまざまな音が出てくることを、「とても情緒がある」などと、気安く批評などするべきでありません。この木は、とてもすばらしいものなのです。

木の様子は感じがよくないのですが、楝の花(オウチノハナ・現在の栴檀らしいが、南方産の香木とは別)はたいへんにおもしろい。
枯れて乾いてしまったように一風変わった咲き方をして、必ず五月五日の節句に花を咲かせるのも、とてもおもしろい。



木に咲く花を論じている章段ですが、古歌や漢詩の素養がなくては理解が難しい章段でもあります。
少納言さまの得意の分野ともいえますが、当時の貴族や上級女官たちにとっては、ごく当然のように身につけていた知識なのですね。

個人的には、梨の花に関する部分がおもしろいと思うのですが、たしかに現在でも、梨の花を愛でるということはあまりないようですね。
コメント
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