雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

写経の功徳 ・ 今昔物語 ( 13 - 7 )

2018-12-18 13:57:47 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          写経の功徳 ・ 今昔物語 ( 13 - 7 )

今は昔、
比叡山の西塔に道栄(ドウエイ・出自等不詳)という僧が住んでいた。もとは、近江国[ 欠字あるも、不詳 ]の郡の人である。
幼くして比叡山に登り、出家して法華経を受持し日夜読誦して、十二年間を修行期間として山を出ることがなかった。
花を摘み、水を汲んで仏に供養し奉って、経を読誦することますます怠ることがなかった。

いつか十二年が過ぎ、はじめて故郷に帰ったが、心の中で、「自分は比叡山に住んでいたが、顕教・密教の立派な教えにおいて、何も学ぶことがなかった。今生はいたずらに過ぎようとしている。後世(来世)のための善根を積まなければ、自分は今の世でも来世でも成仏できない身となる。されば、法華経を書写し奉ろう」と思って、一部を書き終えて後、智者(知識・徳行の優れた僧)の僧五人を招いて供養した後、その僧たちに経の深い教義を説かせ、教義を明らかにするための問答を行わせた。
このようにして、ひと月に一度二度、もしくは五度六度、書写し供養していた。

長年にわたって、このような善根を修め、命の終わる時を待っていたが、ある時、道栄は夢を見たが、比叡山西塔の宝幢院(ホウドウイン・西塔の中心的寺院)の前の庭に、金の多宝塔が立っていて、その美しさは表現できないほどであった。道栄はそれを見て、心をこめて敬い礼拝していると、そこに一人の気高い男がいた。その姿は並の者には見えない。人体を見ると、梵天や帝釈天に似ている。その男が道栄に「お前はこの塔が何だか知っているか否か」と尋ねた。道栄は、「存じません」と答えた。男は、「これはお前の経蔵である。すぐに戸を開いて見るがよい」と言った。道栄は男の言葉に従って、塔の戸を開けて見ると、塔の中には多くの経巻が積み置かれていた。男はさらに、「お前はこの経巻を知っているか否か」と尋ねた。道栄は、「存じません」と答えた。また男は、「この経はお前が今生で書写した経をこの塔の中に積んで満たしたものである。お前は、速やかにこの塔を持って、兜率天(トソツテン・天界の一つで、弥勒の浄土がある。)に生まれるがよい」と告げたところで夢が覚めた。
その後、いよいよ心をこめて書写供養を続けた。

ところが、大変な老齢になって、歩行もままならぬ状態になっていたが、ある縁があって下野国に下って住みつき、いよいよ最期になった時、普賢品(フゲンボン・法華経の最終品)を書写供養し奉り、その経文を読誦しながら命を終えた。
夢のお告げのように、疑いなく兜率天に生まれた人である、
となむ語り伝へたるとや。

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