雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

一条天皇退位へ ・ 望月の宴 ( 133 )

2025-01-21 08:03:38 | 望月の宴 ④

     『 一条天皇退位へ ・ 望月の宴 ( 133 ) 』


まことに驚き入ったことに、帥宮(敦道親王。和泉式部と恋愛関係にある人物。)が思いがけなく、ほとんど患うこともなくお亡くなりになってしまわれたことは、なんとも哀れで悲しいことである。

今上(一条天皇)の一の宮(敦康親王。生母は定子。十二歳。)が元服なさったので、式部卿にとお思いであったが、それには東宮の一の宮(敦明親王)がすでに就いておられる。中務卿も東宮の二の宮(敦儀親王)がいらっしゃるので、ただ今のところ空席であるので、今上の一の宮を帥宮と申し上げることになった。
一の宮は、ご学才も深く、思慮も深くていらっしゃるにつけても、帝はたいそうお可愛がりになり、人知れず秘蔵っ子と思いになっていて、一品(イッポン・皇族の最高位)におさせになられた。それも、本来ならば、一の宮が跡を継ぐべきものを、しっかりとした御後見がない有様では、それは叶わぬ事と断念なさったことが、かえすがえすも残念な御宿命であることよと、悲しくお思いになられたのである。
中宮(彰子)は、帝のご様子を見奉って、何としても帝の御在位中に、ぜひともこの宮の御事を御意通りに実現させたいとのみ、お気にかけられていらっしゃった。

しかし、近頃では、帝は「何とか早く譲位したい」とお望みになり、仰せになられるので、中宮はたいそう心細いお気持ちである。
ところが、愛らしいお姿の宮たちが引き続いていらっしゃる有様を、行く末頼もしくめでたいことだと、世間の人々は取沙汰しているのだった。

こうして、帝は何とかして退位なさりたいとばかり仰せであるが、殿の御前(道長)はお聞き入れにならないうちに、いつもと違ってお苦しそうにしていらっしゃるので、どうしたことかと用心なさって、御物忌をなさった。
中宮も心穏やかならずお嘆きになられていたが、帝はいよいよお苦しさがひどくなられるようなので、これ以上重くおなりになってはと、万事御判断が出来るうちに、ぜひともご退位のことをとお思いである。
御物の怪なども、さまざまに現れるご様子である。この頃は、一条院(内裏が焼亡し仮御所に移られていた。)にお住まいであった。夏のことなので、元気な者でも楽でない季節なので、帝がたいそうお苦しそうになさっているのを、見奉る人々も気持ちが重く嘆かれている。
六月の七、八、九日頃のことである。

「今は、こうして退位しようと思うので、然るべき対応を執り行うように」と仰せになられるので、殿(道長)が御意を承って、東宮にご対面なさるのが先例になっているとして、そのつもりであられたが、次の東宮には帝は一の宮(敦康親王)をお立てになりたいとお考えであろうと、中宮のお心の中でもそのようにお決めになっていらっしゃったが、帝がお越しになって、東宮との対面のご準備をなさる。
世間の人々は、「いかなる結果になるのか」と、早く知りたいと取沙汰しているが、一の宮に近い方々は、「若宮(敦成親王)があのように頼もしく、たいそう立派な御仲から光り輝くようにお生まれになったからには、とても無視出来るものではなく、きっと若宮がお立ちになるだろう」との思いを述べ、またある者は、「いやいや、そうではあるまい。一の宮こそがお立ちになる」などと、推量し合っている。

       ☆   ☆   ☆

 


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