これでも学生時代には結構スリムで、割ともてていた(と評価してくれる人も居なくはない)。
その前、高校生の頃は、受験勉強しかしていなかったこともあって、相当に太っていた。大学に入ってから、東京の地形の成り立ちについて調べようと思い立ち、貝塚爽平『東京の自然史』(紀伊国屋書店)とそれをもとにした白地図を手に東京中を歩き回ったりしたこともあって、痩せたのである(1日10時間くらいは歩き続けた)。そうでなくても、所詮大学生などヒマであり、都会が珍しい田舎者は毎日毎日あちこち歩いていた。待ち合わせにも平気で1時間かけて歩いていった。若いので代謝が良く、有酸素運動を続けたので、効果があったのだろう。
仕事を持って給料をもらうようになってから、身体のエネルギーバランスは激変した。要は動かなくなり、代謝も年々悪くなり、その割に頭を使う(と自分では思う)仕事とストレスで腹が減った、ということだ。学生時代の栄光はどこへ。決して無策だったわけではないが、根本的に散歩以上の運動は嫌いなので仕方ないのである。
そしてついに今年になって、高校生のころの体重にカムバックしてしまったので、相当に危機感を抱いた。まずは、テレビで話題になった「納豆ダイエット」を試してみた。ミソは、食べても納豆の効力で痩せてしまうのだ、ということだった。しかし、これは食べたら食べただけ体重が増えるという結果に終った。このテレビ番組はまもなくヤラセであることがわかり、また、発酵食品で有名な小泉武夫氏(東京農業大学教授)も、新聞で、納豆は旨いからその分ご飯を余計に食べてしまうじゃないか、と、至極真っ当な意見を述べていた。
次に、テレビで目を奪われた「ビリーズ・ブートキャンプ」をやってみようかと思った。しかし、何だか恥ずかしく、ふて腐れて選択肢から消した。
今度は、やはり話題になっていた「キャベツダイエット」を試してみた。これは、食前に10分程度、生キャベツをもぐもぐ噛んで食べることによって、食べる量のかさをかせぎ、満腹感を得るというものだ。すぐに食べられないよう、キャベツは千切りよりもすこし大きめのほうがよいらしい。 これがドラスティックに効いた。グラフで見ると一目瞭然だが、1ヶ月に2キロ以上の減量である。もちろん、本人の意識が伴わなければ効果が出ないのは何でも同じだから、外で何かを食べるときは、大盛は頼まない、シンプルなメニューにする、揚げ物は頼まない、といったことをなるべく心がけた。
ただ、限界はある。まず、3ヶ月も続けると(平日は朝食のみにも関わらず)、かなり飽きてくる。グラフでも、減少曲線が鈍化するのがわかる。私の体重的経験則(笑)によると、体重の変動には慣性があるから、一旦勢いがついて動き始めるとなかなか止まらない(つまり、勢いをつけるのも大変)。ここまでくれば、以前の量を食べることができないようになっているので、敢えて暴飲暴食の生活に戻そうとしなければ大丈夫に違いないわけだ。したがって、このキャベツダイエットは相当におすすめである。
よく、ダイエットは食べる量を減らすだけでは駄目で、筋肉が減るだけだと言われる。私の記録から分析したところ、減った体重のおよそ70%が脂肪減少によるものだった。それに、筋肉と骨の量はバランス上問題ないようだ。精神上のストレスも感じなかった。
体重激減中に気になる現象があらわれた。両手の甲に、吹き出物が(なぜか妙にシンメトリックに)幾つもできてしまったのだ。なかなか治らなかったので、私はこの原因を、脂肪中に蓄積されていたダイオキシン類が放出されていたずらをしたものだ、と勝手に推測した。なぜなら、ダイオキシン類は脂肪に蓄積するからだ。 ウクライナのユシチェンコ大統領は、選挙前に、政敵にダイオキシンを盛られたと言われている(何でも異変を感じる前に食べたのはザリガニと寿司だったとか)。そのために、彼の顔は別人のようになってしまった。
図2 ユシチェンコ大統領のダイオキシン摂取前後(出典:The Times、2004/12/8)
安井至氏(東京大学教授)の『市民のための環境学ガイド』によると、ユシチェンコが体内に取り入れてしまったダイオキシンの量は400マイクログラム程度で、そのために0.8~2ミリグラム程度のダイオキシンを食物として摂取したはずだとしている。 ここに示されているデータを使って自分の場合にあてはめて計算してみると、今年の減量によって、200ナノグラム程度が脂肪にためておけなくなって、どこかに放出されたことになる。これはユシチェンコ大統領が一晩で取り入れた量の2000分の1である。安心した。(もちろんこれは机上の計算であって、手の吹き出物との関連については何の根拠もない。)
ところで、納豆ダイエットを笑い飛ばした小泉武夫氏の著作に、『納豆の快楽』(講談社文庫)がある。あまりにも奇怪な話が多くて圧倒される本だ。小泉氏は、どこへ旅行するにも大量の納豆パックを持ち歩いている。ラオスで間違って生の鰻を食べてしまったときや、ヴェトナムで明らかに危ないスッポンスープを飲んでしまったときに、納豆を即座に2パック食べてなんともなかったそうだ。
この年末に沖縄に行ってきたのだが、その際、嘔吐と下痢に悩まされた。当然、胃が弱って、食べるべきものをあまり食べられなかった。帰宅してから、あっ納豆で胃の調子を回復させればよかったのだと思い出した。それはそれとして、さぞ今年の締めくくりとして体重も減っただろうと体重計にのったら、旅行前と変わっていなかった。なかなか難しいものだ。
図3 小泉武夫『納豆の快楽』(講談社文庫)