雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

心ゆくもの

2015-01-28 11:00:46 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二十八段  心ゆくもの

心ゆくもの。
よくかいたる女絵の、ことばをかしうつけて、おほかる。
物見のかへさに、乗りこぼれて、郎等いと多く、牛よくやる者の、車走らせたる。
   (以下割愛)


満ち足りて気持ちの良いもの。
上手に書いてある女絵の、詞書が巧みで、それもたくさん書いてあるもの。
何かの見物の帰り道に、牛車に女官たちが、着物の袖口などがはみ出るほどいっぱい乗って、従者の男たちを多数引き連れて、牛を巧みに扱う御者が牛車を走らせているのは、気持ちの良いものです。

白く美しい陸奥紙(ミチノクガミ・厚手で最上級の紙)に、とても細字など書けそうもない筆を使って、漢詩を書いてあるもの。
色鮮やかな糸で、練って艶のあるのを、合わせて繰ったものは、とても良いものです。

丁反の遊びで、丁をたくさん言い当てたとき。
弁舌さわやかな陰陽師を頼んで、賀茂の河原に出て、呪詛の祓いをしたとき。
夜、目が覚めて飲む水。

一人でやるせない気分のときに、それほど仲が良くもない客が来て、世間話を、近頃の出来事で、おもしろいこと、憎らしいこと、奇妙なことなどを、誰や彼やにかかわりがあり、公私の分別もきちんとしていて、嫌にならない程度に話して聞かせてくれるのは、たいへんありがたく気持ちの良いものです。

神社や仏閣などに参詣して、祈願をさせるとき、寺院では法師、神社では禰宜などが、理路整然とさわやかで、こちらの期待以上にすばらしく、しかも、よどみなく良い声で願いごとを申し述べてくれたとき。



「心ゆくもの」とは、気持ちがよい、気が晴れる、満足する、といったものを指しますが、あげられているものの中には、もしかすると少納言さま、平安の暴走族か、丁半渡世の経験があるのではないかと思ってしまう部分も含まれています。
もっとも、「丁反」は、現在の丁半ばくちとは別のものですので、念のため。
コメント
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